都会の雑踏に、それは立っていた。
すらりと伸びた手足、眉目秀麗な容姿、どこか憂鬱そうな表情。
池袋の駅前に、それは立っていた。
モデル雑誌の表紙を飾っていても誰も文句を言わないであろう美少年。
彼はただ、多くの人が行き交う様を見続けていた。
「ねぇ、あの人……」
「うんっ、ちょっとカッコよすぎでしょ!」
都会の砂漠に咲いた一輪の花を見つけた2人の少女が、『それ』に小走りで近寄った。
「あ、あの!」
声を掛けられた事を認識した彼は、緩慢な動きで少女を視界に捉えた。
視線で真っ直ぐに射抜かれた少女は、しばし言葉を失った。
無理もない。芸能人もかくやという美少年が自分を、自分だけを見つめているのだ。
「待ち合わせ、とかしてますか?」
少女の問いに、しかし彼は何も返さない。
ただ一点を、少女の瞳だけをその目に映している。
「そうじゃなかったら、あたしたちとちょっとお話しませんか? その、どこかお店とかに入って!」
少女は自分の持つ女子力の全てを解放した満面の笑みで彼を誘ったのだ。
少女との邂逅から1分ほど経った今、ようやく彼が口を開いた。
「……失せろ」
「えっ?」
何と無慈悲な宣告か。少年はその一言を放ったきり、再び遠い目で交差点を眺め出した。
「ちょ、ちょっとそれって――」
「行こ、エミ。ちょっと感じ悪いよ、この人」
「う、うん……」
彼の宣告通り、2人はその場から立ち去った。
(「やはり、この地にも存在しないのだろうか……」)
少年は憂いを帯びた目で人の流れをぼんやりと眺め、想う。
(「『餌』に引き寄せられる駄犬の何と多い事か。この国はもう腐り切ってしまったのか? 父上の、そして私の悲願成就の為にも何としても見つけ出さねばなるまい」)
彼は拳に力を入れ、俯いた。
(「犬耳が似合う従順なメイドとなり得る可憐な少女を――!!」)
わあ、格好いい描写して損したなー、これ。
「時が、来たようだな」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は背中を預けていた黒板から離れると、目の前の机の上に置いてあるものに手を掛けた。
それはルービックキューブ。
を、重しとして蓋が開かないように細工したインスタントラーメンのカップが。
「丁度3分だ。すまん、忙しくて食事がまだだったんだ」
蓋を開けようとするヤマトに灼滅者が指摘する。
このラーメンの完成時間はお湯を注いでから5分であると。
「何ッ! 危ない所を助けられたな……ありがとう。ではその間に依頼の説明をしよう」
窮地を救われた灼滅者に礼を言いつつ、ヤマトは概要を話し始めた。
「ある者がダークネス、ヴァンパイアへと闇堕ちしそうになっている」
名前は犬飼・タイナ。高校1年生の男子。日本とどこかの国のハーフのようで目鼻立ちがとても整っており、一言で言うなればイケメン。
無口っぽいのでさらに雰囲気もかなりイケメンっぽい。
あーもうどうにでもなれってくらいのイケメン。
「知っているとは思うが通常、闇堕ちしたダークネスは人間としての意識は完全に消滅してしまう」
だが、ダークネスとしての力を持ちながらも稀に元の人格や意識を保ったままの、言わばダークネスになりかけた存在がいる。
「今回の仕事はそのケースのひとつだな。勿論、これを放置しておくと完全なダークネスになってしまうのだがな」
ヴァンパイアの場合、自分にある1人が闇堕ちした場合、その近しい者がもう1人、巻き添えのような形で連鎖して同時に闇堕ちしてしまうという特性を持っている。
タイナの場合は後者にあたるものであり、先に闇堕ちしたのは彼の父親のようだ。
「父親の指示により、タイナはあるものを探して都内を巡っているそうだ」
それは何かと灼滅者の1人が先を促す。
ヤマトは若干言い淀みながらも、
「それは……犬耳メイド、だ……!」
衝撃発言を繰り出した。
「快活で、しかし主人には従順である少女を探し、無理矢理にでも連れ帰り、あれこれしようとしているそうだ……」
色々とけしからん親子だ。
闇堕ちする前からそんなノリだったようなので、その特殊な感性は筋金入り。
あれこれの過程で連れ去られた者の命も危なくなるだろう。きっと。なので何としてもこれを阻止しなくてはならないだろう。
「お前達が遭遇できるのは都内の……この辺りだな」
地図を広げ、丸印を書き込むヤマト。どうやら戦闘にうってつけの公園があるらしい。
「それなりの広さで遊具も少なく、この辺りは人通りも少ないようだ。戦うには何の障害もない場所だな」
別に何も言わずとも奇襲を仕掛ける事も出来るだろうが……相手の『特性』を突きつつ勝負を挑んだほうがいいかもしれない。
「心に呼びかけると相手はまだ人間の意識を保っているからな、ある程度動揺や油断を誘う事は出来る」
つまりこう、アレをアレして、ね?
まあぶっちゃけ誰かが犬耳メイドになればいいんじゃないの?
「これもダークネスに勝利するためだ!」
他に他意はないよ? 本当ダヨ?
「うまくすればタイナを闇堕ちから救い出す事可能だが、もし無理だと判断したら……その時は容赦なく、な」
あまりに救いのないヘンタイだった時は仕方ないね。
「では、よろしくな! さて、ラーメンはと……」
ヤマトは再びルービックキューブに手を伸ばした。
だがもう、麺も伸びていた。
参加者 | |
---|---|
アプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684) |
先旗・宮古(ハラペコライダー・d01486) |
雀谷・京音(長夜月の夢見草・d02347) |
十河・錐風(濡烏・d03005) |
六連・光(リヴォルヴァー・d04322) |
フーリエ・フォルゴーレ(讐雷乃戦乙女・d06767) |
ディートリヒ・エッカルト(水碧のレグルス・d07559) |
ナナイ・グレイス(主に恋した従者・d11299) |
●なにこのパラダイス
「理想郷の実現を急がねば」
すっかり夕闇に包まれた道路を少年が早足で進んでいく。
「父上が完全に2次元から出て来られなくなんてしまう!」
彼、犬飼・タイナはイケメンだがどこか残念な雰囲気を醸し出していた。
次の街に急がんと駆け出す、その時だった。
「京音さんのその服、とっても可愛いですね。もしかして」
「うん、こういうの着てみたくて自分で仕立てちゃった!」
タイナは我が目を疑った。
こんな何の変哲もない道にメイドが……しかも犬の耳を頭の上に揺らしたメイド少女が歓談しながら歩いているのだ。
「まるで和菓子のように繊細な意匠がすばらしいですね」
「今度メイドキャップだけでも作って欲しいものですね」
「2人とも可愛いから仕立てがいがありそう!」
ゴールデンレトリーバーのような高貴な耳しっぽのディートリヒ・エッカルト(水碧のレグルス・d07559)、もふっとしたたれ耳しっぽのアプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)、そしてふわりと立った耳しっぽの雀谷・京音(長夜月の夢見草・d02347)。
特にアプリコーゼからは尋常ではない犬耳オーラが広がり、タイナの全身を穿つ。
「何だ、これは……!」
「あのー」
「!!」
突然悶え出したタイナに京音が声を掛ける。
「苦しそうだけど、大丈夫?」
「い、いや、子細ない。貴女方を見て、少し意識が遠のきそうになったまで」
「それって、あのぅ……メイドは、お嫌いですか……?」
タイナを見上げながらディートリヒは涙目で問う。
耳としっぽがしゅんと垂れているようにも見える銀色の髪と空色の瞳を持つメイドが、目の前で。
日常生活においてまずない状況だ。
「涙を収めて欲しい。私は献身的に尽くす従者を愛する1人の男だ。だから……ん?」
伸ばそうとしていた手をぴたりと止めるタイナ。
「君は……」
「わぁっ素敵! 貴方のような方がご主人様なら、すごく嬉しいな……!」
両手をぽんと合わせながら京音が瞳を輝かせながら駆け寄ってきた。
近くで見るとその犬耳もしっぽも、まるで直に生えているようだ。
「もしかして、この耳としっぽが気になります?」
タイナの視線に気付いたようにアプリコーゼが耳元でそっと尋ねる。
「っと、すまないな……美しいもので見惚れてしまっていた」
「いいですよ。可愛いですもんね、わんこ耳」
何という僥倖! この耳としっぽは自分たちの意志で身に着けているというのか!
「もし時間あるなら一緒に遊びませんか?」
「なっ!?」
「公園に友達を待たせているのですよ」
アプリコーゼが指差す先には、確かにぽっかりと開いた空間が。
「ね?」
3人の期待に満ちた顔に、
「その友とやらも、よもや」
「私たちと同じ、犬耳犬しっぽのメイドばっかりだよ!」
「いざ参らん!」
あっさりと陥落した。
「やっほ! ご主人様! 一緒にゴハン食べようよ!」
「な! いきなり私を主人と認めていいのか……!?」
公園に到着し、一通りの挨拶を交わした直後の先旗・宮古(ハラペコライダー・d01486)の申し出に思わず驚嘆するタイナ。
「アプリコーゼちゃんたちが連れてきたってことはご主人様じゃないの?」
「先旗さん、少し落ち着いてください。従者である我々と食事を同じくするのは失礼にあたるのでは?」
完璧な着こなしと身のこなしで恭しく一礼をしながら宮古に軽く注意するナナイ・グレイス(主に恋した従者・d11299)。
「ん? そうなの? でも、仲良くなるには一緒にゴハンが一番だと思うな!」
「しかし……」
「構わない。それが元気系犬耳娘の忠義の示し方なのだからな。無論、君のような規律に正しい者も犬耳娘として正しい形で――む?」
大層満足そうに頷くタイナだったが、まじまじとナナイを見つめ、思案顔になる。
「どうされましたか?」
「……そんな筈は。いや、気のせいだ」
「おっと、いつまでも入り口の近くで話をしていては申し訳ないな」
と、しゃっきり立てた犬耳の十河・錐風(濡烏・d03005)がタイナを公園の奥へと誘う。
敷地のほぼ中心部。そこで深々とお辞儀をする六連・光(リヴォルヴァー・d04322)とフーリエ・フォルゴーレ(讐雷乃戦乙女・d06767)が一行を出迎えた。
「お待ちしておりました。この場では大したもてなしはできませんが、どうぞお寛ぎ下さい」
「……」
光は昨今の所謂『萌え』として一般に浸透したそれではなく、本来の形に近いロングドレス――ヴィクトリア式のメイド服を見事に着こなしていた。
一方のフーリエは前述した萌えや可愛さを意識したミニスカートのメイド服という落差を感じさせるペアだ。
「おお……さらに犬耳メイドが2人も」
「失礼ですが、狼です。犬じゃありません」
切れ長の目で鋭くタイナを射抜くフーリエはひとつの、しかし重要な間違いを訂正した。
「ほう。これは失礼した、お嬢さん。フ、私もまだまだだな」
「……いえ、気にしては……いませんから」
犬好きは得てして狼も好きなものである。彼も同じようで、イヌ科の動物は皆友だと思っているようだ。
「それにしても……私は幸せ者だな。かように犬耳、狼耳メイドに囲まれ、一時を過ごせるとは」
タイナは大仰な身振りで周囲を見回すと、
「どうだろう。我が屋敷に、父と私の専属メイドとなり、一生を過ごしてもらえないだろうか」
ついにその本性を現した。
「もっとも、無理にでも連れていきたい所だが……な」
「……くくく」
だが。
「この犬耳の命が惜しくばおとなしくするっす! 抵抗するとひきちぎるっすよ!」
「へっ」
「は……?」
アプリコーゼは手近な宮古の犬耳をがっしりと掴み、なんか悪い顔をしている。
「えええええ!?」
本性を隠していたのは灼滅者も同じだった。
●脅威のいぬみみ率
「乱心したか!」
「わんこ耳の素晴らしさを理解していながらこのような事件を起こすとは……嘆かわしいっすよ!」
「犬耳を耳質にしながら何を言っているんだ」
ふと、
「お還りなさいませ」
光の腰から折った丁寧で清楚な礼。
「……灰に」
「っ!」
それは宣戦布告の挨拶だった。
背面で顕現させた妖の槍を一瞬の動きで手繰り、地面を抉るような軌道で螺穿槍を放つ。
だが仮にもヴァンパイアの力を持つ者。直撃の寸前に巨大な刀を盾にし、光の刺突を受け流す。
「ぐッ! 私を謀ったと……?」
「謀る? いえ、ある意味これはためしているのです。忠犬を欲するならば、先ずは貴方がそれに見会う男に成るべきでしょう?」
突いた槍を払い、軽い跳躍で間合いを取る光。
灼滅者は円状に目標を囲んでいる。犬耳にばかり目のいっていたタイナは今の今まで逃げ場がない事に気付かなかったのだ。
「飼い犬に手を噛まれるとはこの事か! しかしこの私を襲撃するとは……」
奇襲に近い形で攻撃を受けた事には心外そうなタイナに、フーリエが一歩前に出る。
ヴァンパイアに対し特別な感情を持つフーリエ。眼前に仇敵がいるこの状況で感情を抑えるのもそろそろ限界か。
「貴様個人に恨みはない。だが私は――」
「そうか! お前たちは猫耳派の刺客か!」
シリアスになりかけた空気が台無しになった。
「ね、ねこ」
「みみ?」
「おのれ小癪な手を、猫耳派め……!」
「犬耳だ猫耳だとほざき主たる気概も見せず、ただ恰好のみで女性を選び拐かすなど吸血鬼の風下にも置けず! その性根、元より叩き直すッ!」
叫びながら龍砕斧を薙ぎ払う。
(「吸血鬼を討つ為ならば、如何な苦難で在れ耐え忍んでみせる……そう思っていたのだが、これは想像以上に……!」)
ヴァンパイアが目の前にいる怒り、というよりはミニスカメイド服を着ているこの状況で顔を赤く染めているフーリエなのだった。
「貴様の所為でこのような……とにかく! 斯く成る上は全霊以て疾く終わらせるまでッ!」
「フハハ、裾がめくれてはしたないぞ。だが、それも元気な犬耳娘の美点!」
「だ、黙れ!」
乱舞する斧、そして狼しっぽ。追われるのはヴァンパイア。
どこかファンタジーな雰囲気だ。
「フォルゴーレさん、すごい勢いと気迫で斧を振り回していますね」
「犬飼さんの方も笑いながら避けていますし……奇妙な構図」
「あ、今当たりましたね」
「竜骨斬りが綺麗に当たりましたね」
ナナイとディートリヒはまったりと状況を見守った。
「ご、ごふ……って、そこの2人!」
傷を負いながらもタイナはナナイとディートリヒに指を突き付ける。
「貴様ら……男だな!?」
「「!」」
ずばりその通りであった。
完璧なメイド服の着こなしに顔のつくり、その所作に至るまで彼らはどこをどう見ても少女に見えた。
「見切られるなんて……」
友人らに「そこらの女の子よりかわいい」と評された経験のあるディートリヒ。
一方のナナイは女装自体に興味は持たないが、メイド服でのもてなしは一級品。
「違和感があったのだ。そもそも私のような紳士にまがい物は通用しない。我々紳士のみ使えるテクニックというものがあるのでな」
嫌なテクニックだった。
「まがい物は消去する!」
「人をまがい物などと呼ぶとは、それで主人を語るというのは難しいのではないですか?」
ナナイに襲いかかるタイナ。
WOKシールドで斬艦刀を受け止め、互いを間近に感じる2人。
「……だが最近、否、今確信した」
「何をですか?」
「まがい物も悪くないかもな、と」
それ以上いけない。
「すみません、僕にはすでにあるじがいますから」
「よく理解できませんが……日本人って変人が多いんですね」
黒髪ショートと銀髪ツインテールの清楚な犬耳メイドに虐げられるへんた……紳士であった。
シールドバッシュ、そして零距離格闘で殴打されまくるが、しかし彼にはそれが甘美な衝撃に変換された事だろう。
「ふ、フフ……こういった散り際も悪くな」
「目を覚ましてご主人様! 闇に堕ちても犬耳メイドに愛してもらえるわけじゃないんだよ?」
バトルオーラを纏った平手による閃光百裂拳でビビビッと頬を打つ京音。
「ハッ! い、いかん。大いなる薔薇色の深みに嵌る所だった……。私を呼んだのは、君か?」
「よかった。もう手の届かないところまで飛んでいかなくて」
とはいえ非常に残念な事には何ら変わらないのだが。
「君かっこいいのに、もったいないなぁ……」
京音は嘆息しながらも日本刀を鞘から引き抜いた。
「学園に来れば犬耳メイドさんの一人や二人、すぐに仲良くなれると思うよ?」
「学園? それは一体!?」
「でもその前に――十河さん!」
京音の背後から躍り出た錐風は一陣の風のようにタイナの背面まで回りこむ。
「その犬の如き素早さは!」
「まずはこの場で倒さなくては、な」
「だね。それじゃ、せーの!」
不意な挟撃に焦りの色を隠せないタイナに、錐風と京音は日本刀の一閃を見舞う。
「ぐッ! だが私とてこんな所で死ぬ訳には。大義があるのだ!」
「それ以上喚かないで欲しいっすね。あっしらには耳質がいるっすよ!」
未だに宮古の犬耳を掴んでいるアプリコーゼ。
「卑劣な! 貴様の犬耳も取ってつけただけの愛なきものだったか!」
「あっしの耳は着脱不可っす。それに、これが愛のないもの、っすか?」
よく見ろとばかりにずいと近付く。
「こ、これは!」
「ふやぁ、なんだか気持ちよくて眠くなってきたかも」
「犬耳をふにふにマッサージしていた、だと!?」
宮古の犬耳は触覚や聴覚まで通っているわけではないが、そこは気にしてはいけない。犬耳は魂で繋がっているものなのだから!
「あれ、いつのまに戦闘が? とにかくご主人様!」
ようやく解放された宮古がライドキャリバーの黄哉と共にタイナと対峙する。
「その前にそのバイク? のようなもの、まさか」
「そう、黄哉にも犬耳をつけてみたよ!」
無機質な輝きの中に燦然と煌めく犬耳(しばいぬ風)!
……当の黄哉はどことなく不満気にエグゾーストノートを刻んでいるが。
「君が犬耳メイドさんのことが好きなのはよく分かった! だけど其処に居たら駄目だよ! 戻っておいでよご主人様!!」
「笑止! 私が還るのは理想を実現できる我が屋敷のみ!」
「武蔵坂に来ればゴハンだって! 遊びだって! いっぱい楽しいことがあるんだよ! きっとお願いしたら犬耳メイドになってくれる子だって居るはずだ!」
「犬耳メイドと遊ぶだと!?」
「だけど、『其処』に居たら君は大好きな……犬耳メイドさんまで傷つけてしまうんだよ!」
「無理やりやらせてわんこメイドの素晴らしさを堪能しきれるとおもってるんすか! 自分の意思でやるからこそ魅力のすべてをひきだせるんす!」
宮古とアプリコーゼ、そして黄哉は説得と同時に走り出した。
「だが最早……私にはこうするしか道が、ないのだッ!」
タイナもまた、犬耳目掛けて地を蹴った。
魔法少女風なロッドをくるくる回し、やがて叩き付けるアプリコーゼの一撃が。黄哉の機銃による援護を受けながら己の内より燃える炎を纏い、跳びかかる宮古。
幾度とない閃光と衝撃が公園を包み込み、やがて最後まで立っていたのは。
「だからこっちに戻っておいで。戻ってこられるから、犬飼くん!」
犬耳灼滅者たちだった。
●立ち耳も垂れ耳もいいんだよ
結論として、タイナは目を覚ました。
「成る程、武蔵坂学園か」
「あの学園だったら付き合ってくれる奇特な人も居ると思いますよ」
「奇特、か」
ディートリヒの言い方は辛辣だが、しかし錐風はどことなく納得した。
「これでわんこ耳尻尾を正しく可愛がれるようになったっすね」
「犬耳にこんなに大好きな吸血鬼さんというのも随分不思議ですよね」
アプリコーゼが満足そうに頷く隣でナナイが首を傾げる。
「何を言う、犬耳好きに種族も何も関係ないではないか」
「一緒にしないでもらいたいものだ……」
同じダンピールとなったもののフーリエはどこか煮え切らないというか、先程までの姿を思い出してしまっているようだ。
「それじゃ、一緒に帰ろ? 武蔵坂学園に!」
京音が差し出した手に、タイナは小さく微笑みながら腕を伸ばす。
「その前にどこかゴハン食べにいこうよ! もうさっきからお腹がすいて大変だよー」
お腹をさすりながら笑う宮古に、一同は思わず笑みをこぼす。
「しかし、犬耳メイド達にボコられる男前……シュールな戦闘でしたね」
軽い気持ちで光は犬耳を外――。
「待て! 何故外す!」
「いえ、仕事は終わったのでいつまでも付けている理由はありませんから」
「せめて私の目の前では外さないでくれ! 後生だ!」
タイナは光に泣きつかんばかりに膝を落とし懇願している。
「……あなたの趣味を貶すつもりはありませんが、他人に強要するのはやはり間違いかと」
「ダークネスにならなくてもやっぱり」
「中身は変わらない、みたいだね」
もう一波乱の予感を感じながら灼滅者たちはすっかり暗くなった空を見上げるのだった。
作者:黒柴好人 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 13
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