他の同級生よりも、少し背が低いことも。顔がちょっぴり童顔であるということも。
名前の字面が、性別を勘違いされやすいものだということも――『彼』は、大して気にはしてはいないのだけれど。
高校に入学して以来、度々告白をされることに、八木原・久美(やぎはら・ひさよし)はちょっぴり戸惑っていた。
「クミ、今朝は後輩に告白されたんだって? おまえ、超美少女顔だもんなー」
「ホントにモテモテだよな、野郎に!」
「さすがクミちゃーん、野郎のアイドル!」
何せ――ここは、男子校なのだから。
「てめーら……全員まとめてぶっ飛ばすぞ、コラ」
午前中の授業終了のチャイムが鳴り響く中。
綺麗な女顔に似合わぬドスの効いた声でそう言い放ち、からかうクラスメイトをじろりと睨んだ久美は。
「てか一翔(かずと)、今日の昼飯は屋上で食おうか」
「あ、うん。行こうか」
これ以上冷やかされるのはご免だと、親友の一翔と共に校舎の屋上へと足を向ける。
一翔と久美は、高校に入学したその日にすぐに気が合った、親友同士。
本音で話が出来るこの親友の存在は、久美にとってとても大きかった。
――でも。
「久美はさ……やっぱ男に告られるのとかって、気持ち悪い?」
屋上で昼食を取りつつ交わしていた他愛ない雑談が一瞬途切れた、その時。
ふいにそう聞かれきょとんとしつつも、久美はその問いにこう答える。
「まー別に、俺は人の恋愛の形自体に偏見はないからな。ただ、やっぱ野郎だとビックリはするし何度告られても慣れねーし、毎回断る言葉はすげー悩むよなぁ」
「……偏見は、ないんだ」
「好きになっちまったヤツが同性だったんなら、それはどうしようもないだろ」
まぁだからって告白をOKするかってのとは、全然別問題なんだけどな、と。
久美がそう続けようとした――その時だった。
「俺もさ……好き、だよ。好きなんだ、久美のことが。俺、入学式で初めて出逢った時から、おまえのことが……ずっと好きなんだ!」
「へっ!? え、ちょっ……一翔!?」
突然の、親友からの告白。
もう同性からの告白なんて慣れっこだ――そう思っていたのに。これはどの告白よりも、久美にとって衝撃的だった。
気の置けない無二の親友だと、そう信じていたのに。
「久美の、その綺麗な顔立ちやサラサラの髪、華奢な身体……すげー守ってやりたくなる」
でも相手は最初から、自分と同じ気持ちではなかったのだ。
他人の恋愛の形に偏見はない。
でも、おまえは親友だと、そう思っていたのに――。
胸の奥底から湧き上がってくる闇色の感情に、握り締めた拳が震える。
そして。
「えっ、久美……!?」
「俺が……やっぱ俺が、背が低くて女顔で、女みたいな名前の漢字だからなのか……? だから……!!」
久美の細身であったはずの身体が、青を帯び大きく膨らんだと同時に。
『グアァ、アアァァアアアア……ッ!!』
「う、うわああっ!!」
咆哮を上げた久美……いや、デモノイドの逞しい豪腕が。
一翔へと唸りを上げ、振り下ろされたのだった。
●
「男にとって、ムキムキボディーって確かにちょっと憧れるけどさー。ちょっとムキムキになりすぎちゃった……よね」
飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、集まってくれてありがとーと。
灼滅者達にいつも通りへらり笑んだ後、依頼の概要を語り始める。
「今ね、『一般人が闇堕ちしてデモノイドになる』事件が発生しようとしているんだ。デモノイドになった人は理性も無く暴れ回っちゃうから、多くの被害を出してしまうよ。でも今回はデモノイドになった人が事件を起こす直前に現場に突入することができるから、なんとか被害を未然に防いで欲しいなって」
今回デモノイドとなってしまうのは、ある男子校に通う高校2年生の八木原・久美(やぎはら・ひさよし)という少年。
美少女の様な綺麗な顔立ちをしていて、同性に友達以上の好意をよく持たれるのだという。
だが少女の様であるのは外見や名前の漢字だけで、久美の思考や性格は男らしい。
学校や友人は好きなようだし、クミと呼ばれることや多少からかわれたりすることも、普段はあまり気にはしていないようだが。
男子校で告白されるという現状には、どう対応していいか分からず、少なからず戸惑いを覚えているようだ。
「久美は、特に恋愛の形自体に偏見を持ってるわけじゃないみたいなんだけど、親友と思ってた相手からの告白の衝撃が大きかったみたい。それに加えて、自分の女の子みたいな容姿や少し低めの背丈や名前の漢字が女性っぽいこと、普段は気にしないようにしていたようだけど、でもやっぱり心の奥底では気にしてたみたいだから」
自分がこんな外見だから同性にばかり、しかも親友にまで告白されるんだ――と。
これまで心の中で蠢いていた闇が、一翔の告白で一気に膨れ上がってしまったようだ。
「でもね、デモノイドになったばかりの状態なら、多少の人間の心が残っている事があるから。久美の心に訴えかける事ができれば、灼滅した後に、デモノイドヒューマンとして助け出す事が出来るかもしれない。救出できるかどうかはさ、デモノイドとなった彼が、どれだけ強く、人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっているよ。でも……デモノイドとなった後に人を殺してしまった場合は、人間に戻りたいという願いが弱くなっちゃうから……助けるのは、難しくなっちゃうだろうね」
解析された未来予測の突入のタイミングは、彼がデモノイドとなった直後。
それよりも前に彼に接触したり、割って入ったりすれば、それによって彼の『闇堕ち』のタイミングが変わってしまう。
そして予測とは違ったタイミングで事件が起きてしまうため、被害を防ぐことができなくなるだろう。
何とか彼が闇堕ちした直後に接触を開始し、被害が出ぬよう作戦を立てて欲しい。
「デモノイドになった久美はね、デモノイドのサイキックは勿論、纏ったオーラや斧に変形させた腕で攻撃してくるよ。闇堕ちしたてとはいえ体力と腕力があるから、説得しながら戦闘する際には十分気をつけてね。戦場は、校舎の屋上になると思うけど、広くて特に何もないし人もあまり来ない場所かなー。あと、デモノイドになった久美の近くには一翔がいるから、彼への対処もお願いするね」
そこまで説明した後、遥河は改めて灼滅者達を見回してから。
「オレも響きが女の子みたいだって言われる名前だけどさー、自分の名前は好きだよー」
久美のことよろしくお願いするね、と、灼滅者達を見送るのだった。
参加者 | |
---|---|
月見里・月夜(ヷンダㇷォー紅生姜・d00271) |
白・彰二(目隠しの安常処順・d00942) |
白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628) |
黒咬・翼(翼ある猟犬・d02688) |
鈴木・一郎(ヒトモドキ・d05724) |
松下・秀憲(午前三時・d05749) |
藤原・雷丸(バビロンズ・d13575) |
河内原・実里(野生のサムズアップ・d17068) |
●夢のような現実
鳴り始めたチャイムに紛れて。
カシャリ、と響いたのは、スマートフォンのカメラのシャッター音。
同時に、静かだった校舎に生徒の声が一斉に溢れ始める。
そんな昼休みを迎えた高校の校舎で。
撮影した校内地図を確認する、月見里・月夜(ヷンダㇷォー紅生姜・d00271)は。
「屋上は……そっから上がればいいみたい?」
仲間と共に、迅速に屋上へ。
そして道中、同じ進路を取る二人の生徒の存在に気付く。
「てか腹一杯になった後の授業って、眠くてかったりぃよなー」
「確か次は数学だよ、久美」
「うわ、確実に寝るわー俺」
サラサラの髪をかきあげ、はあっと嘆息する久美と。
そんな久美と屋上へ向かいながらも、じっと彼を見つめ微笑む、一翔の姿。
(「……まぁ、常日頃から野郎から告白されて辟易してる中、今度は親友からも突然同性愛者宣言されたら、なぁ……」)
(「女扱いは受けたことないが男らしく扱われないのは嫌だよな……まぁわかるわ」)
まさか親友が自分に告白するなど、思ってもいない様子の久美に。
表情にこそ出さないが、少し同情するのは、闇を纏った黒咬・翼(翼ある猟犬・d02688)と松下・秀憲(午前三時・d05749)。
見回しても男子ばかりのこの環境。
(「男なら野郎に告られても良い思いしねーよなぁ」)
白・彰二(目隠しの安常処順・d00942)も、久美の現状にそう思うと同時に。
(「でも、キモいって切り捨てずに毎回断る言葉に悩むって事は、久美センパイってスゲー優しい奴だと思うんだよ」)
戸惑いながらも告白相手の気持ちを無下に扱わない、彼の誠実な人となりを感じて。
フハハハハハ! 我降臨! とやって来た藤原・雷丸(バビロンズ・d13575)も、久美の背中を見つつ思う。
(「フハハハ、男が惚れる男とは、なんたる漢! 羨ましいものよ!」)
ある意味、男が惚れる男であることには間違いないが……武士的な意味とは少しだけ、何かが違うかも??
そして、そんな雷丸や白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)は、女から惚れられる女子であるというが。
(「まぁ、あまり目立たぬようにいけばなんとかなるのではないかな! 我も男っぽいとこあるらしいし! 知らんけど!」)
もう一度、フハハハハハ! と笑って誤魔化してみる雷丸。
……はい、おとなしくしてます。
男子校なので、たまにチラ見されることはあるものの。
実際、共学である小学部や大学部と校舎が隣にあるこの高校では、普通の男子校よりは女子の姿が校舎内にあっても不自然ではなく。
例え不審がられても、小学部と大学部から用があって来たとでも言えば、容易く言い逃れ出来るであろう。
学校に潜入した灼滅者達は、久美達から適度に距離を取りながら階段を上がっていって。
「人来ないよう扉に立入禁止の紙貼っとこ」
二人が屋上へ出たことを確認し、月夜はぺたりと念のため張り紙をした後。
屋上の扉の前で待機する灼滅者達。
耳を澄ませば……聞こえてくるのは、何の変哲もない雑談。
でもそんな親友同士の他愛のない会話が、とても和やか楽しそうだ。
一翔が自分の想いを告げる……それまでの間は。
(「ちょっとした行き違いで起きるにしてはあんまりな結果だしね。好きになるという事自身は悪い事じゃないんだから」)
鈴木・一郎(ヒトモドキ・d05724)は二人の様子を窺い、エクスブレインが導き出した突入のタイミングの時を待ちながらも。
これから起こることを阻止したいと、そう思う。
いや、勿論それは一郎だけの気持ちではない。
(「カッとなって親友殺しちまうとか、ぜってー止めなきゃ!」)
(「気持ちは分からなくはないが、今は被害が出る前に止めなくてはな」)
彰二や翼や他の灼滅者達も、同じ気持ち。
――そして。
「俺もさ……好き、だよ。好きなんだ、久美のことが。俺、入学式で初めて出逢った時から、おまえのことが……ずっと好きなんだ!」
一翔が遂に想いを告げた、数秒後。
『グアァ、アアァァアアアア……ッ!!』
屋上に、デモノイドの咆哮が轟いたのだった。
さらに華奢であった久美の腕とは思えぬほどたくましくなった腕が、大きく振り上げられて。
巨大な拳が一翔へと向けられようとした――瞬間。
すかさず滑り込んだ雷丸が立ち塞がって盾となり、ガリッとポップキャンディーを噛みしめた月夜の拳が雷を宿し、青の巨体目掛け唸りを上げて。
「此方が相手だ! こい!」
一瞬月夜の拳に顎を跳ね上げられ仰け反るもすぐに戦場へと視線を戻したデモノイドの気を引くべく、鋭き刃の如く成した影の衝撃を見舞う翼。
そして、その間に。
「告った相手が化け物化するてのもなかなか衝撃的だが……」
秀憲が戦場に生み出したのは。
「!? ……っ」
「悪い夢って事にしとけ」
魂を鎮め眠りへと誘う、優しい風。
そんな青空の下を吹き抜ける風に包まれた一翔の膝が、カクンと折れて。
同時に、ブオンッと屋上に響くは、勇ましいエンジン音。
「移動は河内原頼んだ」
「一翔は任せて、よっと!」
秀憲の声に頷き、屋上をライドキャリバーのスロットで疾走しながらも。
河内原・実里(野生のサムズアップ・d17068)は、ぐんと腕を伸ばして。
戦場を滑るようにドリフトしながら、眠りに落ち倒れこむ一翔を間一髪、怪力無双で掻っ攫うように抱えあげたのだった。
そしてそのままスロットに運ばれる一翔を安全な場所へと避難させるべく。
一郎の影が鋭利な刃と成り青の身体を切り裂き、睡蓮の生み出した弾丸が爆炎を帯び撃ち出されて。人除けの殺界形成を展開した彰二も炎宿すその紫の瞳で敵を見遣り、漆黒の殺気を放出させた。
暴れるデモノイドの凶行を防いで。久美を、呼び戻す為に。
●悩める青春
密かに久美の心の中で燻っていた感情――コンプレックス。
それが親友の告白で一気に青の業火となり、彼を怪物へと成り変わらせた。
だが、そんなコンプレックスや悩みを抱えているのは、何も久美だけではない。
「……俺も容姿や名前は女性でもありえなくないからな……気持ちは分からなくはない」
「名前はどうしよもねェが……俺だって間違えられりゃ女の名前だしよ」
まるで、夜の宵を突き抜け青の巨体を喰らうかの如く。翼の漆黒の長太刀から鋭き氷柱が撃ち出され、青の皮膚を貫けば。
続け様に見舞われるは、けたたましい轟音を上げ燃え盛るチェーンソー剣の一撃。左肩に担がれていた月夜のチェーンソー剣がふるわれたと同時に、青の巨体に炎が駆け巡る。
意外と、異性に間違われる名前の男子は多いのかもしれない。
そして、逆に。
「我は壁となり相手の攻撃をしかと受け止める。その間説得は任せるぞ」
我痛いのとか大丈夫だし! と。
そう壁役を買って出る雷丸は、異性のもののような己の名前を気に入っているらしい。格好いいから。
そしてその名に恥じぬほど漢前に、仲間へと向けられたデモノイドの攻撃を肩代わりするも。
「……………………いや、やっぱ少しは優しくするヨロシ」
砲台の様な腕からビビーッと撃ち出された死の光線は、やっぱり痛かったです。
そんな雷丸も、異性に愛を囁かれるタイプだというが。
……男子に愛を紡がれたこと? ありません!
「ちゃうし。泣いてへんし」
泣いてない、泣いてなんかないよ!
『ガァッ、アアァアアア!!』
「!」
刹那、デモノイドの腕が巨大な刀と化した瞬間、彰二の身を激しく何度も斬りつけるも。
「まだまだこっから!」
流れ落ちる血をも糧に、激しく逆巻く熱き炎へと変えて。
分厚い青い皮膚をズタズタに斬り破る斬撃を見舞い返す彰二。
そしてそんな彰二に、すかさず秀憲の成した小光輪が癒しを与え盾となる。
蒼き炎をデモノイドへと繰り出す睡蓮も同じく、中性的な顔立ちゆえに、女性から告白される日々に悩んでいるが。
炎の様に赤く整えられた髪を伸ばしているのは、少しでも女らしさを出すため。
「華奢なら鍛えろってンだよ! そンぐらい出来ンだろ!」
「月見里君の言うように、男らしくなりたいなら体を鍛えるとか……自分から変わるしかないよ?」
高速の動きで死角に回り込み、巨体を作り上げる蒼の装甲斬り裂かんとしながら、級友の月夜と共に久美へと声を投げかける一郎。
誰でも大小抱えている身体的な悩み。
だが大切なのは、悩んでそれからどうするか。
「周りが変わらないなら、お前から変えていけばいいはずだ」
相手の戦意を根こそぎ奪うかの如き闇の先端を再び刃へと変え、蝕むように解き放ちつつ紡ぐ翼。
久美も、自分の細身の身体や低身長を気にしない素振りをみせていたようだが。
同性の親友の告白が切欠で……コンプレックスが膨れ上がり、暴れ狂うムキムキな怪物へとその姿を変えてしまった。
「コレは男のやることじゃないよ」
一翔を無事安全な場所へと運び戻ってきたスロットに、よくやった、とサムズアップし労ってから。
「多少痛いが、我慢しろよ。男なんだからな」
機銃掃射を開始した相棒と一緒に、敵の身を腐食させるべく寄生体から生成した強酸性の液体を放ち、雨弾幕を作りあげる実里。
男らしいというのは、ムキムキボディーを誇ることだけではない。
いや、たとえ男らしい身体つきでも。
「羨ましいとは同性に言われっけどさァ! 異性からは「絶対ナル入ってる」とか「マッチョでキモい」とか言われりゃ気にするわ俺だって!」
なんだかんだで、同じように体型に悩むようです。
そう言い放った月夜は、ハチマキと特攻服の長い裾を靡かせ、ぐっと左手のチェーンソー剣を握り締めると。
「お前に! そんな俺の辛さが分かるかァァ!!」
ポップキャンディーを勢い良く噛み砕き、ズタズタにするかの如く敵を斬りつけて。
デモノイドの身体から噴出す血が薔薇の如く、青空に咲き乱れる。
『ガァ、アアアッ! デモォォ……』
そして衝撃を受け、思わず声を上げたデモノイドに。
「でも、じゃねーンだよ!! 少なくともいつまでもうじうじしてるようじゃ、容姿がどうでもあれ男らしくねェな。男なら! 外見じゃなく中身で勝負しろってンだよ!!!」
男として、男らしく一喝!
いえ、男子だけではありません。
「さて、少年、生きざまを見せつけよ。我は女だが、貴様の拳を受け止めるぞ? 性別をも超越するは、生き様であるぞ!」
君は、どう生きるかな、と。
雷丸も、死角から繰り出した高速の斬撃をデモノイドへと放つ。
だが闇に飲まれ青き怪物となった久美の攻撃はまだ止まず。
衝撃を受けた灼滅者の体力を大きく奪っていく。
でも、誰も倒させはないと。
「一翔に告られてショックなんだろ、俺も多分そうなったらマジビビりするわ」
秀憲は、眩き光輪や浄化をもたらす風を招きながら。
「けどお前は男だろ、野郎なんかほっといて彼女作ろうぜ。お前ぐらいのイケメンだったらバイトとかしたらすぐ出来るって」
まるで後輩を慰め励ますかのようにそう声をかけて。
『!』
『彼女』という男子校では憧れなワードに、ぴくりと反応するデモノイド。元は男の子ですから。
そして一郎も、癒しの力を宿す矢をぐっと番えて。
「今のその姿は女の子っぽくはないけど男らしくもないし、闇堕ちしたところで何の解決にもならないよ」
戦線をしっかりと支えるべく、その一矢を解き放つ。
そんな回復手の援護を受けつつも。
「可愛いから好きになるって、それなら女の子でいいだろ? ずっと一緒に居た親友なら、見てくれ以外で好きになったとこもあると思うんだ」
『……!!』
そう言い放った彰二の言葉に、久美は振り上げた拳を一瞬止めて。
「親友だと思ってたヤツに告られたらそりゃびっくりすると思うけどさ、全部悲観的になる必要はねーと思うぞ!」
『! ガァアアアッ!』
生じた隙を見逃さず、熱き血を滾らせ、得物に宿した強烈な轟炎の一撃を叩きつける彰二。
自分も久美と同じ様に、童顔で身長も低めで。他人事に思えないから。
その思いと共に……優しき『彼』を、呼び戻すために。
そして、まぁこんだけ告られてホモ嫌いにならないお前はいい奴だと思うよ、うん、と。
漆黒の弾丸を撃ち出しつつ、ある意味懐の深い久美の人格へと声を投げかける秀憲。
「一翔と一緒に過ごしてたのは楽しかったんだろ? 一翔も多分同じだからお前のことも友達としてわかってくれるって。だから帰ってこーい! お前は大丈夫だよ!」
「今のお前……その獣の姿に変わるのがお前の望みの姿か? 違うだろう? まだ間に合う! 戻ってこい!」
「誰も信用出来ないなら、俺を信用すればいい。まだ君は人間でいられる。男だろう、ヒサヨシ!」
翼と実里も、明らかに動きが鈍っているデモノイド……いや、久美へと訴える。
帰って来い、戻って来い――まだ人間でいられる、と。
それから主人に続いたスロットがウィリーでデモノイドの刃を避けた、その隙をついて。
睡蓮のフォースブレイクが決まり、月夜のオーラキャノンが炸裂すると。
ボロボロと、その青の皮膚が剥がれ落ち崩れ始める。
そして。
「その雑念を斬り潰す……!」
翼の死角から放たれた斬撃が閃き、ゴトリと巨大な腕を綺麗に斬り落とした刹那。
「おりゃ、いい加減目ぇ覚ませっ!」
彰二の身体から噴出した激しい炎が怪物へと叩きつけられ、巨体を駆け巡って。
久美を覆っていた青の闇を、完膚なきまでに焼き尽くしたのだった。
●かけがえのないもの
著しく疲労してはいるものの。
「う……俺は、一体?」
デモノイドからデモノイドヒューマンへとなった久美の姿を確認して。
咥えていたポップキャンディーの棒をフッと吹き捨てる月夜。
そして一翔の元へと赴き起こそうとする久美に、秀憲はこう声を掛ける。
「まぁ一翔も勇気出して告ったんだろう、しばらくあいつの顔も見たくないかもしれんが、きちんとフッてケリつけてやれよ」
「ああ、そうするつもりだ。それに俺は……もう、此処には、いられないんじゃねーの?」
そう頷きつつも言った久美の左手には……青色の皮膚が、まだ残っていた。
だが彰二は、そんな彼をすかさず誘う。
「色んな意味で仲間がいっぱい居るぜ」
武蔵坂学園へこないか――と。
それから久美の手で揺り起こされた一翔は目を擦りながらも。
「あ……久美、大丈夫だったか!? あの怪物は!?」
「夢でも見てたんじゃねーの?」
「え、夢……?」
彰二のナイスフォローに首を傾けつつも、久美を見た。
それから久美は、一翔と二人にして欲しい、と。
笑顔でサムズアップする実里にサムズアップで返しながらも、一翔を連れて歩き出した。
告白に対する自分の気持ちと答えを、はっきりと告げるために。
そして、大切に想ってくれたこと、これまで一緒に過ごした楽しかった日々に――ありがとうと、伝えるために。
作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 13
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