東京のビル街というと、オフィスばかりが入っているイメージが一般的に強いが、働く人達の憩いの場としてビルの間に公園があったり、ビルの中に美術館が入っていて、古今東西の美術品が訪れた人の目を楽しませ、心を和ませる。
そんなビルの中にある美術館の1つに、外の夕日が入口に差し込んでくる頃、1人の男が入ってくる。
こういう場にはいささか場違いな感じがするタキシードとシルクハットにマント姿、上品に整えられた口髭に片眼鏡を付けたその風貌は、世界的に有名な小説に登場する怪盗を思わせた。
「ボンソワール」
男はシルクハットを脱いでキザっぽく一礼して、更にこう続ける。
「本日はこの美術館に置いてある、一番高価な絵を頂きに参上した」
男の言葉に、その場にいた警備員が怪訝な表情になるも、放っておく訳にもいかず近づいてくる。
「何ふざけた事言ってるんですか。ちょっと一緒に来て貰えますか?」
男は心外そうにかぶりを振って、
「残念ながら私はふざけてなんかいないのだよ」
男がそう言うのを合図のように、メイド服姿の若い女が2人、入口から飛び出して、男の肩を掴もうとする警備員を床に倒して押さえ込む。男はメイド達の手際を見ながら頷くが、
「む──」
突然受付の方を振り向くと、呆然と立っていた受付嬢の前へツカツカと歩み寄る。
「お嬢さん」
思いも掛けない人物の登場に加えて突然声を掛けられ、受付嬢はパニックになりかけるが、男は構わず彼女の手を取って囁く。
「突然のお願いで申し訳ないが聞いて頂きたい。今日この美術館から絵と一緒に、あなたも盗ませてくれるかな?」
いきなりそんな事を言われて、受付嬢の頭の中は真っ白になるが、男が受付嬢の手の甲に、慣れた感じで口づけをすると、たちまちそこから熱が広がるように、受付嬢の顔が赤く染まり、
「はい、喜んで──」
熱に浮かされたようにうっとりとした目で、受付嬢は答えた──。
「またダークネスを見つけたぞ。今度は淫魔だ。そして怪盗だ!」
始めに神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)がそう言うと、教室に集まった灼滅者達は一様に『何だそりゃ』という表情になるが、構わずヤマトは説明を続ける。
「淫魔の名前はピエール・ムッシュ。思い切り偽名臭いが、そこは気にする所じゃないから気にするな。問題は奴の行動だ。奴は宝石店や美術館に乗り込んで、宝石や美術品を盗んでいく。それも正面から堂々と入ってだ。まさに怪盗だろ!?」
いくら警備が厳重でも相手がダークネスでは戦力的に無意味に等しいし、バベルの鎖の効果で正体が知られる事もない。敵はそれを十分知っている上で、怪盗を気取っているのだろう。
「おまけに奴は、盗みに入った先で気に入った女を見つけると、それもお持ち帰りしてしまうんだ。まさに淫魔らしくて怪盗らしいだろう?」
そうして連れて帰った女性を、ピエールは強化して配下にしているらしい。
「はっきり言うが、ピエール単体でもお前達8人を相手にしても十分渡り合える戦闘力がある。それに配下全員も加わったら勝ち目はない。だが、今回俺の全能計算域が導き出したタイミングなら、奴の側に配下は2人しかいないから、作戦次第で勝ち目はある!」
ヤマトは都内のビル街にある某美術館の情報が印刷された紙を数枚出して灼滅者達に見せる。
「次にピエールが狙ってるのはこの美術館だ。奴は夕方入口から堂々と入って、エントランスで警備員を無力化させて、受付の女の人をモノにしてから中の美術品を盗んでいく。その前の、警備員がピエールに掴みかかろうとする前に、割り込んで戦え。そのタイミング以外では向こうに予知されてしまうからな」
ちなみにピエール達より先に美術館に入って待ち伏せする事はできるが、事前に美術館の他の客や関係者を人払いすると敵の予知に引っかかってしまい、警戒してやって来ない、もしくは別の所に予定を変えてしまう危険があるという。
「だから人払いは戦闘が始まる前後にしなきゃ駄目だ。かなり難しいだろうが上手くやってくれ」
一般人が全て避難すれば、エントランスは灼滅者達とダークネスが戦うには十分な広さがあるから、気兼ねなく戦えるだろう。
「ピエールは戦闘ではサウンドソルジャーとガンナイフのサイキックと同等の効果がある技を使ってくる。奴に従う2人の強化一般人もメイドの格好でメイドっぽい道具で攻撃してくるが、それよりも厄介なのが『ご奉仕』の技術だ。ピエールが傷を負ったら即座に応急処置をして、服が破れればあっという間に破れたのが分からないくらい綺麗に繕って、と言う具合で、もはや癒やしと浄化の域に達している」
まさに漫画に出てくるメイドや執事にも引けを取らないというわけだ。
「色々な意味で手強い敵だが、ピエールに心を盗まれた女達を助けるためにも、奴を灼滅して女達を正気に戻さなきゃならない。みんなの力と知恵、チームワークの限りを尽くして、この戦いに勝って、みんな無事に帰ってきてくれ。頼むぜ」
参加者 | |
---|---|
蓮華・優希(かなでるもの・d01003) |
ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) |
喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788) |
ハツネ・アルネブ(スイーツ系男子・d02256) |
白伽・雪姫(アリアの福音・d05590) |
海堂・月子(ディープブラッド・d06929) |
廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173) |
シュテラ・クルヴァルカ(蒼鴉旋帝の血脈・d13037) |
●逢魔が時、怪盗は現れる
「ビルの中の美術館と言うから、どんなものかと思ってたけど、結構いい絵が揃ってるじゃない」
壁に並ぶ絵を見ながら、蓮華・優希(かなでるもの・d01003)が言う。ダークネスの襲撃に先だって、非常口等の確認を兼ねて、客として入っていたが、予想以上の美術品のクオリティーに口元が緩む。
「そうね、美術館と言うと洋館を一つまるまる使ったイメージがあるものね」
高校3年生らしからぬ大人の女性の雰囲気を纏わせながら、隣に立つ海堂・月子(ディープブラッド・d06929)が答える。
「スイーツの絵、どこにもない……」
その近くで残念そうに言うのは白伽・雪姫(アリアの福音・d05590)。そんな彼女を優希と月子は微妙な表情で見ていたが、
「そろそろ時間かな──」
時計を見て優希はそう呟くと、エントランスへ向かって踵を返した。
美術館のエントランスホールに外の夕日が差し込む頃、入ってくるのは仕事帰りの勤め人が大半を占める中、タキシードとシルクハットにマント姿、上品に整えられた口髭に片眼鏡を付けた、明らかに他と毛色の違う男が入ってくる。
(「わぁ、思いっきり小説とかに出てくる怪盗のイメージだ!」)
優希達と同じく、客として美術館に入っていた廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)が、感心半分、呆れ半分で男を見ていると、男はシルクハットを脱ぎ、
「ボンソワール。本日はこの美術館に置いてある、一番高価な絵を頂きに参上した」
そうキザっぽく一礼して言ってくる。
「何ふざけた事言ってるんですか。ちょっと一緒に来て貰えますか?」
エントランスホールに立っていた警備員が、胡散臭いものを見るような目で男に向かって歩いて来て、男を連れて行こうと手を伸ばした所で、セクシーな服装をした女が2人の間に割り込んでくる。
「怪盗さん、そんな彼より私と遊んでくれない?」
太股からゆっくりと上へ手を這わせながら、月子が男に向かって誘うように言うと、
「おお、これは美しいお嬢さん。あなたのような方と一夜を共にできるなら、このような味気ないビル街も、シャンゼリゼ通りのように感じられるでしょう」
男もいささかオーバーに返してくる。
「おい、邪魔をするんじゃない!」
蚊帳の外に置かれた警備員が月子をどかそうと声を荒げるが、
「悪いけど、あなたでは役不足よ……」
いつの間にか接近していた雪姫がパニックテレパスを発動させると、周りにいた一般人の客達は「ヒィッ!」と声を上げてその場から逃げ出す。警備員は責任感からか、その場に留まっているが、足が震えている。
「ここは危険よ? それに、彼との時間だから遠慮して欲しいな?」
仕方ないので月子がラブフェロモンを出すと、警備員はどこか解放されたような表情で「はい!」と声を上げて離れていく。
「は~い、従業員とお客様の皆様に申し上げま~す。只今変態さんが現れましたので、早急に避難をお願いしま~す」
プラチナチケットで関係者になりすまして美術館に入っていた喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)が軽い口調で言うと、一般客は駆け足でエントランスホールから出ようとして、従業員や警備員などの関係者もすぐそれに続く。
「皆、こっちへ来て逃げて! お願い」
シュテラ・クルヴァルカ(蒼鴉旋帝の血脈・d13037)が入口の外からラブフェロモンを出して避難者達を引きつけ、
「ハイハーイ、出口はこちらですよー」
ハツネ・アルネブ(スイーツ系男子・d02256)が彼女を手伝って誘導する。間もなくエントランスホールには灼滅者達を除けば男と、彼に従う2人のメイドだけが残り、月子達はESPを解除する。
「さ~て、もう前にも後ろにも出口はないよ」
一度こういう台詞を言ってみたかったという表情でハツネは言いながら、男達に近づき、他の灼滅者達も逃げられないよう囲い込むように近づいてくる。対してメイド達も主人を守ろうとするように前に出て、それぞれモップと銀色のトレイを武器のように構える。
「ピエール・ムッシュ、ふざけた名前っすね。ムッシュは名前の前につけるものっすよ? どうせ似非フランス人なんでやしょうけど。殲具解放!」
避難の人々に紛れて美術館に入ってきたギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が、呆れたように言いながら封印を解除し、無敵斬艦刀を出すが、男──ピエールは動じた様子もなく、
「本名を隠す事で謎が生まれ、神秘性へと昇華されるのだよ」
しゃあしゃあと返すピエールに、ギィは眉間の皺を深くする。気持ちは分かると言うように燈は頷き、
「物語の中じゃ怪盗さんをカッコイイって思う事もあるけど、やっぱり物を盗む事は良くないよね。大人しく逮捕されてね!」
そう言って妖の槍を構える燈だが、
「あ、灼滅だった!!」
慌ててそう訂正する。
「そっちが怪盗なら、自分らは名探偵。きっちりと灼滅してやるっすよ」
続けてギィも言いながら、無敵斬艦刀の切っ先をピエールに向けた。
●怪盗対探偵達
「名探偵かね。では私は怪盗らしく、この包囲を見事破ってみせようではないか」
囲まれてもなお余裕の表情で、ピエールは随所に装飾を施された拳銃を抜き、前衛に向かって連射する。その早撃ちに、前衛は思わず足を止める。
「ふん、バベルの鎖のおかげで、何のトリックも使わずに、正面から堂々と乗り込んで怪盗気取りっすか。ルブラン張りの創造性がほしいっすね」
それでもクラッシャーのギィは戦神降臨で自身を鼓舞し、更に精神的にも敵に優位に立たせまいと挑発の台詞を吐く。
「私は優雅さを求めるのだよ。コソコソしたトリックなんて柄じゃない」
銃口から上がる硝煙をフッと吹きながら答えるピエールに、
「あなたには、1枚も絵を盗ませはしないわ……」
メディックを務める雪姫も続けて言い、シールドリングを飛ばす。
「守るから、思う存分に行くといい」
シールドリングを受けたディフェンダーの優希が、背後に控えるクラッシャーの月子に言うと、トレイを持った方のメイドに間合いを詰めてサイキック斬りを見舞う。続けざまに月子も黒い花弁と化した影業をメイドに向けて伸ばし、
「アナタはどんな声で鳴くのかしら?」
そう言って、影縛りでメイドを締め上げると、漏れる悲鳴に月子がサディスティックな微笑を見せる。
「あなた達はここにいるべき人間じゃない。下手に抵抗しないで元の生活に戻らない?」
同じくクラッシャーの燈はそうメイドに呼びかけるが、
「ピエール様の所有物でなくなったら、私達には何の価値もないわ!」
苦痛に顔を歪めてもなお、迷いのない口調でメイドは答える。燈は覚悟を決めると螺穿槍をメイドに叩き込む。
ジャマーの波琉那も援護射撃でメイド達を足止めして、彼女の霊犬もメディックとして浄霊眼で燈を援護する。
「まだです。ピエール様のために、まだ倒れるわけには!」
気丈に言いながら、メイドは自身の足に手早く包帯を巻く。
「その通りよ!」
仲間の言葉に応えて、もう一方のメイドが入口組のギィにモップで殴りかかるが、無敵斬艦刀で弾く。
「やれやれ、残念だよ。ダークネスじゃなきゃ怪盗とか超応援しちゃうのに!」
ジャマーのハツネがいささか不謹慎な発言をすると、
「お姉さん達、そんなドギツイ奴やめてオレとお付き合いしない?」
次いでそうナンパしながらヴェノムゲイルを放つと、モップを持ったメイドには避けられるが、トレイの方は毒に侵されて苦しげに咳き込む。当然メイド達からは「「お断りよ!」」と揃って拒絶される。
「悪しき者共に裁きの光を!」
続いてキャスターのシュテラが歌うように言い、メイド達に向けてセイクリッドクロスを放つと、一方にはトレイで防がれるが、もう1人が持つモップの柄を折る。
「やれやれ、無粋な人達ばかりだね」
溜め息を吐きながらかぶりを振って、ピエールは月子の方を向く。
「こんな人達に毒されて、あなたのような気高く美しい薔薇が色あせて、しおれてしまうかと思うと、私は悲しくてならないよ、お嬢さん」
歯の浮くようなピエールの言葉に、月子の心はぐらつきかけるが、
「聞いちゃ駄目だよ」
優希が前に出てくれたおかげで、月子は自身を保つ事が出来たが、代わりに優希が誘惑に耐えるように頭を振り、近くで聞いていたギィが叫びながら体をかきむしる。
「こんな奴の言う事なんて、もう聞きたくないっす! あんたもこれ以上聞かない方がいいっすよ!」
心底不快そうにギィはメイド達に言うと、モップを持った方に戦艦斬りを叩き込む。
「まさにスイーツのように甘い言葉ね……」
雪姫も言って、優希へ防護符を放つ。
「大丈夫?」
月子が気遣って尋ねると、優希は顔を赤くしていたが、間もなく元に戻って問題ないと答える。
「淑女が無理なんてするものではないよ」
そう言ってくるピエールに対して、
「守り手が辛い顔をしては攻め手が不安になる。守るのは心の平静も、だから、ね」
答え終わると同時にトレイを持ったメイドをシールドバッシュで攻撃して、膝が崩れた所を月子の影が大口を開けて丸呑みにする。
「優希の呼吸が解ってきたわ」
月子がクスリと笑いかけると影が戻ってきて、力尽きて倒れたメイドが床に残される。
「もう1人もこの勢いで倒すよ!」
それを見た燈が意気込んで斬影刃を繰り出すが、先走りすぎてかわされてしまう。そこへ波琉那の援護射撃が撃ち込まれ、霊犬が月子の足の傷を治すが、メイドも包帯で足の傷を手当てして、折られたモップの柄を繋げる。
「ねえ、今からでも考え直さない?」
再度ハツネは言うが、今度は返事もして貰えず、歯ぎしりしながらヴェノムゲイルをピエールに向けて飛ばし、タキシードに焦げ目を作った。
●怪盗は死なず、ただ消え去るのみ
それからシュテラがマテリアルロッドから竜巻を起こすと、メイドはすっぽりと包まれる。
「何て事を……」
竜巻が消えた後、その服がズタズタに切り刻まれているのを見て、ピエールの表情に驚愕の色が入る。
「女性にこんな事はしたくないが、彼女たちにこんな事をされてはね──」
悲しげに言って、ピエールはシュテラに銃口を向け、引き金を引く。
「危ない!」
優希が割り込んで防ごうとするが、銃弾は優希を避けるように曲がり、シュテラの胸を貫く。
「シュテラさんを頼むっす!」
床に崩れ落ちるシュテラを横目にギィは仲間に向かって叫ぶと、メイドに追い討ちをさせまいとレーヴァテインで斬り付ける。
「大丈夫、内臓や主要な血管は外れてる」
シュテラを診た雪姫が普段以上に冷静な口調で言うと、シールドリングを掛け、更に優希のワイドガード、霊犬の浄霊眼が続く。
「良かった」
月子は一言呟くと、メイドを影縛りで拘束する。更に燈のディーヴァズメロディが浴びせられると、メイドは力尽きて倒れる。
「お待たせ変態さん、ようやく直で相手できるね」
ニヤリと笑って波琉那は言いながら、踊りを交えてピエールに銃撃を浴びせる。更にハツネが影喰らいでピエールを飲み込むと、
「何故私の絵を認めない!? 何が独りよがりだ!」
影の中からヒステリックな声が聞こえてくる。その後憔悴と怒りを顔に貼り付かせて影から出てきたピエールに、応急処置が終わって立ち上がったシュテラがジャッジメントレイを放つ。
「思い知りなさい、裁きの光!」
裁きの光に灼かれ、毒とトラウマに心身共に蝕まれるピエールだが、それでもなお外連味溢れる拳銃捌きで前衛を連続して撃つ。
「その銃声、あんたの泣き声みたいっすよ」
肩口を銃弾がかすめるがギィは意に介さず斬り込み、紅蓮斬で敵の生命力を吸い取る。
「あなたには、一切手加減しないよ」
声に静かな怒りをにじませて優希は言うと、鬼神変でピエールの脇腹を力一杯殴る。体勢を崩しかけた所へ、月子がほとんど密着と言えるほどに接近する。
「二人きりならもっと愉しめたのに、残念ね」
甘い声でピエールの耳元へ囁き、頬を撫でて間合いを開けると、月子の足元の影が幾つもの手錠の形を為してピエールの手足に掛かる。
「はい、逮捕よ」
そう月子が言って、更に燈の斬影刃がタキシードを切り裂く。だが、
「残念だが、まだ逮捕はさせないよ」
かなりのダメージを与えたはずにも関わらず、ピエールはニヤリと笑って拳銃を向けた。
その後もピエールは8人と1匹を相手にしぶとく立ち回り、灼滅者達に浅からぬ傷を負わせていくが、時間が経つにつれて次第に削られていく。
「何故作品を独り占めしたいの? 閲覧するだけではだめなの?」
優希の問いに、ピエールは掠れた声で答える。
「それは無理な相談だよ。何故かって? それはね、美しい物があるなら手元に置かずにいられない。そういう性なのだよ……」
「そんな理屈、分かんないっすよ!」
ギィが叫びながら戦艦斬りを浴びせると、とうとうピエールは限界に達したらしく床に膝を突く。だが、
「怪盗として、死体を見せるなんて無様だからね……」
そう言って、最後に残った力で全身をマントに包んで倒れると、まるで消失マジックのようにマントだけが床に落ちて、間もなくマントも消失する。
「オールボワール」
そう雪姫は別れの言葉を口にした。
●そして怪盗がもう1人?
ピエールが灼滅されたのを確認すると、回復のサイキックを持つ者達が、倒れているメイド達の治療に当たる。
「操られたといえ、ピエールが灼滅されたと知ったら、どう思うかな?」
「目覚めたらただの一般人に戻る……そうなったら、バベルの鎖の効果でそのうち思い出さなくなる……」
優希の問いに、雪姫はそう答える。
「こいつらの他の女も正気に戻るってわけっすね」
良かったとギィは言う。
「今度はゆっくり美術鑑賞に来たいわ」
怪盗の相手はこりごりというようにシュテラが言うと、
「スイーツの絵がある所がいい……」
雪姫が希望を出してきて、
「本物が食べられる所が近くにあるなら燈も行く!」
続けて燈も言ってくる。
一方波琉那はピエールが灼滅された所へ視線を落とし、
「今度生まれる時はもうちょっとまともな変態さんになって来てね……それまでゆっくり眠るといいよ」
そう祈りを捧げると、隣で付き合っていたハツネがシルクハットを被ってマントを翻す真似をして、
「オレも怪盗やっちゃおうかなー?」
などと言って、月子に近づく。
「お嬢さん、今夜オレにあなたの心を盗ませてくれませんか?」
そう月子に向かって囁くと、
「あら、それって私と溺れる夜を過ごす覚悟があると言う事かしら?」
怪しく微笑みながら、月子が切り返してくる。
「いや、オレまだ高1だし……」
逆に尻込みしてしまうハツネに、他の灼滅者達は大笑いするのだった。
作者:たかいわ勇樹 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 4
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