道場での再会

    作者:聖山葵

    「へっ、あの腰抜けめ」
     道場に座り込んだ男は弄んでいた看板を拳で叩き割った。道場主が逃げ出した時に開けたままの戸口には目もくれない。
    「これでこの辺りは俺の傘下だな」
     悦に入った男は窓からさし込む斜陽を眺めつつ口の端をつり上げ。
    「警告は、ちゃんと受け止めてくれたと言うことでしょうね」
    「なっ」
     その女性が口を開くまで、この場に新たな侵入者がいたことにさえ気づかなかった。
    「なんだアンタは?」
     驚きを顔に貼り付けた男が誰何の声を上げれば。
    「葛折・つつじと申します」
     道着姿の女性、葛折・つつじは名乗って一礼するなり男をまじまじと見て。
    「なるほど、縄張り争いに満足する程度の雑魚ですか」
     さすがお師様、としきりに頷く。
    「ざ、雑魚だと?! この俺が?」
    「ご不満ですか? では、犬で」
     縄張り争いなど犬でもしますからねと続ければ、男の顔は怒りに染まった。
    「アンタよっぽど死にたいらしいな?」
    「自殺願望などありませんよ?」
     不思議そうに首をかしげつつも、つつじが拳を握った瞬間。
    「うおっ」
     あふれ出した闘気に男は一瞬ひるみ。
    「ですが、勝負であれば受けて立ちます」
    「じょ、上等だ相手に不足はねぇっ」
     ひるんだことを恥じるように顔を険しくした男に向けてつつじは一礼すると。
    「参ります」
     次の瞬間、夕日に染まった道場の床を蹴っていた。
     
    「葛折・つつじの次に現れる場所がわかった」
     座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は黒板にマグネットで一枚の地図を固定すると灼滅者に向き直り、再び口を開いた。
    「場所は地図で言うと、ここにある道場。つつじの目的は、夕刻この道場へ道場破りに訪れるアンブレイカブルと見て間違いない」
     前回の接触で語った内容からすると、つつじはこのアンブレイカブルに接触し、道を示すのだろう。
    「だが、つつじが接触する前に道場破りのアンブレイカブルを灼滅してしまうことでつつじの目的を妨げられることも解っている」
     こちらに関してはつつじ自身に邪魔をするなと釘を刺されてしまった訳だが。
    「襲われた道場の主は男に恐れをなして逃げ出し、道場に残ったアンブレイカブルは君達が手出しをしなくとも事件は解決すると思われる」
     だが、つつじの意図が不明であるからこそ放置してしまって良い物かは疑問が残る。
    「むろん、前回の接触で釘を刺されてはいる。道場破りを君達の手で倒せば、つつじは完全に敵に回る事だろう」
     もし倒すのであれば、つつじの持つバベルの鎖をかいくぐり先んじることが出来るのは、つつじが道場破りと接触する十分前。
    「タイムオーバーによってつつじが現れれば、戦局がどうなるかは私にも予想が付かない。男を倒した後つつじを待ち受けて情報を得るのも難しいものになると言わざるを得ない」
     もっとも、こちらに先を越す手段があることを知るつつじからしてみれば、毎度妨害されて同じ手段を執ってくるとは考えにくい。
    「まさにターニングポイントだ」
     続けて阻止されればつつじは出方を変えてくるであろうし。話し合いの機会が完全に失われた訳ではない。アンブレイカブルを足止めするにとどめるなどして待ち、敢えてつつじに目的を果たさせ、警告に応じて信用させ情報を引き出すという選択肢もある。
    「だが、私からの依頼としては、敢えて道場破りの灼滅とさせて頂こう」
     つつじの行動を野放しにしてどういう影響が出てくるか解らないからこそ、はるひはそう言う。
    「尚、道場破りのアンブレイカブルはストリートファイターのサイキックに酷似した攻撃手段を持つ」
     そして、つつじはバトルオーラのサイキックに似た攻撃も使えると思われるがとしつつも。
    「連戦など無謀、とだけ言わせて貰おう」
     少女は釘を刺した。短期間に二人のダークネスと戦うだけでも無謀だが、二人目の実力は一人目の比ではない。
    「どう転ぶかは予想もできんが、全ては君達次第という訳だ」
     よろしく頼むよと続けると、踵を返す灼滅者を見送り。
    「道、か」
     ポツリと呟いたはるひは黒板から地図を剥がした。
     







    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    相良・太一(土下座王・d01936)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    四津辺・捨六(伏魔・d05578)
    物部・七星(一霊四魂・d11941)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)
    ヴィルヘルム・ギュンター(悪食外道・d14899)

    ■リプレイ

    ●拳鬼待ちて
    「いよいよご対面だぜ、噂のつつじお姉さん……いや、アンブレイカブルで敵なのは忘れちゃいねーが」
    「話聞いた限りじゃ、以前アタシが会ったアンブレイカブルとかとはどーも毛色が違うらしいわねぇ」
     開け放たれたままの戸口を眺める相良・太一(土下座王・d01936)の声に頷いた明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)は、肩をすくめて言葉を続ける。
    「まぁ折角なんだから、ちょいとお話して情報収集するとしましょーか。そっちのがアタシとしても、戦闘より楽で良さそうな気がするし?」
    「ああ、理性的なのはおおよそのアンブレイカブルとは一線隔すよな。何か得られりゃいいけど」
     応じる太一の視界にも件のアンブレイカブル、葛折・つつじの姿はまだ確認出来ない。
    (「さて、今回も他のアンブレイカル狙ってるそうだけど……挑んでも勝ち目はなさそうだし、できるだけ穏便に接触したいわね」)
     狙われている側の男がまだ道場内にいることは、戸口に姿を見せないことから監視中の鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)も理解している。
    「目的が違うとはいえ、目の前にダークネスがいるのに灼滅できないのは少々歯痒いですね」
     と椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)の当にジレンマを抱いたとしても、今は堪えるしかなかった。
    (「つつじさんがどんな目的で動いているのか気になりますわ。ならばここは……」)
     エクスブレインの依頼を果たさぬ形となっても、情報収集及び交渉することを良しとする。物部・七星(一霊四魂・d11941)とて胸中で「けど」と前置きしてはいたが、興味はあるのだ。
    「正直、一時とはいえダークネスと手を組むのはいい気分じゃないが」
     と言いつつも、四津辺・捨六(伏魔・d05578)は自身を納得させる。今の状況では「いつか」と前置きするしかないが、確実に灼滅するため今は辛抱するしかなく。そもそも何が起きるか解らない状況下、心を乱す訳にはいかなかったのだから。
    (「……それにしても相談を詰め切れないところがあったし心配だ」)
     だと言うのに、不満や不安は平常心を保とうとするほど湧いてくるものでもあった。
    「来たな……上手くまとまるといいが……」
    「あら」
     胸中はどうあれ、灼滅者達が静かに待つこと数分。口を開いたヴィルヘルム・ギュンター(悪食外道・d14899)の視線を追った灼滅者達は、道場に向かって歩いてゆく道着姿の女性を視界に捉えていた。

    ●二人の拳鬼
    「あら、剣ちゃんとファルケちゃんが言ってた通り、なかなかの美人じゃない。サラシに道着姿にさせとくには、何か勿体無いわねぇ」
     と瑞穂が評す間も、つつじは道場へと歩いてゆく。そのまま灼滅者達には気づかず、道場へ入って行くかとも思われたのだが。
    「成程」
     短くもらした道着姿の拳鬼は、立ち止まるなり灼滅者達の方へと振り返る。たぶん、指示と大きく外れたことで、つつじの持つバベルの鎖に引っかかったのだろう。
    「はーい、ご覧の通り一戦交えたりする気は更々ないわよ~?」
    「初めまして、葛折さん。私「学園」に所属しております、探偵の星陵院綾と申します。以後お見知りおきを」
     両手をあげて戦うつもりなど無いとアピールしつつ応じた瑞穂につづき、名乗ったのは星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)。
    「初めまして、葛折・つつじと申します」
    「貴方をひとかどの人物と見込んで、今日はお話をしに上がりました」
     小さな白旗をあげる綾へ礼儀正しく頭を下げて見せたつつじは、灼滅者達の姿を見て問う。
    「顔ぶれは違うようですが、警告は受け止めてくれたと見てよいのですね?」
     戦いもせず、行動の一端を察知させたことをつつじは好意的に受け止めたらしい。
    「あぁ。こちらに今回妨害する意志がないし、それと話したいことも有る」
    「話があるなら聞きましょう。ですが、先に為すべき事を果たさせて頂きます」
     肯定を返した捨六へそう答えたのは、つつじにとって優先すべきものが話し合いでなかったからか。
    「その道ってヤツ、見せて貰うわけにゃいかねーか?」
     ぺこりと一礼し、再び道場へ向かおうとする背に、太一が「今からでも、後日にでもよ」と声をかければつつじは立ち止まり、言う。
    「見学は構いませんが……口出し、手出しは無用に願います」
    「んじゃ、この目に焼き付けさせて貰うぜ」
     快諾したつつじの後を追う様に、灼滅者達は道場へと足を踏み入れる。
    「なんだアンタらは?」
    「葛折・つつじと申します」
     そこから目の前で繰り広げられたつつじと先客のやりとりは、エクスブレインから語られたものと大差ない。登場人物が増えたからこそ道場破りの男は複数形を使ったものの。
    「じょ、上等だ相手に不足はねぇっ」
     挑発されて憤り、つつじに気圧された男が顔を険しくし、勝負に応じるまでがほぼ同じ、ただ。
    「参ります」
     一礼したつつじが道場の床を蹴った後はまさに未公開シーンだった。
    「っ」
    「せいっ」
     一瞬で男までの距離を詰めたつつじの腕が男の腕を取り、背に担ぎ上げ、投げ飛ばす。
    「ぐおっ」
     柔道の一本背負いのようにも見えるが、なつみには、それが何であるか解っていた。
    「地獄投げ、ですね」
    「ぐぅっ」
     投げ飛ばされた男は、呻き声を上げ身を起こすが、足下がおぼつかない。
    「もう終わりですか?」
     一方のつつじは、構えすらとらず、声音は拍子抜けしたと言わんがばかりであり。
    「ちっきしょぉぉぉっ!」
    「はぁっ」
    「うぉぉっ?」
     激昂して繰り出した拳が、つつじの拳に殴り飛ばされ、相殺される。つつじは、拳を後から出したにも関わらず。
    「……すげー」
     力量の差は歴然。思わず口から声が漏れたが、同時に太一は無意識の武者震えを禁じえなかった。
    「拳とは、こう使うものですよ」
     鋼鉄拳に似た一撃を右で弾き、流れるように左の拳をつつじは突き出し。
    「がっ」
     衝撃波を伴った一撃が男の身体を壁まで吹っ飛ばす。間に男が居なければ、道場の壁は抉り取られていたかもしれない。
    「灯屋先輩と剣先輩が言ってた通り、相当な遣い手ね。前回剣先輩が戦いたくてウズウズしてたってのも無理もないわ」
     戦いを眺めつつ、狭霧は呟き。
    (「男が闇堕ちした灼滅者一人程度だとして、この人数で勝てないのは明らかか」)
     捨六はただ黙してつつじの戦闘力を測ろうと観察を続けるが。
    (「相手が悪いな」)
     男への反応だけでは、判断材料が少なすぎた。つつじもまた同じ技を使うなら、格上相手に同じ攻撃が通用するはずもないのだから。
    「くそっ、なんでだ……何でアンタ、はっ!」
     呟きながら拳に雷を宿しつつじの足下に蹲った男は身体のバネを活かしてアッパーカット繰り出すが。
    「まだ理解出来ませんか? これが、下らぬことに囚われたあなたと、私の――」
    「あっ」
     一歩さがって男に隙を作り出したつつじは、くるりと男に背を向けた。
    「ごふっ」
    「差です」
     回し蹴りを伴って。
    「手加減、攻撃……?」
     ボコボコにされた男は後一撃貰っていれば、灼滅されていただろう。
    「うっ……」
     だが、まだ息があり。
    「何故だ、何故トドメを」
    「刺す必要がありますか?」
     ノロノロと顔を上げた男に、トドメを刺す気などありませんとつつじは言った。

    ●道
    「そもそも武人としてのあるべき姿とは……」
     男は正座させられていた。座して諭すつつじの前で。
    「私とて、弟子の中では落ちこぼれなのですよ。その私ですら正しく武を磨けばあなたに勝てたのですから」
     道を違えず武を研鑽すればきっと強くなれるはずです、とつつじは語る。
    「落ち……こぼれ?」
     とんでもない言葉がつつじの口から漏れた気がするのだが、気のせいか。
    「アンタが?」
    「そのおかげで動き回れるのですが」
     呆然とした様子の男の前で、つつじは一瞬だけ顔を曇らせ。
    「あなたの全力を叩きつぶす為、心ないことを言いましたが……解りましたね?」
    「あ、あぁ……いや、今までの俺はただの犬だった……だが、アンタのおかげで目が覚めた。もし、もし今からでも」
    「ええ、共に励みましょう」
     男の申し出につつじは笑顔で頷くと、灼滅者達の方へと向き直る。
    「お待たせしました、お話の方、伺いましょう」
     ここまででつつじの目的は、ほぼ明らかになったが、話は、他にもある。
    「改めてになるが、俺達は学園だ」
     最初に太一が所属組織をぼかして名乗ると。
    「それで、一つ提案してみたいんだが」
     持ち出したのは相互不戦。
    「一般人への被害を今回のように避ける限り、邪魔はしない。だがそっちの手が足りず被害を出す野良アンブレイカブルは倒す。邪魔するなってそっちの希望通りだし、こっちは一般人被害を抑えるのが第一だ」
     灼滅者側からすれば一般人の被害は見過ごせない。
    「わかりました、お受けしましょう」
     短い沈黙の後、口を開いたつつじの答えに安堵する。
    「ただし、私個人としてです。我が師にも伝えてはおきますが、全体の方針は自分の決めるような事ではありませんから」
     条件が付いてはきたが、これが最大限の譲歩なのだろう。
    「ほら、ちゃんとつつじちゃんの警告守ろうと思ってんだけどさ、その為には何が邪魔になるのか否か、ちゃんと知ってないと間違って結果的に邪魔しちゃうかもしれないじゃない? そんなワケで、アタシらが警告守れる様に出来ればつつじちゃんが何しようとしてるのか説明して欲しいと思ったんだけど、どうかしらぁ?」
     更に瑞穂が質問という形で口を挟めば。
    「ご覧の通り、私達は不甲斐ないアンブレイカブルを山に連れていき、鍛え直そうとしています。その為に、一般人を襲うような事はしません」
     つつじは、尊敬の目で自分を見る男を示し再び口を開いた。確かに、一般人を襲うアンブレイカブルをつつじ達が連れていけば、町も平和になるのは間違いない。
    「後はあなた達次第です。敵対したくないというのならば、私達がアンブレイカブルを山に連れて行く事を邪魔しなければ、こちらとしても敵対する理由はありませんから」
     条件が不服なら、狭霧達は切る札も幾つか用意していたのだが、つつじ側から見てもこの提案は問題なかったらしい。
    (「追加で情報を渡さずに済んだことを喜ぶべきか、ちょっと複雑ね」)
     この場合、あわよくば今後も定期的につつじと接触する方向に話を持ち込むつもりだったのだが、追加情報を出す前に承諾されてはどうにも出来ず。
    「……正直、一般人への配慮を見せたのは意外だったが、それを土台に、他のヤツの話も聞いてくれ」
    「わかりました。他にお話がある方は?」
     太一の言葉に頷いたつつじは灼滅者達の顔を見回すと。
    「それでは質問いいですか?」
     挙手した七星に、どうぞと応じた。

    ●問いと答え
    「修めた武術ってどんな流派? 師匠ってどの様なお方?」
    「業大老門下の流派です」
     あっさりと師の名を明かした。目的を阻害されなかったことである程度の信用を得たのか、答えるつつじの顔は少しだけ誇らしげで。
    「では、私も。葛折さんの所属してる団体の他にどのようなアンブレイカブルの団体が存在しますか?」
    「団体……ですか? 門下を団体と言われるのは違和感があるのですが」
     続くなつみの質問には首を傾げたものの、答えることを拒否するつもりは無いらしい。
    「真の武に目覚めてから私は山中でひたすら修行に明け暮れていましたので、そう言ったものを見たことは無いのです」
     こうして山を下りてきたのもつい最近ですしね、と付け加えたつつじの顔は嘘を言っているようには見えない。
    「と言うことは、箱根に現れたイフリートの事に関して知っている情報などは……」
    「箱根ですか、随分昔……武に目覚める前の私が温泉に行ったとは思いますが、その様な話は聞いたことがありませんね」
     ならばと別方向に話を向けて見るも闇堕ち前まで遡ってしまうようでは、つつじと件のイフリートに接点はおそらく無いのだろう。
    「色々聞かせて頂きましたし、ではこちらからも」
     結果として有力な情報こそ入ってこなかったものの、綾からすればこの場は情報交換の場。
    「これは最近のことですが」
     現状動けるダークネスとしては『最強』のラブリンスターを含む淫魔勢力の情報ならば、つつじも関心を示すと踏んで綾は話し始めた。
    「私の集めた情報によれば、淫魔の枕営業によって大分多くのダークネスが籠絡されたようです。その中には、あなた方アンブレイカブルも多くいたようですね」
     同じ拳鬼が関わっている上に、強者の情報が含まれていれば食いついてくるのではと言う期待を込めて反応を待つ綾へ。
    「そうですか、わざわざありがとうございます」
     軽く頭を下げて見せつつも、ですがと続けたつつじは頭を振る。
    「情報は必要有りません。私達は、ただ強くなるのみです」
     ラブリンスターの存在にも興味は見せず、ちらりと見た先は道場の壁。武とだけ書かれた掛け軸が入り口から吹き込んできた風に揺れるが、道場の主はここには居らず。
    「そうそう、先程のそちらの方の質問ですが」
    「アタシ?」
     つつじは自分を指さす瑞穂に頷くと、口を開いて。
    「もし、業大老門下であっても、一般人を襲っているようならば、別に灼滅してもらって構いません」
     それは、灼滅者達の立場を認めたのか、それとも。
    「少なくとも私は咎めません。修行に耐えかね、逃げ出したあげくに狼藉を行うようなら――」
    「お、俺は大丈夫だ。アンタについて行く」
     言葉の何割かは新たに門下へ加わることになった男へ釘を刺す意味もあったのかもしれない。
    「はい、信じていますよ。ところで、お話はこれで終わりですか?」
     慌てて言いつのるアンブレイカブルの男に笑顔を見せると、つつじは尋ね。
    「私からも質問いいか?」
    「もちろん」
     答えられることでしたら、と付け加え許可を出した拳鬼を見据え、ヴィルヘルムは問う。
    「サイキックハーツとは何か知って居たら教えてくれないか?」
    「我が師がそのような事を言っていた気がしますが、私は知りません」
     逆に言えばつつじの師なら何か知っているかもしれないと言うことだろうが、つつじ自身は本当に知らないようで。
    「そうか」
     落胆を声に滲ませつつもどこかでやはりと思うヴィルヘルムが、そこにはいた。知らない可能性を考慮していなければ、わざわざ「知っていたら」とは付けない。
    「では、失礼します」
    「あ、そうそう、もう1つだけ聞いてみたいコトがあるんだけど、いいかしら?」
     質問はもう終わりだろうと一礼し、背を向けたつつじを狭霧はふいに呼び止めて。
    「まぁこれはごく個人的な質問なんだけど……つつじさん、あなたは何の為に強さを求めてるの?」
    「強さを求めるのに理由が必要ですか? 理由が必要な武など、不純です」
     向けられた問いに問いで返し、つつじは男を従えて去って行く。これでつつじが敵対することはもう無いだろう。約束を違えぬ限りは。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 50/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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