紅月の闇、孤高なる影

    作者:志稲愛海

     そうだ、確かあの時も――紅い月が妖しく輝く、春の日だった。
     巷で偶然目撃したのは、赤と黒の惨たらしい光景。
     紅月に照る冷たい閃きが散らした、屍骸と鮮血。
     そしてその時生じたのは、二つの感情。
     それは恐怖と――今も疼く、この殺人衝動。
     そう……たった今、黒霧を纏いこの手で作りあげた惨殺現場は。
     その時のものに、不思議と、とてもよく似ている。

    「…………」
     黒のハーフコートに全身黒の服装を纏うその男は、ふと赤き双眸を細めるも。
     漆黒の日本刀とナイフに滴る血を拭った後、夜の街を歩き出した。
     行き交う人達も、すぐ傍の路地裏に惨殺死体が転がっているなんて。
     ましてや、すれ違ったこの男が殺人鬼だなんて……思いもしないだろう。
     ――その時だった。
    「……!」
     人を斬り刻んだ時でさえ変わらなかった男の表情が、微かに変化する。
     ふいにその赤き瞳に映ったもの。
     それは、ショーウインドウに飾られた、金髪のフランス人形であった。
     だがすぐに男は人形から視線を逸らすと、再び街を歩き始める。
     そして男が訪れたのは、ある高層ビル。一段ずつ一歩ずつ、階段を上って。
     辿り着いた屋上のドアを開け放った瞬間、生温い風と紅き月の輝きが彼の身を包む。
     屋上から見下ろす夜の街。漆黒の闇に侵食され、紅き月光に染まる世界。
     そんな風景を、眼光鋭き赤瞳に映しながらも。
    「…………」
     しばらく街を見下ろしていた男は、ふと何かを見つける。
     そして再び湧き上がる衝動に、月に閃く黒き得物を握り締めると。
     どこか遠くでサイレンが鳴るのを聞きながら、屋上を後にしたのだった。

     まだだ、もっとだ――。
     殺人の快感に抗うことなく、さらに序列上位を狙い、腕を磨き続けなければ。
     あいつを……あの六六六人衆を、『ぶちのめす』ためにも。
     

    「見つけた……やっと、見つけたよ」
     『彼』が堕ちた日からずっと、必死になって探していたのだろう。
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、かき集めた膨大な情報の中から、1枚の資料を手にしつつも。集まってくれてありがとーと笑んだ後、早速、察知した解析結果の未来予測を始める。
    「サイキックアブソーバーの声からさ、あるダークネスの行動を察知できたんだけどね。その相手は、序列第六五三位の六六六人衆……おそらく、先日の戦いで闇堕ちして行方不明になっていた、孤影だと思われるんだ」
     六六六人衆との戦いの末に闇に堕ちた、風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)。
     そんな彼の足取りが、掴めたというのだ。
    「それで今、彼はどこに?」
     集まった灼滅者の一人・綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)も、皆と同様に逸る眼差しで遥河を見て。
     続けて、詳細を語り始める遥河。
    「孤影と思われる六六六人衆が現われるのは、夜の街の路地裏だよ。きっと屋上から見えたんだろうね、この路地裏でガタイだけ良いチンピラが揉め事を起こすんだ。そしてやって来た彼が、そのチンピラたち全員を斬り刻んで惨殺してしまうんだよ」
     孤影と思われる六六六人衆は、元人格の影響か、真面目な性格で。
     実力を試すように人を殺し、ひたすらに腕を磨き、序列上位を狙っているという。
     力をつけ……ある六六六人衆を、ぶちのめすために。
    「このままだと、路地裏で揉めるチンピラ4人が孤影に瞬殺されちゃうんだけど。彼が屋上から現場にくるまでの5分程度、この時間が、バベルの鎖に感知されずにみんなが現場へと赴けるタイミングだよ」
     合図は、どこか遠くで鳴り始めるサイレン。
     これが鳴り始めてから5分ほどで、孤影はチンピラ達のいる路地裏へとやってくるが。この間に動けば、バベルの鎖に感知されない。
     僅かな時間ではあるが、この間にチンピラ達を追い払い、現われた孤影を待ち伏せできるというのだ。
    「戦闘の際、孤影が使ってくるのは勿論、六六六人衆のサイキックだよ。それに得物の、影業と日本刀と斬殺ナイフのサイキックだね」
     夜霧に紛れる如く影を纏い、閃く斬撃を繰り出してくるという孤影。
     だが……まだ。
    「今なら、孤影を救える可能性が残っているよ。でも今回助けられなければ、彼は完全に闇堕ちしちゃうから。そうなった時は……灼滅を、お願いするね」
     闇に堕ちて日が浅い今ならば、孤影を救えるかもしれない。
     しかし、救出できなければ……その時は灼滅者として、ダークネスを滅して欲しい。
     自分が察知した事件で闇堕ちた彼のことが、やはり心配であるのだろう。
     遥河は紫の瞳を伏せ、一瞬複雑な表情を宿すも。
     すぐに顔を上げ皆を見回し、笑んでみせる。
    「オレはさ、いつだって信じて待ってるから。孤影やみんな、武蔵坂学園の灼滅者のことを、ね」
     そんな気持ちと解析結果を自分達に託す遥河に頷き返す、灼滅者達。
     武蔵坂の仲間を、大切な人を――また此処に連れ戻す為に。


    参加者
    田所・一平(赤鬼・d00748)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    平坂・月夜(常闇の姫巫女・d01738)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    天神・ウルル(ヒュポクリシス・d08820)
    山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)

    ■リプレイ

    ●siren
     星一つない夜の闇に、静かに冴ゆる紅き月。
     血に塗れた月光降る静寂は、ゾクリとする鋭い冷たさを孕んでいた。
     だがそんな静けさを破る、野蛮なチンピラ達の声。
     このままだと――命が無い事も、知らずに。
     そしてチンピラ達を惨殺しに姿を現すのは、序列六五三位の六六六人衆。
    (「孤影先輩のお迎えなのですー! 先輩のお帰りを待っている方の為にも頑張るです!」)
     そう、闇落ちし行方不明であった風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)だという。
     平坂・月夜(常闇の姫巫女・d01738)は様子を窺いつつも、孤影を救うべく気合を入れて。
    (「戻ってきてほしいと願う人がいっぱいいるのに、このまま戻らないなんて嘘っす。みんなの救出しようとする気持ちをサポートするっすよ」)
     彼の為に駆けつけた皆を見回した山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)も、突入の時を待つ。
    (「愛する人を護る為に闇堕ちとはアイツらしいじゃないか」)
     その生き方嫌いじゃないぜ、と。
     文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)は田所・一平(赤鬼・d00748)と共に、挟撃の形を取るべく路地の入口付近に身を潜めながらも。
    (「大丈夫さ孤影は絶対に助ける。俺達の絆の強さを舐めるなよ!」)
     何処か遠くで鳴り始めたサイレンの音に、クロネコぐるみな手をぐっと握り締めた。
     同時に、チンピラの前に姿をみせたのは、五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)や天神・ウルル(ヒュポクリシス・d08820)。
    「とっとと失せろ」
    「弱い人はお帰り下さいねぇ、お邪魔なのですよぉ」
     プラチナチケットで警官を装う香に、ウルルのパニックテレパスの効果で。
    「なっ、サツがきてやがる!?」
    「ずらかるぞッ」
    「そっちそっち。あっち行っちゃ駄目だよ~」
     混乱するチンピラ達を、ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)もパニックテレパスを使い、確認しておいた安全な方向へと導いて。
     綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)やロザリアやビハインドが、慌てる彼等のフォローをしつつも、迅速に遠くへと追いやらんと動く。
     サイレンが鳴り始めてから孤影が此処に来るまでの約5分――この時間が、バベルの鎖を掻い潜れる唯一の隙。
    「にゅ、予測の一分前なのです!」
    「Slayer Card, Awaken!」
     皆の周到な作戦でチンピラ達がある程度距離を取る様を見送りつつも、月夜は時計を確認し、声を上げて。
     白銀の輝きを纏い、淡い白光の剣を手にしたアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は。
    (「学園の生徒だろうとそうでなかろうと、闇堕ちした人を助けられるなら助けるのは同じこと」)
     闇から姿を現わした、夜霧の如き影を纏った男へと視線を投げる。
     そしてこの状況を見遣りつつも、男――孤影がさらに一歩、足を踏み出した瞬間。
    「迎えに来たぜ孤影」
    「!」
     潜んでいた直哉と一平がその退路を塞ぐべく背後から飛び出す。
     だが、灼滅者達に挟まれても表情を変えることなく。
     孤影は眼鏡を微かに上げた後、スラリと、紅月に閃く刃を抜いた。
     
    ●voix
     孤影の冴刃と鋭影が強烈な殺意を帯び、灼滅者へと放たれる。
    「先ずは礼を言わないとだな。雛が無事に帰って来れたのはお前の御陰だ、ありがとな」
     そして生じる傷をも厭わずに。
    「だが事件はまだ終わっちゃいない。次は孤影、お前を救出する番だ」
     仲間を庇い、前へと躍り出る直哉。
     そして。
    「こんな所に居たのね……探したわ」
    「……!」
     ピクリと孤影が反応を示した声。
     雛は、イカれたあいつに嫉妬しちゃうわ、とクスクス笑んだ後、真剣な面持ちで。
    「ヒナからあいつを庇って……メルスィ、そして……ごめんなさい」
     だから、今度はヒナが――と。
     修繕した人形達を携え、笑顔という仮面を纏う。
    「ムッシュー・孤影……約束通り、貴方を迎えに来たわ」
     約束を今、果たす為に。
     そんな孤影に一瞬生じた隙をついて。
    「こんばんは。私はアリス・バークリー。『どちら』のあなたとも初めましてね。無理矢理にでも闇から連れ戻しに来たわ。よろしく?」
     バベルの鎖を瞳に宿し戦闘態勢を整えるアリスに続き、一平の拳の連打が唸りを上げ振るわれて。
     沢山の仲間達を見つつ、果報者だな、と。癒しと護りを施す小光輪を成しながら香も思う。
     面識は無くても学園の仲間を闇に奪われたくはない、と。
    「初めまして。おいらは山田っす。先輩に仲間の声を届けさせるために来たっすよ」
    「強くなる事、好きですぅ? わたしは大好きなのですよぉ、にへ」
     さらに菜々のシールドが叩きつけられ、雷宿した拳をウルルが突き上げたのに続き、バスタビームを撃ち出す紗矢。
     だが孤影は難なく襲いくる拳や衝撃を綺麗にいなして。身を翻すと、逆に容赦無き斬撃を振り下ろしてくる。
     それでも尚、声掛けを止めない灼滅者達。
     ミカエラは仲間へと癒しの護符を放ち、月夜も優しき風を招きながら紡ぐ。
    「孤影先輩、周りにいるみんなの声を聞いて下さいです。これは心配して来ているみんなの声なのですよ!」
     この場にいる、沢山の皆の声が届くと信じて。

    「貴方を待つ人たちがいます、貴方に守られたあの人が待っています。だから帰りましょう……周防さんが待ちくたびれていますよ」
    「探偵倶楽部の皆が孤影さんの帰りを待っているよ。孤影さんならそんな闇から抜け出てくると信じてる」
    「今のままでは目論見に嵌ったままです、また一緒に日常の側から戦っていきましょう」
    「一人だけ闇堕ちなんて楽はさせないってさ。観念して、いい加減帰ってきたら?」
     七波や崇、師将や新は、ナノナノや霊犬と共に皆の傷を癒しつつも必死に言葉を掛けて。
    「まだまだ皆で一緒にやりたいこと、いっぱいあるでしょう? だから、こんなところで孤影さんが消えちゃうなんて、絶対にダメなんだよ!」
     野良犬を装っていた毬衣も、精一杯声を上げれば。
     エンジェリックボイスに想いを乗せる陽桜。
    「ここに居る人だけじゃないよ、ここに来れなかった人も、みーんな孤影おにーちゃんが戻ってきてくれるの、待ってるんだから! だから、戻ってきてください!」
     御凛とエステルも、彼が守った大切な存在を見ながらも続ける。
    「周防さんの事が大事で闇堕ちまで選んだんでしょうが。ならそんなとこでダークネスに支配されてないでさっさと元に戻ってきなさいよ!」
    「まったく雛ちゃん救うのは立派だけど早く戻ってこないと毎日雛ちゃんが灰になったりしおれたりいじけたり、宥める私が大変なの、だから早くもどるです~」
     そろそろ慰めてあげる時間なのです~と。
     それでも躊躇無く刃や影をふるう孤影へと言い放つのは、桐香と着ぐるみ着ない者同士の咲哉。
    「孤影、お前が闇堕ちしてまで守りたかったもの……今は心の中で泣いているわ。いつまでそっちにいるつもりなの?雛の涙を止めたかったら……早くこっちに戻ってきなさい!」 
    「何時まで女を待たせとく気だ? さっさと帰って来い、この色男が。俺達でハッピーエンドにしてやるからな。覚悟して待ってろよ!」
     そして先日探偵倶楽部に入ったばかりのレイラも。
    「貴方がどれだけ周りの人に愛されているかはとても知っています。私もそんな貴方とこれから仲良くなって行きたい……だから、戻ってきて!」
     これから沢山一緒に過ごせる様に、彼へと声を。
    「孤影さん……傍目から見ていて、孤影さんがいないとツッコミが足りないっす、あのクラブ。このままクラブがただの着ぐるみの森になってもいいって言うんすか!?」
     レミもライドキャリバーと盾になりながら、切実なツッコミ不足を訴える。
     孤影は探偵倶楽部の、大切で貴重なツッコミ。いてくれないと、困るんです。
     そして駆けつけたのは【文月探偵倶楽部】の皆だけでなく。
    「風見ー! さっさと戻って来いよー! お前の彼女、周防が心配してっぜー!」
    「このバ風見……! 自分の恋人泣かすなよ。これ以上彼女を泣かす様なら、俺が貰っちまうぞ……!」
    「孤影先輩、お誕生日がすぎちゃいましたね。帰ったら倶楽部の皆さんとパーティやり直しましょう」
     津比呂や彼方やえるむなど、【猟奇倶楽部】の面々も沢山。
     誕生日パーティーの提案や、女の子泣かした鉄拳制裁の予告なんかもしつつも。
     そして。
    「あいつの事、許せないって思ってるのは分かってる」
     周防さんが傷つけられたからでしょう? と。ぐっとナイフを握る絢矢。
    「僕、あの場にいたのに何もできなかったよ。悔しくて死にたくなった。だから、これ以上悔しい思いしたくない」
     孤影が闇堕ちしなければ――自分が堕ちていただろう。
     そして借りを作った彼へと、絢矢は続けた。
    「風見くんをずっと待ってる、一番大切な人の名前を呼んであげて」
     そしてクラブだけでなく、教室の席にも連れ戻して。
     これからもっと話をして、一緒に、卒業したいから。
    「沢山の声、聞こえてるでしょ……戻ってきなよ、風見!」
     クラスメイトの煉も、闇の中の『孤影』へと呼びかける。

    「……!」
     刹那バッと噴き出す、鮮やかな血の赤。
     日本刀を光剣で防いだと思った瞬間、死角から放たれた素早い斬撃。 
    「さすが、番号持ちは手強いわ」
     アリスはふっと息を吐いた後、再び得物を握り締めると。
    「悪くないけど、私の生命にはまだ届かないわね」
     お返しに、白き影の牙を解き放って。
     一平の強烈なロケット噴射の殴打が、続けて叩きつけられる。
    「まぁ他の子で間に合ってると思うけど、1つだけ。ぶちのめす、なんて考えてるアンタは十分こっち側よ。戻ってらっしゃいな」
     無口で表情を変えない孤影。
     だが。
    「存外かなりの割合で意識あるんでない?」
    「…………」
     因縁の相手を、『殺す』のではなく『ぶちのめす』。
     そんな彼は、殺人鬼にしては真人間すぎるから。
    「仲間を助けるために闇堕ちしたなら、最後まで闇に抗ってみなさい。闇に輝く月のように。闇は私たちが祓うから、諦めないで!」
    「お前が守った恋人の元へと戻ってやれ。そしてあの殺人鬼に自身の力でリベンジを果たせ。狐影として生きる意志を示して見せろ」
     言葉を投げ続ける灼滅者達。
     そしてアリスと香は、彼に己を重ねる。
     それは忌むべき記憶だったり、仮装の未来であったり。
    (「私が堕ちた時、誰か助けに来てくれるかしら。一人は当てがあるけど」)
    (「仲間を、自分にとって大切な者を守るためとなれば、わからない」)
     灼滅者である以上、他人事ではない心の闇。
     でも、それでも。
    「聞けよ、この声をお前の仲間が呼ぶ声を。戻るべき場所、居場所はこんなにも暖かい。とっとと戻って来い」
     彼の纏う夜霧と殺気を裂帛の気合と共にぶち抜かんと、拳を振り上げる香。
    「仲間の声、聞こえるだろ? 部室でも教室でも、皆お前の帰りを待ってるんだぜ。雛だって心配してる」
    「誰、探してるの? 孤影にとって大事なのは、七兎を倒すこと? それとも、雛を守り抜くこと? 間違えちゃダメだよ。本当に大事なのはどっちなのか、思い出して!」
    「孤影先輩、ボクは全部一人でやらなくて良いと思うのです。先輩は闇墜ちしてでも倒したい人がいるようですが……それは、恋人の雛先輩も望んでいる事なのです?」
     直哉やミカエラ、月夜の言った名に、表情こそ変えぬも微かに反応を示した孤影に。
    「一緒に戦う仲間が待ってるですよ。一緒に居たいと願う人も待ってるです」
     だから、みんなで帰るですよ、と。思いを込めた癒しの矢を番える月夜。
    「こんなに強く戻ってきてほしいと思ってる人がいるんすよ。絶対に戻って来るっす!」
     少しでも皆の声が届くよう、菜々も雷を帯びた拳で孤影の顎を狙い澄まして。
     そして、助けたいという気持ちも勿論だが、ひたすら力を求め闘う今の彼がどれ程強いのか。
    「えと……貴方の気持ち、分かります」
     護りたかったのですよね、と同じ様に力を求めていた過去の自分と重ねつつも。
     ウルルは闇色のオーラの鎧で身を包み、彼へと挑む。
     分かっちゃうからこそ。
    「だからそれは私が砕きます、その闇は私の光で打ち払っちゃいます、えへ。本当の強さを思い出して、護りたかった人の元に戻るのですよ!」
     自分が救われたものと似た黒き光を放つ。その光で、人を救えると信じて。
    「く……!」
     これまで灼滅者達の攻撃を受け流し、強烈な斬撃を返してきた孤影だが。
     回復手が豊富な灼滅者を斬り伏せるには至らず、また根気強い攻撃による衝撃が蓄積されてきていて。
    「まぁまぁお兄さん、お帰りには早すぎますよっ、と!」
    「!」
     引き手から突くかの如き空手のスタイルで繰り出された一平の拳の連打を浴び、大きく上体を揺らした。
     そして、何度斬りつけられても。
    「闇なんて振り払っちまえ、暗ければ俺達が照らしてやるさ。影には光、光には影が必要なんだ」
     それでも尚諦めないクロネコレッドの腕が、ぐっと友の襟元を引き寄せた瞬間。
    「だからな、さっさと戻って来やがれ孤影!」
    「……ッ!!」
     強い思いを乗せ、その身体を思い切り地に叩きつける。
     そして直哉の着ぐるみダイナミックの直撃を受けたダークネスは。
    「……く……う、私は……?」
     紅月照る夜の闇に消え、灼滅されたのだった。

    ●mon tresor
    「お帰りなさいとちょっと遅いお誕生日会をやるですよー!」
    「遅くなったけど、ハッピーバースディ!」
    「……大分遅くなったけど、誕生日おめでと」
     還ってきた孤影に駆け寄る、クラブの仲間や級友達。
    「良かったっすね」
    「さて目が覚めたなら、ファミレスでお茶会しない?」
     そんな様子に菜々とアリスも瞳を細め、そう提案するも。
     でも――その前に。
     エステルに背中を押されて。
    「こえいぃぃ……! 寂しかった、寂しかったわ!」
     抑えていた感情が溢れ、衝動のままに孤影に抱き付き号泣する雛。
    「貴方が居なくなってしまうんじゃって、凄く怖かったの! でも、こうして戻ってきてくれて……本当に良かった」
    「すぐ帰るって言っただろ?」
     雛を受け止め、よしよししてあげながらも。
    「……ただいま、ヒナ」
     孤影はそう、大切な人へと紡いで。
    「ジュテム、孤影……おかえりなさい」
     雛もぎゅっと、与えられた彼の体温に身を任せる。
     そして。
    「……何だか着ぐるみが沢山デバガメしてるんだけど」
     録音したり、じっと見守っている着ぐるみな面々に、早速孤影はツッこむも。
    「これはあれだ、リア充税ってもんだろう?」
    「えっとね、黒狼の着ぐるみ、準備してるんだよ。孤影の嫌がる顔、もっともっと見たくってさ!」
    「えっ、黒狼の着ぐるみ……!?」
    「もふもふで囲んで、胴上げしちゃおっ」
     そして、わっと再び皆が駆け寄る中。
    「おかえりだぜ、孤影」
     ふわもこに揉みくちゃにされながらも孤影は、腕の中の雛や直哉に瞳を細める。
     改めて――ただいま、と。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 17/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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