【回帰ディストピア】それは産声のように

    作者:中川沙智

    ●昏き沈黙
     その緑は光を受け付けない。
     壁一面に苔が生えている。石畳を進んだ先に掘られた洞窟は地下の奥深くに続いていて、太陽も月も顔を覗かせることはない。
     光はなくとも、息づいている。朽ちてはいない。主を護るべく作られた緑の迷宮は、素朴であどけないもの。
     そこは静寂が支配する地下迷路だった。細く長い道、それが入り組んでいるとなれば、気を配らねば来た場所さえもわからなくなる。
     加えて来訪者を警戒し巡回する屍人達。見知らぬ者と判れば即座に刃を向けるだろう。
     それは主が望んだこと。
     二度と光を浴びずとも、静かに在ることが出来ればそれでいい。
     ただ、静かに。
     静かに。
     
    ●それははじまりの、
    「コルベインの水晶城にいたノーライフキング達を覚えてる?」
     その一部が動き出したみたいよと、小鳥居・鞠花(高校生エクスブレイン・dn0083)が告げる。彼らはコルベインの所持していたアンデッドの一部を利用して迷宮を作り始めているらしい。
    「ノーライフキングの迷宮は、時間をかけるほど強力になっていくわ。早急な対応が必要になるのよ」
     特に水晶城のノーライフキング達は、コルベインの遺産であるアンデッドを使用する事が出来るらしい。放置すれば、第二第三のコルベインとなりえるかもしれないのだ。
    「皆にはその迷宮のうちのひとつについて、探索にあたって欲しいの」
     よろしくね――そう言いながら鞠花は資料のページを捲る。写真に広がっているのは葉が生い茂る暗い庭だ。
    「元々は趣に満ちた日本庭園だったらしいの。けれど持ち主に手放されて時が過ぎて……今や半ば廃墟みたいなところみたい。その奥に、洞窟があることがわかったのよ」
     そこがノーライフキングの生み出した迷宮の入口だ。もとい、その洞窟を利用して迷宮と化したと言ったほうが正しいだろうか。
     人の手が入らなくなって久しい庭園、手入れされなくなって久しい石畳を踏み歩けば、そのまま洞窟の入口へと誘われる。元々は地下倉庫か何かだったとのことで、足場自体はしっかりしているようだ。
    「ただ洞窟の道幅はかなり狭いわ。そう、三人が並んで歩けるかどうかってところね。それと地下倉庫だっただけあって暗いし、視界はあまり良くないから注意してね」
     更にアンデッド達が行く手を遮る。さほど手強いというわけではないが、バトルオーラ同様のサイキックを使用する。
     ノーライフキングの配下アンデッド達は、合計で十六。何処に出てくるかまではわからなかったと、鞠花は悔しそうに歯噛みする。
    「もちろん迷宮には更なる危険がある可能性があるわ。注意して行動して頂戴」
     だが迷宮を突破し王座の間まで到着すれば、迷宮の主であるノーライフキングと対決することが出来る。
    「とはいえまずは迷宮を踏破することに全力を尽くして欲しいの。迷宮を突破した段階で余力が残っているとは限らない。それ以上戦えないほど判断したのなら、無理をしないで帰還することを勧めるわ」
     相手はノーライフキング。決して片手間で倒せるほど甘い相手ではない。
     こういう時は慎重なくらいでちょうどいいのよと鞠花は灼滅者達に視線を流す。
     けれど皆なら大丈夫だと信じている。
     ――そう、鞠花の瞳が雄弁に物語る。
    「行ってらっしゃい、頼んだわよ!」


    参加者
    科戸・日方(高校生自転車乗り・d00353)
    鬼無・かえで(風華星霜・d00744)
    棲天・チセ(ハルニレ・d01450)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    結城・桐人(静かなる律動・d03367)
    ジンジャー・ノックス(十戒・d11800)
    原坂・将平(ガントレット・d12232)
    奏森・あさひ(騒ぐ陽光・d13355)

    ■リプレイ

    ●侵入
     洞窟の入口には地下へと続く階段が見える。敷き詰められた石畳はそのまま階段へ、更には迷宮へと続いているらしい。
     原坂・将平(ガントレット・d12232)が腰に装着したLEDライトは前方足元を照らす。
     加えて科戸・日方(高校生自転車乗り・d00353)が紐で腰に繋いだライトを洞窟内、出来るだけ遠くへと向ける。注意深く観察する。
     だが闇は予想以上に深い。洞窟を覆うように伸びている木々の葉が、風で擦れる音がする。
     朽ちた日本庭園、そしてそれに繋がる迷路。 それはそれで風情があって嫌いではない。
     だがそれがダークネスの根城となれば話は別だ。結城・桐人(静かなる律動・d03367)は目を眇める。
    「……踏み荒らさせてもらおう」
     迷いなく、石畳に一歩を刻む。
     事前情報で道幅が狭い事は灼滅者達も理解していたため、あらかじめ隊列を組んで突入する事にした。
     進行方向へ注意を払う前列、マッピングや目印等で探索についての情報収集を行う中列、そして背後を警戒する後列だ。
     瞳の海色に浮かぶのは飽くなき探究心。腰のベルトに照明を固定している二夕月・海月(くらげ娘・d01805)と日方、将平が前列を担う。
     片や一筋、アリアドネの赤い糸を展開していたのは、中列に位置するジンジャー・ノックス(十戒・d11800)だ。前列のメンバーを追い洞窟に向かう彼女の足に、仲間達にしか見えない糸が伸びている。始点は勿論、入口だ。
     進む先に糸が見えたなら戻って来てしまったという事になるし、仮に撤退する時は糸を辿れば迷宮を出る事が出来る。
     ただでさえ入り組んでいると明言されている地下迷宮。ジンジャーの身に万一の事態が発生しない限り、かなり有効な策と言える。
    「迷宮探索は夢と浪漫溢れるよね! お宝発見とか!」
     探索用のマーキング用品を抱える奏森・あさひ(騒ぐ陽光・d13355)は、今回の迷宮はそんな浪漫はなさそうだねと眉を下げる。
     けれど爛々と輝く瞳は嘘をつかない。真剣に、だが楽しく戦うのが彼女のスタイルだ。同じような心持で隣に立つ棲天・チセ(ハルニレ・d01450)はマッピング用の紙や筆記用具、目印用カラースプレー持参で準備も万端。胸が高鳴るのは本当だけれど、気を引き締めて攻略しよう。
     ジンジャー、あさひ、チセが中列だ。チセが傍らの霊犬・狼犬のシキテを一撫ですると、シキテは粛々と後ろに下がる。
     桐人と鬼無・かえで(風華星霜・d00744)、シキテが後列。持参品のチェックも終わり、隊列も整った。
     これから始まるのは決して迷路遊びではないと誰もが知っている。
    「とにかくまずは突破……しないと。話はそれからだね」
     かえでの淡々とした声音に、灼滅者達は表情を引き締める。
    「コルベインの生き残りなら後始末しないとな。死に損ないを黙らせにいくかい」
     将平の呟きに頷き、ジンジャーは茶色の瞳を細める。
    「水晶城から姿を消したかと思えば、こんな所でせっせと積木遊びってわけね。そろそろお片づけの時間よ」
     そう、お片づけ。
     この探索及び討伐は、不死王戦争の後始末でもある。

    ●探索
     洞窟に響くのは自分たちの足音と息遣い、衣擦れの音。時折交わされる会話と、マッピングのペンが紙の上を走る音。
     静かだ。
    「ゲームとかに出てくるダンジョンってこんな感じなんかな」
     日方はライトの出力を強める。闇に呑まれそうだ。
     陽が射さない所というだけで、闇そのものにとても近く思えた。肌をじっとりと撫でるぬるい空気と粟立つ感覚が、ゲームではなく現実だと知らしめる。
     それぞれが上下左右、隅々まで注意を払い歩を進める。
     今のところ罠の類は見つかっていない。石畳の床に苔の生えた壁は、シンプルなだけに仕掛けがあればすぐに発見出来そうだ。
     速度としては極めて順調といえる。明確に役割分担を図った成果だ。
     分かれ道で丁寧に地図作りを行うのは中列の三人娘。
     前列や後列の面々はその間警戒にあたる。現状敵の気配は、ない。
     苔の上にも目立つ色をと蛍光色のスプレーを選び、チセが壁や床に印をつける。あさひが懐中電灯を向けた方眼紙にジンジャーが書き込みを加える。
     地図の上にマーカーが表示されるのは、チセが展開するスーパーGPSの効果だ。地図における現在位置と、自分達のいる位置は一致している。
    「大丈夫やね」
     シキテの勘も頼りにしとるよと後ろの相棒へ小声で告げると、霊犬が応えて首肯する。
     あさひの方位磁針は何故か正常に機能しなかったが、ジンジャーの足に繋がる赤い糸とほぼ正確にマッピングされた地図で、現状探索に影響はない。
    (「このダンジョンの奥で一体何を望むのか。静寂の後に何が生まれるのか」)
     視線を通路の奥へ流し、慎重に安全を確保する将平は迷宮の主に思いを馳せる。
     だが向こうの思惑は後回し、今は進むだけだ。同様に進路を探っていた同列の日方と情報共有し、それを更に仲間達に伝える。常時意思疎通を心がけている顔ぶれが複数あった事もあり、認識の齟齬は起きていない。
     より奥へ続きそうな道へと、足を踏み入れる。
    「――!」
     耳を澄ませていた海月が何かの気配に気づいた。彼女が手を翳し注意を促すと、仲間達も耳をそばだてる。
     進行方向、ライトの先。ゆらりと揺れる影がある。自分達以外でこの場に存在するモノに生命が宿っているわけがない――アンデッドだ。
     四体。思考の隅で桐人が数える。
     恐らくこちらの明かりに気づいたのだろう。だがそれは覚悟の上。
     すぐに増援が来ないであろう事を確認し、海月は戦場内の音を遮断する。警戒するに越した事はない。不用意に敵を惹き付けていい事などないのだから。
    「さぁ、はじめよっか。レッツ、プレイ!」
     あさひがスレイヤーカードの封印解除を宣言する声が響く。
     それが開戦の合図となった。
     先手必勝、短期決戦を目指し攻撃は迅速に。それが自分達の傷を減らし迷宮を突破する糸口となる。
     敵に先んじたのは、いち早く敵の姿を捉えていた海月だ。指先に迸らせた光輪を放出し、アンデッドの一体を深く穿つ。その隙に足元に回り込んだ日方が刃を突きつけ、確実にとどめを刺す。
     再び命を落としたアンデッドは膝から崩れると、そのまま白骨化し地に落ちる。
     アンデッド達とて黙ってはいない。死を纏う暗黒を力と成し、そのまま拳を振り上げる。
    「ちっ!」
     将平は歯を食いしばり攻撃を受け止めた。勢いを殺し連打を凌ぐ。そのまま身を反転し、ガトリングガンから大量の炎の雨を連射する。
     アンデッドに火の粉が舞ったのを目印にして、シスターたるジンジャーは聖なる霊光を揮う。顎下へ直撃を食らったアンデッドが崩れ落ちるのを用心深く確認してから、次の敵へと視線を移す。
     既にそこには決着がつきかけた戦局があった。
     桐人が幾重もの風の刃を放てば、すかさずかなでが嵐を引き継ぎ雷を轟かせる。再び屍と化したアンデッドの隣では、シキテの斬魔の一刀をまともに食らった別の個体がよろめいている。その隙をあさひは見過ごさず、ギターをかき鳴らし音波でアンデッドの傷を広げていく。そこにチセが膨大な魔力を流し込み、アンデッドは膨れ上がり破裂した。
     残るのは再び、静寂。そして灼滅者達の姿だ。
     エクスブレインが説明していたように、さほど手強いというわけではない。
     だがグループ行動をしている点を考えても、統率がとれている事は間違いない。コルベインの所持していたアンデッドの一部を利用しているというだけの事はある。
    「……油断は大敵、だな」
     桐人の言葉に、異を唱える者はいない。

    ●彷徨
     どれくらい歩き続けただろうか。
     天井がさほど低くないとはいえ、やはり暗く道幅が狭い道を延々と歩く事は精神的にも堪える。マッピングのおかげで確実に前進していると思えるのが唯一の救いだ。
     真っ暗という事は意外に圧迫感があると感じていた海月の懸念は事実その通りだった。緊張感を保つには役に立つが、それだけ集中力を維持し続けるという事は神経をすり減らす事と同義だ。随時ヒールサイキックで傷は癒すものの、気力まで回復するには至らない。
     そんな時、仲間の疲労状態を見越したかえでが声を上げる。
    「灼滅者たるもの持久戦も制してナンボだよ」
     かえでが取り出したのはドリンクバーで作成した栄養ドリンク入りのペットボトル。人数分を配って回る。チセには一応シキテの分も、と二本手渡された。
     味は元気はつらつ系、炭酸で飲みやすいよと彼女が言うとおりの喉越しだ。
     根底の緊張は解かないものの、一息つく事が出来た安心感が灼滅者たちに広がる。回復はともかく休息を考えに入れていなかった灼滅者達にとって、かえでの心遣いは文字通り身に染み渡る。チセも持参したチョコを配り、甘味で疲労回復と笑みを浮かべる。
     僅かな間の休憩。周囲への警戒は解かないが、この時間があればこそ頭も回るようになる。先へ進む原動力となる。
     急ぎはしない。だが歩みは止めない。灼滅者達は迷宮の更に奥へと足を向ける。
    「……!」
     後列のシキテが立ち止まった事にチセが気づく。継いで警戒を怠らなかった桐人が長身を翻し、殲術道具を構える。
    「後ろから来るぞ!」
    「前にもだ!!」
     日方がライトの先を示す。互いに言葉少なに数を報告する。四体と四体、同数だ。予想していた通りの、挟撃。
     速やかに背中を預け攻撃に備える。
    「同数の敵に挟み撃ちを受けた時は前方から――」
    「え? 後ろからと違うの?」
     認識の齟齬による微かな間。だが表情で互いに察したのか、各々が予定していた方向へと目を向ける。照明の数を鑑みてもそのほうがいいだろう。アンデッド達とまだ接敵していなかった事が幸運した。
     この場に来たのは半数、と将平が数える。エクスブレインから示されていた、十六という屍人の数。
    (「そりゃあ、何処かで誰かが十六人消えたってことだ」)
     眠らせてやる。終わらせてやる。恨み事なら引き受けてやる。
     決意を秘め、将平が爆炎を迸らせる。その焔が灯火となり倒すべき敵を指し示す。
    「クー、行くぞ」
     海月の肩辺りに浮いているくらげの形の影業が、声に応えるかのように炎を纏うアンデッドに向かう。その姿形に似合わぬ豪胆さで強烈に殴りつけると、敵は跡形もなく粉砕された。
     死んだらアンデッドのように、こんな風になるのかと日方は思わずにいられない。
    「弔いもできなくてゴメンな」
     どれだけ月日を経ても戦う事も力を振るう事も怖い。それは事実だ。
     けれど向かうからには全力を尽くそう。血や泥に塗れても、前を向いて立ち続けてやる――その気概を震えそうになる腕に籠め、高速の動きでアンデッドに肉薄し刃を振るった。頭蓋や筋肉を斬る手応えすら、受け止めてみせる。
    「それじゃ、ボクのリズムで応えよう♪」
     足踏みをして鼓動とステップを合わせる。あさひは分裂させた小光輪を飛ばし、日方に癒しと護りを同時に与える。その傍らでジンジャーは裁きの光条を放ち、しっかりと止めを刺すのも忘れない。
     背後、後列側でも同様に戦いが展開される。チセが魔術によって雷を齎せば、暗い洞窟内でも稲光で鮮烈にアンデッドを貫く姿が浮かび上がる。シキテも続いて六文銭を連射する。
     拳を振り上げてくるアンデッドにもかえでは臆しない。
    「拳で殴りあうのは僕も得意なんだよっ」
     だからこそ攻撃の筋がわかる。かえでは軽やかに攻撃を躱し懐に滑り込む。おもむろに掴みかかると力づくで投げ、叩き落とした。
     単純に換算しても序盤の二倍の数の敵。自然と激しい戦いとなった。
     だが手厚い回復と的確な集中攻撃により着実に敵の数を減らしていく。討ち漏らす事などない。
     集中攻撃を重ね幾体も地に沈め、残るは一体。巨大な異形と化した片腕で、渾身の一撃で存在そのものを破壊する。
     手応えを感じた桐人の声に悲哀が滲む。
    「……今度こそ、安らかに眠って、くれ」
     いつかまた産声を上げられるように。
     その願いは、届いただろうか。

    ●狭間
     奥へ奥へ進んだ先。終着点が見えようとしている。
    「これで最後だ!!」
     闇を払うようにライトで照らされた先、将平のガトリングガンがアンデッドに無数の銃創を刻む。そのまま床へと崩れ、朽ち果てた。
     誰もが顔を見合わせて頷く。カウントしていたから間違いない。この迷宮に存在するアンデッド十六体すべてを倒したのだ。
    「屍さん達は眠る時間。企みは終わりにして」
     おやすみね。チセが祈るように囁く。狼犬の毛並みがそっと寄り添う気配がして、チセはシキテの頭に優しく手を添える。
     地図上では確かに最深部に到達しているように思える。と、前列のメンバーが足を止めた。
    「何ていうか……逆にわかりやすいな」
     日方が呟くのも無理はない。幾重にも織られた、御簾のような枝と蔦と葉。厳重に護られているその奥に何があるのか、想像するに余りある。
     だが日方が指先で触れると、風にそよぐカーテンの如く速やかに道が開ける。
     一際大きい扉が目に入る。蔦に覆われ、葉が茂り、苔が蔓延る。あどけなくもあり、それゆえに残酷なまでの拒絶を言い渡すような佇まいだ。
     扉の向こうが王座の間。全員が確信を深める。
     もはや残っているアンデッドはいない。ノーライフキングへの戦いに向け、最後の準備に取り掛かる。
     心霊手術に備え幾分多めのヒールサイキックを準備していたのだ、灼滅者達に躊躇はない。先に八体ものアンデッドと一度に対峙した際に、あさひがエンジェリックボイスを破壊している。
     現時点で大きな傷を負っているのは前列で攻撃を引き受け続けていた将平と、攻撃に専念していた日方だ。
     それでも誰一人欠けずこの場に辿り着いた事実は誇っていいものだろう。
     傷の深さを鑑み、かえでが集気法を。ジンジャーがソーサルガーダーを選ぶ。弾けるような乾いた音が響いたかと思えば、癒しきれなかった負傷が見る見るうちに塞がっていく。
     勢いをつけて立ち上がった将平と日方の姿に、誰もが安堵の息を吐く。全員でノーライフキングへと立ち向かう事が、出来る。
    (「冬眠した熊を起こしに行くみたいだ」)
     熊の方がよっぽど可愛いけどなと海月は心の中で独白する。あいつらは悪さはしないし。そう思考に浮かんで、視線を伏せる。
    「そろそろ、行こう」
     言葉少なに桐人が促す。否と言う仲間は、いない。
    「こうして隊列を組んで歩いたら、確かにゲームみたいよね」
     序盤の日方の言葉を反芻しているらしいジンジャーが、淑女めかして嘯いた。
    「……だったら宝箱の一つでも用意してほしいものだわ」

     玉座の間の扉に手を添えた、その刹那。
     まるで産声のように。
     ――幼い叫びが、耳に届いた。
     

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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