崩壊へのカコフォニー

    作者:東城エリ

    「よろしくお願いしますわね……?」
     とある私立高校に転校してきた女性が、保健室へとやってきた。
     艶やかな波打つ黒髪を背へと細い指で流し、微笑む。
    「ああ、君が転校生の……」
     男性の養護教諭は、転校生が挨拶に来たのだろうと単純に思った。
     転校生の美しい容貌に惹かれるものを感じながら、出入口へと近づく。
    「挨拶かな。それとも身体の具合でも悪いのかい」
    「転校初日で緊張していたせいか、とても身体がだるく感じますの」
     潤んだ翠瞳で見つめ、頼りなげに壁に寄りかかる。
    「少し休んでいくかい?」
    「ええ、そうさせて頂こうかしら」
     女性は保健室の扉を後ろ手で閉めると、男性養護教諭と距離を詰める。
    「でも、ゆっくりするには私には貴方はお邪魔ですわ。ごめんなさいね?」
     華が綻ぶような笑みを浮かべ、ガンナイフの切っ先を頸へと滑らせた。
     男性何も口にすることなく、驚きの表情だけを浮かべている。
    「良かったですわ、服が汚れなくて」
     ずるりと首がずれ、胴と頸が離れる。
     同時に緑色のリノリウムの床へと血が降り注ぐ。
    「だって、制服可愛らしいでしょう?」
     そう言って女性が振り向くと、自らの配下達に問いかけた。サラと同様この学校の制服に身を包んでいる。
    「ええ。サラ様に良くお似合いです」
    「ここからだと運動部の活動がよく見えるわね。運動能力の高い子が私の好みなの。連れてきてくれるかしら。沢山見繕って来てね」
     サラと呼ばれた女性は血の香り漂う中、ベッドに寝そべり、運動場に面した方の出入口を指で示した。
    「かしこまりました」
     鍛えられた筋肉と無駄な肉のついていない身体を持った者達を、籠絡して侍らせたい。
     沢山集めれば、嫌がる者もいるだろう。
     その時は見せしめに殺せばいい。
     彼らは簡単に壊れるのだから。
     配下達は、サラの好みは理解している。
     だから、自分は待つだけで良かった。
     少し退屈であったが。
    「本当に退屈だわ……早く連れてきて」
     
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は一同を見やり、息を整えると話を始める。
    「ヴァンパイア学園の方々が動き出したようです」
     ヴァンパイア達の学園である朱雀門高校の生徒達が、全国各地の高校に転校し、その学校を支配下に置こうとしているようなのです。
     ヴァンパイアは強大なダークネス。
     武蔵坂学園が、朱雀門高校と完全に敵対するのは、現時点では自殺行為でしょう。
     ですが、このまま、多くの学校がヴァンパイアに支配される事を見過ごす事は出来ません。
     転校先の学校でのトラブルという程度なら、戦争に発展する事はおそらくないでしょう。
     今回の依頼は、敵対しヴァンパイア達を撃退することではなく、学校支配の目論みを防ぐ事。
     ですから、戦わずに学校支配の意志を無くさせる事が出来たなら、それが最良の結果となるでしょう。
     
    「では、学校支配を目論むヴァンパイアの情報を説明します」
     とある私立高校に転校したのは、各務サラという名の女ヴァンパイアです。
     各務は、保健室に居座り、配下達に運動能力の高い生徒を多く集めさせ、言うことを聞かない者には死を与えることで、その行為を見ていた者達を心理的に追い詰め、容易く堕落するよう仕向けています。
     各務がいる保健室は、校舎内に繋がる出入口、運動場側に通じる出入口の2カ所があります。
     運動部が活動する場所は、運動場、体育館、テニス場、野外バスケット場、野外プール、柔道場、ダンスホールの7カ所。
     この中から配下の者達が調達しています。
     調達作戦を邪魔する存在があると気づけば、各務は襲ってくるでしょう。
     そうなると、戦闘は避けられません。
     その場合には、『灼滅者である皆さん方を倒したとしても、作戦の継続が難しい』事を理解させるか、或いは、『このまま戦えば、自分が倒されるかもしれない可能性』を感じさせる事ができれば、各務は撤退を選択するでしょう。
     各務に学校に居座っても利になることがないと判断させることが出来れば良いのです。
     できるだけヴァンパイアである各務を灼滅しないように、事件の解決をお願いします。
     授業時間は、他の生徒と同様に授業を受けてみたり、どこかで時間をつぶしていたりと様々です。
     調達している時間帯は、放課後のクラブ活動時間です。
     その間、各務は保健室で連れてくる者を待っています。
     配下の者は常に2体付いています。
     調達を担当している配下は4体で、2体1組で行動しています。
     配下眷属の合計数は6体で、全員が男性。肌の色は青白く、転校してきた学校の制服を着ています。各務を心酔しているようです。それほど強くはありません。
     各務に付いている2体は、日本刀と影業に似たサイキックを。
     調達担当している4体は、咎人の大鎌と影業に似たサイキックを使用します。
     各務自身は、ダンピールのサイキックと、ガンナイフと鋼糸のサイキックを使用します。
     保健室にて各務と戦闘になった場合には、各務と各務に付いている2体の配下と対峙することになります。
     外で調達作業している4体は、戦闘が始まってから3ターン経過後に到着し、戦闘に加わります。
     保健室は、ベッドが5つ並んでおり、それが部屋の1/3を占めています。
     壁には薬の入った棚や書棚、デスクが並び、診察用の椅子と応接セットがあります。
     運動場側の壁は全て窓が並び、その端に出入口。
     調達妨害されていると気づかれた場合には、保健室の外となります。その場合には、外で調達作業をしている配下眷属が2ターン経過後に合流となります。

     皆さんに向かって頂く学校は高等学校ですから、高校生以外の方が赴く場合は、エイティーンを使用されると良いでしょう。
     学外の制服を着ていたとしても、クラブ交流があるでしょうから、そう不自然に思われないと思います。
     
    「皆さんなら、うまく立ち回ってくださると信じています。よろしくお願いします」
     そう言って、姫子は皆を見送った。


    参加者
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    榎本・哲(狂い星・d01221)
    色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)
    若宮・想希(希望を想う・d01722)
    金井・修李(無差別改造魔・d03041)
    鬼丸・静女(文学少女志望・d05773)
    東堂・秋五(君と見た夕焼け・d10836)
    安綱・切丸(天下五剣・d14173)

    ■リプレイ

    ●生徒として
    「エイティーン使うと雰囲気変わるから、しんせーん」
     十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)は、変身した自身のすらりとした姿を確かめる様に触れる。制服は武蔵坂のものだ。
     扱い慣れた仕草でポケットに、愛用の懐中時計を仕舞い込む。
    (「学校を乗っ取って、ヴァンパイアも一体何を考えているんだろう…?」)
     金井・修李(無差別改造魔・d03041)と東堂・秋五(君と見た夕焼け・d10836)は、やや不可解な表情を浮かべ、互いの顔を見合わせる。
     同じ様な事を考えて居たらしい。
    「これ、ボクの携帯電話の電話番号だよ」
    「順番に交換していけば良いな。念の為に、授業中に行動する者用にと、この学校の制服とジャージを複数用意しておいた。必要なら使ってくれ」
     安綱・切丸(天下五剣・d14173)が、手元の携帯電話を操作しながら、片方の手に持った大きめのバッグを軽く掲げる。
    「ジャージ! スカートは無理! 絶対無理、無理だもん!」
     普段ワークギアを身につけている修李にとって、スカートはハードルが高かった。ありがたくジャージに着替えに行く。
     放課後までは、各自で情報を集めることになっていた。
    「動く場所が被らないようにしようぜ」
     榎本・哲(狂い星・d01221)が、長身を猫のように背をやや丸めて言う。
    「そうね」
     色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)は、僅かに乱れた漆黒の髪を指で整え、頷く。
    「じゃぁ、俺は保健室から調達する場所までの距離と位置関係等を調べて、スムーズに移動出来るようにしておくよ」
     眼鏡の奥で金瞳を微かに細めて、若宮・想希(希望を想う・d01722)が口にする。
    「手書きで地図を描きながら、地形を把握するよ!」
    「屋上から7箇所含めた学校地理の確認だな」
    「7箇所の施設の内部も見ておきたいっすね」
    「放課後まで無事に過ごせるように気をつけて」
     放課後には2班に分かれて行動するが、それまでは各自で動く。
     根っこが一般人的な鬼丸・静女(文学少女志望・d05773)は、かなりびくびくもの。
     胸元に抱えている本をぎゅっと抱きしめた。

    ●校内にて
     女ヴァンパイアの各務サラが学校支配を企んでいる学校の校門を抜けると、各自散って行動を開始する。クラブの校外交流という名目上、武蔵坂の制服か、この高校のジャージに着替えて居るので、制服の場合はクラブ交流かと見慣れている生徒には関心を引く事もなく、ジャージ姿の生徒にはサボっているのだなと、これも見慣れた風景であったので、注意深い生徒でない限り、怪しまれる事もない。
     今は授業中のせいか、校内は静かだ。聞こえてくるのは、教師達の声と黒板にチョークで文字を書き付ける音。ノートに黒板の内容を書き写したり、教科書のページを捲る音。季節柄、窓は心地良い風を取り入れる為に、開け放たれている。単位制であるためか、受講していない授業には校庭で時間を潰す生徒の姿もあった。運動場では体育の授業で運動をする生徒達の姿が見えた。

     艶やかな光沢を放つ廊下を歩く。
    (「今の俺たちの実力では敵対できない、か…。灼滅出来ないのは、悔しいけど。相手に力をつけさせない事は確かに重要だし」)
     想希は保健室へと向かいながら、この校内にいるであろう彼女達のことを思う。
     敷地内は広く、建物もよく似た構造をしているが、運動場に面してある方に廊下と教室があり、注意を向けられやすくなっている。戦闘になったら、気をつけなければならない。
    (「その間に…力を付ければいいだけだから」)
     いつか、実力が追いつく様になれば、と自分に言い聞かせる。
     焦がれる様に。

     ありふれた景色に見えるというのに、少しずつ蝕まれ進行する病の症状のよう。
     そんな事をふと思い乍ら緋頼は、新聞クラブとして情報収集に努める。
     それらしく手にはカメラを持ち、写真に収めていく。この学校のどこに興味を惹かれて乗っ取ろうとしたのだろう。
    「普通科とスポーツ科があるせいなのでしょうか」
     赤瞳に宿るのは、強い意志。
    (「わたしは吸血鬼と戦うために生まれた。だから、絶対に悪事は阻止します」)
     存在意義に恥じないように。

     哲は僅かに眉を寄せ、藍瞳を細めた。
     普段は軽薄そうに見える顔も、真面目な雰囲気を漂わせる。
     周囲を用心深く窺いながら、フェンスに取り囲まれた野外バスケット場を外側から眺めれば、コートの中で、生徒達が授業で試合をしていた。
     男子ばかりだ。体育館の方は、女子ばかりなのかもしれない。男女別で体育の授業を受ける所もある。
    (「なんだかなぁ…。ヴァンパイアって、気に食わねぇんだよな」)
     口にするつもりの無いが、ただそう思う。
    (「血のせいかね。いつもよりか力が入っちまう」)
     勿論、宿敵であるヴァンパイアだからというのもあるだろう。変に力が入らない様にリラックスしなければと思い直す。けれど、この気持ちはただ単純なものではないと哲は無意識に理解していた。

     秋五は職員室へと向かう。入口から覗けば、授業中である為、殆どの教師は出払っている様だ。誰か居ないかと全体を見渡せば、窓際にある水槽で泳ぐ金魚に餌を与えている男性がいた。プラチナチケットを使い、転校生の写真を見せて貰った。一度に大人数が転校してきた事に不審に思う事も無かったらしい。生徒達のデータ元となる書類はまだキャビネットには収納されては居なかったらしく、思っていたよりもすんなりと出てきた。
    (「一体何が狙いなんだろう。矢張り全員をヴァンパイアに堕としてしまうのか? …にしても、籠絡して侍らせたいって…。淫魔みたいな事を考えるやつだなぁ」)
     嗜好がわかりやすいのは良いが、綺麗なら良いのかもしれないなと考えた。
     顔写真をまとめて携帯電話のカメラ機能で撮影して、仲間に一斉送信しておく。
    「ありがとうございました」
     礼を言い、職員室を出る。独特の静けさに秋五は、肩をすくめる。
    (「それにしても、なんか…妙な感じがするな。普通の学校っていうの」)
     かなり特殊な部類に入るだろう武蔵坂学園の雰囲気と比べて、しみじみと思う。
     ごく普通の学校の雰囲気に浸り、束の間の懐かしさを噛みしめた。

     静女は、養護教諭の姿を運動場側の保健室の窓から見やる。
     室内で養護教諭は体調の悪い生徒の相手をしていて、仕事を中断させる事は難しそうだった。
     ベッド周りを取り囲む白いカーテンも幾つか使用されていて、養護教諭を保健室から外れるようにするのは、残念ながら諦めざるを得なかった。
     放課後になれば、此方へと訪れるだろうサラに刃を向けられる運命から逃がしてあげたかったが、無理に事象を動かせば、他も変化していく可能性を考えて、その場を離れた。
     空いている時間があれば持参した本をベンチに座って、ぱらぱらとページを捲りつつ、何気なく顔を上げては行き交う生徒達の姿を観察しているように見えた。
     けれど、時折漏れる小さな溜息は、集中できていないとわかる。
     心は本には向けられてはおらず、放課後に始まる戦いを思い、気も漫ろだった。
     幾度か遭遇しているけれど、中々慣れることがない。
     慣れてしまったら、それまでの自分が変わってしまうようで、心の隅ではこのままで良いのではないかと思う。
     芯にある自分が揺らぐような、そんな感覚。

     切丸は、教室棟の階段を上がり、屋上へとやってきた。青い空が広がり、開放感に浸るには良い場所だと思う。
     昼になれば、生徒の姿で賑わうのだだろう。ベンチがいくつか並んでいた。
     運動場側へと身を寄せ、順番に建物の位置を確認する。
    (「何でヴァンパイアって、学校に拘るんだろうな?」)
     流行という物でもないだろうし、支配欲でもあるのだろうか。
     多少なりとも無ければ、この学校にも来ていないわけだが、何故その気になったのかは謎だ。
     7箇所の間に人の目を避ける事の出来る場所があれば、そこもチェックしておく。
     探索中の仲間の姿を見つけたりしながら、今回の事を考える。
     学校支配に乗り出してきた相手にお帰り願うのは、賛成だ。どちらかと言えば、必要でないなら殺しはしなくても良いのなら、それに越したことはないと思う方だからだ。
     それに…。
    (「正直女の子相手に刀振るのは気が進まない」)
     敵に甘い積もりは全くないが、どちらかと言えば気分の問題だ。

     生徒達の大半が同じ方向へと向かうから、どこに行くのだろうとついていったら、食堂だった。食欲を刺激する匂いに惹かれたのもあったし、情報収集に最適だと、メニュー表を見上げた。
     様々な学年の混じる食堂は賑やかで、話に夢中になっている者や食事に夢中になっている者など様子は様々だ。
     そんな中を狭霧はチキンサラダの乗った盆を手にして、話しやすそうな生徒近くの席につく。
    「中々美味いっすね」
     サラダをつつきながら、生徒の話に耳を傾ける。時には話かけたり。レモンバジルのドレッシングはさっぱりとしていて、早々に食べ終わった。
     ざわりとした雰囲気に怪訝な表情を浮かべた狭霧は顔をあげる。人が割れるようにして現れたのは、各務サラとその取り巻き達。
     秋五から貰った写真と同じだと、心の中で呟く。
     転校してきて1日目だというのに、引き寄せてしまう素質は、十分に危険だろう。
     狭霧は生徒達に取り囲まれているサラ達の目を盗んで、食堂から離れた。大人しくお帰り頂くべく、網を張る準備をした方が良さそうだった。
     実際に目にした人を引き寄せる魅力は伝わってきたし、一週間もいれば完全に支配完了してしまうだろう。心酔した人間を自分達の方へと引き寄せるのはきっと簡単だろうと、若干苛ついた感情が擡げてくる。
     けれど、そんな状況から逆転して『悪者から学校を解放する』という状況は最高に燃える展開だ。

    ●交錯する思惑
     放課後の時間になる前に、全員が集合すると、出来事を報告し合う。
     A班を狭霧と哲、想希と秋五が、B班は修李と緋頼、切丸と静女と2つの班に分ける。
     サラ達の姿が保健室の窓から見えた。
     授業を素直に受けている訳ではなかったらしく、校内探索して居たときには判明したクラスには姿を見せなかった。
     きっと、どこかで時間を潰していたのだろう。昼時間に食堂に姿を現したのには驚いたが、今は調達を命じられた者達の作業を妨害する事だ。向こう側から見えない場所で姿を隠していると、保健室から調達班の配下が現れ左右に分かれた。探さなければならないと考えて居た分、運が良いと言えた。
     授業中に情報収集に動き、統合された情報は、上手く生かされる事となる。
     互いの瞳を見合わせ頷き合うと、別々に動き始めた後を追いかけた。

     野外プールの方へと向かう調達係の背後から呼び止める。更衣室に通じる通路の前は、片側が壁になっていて、人の目に付きにくいからだ。
     現れた哲達に不審の目を向けるまもなく、戦闘が始まる。速攻で落とす腹積もりだった。各個撃破して確実に数を減らす作戦。
     哲はロケットハンマーで振り抜いて、ロケットスマッシュを繰り出す。狭霧が影業で影喰らいを発動させ、影絵の様に花、蝶が乱れ舞うと鮮やかに切り刻む。眼鏡を外した想希は奉納刀『真木・影打』を赤く染め、紅蓮斬で切り捨てた。マテリアルロッドで殴りつけながら、フォースブレイクを叩き込むと、調達班の1組目はあっけなく崩れ落ちた。
     サラの配下の調達係に苛立ちを感じる。そのせいだろうか、倒れた姿を目にした時、哲は胸がすくような気持ちがし、自然と笑みが浮かんでいた。

     ダンスホールへと向かうもう一つの調達班は、男女比率が良い中から選ぼうというのだろう。淀みない足取りで向かう。建物の周りは木々が多く、遮蔽物となりやすそうだと判断すると、足早に追いつくと呼び止めた。静女がサウンドシャッターで戦場外へと音が聞こえない様にすると同時に始まる。
    「はい! ストップ、ストップ~!」
     修李の人型影『修浬』を操り、影縛りで絡め取る。緋頼はバトルオーラで自身を纏い、力強い閃光百裂拳が繰り出された。切丸は好戦的な表情を浮かべ、自身の闘気を集約させ抗雷撃として打ち込んだ。
     倒れた調達班の2人を見下ろし、次はメインのサラにお帰り頂くだけだと、彼らの身体をそのままにして、保健室へと向かうのだった。

     連絡をし合い合流すると、足早に歩を進める。いつ、サラに気づかれるかわからない分、焦る気持ちはあったが、それを外へと出す事はない。
     今からサラを騙そうというのに、弱みを見せる様な事は出来るはずもない。事が終わる迄は、心に押し込めて置くのだ。
     わざと逃げ出しやすい様にと、校舎内の通路を抜け、保健室へと至る。
     扉を開け放ち、香ってくる血の匂いに、一同は一瞬、眉を寄せる。
    「どなた?」
     やや乱暴な動作だったと思うのだが、サラはそれほど気にはならなかったらしい。ベッドの一つに腰を掛け、首を傾げ問うてくる。
     殲術道具を持っているのだから、敵であると分かっているはずなのだが、緊張感は感じられない。
     配下の2人はサラの前に立つ。ショートカットの細身の女性と引き締まった身体の男性だ。
    「…教えてくれないのね。残念だわ」
    「多分このままだと、君の目的は上手く達成できないんじゃないかな?」
     秋五が、サラのしようとしている事を理解していると暗に示し、達成できない事なのだと諭す。
    「あの子達を倒してしまったと言う事かしら」
    「ええ。俺たちは、あなたをどうこうするつもりはないんです。ただ学校の支配を諦めてほしいだけ」
     サラはかわいそうにと瞼を伏せた。想希はそんなサラの様子に、早々に諦めて欲しいと願いながら、言葉を紡ぐ。
    「一人で支配するのも、改めて配下を用意するのも面倒でしょう?」
    「そうね。優雅に時間を過ごして居たいだけだったのだけれど、上手くいかない物ね」
     ついでに趣味に合う子達を集めたかっただけなのだが、手をつけようとして早々に邪魔されたのでは、やる気も失せるというもの。
    「続けては被害が大きいと思います。双方撤退にしませんか」
    「この子達は弱いから、貴方たちにすぐに倒されてしまうわね。姿形が気に入っているのよ」
     貴方たちから見てどうかしら? と配下の美醜を問いながら、倒されてしまうのは勿体ないと、持って回った言葉で返してきた。
    「次は決着をつけましょう」
     緋頼は淡々とした声音で告げた。
    「次は違う遊びを考えておく事にするわね。楽しみにしてらしてね」
     そういう考え方、好ましいわと軽く頷いた。
     ふわりと羽の様な仕草で、サラは立ち上がると、運動場へと繋がる扉へと向かう。
     姿が消えたのを確認すると、ほっとした空気が流れた。
     強い敵を相手にするのは、気疲れする。
    「用は済んだんだ。さっさと帰ろうぜ」
     気分を変える様な声音で哲に促され、皆は血の香り漂う保健室を後にしたのだった。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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