旧校舎の呪いのノート

    作者:相原あきと

    「内藤、松田、これでおまえらも終わりだ!」
     本校舎の教室に戻った青木が、自身を陰湿にいじめる2人を指差し言い放つ。
    「てめぇ青木、なに偉そうに……」
    「まて松田!……まさか青木、あのノートを使ったんじゃないだろうな?」
     内藤の言葉に松田もビクリと体を硬直させる。
     それは最近噂のノートだった。
     旧校舎に置いてあるという黒いノート。
     そこに名前を書かれた者は死ぬという。
     事実、そのノートに名前を書かれた者が次の日から学校に来なくなり行方不明となっているのだ。今では行方不明者は10人を越えている。
    「お、お前らが悪いんだ。ぼ、僕をいじめるから。書いた、2人の名前を僕は書いてきた。ははは、じゃーな! お前たちの顔を見るのも今日が最後だ!」
     自分のやった事に恐怖してか、涙を溜めたまま青木が言うと、松田と内藤の2人は顔面蒼白になって教室を出て行った。

     東京近郊某市、私立大月学園高等学校。
     この学園は今、たった1冊のノートによって支配されていた。


    「みんな、朱雀門高校……ヴァンパイア学園についての話は知ってる?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
     ヴァンパイア達の学園である朱雀門高校、その生徒たちが各地の高校に転校し学園の支配に乗り出しているらしい。
     彼らの目的は秩序の崩壊、それにより一般人の闇堕ちを誘発する事。
    「もちろん、みんなへの依頼は彼らの陰謀を挫くことなんだけど……ヴァンパイアは強力なダークネスだから、彼らと完全に敵対するのは危険なの!」
     もし戦争にでもなったら自殺行為と言っても良い。
    「だから、みんなはこの陰謀の阻止を……朱雀門の人が知った時に、転校先の学校でトラブルがあったんだ……って思われる感じで処理して欲しいの」
     今回の目的はあくまでヴァンパイアの学園支配を防ぐ事だ。
    「戦わずに学園支配の意志を挫くことができれば一番なんだけど……」
     珠希はそこまで言うと今回の依頼の詳細を説明する。
    「みんなに潜入してもらいたいのは私立大月学園高等学校よ。今、そこは1冊のノートによって誰もが疑心暗鬼と恐怖で支配されているの」
     その学校には本校舎の他に使われていない旧校舎が残っており、その旧校舎のとある教室に黒いノートが置かれているらしい。
     そして、そのノートに名前を書かれた者は翌日行方不明となる。
     すでに事件は10件以上起こっており、学校の生徒たちは呪いのノートに自分の名前が書かれないかと戦々恐々としているらしい。
    「そのノートと噂を広めたのが、ヴァンパイア学園からの転校生、クレール・竜崎・リュンヌ、銀髪の高校2年生」
     クレールは配下の貪り蜘蛛を使って旧校舎でのノートの監視と、名前を書かれた者の殺害を行っている。
    「彼は実働のほとんどを配下に任せて、自身は貴族の特権とばかりに動こうとしないみたい。もちろん、こちらから何かを仕掛けたり、配下たちが失敗した場合は自ら動くんでしょうけど……」
     珠希は一応と念押ししてクレールの戦闘時の情報を伝えてくる。
     クレールはダンピールに似たサイキックを使ってくるが、それ以外にバトルオーラとサイキックソードに似たサイキックも使ってくるらしい。
     配下の貪り蜘蛛達はどれも鋼糸に似たサイキックを使い、捨て身の攻撃特化で、さらに1人ずつ集中攻撃してくると言う。
    「戦闘になっても、『灼滅者達を倒しても作戦は継続できない』と思わせるか、『このまま戦えば自分が倒されるだろう』と感じさせれば、クレールは撤退するわ」
     珠希はそこまで言うと言葉を一度切り。
    「気をつけて、もう一度言うけど現時点でヴァンパイア達と戦争になるのは自殺行為なの、だからヴァンパイアを灼滅しないで依頼を解決して。大丈夫、みんなならできると私は信じているわ!」


    参加者
    伊舟城・征士郎(銀修羅・d00458)
    神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)
    古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)
    フィクト・ブラッドレイ(猟犬殺し・d02411)
    成瀬・まこと(アズライト・d12390)
    叢花・天音(孤独の花・d12803)
    篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)
    ボレアス・シュナイダー(蒼の北風・d17291)

    ■リプレイ


     真っ赤に染まった空に金髪をなびかせ、その少女は高台に立ち暮れゆく太陽を眺める。
    「ふん、忌々しき闇の住人が蠢いているようだな。だが蒼刃の魔王であるこの私の領域では好きにさせん。その高慢なプライドを引き裂いてくれよう」
     中二病とデモノイドに寄生された少女、篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)がキッとつぶやく。
     とりあえず降りて来い、下からそう一花に呼びかけるのはボレアス・シュナイダー(蒼の北風・d17291)だ。一花はカッコ良く決めれた事に満足したのか素直に電柱を降りてくる。
    「それにしても呪いのノートか。実際に犠牲者も出ているわけだし、たちの悪いイタズラじゃ済ませられないね」
    「私もそう思います。それにヴァンパイア組織についても……」
     ボレアスに同意した伊舟城・征士郎(銀修羅・d00458)が、少し悩むように続きを口にする。
    「学校で暗躍行動を行うとは……もしや武蔵坂学園の存在に気付いているのでしょうか?」
     慎重に対応しなければ、と言う征士郎に対し横を歩く不機嫌そうな表情のフィクト・ブラッドレイ(猟犬殺し・d02411)が、厄介なのはそれだけではない、と。
    「灼滅してはならないとはな……」
     塵も残さぬ殲滅戦がブラッドレイ一族――フィクトの戦い方だったが、今回は誰もが灼滅をしない方向でと意志統一がなされていた。規律を重視するフィクトとしては従わざるをえない。
     日も落ちて辺りが薄暗くなる頃、一行は誰もいない公園へと辿りついた。隅に壁打ち用の壁もあり、そこを背にして戦えばターゲットを守りながら戦う事も易いと思われる。
     征士郎がターゲットを連れてくる班に連絡を入れ、ふと見れば一花が壁をよじ登っていた。そして――。
    「フッ、いかに夜の帳が姿を隠そうとも、私の力を持ってすればカルマは捉えられる!」
     腕を組んでポーズをつける一花に、今度は誰もツッコミを入れなかった。


     東京近郊某市、私立大月学園高等学校。
     その学校の廊下を4人の生徒が歩いていた。1人は男子制服、残りは女生徒の制服だ。
    「まったく、ただでさえ闇堕ちが鼠算並だというのに……面倒な」
     苛立たしげに呟くのは男子制服に身を包む古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)だ。普段から少年のように振る舞っているだけあり着こなし方もこなれている。
     そうは思わないかい?と話を振るが、視線に入るのは小柄な少女。
    「天音嬢……」
    「ちゃ、ちゃんとエイティーンを使ってるんですよ!?」
     ついぞ残念に思ってしまうが、泣きそうな顔で怒ってくる叢花・天音(孤独の花・d12803)を見ると、それ以上誰も何も言えなかった。
    「あの……2人?」
     一方、しっかりエイティーンな成瀬・まこと(アズライト・d12390)が廊下の先、教室から連れだって出て来た2人組の学生を指差す。
     事前に聞いていた特徴も含め、たぶん間違いない。
    「松田くんと内藤くんだよね?」
     神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)の呼びかけに二人が立ち止まる。
    「旧校舎のノートの件……実は一つだけ助かる方法に心当たりがあるの。私達について来てもらえないかな?」
    「なっ!?」
    「本当かよ!?」
     動揺する2人、だがすぐにお互い「はっ、あんなの信じてねーし」「ばっかじゃねーの?」と強がって帰ろうとする。
     そこに立ち塞がったのはけいだ。
    「黙って付いてこい」
     王者の如き風がけいから吹きつけ、コクコクと何度も首を縦にふる松田と内藤。
     2人を引き連れるとそのまま学校を出て、征士郎から連絡があった公園へと向かう。
     だが、せっかくの移動時間なので――。
    「いじめてなければこんなに怯える必要はなかったのが解るか?」
    「え、ええ」
    「親切にしていれば恨みを買わないどころか他人からの評価も上がるんだ」
    「は、はい」
     けいによるお説教が永遠続いたのは余談である。


     ぴくり、鼻をならしてボレアスが低く呟く。
    「来たようだね」
     灼滅者8人は壁を背にし、気絶させた学生2人を守るよう半円型に陣取っていた。
     暗がりから集まってくる5匹の大きな蜘蛛達。
    「夜明けを、告げよう」
     けいの手に現れる殲術道具、他の仲間達も一斉にカードを解放する。
     蜘蛛達はどの獲物からしとめるか楽しげに相談しているかのように、顎と牙をギチギチと鳴らすが……。
     ドゥンッ!
     そんな蜘蛛の1体に砲弾が穿たれる。
     砲塔と化した腕を構えたままのボレアス、その周囲に青い北風が舞う。
    「さぁ、始めよう」
     蜘蛛達の瞳が一斉に警戒色に染まり殺気を帯びる、だが闇夜を銀閃が走り蜘蛛の1匹を捕縛する。巻き付いた鋼糸に足の数本を切断されドウと倒れる1匹。
    「……今」
     まことがボソリと呟くと同時、駆け抜けるように紫が飛び出す。
     まとう雰囲気は先ほどまでののんびり屋の表情からガラリと代わり、冷たい仕事モードにスイッチされている。
    「その身、貫きます……!」
     倒れた蜘蛛の目前まで迫り、手にした槍を捻るように。
     穂先は蜘蛛の口内から背中を貫き、その会心の一撃をくらった蜘蛛はぴくぴくと――。
    「天音に任せて下さい!」
     チャンスと割り込んだ天音が閃光纏う拳を百と叩きこむ!
    「たいしたことないですね」
     ふふん、と余裕。まずは1匹。
     だが、蜘蛛達もただやられているわけではない。
     尻から粘着性の糸を放出、狙われたのは紅蓮撃で別の蜘蛛を攻撃しようとしていた白髪のダンピール、けいだ。
    「くっ!?」
     回避不能のタイミングに大鎌で受けるしかないと覚悟を決めるが、横合いから飛び出したまことが庇い、けいは大事に至らなかった。
    「来ると……思った」
     傷つきながらも淡々と言うまことに。
    「無理のない範囲でね? まこと嬢」
     けいは心配しつつも感謝するのだった。

     蝙蝠状の翼がフィクトの背に広がる。それは影で出来た虚構の翼、されどその翼は鋭い刃となって現実の蜘蛛を切り裂く。
     蜘蛛達は影の翼に切り裂かれながらも、攻撃対象を執拗に1人に絞っていた。フィクトに切り裂かれた蜘蛛も仲間にならってまことを集中的に狙う。
     フィクトはそれを把握しわずかに拳に力が入る……が、それで冷静さを失いはしない、影の翼を再び羽ばたかせる。
     ――シュババッ!
     まことに向かって数本の蜘蛛糸が射出される。
    「無駄だ」
     ガッシとオーラを纏った拳で糸を掴んでまことを庇ったのは一花だった。
    「蒼刃の魔王たる私の前で、そう何度も仲間を傷付けられると思うな」
     グッと一花は糸を握り潰すと、近場の蜘蛛に向かって宣言する。
    「蜘蛛如きが魔王に牙を剥くなど笑止。身の程を弁えるがいい……!」
     蜘蛛達が一瞬、一花の方を向くが……すぐにまことに視線を戻す。
    「………………」

     征士郎のビハインドと紫の霊犬久遠がターゲットとなった学生2人を守るが、灼滅者達の厚い防御陣形によって蜘蛛達の攻撃はそこまで届かない。半数以上がディフェンダーという決断のおかげだろう。
    「4匹目です!」
     征士郎の暗赤色のオーラが光の尾を引き蜘蛛の腹に叩きこまれ、そのまま蜘蛛は消滅して行く。
    「……ボクは……負けない」
     言葉少なく冷静に呟くまことだが、言葉とは裏腹にもう立っているのもやっとの状況に追い込まれていた。
     敵が集中攻撃を続けてくる事は最初から解っていた。そして殺傷ダメージの蓄積は回復されない……もし、誰かが狙われ始めた場合、庇いあう事だけでなく蜘蛛を怒らせたりしてターゲットを変える必要があったのかもしれない。
    「う……」
     蜘蛛の牙がまことを斬り裂き少女が戦闘不能となる。
     まことを倒した最後の蜘蛛がギチギチと顎と牙を鳴らすが、その不愉快な音はすぐに止む事となる。
     いつの間にか蜘蛛の背後に立つ紫。
    「ふふ……油断大敵です、いきますよ?」
     悪夢の名を冠する闇色の杖から、魔力の奔流が蜘蛛の体内へと何度も叩きこまれ……やがて最後の1匹も消滅していった。


     松田と内藤の2人を家へと帰し、傷を癒すために十数分の休憩を取る8人。
     いつの間にか空の月は隠れ、辺りが一段と暗くなる。
     そして……薄い暗闇の中に、その男は立っていた。
     美形な秀才という形容詞をそのまま絵にしたような銀髪の男子高校生。
    「気配が消えたので来てみれば……灼滅者が俺の眷属を倒したのか?」
     銀髪の高校生、黒幕のヴァンパイアが状況を確認するように視線を動かしながら聞く。
    「ええ、噂を聞きつけ都市伝説の類かと思い灼滅にやって来たのですが……あなたはどちら様でしょうか?」
    「俺か、俺はクレール、クレール・竜崎・リュンヌ。眷属を使って人間達の闇落ちを促していたのだが……邪魔が入るとは思わなかったな」
     ズザっと一歩前に出て一花がビシリとクレールと指差し。
    「つまり黒幕か! だが、手足たる蜘蛛は始末したぞ。これで悪いことはもうできないねっ!」
     一花の回答に情報を与えたくない何名かが息を飲む。
    「ふむ、まるで最初から俺が黒幕だったと知っていたような口ぶりだな?」
    「むろん! 蒼刃の魔王たる私に知らぬ事などないのだ!」
     中二病な一花の回答に、思わず数名がそのままそっと息を吐く。
    「……それで、お前達は何者だ」
     クレールの視線が一花から離れて他のメンバーを見回す。
     そこに返事をしたのはフィクトだった。
    「私達は見ての通り灼滅者の集団だ。小規模ながら一般人に被害が出ている事件を解決して回っている」
    「なるほど……だが、俺も趣味でやっている事では無いのでね、止めろと言われて止める理由は無い」
     挑発するように話すクレールは、灼滅者など眼中に無いと言外に言っているようだった。
    「それは……また事件を起こすという事だね」
     当たり前の事をなぜ聞く? と不思議そうな顔をするクレールに、そのままボレアスが続けて言葉を発する。
    「君たち朱雀門に恨みはないけど、君らの企みは許容できない。もし再び事件を起こすのならば俺らは何度でも邪魔しにくるよ」
    「………………」
     ボレアスの啖呵に黙るクレール。
     だが、次の言葉に8人は一気に冷や汗をかく事になる。
    「……俺が朱雀門の所属と知っている、か」
     クレールの瞳が冷徹に光る。
     即座に判断し、話を変えようとしたのはけいだ。
    「今回の目的は蜘蛛の灼滅だからね、キミと無理に戦うつもりはないよ。もっとも、キミがやりたいと言うなら別だけど」
     丁寧に退場を促すように手でジェスチャーする。
     だが、クレールの反応は想像と違っていた。
    「そうなのか」
     素で驚くように言うクレール。
     8人はその反応に逆にお互い目を見合わせてしまう。蜘蛛を倒して計画を邪魔されたクレールは、どちらかと言えば戦闘を仕掛けてくる、そう思っていたのだ。
    「そちらが戦う気が無いなら教えてやろう。俺には今、眷属がいない。あと5匹いるがそいつらはとある学校に置いてきているからな」
     校内の蜘蛛について初めて聞いた風を装う灼滅者達。
    「誰かが闇落ちでもすれば俺1人だ、余裕で勝てるかもしれないぞ?」
     一拍の間、答えない灼滅者達を無言の肯定とし話を進める。
    「ふ、そうか、千載一遇のチャンスだと言うのに……」
     少し前屈みになったのかクレールの銀髪が顔にかかり、表情が影に隠れる。
    「そうですね……でも、見逃してあげますよ?」
     上から目線で天音が言う。
    「それにしてもどんな計画だったか知りませんが、私達みたいな格下を相手に失敗なんて恥ずかしくないんですか?」
     天音がここぞとばかりに強気に出る。
    「ふふふっ、貴方の仲間に知られたらなんて言われちゃうんでしょうね」
     それはクレールに嘘の報告をするよう仕向けさせるための挑発。
    「報告……か」
     表情の見えぬままクレールがつぶやく。
     さらに天音をボレアスが援護する。
    「クレールと言ったかな? 君は俺らの事を知る必要はないし、知ろうとすべきじゃない」
    「………………」
     ボレアスは続ける。
    「今回の件も上手い言い訳を考えた方が良さそうだね。見知らぬ組織に邪魔されて失敗しましたじゃ面目が立たないだろ?」
     十分だろう。ボレアスも天音もアイコンタクトだけで頷きあう。
     だが、この時、クレールの事を冷静に分析できていた者はどれだけいただろうか。
    「まずい……かも」
     自分にしか聞こえないほど小さな声で、まことがつぶやく。
     まことと同じように空気が変わりつつある事をフィクトも肌で理解していた。『ブラッドレイの猟犬殺し』であると言う自信が、乱れそうになる感情を冷静にさせる。
    「久遠?」
     足下にすり寄り、急に震え出す久遠を慌てて撫でてやる紫。
     そして完全に空気が張りつめ、クレールの纏う雰囲気も変わっている事に全員気がつく。
    「帰ってくれるの……ですよね?」
     あくまで冷静に、慎重に、征士郎が聞く。
    「もちろん」
     征士郎の質問に頷き、そしてクレールが顔を上げる。
     銀髪が揺れ、斜に隠れていた表情が明らかになる。
     それは――蔑み。
    「ただ、あまりに知恵の無い家畜達に、ダークネスの貴族たる俺が、少しだけためになる話をしてやる」
     クレールはそう言うと腕を組む。
    「まず、俺の計画は別に破綻していない。眷属が5匹も残っていれば十分続けられる。今日生き残った2人はノートがデマだったと吹聴するだろうが……なに、昼間にでも殺せばさらにノートの恐怖は広がる」
     蜘蛛を全滅させなかった時点で噂の拡散は再び起こせるという事だ。
     もちろん、自ら手を下す事を好まないクレールは、眷族が全て消えた場合は素直に計画続行を諦めたのだが……それを親切に教えるほど優しくは無い。
    「じゃ、じゃあ、やっぱり計画を続けるの?」
     中二病を忘れて一花が言う。
     クレールは首を横に振る。
    「頭の悪いオチこぼれ達なら、目先の目的に釣られて計画を続行しただろう……だが、その結果どうなる? 万全の体勢で今度こそ計画を邪魔しにお前達は来るだろう」
     違うか? 小規模の灼滅者達。と笑いながらクレールは言う。
    「優先するべきは、計画を邪魔したイレギュラーが現れたという情報、それを伝えに戻ることだ」
     ごくり、誰かが唾を飲む音がやけに大きく聞こえた。
    「もちろん、学校支配に向かった者の中にも、能力だけを認められた頭の悪い者や、性格の破綻している者もいるが……」
     少なくとも自分は違う。
    「さて、少しは勉強になったか? 俺はお前達のことを報告に帰らせてもらう。もちろん、計画はその後、別の場所で続けるつもりだ。眷属も残っていることだしな」
     口の端を持ち上げるように嘲笑するクレール。
    「最後に言っておこう。今度から興味本位でダークネスの眷属にちょっかいを出さないことだ。それじゃあな、『学生ばかり』の灼滅者組織ども」

     クレールは計画を中止して去っていった。
     もう、件の学校でこれ以上被害が出ることはないだろう。
     依頼は成功したのだ。
     月が雲間から顔を出し、公園に佇む8人を照らす。
     しかし、灼滅者達の顔が晴れる事は……――。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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