真実新聞

    作者:江戸川壱号

    「なぁ、今日の新聞見たか?」
    「見た見た。傑作だったよなー!」
    「まっさかB組の斉藤がさー、あんなスカしたツラして水虫とかマジウケる」
    「ユミコが三股してたんだって?」
    「最悪だよねぇ」
    「えー、あたしは別の意味で驚いたなー。あいつなら五股も六股もしてそーじゃん」
     この学校における最近の朝の恒例は、昇降口付近で配られている校内新聞を読みその内容について語り合うこと。
     校内新聞といえば普通、無味乾燥であったり堅苦しかったりするものだが、この学校は違う。
     校内新聞に載っているのは、ほぼ全てが生徒のゴシップ記事なのだ。
     些細なものから重大なものまで様々だが、そのどれもが本人にとっては隠しておきたかった秘密だった。
     被害に遭っていない生徒は気楽に楽しみ、秘密を曝かれた生徒を笑いからかう。
     だが被害に遭った者はたまったものではない。
     それがどんな些細なものであれ、隠しておきたいものを曝かれるのは精神的に重大なダメージを負う。
    「くそっ、ふざけんなよ!」
     憤った生徒の一人が新聞を破り捨てるが、大量に刷られたそれは何枚もあり、一度曝かれた秘密を隠すことはもうできない。
     それどころか、新聞に反対する者は翌日の新聞の『ネタ』になることが殆ど。
    「次は私かもしれない……。もうやだ、やだよ……」
     生徒達を歪め、恐怖させる校内新聞の最後に、謎の記者は記す。
    「明日の『真実新聞』もお楽しみに!」


     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まった灼滅者達に軽く一礼すると、説明を始めた。
    「ヴァンパイアの学園、朱雀門高校が動き出したようです」
     彼らは各地の学校へ転校し、その学校の風紀や秩序を乱すことで支配下におこうとしているようだ。
     このままでは多くの学校がヴァンパイアに支配され、勢力を拡大させることになるだろう。
     それを見過ごすことは出来ない、が……。
    「ヴァンパイアは強力なダークネスです。今の武蔵坂学園が彼の組織と完全に敵対するのは自殺行為と言えるでしょう」
     もし全面戦争ということになれば、武蔵坂学園の敗北は必至。
     故に、どうにか転校先での学校内のトラブルという形で収めてもらいたい、というのだ。
     彼らの企みを阻止しても、小規模な校内のトラブルということになれば、戦争という事態は避けられるだろうから、と。
     つまり今回の目的は、ヴァンパイアの灼滅ではない。
     ヴァンパイアを灼滅せず、彼らによる学園支配を防ぐことが目的となる。
     戦わずに学校支配を諦めさせることが出来れば、それが一番良い。
    「皆さんに向かっていただくのは、とある郊外の高校です」
     郊外にある分やや規模が大きく、三十人程度のクラスが各学年八クラスで、生徒数は約八百人。
     制服は姫子が用意してあるので、それを着てしまえば紛れるのは難しくないと思われた。
     外見が高校生に見えない者は、ESPのエイティーンを用意する必要はあるだろう。
     この学校に転校してきたヴァンパイアの名は、ロラン・ショー。
     自由と真実の申し子を自称しており、生徒達の秘密を曝く校内新聞を使って学校を密かに支配しようとしている。
     彼は表向き気さくで話し上手の聞き上手らしく、その話術と整った容姿を使って生徒達から噂や秘め事を聞き取ったり、眷属に秘密を探らせて新聞を書いているようだ。
     今のところ物理的な被害は出ていないが、このままでは生徒達の中から闇に堕ちる者も出てくるだろう。場合によっては、命さえも危険になる。
     己の『真実を曝く行為』を邪魔する者があると気付けば、ロランはそれを排除しようと襲いかかってくるはずだ。
     戦闘は避けられないが、『灼滅者達を倒しても作戦は継続できない』と思わせるか、『このまま戦えば、自分が倒されるだろう』と思わせることが出来れば、撤退するという。
     ロランの動きは以下の通りだ。

     朝八時頃、普通に登校。
     配下に置かせた新聞を見て、生徒達が大騒ぎしている姿を見て楽しむ。
     授業中は普通に授業を受け、昼休みは日替わりで色々な生徒と昼食を楽しみ情報収集。
     放課後になると四階角にある新聞部の部室にこもって記事の執筆。
     真夜中の内に新聞を昇降口に置くよう配下に命じ、帰宅。
     なお自宅の場所は不明であり、尾行も現状は不可能と思われる為、接触可能なのは校内かその近辺に限られる。

    「新聞部の部員は全て強化一般人として、ロランの配下になっています」
     その為、記者が誰かという秘密が漏れる心配はないらしい。
     戦闘になれば、放課後ならばこの新聞部員のうち三名が。
     それ以外の時間帯ならば、眷属の蝙蝠が四体現れる。

     灼滅者達が辿りつくのは、放課後になったばかりの十五時頃。
     力押しでいくのなら、そのまま新聞部の部室へ向かえばいいだろう。
     もし別の手段を選ぶのなら――灼滅者達の作戦次第となる。
    「ヴァンパイアは、強力なダークネスです。不利を悟らせるまで追い詰めるだけでも大変でしょうし、色々な意味で難しい依頼だと思いますが、どうかよろしくお願いします」
     今度は深く頭を下げ、姫子は灼滅者達を送り出した。


    参加者
    蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)
    村上・忍(龍眼の忍び・d01475)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    藤堂・丞(弦操舞踏・d03660)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    汐屋・小夜子(枯柳の幽霊少女・d09548)
    倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392)

    ■リプレイ


     ホームルームの終了を告げる鐘の音を合図に校内に紛れ込んだ灼滅者達は、情報収集の為それぞれに散っていく。
     生徒に紛れ込む者が多い中、真っ直ぐに職員室へ向かうのは文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)だ。
    「部費関連で部員数を確認したいんで、名簿お借りしてもいいですか?」
     生徒会の関係者を装った咲哉の優等生然とした態度とプラチナチケットの効果もあって、教師はすんなりと信じて幾つかのファイルを手渡してくれた。
     だが個人情報保護の為に顔写真や住所等の入ったものは持ち出し不可だという。
     仕方なくそちらは諦めると、作業用の場所として視聴覚室の鍵を借り、丁寧に頭を下げてから職員室を後にする。
     これで拠点と基本となる情報は確保できた。
     視聴覚室に入った咲哉は、早速借りてきた名簿から新聞部員の情報を探しだすと、拠点確保の報告と共に仲間達へメールを送っていく。
    「こんなふざけた新聞、俺達で潰してやるさ。覚悟しとけよ?」
     新聞部の部室がある方向へ視線を向けた咲哉の顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

     咲哉からの情報のお陰で、仲間達も新聞部を避けやすくなっていた。
     顔は分からなかったが、氏名や学年にクラスが分かれば警戒もし易く、特定も可能になってくる。
    「や、こんにちは! ちょっとね、お願いがあるんだ。聞いてもらっても、いい……かな?」
     ラブフェロモンを使って男子生徒から話を聞き出そうとするのは、蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)。
     快活そうな表情から転じて不安げに上目遣いでお願いすれば、男子生徒は頬を赤らめながら大きく頷いてくれる。
     真実新聞についての話を聞き出した後は、狙われたら怖いからと口止めすることも忘れない。
    「あっ、そこの美人さん達、初めまして。ちょっとお話したいんですが……」
     ナンパのように女子生徒に声を掛けていくのはハルトヴィヒ・バウムガルテン(聖征の鎗・d04843)だ。
     どことなく気品を感じさせる大人びた容姿とスカイブルーの髪にワインレッドの瞳という目立つ色彩は、とても潜入捜査に来たようには思えない。
     声をかけられた生徒も新聞のことはナンパの口実だと思ったようで、さほど身のある話は聞けなかったけれども、警戒することなく話してくれた。
     逆に村上・忍(龍眼の忍び・d01475)は、目立つ金の髪を黒に染めて事に当たっている。
     新聞の被害にあった生徒の姉という設定で話を聞いて回る為だ。
    「あの子、この頃部屋に閉じ籠ったまま新聞の事をずっと……。ご存知でしたら教えて頂けませんか?」
     途方に暮れたような顔には憂いがあり、思わず手を差し伸べたくなる風情。
     殆どの男子生徒は、周囲を気にして声を潜めながらも同情と幾つかの情報を忍へ差し出してくれた。
     闇纏いを使って姿を隠し、校内の調査を進めるのは藤堂・丞(弦操舞踏・d03660)。
     学校に到着した時点で授業は全て終了しており、新聞部の部室に向かう頃には既に人の気配があった為、部室への潜入は断念した。
     放課後はロランが篭もっているし、真夜中の内に配下に新聞を運ばせていることを考えると、夜間も無闇に近づくのは危険だろう。
     原稿や取材メモを手に入れることはできなかったが、代わりに校内で真実新聞のバックナンバーを手に入れたことで良しとして、あとは噂話を集めるべく、新聞部を避けながら校内を密かに歩き回るのだった。


     遠慮の無い噂話や愚痴を求めて女子トイレに身を潜めたのは、汐屋・小夜子(枯柳の幽霊少女・d09548)である。
     旅人の外套を使い人目を避けてトイレの個室に篭もった小夜子は、洋式便座の蓋の上で三角座りをし、注意深く人の会話に耳を傾けていた。
     殆どは他愛ないお喋りだったが、ひとつふたつ気になる話を聞くことができた。
     同じように口さがない噂話を求めて、真実新聞に書かれたゴシップを積極的に楽しんでいる女子集団に紛れ混んだのは、明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)と倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392)の二人。
     女子生徒達は新聞の内容だけでなく、勝手な憶測も交えて更に話を大きくしていた。
    (「悲しいけど、人間こーゆー他人を嘲う話ってスキなのよねぇ。人の不幸は蜜の味、ってヤツ?」)
     常に身につけている白衣がないことに落ち着かなさを感じながら、瑞穂は『アタシは嫌いだけど』と胸中で付け足す。
     瑞穂と紫苑は何も人の悪口を聞く為にここに居るのではない。
     紫苑はテレパスで同時に表層思考を探っていたし、瑞穂はタイミングを見極めていた。
    「そーいや、真実新聞って新聞部の面々が一枚噛んでる、ってゆー噂があるらしいわよ~? アタシはよく知らないけどぉ?」
     さりげなくその言葉を紛れ混ませる為の、だ。
     他人の不幸やゴシップが大好きな彼女達は、新しい餌に見事に食いついた。
    「あ、そうか。新聞部だもんねー。一番可能性ありそう」
    「ロラン様いるとこだっけ。ホントだったらアタシあばかれたーい!」
    「そいや、三股バラされたユミコ、ロランにくっついて回ってたよね」
    「三股のくせに、ロラン様にまで手ぇ出そうとかマジあいつハイエナじゃね?」
     紫苑もまたそんな彼女らにひっそりと疑問の形で言葉を投げ入れる。
    「そういえば真実新聞っていつから始まったのかなぁ。そんなに長い歴史じゃないわよね」
    「いつだっけ?」
    「ロランが来たぐらいだった気がするんだけど、違ったかしら?」
     自分で投げた問いに、紫苑が自分で予想を投げるが女子生徒達は気にした風もなく頷いた。
    「そう言われると、そうだったかもー」
     ロランの話題で盛り上がっていたところに挟まれた疑問だ。
     彼女らは予想通りの答えを返してくれた。
     その後も瑞穂と紫苑は、そつなく合わせて笑い追従しているフリで、怪しまれない程度にロランと真実新聞の話を出して、その関連をイメージ付けていく。
     バベルの鎖がある以上ロランの噂は広がりにくいだろうが、この話を直接耳にした者の記憶から完全に消え去るわけではないと信じて、二人は地道な作業を繰り返していった。


     翌朝。
     昇降口付近で待ち合わせを装う灼滅者達が固唾を飲んで見守っているのは、すり替えを行った偽真実新聞……もとい、咲哉命名の『真・真実新聞』の反応と影響である。
     昨夜、視聴覚室に集まった灼滅者達がまず行ったのは、情報の共有と統合。
     新聞部の主立った情報は智が、被害者の情報は女子の分をハルトヴィヒが集め、男子生徒の分を忍が手に入れてきていた。
     ロランに好意を寄せる女子生徒達がライバルを蹴落とす為に陰口として秘密を暴露していたらしいことを突き止めたのは、女子トイレで零される様々な話を聞いてきた小夜子である。
     瑞穂が聞いていた女子生徒の話がそれを裏付け、紫苑は真実新聞が開始された時期についてを語り、丞の持ってきた真実新聞のバックナンバーがそれを証明する。
     そしてそれらを咲哉が借りてきた名簿と合わせ、ロランが『真実新聞の記者である』と告発する『真・真実新聞』を作り上げたのだ。
     見出しは真実新聞に倣ってゴシップ風に『転校生ロラン、表の顔と裏の顔!』と煽り立ててある。
     中身は確たる証拠はないものの、幾つかの証言や状況から『真実新聞』の記者がロランである可能性が極めて高く、他に該当する生徒はいないだろうと結論していた。
     更には生徒のゴシップを扱う『真実新聞』は、近く学校側からも追求されるだろうと締めくくっている。
     新聞を見た生徒達は、いつも以上に戸惑い、興奮し、騒がしく記事の内容を語り合っているようだった。
     そしてそんな生徒達と周囲を注意深く観察する灼滅者達に、一人の男子生徒が近づいてくる。
     ロランではないが、新聞部員の一人だ。
    「ロラン様から伝言です。『特別に君達のインタビューを受けよう』と」
    「……いい度胸じゃないの」
     一瞬仲間達と顔を見合わせた後で勝ち気に笑ってみせた智は、皆と共に新聞部員の後についていった。


     人目につかない学校の裏庭で、ロラン・ショーは待っていた。
    「やぁやぁ、初めましてかな。勇敢な記者諸君! 君達の記事は読ませてもらったよ。なかなかに興味深いが、いまひとつ根拠が薄いことが残念だね」
     警戒と緊張を纏う灼滅者達を、ロランは芝居がかった仕草で両腕を広げ、にこやかに出迎える。
     情報の通り、ロランは整った容姿の男子生徒だった。
     僅かにウェーブのかかった淡い金の髪に、薄い蒼の目、整ってはいるが愛嬌のある顔とくれば、女子生徒に人気があるのも頷ける。
     勿論そんなものに惑わされる灼滅者達ではない。
     ロランの態度に戸惑いながらも、相手のペースに乗せられまいと口を開いた。
    「真実新聞の記者は貴方だと、認めるのですか?」
    「真実を求める同志に嘘はつかない。そうとも、『真実新聞』の記者は僕だ」
     ハルトヴィヒの問いに返るのは肯定。
     だが同志という言葉に智が眉を顰め、小夜子が僅かに嫌悪の表情を浮かべる。
    「人のこと好き勝手書いといて、自分は安全な場所から高みの見物なんて悪趣味なアンタと一緒にしないでほしいね」
    「真実を、追い求める……正義の、味方ごっこは、きっととても楽しい、んでしょう、ね。――反吐がでます」
     智と小夜子の手厳しい言葉にも、ロランは笑みを崩さない。
    「隠された真実に対する怒りこそが、記者の原動力だよ。そして記者とはいつの時代も表ではなく裏から人々をセンドウするものさ」
     果たしてそれは、先導か扇動か。
     ともかくもロランは今すぐ戦闘をしかけてくる様子はなかった。
     どうも新聞という媒体を使い、ロランのやり口をあえてなぞったことで、妙な興味と親近感を与えたらしい。
     真意は謎だが、ならば穏便にお引き取り願うべく紫苑が一歩前に出る。 
    「真実がどうのとかは、まぁいいのよ。だけどああいう新聞はちょっとね。みんなどんよりした顔してるから、私までテンション下がっちゃうじゃない」
    「生徒に悪影響が出ることは、やめてもらいたい」
     丞も続けて要求を告げた。
     武蔵坂の名も朱雀門の名も出さないことは、全員の共通認識。
     その上、全員が灼滅者やダークネスといった事柄もできる限り匂わせないように言葉を選んでいた為に、どうしても要求は弱くなる。
     それでも灼滅者達は最上の結果を目指して言葉を重ねた。
    「あーゆー話が生徒達に広まった以上、それを打ち消すのが至難の技なのは仮にも新聞部使ってあんな新聞出してたアンタには、よーくわかってるんじゃない?」
    「もうお前の信用はガタ落ちだ。自業自得だろ?」
    「私達を消して、計画を続けますか? でも……察するにあなた、趣味なんでしょう? 知的な舞台作家を気取るのが。主犯と割れてしまってはねえ」
     戦闘になる気配があれば止めるつもりだった瑞穂が肩を竦めて苦笑すれば、咲哉も頷いてニヤリと笑ってみせ、忍が追い打ちをかける。
     だが対するロランは、にこやかな表情を崩すどころか、益々楽しそうに一人何度となく頷いていた。
    「そうだね。君達の記事の根拠は弱いけれど、真実に確証は必ずしも必要ではない。そしてこの状況で僕が『真実新聞』を出し続けても、意味はないだろうね」
    「なら……」
     言いかけた丞の言葉を、ロランが遮る。
    「うん。ここは僕が引こう。真実新聞の発行は止める」
     にこやかに告げられた言葉はしかし、灼滅者の心を晴れさせるには足りない。
     新聞の発行をやめても、ヴァンパイアがこの学校に居続けるならば安心はできないのだ。
     計画を進めにくくはなるだろうが、別の手を使ってこないとも限らない。
     ただの生徒として振る舞っている現状、学校から手を引かせる為にはどうすればいいのか……。
     あまりにすんなりと負けを認められ、表情には出さなかったが一瞬の間が開く。
     その間が不自然になる前に反応を作ったのは、この学校の生徒としての振る舞いを最も徹底していた紫苑だった。
    「新聞はやめても、似たようなことはしないでよ? 学校が息苦しいとね、困っちゃうのよ」
     人差し指を立て、冗談めかして念押しする紫苑に、ロランの笑みが深くなる。
    「素晴らしい、さすがは同志。無論、この学校からも手を引こう。それでいんだろう?」
    「……どういう意味です?」
     動揺を笑みの下に隠して真意を問う忍に、ロランは再び大仰に両腕を広げて言った。
    「さぁ、僕にも分からないよ。まだ、ね。僕に分かることは、君達はこの学校の生徒ではないだろう、ということだけさ。君達のような謎と秘密に満ちた人達がいたら、僕が気付かないわけがない」
     灼滅者ということが知られているのか、否か。ロランの言葉からは判断が付かない。
    「だからこそ引こう。ああ、何も言わなくていいよ。君達から情報を取ろうとは思っていない。この学校の生徒が抱く秘密より、君達の真実を曝く方がよっぽど楽しくて有意義だろうからね」
     ロランはまるで踊り出しでもしそうな程に上機嫌で、芝居がかった仕草でその場で一回転。
    「僕は真実と正義の申し子。……これからじっくりと、君達の秘密を曝いて晒してあげることにするよ」
     そして腰の前に手をあてて深く一礼すると、そう宣言して灼滅者達に背を向け歩き出した。
     あまりに一方的な様にしばし呆気にとられていた灼滅者達だったが、ヴァンパイアの背を見て我に返る。
    「……どうする?」
    「引っ掛かるけど、追っても意味はないんじゃない?」
     咲哉の問いに、「うーん」と唸ってから返したのは瑞穂だ。
     目的はヴァンパイアの灼滅ではなく、この学園を彼らの魔の手から守ること。
     ロランの言葉を信じるならば、目的は達成できたことになる。
    「そうですね。あの性格では、ここへ戻ってきてもう一度悪さをするとも思えませんし……」
    「許せない、ですけど、今は……」
     去って行く背中を見つめながらの忍の言葉に、小夜子も頷いた。
     智は少しばかり悔しそうだったが、元々は戦わずに済めば最上と言われていたのだ。
    「いつか決着つける日も来るよね!」
    「ええ。その時を待ちましょう」
     ハルトヴィヒが微笑んで智を元気付ける横で、丞がふと校舎を振り返る。
    「……これで少しは静かになってくれるといいんだけどな」
     ロランが去っても、真実新聞によって起こったことはなくならないけれど。
    「あとは……この学校の人達が立ち直っていくしかないのよね」
     同じように校舎を仰ぎ見た紫苑の呟きには、願いと期待が込められているようにも聞こえた。

    作者:江戸川壱号 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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