【Deadly dungeon】灰色の地下迷宮

    作者:天風あきら

    ●灰色の地下迷宮
     鉄筋コンクリートで作られた建物。周囲は無機質な灰色の壁、地下であるため窓もなし。それでもどこか仄明るいのは何故だろう。
     数匹の鼠が、そこに迷い込んでいた。ちち、ちききと鳴きながら、建物──いや、迷宮内を徘徊する。
     しかし。
     あるもの達は突然、その場から蒸発していた。何かきっかけはあったかもしれないが、仲間の鼠達にそれを理解する頭はなかった。ただ、群れから離れた仲間が三匹死んだ。それだけが、恐慌の原因。
     逃げ惑う鼠の一匹が、剣先に貫かれた。地に突き立てられ、胴を貫通されて。
     一匹だけではない。残る全ての鼠達が、同じように剣の餌食となっていた。
    「偉大なるメーヴェ様の迷宮……」
    「それを汚す者があってはならない」
     剣の先に鼠の死骸をぶら下げて、無機質に言い合う男女。彼らはその死骸を迷宮外に捨て、持ち場へと戻って行った。
     
    ●屍王残党
    「皆、集まったね」
     篠崎・閃(中学生エクスブレイン・dn0021)は、集まった灼滅者達を見回した。
    「不死王戦争の時、ノーライフキング・コルベインの水晶城に、多くのノーライフキングがいたのは覚えているかい?」
     あの戦場にいた者なら、忘れることはないだろう。淡く光る水晶の城、その中で眠りについていた、成長途上のノーライフキング達。
    「その時、戦いの終盤で転移したノーライフキングの一部が、動き出したようなんだ」
     彼らは、コルベインが所持していたアンデッドを利用することが出来るらしい。
    「そして、そのアンデッド達を使って迷宮を作り始めてる。ノーライフキングの迷宮は時間が経てば経つほど強力になっていく……早めの対応が必要だ」
     コルベインの遺産であるアンデッド達を使い、拠点となる迷宮を作る──放置すれば、第二、第三のコルベインとなる可能性もある。
    「皆には、この迷宮の攻略と、『メーヴェ』と名乗るらしいノーライフキングの灼滅を頼みたい」
     閃は腕組みをし、難しい顔をしながら言った。
    「迷宮には人間型のアンデッドが十二体、見回りとして徘徊している。皆、マシンガンや剣で武装しているね。常に二体以上で固まって行動しているみたいだ」
     それぞれに、マシンガンは足止め、剣は毒の追加効果を持っている。
    「迷宮の方だけど、ある地下鉄駅の通路から直結している、閉鎖された地下駐車場の、隅にある扉から迷宮へと繋がっている。繋がってるのは入口だけだから、入口以外の部分を掘ったりしても迷宮には辿り着けないよ」
     内部は外と同じく、灰色のコンクリートで固められた空間が広がっている。通路幅は二人並ぶのには十分、といったところだ。
    「迷い道に入ると何もない部屋とかに出るけど、最終的には広間のような円形の一室が現れるだろう。そこには入った扉とは別に五つの扉が並んでいる。どれか一つがノーライフキング、メーヴェのいる部屋に通じているはずだ」
     つまり残りの四つは外れ……しかしただの『外れ』と考えるのは早計だろう。
    「迷宮にはまだまだ危険が潜んでいるはず……行動には細心の注意を払ってほしい」
     閃は腕組みした姿勢のまま、教室の机に腰掛ける。
    「迷宮を突破して玉座の間まで辿り着けたら、メーヴェと対決することになる。……でも、まずは迷宮攻略が先決だ。その結果、ダークネスと戦うのが難しいくらいに消耗した場合は、無理せず帰還してほしい。ノーライフキングは強力なダークネス……時には撤退する勇気も、生き残るためには必要な要素らしいよ」
     そう言って閃は、腕組みを解いて身を起こした。
    「それじゃあ、皆。無事の帰還を、祈っているよ」


    参加者
    長久手・蛇目(地平のギーク・d00465)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    武野・織姫(桃色織女星・d02912)
    室武士・鋼人(ハンマーアスリート・d03524)
    霧凪・玖韻(刻異・d05318)
    森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    クラーラ・ローン(小夜啼鳥・d12662)

    ■リプレイ

    ●灰色迷宮を沈む
    「ここも空振りか……」
     通路の奥にあった扉が開いた瞬間、マッピングしていた霧凪・玖韻(刻異・d05318)は溜息をついてノートパソコンを操作した。クラーラ・ローン(小夜啼鳥・d12662)と協力しつつ、スーパーGPSを使用しながらのマッピング作業だったが、そもそもノートパソコンで管理できるほど正確なマッピングが出来ていれば、特別な異能力は必要ないだろう。
     扉の中は、がらんどうな小さな部屋だった。
    「今までも通路を行ってはすぐ行き止まり……この迷宮は、より大きな迷宮を作るための起点に過ぎないようですね」
     クラーラが手元の手書きの地図と玖韻の地図を見比べながら、スーパーGPSのマーカーをチェックした。
    「逃した魚が大きくなる前に潰しちまおうってこったな」
     天方・矜人(疾走する魂・d01499)のスカルフェイスが頷く。
    「ダンジョン……怖いよ! 室武士さん、離れちゃだめだよ! 怖いから!」
     小さな小四、武野・織姫(桃色織女星・d02912)が、室武士・鋼人(ハンマーアスリート・d03524)の袖を掴んで身を縮める。
    「ははは、大丈夫ですよ」
     爽やかな笑顔で、鋼人は織姫を宥める。鋼人の白い歯がきらりと光った。
    「それにしても、入口の罠には驚かされました」
     指先で髪を梳きながら、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が言った。
    「入るなり、全員に電撃……っすからね。大した傷にゃならなかったっすけど」
     長久手・蛇目(地平のギーク・d00465)が頷く。
    「てっきり大岩が転がったりしてくるのかと思いましたが、ダークネスや灼滅者がサイキックでしか傷つかない以上、罠もサイキックであってしかるべき……だったんでしょうね」
     一般人や弱いモノは立ち入ることすら許されない。森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)も分析する。閃が視た鼠達は、その罠が設置される以前に迷宮に入り込んでいたのだろう。
     その部屋を一通り調べて、彼らは隊列を組み直し、ジュンのアリアドネの糸を手繰り、チョークで天井にチェックした二つ前の分岐点まで戻る。
     ここまで来るのに、戦闘も三回。全て前方から現れていたが、皆は背後からの襲撃や挟撃を想定して、前方と殿、両方に前衛を配していた。そして戦闘二回に一回は休憩を挟み、常に万全に近い状態を保つようにする、という戦略をとる。
    「さて、今回も左でいいか」
     事前に打ち合わせていたダンジョンの左手の法則に則り、一応、全員の了承を得てから玖韻は蛇目と共に先頭を歩む。
    「こんな殺風景な所に居て、何が楽しいのかね……ダークネスってのはよくわかんねーな」
     自身もノーライフキングを彷彿とさせる姿をしていながら、矜人が呟く。確かに、今はただコンクリートの壁が続く道……壁自体が発光しているのか、蛍光灯程度の灯りはある。しかしこの迷宮の主が活動を活発化させれば、また違った様相を見せる迷宮となるだろう。
    「……来たか」
    「皆! 前だべさ!!」
     全く表情を変えない玖韻と、声を張り上げ注意を喚起する心太。目の前には三体のアンデッド。剣を持つ一体が走り寄って斬りかかって来るのに対し、残るマシンガンを持つ二体はこちらが思うように動けないよう牽制射撃をしてくる。
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     矜人が声に気迫を滲ませながら、戦場の音を遮断する。他のアンデッドを呼び寄せないためだ。
     敵は先の曲がり角から、突如として現れた。即ち──待ち伏せ。敵も迷宮内の異変に気付いたと見える。
     しかし。
    「そんな淀んだ気では、近付いただけで分かりますよ」
     心太は両の手に気を収束し、放出させる。剣のアンデッドが、それを受けがくがくと痙攣した。
    「おーい、五つの扉の広間で、左から三つの扉に落書きをしてやったぜ!」
    「……!」
    「メーヴェ様の迷宮を汚すもの……許さない」
     鎌をかける矜人。しかしアンデッド達はわずかに反応を見せただけだった。
    「……なーんて、実は残りの二つにも書いたけどな」
    「……」
     再び嘘を言ってみるが、それでもアンデッドに特別な反応は見られない。
    「一気に片付けましょう! 余分な怪我を減らすためにも!」
     ジュンが槍を螺旋状に突き出して剣のアンデッドを穿つ。
     しかしそれでも倒れず、アンデッドは先頭を行く二人の内の一人、蛇目へと向かう。
    「守りは俺にまかせろー!」
     シールドを突き破って届いた剣戟の傷に、そして傷口から毒が回り視界を歪める感覚に、蛇目はふらつく。
    「ぐっ……」
     更に剣のアンデッドの背後から迫るマシンガンのアンデッドが、前四人の足元を掃射。足止めを狙ってくる。
    「うわたたたっ」
    「くっ……厄介だべさ」
    「皆さん、こちらも来ましたよ!」
     そこへ後方から飛ぶ鋼人の声。背後の通路からは、剣を携えたアンデッドが二体、マシンガンのアンデッドが一体。マシンガンのアンデッドを後ろに残し、剣のアンデッドが突進してくる。
    「どうします!?」
    「このくらいは前方の戦闘が終わるまで持ちこたえられるでしょう。まずはそちらの灼滅を!」
    「了解。前方三体のアンデッドを最優先に戦闘を進める」
     玖韻が応え、目の前に立ち塞がるアンデッドの死角に回り込み、持てる四つの武器の全てを用いて斬り捨てる。
    「う……あ……」
     アンデッドはズタボロになり、膝から崩れ落ちた。
    「幸運の蹄鉄よ……皆を守ってね」
     織姫が祈りを込めて小光臨を飛ばし、蛇目の傷と毒を癒す。
    「いやー、助かったっす」
     一瞬だけ振り向いて織姫にウインク。彼女も笑顔で返した。
     その間に、クラーラもジュンに穏やかな歌声で癒しを施す。
    「ありがとうございます、これでまだ戦えます!」
    「ええ、お願いです。頑張ってください」
     クラーラは少しだけ表情を緩めると、今度は歌声とは違う声を張り上げる。
    「こんな殺風景な迷宮、何が楽しくて作ってるんですか! 悪趣味な!」
     それを聞いたアンデッド達は、血の気の引いた顔に微かに怒気を乗せた。
    「全てはメーヴェ様の為に……」
    「メーヴェ様がノーライフキングとしてご成長なさるための過程に過ぎぬ」
    「ではメーヴェを倒せば、全て終わりますね」
     鋼人はクラーラが引き出したアンデッド達の言葉に、ロケットハンマーの柄を握りしめる。
    「ぬぅぅんっ!」
     そしてそれを背後から急襲してきた、剣のアンデッド一体に対して回し殴った。
    「がはっ」
     ロケット噴射付きの回転ハンマーに、たまらずアンデッドは足を止めた。
    「ひゅう、こっちも負けてられませんぜ」
     戦場内に響いた轟音に、蛇目も己の影を広げる。影はアンデッドの足元から全身を包み込み、やがて影が引いた後には膝をつくアンデッドが残された。その目の前には、そのアンデッドにしか見えないトラウマが出現していることだろう。
    「死者には、生者の『気』は格別効くでしょう!」
     間髪入れず心太が再び気を放つ。マシンガンのアンデッドは後方に位置していることからも推察できるように、元々体力が少なめなのかもしれない。
    「何故わからない……」
    「貴方も屍王ではないのか」
    「は?」
     突然言葉を投げかけられた……矜人。
    「──ちげーよ、骸骨だけどオレはノーライフキングじゃねー!?」
     骸骨のマスク、絶対に素肌を露出しない服装。矜人は憤慨するが、アンデッド達はにやりと笑った。どうやらわかっていての発言……戦闘中にジョークを飛ばすとは、劣勢のくせに何たる余裕。
     しかし矜人もそれがわかったようで、ふっと息を漏らして笑う。そしてアンデッドの視界から消え、その場にいた誰もが気づいた時にはそのアンデッドの背後に立っていた。そして膝を折るアンデッド。
    「オレはもっとずっと、カッコイイぜ?」
     倒れ伏したアンデッドに、その言葉は届いていたか。
    「貴方もこれで終わりです!」
     と、ジュンが前方のアンデッドに対し影を伸ばし、その先端で敵を切り裂く。それでマシンガン・アンデッドは地に伏した。
    「お前もこれで終いだ」
     玖韻は残る最後の前方からのアンデッドに、死角に回り込んで持てる四つの武器全てを用い服ごと切り刻む。
    「ぁあああ……!」
     どさり、とアンデッドが倒れる音がした。
    「よし、後は後ろの連中だけだべ!」
    「皆さん、援護しますので頑張ってください!!」
     隊列を変わり、前衛を後方へ。そして残ったアンデッドが掃討されるのに、そう時間はかからなかった。

    ●最後の広間
     数えてみれば全てのアンデッドを撃破していた灼滅者達は、その後は安心してダンジョン攻略に集中できた。そして辿り着いたのは、エクスブレイン・閃が視た五つの扉が並ぶ広間。
    「さて、どの扉が正解か……」
    「単純に考えるなら『最も開閉された痕跡のある扉』か」
    「ドアノブの汚れ、扉へ続く床の傷跡、各扉に集音器をあて中の音を拾う……こんなところでしょうかね」
     ドアノブの汚れに大差はない。扉へ続く床の痕跡も綺麗にされてはいたが……左から二つ目と三つ目の扉の前に、真新しい足跡があった。アンデッドが出入りしたのか、メーヴェ自身が立て籠もったのか……それを確かめる術はない。
    「罠……だろうな」
    「どちらか……あるいは両方か」
    「それを確かめる術はありません」
    「悩んでいても仕方ねぇ。とりあえずこの二つを重点的に調べていくしかねぇな」
     矜人の言葉に、頷く面々。
     とりあえずは三つ目──真ん中の扉だが、鋼人が大型電器店で入手していた集音器を当てようとした瞬間、それを見守っていた織姫が足元の焦げ跡に気付いた。
    「ダメだよ、室武士さん!」
    「おぉ?」
     横からタックル。サイキックを使わない幼い女の子のそれに、鍛え上げられた体躯をした高校生男子はびくともしなかったが、異変はしっかりと伝わった。
    「これは……入口と同じ電撃痕ではないでしょうか」
     クラーラが指先で床についた跡をなぞる。その指に、黒い焦げが付いた。電撃痕は、よく見ると楕円形、更には小動物──鼠の形をしている。
    「……見たところ、触れるだけで電撃の罠が発動するのではないか?」
     顎に拳を当てて玖韻が呟く。
    「おぉ、こっちにもありますぜ」
     蛇目が隣の扉を見て、壁と扉の境に黒い焦げ跡を発見した。
    「ざっと見る限りですが……解除できそうですね」
    「時間をかければな」
     心太の分析に、付け加える玖韻。
     そうして灼滅者達は、二つの扉の罠を解除する作業に入った。サイキックエナジーを発動させないように作業していく……それは灼滅者達にも必須の能力だった。だから解除することが出来るのだろう。
    「何が出るかな~っと……蛇や鬼はお断りっすけど」
     二つの扉の罠を解除すると、扉は消え去った。真ん中の扉の道は、入ってすぐ行き止まりが見えた。
     そしてもう一つの道は……下り階段になっていた。先に進まなければ、何かが起こりそうな気配はない。よって、皆はここで最後の休憩をとることとした。
    「いよいよこの先にボスが居るんだね……どんな相手かな……ドキドキ!」
     織姫が緊張を抑えられない様子でいると、ジュンが戦場食とウェットティッシュを差し出す。
    「休む時はしっかりと気分を落ち着けないと。本番はこの後に控えているんですから」
    「ありがとー! わたしも……」
     と、織姫もまたESPで栄養ドリンクを人数分、紙コップに取り出す。
     更に回復サイキックを破壊し、蓄積した傷を癒す者もいた。
     この状況下で考え得る方法で充分な休養を取った灼滅者達は、メーヴェの下へと続くであろう階段を下って行くのだった。

    作者:天風あきら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ