【死者の迷宮】暗闇の迷宮に挑む者

    作者:天木一

     暗闇に閉ざされた地下道。
     何処からか異臭が漏れ漂う。それは鼻が痛くなるほど強烈で、生物が腐ったような臭い。
     その臭いに誘われ、数匹のネズミが這い回る。だが異臭の濃い壁の隙間に入った瞬間、その身を刃によって串刺しにされた。
     何かが動く気配がする。何も見えぬ暗闇の中、蠢く者たちが確かに居る。
     ある者は白骨、ある者は腐った肉を身に纏い。各々手には剣や槍といった武器を持っている。死者が闇夜の世界を彷徨い歩く。臭いの元は死臭だったのだ。
     動く死者が出入りする隙間。その先はただの壁のはずだった。だがそこには空虚な穴があり、その奥には殺風景で入り組んだ通路が続く。
     それは生者は決して生きては出れぬ魔の巣窟。
     ――地下迷宮。命持たぬ屍王の城。入城が許されるのは死した者だけである。
     
    「やあみんな、困った事になったんだ」
     教室で地図を広げていた能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が、集まった灼滅者達に顔を向ける。
    「先の戦いで灼滅した蒼の王コルベインの配下達が動き出したようなんだよ」
     コルベインの水晶城に居たノーライフキングの一部が、難を逃れて活動を開始したらしい。
    「ノーライフキングは水晶城から逃れる時に、アンデッドを連れて行ったみたいでね。自らの迷宮を作り始めたみたいなんだ」
     本当に困った事になったよと、誠一郎は頭を掻く。
    「迷宮は時間が経つほど強固なものになってしまう。その前に迷宮の奥深くに潜りノーライフキングを灼滅して、なんとか潰してしまいたいんだ。大変な任務だけどお願いできるかなぁ?」
     迷宮攻略。骨が折れる難題を前に困り顔の誠一郎へ、灼滅者達は真剣な表情で頷いた。
    「ありがとう。みんなに攻略して欲しい迷宮は廃線になった地下鉄の線路に入り口があるんだ」
     地下鉄の入り口は閉まっているが、警備などは居ない。人が被害になる心配は暫くは無いだろう。
    「迷宮の構造ははっきりとは分からないんだ。網目状の道が続いているみたいだけど……ただまだ出来たばかりだからそこまで大きくはないと思うよ」
     といっても未知の敵陣である、相応の準備が必要だろう。
    「現在分かっている情報は、迷宮内をスケルトンとゾンビが徘徊しているという事だけだよ。それぞれ武器を持って武装しているんだ。10体以上は確実に存在するよ」
     他にも何かあるかもしれない、用心するに越した事はないだろう。
    「まずは迷宮を探索して、ノーライフキングの居る王座へ到達するルートを確保して欲しいんだ」
     ノーライフキングと戦うにはまず迷宮を突破しなくてはならない。
    「王座に到達できてもみんなが消耗している状態では勝てない。その時は無理せずに撤退してね」
     誠一郎は皆に頭を下げる。
    「迷宮は危険な場所だから、十分に注意して無事に帰ってきて欲しいんだ。お願いだよ」


    参加者
    朝山・千巻(依存体質・d00396)
    三島・緒璃子(稚隼・d03321)
    姫切・赤音(紅榴に鎖した氷刃影・d03512)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)
    炬里・夢路(漢女心・d13133)
    霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)
    三条院・榛(円周外形・d14583)

    ■リプレイ

    ●地下に広がる暗闇
     使われなくなった地下鉄の廃線路。
     封鎖され内部は人が出入りしなくなり、時間と共に朽ちて廃墟と化していた。
     その暗闇に閉ざされた地下道を八つの灯りが照らす。
    「真っ暗です。注意して進まないと危ないですね」
     光が届かない地下通路を、霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)が灯りを照らしながら周囲を見渡す。
    「そこ、足元には気ぃつけぇや」
     先頭を歩く三条院・榛(円周外形・d14583)がわくわくした様子で線路を歩む。
    「これぞ本当の肝試し、だねぇ。何も出なきゃイイのにぃ」
     周囲を警戒しつつも、朝山・千巻(依存体質・d00396)は軽い冗談で場を和ませる。
     暫く進むと、横穴を見つける。人一人が通れる位の大きさだ。ぬぅっと鼻をつく腐臭が中から漂ってくる。
    「ここが入り口みたいネ。それじゃあ、こっち側は私が印を付けるわネ」
     蛍光チョークを手にした炬里・夢路(漢女心・d13133)が右側に寄り、反対側に声を掛ける。
    「こっちも準備よかよ。姫切、そっちの準備はよかと?」
    「言われるまでもなく、コッチは準備出来ていますよ」
     隊列の左側でチョークを手にした三島・緒璃子(稚隼・d03321)が問うと、眼鏡を押し上げた姫切・赤音(紅榴に鎖した氷刃影・d03512)が、方眼紙とペンを手に答えた。
     夢路と緒璃子が壁にマーキングして、赤音が地図を作成するという手はずだった。
     入り口を前に、千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)が赤い糸を作成して道に垂らす。退却時これが導となるだろう。
    「これで迷っても安心だね。迷える子羊に導を与え給え~。なんてね」
    「皆さん準備はよろしいデスね。では、出発しマス」
     霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)が仲間を見渡し、準備が出来たと頷くのを確認すると、線路の脇にあるぽっかりと開いた穴に踏み込んだ。

    ●ダンジョン
     一歩踏み入れたダンジョン内部は、地下鉄のトンネルよりは狭いが、同じような雰囲気の道がずっと奥へと続いていた。
    「どうやら中はゲンジツとは違う場所になっているようですね?」
     早速マッピングを開始した赤音が周囲を見て、先程歩いていた通路と重なるように道が続いている事から推測する。
    「よーし! まずは道なりに真っ直ぐ進むよっ」
     千巻が元気良く先頭を歩き始める。暫く進むと、最初の十字路に出た。
    「待って下さい!」
     皆が進もうとした時、突然鋭い声を発したのは弥由姫。
    「そこの地面、他と少し違います。トラップではないでしょうか?」
     その言葉に皆が道の中央付近を見ると、確かに他とは違うが、注意しなければ気付かないような突起が幾つかあった。
    「そうみたいや、避けて通ろうか。気ぃつけてな」
     榛が注意して進むと、皆も同じように足元を見てゆっくりと歩を進める。
    「分かれ道やっで、番号を書きしもんそ」
     緒璃子が壁にチョークで大きく1のマークを書き記した。赤音も同じようにマップに数字を書き込む。
    「ローグライクみたいだね」
     にこにこと笑顔で七緒は方眼紙を覗き込んだ。その笑顔が少し固いのは緊張の所為だろうか。
     そのまま進むともう1つの十字路。罠が無いのを確認すると、2番の番号を書き更に進む。だがそこは行き止まりだった。
     来た道を1つ前の十字路に引き返そうとする。その時、死臭が濃くなった。咽るほどの異臭が近くから発せられる。
    「この臭い……出迎えが来たようですネ」
     ラルフの言葉に皆が武器を構える。近づく交差からずるりずるりと、引きずる音と共に、死肉が現われる。
     それぞれ剣や槍といった武器を持ったゾンビが4体。灼滅者達の灯りに群がるようにやってきた。
    「音は封じましタ。煩くしても大丈夫ですヨ」
     ラルフが敵の目視と同時に戦場の音を漏らさないよう結界を張った。
    「火葬にしたげる!」
    「浄罪してあげる」
     手にしたチョークをガトリングガンに持ち替えた夢路と、同じくガトリングを構え敵を前に冷たい笑みを浮べた七緒が、炎の弾丸を雨の如くゾンビの群れに叩き込む。
     轟音と共に炎が暗闇を赤く染める。燃やされながらもゾンビ達は獲物を振り上げ迫る。
    「もー! こっちも戦いたくないんだから、引っ込んでてよぉっ」
    「そないになってまで大変やな、ここで成仏しはりや」
     千巻と榛が前に立ち、ゾンビの行く手を遮る。2体のゾンビが剣を振り下ろし、槍を突き出した。
     それを、千巻はエネルギーの盾で弾き、榛は漆黒の弾丸を撃ち込んで軌道を逸らした。
    「行きますわ!」
     弥由姫が槍を手に突っ込む。鋭い突きはゾンビの腹部を貫き、捻り、穿った。胸に大穴を開けて仰向けに倒れる。
     残った3体のゾンビが群がってくる。
    「では1つ奇術をお見せしまショウ!」
     ラルフが殺気を放つ。黒い殺意に飲み込まれゾンビの動きが鈍った。
     好機と、赤音のガトリングから炎の弾丸が放たれゾンビを撃ち抜く。
    「三島!」
    「分かっておるわ!」
     赤音の声に、位置を変えていた緒璃子が、違う方向から同じくガトリングから火弾を放ち、十字砲火を浴びせる。ゾンビ達は銃撃の勢いに動けぬまま、体中に穴を開け燃えて尽きた。
     焼けた死体の臭いが通路に充満する。
    「臭いが移っちゃうワ。早く次に行くわヨ」
     酷い臭いに顔を顰めた夢路の言葉に、皆も同意してダンジョン探索を続ける。

    ●迷路の果て
     次々に交差点と行き止まりを繰り返し。マップが随分と埋まり始めていた。
     チョークのマーキングと作成した地図、緒璃子と弥由姫のGPS能力で迷う事なく順調に探索が進んでいた。
     道中徘徊していたスケルトン4体を倒し、傷の手当てや、榛の用意していたチョコバー等をかじり、僅かな休息に息を吐くと、更に探索を続けていた。
     トラップは最初の交差点以外には見当たらなかった。だがその存在が足枷となり進行速度を遅らせ、灼滅者達の疲労を増していた。
     マップを見れば交差点に振った数字が二桁になっていた。そんな時。
    「見て、広間だよ」
     七緒が指差したそこには今までの通路とは違い、大部屋のような広い空間があった。交差点ではなく行き止まり、だが奥には重々しい大きな扉が見える。
     灼滅者達は広間へと慎重に侵入する。
    「わー! ここがダンジョンのゴール前かな?」
    「そうやろな、でもまだ何かあるみたいや」
     千巻の言葉に頷きながら返事をした榛の視界には、部屋の中央に鎮座する全身鎧を身に纏った赤いスケルトンの姿があった。
    「門番といったところでしょうか?」
     弥由姫は訝しげに動かぬスケルトンを見る。
    「罠という可能性もあるんじゃないでショウか?」
    「そうネ、悩んでいても分からないし、仕掛けてみましょうか」
     ラルフが問うと、試してみようと夢路がガトリングを構える。
    「それもソウですね。ほらヤりますよ」
    「もう準備できておるわ」
     赤音と緒璃子もガトリングを構えた。
    「じゃあ僕も」
     七緒も合わせ、4門の銃口がスケルトンに向く。発砲。無数の弾丸が鎧に穴を開け、スケルトンを蜂の巣にする。
    「あれ? 終り?」
     千巻がそっと後ろから様子を窺った瞬間。目も眩むような閃光と共に、爆発が起きた。
    「伏せなサイ!」
     ラルフの叫びも掻き消され、部屋を覆う爆発に全員が吹き飛ばされた。
    「いたた……罠かいな。タチ悪いわ」
     榛が起き上がり周りを見ると、皆も同じように身を起こしていた。広範囲だがダメージはそこまで大きくはなかったようだ。
    「ダンジョンのトラップとはこんなに範囲が広いのですね」
     服についた埃を叩きながら弥由姫が呟いた。
     その時、ガチャガチャと金属がぶつかる音が聞こえる。見れば鎧に身をつけたスケルトンが8体、部屋の壁が崩れそこにあった小部屋から現われていた。
    「これが本命ってことネ」
     夢路が前に立ち、ガトリングの銃口を向ける。
    「なら、倒すしかないよね」
     七緒も同じように構えると、同時に銃口が火を噴いた。

    ●大広間
     前に居た4体のスケルトンが盾を構え、銃弾を受ける。その後ろからライフルを持ったスケルトン4体が一斉に構えた。銃口が光る。
    「そうはさせへん!」
     榛、赤音、千巻が仲間を庇うように前に出ると、放たれた銃弾を受け止めた。そこに盾と剣を持ったスケルトンが迫る。
    「サッサとツブしなさい、誰が壁をやってると思ってンです。まさか貴方が死に損ないを遣り損なうなんてヘマはしませんね、三島?」
     剣の攻撃を盾で受け止めながら赤音が皮肉を吐く。その言葉に対する返事はすぐ背後から聞こえた。
    「はっ、こん程度に手間取る程温い鍛え方はしとらんよ、姫切」
     緒璃子が鋭く踏み込む。拳に宿るのは雷。掬い上げる様な一撃が決まる。衝撃が鎧を通し骨を砕く。
    「主の方こそ、慣れんことして下手を踏まぬように気を付けろな。――ま、余計な心配だろうがの!」
     赤音はにやりと笑うと、ガトリングから火弾を撃った。
    「治療を始めますヨ」
     ラルフが傷ついた仲間へ魔術紋様を施したトランプを飛ばす。張り付いたトランプは治癒を施すと、守りの結界となり対象を守る。
    「用があるのは貴方たちではなく、奥の方ですの。邪魔をするなら容赦しませんわよ」
     杖に魔力を籠めて叩き付ける。防ごうとした盾をへこませ、衝撃にスケルトンの腕がもげた。
    「ほらほら、さっさとどっか行っちゃってよね!」
     千巻は剣の攻撃をエネルギーの障壁を張り防ぐと、刀を上段から振り下ろす。敵の剣を斬り、そのまま勢いのまま鎧に喰い込み肋骨を数本切断した。
    「当たんなさい!」
     夢路の放った魔法の矢がその切り裂かれた鎧の隙間に吸い込まれるように通ると、敵の背骨を砕いた。二つに折れたスケルトンは動かなくなる。
    「逃げないと燃えるよ」
     防ぐ鎧の上から、関係無しに七緒は炎の弾を撃ち続ける。盾がへこみ、防ぎ切れなかった弾丸が少しずつ鎧を砕きその身を燃やす。
     堪えきれなくなったスケルトンは剣を振り上げ迫る。それを待っていたとばかりに七緒は獲物を捨てて身軽になると、スケルトンへと踏み込んだ。
     剣を掻い潜り懐に入ると、オーラを纏った拳を放つ。鎧を砕き、骨を順番に砕いていく。盾を構えたところでサイドに回りこみ、大振りのフックが頭部を打ち抜いた。崩れ落ちるようにスケルトンは倒れた。
     片腕のもげたスケルトンは残った腕で剣を振るう。
    「ふらふらしとるやんか、楽にしたる」
     榛はその剣を持つ手に収束したオーラを撃つ。狙い違わず腕を砕き、両腕を失ったスケルトンは迫り来る大太刀に抗うことも出来ず両断された。
    「次じゃ」
     緒璃子は身の丈ほどもある大太刀を返すと、次の標的に振り抜く。その一撃に対し盾を構えようとしたスケルトンに、ポケットに手を入れたままの赤音がふらりと近づく。その足元から伸びる影は刃となって盾を持つ手を斬った。
     その隙に、横一線に薙いだ太刀がスケルトンの首を勢い良く宙に飛ばした。
    「息吐くヒマなんてありませんよ、次の死に損ないが待ってンですから」
    「そっちこそ、遅れたら置いていくぞ」
     赤音と緒璃子は軽口を言い合いながらも、息の合ったコンビネーションで敵を翻弄する。
     そこに敵後方から一斉射撃が浴びせられる。夢路、榛、千巻が体で射線を塞ぎその攻撃から仲間を守る。
     残る一体の剣を手にしたスケルトンが夢路に向かって突きを放つ。
    「させませんわよ」
     弥由姫が槍で巻きつけるように剣を弾くと、鎧の隙間に穂先を差し込んだ。スケルトンは貫かれたまま盾を構え、体当たりのように迫る。その足に向かい、弥由姫はオーラを纏うと蹴りを放つ。ぐらりとスケルトンがバランスを崩した所へ、拳を上から叩きつけるように打ち下ろした。倒れ込んだスケルトンの骨がばらばらに砕けるまで連打を浴びせると、動かなくなった。
    「まだまだ奇術のタネは残っていマス」
     手にした一枚のトランプをさっと手に隠すと、次の瞬間、2枚数が増えていた。繰り返す度にトランプは増え、それを夢路、榛、千巻へと投げ、傷を少しでも治療する。
    「後はキミたちだけだよ」
     七緒が拾い上げたガトリングを撃ち込む。すると相手からも反撃の銃弾が撃ち返される。
    「これで終りにしちゃうよ!」
     前方に障壁を張った千巻が弾幕の中を突進する。受けた傷は後方からのラルフのトランプが投げられすぐに癒える。
     間合いに踏み込むと、刀を斬り上げライフルを両断する。更に振り下ろす刃で兜を割り頭を二つに割った。
     敵の陣形が崩れた隙に、赤音と夢路が弾幕を張り突き崩す。そこに榛はオーラの塊を放ち1体のスケルトンを吹き飛ばした。
     弾幕を飛び越えるように跳躍したのは緒璃子。全体重を乗せるように振り下ろす大太刀は、防ごうとするライフルごとスケルトンの体を両断した。
     吹き飛ばされたスケルトンがうつ伏せのままライフルの銃口を向ける。
    「ブッ飛んじゃいなさい!」
     夢路が同時にガトリングを撃ち込む。ライフルの一撃は赤音が盾で受け止め、ガトリングの銃弾はスケルトンを撃ち砕いた。
    「そろそろクライマックスといきまショウ」
     ラルフが帽子を手にすると、そこからいくつもの鳩型と兎型のオーラが飛び出しスケルトンを襲う。
     怯んだ所へ弥由姫が杖を振り上げた。魔力を凝縮した先端がスケルトンの頭部を叩いた。エネルギーが爆発し、頭部が砕け散る。だがその手がライフルを構える。
     そこに七緒のガトリングが火弾を撃ち出す。体中を打ち砕かれ、炎に巻かれるとスケルトンは動かなくなった。
    「たまにはこういう炎も悪くない……かな?」
     七緒は首を傾げて炎を眺めた。

     広間の全ての敵を倒し、灼滅者達は傷ついた体に治癒を施す。その視線は自然と奥の扉に向けられる。
    「この先にノーライフキングがおうのか」
    「どうしました? まさか怖気づいたンですか?」
     緒璃子の言葉に赤音がからかう様に口を挿む。
    「そげん訳なか」
     二人の顔に不敵な笑みが浮かぶ。
    「挑むしかないでショウ。ここからが本当のショウタイムということデス」
     仲間の治癒を終え、ラルフはシルクハットを被り直し、次のステージに目を向けた。
    「まあそうよネ。ここまで来て引く理由もないし、挑むわヨ」
    「ええ、アンデッドの迷宮を根源から断たなくてはいけませんもの。行きましょう」
     夢路と弥由姫も準備を整え、扉の前へ進む。
    「しゃああらへん。ここまで来たんや、いくしかないわな」
     水を飲んでいた榛も口を拭い、立ち上がる。
    「よっし、クライマックス行っちゃいますか!」
     千巻は元気良く拳を握り、テンションを上げて声を出す。
    「さ、ボス戦だ」
     真剣な目で扉に視線をやる七緒。だがすぐにそれを崩して笑顔を見せると皆を見て言った。
    「みんな、セーブしたー?」
     皆が笑う。無駄な緊張が解け、灼滅者達は高揚と共に扉を前にした。
     この先がダンジョンの最奥。ノーライフキングの居る王座だ。
     暗闇の迷宮を突破した皆には疲労の色がある、だがそれを打ち消すほどの自信に満ちていた。
     ――今、扉が開かれる。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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