ぴちゃりぴちゃりと水滴の垂れる音。
辺りは暗く、生きている者の気配はない。ここは誰も居ないはずの山奥の洞窟。
だが。
「ア、ァアァ……アァァァァ」
洞窟内に、不快なうめき声が聞こえる。
「ォ……、ォアアアア」
ズルリズルリと、何かが擦れる音も。
暗い洞窟内に、それらは居た。
人の形をしている。けれど……、決して人ではない者達。
「アアぁ……」
自らの身体が泥はねで汚れることなど気にしない。アンデッド達は、洞窟内を徘徊していた。
●依頼
教室に入ってきた園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が控えめに話し始めた。
「あの……、コルベインの水晶城に居たノーライフキング達のこと、覚えていますか? 彼らの一部が……動き出したようなんです」
彼らは、コルベインの所持していたアンデッドの一部を利用して、迷宮を作り始めているのだという。
「ノーライフキングの迷宮は……、時間がたつほどに強力になっていきます。……だから、早急な対応が必要になります」
特に水晶城のノーライフキング達は、コルベインの遺産であるアンデッドを使用する事ができるらしく、放置すれば第二第三のコルベインとなるかもしれない。
「今回は、この迷宮を探索して欲しいんです……」
そう言って、槙奈は一同を見た。
「今回の迷宮は、山奥の洞窟と入り口がつながっています」
岩肌でできた洞窟内部は暗く、外部よりも涼しい。ノーライフキングの迷宮は、その洞窟の気質そのままに、暗く肌寒い。
「地下へと下る通路を進んで下さい。……通路は、数人で通れる感じですね。ところどころ、枝分かれしている箇所があるようです」
枝分かれしている先は、更に奥へと続く通路か小さな小部屋があるという。
各小部屋には、1~2体の人型のアンデッドが常駐している。
アンデッド達は、侵入者が小部屋に入った時点で、殴る蹴るなど徒手空拳の攻撃を仕掛けてくる。
「小部屋の数は……、そんなにないと思います。おそらく……、5部屋あればいいところだと」
小部屋に配置されたアンデッドは、部屋から出ることはない。
「あの……、迷宮には、多分、まだまだ危険があると思います。十分注意してくださいね」
これまでの説明は大丈夫だろうか?
槙奈は一度言葉を切り、皆の顔を見た。
「迷宮を突破して王座の間にたどり着いたら……そこで、ノーライフキングと対決することになります」
しかし、まずは迷宮を突破することだ。その結果、ダークネスと戦うのが難しいほどに消耗した場合は、無理をせず帰還した方がいいだろう。
少し臆病なくらいが、迷宮で生き残る秘訣、だとか。
「ノーライフキングは強力なダークネスです……。無理をせず、皆さん無事に帰ってきて下さい」
槙奈は最後に、そう締めくくった。
参加者 | |
---|---|
神薙・弥影(月喰み・d00714) |
二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780) |
一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609) |
殺雨・音音(Love Beat!・d02611) |
楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869) |
高倉・光(人の身体に羅刹の心・d11205) |
一玖・朔太郎(爽籟の告鳥・d12222) |
飛鳥来・葉月(中学生サウンドソルジャー・d15108) |
●いざ、迷宮へ
洞窟の中は聞いていた通り薄暗く肌寒い。
携帯用の照明器具を手に、高倉・光(人の身体に羅刹の心・d11205)は辺りを見回した。
屍王と直接刃を交える機会に巡り会えるとは。今までは屍王と言えば基本的に手駒の相手ばかりだった。ダークネスでも随一の個体戦闘能力がどの程度のものか、ぜひとも体感しておきたい。
(「ま、その前に迷宮を抜けなきゃなんなきゃいけんがな」)
これで作りかけとなると、完成したらどうなることか。想像するに難くない。
手元の明かりは極力抑えているため、遠くまで見ることはできないけれど、この迷宮が広く長いと言う事はうかがい知れた。
「迷路なら壁に手をついて歩くとか聞いた事あるけど……」
ここでも通用するのかしらね、と。
光の隣で、神薙・弥影(月喰み・d00714)が言う。まさかコルベインの遺産がこうなるとは。気になる言葉と厄介な物を残してくれたものである。
岩肌に手を触れてみると、ひやりとした。
「迷宮探索って初めてだわ」
弥影のヘッドライトが、視線の先を照らした。
その隣に、更にもうひとつの明かり。
楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869)の懐中電灯だ。
(「ダンジョン攻略ですって。すごく楽しそう!」)
先の見えない洞窟。待ち構える敵。ファンタジー好きな刹那はテンション高めにそう思った。
だが、不死王戦争の際の苦い経験があり、リベンジに燃えているのも事実だ。
数人で通れる通路では、隊列を組んで歩く。
光、弥影、刹那の三人が最前列に並んでいた。
「残ってる奴ら全部コルベインみたいになるんやろか」
一玖・朔太郎(爽籟の告鳥・d12222)は足元に桃子(霊犬)を従えている。一体何が目的なのか分からないけれど、潰していかなければならないだろう。
それはそうと。
朔太郎はメンバーを見ながら、腕を組んだ。
「……あれ、男俺1人ちゃう? ……しっかりせなあかんかな、これは」
何かあれば桃子がクッションになりに行くと、笑顔で言う。
ところが、光が不意に振り返った。
「あ、私も男ですよ。一緒に頑張りましょうね」
長い髪を可愛く揺らし、礼儀正しく小首を傾げる。
「え」
朔太郎は一瞬ピタリと動きを止め、光をまじまじと見た。
「……何か、色々すんません」
「いえいえ、お気になさらず」
そのやり取りに、前列の二人がくすりと笑いを漏らす。
暗いだけの洞窟で、少し場が和んだ。
さて、その様子を見ながら二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)は考える。
(「散ったはずの彼らの一斉の行動。時を見計らったのか、それとも……」)
そこで、一旦思考を留める。演算要素は不確定だ。
(「今は止そう」)
まずは、最奥へとたどり着くこと。それが第一優先だ。
「厄介な存在が残したものは、結局厄介なものになるわけね」
列の最後尾で、一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)が呟く。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。さくっと探索してみましょうか?」
頑丈な作りの懐中電灯を灯しながら、手元のマッピング用の道具を確認する。
「みんな、がんばろ~ね!」
きょろきょろとあたりの様子を見ながら飛鳥来・葉月(中学生サウンドソルジャー・d15108)が控えめに声をかけた。暗くて、しかもアンデッドの巣窟……。そんな場所、一人では怖い。けれど、みんなと一緒なら、きっと攻略できるはず。
「ノーライフキングちゃんに会ってからが本番~だから、今回はサクッと終らせちゃいたいよ~?」
殺雨・音音(Love Beat!・d02611)が明るい口調でそう言うと、葉月が安心したように笑った。
「戦いは嫌い~。アンデッド相手なのもホラーっぽくて、ネオンは嫌いだよぉ」
「そうだよね。アンデッドだもんね」
音音と葉月、二人の持つ明かりは、どちらも明るさを極力抑えている。
敵に感づかれないようにするための措置だ。
隊列を保ちながら、一同は慎重に迷宮を進んで行った。
●暗闇探索、分岐点
ぴちゃり、と、水滴の垂れる音。岩肌の何処かから、水が垂れている。
「足下気をつけて、な」
朔太郎の言葉に、葉月が頷いた。洞窟を延長したような迷宮の、足場は悪かった。今は全員がぐちゃぐちゃと泥の上を歩いている。歩く場所は、岩のような場所もあれば、今のように泥の場所もあった。
「それにしても、ちょっと寒いですね」
罠を探知するための棒を少しずつ前方に振りながら、光が言った。
足元、頭上、死角、様々な箇所に気を配りながら進んできたが、とりあえず罠の類には当たっていない。
「そだね~。早く迷宮を出て、弟に会いたいなぁ~」
ずっと真っ直ぐな道だったので、今はまだマッピングも忙しくない。音音は伸ばせばすぐに手が届きそうな、低い天井を見上げた。
我慢できない寒さではないけれど、ずっと肌寒い場所に居続けるのは意外と辛い。
その時、弥影と刹那がピタリと足を止めた。
後続の仲間も、すぐに気がつく。一本道が目の前で左右に分かれていた。
「初めての分岐だね。さて」
雪紗は目の前に現れた分岐点と刹那を交互に見た。
刹那は頷き、一歩足を進める。
「それでは、偵察に行きます」
あらかじめ取り決めてあった手筈通り、刹那がその姿を蛇に変えた。
それを見て、葉月が赤い糸を紡ぎだす。
「迷わず、少し離れてついていきます」
先を照らしてみるが、どちらに進んでもすぐに結果が見えるような短い道ではないようだ。
「ここ、目印つけとこか」
「そうね。来た道が分かるように印をつけておくわ」
朔太郎が指さした岩肌に、弥影がマーキング用のチョークを走らせる。
「地図も、書き足した方がいいわね」
「だね♪」
祇鶴と音音が地図を確認した。
すべての作業が終わったことを確認して、刹那がするりと蛇行を始める。明かりはつけない。罠にかかったり姿を見られたりする危険を減らすため、壁側に寄って進む。
チロチロと長い舌を出して、地面の匂いを確かめた。
確かに、何か腐敗臭がする。
それに地面には僅かな振動も感じられた。
視界が悪い。ふと地面を見ると、何かを引きずったような跡がいくつもついていた。
慎重に、身体を進める。
「……ォ……」
遠くから、何かが聞こえて来た。
風の音か、それとも唸り声か。
耳をすまそうとするが、自分の先から聞こえてくるのか隣の通路からなのか、刹那には判断ができなかった。
「ァ……アァ……オォォォ」
更に身体を進め、ついに確信する。
あれは、うめき声だ。通路の先から、聞こえてくる。だが、まだ小部屋は見えない。
更に慎重に身体を進め、ついに開けた空間が目に入った。
それは、アンデッドの常駐する小部屋に間違いなかった。
岩肌の通路から、特に扉もなく、空間が広がっているだけの小部屋だ。
空間の入り口に一体。そして、部屋を徘徊するアンデッドが一体。蠢く影を確認し、刹那は身体を反転させる。
異変を感じ取られることがないように、来た時と同様慎重に進んで仲間と合流した。
●アンデッド
「岩から続く空間か」
刹那の話を聞き終え、雪紗が考え始める。
「小部屋での戦闘は、できるだけ避けたほうがいいよね?」
葉月の言葉に、みんなが頷く。
「迷宮突破が目的だもんね♪」
「体力を温存するためにも、そのほうがいいわね」
音音と祇鶴の言葉に、異を唱える者はいなかった。
「んで、どないしたん?」
なにか考えがあるのだろうか。朔太郎が雪紗に話しかける。
「扉もない、岩が開けたような場所ということは、入り口を塞ぐことは難しいかな」
「なるほどな。ロープを引っ掛ける場所がないんや」
できれば、入り口を塞ぐような工作をしたかったのだが。
ずっと見てきた岩肌の壁に、ロープを引っ掛けたり結んだり出来る場所は見当たらなかった。
「小部屋はこの先も同じような感じかしら?」
「一つ一つ、確かめるしかないと思います」
弥影と光がやり取りを交わし、一同は小部屋での戦闘を避け分岐点から先に進んだ。
随分と長い時間歩いた気がする。
最初の分岐点を含め、四つの分岐を見つけた。いずれも左右2つの道に分かれており、小部屋か更に奥へ続く通路があった。すべての小部屋の戦闘を避け、たどり着いたのは……。
「行き止まりやん」
朔太郎の見たまんまの感想だった。
最後の分岐で小部屋を避け、細い道を進んできたのだが、道はここで終わっていた。念のため壁を調べたが、特に変わったところはない。
「前に戻って、小部屋を調べたほうがいいかな~?」
音音が言うと、祇鶴が頷いた。
「そう。戦闘になるわね」
小部屋にはアンデッドが待ち構えている。気を引き締めて行かなければ。
「ところで、気になっていたんですが、これって私達の足あとじゃないですよね?」
光が足元に暗い照明を当てる。そこには、なにか引きずったような跡がいくつもついていた。
「そう言えば、偵察の時にも、同じような跡を見かけました」
刹那がはっと顔を上げた。
「しっ」
その時、弥影が短く皆を制した。
ずるずると、何かが聞こえてくる。
それが、だんだん近づいて。
「ア、ァアァ……アァァァァ」
不快なうめき声。
「アンデッド?!」
葉月の言葉と、アンデッドが姿を現したのはほぼ同時だった。
何故、自分達の後ろから敵が現れたのか?
「ぁ……ア、ア、オァァアアアアア」
足を引きずるように動くアンデッド。その様子から、地面についていた引きずるような跡が、このアンデッドのものだと推測される。
敵もこちらに気づいたのか、腕を振り上げてきた。
「桃子っ」
とっさの判断。考えるよりも先に、行動に移した。
朔太郎の掛け声に、桃子が反応する。
アンデッドの最初の一撃から仲間をかばったのだ。
仲間達は、すぐに戦う姿を整えた。
鈍くぶつかる音。
「音の遮断を」
「まかせて」
雪紗の短い言葉に、弥影がサウンドシャッターを使った。
「撃つわよ……と、警告させてもらったけど、まあ心配はいらないわよ。私が誤射することなどありえないもの」
狭い場所だが、それぞれが戦う位置取りをするくらいの余裕はある。
祇鶴のバスターライフルから発射された魔法光線が、正確にアンデッドを捉えた。
「……ッア」
アンデッドは壁まで吹き飛び、苦しげに呻く。
その間に、音音が桃子の傷を癒す。
続けて光が異形化させた片腕で殴りつけると、あっけなくアンデッドは崩れ去った。
「……手応えがないわね」
祇鶴は後続の有無を確認し、少しだけ首を傾げた。
「何故、ここに? 小部屋からは出ないはずじゃ……」
戸惑う葉月の疑問に答えるように雪紗が言う。
「小部屋に配置されたアンデッドは、部屋から出ることはない、か。と言うことは、先ほどのアンデッドは元々小部屋に配置されていなかった、ということじゃないかな」
「なるほどな。けど、俺らが来た道では、会わんかったで?」
アンデッドとはすれ違っていない。この行き止まりまでは、ほぼ一本道だった。小部屋の近くまで偵察したのだから、どの通路も一通り通ってきた計算だが。
「つまり、まだ見ていない道があるんだろうね。例えば、小部屋の先に、とか」
雪紗の言葉に、一同は頷き、小部屋を順に調べることにした。
●目指すは屍王
最初に入った小部屋では、特に変わった場所はなかった。
戦闘も問題なく終わった。被害はないわけではないが、まだ全員が戦える状態だ。
そして、行き止まりでの戦闘から数えて三度目。
小部屋での、戦いは続いていた。
「ァアアアアア」
アンデッドの徒手空拳が刹那に向かってきた。
それをしっかりと防御しながら、シールドで殴りつける。
「やってくれるじゃん! でもさ、甘いっ」
力任せに振りぬくと、アンデッドはよろめいて後退した。
だが、逃がすまいと弥影が槍を突き出し、
「逃さないよっ」
アンデッドを穿つ。
相当のダメージを受けたのか、アンデッドは音もなく崩れ去った。
「えへへっ、後ろにいれば攻撃は当たらないから、安心なの~♪」
その分、前のみんなをばっちり支援、と、音音が小光輪を朔太郎へ飛ばす。
「頑張って! でも無理はしないで」
アンデッドと距離を取りながら、葉月も護符を飛ばし回復を助けた。
「ありがとな、さ、行こか」
傷の癒えた朔太郎が激しく渦巻く風の刃を生み出した。
「ウ、ァ、ァアアアアアアッ」
襲いかかるアンデッドを、容赦なく斬り裂く。
「これで終わりだな」
光が、よろめいたアンデッドをマテリアルロッドで殴りつける。
魔力を流し込まれ、敵は体内から爆ぜて消えた。
小部屋に居たアンデッドは全て消し去った事になる。
「さて、どうやら、ココが怪しいようだね」
戦闘の熱が冷めやらぬ中、極めて冷静に雪紗が言う。不自然に段差になった岩を見つけたようだ。
「少し押せば、動きそうね」
祇鶴の言葉通り、二人で力を込めると岩は簡単に動いた。
現れた、小さな穴。
大人が一人入れるような、小さな通路だった。
ひゅうと、大きな風を感じる。今までにない、強烈な腐敗臭も漂ってきた。
明かりで先を照らすと、細長い道がぼんやりと浮き出た。
そして。
「……、…………」
聞こえてくる、何か。
探索してきた迷宮とは違うと、すぐに感じた。
「この先に、おる、言うわけや」
何が?
屍王が。
朔太郎の言葉に、全員が表情を引き締める。
一同は、お互いの状態を確認し合った。
全くダメージがないといえば、そうではないけれど、次に戦闘になってもおそらく大丈夫。全員が全力で戦える。
洞窟内で体力を温存していた結果だ。
「気ぃ張る時は張る、休める時は休む。でないと疲れてまうやん」
朔太郎の提案で、一同は小部屋で休息を取ることにした。
奥に控えるノーライフキングとの対決の前の、短い時間ではあったが。
それでも、灼滅者達には充分な休息だった。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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