レディ・マリリンと阿寒湖のメンズ達

    作者:海あゆめ

    「フフッ、これでまたもうひとり……」
     手にした乗馬用の鞭の先を、ちろりと舐めて、女は妖艶な笑みを浮かべた。
    「レディ・マリリン様、ご命令を」
     虚ろな目をした青年が、女の前に片膝をつき、頭を垂れる。
    「そうねぇ、まずはワタクシの下僕を増やしましょう? 坊や達のような……ね? そして湖の底からひとつ残らずマリモを掻き集めるの……フフ、楽しいでしょう? 坊やもやるのよ?」
     鞭で青年の顎を捕まえ、顔を自分の方へと向かせた女は、満足そうに目を細めた。そうして笑ってみせてから、女は鞭をピシャリと床に叩きつける。
    「見ていなさい、もうすぐこの阿寒湖はワタクシのもの……そして、ゆくゆくは世界をもワタクシの手中に……! オーホッホッホッホ!!」
     女の笑い声が、高らかと響き渡った。

     北海道、阿寒湖。マリモが生息することで有名なこの場所で、最近妙な噂がまことしやかに囁かれている。
     湖に棲むマリモが明らかに減ってきているとかいないとか。湖に訪れた見目麗しい青年達が、次々と行方不明になっているとかいないとか……。
     

    「北海道の阿寒湖にね~、レディ・マリリンっていう熟女怪人が現れたの~」
    「熟女怪人って、お前なぁ……」
     資料のノートを広げながら、うだうだと内容を読み上げる、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)に、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)は、何だそれ、と呆れたような目をやった。
      
     観光地としても有名な北海道の阿寒湖に、レディ・マリリンと名乗るご当地怪人が現れた。
     彼女は阿寒湖を訪れた観光客の中から自分好みの若い男だけを狙い、力を与え、洗脳して配下にし、そうして増やした彼らと共に阿寒湖のマリモを根こそぎ集めて回っているのだという。
     
    「このままじゃ、イケメンとマリモが阿寒湖からいなくなっちゃうね!」
    「そりゃあ、迷惑な話だな」
     イケメンはともかく、マリモのいない阿寒湖なんて、ラム肉のないジンギスカンと同意語である。
    「っしゃ! したっけそのマリリンとかっつー怪人を倒せばいいんだな?」
     ここは北海道民として見過ごせない。気合充分に意気込む香蕗。
    「ま、そういうことだね~」
     一方で、スイ子は適当な感じに返事をしながら、広げていたノートのページを捲った。
     
    「でぇ、レディ・マリリンと接触するには、餌が必要だよ~」
    「餌ぁ?」
    「にひっ♪ 熟女好みの美青年でおびき寄せるの。それか、男子何人かのグループでいれば、向こうからホイホイ出てくるよ」
     ちなみに、女連れと分かってしまうと近づいてはこないとのこと。少々危険は伴うが、レディ・マリリンと接触を図るには、男子が率先して囮にならなければならないようである。
     
    「レディ・マリリンの攻撃だけどね、乗馬の鞭で叩いてきたり、マリモのビーム飛ばしてきたりするから、みんな、気をつけてね! あっと、それとね、マリリンは男の人を4人連れて歩いてるよ!」
     レディ・マリリンに付き従っている若い男達。彼らはレディ・マリリンの手によって強化された一般人だが、個々の能力はそれほど高くなく、そのまま彼らを倒すか、レディ・マリリンを倒しさえすれば、無事、元に戻ることができるそうだ。
     
    「レディ・マリリンは、マリモとイケメンを集めて世界を乗っ取ろうとしてるんだって! すごいねすごいね! でも何か放っておいたら危ない気がするからぁ……みんな、レディ・マリリンの灼滅、よろしくお願いねっ!」


    参加者
    霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)
    阿櫻・鵠湖(セリジュールスィーニュ・d03346)
    エルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746)
    戒道・蔵乃祐(酔生夢死・d06549)
    折原・神音(鬼神演舞・d09287)
    三味線屋・弦路(あゝ川の流れのように・d12834)
    悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)
    穗積・稲葉(稲穗の金色兎・d14271)

    ■リプレイ


     北海道の阿寒湖に、マリモとイケメンを集めて世界征服を企むご当地怪人、レディ・マリリンが現れた。
     灼滅者達は作戦通り、まず囮の男子チームが湖のほとりで観光客の振りをする。
     あどけない少年らしさを残した顔立ちの、穗積・稲葉(稲穗の金色兎・d14271)と、折原・神音(鬼神演舞・d09287)。
     優しげで落ち着いた印象の、三味線屋・弦路(あゝ川の流れのように・d12834)と、悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)。
     そして、ゴミ拾いを始めてしまうほどの純真さ、戒道・蔵乃祐(酔生夢死・d06549)と、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)。
     完璧な布陣。いかにもイケナイお姉さんに遊ばれてしまいそうな男子グループだ。
    「……ねぇ、坊や達」
     そうこうしているうちに出た。わりと早い段階でホイホイ釣られてきた。
     灼滅者達は息を飲み、振り返る。
    「ちょっといいかしら?」
     そこにいたのは、きわどいレオタード姿にマントを纏い、4人の若い男達を引き連れた緑色の肌の熟女……これが阿寒湖のご当地怪人、レディ・マリリンだ。
    「うわ、本当に引っ掛かったわ!」
    「今のうち……回り込みましょう」
    「ん、そうですね」
     仲間だと悟られない程度の距離を保ちながらその様子を見張っていた、エルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746)と、阿櫻・鵠湖(セリジュールスィーニュ・d03346)、霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)の女子チームが密かに動き出す。
     マリリンが男子チームに気をとられている今が、絶好のチャンスである。


     まだだ。まだこちらの正体を明かすには少し早い。
    「なにか用かな、ご婦人」
     観光客の振りを続けながら、弦路はレディ・マリリンに向き合った。
     対するレディ・マリリンはといえば、乗馬用の鞭を自分の手の中で軽く鳴らしながら、品定めをするように灼滅者達を見渡してくる。
    「……ふぅん」
     仮面の奥の瞳が、細く笑った。
    「なかなか粒ぞろいじゃない? それに……なにより若くて美味しそうだわ、坊や達」
     そう言ってペロリと舌なめずりし、レディ・マリリンはマントをひるがえす。
    「ワタクシの名はレディ・マリリン。ねぇ、坊や達もワタクシと一緒に阿寒湖のマリモを集めてみない?」
     そんな誘いの言葉に、稲葉が小首をかしげてみせる。
    「ねぇねぇ、なんでマリモ集めてんの? 教えてよお姉さん!」
    「アラ、坊や分からないの? マリモってね、とっても可愛くてセクシーなアイテムなの。ワタクシにピッタリでしょう?」
     陶酔気味にいまいちよく分からない理由を語るレディ・マリリン。
    「えっと……取ったマリモはどうしてるのですか?」
     少し戸惑いながらも、英一は礼儀正しく紳士的な笑顔でそれとなく聞いてみた。
    「知りたいの? いいわ、お姉さんが教えてあげる……さ、ついていらっしゃい?」
     すると、レディ・マリリンはそう言って灼滅者達に手招きをした。灼滅者達の反応を楽しんでいるようなその笑みが、何やら卑猥に歪んでいる。
    「……このままだと、中々厄介な事になるでしょうね」
     警戒するようにそう低く呟いて、英一は仲間達へと視線を動かした。皆もそれに頷いてみせる。もう、頃合いだろう。コホン、と小さく咳払いを漏らした蔵乃祐が、大きく息を吸う。
    「うわー阿寒湖に潜む巨大UMAアッシーが出たぞー早く此処から逃げ出すんだー」
     そしてこの棒読みである。だが、蔵乃祐は同時にパニックテレパスを発動させていた。辺りにいた一般の観光客達が、瞬く間に混乱の渦へと巻き込まれていく。
    「なっ、何なの!?」
     あまりに突然のことに、レディ・マリリンも警戒して辺りを見回した。
    「みんなこっちっ!」
    「此処は危ないので離れてください」
     逃げ惑う一般人を、深愛や織歌が上手く誘導してサポートに回る。
    「はーい! 北海道戦士コロ・ポックルンの撮影だからこの先はご遠慮願いまーす!」
    「ふぁっ!?」
     緒々子の一般人を捌く言葉には思いがけなかったらしい、完全に油断していた香蕗が一人、変な声を上げて驚いていたが、すべては、灼滅者達の思惑通りだった。
    「あなたの企みも、ここまでですよ」
     にこりと笑ったまま、巨大な剣を構えてみせる神音。
    「綺麗なお姉さんが相手で、ちょっと緊張しますね。けど、容赦はしてあげませんよ」
    「っ! 図ったのね、見かけによらず悪い子達……」
     ここにきてようやく嵌められたと気がついたらしいレディ・マリリンが、身構えつつ後ろへ一歩後退りしたその時。
    「逃がしませんよ」
     退路を塞ぐようにして現れた鵠湖が、レディ・マリリンに睨みを利かせた。竜姫とエルファシアも武器を構え、レディ・マリリンの前に立ちはだかる。
    「さあ、マリモは阿寒湖に返して貰います!」
    「くっ、小娘どもが……」
     宣戦布告のように光を帯びたサイキックソードを向けてくる竜姫に、レディ・マリリンは、ぎり、と奥歯を鳴らした。
    「……あ、もしかして食べちゃいました?」
    「たっ、食べるワケないっしょや! はんかくさいこと言ってんじゃないわよ!」
    「レディ・マリリン様」
    「お言葉が」
     そう教育されているのだろう。思わず言葉を乱したレディ・マリリンを、傍らのイケメン達がたしなめる。
    「あっ、イヤだわ、ワタクシったら……ありがとう、坊や達。後でたっぷりご褒美をあげましょうね」
     年甲斐もなく照れた表情で、レディ・マリリンは自分の胸を寄せて上げて強調する。豊満なそれが、きわどいレオタードから零れ落ちそうになる。
    「はは~ん、なるほどなるほど。その胸の双球もマリモっていいたいのね! わかるわ!」
     にやりと笑ったエルファシアが、対抗するように自分の胸を持ち上げてみせる。
    「でも私のほうが若いし大きいわ! 羨ましいでしょ!」
    「っくぅぅ! べっ、別に! 若さとか別に羨ましくともなんともないわ!」
     ぎりぎりと唇を噛み締めつつ、レディ・マリリンは手にしている鞭でピシャリと地面を叩く。
    「さあ! イキなさい、ワタクシの坊や達!」
    「了解しました」
    「レディ・マリリン様」
    「きたきた! マリリンおばさんの抑えは任せたわ!」
     構えたマテリアルロッドを手の中でくるくると回し、前線を切って駆け出していくエルファシアに、英一が小さく頷いてみせる。
    「コード……Combatant! 変……身!」
     そうしてスレイヤーカードを掲げた英一は……。
    「イーーー!!」
     悪の戦闘員みたいな姿に変身し、これまた悪の戦闘員みたいな奇声を発しながらレディ・マリリンに向けてビームを発射する。
    「フフッ、この程度なの? 今度がワタクシが……」
    「待って! オレの方も見てよお姉さんっ!」
     すかさず、稲葉がシールドを前に構え、レディ・マリリンに詰め寄っていく。
    「梵ちゃん、援護を」
     その後を、鵠湖は相棒の霊犬、梵ちゃんに追わせた。
     守りの要である英一と稲葉、霊犬の梵ちゃんがレディ・マリリンを抑えているうちに、残りの灼滅者達は洗脳されたイケメン達の目を覚ます作業に取り掛かる。
    「はあぁっ!」
     迫り来るイケメンの一人を、エルファシアがロッドで殴りつけて止めた隙に、滑り込んできた神音がもう一人のイケメンの前へと立った。
    「風の刃を味わってください。切れ味は、保障しますよ」
     穏やかで線の細い神音には似つかわしくない程の巨大な剣が、渦巻く風を纏ってイケメンを斬りつける。
    「まだまだ終わらないよ。ドラグシルバー!」
     イケメン達を見渡して少し後ろに飛んだ竜姫の声に応えるよう、ライドキャリバーのドラグシルバーはエンジンを唸らせ、戦場を疾走しながら銃を乱射する。それに合わせて、竜姫も構えたサイキックソードの光を爆発させ、イケメン達を抑えに掛かった。
     抑えの前衛陣の攻撃をやり過ごしつつ、戦況を見ていたレディ・マリリンが悔しげに眉を寄せる。
    「くっ、アナタ達……これ以上ワタクシを怒らせない方がい……」
     その言葉を遮るように、後方から放たれた魔法弾がレディ・マリリンの肩を掠めた。何事かと振り返ったレディ・マリリンの目に、わくわくした表情で手を上げる蔵乃祐が映る。
    「マリリンお姉さんマリリンお姉さん! 質問があります!! そのお胸で自己主張している二つの立派なマリモはイミテーションですか!! それとも天然記念物で……」
    「怒らせない方がいいわよ! 坊や!!」
    「っ!! はいすいませんでした黙ります!!!!」
     お返しとばかりに、もの凄い勢いで飛んできたマリモのビーム。思わず、気をつけのポーズになってしまった蔵乃祐。マリモが掠った頬には、焦げたような擦り跡が。
    「大丈夫か?」
    「うん、全然、大丈夫、意外と……それより折角の地元だ。存分に戦ってくれ!」
    「おう、ありがとな! したっけ行くぜ!!」
     そう、後押ししてくれる蔵乃祐の背中を軽く叩いて、香蕗もイケメン達の抑えに回った。
     所詮は強化されただけの一般人。灼滅者達が数人でかかれば、イケメン達を止める事もそう難しくは無い。
    「……っ、マリリン、様……」
    「手荒な真似をして、すみません」
     洗脳された虚ろな目を閉ざし、倒れていくイケメン達を安全な場所へと引き込み、鵠湖はレディ・マリリンへと向き直る。
    「これで残ったのはあなただけです。覚悟してくださいね。ご当地愛以外の欲望に走った者など私達の敵ではないと思い知らせてあげましょう」
    「言わせておけば……! 覚えてなさいよ、次に会ったら……」
    「逃がさんぞ」
     従順なイケメンを失い、逃げ腰で悪態をつくレディ・マリリンを、弦路は慣れた手つきで鋼糸を飛ばし、その身体を絡めとった。
    「イヤだわ坊や。こういう遊びがお好みなの?」
    「……ひとつ、確認しておきたい事がある」
     レディ・マリリンの反応に少々げんなりした表情を返しつつ、弦路は真面目に口を開く。
    「何故『マリモ+イケメン=世界征服』という公式が出来上がる?」
     そもそもな疑問だった。その問い掛けに、レディ・マリリンはクスクスと肩を揺らして笑いを漏らした。
    「さっきも言ったでしょう? マリモは可愛くてセクシーなアイテムなの……そうね、言って分からないならカラダで教えてアゲル……!」
     突然、レディ・マリリンは弦路の鋼糸を振り切り、地を蹴った。
    「イイーーー! イーーイイーーー!! イ゛エ゛ァ゛!!」
     止めに入った英一が、鞭で叩かれ、なぎ倒される。
    「ま、待って……!」
    「ウフ、掛かったわね」
     逃げの態勢から、転じて不敵な笑み。レディ・マリリンは続いて前に出てきた稲葉を押し倒した。
    「見てなさい。今からマリモの魅力を、たっぷり教えてアゲル……」
     黒い乗馬用の鞭の先が、稲葉の首筋から胸元、下腹部を妖しげになぞっていく。
    「こっ、怖いのと痛いのは……ヤダ……っ!! 酷くしないで!」
     顔を真っ赤にした稲葉が、小動物のようにぷるぷると小さく震え、涙目で訴える。
    「フフ、痛いのも、キモチイイって鳴くまで躾けてあげるわ、坊や?」
    「っーーー!!」
     稲葉の声にならない悲鳴が、阿寒湖の空に響いた。
    「な、なんてことを……!」
     鵠湖が慌てて、回復を飛ばしたのをきっかけに、一瞬呆気にとられていた仲間達も動き出す。
    「はい、おばさんそこまで! その衣装、ババア無理するなっていわれたことない?」
     エルファシアの鈍器のような槍が、レディ・マリリンの体を捕らえ。
    「マリリンお姉さんもダークネスじゃなければなあ! 勿体無い!」
     一気に距離を詰めてきた蔵乃祐の縛霊手が、稲葉とレディ・マリリンを引き剥がす。
    「くぅっ、小賢しい子達ね……!」
     よろめきながらも、レディ・マリリンは何とか体勢を保ち、走り出した。まだ、逃げ出そうというのか。
    「しっかりと、握りつぶさせていただきます……逃がしませんよ!」
     間一髪、神音が鬼神変で巨大に変異した腕を振り下ろし、レディ・マリリンに渾身の一撃を食らわせた。
    「こっ……このワタクシが……こんな、子ども達に……っ!」
     最後の力を振り絞り、レディ・マリリンは鞭を振るうも、鞭の先は空を斬った。
    「これで終りです!」
     咄嗟に飛び退き、距離を取っていた竜姫が、光り輝く刃を放つ。
    「っ!! おっ、覚えていなさい、この屈辱、いつか晴らして……っ、あああぁぁっ!!」
     ビリビリと音を立て、マントとレオタードが破けた。
     ほとんど生まれたままの姿になったレディ・マリリンが、阿寒湖に倒れ、水の中に消えていく。
     阿寒湖のご当地怪人、レディ・マリリン、灼滅完了の瞬間だった。


     レディ・マリリンの灼滅後、彼女の倒れた場所から、大量のマリモが発生した。おそらく、これが集めて回っていたマリモ達なのだろう。
     湖からはみ出し、落ちているマリモはいたって普通のマリモである。
    「マリモ自体に不思議なパワーがあるとかではなかったわけですね」
     少し安心したようにそう呟いて、神音はマリモをそっと湖へかえしてやる。
    「イーー! イイーー! イ゛エ゛ア゛!!」
     英一も戦闘員の姿のまま、湖の外に零れてしまったマリモを回収し、湖の中へと投げ込んだ。揺れる湖面を突いて遊ぶ梵ちゃんの頭を撫でながら、鵠湖は短く息をつく。
    「水棲生物は生息地の水にしか馴染まないものも多いのに、阿寒湖から連れ去るなんて酷いことをするものですね」
     本当に、よくこんな量のマリモを隠し持っていたものだ。あの格好のどこにこんな大量のマリモを隠していたのかは、あまり深く考えない方が良さそうである。
    「それにしても、予想以上に大きかったですね、コロさん。触れなかったのが残念でした」
    「はぁっ!? ななな、何言ってんだお前!!」
     零れたマリモの話をする竜姫に、何を勘違いしたか香蕗は顔を赤くして慌てふためく。そんなやり取りを聞きながら、蔵乃祐は、うんうん、と感慨深く頷いた。
    「古来より日本には、年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せっていう諺が有る……つまり、何が言いたいかというと、年上の女性って良いよね!!」
     そうして、先程からずっと落ち込んでいる稲葉に向かってぐっと親指を立ててみせる。
    「……っ、マリモの未来はっ、オレが、護った……!」
    「……大丈夫か? まあ、とりあえず無事に終わった事だし、土産屋でも覗いていかないか」
     弦路は、いまだに涙ぐんでいる稲葉の肩を軽く叩きつつ、皆を促した。
     せっかくの阿寒湖である。瓶詰めの養殖マリモや、食べ方が面白いマリモの羊羹などなど、お土産を買って帰還するのも気晴らしになるだろう。
     休憩もそこそこに、灼滅者達は近くのお土産屋さんを目指して歩き出しす。
    「……なーんか、本当にまた出て来そうだわ、あのおばさん」
     エルファシアが何気なくそう呟いた。
     レディ・マリリンはご当地怪人だ。もしかしたらまたどこからともなく湧いて出て来るかもしれない。
     歩きながら、灼滅者達はそんな懸念を胸の奥へと仕舞い込むのだった。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 20
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