おおきなちいさなじょおうさま

    作者:斗間十々

    「ちょっとアナタ」
     昼休み時の校舎内。教室を移動する為に少し足早に歩いていた女生徒が呼び止められた。
    「な、なんでしょうか」
     女生徒はビクついている。呼び止めたのは同じ女生徒だった。長い金髪に美しく整った西洋風の顔立ちをして、それに見合う不遜さを持った、最近やってきた転校生。
     しかし、呼び止められた意味を女生徒は知っていた。
    「アナタよく見ると可愛いわね。背も高いし。羨ましいわ」
    「そ、そんな……」
     恐縮してしまうのは気恥ずかしさからではない。女生徒はこの言葉の先を知っていた。
    「アナタ許せないから。私刑☆」
    「やだ、やだぁぁぁ!」
     彼女がぱちんと指を鳴らせば、どこからともなく黒服を着た男子生徒がやってきて、その両腕を捕まえる。
     泣いても喚いても助けてくれない。
     廊下に落ちた教科書達。
     金髪の彼女は笑っていた。「ざまぁみろ」とせせら笑って、小さく言った。
    「私より綺麗だなんて、許せないんだから」
     

     花咲・冬日(中学生エクスブレイン・dn0117)は、集まった灼滅者達を見て一呼吸、息と共に真剣な言葉を吐き出した。
    「皆さん、ヴァンパイア学園が動き出しました」
     ヴァンパイア――学園。誰かが反芻し、冬日は頷いた。
    「今、ヴァンパイア学園の生徒達が、日本各地の学校に転校生として派遣され、学園の支配を目論んでいるんです。その目的は……学校の風紀や秩序を乱しての、闇堕ちの促進」
     闇堕ち。冬日は少し辛そうに両手を重ねた。
     阻止して欲しいとは、言わずもがなであろう。
    「今回、皆さんに撃退して貰うヴァンパイアはカリンさんという女の子です。金髪の、少し髪がウェイブしてとっても美人さんです。でもカリンさんが行っているのは、彼女による私刑」
     カリンはスタイルが良く背も高く、同性から見ても、まして異性から見れば目もくらむような美人だという。
     それを武器に学園中の人間を虜にして、今や学園内の女王となっている。
     しかしカリンも他人を美しいと思うことはある。だが今回は、それが問題を引き起こしているのだ。むしろ目的を忘れて私情に走っている雰囲気すら伺える。
    「カリンさんが、ちょっとでも『美しい人』『可愛い人』と思えば、もしくは、男性でも『自分以外の誰かを好きな人』は、全部対象です。カリンさんの言う『私刑』が待ってるんです。そしてその内容が、とんでもないんですよ!」
     びしぃ! 冬日は思わず灼滅者達を指差した。
     どうやら殺害はしていないようだが――。
    「額に肉って書いたり、ひょっとこみたいにメイクしたり……しかも油性ペンで! それに勝手にモヒカンにしたり、ボウズに刈り上げたり、もう滅茶苦茶です!」
    「ひどっ!?」
    「思春期の女の子や男の子なら、ショックの余り闇堕ちしちゃいそうですよね!」
     それはどうだろう。
     誰かの言葉は流されたが、
    「だから皆さん、阻止です。阻止!」
     そしてようやく具体的な話に冬日は移る。
     カリンはいつも校内を自由気ままに散歩している。だから接触は自然さを装えばいつでも出来る。
     そして常に、自分よりも背の低い女生徒を2人、強化して引き連れている。
     また、カリンが指を鳴らせばすぐさま黒服のイケメン男子生徒が2人飛び出してくる。この2人も強化されていて、ダンピールによく似たサイキックを使用してくるようだ。
    「でも、今回は灼滅をしないでください。強化された味方も多いですし、……殺害してしまうとヴァンパイア勢力との関係が悪化する危険性が高まるんです。ですから、皆さんは『ヴァンパイアの学園支配を防ぐこと』を第一にしてください。戦わずに学園支配の意思を砕くこと。それが一番なんです」
     戦わずに、とは言葉の通り。戦わずに解決出来れば万々歳。
     けれど、ヴァンパイアは自分の作戦を邪魔する者がいると気づけば、あるいは話し合いの中で怒ってしまえば襲ってくる。最悪そうなったとしても、『灼滅者達を倒しても作戦は継続できない』ことを納得させるか、『このまま戦えば、自分が倒されるだろう』と感じさせれば、ヴァンパイアは撤退する。
    「出来れば戦わずに解決出来るよう、頑張って話し合ってみてください。特に、怒らせた場合は注意が必要です。あまり頭にきていると、話し合いも逃げることも、人って忘れてしまうでしょう? それと、カリンさんなんですけどね」
     冬日は少しだけふふっと笑った。
    「実は、小さな女の子なんです。いえ、年齢は高いですし、可愛らしいのは元からなんですけど、本当のカリンさんは私より背が低いんです。皆さん、この学園は高校だから背の低い方は『エイティーン』を使うでしょう? カリンさんも使ってるんです。絶対に、誰にも見せたがら無いんですけどね」
     そこをつけばあるいは? 冬日はそう言いながら、出来るだけ戦いの無い解決を、と、頭を下げて灼滅者達を見送った。


    参加者
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)
    冴渡・柊弥(影法師・d12299)
    宮守・優子(食べる係・d14114)

    ■リプレイ


     普段は悠々とカリン一行だけが闊歩している学園廊下。
     そこに普段は見かけない男女が歩いていた。それは転校前の見学を装う8人、灼滅者達。
     睦月・恵理(北の魔女・d00531)は美しい黒髪を靡かせて男子の視線を集めていた。元は小2のアリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)も今その姿は18歳、令嬢らしいエレガントな立ち振る舞いが生徒達の溜息をつかせる。
    「綺麗な髪だね。思わず見とれちゃったよ」
     更には道行く女生徒に甘く囁くレニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)も加われば、女王振る舞いしているカリンにその噂は嫌でも届く。
    「あの、良かったら案内しましょうか……?」
     カリンが来る前にたまらず声をかけた一人の生徒に、冴渡・柊弥(影法師・d12299)は「自分達でありのままを見てみたいので」と断りを入れた。
     が、ふと思い出して付け加える。
    「放送に興味があるので、放送室の見学許可を頂けますか?」
     それなら先生に許可を、と言い掛けた生徒の言葉がびくりと止まる。
    「そんなの要らないわ」
     カリンだった。
     金髪を揺らし、強化した生徒を供に連れたヴァンパイアにして学園支配を目論む女王が転校生――灼滅者達の前に踏み出した。
    「美しい人達がまた来たもんじゃない。でもまだ転入はしてないのね。それなのに、……さっそくナンパなんて。それも私以外の人に、ね」
     カリンは嫌みたらしくレニーを見る。
     その様子からは既に『私刑』のターゲットに候補に入っていることも伺えて、回りの生徒達は巻き添えを恐れてそそくさと場を離れていった。
    「あ、初めまして。……ねえ、あの子は?」
     因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)はその敵意を削ぐようににこやかにカリンに微笑みかけ、カリンにわかるような声音でそっと近くの生徒を捕まえて問い掛けた。
    「そんな子に聞かなくたって応えてあげるわ。私はカリンよ」
     亜理栖は自分に興味を持っているのかも知れないと思えば、カリンはふふんと小さく、満足げに笑う。自分よりきれいだからいじめる、でも命までは取らないなんて、まだまだお子さんの継母みたいだと思いながら、そっか、と亜理栖はカリンに相槌を打った。
    「それよりアナタ達、放送室に行きたいって? 私が案内してあげるわよ」
     まだ彼らをどう扱うかカリンも決めていない。
     ならば同行して様子を見ようとでも言うのか、カリンは率先して歩き出した。
     その後ろを影のようにそっと続いたのは黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)。生徒達に見つからず、その小ささゆえに、他の仲間達の影に隠れて藍花は居た。
    (「ヴァンパイアって意外と器が小さい」)
     カリンに続いていく灼滅者達。
     しかし宮守・優子(食べる係・d14114)だけは一抹の不安を覚えていた。
     これからの作戦はうまくいくだろうか。戦わずに解決出来ればいいと、恐らく一番強く思っていたのは優子だったのかもしれない。


    「さあ、ここが放送室よ。何が見たいの?」
     自信満々と言った立ち振る舞いに、遂に恵理はくすりと笑った。カリンがいぶかしむ。
     そして、言った。
    「ふふ、失礼。ばれている大真面目な変装っておかしくって……やめません? それ。どのみち『18歳』になれば得られる姿じゃないですか」
    「な……にを!?」
     カリンの顔が赤くなる。
     動揺しているのは見て取れた。慌てて取り巻きである2人を振り返るも、2人は冷静に「いつものカリン様です」と告げてくる。
    「僕らの目は誤魔化せません」
     海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)が畳み掛けるように言い切った。刺激しすぎていないか言動を観察するものの、――灼滅者達がこのヴァンパイアに対して選択した行動は、『見破っている』ことを言いつのること。
    「ごめんなさい、私でも解ってしまいました」
    「そうそう。僕、感が強いんだけどみんな知ってそうなんだよ。貴方の本当の姿」
     アリスが言う。
     亜理栖が言う。
     しかも、くすくすと笑う恵理が押したのは、全校放送のスイッチ。
    「あの転校生が上げ底靴やパッドで小さな体のごまかしを、ね。……可愛いじゃありませんか」
    「な――!!」
     カリンの元の姿は小さいと、確信に満ちた声が全校に放送される。
     カリンは慌てて振り返るも、付き人の2人は頷き続ける。埒が明かないと更に2人男子生徒を呼び出すも、やはり「いつものカリン様です」と述べていた。
     一体どちらが正しいのかカリンは混乱する。
     それでも。
    「アナタ達……一体なんで、そんなこと、言うのよ?」
     カリンは怒りに駆られるのをほんの少しだけ耐えた。耐えて、聞いた。
    「誤解しないで。君を怒らせたいわけじゃない」
     レニーは言うが、既に拳が震えているのを詠一郎は知っている。
    「力など使わずとも、あなたは立派な淑女です。まずは話を」
     そうです、と、アリスが再び歩み出た。
    「自分が気に入らない人達に次々に制裁を加えるなんて、まるで、カリンさんは首を刎ねろと命ずる、かんしゃく持ちのハートの女王様みたいです」
    「……」
    「でも、本当はハートの女王様は、誰の首も刎ねないし、愛するハートの王様にタルトを作ったりする優しい女王様なんです。カリンさんも本当はそんな優しい淑女でしょう? 学園支配なんてひどい事はやめて、どうか退いて下さい」
     それにですね、と、小さな藍花が進み出た。
     本来の自分と同じくらいの背だろうか。カリンは見つめる。
     無表情のまま変わらない藍花の言葉は。
    「この学校から手を引いて下さい、さもないと他のダークネス組織に対して、貴方達が自分の低身長をESPで誤魔化すような輩である、と情報を広めますよ」
     ――『脅迫』。
    「…………そういう、こと」
     カリンは低く呟いた。
    (「でもなんかこっちの言い分押し付けてるみたいっす」)
     優子が思ったことは的中していた。
    「ふざけるんじゃないわ!」
     カリンは叫んだ。
    「私のことを小さい、小さいと言って、それを全校で流して、出て行けって。それでなければ言いふらすって、ただの脅しじゃ無い。そんな話を――アタシが聞くと思ってんの!?」
    「待つっす! たとえカリンが小さくっても、自分は身長低い方がいいと思うんす。身長は小さい方が動きやすいし、逃げやすいっすからね」
     優子はフォローに回る。
     そのフォローはカリンが怒っていなければ有効だっただろう。
     けれど、灼滅者達が行ったのは、言葉でカリンを追い詰めるということ。それも、宥めるのは二の次に、カリンを圧倒するような態度を持っていた。
     横暴に学園支配をしていたこの少女が、言葉だけでたじろぐはずがなかった。むしろ逆である。灼滅者達が選んだのは、明らかに挑発としか取れない行為であったからだ。
    「騒ぎが大きくならないうちに去れば、これ以上みんなから残念そうな目で見られないと思うよ」
     亜理栖が言ったのは、戦闘をせずに刺激しないように、そのつもりだったのだろう。
    「これ以上ってどういうことよ、残念ってどういうことよ! もういいわ。私刑――いいえ、極刑だわ! 皆、容赦する必要なんてないからね!」
     けれど、カリンは激怒する。
     灼滅者達は、使う言葉を間違えた。


    「額に肉だけじゃすまないわ!」
     もしカリンが気弱な性格だったなら成功していただろう。
     しかしカリンは傲慢で我侭な少女。それに対し、どう繕おうと『脅し』のような言葉の数々では、そもそも交渉の成功は、望めなかった。
    「こうなっちゃったか。ま、仕方ないね」
     レニーが、灼滅者達が態勢を整え、柊弥が放送をオフにした時にはカリンも洗脳し配下とした学生を4人揃えて、命じていた。即ち「行け」と。
     くすりと笑う恵理が指輪から放つ魔法弾をそのままに、全員が一気に恵理へと腕を振るう。
     それは当然『私刑』――いや、『私怨』。
    「理恵さん! カリンさん、僕らと戦うのは愚策だと分かっているでしょう?」
     詠一郎が振り返りその傷を見、女生徒の一人に距離を詰めた。
     零距離で取り押さえるように打撃を加えるが、ヴァンパイアからの強化を受けた一般人はその一撃では倒れない。
    「アナタ達が8人も居るから?」
     カリンは不敵さを崩さない。
     カリンは女王振る舞いをするだけの実力を担っていると自覚していた。だからこそ圧政を敷いていた。
     そしてそれは事実でもある。
     ヴァンパイアとは、そうそう侮れることは許されないダークネスなのだ。
    「なっちゃったもんは仕方ないっすけど……!」
     優子は殺気を広げて味方を庇う。次はまず理恵を癒さなければとその表情に焦りが浮かぶ。
    「くっ……」
     それは理恵が一番よく解っていた。
     その一撃、一撃が重くその身を削る。
    「いいん、ですか? 私達にこんなことをして……」
     理恵はそれでも揺さぶりを掛ける。派閥争いや情報漏洩の可能性の示唆。しかしカリンはその手を止めることは無かった。
    「だから、何。アナタ達がしてるのも似たようなことじゃない」
     脅して。
     聞かねば、刃を交えて。
     カリンは血のように赤いオーラを理恵に向けたた。
    「理恵! 藍花、次も……」
     すんでの所でレニーが庇う。
     同じくディフェンダーである藍花を呼ぶが、徹底したカリンの私刑であり『リンチ』の前に、理恵は、1人の灼滅者は一溜まりも無い。
     灼滅者達は改めてその強さを実感する。
    「ビハインド……早く生徒達を」
     藍花の指示にビハインドはより傷付く生徒へ霊撃を叩き付ける。かは、と掠れた息を吐いた女生徒の1人に、亜理栖が白薔薇の斬艦刀、vorpal swordを叩き付ける。
     詠一郎は脅しに屈しそうならばネットで書き込みをすると言おうとも考えていたが、止めていた。
     それは更に煽るだけの結果となっていただろうから。
    「ふっ!」
     それでもせめてこの生徒達は助けたい。
     その思いのこもる詠一郎の拳は、女生徒を殴りながらも重傷を避けるよう加減される。
    「カリンさん、僕はあなたに淑女のままであって欲しいんです」
     尚も詠一郎は続けるが、カリンは既にその言葉を受け入れない。
    「淑女ですって。アナタ達、アタシを笑ってたじゃない」
    「そんなこと……!」
     笑ってなんかと、アリスもまた女生徒を抑えるべく光を放ち、放ちながらカリンに言う。
     カリンはその様子すら冷ややかに見ていた。
    「でも、アナタ達の方から拳を降ろす気もないんでしょ? だったらアタシは応じるわ。黙ってやられる趣味は無いの!」
    「でも、ここで騒ぎになれば、他のダークネス組織も勘付きます。この学園は諦めて、退いてくれませんか?」
     女生徒を狙うか――いや、柊弥の狙いはカリンを弱らせるのを第一に、影が揺らめいてカリンを刻む。
     カリンはその言葉にただフンと鼻を鳴らしただけで応えない。
     視線を逸らすようにして、行き着いた先は、理恵。
     ニィと笑う。
     自分を笑った相手を許さない。そんな感情に支配されているようでもあった。
    「大口叩いてた割にたいしたことないわ、ね!」
    「きゃあっ!」
     カリンが緋色のオーラを引けば、理恵が崩れ落ちるのを灼滅者達は見る。
    「次はアナタよ」
     カリンは次に、自分を脅した藍花へと冷たく笑って言い放つ。
    「ねえ、待って。そのままでも君の姿は美しいのに、全てまやかしなの?」
     レニーがフォローに入るが、カリンは首を振る。
    「今更、空しい言葉よ。それにアナタ達が本当に知ってようが知ってまいが、もう関係ないわ。アタシはね、私刑をすると決めたの。決めたら実行する。当然でしょ?」
     だからこそ、まず、狙いは一番自分を怒らせた理恵と藍花。
     ダークネスとはいえ思考する。
     簡単に目標を変更して、灼滅者達の優位へさせたりはしない。
    「……これ以上争おうとされるなら、この鍵を貴女の心臓に打ち込みます……! どうか、退いて下さい!」
     アリスがハート細工を施した、鍵のようなロッドをカリンに向けた。
     カリンの配下である生徒も数人倒れているが、カリンにとっては些細なこと。『駒』が『盾』の役割を果たし、自分へのダメージは少ないこと。
     まだ自分は俄然戦えること。
     カリンにとっての事実はそれであった。
    「アナタ、それって優位に立っている方の台詞よ」
     カリンは処断するように言い放った。そして、殴りつけたのは藍花――ではなく、ビハインドが庇う。ビハインドは微笑みながらふっと消える。
    「回復が――間に合わないっす、ガクも!」
     優子に急かされ、ライドキャリバーであるガクも前に出た。
     他者を癒す力のないガクは代わりに単体突撃して男子生徒の動きをも止める。
     亜理栖は口を噤む。
     降参を促すには灼滅者達の力が足りないのは、明白であったから。


     灼滅者達がミスを犯したというのなら、配下を4人も従えたヴァンパイアに対して、圧倒的な勝利を疑っていなかった。そこだろう。
     戦いたくなければ怒らせるという行為はまったく逆効果である。
     嘘でも相手を取り持つ――例えば宥める、ほめる、言葉で乗せる。そうしていい気にさせて退場を願う。カリンの場合ならば小さいことを肯定すること。カリンは、カリン以外に見とれる異性も処罰していたことから、例えばありのままのカリンを受け止めてくれる人がどこかに居る等と――嘘でも甘く囁けば誘導することは出来たかもしれない。
     そして戦いを挑むことが想定されたならばもう少しでも密にダークネスに対して、術を講じるべきでもあっただろう。
     見通しが甘かった――。
     配下は使い物にならなくなったが、灼滅者達も数人動けない。
    「カリンさん」
     柊弥の声は、騒ぎの大きさを懸念している。先程カリンが応えず目を逸らしたそこをせめて、穿つ。
     どちらも傷を負っているがやや押しているのは尚、カリン。しかし、柊弥の言葉にカリンは黙っている。
    「――そうね」
     一呼吸、おいてからカリンは両腕を降ろした。
     灼滅者達は安堵する。しかし。
    「良いわよ、アナタ達の『脅し』に乗ってあげる。アナタ達だって身長を偽っているみたいだし、他に散々わめかれたら溜まらないわ」
    「カリン」
     背を向けたカリンに、優子は思わず言った。
    「どう繕ったってアンタはダークネスなんすけど……お互いに分かり合えたりとかしないんすかね?」
     カリンは鼻で笑った。
    「どうかしらね。でも少なくとも、アナタ達とは分かり合えない。次に会ったら首を刎ねてやるわ。言うだけ言って、お膳立てで何とかなると思ってる連中に、優しい淑女である必要なんてひとっつもないもの!」
     痛烈な言葉を浴びせかけてカリンは今度こそ帰っていく。
     放送室に残されたのは灼滅者達と、配下として支配されていた学生4人。
     灼滅者達に言葉は無い。
     学園は守れた。それだけは、確かに為した。
     ただ物語は、お伽噺のように美しいハッピーエンドで終わってくれなかった。
     今回は、それだけのお話――。

    作者:斗間十々 重傷:睦月・恵理(北の魔女・d00531) 黛・藍花(藍の半身・d04699) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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