――拝啓、大切な人をなくしたキミへ。
大切な人へにもう一度会いたいというなら、この番号に電話してごらん?
通話は異界に繋がっていて、受話器の先のリガリカ博士が、君が望むあの時のままの『大切な人』の姿を作成し、君に送ってくれるだろう。
リガリカ博士は魔界の科学者。
魔法ではなく科学を愛する異端の悪魔。
だからそのボディもアンドロイドのそれで。
けれど悪魔だから、起動エネルギーに使うものはその人の魂そのもので。
でも忘れないで。記憶は脳によるものだから、蘇った『大切な人』は、君のことを覚えていない。
だから、もう一度『大切な人』に自分を思い出してほしいなら。彼に纏わる全ての思い出をインストールしてあげればいい。
魂に残った記憶とそれらが全て合致したのなら、二度と死なない大切な人が戻ってくるから――。
打ち捨てられた工事現場。ここに、その都市伝説を実行した人間がいた。
一人のプラチナブロンドの青年が一人の少女を抱えて、困ったようにしている。
『ナヅキ……菜月……? どうしたのです、か……?』
腕の中の少女は、すでに死んでいた。
全ての彼に纏わる記憶をインストールした結果、脳の大部分が欠落し、生命活動を維持できない状態となり、絶命したのだ。
けれどそんなことも、彼はわからない。
『菜月……貴方は僕を「イーサン」だという……。僕を愛していると、必要だと……それなのにどうして? どうしてあれから起きてくれないの?』
生まれたばかりの『彼』は、人の死すら意味がわからない。いや、正確にいえば知っている。何故なら自分は一度死んだから。
だがわかっていても、死とはただの眠りだとイーサンは理解していた。何故なら今自分がここにいるからである。
とはいえ、完全な記憶のインストールがまだであるイーサンは、自分の存在理由も価値も、そもそも在るといわれてもそれさえ乏しい現実感に悩まされていた。
ただ――自分が彼女を愛していると感じるのはこの前インストールされた記憶で理解している。
『菜月、起きて。貴方が覚えている「僕」をもっと教えて――』
ぽろぽろと零れる涙は、人の死を悲しむものではなく。ただ眠り続けている理由がわからぬ嘆きと孤独。
都市伝説、魔想機サーリアルデザイア。
神の膝元から奪われた魂で作られた、背徳人形。
死を納得できなかった人間より生まれた、永久未完のアンドロイド。
その『大切な人』の全ての記憶をもっているものなど、本人以外あり得ないのだから。
「集まってくれて、ありがとネ。今回は、人間の脳の中にあった一部の記憶が具現化させられた都市伝説の灼滅をお願いするヨ」
言うなりキリリと表情正し、仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)は依頼の説明に移る。
「都市伝説の名前は、魔想機サーリアルデザイアっていう、何処かのファンタジーSF小説にありそうな内容のものだよ。とある番号に電話すると魔界に住むリガリカ博士に繋がって、二度と死なない体に魂を埋め込み蘇らせて、返してくれるんだって。でね、最初に電話をかけちゃった子が被害者、そしてその子の恋人が、都市伝説に従い形を成しているんだ。試しにオレ電話かけてみたけれど、現時点で都市伝説が具現化しているから繋がりもしなかったよ」
つまり別の人間が電話をかけたにしても、新たに生まれることはない半面、そんな都市伝説サーリアルデザイア「イーサン」は、当然普通の都市伝説と同じように簡単には壊れる事も停止する事もない。
そして腕に抱く菜月や自身に何らかの危機と判断した時、攻撃を仕掛けてくるので、いずれ一般人に被害が及ぶ危険があるのだ速やかな灼滅が必要である。
イーサンは菜月が死んでいることもわからない。損壊しても、簡単に再生できると信じている。アンドロイドの自分が、そうであるがせいで。
そのため、菜月の遺体が多少損壊しようとも、関係なく攻撃してくるだろう。
「でもね、この都市伝説、インストールによって一般人から得た元人物の人格やらを得ているためか、話が通じなくはないんだ。だから……」
説得内容によっては、都市伝説自ら消滅の決断をさせることも可能だと沙汰は言う。
「イーサンが何者なのか、どうして菜月は起きないのか、死とは何か、死に関してキミたちが思うこととか色々伝えてあげてほしいんだ、なるべく穏便にね。そして蘇ってしまったイーサンは、在るべきではないと納得してくれれば、消えてくれる」
戦うにしても、説得にしても、ハッピーな終わりなんてない。だが安息を与えてあげることはできる。それは勝手なこちらの都合のいい解釈だとしてもだ。
「全てはみんなに任せるよ。だから、この物語に、完全なる終焉を」
愛するものを取り戻した代償に、自分が死ぬ物語に終焉を。
愛するものを自覚なきまま死に至らしめ、そして永遠の孤独と取り戻せない自分の狭間に彷徨うアンドロイドに停止のプログラムを。
どうか――。
参加者 | |
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六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103) |
向井・アロア(晴れ女だよ・d00565) |
篠原・朱梨(闇華・d01868) |
真馳・空(スクリプトキディ・d02117) |
紫・アンジェリア(魂裂・d03048) |
九重・透(目蓋のうら・d03764) |
緋乃・愛希姫(緋の齋鬼・d09037) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
まだ冷たい夜風に乗って、微かに残っていた桜の花が散る。
月光の中、最後の美しさを手放した葉桜は、何とも言えない哀愁を募らせる。
闇に消えゆくひとひらを目で追いながら、緋乃・愛希姫(緋の齋鬼・d09037)は願う。人の感情によって作られた機械であるならば、どうかこの想いが届きますようにと。
くぐり抜けた先に待っていたのは、無機質で、退廃した箱庭。崩壊間際の危うい世界のようにも見えた。
『菜月、起きて』
イーサンは困惑したまま頬を撫で、自分を自分と定義してくれる菜月を求めて、なんとか揺り起そうと必死になっている。愛希姫には、無機な人口の光に照らされているイーサンの顔が、嘆き苦しんでいるようにしか見えなかった。それは、決して欲目などではない。そんな想いがひしひしと伝わるほど、イーサンの挙動はアンドロイドのそれではなく、人間だった。
ある地点まで近づいた時、イーサンの顔が強張り、そして的確にこちらへ視線を向けた。探知に引っ掛かった時点でしか対応できない様は、機械そのもの。
(「この感覚は、共鳴? 親近感?」)
人と機械の間を彷徨う彼の挙動が、何処か自分と重なって。真馳・空(スクリプトキディ・d02117)は不可思議な感覚を受けながら、銀色の瞳に彼を映す。
(「わたしがしった、『世界の彩度』が、あなたにとどくのなら」)
からっぽとも言うべき無機の箱を抜けた先に在ったもの。在るのに何もない場所から、ありふれた場所で空が見つけたものを届けるため。
相手の警戒を煽らぬよう一旦歩みを止めると、篠原・朱梨(闇華・d01868)はまず挨拶を。
「初めまして。私は篠原朱梨と言います」
じっとこちらを見つめる目を、六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)は真っ直ぐと受け止めながら、大切にしているロザリオを胸に抱き、
「貴方を知らないけれど、悲しいと思い、奈月さんを救いたいと願う、人間です」
イーサンは黙っているが、あからさまな敵意はない。まず素性を確かめているといった感じだった。
「彼女が目覚めない理由を伝えたくてね。出来れば争いたくはないし、穏便に話がしたい」
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)は、勿論自分は今丸腰であるという意思表示をしながら、紳士的な態度で臨む。
「君達二人に危害を加えるつもりはないんだ」
判断材料となる要素が一つでも多い方がいいだろうと、九重・透(目蓋のうら・d03764)も言葉を添え、
「だから、少しの間だけ私たちの話を聞いて欲しい」
そしてゆっくりと丁寧に頭を下げた。
そんな仲間を見ながら、向井・アロア(晴れ女だよ・d00565)は息をつく。
(「どっちにしても……かな。消滅は救済ではあるけど、幸せになれるワケじゃないし。 せめてもの救いをって思いはあるけど……」)
人として、可哀相だという気持はもちろんある。説得による消滅の方針は賛成なアロアであるが、人に害を成す都市伝説に感情に引っ張られ過ぎないように、一歩引いた場所で冷静な判断をするつもりなのか、自分なりの説得の言葉は用意していない。
(「アンインストールできちゃえればいいのに……」)
正直こんな重い話は得意ではないアロアとしては、相手がただの都市伝説の方が、気が楽なのだろう。でもそれが仮にできたとして、それでは死んだ菜月の想いはただの道化に等しくなるから。その言葉は心の中だけで留めた。
『わかりました。お話、伺います』
やや時を経て、イーサンより了承が返ってきた。誠意を受け取ってくれた証拠。安堵と、次いで浮かぶ、伝える言葉は残酷であるという事実。改めて感じる重み。
「まず自分が菜月とは違う存在で。アンドロイドだという事を理解しているだろうか?」
最初に切り出したのは、エアン。まずは基本的な認識がどうであるか尋ねた。理解している内容によっては、言葉のニュアンスにも変化が必要になると思ったからだ。
『意味が分かりません。僕も貴方たちも、同じにしか見えません。そもそも、僕は菜月と再生前のデーターを一部共有できましたし……』
ヒトの形をしたものは、全て自分と同じ構造であるとイーサンは勘違いしているらしい。紫・アンジェリア(魂裂・d03048)はイーサンへ近付くことに断りを入れると、その傍らにしゃがみ、その顔を見上げ、
「いい、イーサン。よく聞いてね。ここには3種類のカタチがあるの」
明らかに3種類以上ある。そんな顔で困惑しているイーサンは、単純に姿形で判断をしている。アンジェリアは、そうじゃないと緩く首を振りながら、
「ここには生きている人と、アンドロイドと――そして死んでしまった人」
区別のために生と死の単語を。
「イーサンは、最初菜月や私達と同じだったの。でも一度壊れたの。今の菜月と同じような状態になってしまったの。でも菜月はそれが納得できなくて、ずっと一緒にいたくて、意地悪が隠されてたイーサンと一緒に居られる魔法みたいな方法に手を伸ばして……その意地悪の所為で菜月は、私達とも違うカタチになっちゃた……。でもそれはイーサンを愛してたからよ? 菜月が愛してるのを、菜月を愛してるのを、イーサンは知ってるよね?」
『はい』
「だからイーサンが覚えてるの」
アンジェリアに、自然と寂しそうな微笑が浮かぶ。徒に暴走した噂話に翻弄された二人に心を重ねて。
『菜月が僕を再生させてくれたのは知っています。菜月が僕を大事にしてくれて、そして僕を求めていたのもわかります。けれど、皆違うようには見えません。もう一つ言えば、どこが壊れているのかわかりません』
静香はそっとイーサンの手を取ると、包み込むように握って。
「温もりを感じ取れますか?」
『ええ、貴女の熱を感じます』
「そして、これが命」
(「わっ!?」)
静香の行動に対して、アロアは声を上げなかった自分を褒めた。頸動脈がわかりやすいとはいえ、喉元に都市伝説の手を引き寄せるなんて何かあってからじゃ遅いのよとハラハラ。
だが、これくらいの覚悟がなければ、命というものを伝え切れないことも事実。
「貴方と奈月さんが、失ってしまったモノです」
『僕と、菜月が?』
イーサンは静香の命の流れを不思議そうに感じながらも、失ったという実感もないようで、数人確かめたいと願い出る。
アンジェリアは快く自身の脈に触れさせて、「この鼓動は、生命として活動しているからこそ生まれる力よ」
「だがイーサン、君の体の中に血や肉は無くて、君が消滅を望まない限り死なない」
「我々人間にとって死は眠りではなく永遠の別れだから、二度と目覚める事はない。つまり、イーサンが例外であり、それこそが人間ではないという証しとなるんだと思う」
透とエアンが願いの核心へと言葉を切りだして。
「嘘だと思うなら、私たちに傷を付けてもらったって良い。体からは、血が、肉が、噴出すだろう。そして傷が過ぎれば死ぬ。……菜月さんのように」
透とエアンの言葉を実証したい、中身を確かめたいという望みはイーサンにもあった。百聞は一見にしかず、何より一番の解決方法だから。
しかし、真摯に接してくる相手に傷をつける抵抗があるのも事実。
それは人間らしい感情を垣間見た瞬間。
「良く見てくれ」
その覚悟をしていたエアンの行動は早かった。意味ある自傷であっても、女性に任せることなどしたくなかった。
殲術道具を使い、腕を裂く。
「自分の腕と見比べてみるといい」
エアンの腕に溢れた生々しい血に何とも言えない気持ちを抱き、イーサンは明らかに困惑していた。
『……でも、菜月は何処にも傷ついていない』
強張った顔が告げる。それはイーサンにとっては最後の希望だった。傷も無いのに停止している菜月は、逆に自分と同じ存在なのではないかと。
「人の死は、外傷が全てではなく、内部の不調にも左右されます。一つの臓器、一つの器官、それは今目に見えませんが、傷付けば確実に死に至るのです」
その疑問へ愛希姫は丁寧に応える。
壊れた器官がどこなのか知りたい半面、イーサン自身それを確かめるにはとてもできない。それは、愛している人を傷つける行為が、彼の知る記憶の中で最低の行為だとわかっているから。
『違う。違う違う違う違う――っ』
イーサンは、菜月を守る様にして抱き直そうとした。
だが叶わなかった。
『……なづき……?』
それは、時が教えた。
灼滅者が出来る限り穏便に話を進め、イーサンが菜月の体をしっかりと観察できる状態ならば、必ず知ることができる変化だった。
菜月の亡骸を傷つけることなく、違うと理解させるに至るもの。死斑、死後硬直が全身の関節に始まっていて。
硬直と柔軟を併せ持つ体はもう、人とは言えず、アンドロイドとも言えず。死に嘆き、再会を願うこの夢のような物語にも、突きつけられるのは死したものに平等に振りかかる現実。
「悲しいけど、菜月はいずれ朽ち果ててしまう」
菜月に視線を落とすエアン表情は、悲痛の色を帯びていた。少なくても明日には下腹部から腐り始めるだろう。
「だから菜月と共に消滅の道を選んで欲しい」
エアンは、どうか一人取り残される前に決断して欲しいと。
『そんなこと、ない』
イーサンは固くなった関節を戻そうとした。
嫌な感触が、イーサンの手に伝わる。その感触より得たのは、恐怖と、絶望と。
アンドロイドである自分と菜月が違うものであると悟った瞬間だった。自身が、意地悪な魔法で作られた存在であると理解した瞬間だった。
「死とは、生命の不可逆な停止を意味します。そして、そこに至るまでの尊厳がある。理解できますね? それを冒涜する以上、貴方は人間に成り切れません。大切なモノを解すならば、正しい判断が行えますね?」
理解したくない言葉を突放すように、イーサンはきつく菜月を抱えたまま、顔をそむけた。わかっているからこそ認めたくない真実から逃げたいと願っていた。
「どうか、最適な選択を」
空の透き通った声が紡ぐ言葉。イーサンはまだ沈黙している。
「朱梨もイーサンさんにお願いしたい。どうか、眠ってはもらえないかな。誰よりも何よりも愛しただけなのに、その想いがこんな擦れ違いを生むなんてそんなの、悲しすぎるって思うの……」
ぽろぽろと大粒の涙が零れ、嗚咽に言葉が詰まりそうになるけれど。それでも朱梨必死に言葉を紡ぎ、心を伝えようと努力し、
「このままじゃ……菜月さんもイーサンさんも、独り。誰よりも愛する人の傍にいられないなんて悲しすぎるから……だから、お願い」
願いにも似た一つの言葉を朱梨が言霊として渡した時、イーサンは嗚呼と声を漏らし項垂れた。
その存在の、なんと滑稽で哀れな事だろうと。
『ここにいる僕は何者なんでしよう……。僕が菜月を愛しいと思う気持ちもただのインストールされたプログラムなのか。ここで貴方たちと言葉を交わし、心を通じ合わせている僕がただのプログラムであるとしたら――』
イーサンは、くしゃりと歪みそうな顔を必死に取り繕い、純粋に明確な返答を求める。透は目を閉じ一つ息をつき、そして思い切った様に切りだした。
「確かに君はイーサンじゃない。姿形だけ似せたもの。君が只のプログラムと言われればそれまでだ。しかし、今ここにいるイーサンがプログラムであるという保証もない。何故なら、サイキックエナジーがどこまで噂の再現を行えるか検証できないせいもある」
「でも、でも感じる心は菜月の愛したイーサンよ」
菜月の思い出のみだが、それでも正確な形となって再現されたもの。そして、サイキックエナジーによる暴走体とは到底思えぬほど――こんなに心通じ合う純粋な意思に、アンジェリアはそう思わずにはいられなくて。
「もしも、都市伝説の通り、本当に神様の御膝元から奪われた貴方の魂であるなら――」
静香はただ心の中、此の世にもしもがあるならばと願う。
そんな可能性が限りなく低いものだとわかっていた。都市伝説として形を成したことよりも、もっともっとありえない、超現実であると。
それでも。
「私は、貴方がイーサンだったと信じたい」
「朱梨も、信じているよ……?」
気休めの言葉として受け取られてしまうかもしれないけれど。
「貴方が存在したことは、私たちがおぼえているから。貴方と彼女の、物語は、私が忘れない。貴方は確かにここにいたのだと」
愛希姫は人の記憶に残っていることが、その存在の確かさであり救いとなってほしいと願った。
『……ありがとう。そのお気持ちだけで十分です』
言葉を受け止め、イーサンは泣きそうな顔でそう言った。
『でも菜月が許してくれるなら、本当のイーサンに出会うまで、彼女の一人にさせないように、せめて生み出された役目を全うしたい』
イーサンは抱きしめていた菜月を資材の上に寝せると、片膝をつき。その硬直した手に触れて、
『ね、菜月。一度だけナイトの役目をさせてくれないか。君の愛する人へ送り届ける為に』
たった一時だけ、君の傍で。君の手を取って。
「イーサン。それは天使の役目よ?」
そんなイーサンの願いに、朱梨が思ったまま告げた。それが一番相応しいと思ったのだ。
『てんし?』
「そ。死んだ人が逝く天国という場所へ、魂を運んでくれる存在だよ」
なんとか穏便に納まりそうだしと安心しながら、アロアはにっこりと微笑む。
『なら、僕は菜月の天使に――』
口づけを落とすと、死に恐怖の無いアンドロイドは、たった一つの躊躇いも無く、永遠の停止を望んだ。
イーサンは菜月の傍に倒れ、死んだ。
サーリアルデザイア――現実を超え、現実では決して成就しない情熱へ向けた皮肉の終わりは、やはり悲しみの一択しかなかった。
「……いっしょにうめてあげたいな」
愛する人と寄り添いながら眠ること。それはとても人間らしい死だと空は思ったから。
「せかいのうつくしさがあふれる、あざやかなばしょに」
空はそっと二人の手を重ねてあげた。
悪魔によって作られたそれは、灼滅者の言葉で白の翼を得た。
彼は菜月の天使になり、神の傍へと旅立った。
二人の亡骸を、同じ場所に埋葬する。
そこは世界の色彩である四季が沢山感じられる場所。
埋葬を手伝うアンジェリアの顔は、寂しそうにも、一緒なのを嬉しそうにも微笑んでいるように見え。
「失いたくない愛の為、悪魔に耳を貸した少女を見捨てないで。お願いですから、あの一途な魂と憐れな機械に、救いと安らぎを」
静香がそっと神へ祈る中、アンジェリアは愛された印を、今はメイクで自分に施す額の紫のハートマークに手を触れて。
菜月が本当に自分の死と引き換えにしたかったのか。共に生きるつもりだったのか――物語の真実は、やはり本人にしかわからないけれど。
エアンは左の薬指に嵌める指輪に口付ける。
愛する者へ同じ孤独を与えてしまわぬよう誓いを込めて。
作者:那珂川未来 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 11/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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