年上彼女と年下の君

    作者:聖山葵

    「……はぁはぁ、そ、そこの僕」
     たぶん側に保護者が居たなら、真っ先に駆け寄っただろう。
    「はぁはぁ……」
     帽子とマスク、そしてサングラス。まるで後ろ暗い事でもあるかのように顔を隠した人物が息を乱して幼い少年の前に屈んでいたのだから。何というか、どう見ても不審者以外の何者でもない。
    「私と――」
    「うわぁぁぁん」
     不審者が最後まで言い終える前に怯えた男児が泣き出したのも無理からぬ事。
    「え、ちょ」
    「お゛がぁさぁぁぁん」
     狼狽える不審者を前に少年は母親を呼び始め。
    「何も泣かなくてもいいじゃない……」
     ポツリと漏れた言葉にあわせて少女の頭から帽子が落ち、髪が流れ出る。
    「当たり前の恋とかしてみたかっただけなのに……」
     その日、一人の少女は闇に堕ちた。
     
    「あるところに一人の少女が居た」
     少女の名は、前塚・ミサ(まえづか・みさ)。当人に自覚はなかったものの、かなりの美人だが、皮肉にもそれが災いした。
    「ある日ミサは好きになった同級生に告白したのだが、ミサの容姿に気後れした相手に交際を断られてしまう」
     この時、少年が口にした言葉を自分が醜いからだと誤解したミサは、その日からマスクや眼鏡、帽子などで自分の顔を隠すようになっていったのだ。
    「端から見れば、不審者にしか見えない格好になってせいで、その後何度か告白したものの、全て玉砕し……」
     失恋するたびに相手の年齢を下げつつも、好きになった相手が出来るたびに告白していたミサだったが、格好が格好だけに連敗記録を更新するだけで。
    「行き着くところまで行き着いたというか、公園で遊んでいる幼稚園児に声をかけ、泣かれた事がショックでついには闇堕ちしてしまう」
     と前ふりは長かったが、つまりは少女が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしているらしい。
    「正直、『年下男子×年上女子が見たい』という理由だけでよく見つけられたと思うが」
    「情熱の勝利だ」
     たまたま小学生に声をかけているミサの姿を水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)が見つけたことで、今回の予知につながった。
    「通常ならば、人は闇堕ちした時点でダークネスの意識を持ち、人間の意識はかき消えるものの、今回のケースでは元の人間の意識を残している」
     いわば、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状態という訳だ。
    「もし、ミサが灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい」
     完全なダークネスになってしまうようなら、その前に灼滅を。
    「恋することに罪なんて無いからな」
     ひょっとしたら、このエクスブレインの少年もミサには助かって欲しいと思っているのかもしれない。
    「ミサが闇堕ちするのは夕方、公園で出会った幼稚園児に泣かれたことがきっかけなんだ」
     故に、場合によってはこの幼子を巻き込んでしまうのだが、巻き込まない方法も存在はする。
    「先んじて公園に赴き、件の幼稚園児を立ち去らせ、君達の誰かが告白を拒絶することで闇堕ちを誘発させればいい」
     この場合、幼子の保護に心を砕く必要はなくなるが、説得が難しくなるのは言うまでもない。
    「闇堕ち一般人と接触し、人間の心に呼びかけることが出来れば戦闘力を下げることが出来ることは知っているよな?」
     だが、話しかける側が直前にその心を傷つけていたとなれば、どうなるか。
    「そもそも、ミサは今までの失恋から年下の異性にしか心を開けなくなっている」
     具体的に言うなら小学生以下の男子。
    「男として……オイラ、男の子として」
     片隅で呼ばれた理由に何故か感動している鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)の様なごく限られた者しか説得に適さないとするなら、貴重な説得役を闇堕ち誘発に使って良いものか。
    「尚、説得は言葉よりも実力行使の方が効果があるようだから、君達が拘らないならそれが一番手っ取り早い」
    「実力行使?」
    「あぁ、キスだね」
     既に恋人が居るような者には決して出来ないし、まだ恋人の居ない灼滅者にとっても貴重な初接吻だったりするかもしれない。
    「もちろん、無理にとは言わない」
     いくら少女を助ける為、いわば人工呼吸の様なものだとしても、ミサ側からすればそうはとられない。
    「百聞は一見にしかず、千の言葉より一の行動と言うことだな」
     もっとも、接吻以上のことをしてしまった場合、逆効果になるともエクスブレインは言う。
    「相手は恋愛経験ゼロの女の子だ、変な対応をして男性不信に何て事になったら目も当てられない」
     心を閉ざし書けている少女の心を開く筈が逆に閉ざさせてしまったのでは救える者も救えない。
    「簡潔にチャートにするなら『闇堕ち→キスする→ボコる→救出』と言ったところか」
     エクスブレインは口にしたことを黒板に書き出して行くが。
    「言いたいことは解るけど身も蓋もないよね」
     と和馬がツッコミを入れることはなかった。
    「うん、オイラ頑張るよ。それじゃ」
     男の子扱いされたことがよっぽど嬉しかったのか、いまだかってないほどの熱意を込めて頷くと、そのまま踵を返そうとし。
    「……って、説明まだ終わってないぞ?」
    「ちょっ、オイラ猫じゃ」
     振り返ったエクスブレインは歩き出そうとしていた和馬の襟首を捕まえ、抗議をスルーしつつ説明を再開する。
    「それで、戦闘になるとミサはサウンドソルジャーのサイキックに似た攻撃を使ってくる」
     闇堕ちした一般人を救い出すには戦ってKOする必要がある為、戦いは避けられない。
    「まぁ、全てはミサとこのままでは確実に巻き込まれてしまう幼稚園児の為だ」
     未だ襟首を掴んでぶら下げた和馬の方を微妙に不安げな目で見つつも、そう言い終えたエクスブレインの少年は和馬を降ろすと頭を下げた。
    「よろしく頼む」
     

     


    参加者
    編堵・希亜(全ては夢の中・d01180)
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    海老塚・藍(スノウホワイトフェアリィ・d02826)
    西園寺・奏(シュヴァルツヴァイス・d06871)
    聖刀・忍魔(無限六爪・d11863)
    山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)
    木花・桜乃(桜色アリア・d17106)
    蓬栄・智優利(ルナティックスターダスト・d17615)

    ■リプレイ

    ●現れた少女
    「……これから、お姉ちゃん達でこの公園を使わせてほしいの。……お菓子上げるから、お願い、ね?」
     蓬栄・智優利(ルナティックスターダスト・d17615)は編堵・希亜(全ては夢の中・d01180)が砂場で遊んでいた幼稚園児へ話しかける姿を遠目に眺めていた。
    「んー、いいよー?」
    (「良かった。無理に追い払うのはかわいそうだものね」)
     この交渉が成立しなかったとしても智優利が殺気を放って人払いする手はずだったが、使わずに済むに越したことはない。
    「まだ良さそうだな」
     公園のベンチに腰を下ろした聖刀・忍魔(無限六爪・d11863)は目を落としていた本から顔を上げ、入り口を確認すると視線を本へと戻す。
    (「初めは好奇心のつもりだったんだけどね」)
     つい今し方まで一人の幼稚園児が遊んでいた公園は園児が去ったことで賑やかさこそなくなったものの、平和そのもので、茂みに潜んで苦笑する水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)は同じ茂みに身を隠す木花・桜乃(桜色アリア・d17106)を横目でちらりと見ると再び公園の入り口へと目をやった。
    「瑞樹さん?」
     幸せそうな笑みを浮かべたまま首を傾げた桜乃に何でもないよと答えつつも胸中で嘆息したのは、エクスブレインから放置すればどうなるかを聞いていたからだろう。
    (「でも彼女の状況を考えると萌では済まされないね」)
     シチュエーションを心の栄養にするだけでは済まない事態だった。
    (「小さい男の子が年上のお姉さんにキスするって、想像しただけで萌えるっすね。いや、それより人助けの方が優先っすけど」)
     と山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)が思っているように、闇堕ちしかけた少女を救うことこそが本来の目的なのだから。
    (「運が悪かった、のかな? それにしても、もう少し方法はなかったのかな」)
     幼稚園児の誘導を終え、忍魔の横に腰を下ろした希亜は少女が闇堕ちする経緯について考えながら視線を砂場へ投げる。
    「そろそろかな……藍っ! 頑張ろうね?」
    「奏くん、頑張ろうね」
     幼稚園児の居なくなった砂場で互いに声を掛け合う西園寺・奏(シュヴァルツヴァイス・d06871)と海老塚・藍(スノウホワイトフェアリィ・d02826)が、今回の作戦の要。
    「みんな――」
    「来たみたいっすね」
     最初に発見したのが鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)だったのは、智優利が見張りを頼んでいたからだろう。
    「あんなものいらないのにね」
     言葉の最後に星でも飛びそうな明るい声で智優利示したのは、来訪者をどこからどう見ても不審者然とさせている帽子とマスク。
    「あっ」
     公園に入って来るなり首を巡らせた不審者風少女の目が二人の小学生にとまり。
    「……はぁはぁ、そ、そこの僕」
     緊張からか息を乱ししつつ声をかけるまでに時間はかからなかった。
    「あぅ……な、なに、来ないで……いやぁ、来ないでぇっ!」
    「え、ちょ」
     そこから先の光景は、エクスブレインが灼滅者達に見せた光景と大差ない。怯えて泣き出したのが幼稚園児ではなく、奏であることと。
    (「あ、行かないと」)
     隣にまごつく藍が居ることを除いては。

    ●告白的なもの
    「あの……その……突然ですがキスしていいですか?」
    「えっ」
     帽子を落とし心の均衡が崩れ始めていたにもかかわらず、少女こと前塚・ミサは呆けたような顔で動きを止め、聞き返していた。
    「ダメかな……」
     まるでその問いかけを拒否と取ったかの様に上目遣いで尋ねてくる少年。
    「えっ、あ、いやそ、そんなこと……」
     隣の少年に泣かれたかと思ったらこの展開、ミサにも予想外だったのだろう。
    「突然こんなこと言ってごめんなさい」
     しどろもどろになったミサの頬に藍の唇が触れ。
    「うまく自分の気持ちを伝える事ができないけれどキスをしたいと思ったんだ」
    「ええと、ありがとう。じゃなくて、その……」
     背伸びして口づけした藍が言葉を続けた直後、ミサの身体から漏れ始めていた妖艶な気配が急速に減退し、言葉を探すように狼狽え出す。
    「お姫様は目覚めのキスで目が覚めがっすか? 覚めてないようなら、目覚めの一発を喰らわせてあげるっすよ」
     この隙だらけの相手を見逃す灼滅者など居ない。
    「え」
     ミサが声に振り返った時には、既に菜々が槍の穂先を届かせる位置まで踏み込んでいた。
    「きゃぁぁっ」
     捻りを加えた妖の槍に巻き込まれた風が鳴き、胴を突かれたミサが悲鳴を上げる。
    「俺には、好きってどんな事か分からないけど」
     そう前置きした忍魔からしても、怖がらせるのはいけないことで。
    「うっ、いったい何を」
     穂先でえぐられた場所をおさえながら叫ぼうとする少女へ、死角から斬撃を放ちながら忍魔は囁く。
    「別に君は醜くない、ただ、勘違いしていただけだ」
     と。
    「痛っ、そ、そんなこ……」
    「アナタはこんなに……かわいいじゃない☆」
     そう、全ては自分の容姿への勘違いから始まったのだから。智優利は、WOKシールドを構えつつ少女に迫り。
    「何も恥じる事も苦しむ事もないよ。大丈夫! アナタはかわいい」
     だからマスク取っちゃおうよ、と微笑みかけながらぶつかって行く。ビハインドのスズランが顔を晒す様をさりげなく示して。
    「きゃ……あ? ま、マスクが!」
     シールドを叩き付けられた弾みでマスクが外れ、ミサの素顔が露わになったのは偶然か。
    「駄目っ、見な」
     慌てて顔を隠そうとする少女の動きを一人の少年の視線が止めた。
    「少し痛いかもしれないけどお姉様を救出する為だから」
    「……救う?」
     少女からすれば、いきなり複数の見知らぬ同性から襲いかかられた直後であるにも関わらず、目と目があった瞬間にミサの動きが止まって。
    「さっきは怖がってごめんなさい、おねえちゃん」
    「っ」
     藍の後ろから謝罪した言葉に少女の顔が引きつるが、奏は構わず続けて問う。
    「自分に、自信が持てないから……自分を隠そうとするんだよね?」
    「ちっ、ちが……っ」
     ミサは一瞬否定しようとして否定出来なかった。事実でもあったのだろうが、形成された漆黒の弾丸が自身に向けられていたのだから。
    「くっ」
    「耳を背けちゃ駄目だよ」
    「う」
     少女は言葉にではなく攻撃に反応しようとして、口ずさみ出した桜乃の歌に顔を歪め。
    「僕も、自分に自信が無くて……好きな人が、自分の方を見てくれるはずがないって、思ってた」
    「あな……たも?」
     奏の口から漏れた言葉に再び注意を奪われる。
    「くあっ」
     希亜のもたらした呪いによって足の先が石になり始めたことへ、一瞬遅れて気づくほどに。
    「ミサさんは悪くないと思う」
    「え?」
     だから、瑞樹の振りかぶった解体ナイフに気づくのは更に後のことだった。具体的に言うなら瑞樹の声に気づいた後。

    ●言葉ぶつけて
    「だって元々容姿でふった同級生が悪いんだと思うし」
    「わわっ」
     最初の告白が上手くいっていればこうまで拗れなかったというのも事実。炎を宿した解体ナイフがいつの間にか生えていた翼とぶつかり炎を散らし。
    「瑞樹姉ちゃんっ!」
     割り込んできたサイキックソードがレーヴァテインを弾いた翼を跳ね上げたところで、瑞樹の手にしたナイフの刃が変形する。
    「だけど、違うの! ……本当に……好きになってほしいなら、自信が持てるように頑張らないとダメなの!」
    「自しっきゃぁぁぁ」
     問題点を指摘するの声に動きが鈍ったのもあるのだろう。天使を思わせる歌声が響き渡る公園で、瑞樹の斬撃は今度こそ鮮やかに決まって。
    「ううっ、だけど……だけど」
     切り裂かれた肩をおさえつつ、少女は口を開く。
    「っ、これは……」
     こぼれ出るメロディは、切ない思いを綴った恋の歌。内なる闇がその身を奪い取ろうとしているからこそ、ミサも無抵抗ではいない。狙われたのが、藍だったのは無意識のうちに一番の脅威と見たのだろう。少女は灼滅者達の言葉にも動揺を見せたが、きっかけは一つの口づけだったのだ。
    「愛は傷付く事も恐れない」
    「そんなっ」
     だからこそ、真っ先に狙ったのに敢えて歌に耳を背けない藍の姿にミサはさらに動揺する。
    「ナノナノ~」
     すかさず藍のナノナノがハートで主を癒し。
    「……年下の子って、かわいいですよね」
     今度は希亜が少女へ話しかける。
    「何をい、っ」
     ミサの中のダークネスが口を噤ませようと飛びかかろうとするが、ビハインドが霊障波で応戦し。
    「なんとなく、自分の思い通りにできるような、自分色に染められそうな感じだしね」
     希亜はまるで何事もなかったかのように言葉を続けた。
    「だけど、本当にそれでいいの?」
     そのまま疑問を投げかける形で。
    「恋ってあたしまだよく分かんないけどこれだけは言えるよ。恋する気持ち、その気持ちが何よりも大切なんだって」
     あとを継いだ桜乃は、幸せそうな笑顔のままで微笑みかけ。
    「別に年下の男の子だっていいんだよ。恋に年齢は関係ないし、するのは自由なんだから!」
    「好きと言う気持ちに嘘がなければ、揺るがない想いがアナタを強くしてくれる☆」
     今度は智優利が、そんなアナタを好きになってくれる人だっていっぱいいるよと笑顔を向けた。
    「そんな、うまく、行くはずなん……きゃあっ」
     その笑顔に向けて踊りながら殴りかかってくる少女の動きを桜乃の影が切り裂いて。
    「今は俺達が見てやる! 前を見てみろ!」
     片腕を巨大化させながら忍魔が叫び。
    「今なら、まだ変われるよ!」
     奏も背中を押すように声をかける中。
    「ボクの愛を受け止めてね」
     真っ直ぐミサを見据えた藍は。
    「あ……えっ、うぇぇっ?!」
     影の触手で、少女を絡み取った。
    「藍君は束縛するタイプなのかな?」
    「いや、単に当てやすい攻撃を選んだだけだと思う」
     観察する瑞樹へ冷静にツッコミを入れたのは、忍魔。
    「まぁ、何にしてもこれで攻撃はしやすくなりましたし」
    「だね」
     影に腕を引っ張られ、バランスを崩して転ぶ目掛け、頷いた瑞樹が飛ぶ。
    「痛ぅ……あっ」
     少女からすれば実にタイミングの悪い状況での襲撃。
    「させな、え?」
     即座に対応しようとしたところを今度は足下が盛り上がり、智優利の影がミサを飲み込もうとして。
    「そん」
     一瞬でもそちらに気をとられてしまったことが失敗だった。
    「でもアレだよね」
     下半身をぱっくり影に飲み込まれたミサへ、瑞樹はまるで友人のように愚痴をこぼしつつ手にした刃に炎を宿す。
    「ロクデナシって実際居るんだよね」
     自棄に実感がこもった実例は把握できていたのだろうか。
    「きゃぁぁぁっ」
     炎と影の両者へ呑まれる前に聞こえたのは、あれは無いわーとぼやく声。うん、恋愛にも色々あるのだろう。
    「う、……くっ」
    「だからミサさんもそんな男に騙されない様に、スキルを磨こう!」
     よろけつつも立ち上がった少女へ、本題に戻ってきた瑞樹は語りかけ。
    「自分を隠すのは止めて……胸を張って好きですって、言える自分になれるように努力しようよ!」
    「さぁ、隠すのは止めて、素顔を出そう。皆、喜ぶと思うよ」
    「前塚さんは素敵っすから、自信持っていいと思うっすよ」
     口々に声をかける奏達に混じりながら、菜々は拳にオーラを集中させる。言葉に後押しされた人の意識と戦っていたダークネスの意識にそれ以上戦う力は残されていなかったのか。
    「わた、し……」
     連続で繰り出される拳に乱打されたミサは、膝を折るなり崩れ落ちていた。

    ●であい
    「思い通りにいかなくて、悩んだり苦しんだりするのも、恋愛の形ですから。それも含めて、楽しんでください」
    「は、はぁ……」
     目を覚ました少女を待っていたのは、説明と激励だった。
    「お姉様を助ける為で本意じゃないんだよ」
     目が覚めるまで意識を失った少女を膝枕していた藍は、奏と少女を改めて引き合わせ、奏の弁護をし。
    「ごめんなさい、おねえちゃん」
     再び頭を下げた奏は、顔を上げるなりミサを見上げて口を開く。
    「恋人は無理だけど……友達になってください、おねえちゃん♪」
    「え」
     本来なら幼稚園児に泣かれていた少女にとって年下で異性の友達など居なかったに違いない。
    「あなたみたいな人を救うための学園があるっす。おいらたちの仲間にならないっすか?」
     説明を終えていたからこそ、菜々はそう提案し。
    「私達と一緒に帰ろう。私、ミサっちと友達になりたいな☆」
     面食らった顔のミサへ笑顔で智優利が便乗する。
    「もし好きな人ができたその時は、あたしにもお手伝いさせてほしいな。相談相手、ぐらいならなれるよ! ……たぶん」
    「あなた達……」
     まだ呆然としたままの少女は目の間に誰かが座り込まなければ、もう少し我を忘れたままで居ただろう。
    「ボクと一緒に来て欲しいんだ」
     正座し、手を差し伸べる藍の姿がなければ。
    「私――」
     少女がこの申し出を受けたかは、言うまでもない泣き笑いの表情が全てを物語っていたのだから。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 9
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