惑わすもの

    作者:天木一

    「本当に……これをしたら僕と付き合ってくれるのか?」
    「ええ、私は強い人が好きなの。だからあなたの強さを見せて」
     夕日の照らす生徒会室に一組の男女の姿。
    「……分かった、」
     眼鏡を掛けた真面目そうな少年が手にしたのは金属バット。そして、部屋の片隅に移動する。
     そこにはスーツ姿の年配の男性が、2人の少年に拘束されていた。
    「馬鹿なことはやめろ!」
     必死に叫ぶ男性に、バットを手にした眼鏡の少年が近づく。
    「先生、すみません。でも、僕は強くならないといけないんだ」
    「やめるんだ、君は生徒会長だろうっ!」
     唾を飛ばし、必死にもがく男性。それを2人の少年が押さえつける。その頭上でバットを振り上げた。ごっ、鈍い音。
    「ぎゃっ、や、やめてくれ! 何でも言う事を聞くから、だから……」
     何度も何度も振り下ろす。床が赤く濡れた。
    「はあ……はあ……」
     息も荒く、肩を上下する眼鏡の少年。足元には赤く染まり意識を失った教師の姿。
    「素敵よ。ねぇ、この学校で一番強くなって……そうしたら私はあなたのものよ」
     少年の後ろから、栗色のなびく髪が美しい少女が背中を抱きしめ、耳元で囁いた。
    「僕は……僕はッ」
    「大丈夫、後始末は私がしてあげるから、だから安心して次の獲物を狩りましょう?」
     少女は牙の覗く口を三日月に歪める。夕日に照らされ、少女の瞳が赤く輝いた。
     
    「やあ、みんな。来てくれたんだね」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者達に説明を始める。
    「ヴァンパイア学園が行動を起こしたみたいなんだ」
     ヴァンパイアの学園、朱雀門高校が動き出したと誠一郎は話を続ける。
    「どうやら他の高校に生徒を転校させて、その学園の支配を目論んでいるみたいなんだよ」
     ヴァンパイアの力を持ってすれば、普通の学校など支配するのは容易い。
    「このままヴァンパイアの勢力を増やす訳にもいかないからね、みんなにこの行動を阻止してもらいたいんだ」
     転校先に来るのは一人の生徒だ。まだ相手の支配地でもない場所でなら対立しても、ヴァンパイア学園との戦争にはならないだろう。
    「今回の作戦目標は学園の支配を防ぐ事、ヴァンパイアの撃退じゃあないから間違わないでね」
     相手の支配しようとする行動を妨害、意思を挫く事が出来ればそれでいい。
    「転校してくるのは一人の女性ヴァンパイア。名前は浅野・友美。高校二年生だよ。外見はかなりの美人だね。どうやら生徒を惑わして、暴力を学園中に蔓延らせようとしているみたいなんだ」
     放置しておけば、次々と生徒を支配下に置き、好き放題に学園を作り変えてしまうだろう。
    「既に4名の生徒が配下となってしまっているんだ。今ならまだ倒せば解放できるはずだよ」
     ヴァンパイアに強化されているが、戦闘力はそこまで高くはない。
    「こちらの妨害がヴァンパイアに伝われば戦闘になるだろうけど、相手を灼滅しないように気をつけて欲しいんだ」
     その言葉に何故かと灼滅者達が問う。
    「灼滅されたとなれば、相手も本気にならざるを得ない。ヴァンパイア学園はまだ敵対関係ではない組織だから、無闇に敵を作りたくはないんだよ」
     敵の目的も戦力も分からない今、戦端が開けばどんな犠牲が出るか分からない。
    「敵も戦闘で不利になったり、作戦が失敗したとなれば、無理をせずに撤退するはずだよ」
     誠一郎は皆の顔を見た。
    「ヴァンパイアに支配されたら、普通の人達の生活が無茶苦茶になってしまうんだ。だから何としても止めないとね。みんなお願いするよ」


    参加者
    アプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)
    桜木・栞那(小夜啼鳥・d01301)
    江楠・マキナ(トーチカ・d01597)
    久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)
    黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)
    室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)
    穂都伽・菫(嘘つきな優しさと想いを込めて・d12259)
    祟部・彦麻呂(災厄を継ぎしもの・d14003)

    ■リプレイ

    ●吸血鬼の居る学校
     夕日の照らす校舎。グラウンドからは運動部の元気な掛け声が響く。
     人の少なくなった学校に灼滅者達は潜入する。
    「おっ高校か~高校だな~!」
     中学生の久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)は、高校への潜入にわくわくしながら校門を潜る。
     学内は部活をしていたり、帰宅しようとする高校生が賑やかに過ごしている。
    「だ、大丈夫ですよね? 」
     きょろきょろと不安そうに周りを窺いながら、アプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)が皆の後に続く。
    「大丈夫だよ。堂々としていればバレはしないさ」
     そんなアプリコットに、江楠・マキナ(トーチカ・d01597)が安心させるように微笑を見せる。
    「ちゃんと18歳に見えるかな?」
     ESPで成長した姿に変身した桜木・栞那(小夜啼鳥・d01301)は、少し大人びた表情で首を傾げた。
    「俺より大人っぽく見えるっすよ」
     黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)がその姿を見て、大丈夫だと請け負う。
    「美人、清楚で真面目な転校生、それと好みのタイプは強い人。ちょっと聞いた話ではそんな感じですね」
     作戦時間までの間に、生徒から敵に関する噂話を穂都伽・菫(嘘つきな優しさと想いを込めて・d12259)が集めていた。
    「強い人が好きなら、私たちの強さを見せたら退いてくれないかな?」
     祟部・彦麻呂(災厄を継ぎしもの・d14003)はどうすれば敵が退くか考えていた。
    「本当に強いということがどういうことなのか、私たちが教えてあげましょう」
     18歳に変身した室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)は強い意思を宿した瞳で言葉を紡いだ。
     学園の生徒と認識させる能力を使うマキナ、蓮司、菫、彦麻呂が他の仲間をカバーするように廊下を歩く。
    「あ~あれかな~?」
     のんびりマイペースに、周囲を物珍しそうに見ていた織兎の視線の先に学生が2人居た。教室の入り口の前で警備するように立っている。
    「そうみたいです。あれが操られている見張りですね」
     言われた方向を横から同じくのぞみが確認する。
    「ヴァンパイアたちは、人を何だと思っているのかな」
     操られている生徒を見て栞那が憤る。
    「正気に戻してあげましょう」
     彦麻呂は周囲を見て一般人の居ない事を確認する。
    「……音を封じました。中まで届かないはずです」
     アプリコットの作った領域は中の音を外に漏らさない。
    「それじゃあ、行くよ。……ハロー、ワールド」
     マキナは皆に確認すると、解除コードを呟く。
    「中に気付かれないうちに、一気に行きましょう」
     菫も同じく武器を手にする。2人が構えたのはガトリングガン。二つの銃口は火を噴いた。
    「ぐふっ……な、何だ!?」
     突然の襲撃に驚き慌てて灼滅者達の方を振り向く2人の生徒。
    「……ゴメン、ちょっと痛いすよ。でも死なないっすから」
     被弾して火がついた方を蓮司の変幻自在の影が襲う。縄のように伸びると一瞬にして縛り上げる。
     のぞみはもう一方の生徒へ風の刃を放つ。不可視の刃は生徒を吹き飛ばした。
    「静かにしていてください」
     彦麻呂はその倒れたその生徒を影で飲み込み、締め上げて気絶させる。
     栞那が飛び込み、縛り上げられた生徒を影で襲い叩き伏せた。
    「……ごめんなさい。少しの間、眠っていてください、ね」
     アプリコットが大鎌を振るい、その生徒の意識を奪う。
     一瞬にして生徒2人を無抵抗のまま無力化した。

    ●暴力の強さ
     生徒会室とプレートのある教室へ灼滅者達は入る。そこには金属バットを持った生徒と、2人の生徒に拘束された教師。そして1人の美しい少女が居た。
    「あなたたち、誰? どうやって入ってきたの?」
    「ひどいな、やっぱり俺にかけてくれた言葉は嘘だったんだなー!」
     少女の言葉に織兎はそんな台詞を吐いて返す。
    「生徒会長騙されちゃだめだぜ、その子いろんな人に同じような事言ってるらしいぞ。俺だって声かけられたんだぞ」
     迫真の演技で織兎はバットを振り上げる生徒会長に話しかけた。
    「私はあなたなんて知らないわ」
     冷たい少女の声に、生徒会長の少年はバットを持つ手を震わせる。
    「君達助けてくれ!」
     叫ぶ教師を2人の生徒は口を塞いで押さえつける。
    「まったく…何やってるんですか浅野さんに生徒会長さん」
    「生徒会長ともあろう人間が何やってんすか。学校を守るのが役割でしょーが」
     振り上げたバットで、凶行を行なうのを止めさせようと菫と蓮司が声をかける。迷うように少年は視線を迷わせた。
    「……貴方の手も、痛い、でしょう?」
     アプリコットは相手を心配するように、優しい言葉を投げかける。それは少年の心を僅かに正気に近づける。
    「キミが噂の転入生かー、怖いなぁ。そのやり方で一体何人の『一番強い人』と付き合ってるんだろうね?」
     その一言はマキナのブラフ。少女はそれを鼻で笑うだけ、だが目に見えて生徒会長は動揺した。
    「ねえ、そいつらを追い出して、あなたの強さを私に見せて」
    「僕は、僕は強くならないと!」
    「しっかりして。無抵抗な人を攻撃する、そんな人が本当に強いと思う?」
     栞那は真摯な金の瞳を生徒会長へと向ける。踏み出そうとした少年の動きが止まった。
    「そんなものが強さであるはずが無い」
     強い意思の籠もった声。それを発したのは少年の前に立ったのぞみだった。
    「押さえつけられている人をそんな物で殴るのが強さですか? 人の命を奪う事が強さですか?」
     のぞみは自分が助けられた時の事を思いだす。助けてくれた人々が見せてくれたもの、それこそが本当の強さだと知っている。
     だからそんなものは強さではない、認められない心から叫ぶ、その言葉には力が宿っていた。意気消沈した生徒会長の手からバットが落ちる。からんからんと金属が床に落ちて響いた。
     その瞬間、彦麻呂が拘束された教師へ向かって駆ける。皆の視線がバットに移った隙を狙い接近すると、足元からどろりと黒い血液のような影が伸びる。影が僅かな間2人の生徒の動きを阻害すると、教師を引き摺り仲間の後ろまで後退する。
    「もう大丈夫です。少し眠っていてください」
     優しい風が吹き、教師は傷を癒されそのまま眠りにつく。
    「ねえ、私の為に強くなってくれないの?」
    「僕は、僕はッ」
     少女は生徒会長に優しく声をかける。迷う少年はバットを見るが、体を動かせない。
    「そう、残念ね。それじゃあもうあなたはいらないわ……」
    「え……?」
     少女の視線が配下2人に向かうと、2人は頷き、何を言われたのか分からないと、呆然とする生徒会長へと歩み寄る。
    「浅野さん、なんでそんなに強い人が好きなんですか?」
     菫が少しでも敵の注意を逸らそうと質問を投げる。
    「ふふ、私のしもべになるのなら、最低限の強さは持っていなくては困るわ。もちろん強いだけでも要らないけどね……」
     牙を見せ、少女は残酷に哂う。
    「そんな理由で……」
     許せませんとのぞみが呟く。
    「会長、未遂で良かったよ。今なら引き返せる」
     配下の前に立ち塞がったマキナが背後の生徒会長に声をかけた。
    「……キミがどうして生徒会長になったのか、私は知らないけど、その時のこと思い出してみるといいんじゃないかな」
    「そうですよ~、会長は頼りになる学校の要なんですから~」
     織兎もまた守るように隣に立ち、襲い掛かる2人の配下を止める。
    「う、嘘だ、こんな事!?」
    「眠っていてください。起きる頃には全て終わっていますから」
     少女の冷たい言葉に錯乱する生徒会長を、彦麻呂は教師と同じように安らかに眠らせる。

    ●吸血鬼
    「あなたたち、何者なの? 何が目的?」
     強化された配下があっさりと止められた様子を見て、少女が疑問を口にする。
    「さて、暴力沙汰を止めるのに理由はいらないね。キミがこの下らない事をやめないというなら不本意だけど、キミの好きな暴力で解決しようか」
     マキナが取り出したガトリングガンが六門の銃口から火の弾丸を次々と撃ち出す。轟音と共に配下の1人が火を帯びる、そこにライドキャリバーのダートが突撃する。正面から勢い良く衝突し、敵は吹き飛ばされた。
    「そう、邪魔をするというなら、容赦はしないわ」
     浅野友美は冷たい視線で睨むと、手に真紅の剣も出現させ刃を振るう。
    「俺が相手ですよ~」
     織兎がエネルギーの盾を張り、その一撃を受け止める。だが盾に食い込み、切っ先が顔の届こうとしたところで、咄嗟に転がって避けた。
    「……邪魔だから、ちょっと眠っててもらいましょーか」
     吹き飛ばされ、起き上がろうとする配下の背後から、蓮司が溢れるようなオーラを纏い、手刀を首筋に打ち込む。配下はそのまま意識を失い崩れ落ちた。
    「……あなたも、眠っていてください」
     アプリコットが放つ真紅の逆十字が配下を切り裂く。動きが止まったところに栞那が刀で打据えると、配下は衝撃に気絶した。
    「後はあなただけだよ」
     栞那は切っ先を浅野に向ける。
    「そんなのを倒したからって勝ったと思われるのは心外ね」
     夕日に照らされたその顔は、まるで幽鬼のようだった。浅野が真紅の剣を構えると、素早く踏み込み、斬り上げられる刃が栞那を狙う。
     その刃の前に立った彦麻呂がエネルギーの盾で剣を弾き、軌道を変える。
    「あなたと積極的に対立する意志はありませんが、人間に手を出すというのなら黙って見ているわけにはいきません」
     彦麻呂はだからこの場を退いてくれませんかと問う。
    「都合のいい事を言うのね……。私としてはあなたたちを倒してしまえば問題解決だわ」
     そうでしょう、と浅野は彦麻呂の言葉を一蹴すると、至近距離から真紅の逆十時を放つ。彦麻呂は何とか盾をかざしたが、そのまま吹き飛ばされる。
     更に放った真紅の十字は後方に居たアプリコットを狙う。その一撃を受けたのはビハインドのシェリオだった。
    「……お兄様、ありがとうございます」
     アプリコットはライフルを構えた。銃口から放たれた光は、狙い違わず浅野の胸に届く。だがその一撃が届く直前に、浅野は真紅の剣で光線を斬り払った。
     その隙を突きマキナの影が伸びる。触手のように浅野の体に巻きつく。
    「本当は戦いたくなんてないんだけど、しょうがないね」
     そう言いながらも、マキナの顔には隠せない笑みが浮かんでいた。
    「邪魔!」
     締め付けられながら、浅野は剣を振るう。真紅の光の刃がマキナを襲う。横一線に飛来する光刃をガトリングガンで受け止める。胴は守れたが、構えた腕をざっくりと刃が斬り裂いた。更にもう一撃、縦に光刃が放たれた。
    「誰も傷つけさせたりはしませんっ!!」
     のぞみが幾つもの光輪を投げる。それはまるで鳥のように飛来し、真紅の刃を防ぐように位置取り、負傷したマキナの腕を癒す。光輪に防がれている間に、マキナは射線から逃れた。
    「浅野さん、私たちがあなたを止めます」
     左右から菫とビハインドのリーアが仕掛ける。菫の瞳にバベルの鎖が集中する。ガトリングを構え、無数の弾を撃つ。身を翻そうとする浅野に、リーアが顔を晒す。敵の動きが止まった瞬間、弾幕が着弾した。
    「……死なねぇ程度に刻んでやりましょーか」
     死角から蓮司が接近する。すれ違い際に影のように黒い刀を振るう。刃は鎌風のように鮮やかに浅野の足を斬り裂き、そのまま通り過ぎ距離を離す。
    「ちょろちょろと!」
     浅野は真紅の剣をその背後に向かい振るうと、刃から光刃が飛ぶ。それを彦麻呂が巨大化させた腕を打ち込み相殺する。
    「この辺りにしておきませんか?」
     彦麻呂がその腕を敵に叩き込むとそう言葉をかける。浅野はその一撃を剣で受け流しながら、距離を離す。
    「お断りよ!」
     真紅の逆十字が放たれる。それを織兎が突っ込み、障壁を張って防ぐ。抜けてきた攻撃に肩を切り裂かれながらも、接近すると緋色に染まったオーラを纏い、拳を放つ。その一撃は腹に食い込み、浅野の肺から息を押し出す。
    「がはっ」
    「どうですか~引く気になってくれましたか~?」
     いつまでもマイペースな織兎の言葉に、苛立ったように浅野は一喝する。
    「煩い!」
     真紅の剣が織兎を斬りつける。すると、どくりと血を吸うかの如く生命力を奪い摂り、浅野は自らの傷を癒す。
     更に追撃しようと振り下ろす真紅の剣を、栞那が刀で払う。そして、返す刀で脇腹を斬り裂いた。
    「暴力は、一時人を支配するかもしれないけれど。そんな纏まりは弱いよ。もっと強いものが出てきたら、そちらに流れてしまうもの」
     栞那はだから計画は上手くいかないと、暗にそう浅野に伝える。
    「フフ、さあもっと戦おう」
     ダートが突撃し、浅野がそれを避けて反撃しようとしたところに、マキナはガトリングで弾幕を張る。ダートはターンしてもう一度突撃する。
     その間に、のぞみは光輪を飛ばして織兎の傷を治療する。
     浅野は弾幕から逃れながら、突撃を紙一重で避ける。だがそこに菫とリーアが待ち構えていた。
    「これで終りです」
     菫の影が思うままに形を変え、浅野の動きを絡めとる。そこにリーアが一撃を加え、敵の腕を傷付けた。
     浅野は反撃しようと踏み込む、そこに閃光が放たれた。
     アプリコットが敵の足元に光線を放ち、その動きを止めたのだ。
    「……これ以上、戦いますか?」
     その言葉に浅野は周囲を見渡し、顔を顰めた。

    ●平穏な学園
    「いいわ、この場は退きましょう……でも、次はないわよ。私たちに敵対するのなら、相応の覚悟をするのね」
     自らの不利を悟り、浅野は警告を発すると霧を展開する。視界を覆う霧が消えた時、その姿は教室から消えていた。
    「もうここに来たって無駄だぜ~俺達が何度でも企みは阻止してやるからな~!」
     織兎は大きな声で、消えた敵に聞こえるように叫ぶ。
    「……退いてくれた、みたいです」
     アプリコットは敵が居なくなったとの確認すると、緊張が解け息を吐く。
    「……こういうの、『もどかしい』っつーんですかね」
     敵を倒す事が出来ない戦いに、蓮司は普段のように切り刻まないように気を使っていた。
    「一般人の人も無事に助けられたね」
     ほっとしたように栞那が眠っている教師と生徒会長、そして操られていた生徒達を見やる。
    「暴力だけが強さだとは限らないのに……」
    「本当の強さを知らない相手に、私たちは負けません」
     菫は教室に残った戦いの傷跡を見て呟くと、のぞみもまた強く言葉を発した。
    「今回は追い返せましたけど、またどこかで同じような事をするのかもしれませんね」
     これで終りではないと彦麻呂は懸念を抱く。
    「……もしこれで終わらなかったとしても。何度だって、私達が邪魔をしに来ればいい。何度でもね」
     当然のことのように言うマキナの言葉に、皆が頷いた。
     何事もなかったように、学校は日常を送る。
     暴力により吸血鬼が支配しようとしていたなどと夢にも思わない。
     そして、それを妨げた灼滅者達の事も誰も知らない。
     ただ、いつも通りの平和な学園生活がそこにあった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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