【トラップダンジョン初級編】真実の貼り紙

    作者:相原あきと

     そこは街外れの潰れたゲームセンターの地下だった。
     倉庫として使われていた地下室の壁が、一部崩れてぽっかりと口を開けていた。
     暗い口を潜りその奥へ……。
     やがて光が見えて来る、どうやら部屋へ繋がっていたようだ。
     部屋の奥には扉が一つあり、中央には直径20cm程の輝く宝玉が安置されていた。
     とりあえず扉をくぐろう。
     次の部屋は再び扉と、今度は宝箱が1つ。
     その次の部屋は宝珠も宝箱も無く扉だけがあった。
     さらに進むと細長い通路だった、そして2体のアンデッドがこちらを振り向く。
     2体のアンデッドの奥には炎の像があり、その向こうに次の部屋への扉が見えた。
     そして次の部屋もアンデッド2体と氷の像が、その次の部屋もアンデッド2体と毒のような像が……。
     最後は長く続く廊下だった……しかし、そこにいたのは総勢7体もの、アンデッド達であった。

    「みんな、コルベインの水晶城に居たノーライフキングについては覚えている?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
    「実は各地へ散ったノーライフキングの1体が、コルベインの所持していたアンデッドの一部を利用して迷宮を作り始めているの」
     ノーライフキングの迷宮は時間が経つほど強力に作り込まれていく。まして水晶城にいたノーライフキングだ、いつか第二第三のコルベインとなってもおかしくはない。
    「今回向ってもらう場所は、とある潰れたゲームセンターの地下から繋がっているダンジョンよ!」
     そう言うと珠希は紙に長方形を描くと、それを線で縦に区切り8部屋になるよう仕切る。
    「このダンジョンを作っているノーライフキングは、正直初心者ね!」
     ダンジョンって迷路でしょ? それなのに一直線だなんて幼稚園児でも簡単にゴールに付けるわ!
     ふふん、と珠希が得意げに言う。
    「あ、その代わりトラップって言うの? 罠は設置されてるみたいだから気を付けてね」
     そして珠希がダンジョンの説明を開始する。

    ●1番目の部屋
     部屋の真ん中に宝珠が鎮座している。
     あとは次の部屋への扉があるのみ。
     壁に『宝珠触るべからず』の貼り紙。

    ●2番目の部屋
     部屋の真ん中に宝箱が置いてある。
     あとは次の部屋への扉があるのみ。
     壁に『宝箱触るべからず』の貼り紙。

    ●3番目の部屋
     部屋には何も無く次の部屋への扉があるのみ。
     壁に『扉触るべからず』の貼り紙。

    ●4番目の部屋
     3人並んで戦うのが限界ぐらいの細い通路。
     入口横の壁に『闘志や覚悟の強い攻撃するべからず』の貼り紙。
     アンデッド2体が待ちかまえており、2体の奥には炎を象った像がある。
     さらにその奥へ次の部屋への扉がある。

    ●5番目の部屋
     3人並んで戦うのが限界ぐらいの細い通路。
     入口横の壁に『詠唱の早さや頭の良さを活かした攻撃するべからず』の貼り紙。
     アンデッド2体が待ちかまえており、2体の奥には氷を象った像がある。
     さらにその奥へ次の部屋への扉がある。

    ●6番目の部屋
     3人並んで戦うのが限界ぐらいの細い通路。
     入口横の壁に『霊力やオーラが高い攻撃するべからず』の貼り紙。
     アンデッド2体が待ちかまえており、2体の奥には毒を象った像がある。
     さらにその奥へ次の部屋への扉がある。

    ●7番目の部屋
     長い廊下が続く部屋。
     入口横の壁に『全力で走るべからず』の貼り紙。
     部屋の各所に合計7体のアンデッドがおり襲いかかってくる。
     ただしアンデッド達は交互にいるのですり抜けて奥へ向うことも可能。
     その場合、全力で走れば次の部屋への扉に辿りつくまで約2ターンはかかる。
     また全力で走る間にアンデッド達全員から攻撃をくらい続けるリスクはある。

    ●8番目の部屋
     部屋には何も無く、次の部屋へ続く豪華な扉があるだけである。

     アンデッドはどれも日本刀を持っており、4~6番目の部屋にいるアンデッドのポジションはディフェンダー、7番目の部屋のポジションはクラッシャーらしい。
    「8番目の部屋にある豪華な扉の向こうは、ノーライフキングが待ちかまえている玉座の間になってるみたい。8番目の部屋は安全みたいだから、そこで休憩してからノーライフキングに挑んだ方が良いと思う」
     ただし、ノーライフキングと戦うのは難しい程に消耗していた場合は、無理せず帰還して欲しいと珠希は続ける。
    「まずは迷宮の突破を頑張って! それじゃあ、みんなが無事に帰って来れる事、信じてるわね!」


    参加者
    倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)
    銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)
    アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)
    ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)
    西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)
    皇・千李(復讐の静月・d09847)
    勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)
    源・市之助(高校生神薙使い・d14418)

    ■リプレイ

    ●突入
     街外れの潰れたゲームセンター。誰も近寄らないその場所に、8人の少年少女の姿があった。
    「今回の相手は親切というかなんというか……とはいえ、相手にとっては所詮『ゲーム』って事なんだよね」
     普段は元気なアイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)が口元に指を当てて思っていた事を口にする。
     今回、灼滅者が向かうのはダンジョンを作成するノーライフキングの中でも、トラップを主目的にした相手だった。ただ、エクスブレインから初心者と呼ばれたように、そのダンジョンは迷宮とは名ばかりの一本道の部屋の連なりであり、各部屋の攻略を事前に考えていた灼滅者達からすれば。
    「でも、本当にゲームみたいでちょっと楽しそうですよ?」
     のほほんと言うのはソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)だ。
     一緒に行動する他の灼滅者達も、他と毛色の違う迷宮に思うところがあるのか軽口をたたき合う。
     やがて、地下室へとたどり着いた灼滅者達は、壁の一部が崩れて迷宮への入り口へとつながっている場所を発見し、1人、また1人と暗い通路へ足を踏み入れる。
    「それにしても、ゲームセンターの地下にこんなに罠一杯のダンジョンつくるなんて、ノーライフキングはゲーム好きだったのかなぁ?」
     さもありなん、と皆がソフィリアの言葉に皆がうなずく。トラップばかりに目がいくのも、ゲーム好きならではなのかもしれない。
     暗い通路をいくらか歩くと、奥の方から光が差してくる。
     どうやら最初の部屋へ到着するようだ。
    「さ、それじゃ皆! ダンジョン攻略にれっつごー!」
     アイティアがテンション高く右拳を上へ突き出し、灼滅者達はノーライフキングのダンジョンへと入っていったのだった。

    ●第1~第3の部屋
     その部屋は中央に直径20cm程の輝く宝玉が安置されていた。それ以外は壁に張られた『宝玉に触るべからず』と書かれた貼り紙と、次の部屋に続くと思われる扉だけだった。
     灼滅者達は一度、宝玉に触れずに次の部屋へと進む。
     第2の部屋は次の部屋は再び扉と、今度は宝箱が1つ。
     宝箱に触らずさらに進む灼滅者。第3の部屋は宝珠も宝箱も無く扉だけがあった。
    「じゃあ、3番目の部屋の扉はあとで遠距離から壊すとして、それぞれの部屋をチャッチャと調べてみる?」 
     かるーく言うのは倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)だ。全員が宝玉や宝箱は罠だろうと見当を付けていたが、どんな罠があったのか気になる。
    「せやな、壁とかは調べていいんちゃう? ええもんあるか解らんけども、わざわざ用意されとる理由があるやろしな」
     オシャレなメガネを中指でクイっとあげつつ銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)が茶羅に同意する。
    「なら、警戒は俺がする」
     言葉少なく『もしも』に備えて警戒を買って出たのは皇・千李(復讐の静月・d09847)だ。ふと、最初の部屋の宝玉にコルベインの城の名も……と頭を過ぎるが、今は仲間を信じて警戒に集中する事にする。
     壁、床、天井、貼り紙と捜索を開始する灼滅者達、だが何か手がかりになるような情報は何もなかった。ただ――。
    「この宝玉と宝箱……やはり触れた瞬間に発動するタイプのトラップだな」
     宝箱を、そして宝玉を調べていた源・市之助(高校生神薙使い・d14418)が言う。魔法使いのように白いローブを羽織った市之助は、さらに第三の部屋にある次の部屋へ通じる扉も調べ、同じく触れる事で発動するトラップだと推測する。
    「時間をかければ解除できるだろうが……どうする?」
     市之助の問いに少女が手にカードを掲げて答える。
    「鳥かごよ、開け」
     カードを解放した少女、勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)がピンク色のロリータドレスに変身、さらにフォーク状のマテリアルロッドをくるりと回して手に構える。
    「当初の予定通り、破壊するで良いでしょう?」
     時間をかけるなんてナンセンスだわ、と我が儘お嬢様らしく幸乃が言う。事前に決めていた事だ、市之助も反論は無い。
    「弥栄! 不死の者を浄化する!」
     幸乃の横で西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)もカードを解放し、他の灼滅者達も習って殲術道具を装備し始める。
    「ゲーセン地下に迷宮を作るような遊び好きな迷宮の主、その迷宮作成能力……確かめさせてもらおうぞ」
     レオンが言うとともに、数人のサイキックが扉を破壊したのだった。

    ●4番~6番の部屋
     扉を破壊し進む灼滅者達、続くは細長い通路だった。
     そしてエクスブレインの予測通り、道の先に2体のアンデッドがおり、こちらに気がついたのかゆっくりと振り返ってくる。
    「お出迎えご苦労様、的な?」
     軽い茶羅の言葉に反応した訳では無いだろうが、アンデッド達が灼滅者達へと襲いかかってくる。その背後には炎の像があり、さらに向こうには次の部屋への扉も見える。
     相手はたった2体、しかし事前に打ち合わせた通りこの部屋では気魄サイキックを使わずに戦い始める灼滅者達。防御を重視したアンデッド達だったせいで多少時間をくうが……。
    「行こうか……緋桜……」
     朱塗り鞘から一息に抜いた緋桜の刃が、2体のうち残っていたアンデッドを斬り裂き、その動きに千李がトドメを刺す。
     アンデッドを倒し開けた視界の先には炎の像。
    「あの像……気になるな……」
     流れるような隙のない動作で刃を鞘へ納めるつつ千李が言う。
    「何かあって無駄に消耗するのは避けたい。もし何か試したい人を止めはせんが……わしは先に行くぞ?」
     レオンが言い、幸乃やアイティアも続く。
    「クカカッ、まあ調べるのは6の部屋まで終わってからにしいひんか?」
     得意な笑い方をしながら右九兵衛も続く。
     やがて他の灼滅者に並んで千李も次の部屋へと進んでいった。

     5番目の部屋は先ほどと同じようにアンデッドが2体と、そして氷の像が配置されていた。
     防御重視のアンデッドは、倒すのに時間がかかるが攻撃ダメージは大したことは無い。まして、ディフェンダーをしっかり立てていた灼滅者側の被害は最小だったといえる。術式サイキックを使わず攻撃を続け、灼滅者達は勝利する。
    「大丈夫? それじゃあ次の部屋へ行こっか!」
     仲間を庇いつつ戦い、8人の中では多少ダメージの多いアイティアだったが、いつものように笑顔で次の部屋を指差す。

     6番目の部屋も全く同じ構成だった。違うのはアンデッド達に後ろのある像が、毒(瓶に髑髏マーク)の像だったことぐらいだ。
     三度持久戦が開始され、1体を葬り、そして残った1体を――。
    「とりゃ!」
     茶羅のレーヴァンテインがアンデッドを燃やして倒す。
     もっとも、使い慣れて無いのか茶羅は炎が肩の方まで来たことに驚き、「あちっ」と焦っていた一幕もあったが……基本的に不測の事態も無く4番~6番の部屋を制圧した。
    「これは……触っても大丈夫そうですね」
     毒の像を調べていたソフィリアがそう言うと、ペタリと像を撫でてみる。何かが発動する様子は無かった。
    「わざわざこんなのを作るなんて凝ってますよね」
    「宝玉や宝箱、3番目の部屋の扉よりトラップの発動条件が複雑なのかもしれないな……」
     触れるとわかり、さらに詳しく調査していた市之助は推論を述べる。
     たぶん炎の像は気魄に、氷は術式、毒は神秘サイッキックが使われる事を条件に発動するトラップだろう、と。
    「発動した際は……バッドステータスとダメージ、か……」
     千李の言葉に市之助がうなずく。
     しかも像は一度発動すると壊れる仕組みらしく、試しにやってみるか? と提案した者もいたがさすがにそれは止められた。
    「ふふ、面白いじゃないの。この迷宮を作った主はどんな奴なのかしら……ちょっと楽しみになってきたわ」
     幸乃が自信満々に言うと、数人も同意する。
     ここまで灼滅者のトラップ回避率は100%だ。全てを踏破し玉座の間へ到着した時、この迷宮の主たるノーライフキングはどんな顔をするだろう。
     誰とも無くわずかに笑みを浮かべながら、灼滅者は次の部屋へと向かう。

    ●7番目の部屋
     その部屋は長く続く廊下だった。そして灼滅者達が廊下に足を踏み入れた瞬間、総勢7体ものアンデッド達が一斉に振り返り、近くの敵は武器を振り上げ、遠くの敵は不自然なバランスのまま走り込んで来る。
    「ゲヒャララララ、全力で走ることあらへん。全滅させていくでー。一番手前から順に潰して悠々歩いてったらええ」
     右九兵衛がちらりと壁に貼られた『全力で走るべからず』の貼り紙を見つつ仲間達に声をかけ、そのまま敵に視線を戻すとバスターライフル上部のディスクレドームにあるコンパネを操作、そして高速演算モードが発動する。
     待ちかまえる仲間もいれば、アンデッド達の前に飛び出していく仲間もいた。槍と盾を構えたソフィリアは後者だ、盾の障壁を展開しつつアンデッドと仲間達の間に稟と立ち塞がる。
     近づいてくるアンデッドがソフィリアのところで足を止めると同時、ソフィリアの脇を駆け抜けるは千李だ、その瞳を僅かに鮮やかな紫色に変え、すれ違いざまにアンデッドに銀光一閃、高速の居合いが鞘走る。
     グラリと揺れるアンデッドだが、まだ倒れない。だが、その頭部を巨大な異形の腕が殴り飛ばし、そのアンデッドは迷宮の壁にぶち当たり動かなくなった。
     少女のものとは思えない異形の巨大化した右腕を下げ、幸乃が動かなくなったアンデッドに「もう終わり? あっけないわね」と鼻で笑う。
     もちろん、アンデッド達の攻撃も苛烈を極めた。初動の集中攻撃で倒せたアンデッドは2体、やがて迫ってきたアンデット達が視界に捕らえる灼滅者に向けて、一斉に手にした日本刀を振るうと三日月のごとき鋭利な光の刃が前衛の灼滅者達を次々に斬り裂いた。
    「痛ったーい……でも、まだまだ私は倒れないよ!」
     先頭に立ち塞がっていたアイティアが仲間の分もダメージをくらいつつ笑顔を崩さない。
     さらに市之助も発動させていた盾の障壁で威力を減衰させつつ、クレバーに仲間を庇う。さらにその指は忙しくなく印を組み続け、次の攻撃の詠唱を始めていた。
    「落ち着いて行くぞ、まずは1体ずつだ」

     アンデッドの攻撃は4番~6番の部屋にいた奴らとは比べものにならないほど威力が高かった。回復役のレオンなど、防護符に清めの風に、と回復サイキックをひっきりなしに使い攻撃する暇も無い。
     4~6番目の部屋の戦いと、この7番目の部屋での戦いで、それぞれポジションを変更して効果的な役割分担にしておけば、もっと効率がよかったかもとも思うが、今はこの状態で戦うしかない。
    「宿敵である屍王と対決できる貴重な機会、無駄にはせんけぇの……かような初歩的トラップなど突破して、必ず辿り着こうぞ」
     レオンの言葉に仲間たちが『おう』と答える。
     やがて、5分も過ぎた頃……――。
    「これで終わりです」
     アンデッドが日本刀を突き出してくるのを見極めると、ソフィリアがクロスカウンター気味に槍をアンデッドの胸に突き刺した。
     アンデッドの刀はソフィリアの胸元数センチでカランと床に落下し、そのまま最後の1体もついに動きを止めたのだった。

    「うしっ! このままノーライフもサクっと倒してさらっと依頼解決しちゃおうっか!」
     ウィンクしつつ茶羅が言い、そのまま焦らず灼滅者達は長い廊下を進む。そして、視界の先に次の部屋の扉が見えて来て……。
    「次の部屋はトラップがなかったわよね?」
    「せやな、そこでゆっくり回復したらええ」
     幸乃の言葉に右九兵衛がうなずく。
    「回復はわしに任せておけ」
     レオンも仲間たちに微笑む。だが内心では……。
     宿敵相手じゃとどうも感情が昂るようだ。逸る気持ちを抑えつつ、確実に進もう……そうレオンは自分を戒め、次の扉に手をかける。
     その瞬間!

     ――バチッ!!! ズバババババババッ!!!

     扉から雷光が瞬き、パラライズとダメージを乗せた雷が廊下全体に解き放たれる。
     最後のトラップが灼滅者全員の体を焼いた。
     
    ●8番目の部屋
    「もうっ! 信じらんない! あたしのドレスが焦げたじゃない! 最悪よ!」
     怒りも露わに荒ぶっているのは幸乃だ。ちなみにドレスは微妙にちょっとしか焦げていないのだが……。
     扉のトラップは1回のみの発動だったらしく、灼滅者達は8番目の部屋へ入ると思い思いに座り込んでいた。
    「全力で走るべからず……か、最後の最後でやられた、か」
     最初から貼り紙に懐疑的だった市之助が言う。
     だが、そんな市之助に右九兵衛が「ちゃうちゃう」と手を振る。
    「貼り紙は嘘おへんよ?」
    「何?」
     もし、貼り紙を無視して全力で走っていたらどうだっただろう。2分の間アンデッドの猛攻を受け続け、その上で扉に警戒できた者がいただろうか? 結果、扉からの雷トラップで全員がダメージとパラライズをくらい。
    「……パラライズで動きが止まった数人は、さらにアンデッドの攻撃を食らっていた、か」
     しかもバッドステータスが発動する確率からして、1人か2人だろう。そこに攻撃が集中すれば。
    「……重傷者の1人や2人、出ていたかもな……」
     低くつぶやく千季の言葉が、ifの結末を物語っていた。
     最後の最後に配置された……デストラップ。
    「アイティア、なーんか楽しそうだけど、どうしたの?」
     茶羅が気がつきアイティアに聞く。
    「え、そ、そんな事は無いよ……?」
     そう答えつつアイティアは心の中で、多分、と続ける。相手は宿敵ノーライフキング、見習いシスターとしてテンションが上がるのも仕方がない。
    「トラップ自体の威力が低かったので大事には至りませんでしたが……もしここのノーライフキングが力を付けたら……凄い事になりそうですよね」
     ソフィリアがのんびりした口調で言うが、その言葉は的を射ていた。この迷宮の主をこの段階で補足できたのは僥倖といえる。
     8人はそれぞれサイキックを破壊し心霊治療を行う。メディックのレオンだけは破壊せずに済んだが、次のノーライフキング戦を見据えてそれぞれがほぼ全快近くまで回復する。
     立ち上がった8人は部屋に設えられた豪華な扉の前へと立つ。
    「この先に……ノーライフキングが居るのか……」
    「行こう……もちろん油断は禁物じゃがのう」
     誰もがその言葉に大きくうなずいた。
     そして――。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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