●裏切られた想い
「お、月華(つきか)ちゃん、今日も差し入れかい?」
「ええ。乙矢(おとや)お兄ちゃんの身体が心配だから!」
「まだ残業しているみたいだよ」
会社の入り口で出会った乙矢の同僚の人との会話を終えて、月華はエレベーターのボタンを押した。エレベーターが来るのも待ち遠しくて、お弁当の入ったトートバックを抱きしめながらそわそわと動く。すると彼女のひとつに結った髪がひょこひょこと揺れた。
「着いたっと。……あれ?」
エレベーターを降りてパーテーションの向こうを覗く。いつもならパソコンのキーボードを叩く音や電話で話している声が聞こえるのだが、今日はそれはおろか人がいる気配すらなかったのだ。
「あれ? 乙矢お兄ちゃんー?」
誰もいない夜のオフィスは電気がついていても少し不気味だ。なんとなく声を潜めながら月華は移動する。と、給湯室の方向から話し声のようなものが聞こえた。たしか給湯室の近くには非常階段へと繋がる扉があった。月華が給湯室近くまで来ると、やはり非常階段へ繋がる扉が開いていた。
「ねえ、いいでしょう?」
「お兄ちゃん、いるの?」
ドアに手をかけた瞬間、甘ったるい女性の声が聞こえた。人違いかと思ったが、扉を開ける手を止めることは出来なかった。
「!?」
結果として、人違いではなかった。女の人に抱きつかれるようにして唇を合わせているのは、間違いなく月華のお隣に住んでいる幼馴染の乙矢お兄ちゃんだったのだから。
「お、おにいちゃ……」
「!? 月華?」
見ていられなくて、胸がぎゅっと苦しくなって、月華は踵を返した。給湯室の横を抜けて、エレベーターの前へと戻った時、躓いて転んでしまった。
(「ずっと好きだったのに、お兄ちゃん、大好きだったのに……」)
衝撃が月華の心臓を締め上げる。
「月華……わぁっ!?」
追いかけてきたのだろう、乙矢の声が聞こえたような気がした。
月華はすでにその時、蒼色の化け物へと変化していたが……。
●
「よく来てくれたね」
教室を訪れると、神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)が柔らかい表情で灼滅者達を出迎えた。彼は灼滅者たちに座るように示すと、和綴じのノートを繰って話を始める。
「現在、『一般人が闇堕ちしてデモノイドになる』事件が発生しようとしているよ。デモノイドとなった一般人は、理性も無く暴れ回り、多くの被害を出してしまう。だが、デモノイドが事件を起こす直前に現場に突入することが可能だから、なんとかデモノイドを灼滅して事件を未然に防いで欲しいんだ」
デモノイドになったばかりの状態ならば、多少の人間の心が残っている事がある。その人間の心に訴えかける事ができれば、灼滅した後に、デモノイドヒューマンとして助け出す事が出来るかもしれない。
「救出できるかどうかは、デモノイドとなったものが、どれだけ強く、人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっているよ。デモノイドとなった後に人を殺してしまった場合は、人間に戻りたいという願いが弱くなるので、助けるのは難しくなってしまうから注意をしてほしい」
そこまで言うと、瀞真はひとつ息をついた。
「今回デモノイドとなってしまうのは行本・月華(ゆきもと・つきか)という高校1年生の女の子だよ。お隣に住む飯島・乙矢(いいじま・おとや)という24歳の幼馴染のお兄さんに恋をしている。残業の続いている彼の為に、彼のお母さんに頼まれたこともあってお弁当を届けているんだ」
けれどもある日、月華が弁当を持って行くと乙矢は自分の席におらず、非常階段で女性とキスをしていた。自分と乙矢との関係が変わらないと信じていた月華にとっては、衝撃が大きい。
「そのキスを見た月華君は、ひどいショックを受けた。裏切られたと思ったんだろうね。廊下を抜けてエレベーターホールまで来た所で転んでしまい、そしてデモノイドへと堕ちてしまう」
追いかけてきた乙矢、そして乙矢を追いかけてくる女性はデモノイドの良い標的となる。
「デモノイドとなってしまうと彼女は、乙矢さん、そして女性を手に掛けようとする。だが彼女が人を手にかけてしまってからでは、彼女がデモノイドヒューマンになれる可能性は殆ど無い。だから、彼女が人を襲う前に彼女に接触することが必要だよ」
しかし月華がショックを受けること自体を防いでしまうわけにはいかない。それを防いでしまっては、闇堕ちのタイミングがずれてしまうのだ。
「彼女がKOされた時点で、人間の心を強く残し、かつ人間に戻りたいと願うのであれば、デモノイドヒューマンとして生き残ることができるだろうね」
彼女に、人間の心を失わせないためには、近くにいる二人をすみやかに避難せる必要があるだろう。また、彼女の人間の心をとどめおくために、説得も欠かせない。
「彼女を助けたいと思うならば、くれぐれも彼女に人を手にかけさせないように注意してね。君達ならばできると信じているよ」
瀞真は信頼の瞳を向けて、灼滅者達を見つめた。
参加者 | |
---|---|
花澤・千佳(彩紬・d02379) |
王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644) |
山城・大護(高校生ダンピール・d02852) |
エーミィ・ロストリンク(黒い魔狼のオルトロス・d03153) |
瑠璃垣・絢(爪紅メロウ・d03191) |
芥川・真琴(炎神信仰の民・d03339) |
日比野・蕾花(想奏グリオット・d13829) |
ボレアス・シュナイダー(蒼の北風・d17291) |
●潜伏
灼滅者達は月華より先に、そして帰宅する乙矢の同僚達がフロアから居なくなったのを確認して、六階へと降り立った。そっとパーテーションの向こうを伺うと、人の気配も物音もしない。すでに乙矢は席を立っているようだった。
「行こう」
王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644)とエーミィ・ロストリンク(黒い魔狼のオルトロス・d03153)は給湯室へと向かう。
(「好きな子なんていないけど。変わらないものが欲しいと思う時は、あるよ」)
足音を抑えるようにして歩きながら、三ヅ星は思う。
(「ボクが灼滅者として終わるまで、『ずっと』『一緒に』居てくれる人。……そんなものないって、わかってるんだけどさ」)
心の中で自らの望みを打ち消して、小さく息を吐いた。
「あ、ここだね」
突き当りに非常階段の扉が見える。その近くに給湯室を見つけ、エーミィは三ヅ星と共にその中へと入る。そんなに広くはないが、ふたりなら余裕で隠れられそうだった。
(「三ヅ星さんに日比野さん、お知り合いが多くてたのもしい! だいすきなあやさんも一緒! これでむてきだ!」)
オフィスエリアに隠れるならば月華が覗きこんだ時に見つからない場所に隠れたほうがいいだろう、そう山城・大護(高校生ダンピール・d02852)にアドバイスを受けて、花澤・千佳(彩紬・d02379)は瑠璃垣・絢(爪紅メロウ・d03191)と日比野・蕾花(想奏グリオット・d13829)と共に、入り口のパーテーションから死角になるコピー機の影に隠れている。
互いを激励するかのように絢は千佳の手を握り、千佳は蕾花の手を握る。
「あやさん、此度のわたしたちは影のひーろーですよ!」
「かっこいい響き! 正義のヒーローは難しくても、恋する乙女のヒーローにはなりたいね。千佳ちゃんが居れば千人力だよ、頑張ろ!」
「恋する乙女のヒーロー……いい響きね」
千佳と絢のやり取りに蕾花も笑んで。
「ん。この辺りならきっと見つからないと思う」
「ありがとう」
大護はボレアス・シュナイダー(蒼の北風・d17291)と共にパソコンの消えている机の陰に隠れた。もちろん、パーテーションの位置から覗きこんだくらいでは見えないのは確認済みだ。
「んー……」
芥川・真琴(炎神信仰の民・d03339)は給湯室付近で待機しようとちょうどいい潜伏場所を探す。月華がデモノイドと化した時に一番に飛び出せそうな場所を探した結果、パーテーションの近くに積まれていたダンボールを見つけた。その影に小柄な身体を隠す。
(「人を好きになるってどういう気分なんだろうねー……」)
真琴が隠れ終わるとエレベーターの駆動音が聞こえた。一同は緊張して月華を待つ。
(「まことさん、そういうの良く分からないから、誰かを好きになれるヒトって、本当にすごいと思うな……」)
心の中で真琴が思ったその時、エレベーターの扉が開く音が聞こえた。
●想いの強さ
「あれ? 乙矢お兄ちゃんー?」
パーテーションの向こうを覗いた月華が誰もいないオフィスに声をかける。灼滅者達は息を潜めてそれをやり過ごした。タッタッタッと聞こえるのは、廊下を行く月華の足音。足音は真琴の隠れているダンボールの前を通り過ぎ、給湯室へと近づいていく。三ヅ星とエーミィが息を呑んだ。給湯室にも話し声の・ようなものが聞こえる。月華はそれに気がついたようだった。
「お兄ちゃん、いるの?」
キィと音を立てて非常階段の扉が開く音。
「お、おにいちゃ……」
「!? 月華?」
呆然とした月華の呟きと驚いたような乙矢の声。ダッ……駆け出した音が廊下に響いて、あっという間に給湯室の前を通り過ぎていく。
「待て!」
「きゃっ」
カタン、乙矢が女性を振りほどきでもしたのだろう、少しばかりハイヒールが音を立てたようだった。
どさっ……エレベーター付近で何かが倒れる音がした。恐らく月華だろう。今だ、三ヅ星とエーミィは目配せをして、給湯室から飛び出した。
「君達は……月華!? わぁっ!?」
突然目の前に現れた二人に声をかけるも、二人の肩越しに青いバケモノを見た乙矢は驚きと本能的な恐怖で声を上げた。ガタガタガタッ……ダンボールを崩して真琴が化け物と化した月華に向かって飛び出す。大護が殺界形成を発動させた。
「暫く眠っていてもらうよ」
月華は他の皆に任せ、三ヅ星は魂鎮めの風を発動させる。乙矢さんたら酷いわ、そんな声を上げて追いかけてきた女性も同じように眠らせて。
「よいしょ……行こう」
「ああ」
エーミィと三ヅ星はそれぞれ女性と乙矢を抱え上げて非常階段へと向かう。2つくらい下の階に避難させればまず安心だろう。
月華の前に飛び出した真琴は盾で彼女の巨体を殴りつける。
「『お気をつけ下さい、将軍、嫉妬というものに。それは緑色の目をした怪物で、ひとの心をなぶりものにして、餌食にするのです』……知ってるー?」
それはシェイクスピアのオセローの一節。一瞬でも嫉妬に燃えた彼女に真琴は語りかける。
(「感情が爆ぜて行き所を失ってる故の暴走、だよねー…それで本当に好きな人を傷つけちゃったら、つらいもんね……」)
「その瞳は、緑色に染まっちゃったのかな……?」
大護は雷に変換した闘気を纏わせた拳を月華に叩きこむ。
「ん、俺には彼が彼女に強引に迫られているようにも見えたよ。彼を好きだって思うなら確かめてみればいい」
恋愛方面には縁遠いが、人の心の機微には勘が冴える大護。乙矢が月華に愛情を抱いているのは確かなように思えた。それがどの種類の愛情かはわからないが。
「ことばにしなくても伝わるきもちって、なんでしょう」
歌姫のような美しい歌声を紡いだ千佳が問いかけるように言葉をかける。
「乙矢さんを想うとうれしくて、あたたかくて、……たまになんだかちくちくして。そんな大切な気持ちを握りつぶしてあなたが壊れてしまうのはとても悲しいこと」
ヴヴ……月華は唸るような声を上げて。なにか言いたそうでもあった。そんな月華が乙矢が避難した方向へ行かぬように回り込んだ絢は、盾を振り上げて殴りつけて。
「まだ好きって言ってないんだよね? 乙矢さんに、恋人が居るって話も聞いた事ないんだよね? なら勝負は付いてないよ、恋は戦闘っていうけど物理的に潰しちゃ駄目だって!」
頑張れ、頑張れ。心奮い立たせるように、応援の気持ちをこめて。
ぐわんっ! 月華の筋肉質な腕が振り上げられた。その腕は大護に振り下ろされそうになったが、寸でのところでボレアスが庇うように間に滑り込んだ。
「全く。闇堕ちへのトリガーってのはいたる所に転がってるもんだな」
殴られた痛みに耐え、ボレアスが呟いた。
「背中を向けて、どうなるの? 想いなんて、言葉にしないと伝わらない。どんなに親しくたって、――親しいから、こそ」
蕾花はボレアスに小光輪の盾を与えながら月華に問う。蕾花には変化を恐れた結果、家族――親に言えず伝えられないままの想いがある。なんとなく、重なって思えて。月華には言えないままで終わってほしくなくて。
「月華、1つだけ聞かせて欲しい。自分の思いも伝えずに、本当のことも知らずに乙矢のことを死なせてしまっていいのか?」
青色の風を幻視させるようなボレアスの動き。盾で月華を殴りつけて、注意を引いた。
「オトヤ、オニイ……」
なんとか紡ぐように月華は言葉を零す。動きが少しばかり止まったように思えた。そんな彼女に真琴は優しく語りかける。
「それまで育んできたココロが否定されたんだから、つらいよね」
自らの守りを固め、真琴は彼女をじっと見つめる。
「熱は命、ココロは焔……それ以上ココロを凍えさせちゃ、駄目、だよ……」
味方には暖かな熱を持つ光を、敵には苛烈な熱を持つ焔を。寒く、熱のない世界は怖い。誰だって、眠りは暖かな方が良いのだから。月華も、それ以上心を凍えさせないでほしい、真琴は思う。
「幼馴染みなんて関係自分から変えて振り向かせてみろよ。堕ちそうなくらい好きなら簡単に諦めたりするな」
弾丸を連射する大護。その音に負けぬように、心から叫ぶ。
「自分から、逃げるな!」
「いのちみじかしこいせよおとめ。絶望するまえに正面からぶつかってみても損はないですよ! 全てを捨てるにはまだはやい!」
それに合わせるようにして、千佳も叫ぶ。プリズムのような十字架から無数の光線を放ち、月華を射抜いた。
諦めるのはまだ早い、だから、戻ってきて。
「大好きですって、ぶつけに行こう。気持ちを抱え込んだまま終わるの、勿体無い」
死角に回り込んだ絢はそっと彼女に声をかけて。
「大丈夫、まだボタンは掛け直せるよ。全力で応援するから、怖いなら手を引くから。ね? 戻っておいで」
彼女を斬り上げるのは戻ってきて欲しいから。
ヴ、アアアアアアァァァ!
衝動を抑えきれないのを悔やむように月華は叫び声を上げた。そして巨大な刀に変えた利き腕を絢に振り下ろす。
蕾花は誰かを恋い慕うという感情にまだ、覚えがなくて。同じ年なのに堕ちてしまうほど誰かを恋い慕う月華が少しだけ眩しい。絢に小光輪の盾を与えながら感じていた。ボレアスも盾を絢に与えながらその傷を癒す。
と、非常階段の方向から足音が聞こえた。乙矢達を避難させていた三ヅ星とエーミィが戻ってきたのだ。避難は無事にすんだようだ。
「君は彼のこと、どのくらい好きなんだい?」
駆けつけた三ヅ星は質問を投げかけた。月華が一途に自分の気持を大事にしてきたことはわかっている。デモノイドになったからといってそれが変わることがないと、三ヅ星は信じている。自分は小さくて、弱いけれど、月華を助けたい、その気持ちは人一倍ある。放つ弾丸に想いをこめて。
「まだ絶望するには早いよ! 月華ちゃん! 想いは言わなきゃ伝わらないんだよ! だから、精一杯言わないと!」
エーミィも精一杯声を張って。『双頭を持つ黒き破壊獣(オルトロス)の死爪』に炎を纏わせて、彼女の青い身体へと斬りつける。
「……壊す気持ちが抑えられないなら、わたし達が受け止めるから……!」
「……帰っておいでよ……物語は悲しい終わり方しか出来なくても。あなたはその先に、幸せを見出すことが出来るんだよ……」
「……カエル? カエリ、タイ……」
真琴の光線に撃たれた月華はふらつきつつ、呟いて。きっと、それがダークネスの下に押しのけられている彼女の本音。
「ん、なら戻ってこい!」
大護が爆煙の魔力を込めた弾丸を放つ。千佳が『Jacta alea est.』をふるって魔力を叩きこむ。
(「わたしの父も、まいにちしごと。帰ってこない日たくさんだった。おとなってむずかしいな。恋をするってむずかしいな」)
ふと、思い出す。
(「ありがとうとすきの気持ちは言葉に出してつたえたい。大事な事は、きちんと形にしなくては」)
だから、月華にもそうしてほしい。
「大好きって気持ちが裏返ると、悲しいね。ちょっと解るよ、大好きな人が他の人を大好きなところ見ると、痛いよね。でもでも、だからこそ負けちゃだめだよ」
絢は再び月華の死角へ入り込み、斬り上げる。
「もう一度裏返そう、恋心は、綺麗な色のままがいいから。きらきらしたままで、胸の中に置きたいから」
「あなたの恋は、なにいろですか?」
絢の言葉に千佳が添えて。月華を見る瞳は優しくて。帰っておいでと優しく待っている。
体内で戦っているのだろう、呻き声を上げた月華。その腕は真琴を狙ったが、狙いは外れて月華は体勢を崩した。
「乙矢さんは困惑していたわ。あの女性とはお付き合いしているわけではないみたいよ。だから、言葉にすることをためらわないで」
それは待機中に蕾花がテレパスで得た情報だ。付き合っているならあんな困惑は感じ取れなかったはずだと蕾花は思う。応援するように旋律を紡いで。
「月華、頑張って帰って来い」
ボレアスの魔法の矢が体勢を崩している月華に突き刺さる。
「君の『スキ』はライバルに挫けたり、ダークネスに負けてしまうの!?」
気持ちを伝えないまま、彼を誰かに取られてもいいの? 違うよね、そんな想いをこめて三ヅ星は言葉を投げる。ほら、違うなら帰っておいで。三ヅ星の影が抱くように月華の身体を縛り付ける。
「もう、帰ってこれるよねぇ?」
エーミィの手加減した一撃で月華は床へと崩れ落ちた。その青い巨体が、だんだんと少女のそれへと戻っていった。
●伝えて
目を開けた月華を真琴はそっと抱き起こして。ボレアスが優しく、彼女の身に起こったこと、学園の事を話して転入を促した。
「んしょ、よいしょ」
その時丁度、エーミィが眠っている乙矢を連れてきた。
「乙矢お兄ちゃん……」
「何をどう伝えるかは二人で決めるのがいいわ」
「結果はどうあれ、気持ちの踏ん切りをつけることは大事です」
蕾花と千佳の言葉にびくっと月華は肩を震わせた。
「月華さんはどうしたいの?」
「私は……気持ちに区切りをつけたい」
「いい結果を祈るわ」
微笑んでぽん、と月華の肩を叩いた絢。
「ん。あってほしくないけれど万が一があれば、泣きたい時に胸はいつでも貸し出せるよ。だから、頑張って」
優しく月華の頭を撫でた大護。
「あなた自身が後悔しないように」
チン――エレベーターが到着を知らせる音を発した。灼滅者達は次々乗り込んでいく。
「あとは二人で。頑張って」
ボタンを操作していた三ヅ星が『閉』のボタンを押す。
「あのっ……ありがとう!」
閉まっていく扉に向かって月華が叫ぶ。
「……月華?」
その声で目が覚めたのだろう。彼女の名を呼ぶ乙矢の声が聞こえた。
エレベーターの扉が閉まり、下降が始まる。
乗り込んだ灼滅者達は祈る。次に乗り込むのが、仲睦まじい二人であることを。
作者:篁みゆ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 0
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