夢の中で待ってて

    作者:春風わかな

     ――待って。ねぇ、待ってってば!
     猛スピードで駆ける獣を追って、少女はアスファルトの道を走り続けていた。
     ある時は近所の公園によく似た景色。
     またある時は川沿いのサイクリングコースに似た景色。
     毎回違う景色だったが、それらには共通点があった。
     ――ウメと一緒にお散歩してた道だ。
     そこで少女ははたと気づく。自分が今探しているのは愛犬のウメであることに。
    「ウメ! ウメ!! どこいるの?」
     お返事して、と声をかけても愛犬の鳴き声は聞こえない。
     代わりにふんわりとした茶色の尻尾がすっと横切った気がした。
     ――ウメがいた。
     再び少女は犬と思われる生き物を追いかけ走り出す。
     まるで、捕まえられるかどうか試しているみたいに。
     でも、少女は知っている。
     ウメは優しいから、最後はちゃんと待っていてくれることを。
     だから、あの角を曲がったらきっとウメは待っていてくれる。
     そう信じて少女が路地裏の角を曲がると何かがいる気配を感じた。
    「ウメ、つかまえ……!」
     ぎゅっと抱きしめたその身体は――明らかにウメよりも小さかった。
    「ウメじゃ、ない……」
     ウメじゃないなら、いらない。
     少女がそう思った瞬間、ウメだと思ったものはパリンと音を立てて粉々に砕け散った。
     と、同時に一瞬にして周囲は荒野と化すが、少女に気にする様子は見られない。
    「ウメ、どこ行っちゃったのかなぁ?」
     早くウメと一緒にお家に帰りたいな。
     再び少女は愛犬を探しにあてもなく走り出すのだった。

    「闇堕ちしかけている人が、いる」
     久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)は教室に集まった灼滅者達を前に唐突に話し始めた。
     曰く、他者のソウルボードにアクセスしては夢を見ている本人の大切なモノを奪い、ソウルボードを破壊している者がいるらしい。でも今回は――。
    「わざとでは、ないみたい」
     犯人はユメハという名の少女。彼女はただ、ソウルボードを彷徨い、大切な宝物を探しているだけのつもりなのだ。
     しかし、宝物は個々人それぞれ異なるものであるから、決してユメハの宝物は見つからない。故に、少女は奪った宝物を壊してしまう。――自分には必要のないものだから。
     ユメハとの接触方法だが、少女が他者のソウルボードにアクセスする前に彼女自身のソウルボードへアクセスするのが良いと來未は言う。
     ユメハは夢の中で犬を探している。彼女が飼っていた『ウメ』という名の犬なのだが、現在は行方不明らしい。
     ウメがいないのに両親がちっとも動いてくれない苛立ちからか、ユメハは現在他人に対して心を閉ざしている。まずはユメハの信頼を得る必要があるだろう。
     信頼を得る方法は問わない。ユメハが共感しやすい内容であれば成功の確率は上がると予想される。
     また、ユメハ自身に自分の行いを認識してもらい、やめるよう説得をすることも必要だ。少女にもわかるような言葉で説得することが重要だ。
     だが、この説得の成否に関わらず、ユメハとの戦闘は避けることは出来ない。
     戦闘時にはユメハだけでなく、トランプの兵隊のような恰好をした配下が3体現れる。
     ユメハはシャドウハンターによく似たサイキックを、配下達はロケットハンマーのサイキックを使用する。
     ユメハの灼滅者達に対する信頼度に応じて配下の数が、また、説得の結果に応じてユメハ自身の強さが変わると考えてもらって問題ないだろう。

    「ウメは、もうこの世に、いない」
     説明を終え、ぽつりと來未はつぶやいた。
     その事実にユメハ自身気づいているのかどうかは定かではない。
     だが、事実をユメハに告げるかどうかは皆に任せる、と來未は言う。
     ユメハ自身の意識が残っている今の状態であれば、まだ少女は完全にダークネスにはなっていない。
     もしも、少女が灼滅者としての素質を持つのであれば闇堕ちから救いだしてほしい。
     しかし、完全なダークネスになってしまうようであれば、その時は――。
    「灼滅、して」
     抑揚のない声が静かに教室に響いた。


    参加者
    雨谷・渓(霄隠・d01117)
    弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)
    式守・太郎(ニュートラル・d04726)
    仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)
    アンリエル・クロスライン(アイソレータ・d09756)
    八川・悟(敗戦少年・d10373)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)

    ■リプレイ

    ●犬を探す少女
     ふと気がつけば灼滅者達は緑あふれる公園の一角に立っていた。柔らかな芝生が一面に広がり、心地よい風がさわさわと木々を揺らす。無事ソウルボードへ侵入を果たしたことを確認すると八川・悟(敗戦少年・d10373)の提案で少女を探すことにした。どうやって探そうかと考えるまでもなく、すぐに少女の声が耳に届く。
    「ウメー! どこにいるのー?」
    「あっちだ」
     鋭い眼差しで声の主がいると思われる方角を見つめ悟が走り出した。
     悟の後を追いかけると、そこには声の主と思われる青いリボンで髪を結った少女がいる。
     少女は何かを探すことに夢中らしく灼滅者達の存在には気づいていない。
     彼女がユメハに間違いない。そう思った雨谷・渓(霄隠・d01117)は驚かせぬようにゆっくりと少女の前に姿を見せた。
    「こんにちは」
     はじめましてと笑顔で話しかける渓に気付き、少女はきょとんとした顔で少年をじっと見上げている。少女と視線を合わせるために少し屈み、渓はゆっくりと自分の名前を告げ、少女に質問を投げかけた。
    「ユメハさんですか? ここで何をしているんですか?」
     少女はこくんと頷き小さな声で答える。
    「ユメね、ウメをさがしてるの。忙しいから、もう行くね」
     バイバイ、お兄さん――くるりと背を向け足早に立ち去ろうとするユメハを慌てて式守・太郎(ニュートラル・d04726)が引き止めた。
    「こんにちは、ユメハ。俺は太郎です。学園の友達とユメハを手伝いにきました」
    「手伝い?」
     思いがけない太郎の言葉に首を傾げるユメハだったが、渓や太郎の他にも人がいることに気がつき驚きを隠せない。
    「……ユメハちゃんが大変そうな顔をしていたから。俺達、何か力になれないか?」
     ――だって、ひとりでウメを探すのは大変だろう?
     仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)の言葉にユメハは正直に頷き顔を曇らせる。ずっと探しているのにまだウメは見つからない。
     そんなユメハの不安な気持ちに気が付いたのか、コルネリア・レーヴェンタール(幼き魔女・d08110)が優しく語りかけた。
    「私達でよければ……ウメさんを探すのに協力させてくれませんか?」
     コルネリアの申し出にぱっとユメハの顔が輝く。お兄さんやお姉さん達が一緒にウメを探してくれるなんて。
    「いいの? わぁい、ありがとう!」
     ユメハは嬉しそうに微笑んだ。

    ●ウメは何処?
    「あのね、ウメの毛は茶色なの。それで左の前足だけちょっと白くてね……」
     一生懸命ウメの特徴を語るユメハの話を夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)が相槌を打ちながら聞いている。
     その様子を見たアンリエル・クロスライン(アイソレータ・d09756)が紳士な振る舞いでユメハに話しかけた。
    「その犬は、貴方にとって大切な存在なんですね?」
    「うん! ウメはユメが小さい頃からずーっと一緒にいたんだよ。大事なお友達なの」
    (「大事な友達かぁ……」)
     ウメのことを語るユメハの話を聞き、弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)も無意識のうちにスレイヤーカードを握り締める。誘薙の大切な友人はカードの中で大人しく待っている。
    「ウメ、見つかるかなぁ?」
     不安そうな顔でぽつりと呟いたユメハに大丈夫、と優しく炬燵が微笑みかけた。
    「みんなで捜せば見つかりますよ」
    「そうですよ。それに、こんなに一生懸命に探してくれてることを知ったら、きっとウメさんも喜ぶと思いますよ」
     コルネリアにも励まされ、ユメハの顔に笑顔の花が咲く。
    「そうだよね! みんながお手伝いしてくれるんだもん! きっとウメ見つかるよね!」

    「ウメー! 出てこーい!」
    「ウメさーん、どこですかー?」
     ユメハの案内でウメと一緒に遊んだ場所を中心に探すがやはりウメは見つからなかった。
    「こーんなに探してもウメいないんだから、パパやママももっと真剣にウメを探してくれればいいのに」
     ぶーっと頬を膨らませるユメハに誘薙がわかります、と何度も頷く。
    「大人は僕たちとは違うから……何考えてるか僕にもわかりません」
     大人びた口調で語る誘薙にユメハは尊敬の眼差しを向けた。
     すっかり打ち解けたらしい様子のユメハを見て、そろそろ切り出す時かと灼滅者達はこっそりと視線を交わす。
    「ユメハさん」
     手招きをする渓に気付いたユメハは「なぁに?」と小首を傾げて近づいてきた。
    「大事なことを話すからよく聞いてくださいね」
     真面目な顔で告げる渓を怪訝そうな顔で見つめるユメハ。
     仲間達が神妙な面持ちで見守る中、渓はユメハに大切な事実を伝える。
    「ここは、現実の世界ではありません。実は、貴女の夢の世界なんです」
    「あれ? それじゃユメ今寝てるの?」
     若干混乱している様子のユメハの問いに頷き、渓は説明を続けた。
    「貴女は、ウメさんがいなくなってしまった悲しさから夢の世界へ行くことが出来るようになったんです」
    「……すごーい!」
     ぱちぱちと瞬きをするユメハを見て、くすりとアンリエルは笑みを漏らす。
    「夢に入れるなんて不思議でしょう? ……そういう、力がある人がいるんです」
    「うん。おとぎ話みたい! みんなも、夢に入れるの?」
    「ええ、入れますよ」
     アンリエルを始めとする5人のシャドウハンター達が首を縦に振った。
    「ねぇ。ユメの夢の中だったら、きっとウメにも会えるよね」
    「それは……」
     嬉しそうなユメハになんと答えようか。アンリエルは答えに迷い視線を伏せた。この夢の世界にいるウメは本物のウメではない。
     その時、コルネリアが物陰をじっと見つめ、小さな声で呟いた。
    「……ウメさん?」
     ちらりと見えたその姿はユメハが語っていたウメの特徴そのもの。
    (「なぜ、ここにウメが……!?」)
     嫌な予感が炬燵を襲う。
    「みなさん、気を付けてください!」
     不測の事態に備えて身構える炬燵の横をすり抜け、ユメハはウメに向かって走り寄る。
    「ウメ!!」
     そして、灼滅者達が見守る中、ユメハはウメをぎゅっと抱きしめた。……だが、ウメはパリンとあっけなく音を立てて壊れてしまう。
    「ウメ、壊れちゃった……」
     べそをかくユメハの横にそっと太郎がしゃがみ込んだ。そして、大丈夫ですよと声をかける。
    「ここは夢の中。あのウメは本物のウメじゃありません」
    「でも、でも……」
     鼻をすするユメハに渓も優しく語りかけた。
    「ユメハさん。前にウメさんを探しているとき、何か壊したものはなかったですか?」
    「何でしってるの?」
     しかしユメハの問いに渓は答えない。代わりに答えたのは誘薙。
    「それは、他の誰かの宝物なんです。君にとってウメと同じぐらい大切なものなんです!」
    「みなさん何か大切なものを持っていると思います。例えば、私の場合はコタツです。ユメハさんの大切なものはウメ」
     炬燵の言葉にユメハはこくりと黙って頷いた。
     ウメは大切な家族であり一番の友人でもある――かけがえのない存在。
     屈みこみユメハの目線と高さを合わせ、太郎が優しく語りかける。
    「ウメが壊れた時、悲しかったでしょう? 他の人も大事なものが壊れて同じように悲しい想いをしたんです」
     ――だから、もう止めましょう。
     諭すような太郎の言葉。しかし、俯いたままユメハはぽつりと呟いた。
    「……いーぃ?」
     不自然に甘ったるい声。さっきまでとは違う邪悪な雰囲気を纏っている。
    「――気を付けてください!」
     警戒していた悟が武器を構え、注意を促すコルネリアの鋭い声が飛んだ。しかし、ユメハは気にする様子もなく、質問を投げかける。
    「ウメ壊れちゃったから、もう会えないの? だったら……私、みんなの宝物いっぱい壊していい?」
     少女の頬には、先程まではなかったはずの赤いハートの印が浮かび上がっていた。

    ●闇から救え
    「ねぇ、私の邪魔するの? それなら、まずみんなのこと壊しちゃってもいい?」
     くすくすと笑いながら灼滅者達を見つめる少女を守るようにトランプの衛兵のような姿をした配下が1体現れた。配下の数が少ないのはユメハが灼滅者達を信頼した証。
     しかし、ユメハの中にいるダークネスを倒さなければ少女が解放されることはない。
    「それじゃ、お望み通り♪」
     にこっと邪悪な微笑みを浮かべ、少女は誘薙に向けて漆黒の弾丸を撃つ。大きな闇が誘薙を飲み込まんばかりに襲い掛かかった。
    「うわ……っ」
     なんとか耐えきった誘薙の傷を霊犬の五樹が懸命に癒す。誘薙は友人に笑顔を向け、痛む身体を奮起さんと大きな声で気合をいれた。
    「ありがとう、五樹。僕達みんなでユメハさんを助けるんだ!」
     五樹の言葉に7人の灼滅者達は大きく頷く。皆、気持ちは同じ。
     作戦通り、配下を倒すべくユメハの前に立つトランプの衛兵に攻撃を集中させる。
     灼滅者達と刃を交わすこと数回。ぐらりとバランスを崩したところに、チャンスとばかりにコルネリアの撃った魔法の矢が容赦なく撃ち込まれた。
    「ナノ~」
     コルネリアのナノナノ、ふぃーばーの起こした竜巻に巻き込まれ配下の身体が宙を舞う。
    「邪魔はしないで下さい」
     太郎はちらりと配下を一瞥し冷たく言い放った。刹那、死角へと回り込むや否や【灼滅刀】で素早く配下を斬り付ける。その真っ直ぐな刃は正確に腱を断ち、深い傷をつけた。
     と、同時に真っ赤な逆十字が配下の身体に浮かび上がる。悟の放った赤い十字架が敵を引き裂いた。
    「ギィェェェェ」
     人ならぬ声をあげ、配下はそのままピクリとも動かない。
    「あーぁ、もう動かなくなっちゃった」
     つまんないの、と口を尖らせる少女にアンリエルの厳しい声が飛ぶ。
    「堕ちてはいけません。ソレはただ奪うだけの存在です」
     アンリエルの影が伸び、刃のように鋭く尖った先端が少女の身体を切り裂いた。
     だが、少女の表情から感じられる余裕はまだ消える様子はない。
    「……何かを壊す手で大切なものは掴めない」
     優しく言い聞かせるように呟き、メイテノーゼは両手に集めたオーラを一気に少女に向けて放出した。オーラキャノンに打ち抜かれ、少女のリボンがはらりと落ちる。
     間髪入れずに渓もオーラを拳に収束させて止まることなく連打を繰り出す。だが、その顔にはどこか悲しそうな雰囲気が漂っていた。
    「ユメハさん、今のままではウメさんに会えないよ」
     しかし、少女は可笑しそうにくすりと笑う。
    「私、知ってるわ。ウメはもう死んじゃったから会えないんでしょ?」
     ――この子もホントは知ってるの。認めたくないから気づかない振りをしてるだけ。
     ふふん、と挑戦的な笑みを浮かべた少女の胸元にハートのマークが浮かび上がったかと思うと少女の身体が闇に包まれ傷が癒える。
    「知ってたんですね……」
     小さな呟きを漏らした炬燵が放ったデッドブラスターが少女を黒い闇で包み込んだ。

     少女の攻撃を避けきれずコルネリアの身体が吹き飛ばされる。
    「大丈夫ですか!?」
     傷の深さに駆け寄った誘薙の顔が曇った。急いで誘薙が指輪の魔力でコルネリアの傷を癒し、ふぃーばーもふわふわハートを必死に飛ばす。
     だが、コルネリアはマテリアルロッドを杖代わりにして魂の力を振り絞り立ち上がった。
    「必ず、救い出してみせますから……!」
     ぐっと武器を握る両手に力を込め思い切り少女を殴りつける。
     そして、悟も素早く赤いオーラを纏った解体ナイフを振るいダークネスの身体を斬り付けた。
    「大切なものが確かに存在していた、この簡単な事実だけで十分救われるんじゃないか?」
    「さぁ? 知らなーい」
     肩をすくめる少女の左腕が切り裂かれ赤い血が滲む。悟の陰から飛び出したメイテノーゼが少女の死角に入り込み、高速の動きで少女を切り裂いたのだ。みるみるうちに少女の服が鮮血で染まっていく。
    「いったぁーい!!」
     痛みに顔を歪め半べそをかきながら、なおも少女は漆黒の弾丸を撃ち続けた。
     そんな少女を見つめるアンリエルの脳裏に悲しい過去が蘇る。大切な家族を亡くしたあの日のこと……。
    「私は、もうあんな惨劇を見たくないから、貴女を止めます!」
     少女の放った漆黒の弾丸を見据え、アンリエルも闇色の弾丸を撃つ。
     続けて炬燵も魔法弾を放った。指輪から放たれた魔法弾は命中すると同時に少女の動きに制約を与える。
     ユメハ、と太郎も【深淵の手】を伸ばして少女に語りかけた。
    「ウメとの思い出を踏みにじるような奴に負けてはダメです」
    「ウメ……会いたい……」
     少女の瞳できらりと光るものに気が付いた渓がそっと微笑みかける。渓の持つ槍の周りがひんやりとした空気に包まれた。槍を大きく一振りし、冷気のつららをダークネスに向けて一斉に撃つ。
    「自分の力を正しく使いこなせたらきっとまた会えるから」
     ユメハさんの心の中にいるウメさんに――。
     少女を包み込んだ氷がパリンと澄んだ音を立てて崩れるのと同時、華奢な少女の身体がぐらりと傾いた。
     慌ててメイテノーゼが駆け寄り、手を伸ばしてそっとユメハを受け止める。
    「……良かった」
     腕の中で眠る少女の頬には、もう赤いハートのマークは見えなかった。

    ●新しい友と踏み出す新たな一歩
    「おはようございます」
     目を覚ましたユメハに炬燵がにっこりと微笑んだ。
    「ウメは!?」
     慌てて飛び起きたユメハにアンリエルは静かに首を横に振る。事態の整理が出来たのか、ユメハも「夢だったんだね」と独りごちた。
    「まだ夢は覚めていないけれどね」
     悟が無表情のまま小さく肩をすくめる。
    「ユメハちゃん、よかったら、ウメと遊んだ思い出を聞かせてくれないか?」
     唐突なメイテノーゼの頼みにユメハは一瞬びっくりした表情を見せたが、すぐにいいよ、と思い出を語りだした。
     止まらない思い出話にコルネリアの顔が綻ぶ。
    「ウメさんとの想い出は、永遠に壊れたりしませんよ。大切な宝物です」
     そして、傍らをふよふよと漂うふぃーばーに「あなたもですよ」と優しく微笑みかけた。
     コルネリア達を羨ましそうに見つめるユメハに気付き誘薙がそっと彼女に囁く。
    「失うことは悲しいけど……でも、新しい出会いはきっとあるから!」
     誘薙の足元に寄り添う五樹の頭をそっと撫で、ユメハを励ますように誘薙は言った。
    「だから、ユメハさんにもウメと同じような存在、きっとまた現れますよ!」
    「……うん!」
     嬉しそうに大きく頷くユメハに太郎が別れの時が来たことを告げる。
    「次は夢の外で会いましょう。約束です」
    「うん、やくそく!」
     8人全員と指切りをして満足したユメハに見送られ、灼滅者達は歩き出した。
     その時。
     ――ワン。
    (「犬……?」)
     渓が慌てて振り返ると手を振るユメハの横にちょこんと座る犬の姿が見えた気がする。
    「どうかしましたか?」
     前を歩く炬燵の問いに、渓は静かに微笑みを浮かべ仲間達の元へ駆け寄った。
     ――彼女に訪れる新しい出会いはそう遠くないのではないか。
     そんな小さな予感を伝えるために。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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