腰痛ヘルニアン!

    作者:相原あきと

     神奈川県は箱根……より少し離れた位置にある街、箱湯街。
     のどかな温泉宿が並ぶ情緒豊かなこの町は、人口1万人ほどが暮らしている。
    『温泉宿 要(かなめ)』
     温泉まんじゅうが売られるなだらかな通りを抜けた先に、その温泉宿はあった。
     宿の看板には「腰痛に効く!」とでかでかと書かれている。
     実際、その宿に入って行くのは腰に手をあて杖をついているご老人ばかりだ。
     だがその温泉の要湯に、湯に浸かる老人達を介護する一人の青年がいた。
    「いや~、ありがとうねぇ~。お兄ちゃんも腰を?」
     手を貸して貰っていたお婆ちゃんが、ニコニコしながらその青年に声をかける。
    「いえ、俺は世界中の腰痛持ちの味方ですから」
     紳士然として答える青年に、老婆の頬も桜色に染まる。
    「おー、兄ちゃん! 背中洗うの手伝ってくれんか?」
    「任せて下さい。ああ、足元に手を伸ばすのは痛いでしょうから俺が石鹸拾いますよ?」
     混浴で和気藹藹とした雰囲気の温泉だ。
     が、その空気を無視して入ってくるのは若い男の3人組だった。
     そのシャンとした背筋に、背中を洗っていた青年の目が光り、すたすたと近づいていくと3人組の前に立ちふさがる。
    「なんだてめぇ」
    「おい邪魔だ、今度女呼ぶ混浴コンパの下調べなんだ」
    「変な格好しやがって」
     3人の若者に青年、黒をベースとした盛り上がった筋肉のようなボディスーツを着ている、が指を付けて宣言する。
    「この温泉の効能は腰痛に良いんだ。故に、腰痛持ち以外は使用を控えて貰おう」
    「はぁ? 頭オカシイんじゃねーか? そこどかなねーなら痛い目みるぜ?」
     3人組の1人が一歩前で出て拳を鳴らす。
    「残念だな……痛い目をみるのは、お前達の方だ」
     そう言うと目にも止まるパンチが3人をかすり、だが3人は時間差で吹っ飛ばされる。
    「速い動きは腰に悪いのでな」
     決めポーズを取る青年に、老人達が歓声をあげる。
    「やはりこの温泉宿を守って正解だった。全ての非腰痛者め、この温泉の効能は俺が守る!」

    「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が、来たようだな!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、集まったキミ達を見て言い放った。
    「今回お前達に解決して貰いたいのは、闇堕ちしたダークネスだ。彼の名前は十文字ヒロシ、17歳、男。彼はまだ元の人間としての意識を残している。もし灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出してくれ」
     もっとも、完全なダークネスになってしまっていたら倒すしかないが……ヤマトはそう言うと、事件の詳細をキミ達へと教える。
    「奴はヒーローのような筋肉スーツを来た男だ。顔だけ素のままだから、そんな勇者を見間違えるはずはないだろう」
     それはつまり、仮面のヒーローの仮面無しと言った所だろうか。確かに、変だ。
    「腰痛持ち以外を敵視して問答無用で襲ってくる。お前達が多少の腰痛持ちでも、飛んだり跳ねたりしていれば『その程度で』と攻撃してくるから気をつけるんだな」
     ヤマトはそこで一度言葉を区切ると、神妙な顔で続きを口にする。
    「ただ、奴がいるのは混浴温泉で、基本的に老人達が入っている。しかも全員腰痛持ちのせいか奴は老人達に優しく、老人達も奴に打ち解けている」
     つまり、老人達の前で戦う事になるという事か。
    「うう!? 俺の脳に秘められた全能計算域(エクスマトリックス)が、奴と戦う為には温泉が開いている時間に堂々と入って行くしかない、という結果を導き出した!」
     自分のこめかみに当てていた人差し指を、ヤマトはキミ達へ向ける。
    「だが、お前達ならなんとかできるはずだ!」
     そしてヤマトは敵の注意事項を説明する。
     敵は十文字ヒロシ、一人だけ。
     温泉の戦闘が可能な足場は半径20mほど、湯船や洗い場はその範囲の外にある。 
     腰痛持ちの老人達にヒロシは手を出さない。
     強さは灼滅者の10人分ぐらい。
     説得が通じればヒロシの戦闘力が落ちるだろう。
     戦闘力は攻撃とタフネスに自信があるタイプだ。だがスピードは微妙だ。
     攻撃方法はパンチとキック、もう1つ必殺技があるようだが……それは解らない。
     そして弱点がある。
    「俺の全能計算域(エクスマトリックス)を持ってしても、奴の弱点を見抜けないとは! くっ!」
     拳を握って悔しそうにするヤマト。
     そう言えば十文字ヒロシは自分の事をこう名乗っているらしい……ふと気付いたように顔をあげると、ヤマトはキミ達に向かって告げた。
    「腰痛ヘルニアン、そう自らを名乗っているらしい。危険な任務だが、お前達なら大丈夫だ!」


    参加者
    シルビア・ブギ(カオスの素・d00201)
    小塩・瑠美(小学生ストリートファイター・d00841)
    水無月・戒(疾風怒濤のナンパヒーロー・d01041)
    美坂野・美味大根(黒薔薇・d01986)
    六六六式・美空(逸般人・d05343)
    城橋・予記(小学生ご当地ヒーロー・d05478)
    南沢・はるひ(おひさま戦隊サンデリオン・d06158)
    十津金・旭(桜火転身トツカナー零五・d06921)

    ■リプレイ


     神奈川県某所箱湯街にある温泉宿『要』の温泉で、その青年は声を荒げていた。
    「なんだキミ達は! ここは――」
    「温泉なのじゃー!」
    「おいっ! 人が話してるのに無視して入るな!」
     はしゃぎながら温泉に飛び込むシルビア・ブギ(カオスの素・d00201)を、筋肉スーツを着た青年、十文字ヒロシが制止する。
    「ここは腰痛持ちの為の温泉だ。非腰痛者は出て行ってもらおう」
     冷たく言うヒロシに対しシルビアも言い返す。
    「そなたこそ、腰痛持ちでない癖に温泉に入るとは何事じゃ!」
    「俺は腰痛持ちのサポートをしているにすぎない」
    「なら、俺と一緒だな」
     そう言ったのは水無月・戒(疾風怒濤のナンパヒーロー・d01041)だ。
     誰だとヒロシが聞く前に、温泉に入っていたお婆ちゃんが「さっきのマッサージ師さん?」と口を挟む。
     戒は6時間前にこの街へ到着しプラチナチケットでマッサージ師として老人達を助けていた。ついでにガイアチャージもしてある。
     ご老人の言葉に不承不承納得するヒロシ。だがそれ以外は……。
     それを察したのはスクール水着の女の子、小塩・瑠美(小学生ストリートファイター・d00841)だ。
    「うちは今度、じいちゃんを連れて来るんやけどまずはうちが下調べしに来たんよ」
    「む、それなら……まぁ、良いだろう。だが、キミ達はどうだ。見た所腰痛持ちには見えないが」
     「ハイ」と手を挙げたのは南沢・はるひ(おひさま戦隊サンデリオン・d06158)だ。
    「私、特訓中に腰の筋を痛めたっぽいの。悪化予防のために来たんだけど、駄目?」
    「それは一大事だ! 普通に歩いて大丈夫か? 慎重に温泉に入るんだ!」
     掌を返して心配するヒロシに対し、少し引きつつはるひが温泉へ。
     さらに小学4年生の城橋・予記(小学生ご当地ヒーロー・d05478)も言う。
    「あのさ、ボクも先日重い荷物を持ったら腰が痛くなっちゃって」
    「なんだと!? よし腰の重心を動かさないようゆっくり温泉へ移動するんだ」
     はるひと同じく無駄に心配されつつ予記も温泉へ――
    「待て」
     行く前に呼び止められる。
     ポーカーフェイスのつもりだったが予記の鼓動が速まる。
    「痛みを懸念し緊張するのは解るが転んだら大参事だ、深呼吸で緊張を解きほぐせ」
    「あ、ありがとうは、言わないよ」
     ちょっとツンデレ気味な返事にヒロシは微笑む。ヘルニアンは腰痛者の味方だ。
     だが問題はこの後だ。残っているのは小学2年の十津金・旭(桜火転身トツカナー零五・d06921)、黒いビキニを着た美坂野・美味大根(黒薔薇・d01986)、そしてちんまい六六六式・美空(逸般人・d05343)だ。
    「キミは一番若そうだが……スクール水着で遊びに来たのか?」
     ヒロシの矛先が一番年下の旭へと向けられる。
    「し、仕方ないんだもん……水着、これしかないし……裸は恥ずかしいから着てるだけで……」
    「なら何しに来た」
     疑惑の眼差しで追求してくるヒロシ。だがその視線を防いだのは黒いビキニ、いや美味大根だった。
     彼女は冷静に、そして自信に溢れた仁王立ちでヒロシの前に立ち塞がる。『ここは私に任せなさい』とでも言うように。そして――
    「ええええっと、えっと、えっと!」
     美味大根は完全に余裕が無かった。
    「おいっ! 何がしたいんだキミは!」
     不意打ち気味に来た台詞に思わずヒロシがツッコミを入れる。だが、そんな美味大根がちょっと可愛いとか思ったヒロシは思わず2人を温泉へと手で追いたてる事にした。
    「くっ、あの2人は後回しだ。それより――」
     ヒロシは最後の1人へと向き直る。そこでは複数の手桶を台形の形に積み上げ、何かを作っている美空がいた。
    「ああ、美空は実況席を作っているであります。ヘルニアンさんが一方的に負けると立つ瀬が無いと思い、美空はナレーターとしてかっこが付くよう実況する予定でありますよ!」
     ヒロシは無言で手桶実況席を崩す。
    「な、何をするでありますか!」
    「黙れ! ここは腰痛者の為の温泉だ! 非腰痛者はこの温泉に入る資格は無い!」
     一触即発。だが、それを止めたのは温泉に浸かっていたご老人方だった。
    「ヒロシ君、お話ぐらい聞いてあげたらどう?」


     美空達より先に温泉へと入った瑠美達は、温泉に浸かる老人達から話を聞き交流を深めていた。
     その事が結果的に戦闘の開始を止め、説得の時間を作る事へと繋がったのだ。
    「それで話とは何だ」
     一端美空の事は保留にしヒロシは瑠美へと問いかける。
    「腰痛持ちの人に優しくしたい思うのは兄ちゃんだけやない。自分一人って思い込むのはあかんよ。うちらにも手伝わせて」
     それは誠意を込めた嘘偽りの無い言葉だった。
    「それは嬉しい言葉だが、しかし……」
     言葉に詰まるヒロシに対し、温泉から上がった瑠美が駆けて行き――
    「いやや! うちもじじばばの背中洗ってあげたい! 一緒に温泉入りたい!」
     ヒロシの腰に抱きつきつつ頭突きをかました。
    「ぐあっ!?」
     崩れ落ち動きを止めるヒロシ、瑠美は「つい勢い余ってもうて!」と言い分けするがヒロシはそれ所で無い。
     キラーン!
     その瞬間、灼滅者の目が光るがヒロシは気が付かない。
     ヒロシは立ち上がり。
    「手伝ってくれるのはありがたいが、この温泉に非腰痛者は……」
    「まぁ、待ちなさい。効能が腰痛なのならば腰痛の予防になるとは考えられないかしら? 腰痛に悩んでる人の気持ちがわかるなら未然に防ぐのも大事だと思うのよ? 辛いでしょ? 腰痛」
     美味大根の言葉にヒロシの眉間の皺が取れていく。
     それを見逃さずに予記が続ける。
    「ボクが良く行く温泉にも御年寄が来るから親近感はあるんだ。でも排他的になるのは間違っていると思う。腰痛はいつなるか分らないって御年寄達が言っていたし、温泉は非腰痛者が腰痛の方と触れ合って腰の大切さを知る場にもなる。君がやっている事は腰痛への理解者や理解度を減らしているって事ではないかい?」
    「ボクもそう思う。憎しみで普通の人たちを排除するなんて間違っている。腰痛の人達を大切にするその想いをもっと普通の人達に広めるべきだよ!」
     予記と、そして旭のそれは至極真っ当な意見だった。
    「それは解っているさ……だが今更……」
     あと一息、そしてヒロシの前に立つのはシルビアだった。
    「そなたはおじじ達と一緒に温泉に来た孫まで追い返すつもりかぇ?」
    「そ、それは……」
    「治ったお礼に入りに来た者や、腰痛を心配した付き添いとかもおるかもしれぬじゃろう」
    「あ、ああ……その通りだ。俺は知らず知らずに解り合えたかもしれない非腰痛者まで……」
     決まった! 気分良く胸を反りかえらせるシルビアだが、他の灼熱者はそうでは無かった。
     ヒロシが苦悶の声を上げ始めたのだ。
    「お、俺は、間違っていた……だが、後悔する事はできない! お、俺は、腰痛ヘルニアンだ」
     ヒロシの中のダークネスが急激に覚醒を始める。
     

    「ご当地ヒーローバスターズVS腰痛ヘルニアンの一戦、始まり始まりであります!」
     実況の美空が叫ぶ、温泉のご老人達は何が始まるのかと心待ちだ。
    「整体マッサージン見参!」
     その声に老人達が一斉に上を見る。宿屋の屋根の上に立つのは穴を開けたバスタオルで顔を隠し、ライドキャリバー烈風弐号に乗った戒……いや、整体マッサージンだった!
     マッサージンは華麗に着地し「お前は間違っている!」と決めポーズ。
    「なん……だと……!?」
     絞り出すような苦悶の声で、ヒロシ……いや、今や闇墜ち腰痛ヘルニアンが聞く。
    「腰痛者だけが温泉に入って良いと言うが腰痛は予防も大事! 非腰痛者も腰に爆弾を抱えているのをわかっていないのか! それでもわからないって言うならお前の心の腰痛を俺がほぐしてやるよ!」
     ライドキャリバーに乗る戒の横に、ヘルメットを被った少女がザッと立つ。
    「みんなの平和を守るため、おひさま戦隊サンデリオン、ここに参上!」
     2人の決めセリフとポーズに温泉の老人達が感嘆の声を上げる。サンデリオン――はるひ――は、老人達に笑顔を向ける。
    「ヘルニアンは今、ちょっと正気じゃないんです。すぐに目覚させますからね? だから、無理しないでゆっくり見てて下さい!」
     ――スッ。
     さらに2人に並ぶように今度は旭が前に出る。その手にスレイヤーカード。
    「転身!」
     旭の叫びと共にスレイヤーカードが解放される。
    「トツカナー零五、温泉街の平和を守るため、今ここに桜火転身!」
     そして次々と力を解放する灼滅者達!
    「妾に今日のおやつを!」
     ……なんか面白い決め台詞で封印を解放する者もいたが、彼らの準備は完了だ!
     皆で目配せすると一気にヘルニアンへと攻撃を開始する。
     最初に飛び出したのは瑠美と戒だ。瑠美が雷に変えた闘気を拳に乗せ、戒が烈風弐号に騎乗したまま懐に飛び込み閃光百烈拳を連打する!
     だが、ヘルニアンはその攻撃に耐えきった。ポジションがディフェンダーだったのだろう、生半可な攻撃では致命的なダメージを与える事はできそうにない。
     もちろん、だからと言って攻撃の手を緩める灼滅者達では無い。
     予記が妖冷弾を放ち冷気を、シルビアがペトロカースで石化を与える、それぞれ通常の倍のバッドステータスが蓄積される。
    「ぐっ……」
     ヘルニアンが苦悶の表情を浮かべる、効果的には余裕だが腰に負担の来るBSを与えられるのは苦々しい。
     やはり狙うのなら――
     緊張気味に後列にいた美味大根が予言者の瞳を使用する。バベルの鎖がその瞳に集中し短期行動予測力をアップさせる。
     狙うなら……腰! 誰もがそれを考え動き出す。
     一方のヘルニアンは一歩も動かず視線だけで灼滅者達の動きを読む、そして――
    「!?」
     瑠美を捕まえると両手で腰をロックし鯖折りの体勢に入る。
    「出し惜しみはしない……必殺ウェストブレイク」
     ゴキッと言う鈍い音が響き、瑠美の細身の身体が反り返った。
     HPの半分弱は持ってかれただろうか。説得が失敗していたらと思うと冷や汗が出る。

     戦いは灼滅者有為に進んでいた。
     最初こそヘルニアンの必殺技でピンチになる場面もあったが、緩慢な動きの攻撃は避け易く。
    「仲間を助けて守るのも、ヒーローの仕事さ!」
     と、縦横無尽に動きつつ、はるひが仲間の回復を行って戦線を維持していた。
    「それにしても……」
     ヘルニアンが悔しげに呟く。最初にウェストブレイクを放ってからずっと後手に回っていた。その理由は灼滅者達による執拗な腰狙いだ。
    「くっ、温泉でかなり改善されたはずなのに……」
    「温泉だけで腰は治らないよ、腰回りの筋肉も鍛えなければって……お祖父さまが言ってた!」
     はるひの言葉は医学的にも正しい見解だ。
    「腰周りの運動は、例えストレッチでも恐怖を感じるんだ。それが非腰痛者のお前達に解るか!」
     自棄のように叫ぶと灼滅者の動きを先読みしてゆっくりとパンチを繰り出す。
    「私に任せて」
     美味大根が闇の契約で傷を治す。メディックの面目躍如、仲間を回復し――
    「っきゃあああ!?」
     見れば偶然転がっていた石鹸を踏んで転んだようだ。大事になれなければ良いが……。
    「よそ見している暇は無いよ?」
     ヘルニアンの腰を狙って予記の螺穿槍が繰り出される。慌てて半歩身を引くが間に合わず、腕で腰を庇うヘルニアン。だらりと腕が下がるが気合で構え直す。事前情報通りのタフネスだ。
     灼滅者の腰狙いはヘルニアンもすでに警戒している。執拗に狙ったからと言っておいそれと当てさせてはくれない。
     そんな中、巨大な竜砕斧ドラゴン・ブッチギレイヤーを振り上げよろよろと近づいて行くのは美空だ。
    「そんなにこの温泉が大事なら、避けずに当たれなのであります!」
    「なっ!?」
     完全な脅しだ。だが不運にもヘルニアンに迷っている暇は与えられなかった。
    「おっと!?」
     美空がさらに踏み込んだ時、先ほど美味大根が踏んだ石鹸で足を滑らせる。
    「まだ返事してないぞ!?」
     慌てて真剣白刃取りの要領で受け止めるヘルニアン。その体勢は明らかに腰への負担が大ダメージだ。
    「い、いや、本気で壊すつもりだったわけでは……と、とりあえず、今であります!」
     全体重をかけつつ美空が背後で狙いを付けていたスナイパーへと声をかける。
     そこにはサイキックソードを構えた旭がいた。
    「あなたが憎いわけでも……ましてあなたの腰が憎い訳じゃない……でもボク達は負けるわけには行かないんだ。だから、ごめん!」
     旭のサイキックソードが光の爆発を起こし、それが白刃取りで身動きが取れなくなっているヘルニアンの腰へと直撃する!
    「ぎゃーーー!?」
     まるで全身を雷で撃たれたかのような絶叫を上げ、ピクリとも動けなくなるヘリニアン。
    「今じゃ!」
     シルビアが床を駆ける。
    「おう! まずは全身を解し! 体を温め! そして患部を足で――刺激だ!」
    「フィヨルドキック!」
     戒も意図を察して飛び上がり、シルビアに合わせてご当地キックをヘルニアンへとぶち当てた!
     それが決め手となり、ヘルニアンは倒れる。
     ダークネスに乗っ取られ腰痛怪人ヘルニアンに堕ちる前に、灼滅者達はヒロシを助ける事ができたのだ。


    「ありがとう、俺を止めてくれて」
     温泉の床に横たわったまま皆にヒロシが感謝を述べる。
    「それ以上はいいぜ? 大事なのはこれからだ」
    「後悔する暇があるなら前へ進むであります」
     戒と美空に言われ、ヒロシの目尻にキラリと何かが光る。
    「うちは、不埒な事考える輩を排除するのは悪うないと思うで? それは老人達の為にもなるし」
    「結局、腰痛よりも老人に優しいんだねヒロシさんは?」
     瑠美の言葉にはるひも笑顔で続ける。
    「ねえ、せっかくだしみんなで温泉に入りたいな。ヒロシさんにも腰痛の人との接し方も教えてほしいし!」
     旭の言葉に全員が頷く、温泉に来て入らずに帰るのはもったいない。
     水着のまま、暖かな温泉へと入って行く8人。もっともその中には――
    「うう……どうも腰が痛いままなのですが……」
     腰をさすりながら温泉へと浸かる者もいた。
     先ほどの戦闘中、石鹸で転んだ時のうちどころが悪かったのだろうか?
    「腰痛に一番良いのは安静にする事だ。帰ったらゆっくり休んだ方が良いかもしれないな」
     ヒロシが腰痛者への一番基本となる対処を教えてやる。
     それを見ていた予記が思いついたように言う。
    「キミは腰痛カウンセラーって相談窓口になったらどう? きっと天職だと思うんだ」
    「カウンセラーか……それも悪く無いかもな」
    「どうせなら妾達の学園に来ないかえ? ウンセラーとして勉強するのも、ヒーローとして闘って行くのも、悪く無い環境だと思うのじゃ!」
     シルビアの言葉に一瞬目を丸くするヒロシ。
    「俺が行っても……良いのか?」
     ヒロシの質問に8人の灼滅者は力強く頷く。もしかしたら近い未来、ヘルニアンと肩を並べて闘う時が来るのかもしれない。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 25
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