生き残らなきゃ、青春。

    作者:桐蔭衣央

     近県のある高校。夕日の差し込む放課後の教室で、一組の男女が向かい合っていた。
    「僕たち、付き合おう」
    「うん……」
     初々しく頬を赤らめた2人は、ゆっくりと手を握り合い……。

    「そうはさせるかァ!!!」
     突然教室のドアがガラッと開いた。と思うと、特殊部隊のような装備の一団がわらわらとカップルを取り囲み、一斉に銃を構えた。
    「撃て!」
    「応!」
     銃からズドドドドという音が響く!
    「きゃああ!!」
    「痛たたた!」
     幸いな事に銃はエアガンで、弾はBB弾だったが、痛いことにはかわりない。
    「何するんだ生徒会長!!」
     被害者の男の方が、彼女をかばいながら特殊部隊の1人に抗議した。
     生徒会長と呼ばれた少年が、フルヘルメットを上げる。白皙で顔立ちは整っているくせに、ヒネた目つきでなんだか残念な印象の顔があらわれた。
    「浮ついた気分などいらぬ。学校は戦場だ。恋愛などより生き残ることに専念したまえ」
     生徒会長はにこりともせずに言った。
     その時、彼の背後にもう1人の特殊隊員が現れ、耳打ちする。
    「隊長、校舎裏で手を繋いでいるカポーがおります」
    「ふむ。急行しよう。べ、別に羨ましくはないが、リア充爆発したまえ!」
    「「「したまえ!!!」」」
     黒い一団が、統率された動きで校舎を駆け抜けていった……。


    「ヴァンパイア達の学園、朱雀門高校の生徒が各地の高校に転校して、その学校を支配するという事件が起こっています」
     武蔵坂学園の教室で、園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)がそう切り出した。
    「学校を支配して厳しい状況をつくることで、一般人の闇堕ちを誘発しようという事らしいですね。見過ごすことはできませんが……」
     ヴァンパイアは強大なダークネスである。今の時点で完全に敵対するのは武蔵坂学園にとって自殺行為になりかねない。
     しかし転校先の学校でのトラブルという程度に収めることができれば、戦争に発展する事はおそらくないだろう。
    「ですから、今回の依頼の目的は、ヴァンパイアの撃退ではありません。ヴァンパイアの学校支配を防ぐ事です。戦わずに学校支配の意志を砕く事ができればいいのですが……。そうすれば皆さんも傷つきませんし……」

     今回事件を起こしているヴァンパイアは日根津・曲(ひねづ・まがる)。
     ターゲットとなった高校は可愛い制服と自由な校風で知られ、生徒の交遊も盛んだったが、比根津が転校してすぐに生徒会長の座をのっとり、軍隊のような規律の厳しい高校生活を生徒達に強いているという。
    「とくに、恋愛は厳しく取り締まっているようです。男女が親しくしていたりすると比根津とその手下に襲われるとか……。恋愛だけでなく「充実した青春」と思われる事柄も、取締りの対象となるようです。たとえばクラブ活動とか、友達と遊ぶ計画を立てたりだとか……」
     高校生から恋愛と友情と部活動を奪うなんて、と槙奈は眉をひそめた。
     比根津のモットーは「思春期はサイバイバル」。とにかく充実した青春に対して激しく嫉妬しているらしい。
     手下を集めて特殊部隊のような一団をつくり、彼独特の規律を守らない者を、取り締まりと称して襲っている。生徒に対する武器はエアガンだが、すでに怪我人も出ている。

    「放課後、皆さんは学校に侵入し、取締りの対象となるような青春っぽい行動をしてください。そして比根津をおびき出し、彼の学校の支配を止めさせてください。どんなに取り締まっても、もし灼滅者を倒す事ができても、学生から青春を奪う事はできない、と悟らせることができたらいいかもしれません」
     しかし灼滅者とヴァンパイアが対峙した以上、戦闘は避けられない。
     比根津の手下は4人。モテない生徒を強化一般人にして、兵隊に仕立て上げたようだ。彼らはガンナイフとミリタリー服を装備している。比根津自身はバスターライフルの扱いを得意としているという。

    「あくまでヴァンパイアは灼滅せず、学校を守ることを目標にしてくださいね。朱雀門高校のヴァンパイアを灼滅した、という事が度重なれば、なにか大変なことが起こってしまうかもしれませんので……」
     槙奈は控えめに、どうかご無事で……と灼滅者たちを見送った。


    参加者
    大浦・政義(夕凪・d00167)
    イゾルデ・エクレール(ラーズグリーズ・d00184)
    九条・雷(蒼雷・d01046)
    新崎・晶子(星墜の鎚・d05111)
    巴・詩乃(姉妹なる月・d09452)
    神楽火・國鷹(鈴蘭の蒼影・d11961)
    花蘂・賢汰(口から生まれた英雄・d16514)
    グレイス・キドゥン(過去の記憶と封印の右眼・d17312)

    ■リプレイ

    ●青春よりの使者
     放課後、校内に残っている生徒の姿は少なかった。それでも、廊下の窓辺や教室にはぽつりぽつりと人影がある。
     そんな学校内を、九条・雷(蒼雷・d01046)が生徒を探して歩いていた。
    「へェ、うちの制服より可愛いかも……」
     雷はこの高校の制服である新緑のブレザーとチェックのスカートを着ている。   その隣を大浦・政義(夕凪・d00167)が歩いていた。一般の生徒を探しつつ、だが比根津の一党には見つからぬよう慎重に。やがて2人は、男子の高校生グループを発見し、横目で視線を交わした。
    「はァい、ちょっとお話しましょ?」
     雷が一歩前に進み、長いおさげ髪をゆらして男子たちに声をかけた。
    「はっ、はい! お話しましょう!」
     雷の花の開くような笑顔と、ひそかに使用されたラブフェロモンに男子高校生たちの目がハート型になった。雷は男子の肩に片手を置き、甘い声で囁く。
    「ねェ、サバイバルだけが青春だなンて嫌じゃない? 自由に恋愛したくない?」
    「れれれ恋愛?!」「もちろんしたいです!」
     男子が声をそろえて賛同する。雷は片目をつぶってみせた。
    「なら声を上げて戦う奴等が居るんだけど、一緒に戦ってよ」
     今日、校庭でクーデターがあるのよ、と雷は言った。
    「クーデター?」
    「そうです」
     横から政義が眼鏡を光らせながら加わった。
    「で、でも生徒会長、怖いし……。手下になっている奴なんか、容赦なく撃ってくるんだぜ」
    「だからといって、今のような状況で本当に良いのですか。この状況を変えるには自分達が行動するしかないんですよ」
     政義が静かな中に情熱を秘めた声で男子達を諭した。
     今日、校庭で。そう言い残して、雷と政義は歩き去った。
     その調子で校内を一周し、ふたりは他の生徒にも声をかけていく。比根津の知らない所でクーデターの話を広めた所で、雷は携帯電話を取り出した。そして仲間全員に向けたメールを一斉送信するのだった。

     校庭の片隅でメールを受け取った新崎・晶子(星墜の鎚・d05111)が、ひとつ深呼吸した。
    (恋愛シチュエーションで誘き出すって事なんだけど)
     好きな相手に告白する女子、という役柄を引き受けたのも自分なんだけど、
    (うん、恋愛したことないし、なんて言えばいいのやら。んんー、緊張する)
     心臓がドキドキしている。これは告白の緊張ということで、自分を納得させよう。そう思って気持ちを落ち着かせようとしていた晶子の前に、神楽火・國鷹(鈴蘭の蒼影・d11961)が現れた。
     國鷹は髪を下ろして黒く染め、表情や姿勢も気の弱い少年といった風に見えた。晶子のほうが年上だし身長も高いので、ここは少し弱気な後輩を演じる事にしたらしい。
    「……先輩」
    「こんな時に、こんな所に呼び出して、ごめんなさい。でも、どうしても伝えたいことがあって」
     そう言って、晶子は頬を赤らめ、もじもじする。
     晶子自身は、ここら辺で比根津達が出てくるんじゃないかなーと思っていたが、まだその様子はない。……意を決して、次の言葉を発した。
    「あの、えっと。私と付き合ってください」
     数秒の沈黙。
    「え? ……本当ですか?」
    「……うん」
    「あっと……はい、俺なんかでいいなら、喜んで」
     國鷹が照れ笑いを浮かべて、頬を掻いた。
    「嬉しいです。先輩のこと……ずっと憧れてましたから」
     見つめあう二人。もし覗き見している一般人が見ていたら、点描やお花の背景が咲き乱れ、ドキドキとかキュンッとかいう効果音が目に見えるかのようだろう。
     だが、無粋な軍靴の足音がその空気を打ち破った。
    「そこまでだ! 学校生活に不必要な青春を止めたまえ!!」

    ●わきおこれ青春
     迷彩服を着た特殊部隊が4人、晶子と國鷹をわらわらと取り囲んだ。身構える2人の頭上から、声が降ってきた。
    「恋愛は禁止されているのに、何故やめんのだ! 怒りの鉄槌を下してくれるわ!」
     自転車置き場のトタン屋根の上で腕を組み、太陽を背にしているのは比根津・曲。この高校を支配するヴァンパイアだ。比根津は「とうッ!」と空中高く跳び、2人の前に着地した。
     しかし晶子は動じることなく、比根津を見据えた。
    「恋愛は壁が高ければ高いほど、厚ければ厚いほど、激しく燃え上がるもの」
     これだけは言いたい。そんな晶子の言葉に、比根津は頭を振って銃を構えた。
    「非力な人間が何を言う! 私が禁止だと言えば禁止なのだ!」
     パァン。
     その銃声は、比根津のものではなかった。振り返る彼らの眼に、空に向けて硝煙をたなびかせたイゾルデ・エクレール(ラーズグリーズ・d00184)の姿が映った。
    「そこまでだ、生徒会長」
    「邪魔をするつもりか!」
    「学校は大事な青春謳歌場だ! それをぶっ壊そうとする奴ぁオレ達が必ず止めてみせるッ!」
     高らかな声とともに、花蘂・賢汰(口から生まれた英雄・d16514)が2階の窓から飛び降りてきた。18歳の姿に変身した賢汰は晶子と國鷹を守る位置に着地する。
    「青春……それは! 気になるあの子に抱く想い! 悔しさに流す涙! 通じ合う心! 教室を染める夕焼け! オレ達から輝く青春を奪うなんて絶対許さねぇ! 絶対にさせねぇ!!」
     熱く語る賢汰の言葉に、窓から様子を伺っていた一般生徒達から拍手が沸いた。政義と雷がばら撒いた情報で、校庭が見える窓辺に人が集まっていたのだ。
    「この人たちの言う通りだ! あんたが何て言おうと、俺たちを止めることはできない!」
     國鷹が、賢汰と肩を並べて堂々と言い放つ。比根津の手下が、灼滅者たちに銃を向けた。

     イゾルデは銃口をまったく意に介した様子もなく、一瞥した。
    「生徒会長、貴様の行動には大きな欠点がある」
     鋭い眼光が、比根津を射抜く。
    「校内に居ない生徒が何をしているのか……それを考えた事はあるか? 生徒たちは……街中に出て友情やスポーツ……カップル達は自宅で濃密にイチャイチャしている可能性があるという事。つまり……貴様らの行動は全くの無意味、青春の無駄遣いをしているだけだ」
    「「ぐはぁッ!」」
     イゾルデの的確すぎる指摘とバレットストームにみぞおちを抉られ、特殊部隊が上体を折ってよろめいた。
    「そういう、事か……。どんなに取り締まっても、青春(ヤツら)はゴキブリみたいに沸いてきやがる……」
     悔し涙を流しながら、地面を拳で叩きつける特殊隊員の前に、可憐な影が立った。エイティーンで高校生の姿になった巴・詩乃(姉妹なる月・d09452)である。
    「青春を否定することは貴方の本心ではないのでしょ?」
     詩乃は静かに語りかけた。
    「本当は祝福したい気持ちも有るけれど素直になれないだけじゃないのかな? 何故、クラッカーじゃなくてそれを手に持つのかな?」
     そっと詩乃は特殊隊員の手を取った。そして、比根津のほうを見て少しだけ首をかしげる。
    「素直になって?」
     溢れ出る美少女オーラが、まぶしく比根津と特殊隊員の目をくらませた。
    「ありえないッ……美少女が俺の手を握って語りかけてくるなど……ッ」
     目を押さえて転げまわる隊員を、比根津が背後に庇った。
    「気をしっかり持て! それは多分思い込みか幻影だ! 期待しては裏切られる、そんな悲劇を防ぐため、事前に青春を取り締まる。そして将来の為の勉学を推奨するのだ! それが我らの正義!」
     ヘルメットを脱ぎ捨てた比根津がよく通る声で宣言した。
     
     政義が生徒達の中から進み出た。
    「RB団団員として、リア充爆発しろというその主張は痛いほど分かります。分かりますが……これ以上好き勝手させる訳には行きません」
     続いてグレイス・キドゥン(過去の記憶と封印の右眼・d17312)が、生徒たちを守る位置に立ち、比根津に反論する。
    「決してあんたの青春の考え方が間違ってるとは思わへん……でもな、それを人に押し付けるのは絶対に間違ってるで!」
     賢汰が窓に結集している生徒達に呼びかけた。
    「オレ達の青春はオレ達が作る! お前の好きには絶対させない! そうだろ、皆ァ!!」
    「うおおぉぉぉ!」
     歓声とともに拍手が灼滅者たちに降り注いだ!
    「何度だってオレ達は立ち上がり、いずれは全校生徒でお前に刃向かってやるぁ!」
     ふたたび上がる歓声。生徒達の心が生徒会から離れている事は明白だった。

    ●狂騒曲
    「しかし私は人気など要らぬ! 諸君、私の力の前にひれ伏すがいい!」
     比根津がバスターライフルの引き金を引き、リップルバスターで灼滅者と一般の生徒たちを威嚇した。
     窓の傍にいた女子生徒が悲鳴をあげた。
    「青春を制限するなんて許せんよなぁ。誰にもそんな権利あらへんのに……」
     弾が窓に命中する直前、グレイスが束にした鋼糸をしならせて弾丸を弾く。驚く女生徒に向かって、グレイスは言った。
    「大丈夫やったか? 出来れば一緒に戦ってほしい。あいつらに今までの不満をぶちまけるんや!」
     詩乃がヴァンパイアミストの赤い霧を周囲に放出した。異世界のような、しかしどこか懐かしい雰囲気があたりに充満した。
    「この方が落ち着くんだ、生徒会長ももしかしたら同じ気持ちかな?」

    「一体何なのだ貴様らは……! この学校の生徒ではないな!?」
    「何者ってゆーても、ただこの学園の青春を取り戻しに来ただけやで?」
     グレイスは飄々とした笑顔でしらばっくれる。
    「ふん、まあいい。灼滅者などそうそう存在するものでもないしな」
     比根津は身を反転し、國鷹にバスタービームを放った。その攻撃は國鷹の肩を裂く。
    「女子に告白されるなど言語道断。裁きがまだだったな。リア充爆発したまえ!」
    「「「したまえ!!!」」」
     比根津の合図に勢いづいた特殊部隊の銃が火を噴き、灼滅者たちを牽制した。
     その無数の弾丸のなかをくぐり抜け、雷が比根津に肉迫した。絶妙の角度からシールドを展開させた拳を突き出し、比根津の横面を殴り飛ばした。
    「嫉妬まみれの男ってやーねェ、それが無いならデートくらいしてあげても良かったのに。あ、でもダークネスはまず守備範囲外だわ。ごめェん」
    「くそ! ドキッとさせておいてこの仕打ち! べ、別に期待などしてはいなかったが!」
     比根津は高速演算モードで狙いを雷に定めた。雷はヒールを鳴らして間合いをはかる。 
    「友情やら恋やら駆逐しようとしてる時点であんたは青春ってのに負けてンだよ」
     雷はそう言って、鋼鉄拳で手元を叩き、定めた狙いをブレイクした。

     政義が、銃撃が止まった隙に手下の前に立ちはだかった。
    「恋愛に友情に溢れた青春を過ごすのが学生ってものでしょう。暴力でそれを押さえつける事はできません!」
     政義は腰をため、閃光百裂拳で敵のアゴを突き上げた!
    「友情パワー!」
    「くっ、これが青春の力……!」
     特殊部隊の1人が、政義の熱い拳によって空中高く吹き飛び、地面に叩きつけられて動かなくなった。
    「さぁ……校内の青春……取りかえさせてもらうぞ」
     続いてイゾルデが、バレットストームで敵を薙ぎ払った。
    「この銃弾の嵐……避けられるか?」
     避けられるはずもない。その無数の銃弾は苛烈なくせに洗練された軌道を描いていた。
     そこに晶子が音もなく走りこんできた。
    「命がけの青春。実際やってるけど、結構疲れるし面倒だよね。まぁ、なんでもいいけど、ヴァンパイアの企みは潰す」
     晶子のあざやかな手加減攻撃が、1人を地面に沈めた。
    「たとえ行動は禁じられても、心まで止められると思うな!」
     被弾した特殊隊員たちに、國鷹の神薙刃が畳み掛けられ、ダメージが重なる。
    「仲間がいる限り、オレ達に敗北はねぇ! 輝け! 青春キッーク!!」 
     高校という場所でガイアチャージが完了したのか、賢汰のご当地キックが手下に炸裂した! キックを喰らった手下は昏倒した。
     特殊部隊の最後の1人に、グレイスが駆け寄る。相手の銃身をひねり上げ、腕と襟を掴んでねじ伏せ、そのまま落とした。
    「このまま戦闘を続けたところで、俺たちはいつまでも戦い続けるで!」

    ●王様、去る
     特殊部隊が全員倒れたとき、比根津はイゾルデと銃撃の応酬をしていた。
    「私の銃の腕前も貴様には負けていないぞ……!」
     だが、比根津はイゾルデの親指の爪を狙い、甲高い金属音をさせて彼女の銃を弾き飛ばした。
    「青春に傷はつきもの。擦り傷・切り傷・心の傷。この歌で癒すよ」
     詩乃がすかさずバイオレンスギターを爪弾き、イゾルデの傷だけでなく、比根津の傷までも癒した。比根津が眉をしかめる。
    「畜生なぜこんなことをする! こんなにも私に青春を見せつけて……」
     賢汰が比根津に拳を突き出した。
    「青春ってのは他人が強要するモンじゃねぇ。お前がサバイバル青春やりてぇならいつでも付き合うぜ。それがオレの、友情の青春だからだ!」
     比根津が賢汰の顔をまじまじと見た。
    「友情か。私にはあり得ん。……しかしどうやら、青春について考え直す必要がありそうだ。青春はいわば生理。無理やり押さえつけても湧き上がる。ここで私がお前たちを倒しても、生徒の行動を統制する事には無理がありそうだ」
     比根津が周りを見回し、倒れた特殊部隊と、窓から覗く生徒達の顔を見た。
     つつつ、と詩乃が比根津に近づき、囁いた。
    「私は探している吸血鬼がいる。次に会う時は私に教えてくれるかな? それとも、今から連れて行ってくれるのかな? 貴方たちのところへ」
    「探し物は自分で探したまえ。私は知らぬ」
     比根津はヒネた目つきで詩乃に答えると、身をひるがえした。
    「ふん。私は去る。また会おう」
     灼滅者たちは追わなかった。これ以上比根津と戦えば、朱雀門高校と遺恨をのこす原因にもなりかねないから。

     ……比根津が去ってから、政義は襟元をゆるめて息を吐いた。
    「案外話が合いそうな人でしたし(RB的な意味で)それだけに戦う事になってしまうのが残念です。また違う形で会ってみたいものですね」
    「朱雀門高校か。……やれやれ、厄介なことをしてくれる。まあ、有効な戦略だということは認めよう。手段は下らないがな」
     國鷹が苦笑し、一般生徒を解散させるために歩き出した。生徒達は、目の前で起こった戦闘と、去った生徒会長の姿に驚いてざわめいている。
     グレイスは隅っこでひとりの女子生徒の肩を抱いていた。吸血捕食で記憶を曖昧にしようとしているらしい。
    「感謝なんてされんくても、元々の青春の姿に戻しただけやしな。今まで支配されてたことは忘れてほしいんよ」
     そう言って首筋に口を当てる。その光景はある意味騒ぎになりそうだが。
    「後はバベルの鎖の力に期待しよう……」
     灼滅者たちは、夕日に赤く染まりゆく校庭と、比根津の去った道を見やるのだった。

    作者:桐蔭衣央 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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