大宮駅まめの木怪人

    作者:刀道信三

    ●正式名称は『行きかう・線』
     大宮駅の南北中央改札の目の前には、駅利用者から『まめの木』の愛称で親しまれている吹き抜けの高い天井に向かって伸びる銀色の二重螺旋の大きなオブジェが存在する。
     池袋の『いけふくろう』のような待ち合わせスポットであり、常にそのオブジェを囲むように、時計や携帯電話を気にしながら、楽しげな雰囲気で待ち人を待つ人々で溢れている。
     そこへ突然怪人が現れると、まるで選定の剣のように、まめの木の1本を引き抜いた。
    「リア充爆発しろ!」
     まめの木怪人が、まめの木で地面を叩くと、爆発が巻き起こり、駅構内は理不尽な暴力によって騒然とする。
    「大宮は県の商業的中心地だ。買い物に来るのは許そう。むしろ良いことだ。だがしかし待ち合わせは許さん。ぼっち達に謝れ!」
     まめの木怪人は長大なオブジェを振り回しながら、そう演説した。
     まめの木のオブジェは長く、中央に位置するまめの木の下に立ちながら、広い大宮駅のコンコースの壁、南北の改札口まで届きそうな勢いである。
     こうして待ち合わせの名所は、まめの木怪人によって占領されてしまった。

    ●地上高崎線ホーム
    「みんな大変だよ! ご当地怪人が待ち合わせスポットを占領しちゃったみたい」
     大宮駅のホームに灼滅者達を集めた須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が今回の事件の説明を始める。
    「東口にはこりすのトトちゃんがあるけど、このままじゃ西口に用がある人が困っちゃうよ!」
    「いや、須藤先輩、そういう問題じゃないと思います」
     まりんの後ろに控えていた朱月・玉緒(中学生ストリートファイター・dn0121)がツッコミを入れつつ現れた。
    「今回は人通りの多い場所での戦闘になるので、一般人の方達の避難誘導はあたしが担当します」
    「人払いは玉緒ちゃんがやってくれるから、みんなはまめの木怪人の灼滅に集中しても大丈夫だよ」
     大宮駅を利用する人は多い。もし人払いに人数を割いていてはダークネスとの戦いに十分な戦力を割くことができないであろう。
    「まめの木怪人は毎日現れて、まめの木を占領しているみたいなんだけど、人払いで待ち合わせをしている人がいなかったら、満足して帰ってしまうかもしれないから、みんなにはまめの木怪人と接触するために、まず待ち合わせをしている人を装いながら、まめの木の下に待機してもらうよ」
     カップルや友達連れを装えば、まめの木怪人は灼滅者達を追い払うために襲い掛かってくるだろう。
    「あとまめの木怪人は特にカップルを目の敵にしているみたいで、カップルのふりをしていた人達には、戦闘中も執拗に攻撃を仕掛けてくるかもしれないね」
     この特性を戦闘に利用して、囮を立てれば優位に戦闘を進めることができるかもしれない。
    「みんなならご当地怪人から駅利用者の人達に、まめの木を取り返してくれるって信じてるよ。がんばって!」
     そう言ってまりんはホームから改札に向かう灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    相良・太一(土下座王・d01936)
    葉月・十三(高校生殺人鬼・d03857)
    二階堂・空(高校生シャドウハンター・d05690)
    高遠・彼方(無銘葬・d06991)
    ユリア・フェイル(白騎士・d12928)
    分福茶・猯(カチカチ山の化け狸・d13504)
    靱乃・蜜花(小学生ご当地ヒーロー・d14129)
    南波・一一一(自由な獣・d16525)

    ■リプレイ

    ●まめの木で待ち合わせ
    「なんともまぁ個人的な嫉妬が見え見えの怪人ですねぇ……ぼっちが個人でモノを買いに来るより、複数人が連れ添ってショッピングした方が経済効果が高いなんて、誰が考えてもわかるでしょうにねぇ?」
    「待ち合わせの恋人とか友達連れを追い出したら、商業として立ち行かん気がするんじゃがのう」
     葉月・十三(高校生殺人鬼・d03857)は携帯電話を弄りながら、分福茶・猯(カチカチ山の化け狸・d13504)は通行人を眺めながら、まめの木の下で待ち合わせを装っていた。
     朱月・玉緒(中学生ストリートファイター・dn0121)が今も協力を申し出てくれた有志の灼滅者達と共に人払いを行っているため、まめの木怪人を灼滅するために集まった灼滅者達以外はまめの木の周りには近づいていない。
    (「恋人達と待ち合わせか……最近の若者は露出が激しくていかんのう。妻は三歩下がって夫の影を踏まず。女性は慎みがなければ……」)
     着物姿の猯は中央コンコースを行き交う若者達を観察しながら、その様に考えていた。
     猯も中学生の少女だったが、育ってきた環境なのか、大宮の街を行き交う若者達に比べて、かなり古風で奥ゆかしい価値観を持っているようだ。
    「え? 何あれ、抜けるもんだったのか……終わった後ちゃんと戻せるんかね。それ以前に壊れていないかも心配なんだが……」
     二階堂・空(高校生シャドウハンター・d05690)は、まめの木を見上げながらそう呟く。
     その後でさり気なく回りに視線を向けた。
     まだまめの木怪人らしき人影は見つけられない。
     人混みに紛れて着流しの少年、長身のシルクハット、ヒーロースーツという目立つ人物が視界に入るが、玉緒と一緒に人払いをしてくれている武蔵坂学園の灼滅者達だろう。
    「世界征服目的っていうより、憂さを晴らしたいだけじゃない? っていうか、引っこ抜いて元に戻るの、あれ? それにマテリアルロッドに相当するんだ……戦闘で壊さないように注意しないとねっ」
     まめの木に対して空と似た感想を抱いたユリア・フェイル(白騎士・d12928)も、他の灼滅者達に倣ってスマートフォンをチェックしながら待ち合わせの振りをする。
    「地元と言う程近くはないが、そう言えるかどうか考える程度にゃ馴染み深い駅だ。これも何かの縁だろ」
     高遠・彼方(無銘葬・d06991)は記憶にある待ち合わせの人だかりを思い出し、まめの木怪人の気持ちを理解できないでもないと思う。
    「しかし今回ばかりはリア充ではなく怪人に爆発……いや、もげてもらおう」
     そう言って彼方は眼鏡の位置を直す仕草をした。
    「東京も大都会だけれど大宮も大都会なのね。こんなに人が多くて大きな駅で、素敵な待ち合わせ場所が使えなくなってしまうのは大問題なのよ。公共の場所はみんなのものだから、みんなて大切に使わないとダメっておじーちゃんが言っていたのよ!」
     恋人同士の演技をすることで囮役を担当することを引き受けた靱乃・蜜花(小学生ご当地ヒーロー・d14129)は、南波・一一一(自由な獣・d16525)と共にエキュート内にあるパン屋のイートインスペースで待ち合わせまで時間を潰している。
    「まめの木カイジンはボッチだからリアジューがにくいのか。よくわかんないけど楽しい場所が楽しくなくなるのはイヤだぞ! ところでリアジューって何だ?」
     彼方の恋人役を買って出た一一一であったが、どうしてそれが囮行為になるかはよくわかっていない様子であった。
     待ち合わせの時間まであと少し、一一一はサンドイッチの最後の一口を放り込むと、蜜花と一緒に席を立つ。

    ●囮作戦
    「……ぎ、偽装とはいえ緊張すんな!」
     相良・太一(土下座王・d01936)はパリッと卸し立てのスーツを着て、カクカクと震えながら、挙動不審にキョロキョロと周囲を見回す。
     見ようによっては初デートに挑む男子の初々しさが出ていると言えるかもしれない。
    「わ、わ、カップルしますなんて引き受けてしまったものの、わたし小学生でまだデートはおじーちゃんとパパ以外としたことないのよ!」
     改札を挟んで相手役の蜜花も、直前になって緊張から赤面していた。
    「おーい、彼方!」
     そんな蜜花を余所に一一一はブンブンと手を振りながら改札を抜け、彼方の元へ駆け寄る。
    「えへへ、ポニーテールにしてきたぞ! にあう?」
    「ああ、ぞろめ、ポニーテールも似合ってるな」
     爽やかに返す彼方だが、頼んでまで一一一に髪型をポニーテールにしてもらっただけあって、機嫌の良さが笑顔に出ていた。
    「太一おにーさん、おまたせなのよ!」
    「イエーイハニー、今日もステキダネ! 一段と大人びて見えるヨ!」
     対する太一と蜜花の方は、太一がガチガチに緊張してギコチナイ笑顔を浮かべながら脂汗まで垂らしている。
     これはこれで傍から見ればカップルらしい光景と言えるだろう。
    「とうっ!」
     その時、中央コンコースを見下ろせるコーヒーショップの窓を蹴破り落下してくる人影があった。
     人影はまめの木の1本を引き抜きつつ着地する。
    「貴様ら、ここでの待ち合わせは俺が許さん!」
     コーヒーショップでわざわざスタンバイしていたまめの木怪人である。
    「「リア充爆発しろ!」」
    「えっ?」
    「えっ?」
     まめの木を構えて決め台詞を放とうとしていたまめの木怪人に、太一は反射的につい唱和してしまう。
     カップルの片割れに同調されてしまい、まめの木怪人も困惑して太一と顔を見合わせる。
    「おー、超緊張したぜ……恐ろしいもんだな、リア充。さあ、気を取り直して殴りあいだ!」
     先に正気に戻った太一がスーツの上着をバサッと脱ぎ捨てながら戦闘態勢に入った。

    ●大宮駅の中心で愛を妬む
    「改めて爆ぜろ、リア充。ぼっち達の怨嗟の声を聞くがいい!」
     気を取り直してまめの木怪人は、彼方を狙って引っこ抜いたまめの木を上段から振り下ろす。
     中央コンコースが広いとはいえ、まめの木のリーチは圧倒的だ。
     逃げ切れずにいる彼方の前に出た一一一が、縛霊手でまめの木を掴むも魔力爆発で弾き飛ばされる。
    「皆に愛されてそうなまめの木オブジェが何故嫉妬に狂っておるんじゃ?」
     攻撃後の隙を突いてまめの木怪人に接近した猯が、まめの木怪人の胴を薙ぎ払おうと無敵斬艦刀を振るった。
    「違うな。駅利用者にとってまめの木は便利な目印に過ぎん。そして待ち合わせる人々を見続けてきたからこそ、俺は妬ましいのだ!」
     まめの木怪人は素早くまめの木を引き戻すと、猯の無敵斬艦刀をまめの木で受け止める。
    「ちょっとあんまり乱暴に扱って壊したりしたらどうするのよ!」
     ユリアの影業がまめの木を持ったまめの木怪人の腕にぐるぐると巻きついた。
    「俺のまめの木はそう易々と壊れはせんわ!」
     まめの木怪人は鍔迫り合いをしていた猯を蹴って、影業の拘束に逆らうようにユリアとの距離を取る。
    「ところでお前、まめの木と大宮、どっちの怪人なんだ?」
     正面から螺穿槍を放ち、妖の槍とまめの木の間で火花を散らせながら、彼方はまめの木怪人に問うた。
    「愚問だな。俺は大宮の怪人であり、まめの木の怪人……ぐは!?」
     まめの木怪人が彼方に気を取られている隙に背後を取っていた十三の槍が、まめの木怪人の脇腹を貫く。
    「ぬう、卑怯な!」
    「戦いに卑怯も何もないでしょう」
     振り向き様に振るわれたまめの木を潜り抜けると、十三は槍の刺さったまめの木怪人の脇腹に容赦なく閃光百裂拳を叩き込んだ。
    「そのまめの木はみんなのものだろ。いつまでもお前が独占していい道理はないさね」
     十三がまめの木怪人から離れると、まめの木怪人の足許から影の刃が檻のように展開し、身動きが封じられたまめの木怪人に空がガトリングガンから炎弾を叩き込む。
    「なあ、カイジン。リアジューってなんだ? なんでバクハツ?」
     炎上するまめの木怪人に一一一は炎を纏わせた縛霊手で追撃を繰り出しながら、興味津々といった様子で詰め寄った。
    「おのれカップルの片割れめ。身をもって味わうがいい!」
     炎に照らされ赤く輝くまめの木を高々と掲げ、まめの木怪人は一一一を叩き潰そうとそれを振り下ろす。
     しかしその間に太一が割り込んで、拳を叩き込みまめの木を受け止めた。
     まめの木の質量と衝撃を受け止めた太一の全身が悲鳴を上げ、食いしばった口の端から血が零れる。
    「お前は間違えたんだ……まめの木の片割れを奪っちまったら、存在意義を失うに等しいだろう。ぼっちなこともぐっと堪えてれば、螺旋の片割れが現れたかも知れない」
    「貴様、まさか……!?」
     拳とまめの木を打ち合わせたまま、太一とまめの木怪人はしばし視線を交し合った。
     短いやり取りの中でまめの木怪人は、太一の瞳に通じるものを感じて目を見開く。
    「俺もいつか彼女ゲットして、お前の分もリア充になるよ……!」
     そう言って太一はもう一歩まめの木怪人に踏み込んで、その顔面を殴り飛ばした。
    「チャンス! その土地を心から愛しむ心があれば、ご当地はいつだって正しき者に力をかしてくれるのよ!! 大宮駅キーーック!」
     まめの木怪人に大きな隙が生まれたのを見て蜜花が駆け出し、それを見たユリアは影業を釣り糸のように引っ張って、太一に殴り倒されたまめの木怪人を引き寄せる。
    「や、ら、れ、たぁーッ!!」
     蜜花の大宮駅キックはまめの木怪人の胸の中心に突き刺さり、まめの木怪人は大爆発、まめの木は爆風にくるくると回転しながら宙を舞い、スポンと元通りの台座にホールインワンした。

    ●大宮駅で観光を
    「さあ、美味いもの食いに行こうぜ! 高遠先輩案内ヨロシクー!」
    「大宮ならコレって感じのは無いが、エキュートは美味い物も多いからな。ここのアップルパイは絶品で気に入っている」
    「ああ、ここはいつもお芋の匂いがして、おなかが減っている時やダイエット中は大敵ですよね」
     太一が音頭を取り、人払いをしていた玉緒も合流して、彼方の案内で灼滅者達はエキュートの中に入った。
    「へえ、色々と美味しそうなものが沢山あるんだな」
     空が見回すと、エキュート内には惣菜屋や銘菓店、イートインも可能なショップなど、様々な飲食店が軒を連ねていることが見て取れる。
    「まめの木怪人も倒したし、みんなでデートの続きをするのよっ!」
    「あれ、デートの続きなら蜜花ちゃんと太一さんは別行動の方がいいのかな?」
    「なっ、フリなら兎も角、出会ったばかりの男女が逢引なんて破廉恥なのじゃ!」
    「わわっ、わたしそんなつもりで言ったんじゃないよ!?」
    「デートってみんなであそぶことじゃないのか? ぞろめは早くアップルパイが食べたいぞ!」
     ユリアが蜜花をからかったりして、和気藹々と女子達は女子達で楽しそうである。
    「え? 女子の分は奢ってくれるんですかー?」
    「うぇ!? いや、ああ……うん、任せろ!」
     特にそんなことは言っていないが、わくわくした様子でユリアにそう聞かれて、まめの木怪人にああ言った手前しどろもどろしながら太一は頷いた。
     やったーと女子達はハイタッチして喜び、男子達は財布を開いて溜息を吐く。
     基本奢ってもらうスイーツほど美味しいものはない。
     こうして大宮駅に平和が訪れ、灼滅者達も大宮駅で楽しい一時を過ごすのであった。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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