春だからって多すぎませんか?

    作者:聖山葵

    「我に捧げよ……」
     地の底から響くような声の主は、おそらく足を踏み入れたアリスエンド・グラスパール(求血鬼・d03503)の存在を察知したのだろう。
    「我に、男の娘ぉぉぉぉっ」
    「あー、ホントに聞いていた通りだなー」
     声と場の雰囲気に似つかわしくない発言を聞いてずっこけ無かったのは、アリスエンドが噂を耳にしてこの場に足を運んだからだ。
    「男の娘好きの変態都市伝説、まさに読んで字の如くだねー」
    「男の娘をぉぉぉっ」
     動じないアリスエンドを包み込むように渇望する声が夜の工事現場へ反響する。
    「まー、どっちにしてもわたし一人じゃ厳しいだろーし」
     応援を呼ぶ為、アリスエンドは声を無視して踵を返す。
    「男の娘ぇぇぇぇ」
     声の主に襲ってくる気配がなかったのは、アリスエンドが男の娘では無かったからこそ。
    「の娘ぉぉぉぉ」
     ただ、侵入者が去っても変態の声が止むことは暫く無かったのだった。
     
    「や、変態都市伝説ならこの間倒したよね?」
    「少年、それは『男の娘が大好きでハァハァする都市伝説』だ」
    「え゛っ」
     座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)に指摘された鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)の顔が引きつったまま情報提供者のアリスエンドへと向けられた。
    「そうそう、今回のは『男の娘好きの変態都市伝説』だよー」
     頷いたアリスエンドの言うモノと比べると、確かに微妙に違っていた。
    「春は変態が多いと聞く」
     故に似通った都市伝説が見つかるというのも仕方ないことなのだろう。
    「二度あることは三度あるっていうよねー」
    「や、なくていいからね? っていうか、じゃあオイラが呼ばれた理由は――」
    「少年」
     明るいアリスエンドの声にツッコミを入れつつ、ソレに思い至った和馬へ、はるひは顔を曇らせる。
    「君のような女の子に男の娘の役を頼むのは心苦し」
    「やっぱりかぁぁぁぁっ!」
     予想通りの展開に、絶叫が教室へ響き渡り。
    「さて、一応説明させて貰おう。都市伝説というのは――」
     この世の理不尽に抗議するかのような男の娘やく一名を放置しつつ、はるひは説明を始めた。
    「サイキックエナジーと人々の恐怖や畏怖が混ざって出来たまさに暴走体。バベルの鎖を持つが故に私のような一般人では対処もかなわない厄介な存在だ」
     だからこそ、灼滅者達が集められたとも言える。
    「都市伝説が出没するのは、工事が中断され放置された工事現場。時間は日没後」
     条件を満たした現場に誰かが足を踏み入れるとどこからともなく都市伝説の声はする。
    「ただし、男の娘が場にいなければそれ以上は何も起こらない」
     変態都市伝説を滅ぼすには男の娘とともに現場に赴き、ほいほいおびき出された本体を倒す必要があるのだという。
    「都市伝説の姿は変態の名に恥じず、この季節だというのにロングコートを身に纏っている」
     そのコートの下がどうなっているかについて、はるひは言及しなかった。ただ、攻撃手段についての説明に移っただけ。
    「そうだな、影業のサイキックに似た攻撃となるだろう」
     ただ、影喰らいに対応する攻撃は、コートの中に引き込むといったもののようで。
    「えーと。それ、嫌な予感しかしないんだけど」
     我に返った和馬の顔が再び引きつる。
    「全くだな、少年を抱きしめたいとは私も思うが、それとこれとは話がべ」
    「変態ってとこまでは同じだよね……じゃなくて説明の続き!」
     ただ、変態が居るのは工事現場だけではなくて。脱線しかけた話を元に戻すべく叫びつつ、和馬はさりげなくはるひから距離をとる。
    「おっと、これは失礼。どこまで話したか……そう、問題の工事現場だが場所によっては薄暗い、明かりを持って行く必要があるだろう」
     放置された工事現場では照明機材がまともに動くと期待するのは危険すぎる。
    「噂のせいで人よけの必要もない。故に明かりさえあれば出てきた変態を倒すだけだ」
     一応、都市伝説は噂に基づく行動をとる為、囮の立ち位置次第である程度戦局は調整がきくだろうが。
    「ともあれ、おびき出して倒してくればいいんだよね?」
     確認をとる和馬の顔は、もうこの時点で疲れて見えて。
    「その通りだ、少年っ! もし辛い時はこの私が」
    「じゃ、行こっ」
     はるひの言動に身の危険を感じた一人の少年は、教室を飛び出していったのだった。
     


    参加者
    日月・暦(イベントホライズン・d00399)
    木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)
    黒澤・蓮(スイーツ系草食男子・d05980)
    嵯峨野・草詞(御伽語・d10990)
    霧野・充(月夜の子猫・d11585)
    麻宮・ゆりあ(プラチナビート・d16636)
    白星・円(蒼冠のトロイメライ・d17052)

    ■リプレイ

    ●準備万端
    「男の娘好きの都市伝説なんて本当にいたんだねー。現実にもいるのかな?」
     自分の見つけてきた都市伝説に思いを馳せつつ、アリスエンド・グラスパール(求血鬼・d03503)は立ち止まると持ってきたランタンを覆いに引っかけた。
    「この都市伝説って、女の子の思いなのかなー?」
     と麻宮・ゆりあ(プラチナビート・d16636)が唸ったのは、BLがあるんだからいそうなものだけどというアリスエンドの言を耳にしたからかも知れない。
    (「もし男の娘好きの男の子の思いが……っていうなら、これは由々しき事態だよ」)
     だとしたら、変態から男の娘を守らないといけない。それと女の子の立場もと心の中で付け足し、ゆりあもまたランタンをこの工事現場へと設置する。
    「我に、我にっ、男の娘ぉぉぉぉっ」
    「春ってどうしてこのての輩が増えるのかしらね……。まぁ、都市伝説じゃぁしょうがないかもだけど」
     人の気配を察知したのか、自己主張が喧しい都市伝説の声をスルーしつつ、木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)は最後のランタンを設置し終えた。
    「うーん……せっかくだからスポットライトとかも欲しいんだけどなー」
    「さて、それじゃ残りのメンバーを呼んでから……全力でぶちのめすわよ!」
     工事が中断し放置された工事現場だったが、明かりさえあるなら戦闘に支障はない。都市伝説が出現する条件を満たさない女性陣は、携帯電話を取り出して操作する。
    「日月様、鳥居様、よろしくお願いいたします」
    「……よろしくな」
    「あ、うん……」
     電話が鳴り出したのは、霧野・充(月夜の子猫・d11585)の挨拶へ日月・暦(イベントホライズン・d00399)と鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)が心ここに在らずな返答をした直後。
    「あっ、携帯鳴ってる」
     雨ざらしになって色あせたのか、ほぼ白紙といって過言でない張り紙の脇に手を突くと、嵯峨野・草詞(御伽語・d10990)は顔を上げ。
    「もしもし――」
     仲間の誰かが電話に出る声をBGMにしつつ。
    「無理やりされるのと自分からするのって、どっちがましなんだろうね……?」
     暦のため息は、雨に濡れた衣服のように重かった。
    「ええ、こんなとこまで来ちゃいましたよ。俺、どうすればいいのかな……?」
     誰に向かっての言かも不確かな独り言を口にする暦から漏れだしているのが帰りたいオーラであることは、同じ境遇に置かれている人物ならたぶんはっきりと感じ取れたことだろう。
    (「もうこの手の変態に縁があるとは思わなかったのになあ……」)
     泣いていいと問う前に、視界がぼやけてきた気がして、暦は上を向く。
    (「……まぁー、人それぞれ趣味はあるだろうが……こればっかは、なぁー」)
     仲間が涙を堪える中、嘆息した黒澤・蓮(スイーツ系草食男子・d05980)は視線は何処か遠くを見ている。
    「……和馬も似合ってるよね」
    「えーと、ありがとうで良いのかな?」
     現実から逃げ出したいのは、たぶん暦も和馬も同じだったかもしれないけれど。
    「うーん……変なの、が、いるんだ、ね」
     色々ひっくるめてそう結論づけたなら、白星・円(蒼冠のトロイメライ・d17052)は大物だったかもしれない。
    「そろそろ行って良いみたいだよ」
    (「なんで春に変態さんが多いんだろうね?」)
     実際には、御凛も抱いた疑問に首を傾げつつ、歩き出した他の仲間と共に戦場へと向かったのだが。

    ●賽は投げられた
    「さぁ! お待ちかね! 男の娘達の入場でーす!」
     時間にすれば数十分ぶりの再会は、拍手の音に彩られていた。
    「やほーい和馬ー。パッドマンの戦闘後に私がロリ巨乳になるために使ったパッドあるけど、いるー?」
    「え゛? っていうか、それオイラは何に使うの?」
     結局の所、暦が泣かなかったのは、同じ境遇にありなおかつ更に弄られている後輩が側にいたからか。
    「とりあえず和馬は男の子から告白されたことありそー。ていうかされろ」
    「何その無茶ぶり?! や、確かにあるけ……あ」
    「くくくくくく、ふははははは……」
     無茶ぶりに誰かが自爆して絶句する誰かを気にかけることもなく、哄笑しつつ現れたのは、ロングコートの男。
    「男の娘っ、男の娘っ、男のぉぉぉぉぉ」
    「あちらが都市伝説ですか? ……変わった方なのです」
     待ち望んでいた男の娘の到来に、喜びを隠せぬ変態の姿に、充は蒼いリボンで結ったポニーテールを揺らしつつ呟いた。
    (「……あぁー……何か、知らないが……鳥肌が……っ」)
     顔を引きつらせて両腕をさする蓮の反応も間違っては居ない気がする、都市伝説の笑みを見てしまったのなら。
    「出来れば近付きたくないなあ……」
     ツインテールにした髪が心境を現すかのようにぐんにょりした暦は、凄く嫌そうな顔をして。
    「因みに、これ和馬のために調べた事件だから張り切ってね♪」
    「えっ、何それ?」
     アリスエンドにとんでもないことを打ち明けられた男の娘は引きつった顔で固まった。
    「まずはぁ手近なうぉまぇにぎめだぁぁぁっ!」
     だが、都市伝説は空気を読むこともなければ、自重することもない。
    「えっ」
    「……武蔵野、学園って、大変だなぁ、としみじみ、思うよ。助けて、くれて、ありがたいけど、ね」
     別の意味で大変なことになり始めている男の娘達を眺めつつ、寄生体にガトリングガンを飲み込ませた円は砲台とかした利き腕を初っぱなから飛ばしすぎている変態へと向ける。
    「とりあえず、黙れっ」
    「ざげばんべっ」
     だが、蓮の方がすこし早かった。蓮の炎を宿した無敵斬艦刀が都市伝説の顔面を凹ませ、地面との接吻を強要する。
    「行くよ――エルフリーデ!」
     戦いは始まった。スレイヤーカードの封印を解いたゆりあはバイオレンスギターのネックを握ると、開いた方の手で握り拳を作り、宿した雷を弾けさせながら走り出す。
    「やあっ」
    「へぶんっ」
     撃たれ、打たれて宙に舞った変態は短い放物線を描き地面へ戻ってくるが、この時下では次の灼滅者がスタンバっていた。
    「続けていくわよ、はぁぁっ」
    「げっ、がっ、ぐっ、げべべ、ぼっ」
    「じゃー、こっちもいくよー」
     相手が変態だけあってか、誰もが容赦ない。御凛がオーラを集中させた拳の乱打で都市伝説を踊らせれば、蹌踉めいた変態を今度はアリスエンドがアッパーカットで打ち上げる。
    「やっ」
    「ばすばっ」
     再び落ちてきたところに充がシールドを叩き付け。
    「う、痛い……痛いぞ、男の娘ぉぉぉ!」
    「こっち見るんじゃねえよ! この変態があ!」
     草詞の振り下ろした断罪の刃に斬られり、何処かの男の娘が手にしたサイキックソードの爆発に巻き込まれたりして蹌踉めきつつ身を起こした都市伝説へ、暦は叫びながらギターをかき鳴らして衝撃波を放つ。
    「うぐっ、だが男の娘のものなら痛みもまた……」
    「うわ……」
     ここまで一方的な展開であったにもかかわらず、厄介な相手だった。
    「だが次はぁ我の番っ」
     もちろん、厄介なのは攻撃されたのに嬉しそうと言う反応だけではない。とじ合わせたコートの前を開放したソレは血まみれの顔を笑みに歪ませ、次の瞬間には跳躍していて。
    「わ」
    「うん、男の娘は特に庇った方が――」
    「いただきま……あ」
     ただ、充を突き飛ばしコートの中に引き込まれたのは、アリスエンド。最後に残された手までがコートの闇へと消えた。

    ●食わず嫌い
    「がぁぁっ」
     胸を押さえ変態が苦しみだしたのは、男の娘ではなく女の子を引き込んでしまったからか。
    「のばぶっ」
    「ふぅー、脱出成功」
     手みやげ代わりに都市伝説の顎を拳で捉えてコートから飛び出してきたところを見ると、犠牲者が中で暴れていたのかもしれない。
    「……大丈夫?」
     が、すかさず口ずさみ始めた歌声で仲間を癒す暦からすれば、次は我が身の可能性もある。
    「俺、このままクラッシャーでいいのかなぁー」
     危なくなったら囮役を庇うつもりだった蓮の目にも、都市伝説の変態攻撃っぷりは想像の上を行った。
    「ぶちのめすわよ、倒してしまえば変なことしようもないんだから!」
     マテリアルロッドを振りかぶる御凛が怯む味方を叱咤し。
    「そっ、そうだな」
     ごく単純な理論を理解した蓮は無敵斬艦刀へ再び炎を宿す。
    「おおおおっ!」
     味方を守る為、敵を屠る刃を手に駆け出す姿は様になっていたことだろう、相手が変態でなければ。
    「ぐううっ、男の娘っ、男の娘を我にぃっ」
     レーヴァテインの一撃を叩き込まれて呻こうが、都市伝説はあくまで噂に準じて行動する。
    「確かに男の娘ってカワイイけど、女の子じゃダメなの?」
    「無論。そも、男の子が素晴らしいのは、男側の視点からみた魅力的な女の子を自らに反映出来るという一点にある」
     ゆりあが問えば、都市伝説はコートのポケットから眼鏡を取り出し、語り始めた。
    「歌舞伎などで女性の役を男が演じるもまた然り、男性から見た魅力的な人物とは男性的視点を持たねば作り出へげばっ」
    「あー、お話、中だった、かな?」
     もっとも、戦闘中なのだ。円に撃たれても仕方はない。一家言持っていようが持っていまいが、変態は変態で、この都市伝説は敵なのだから。
    「そろそろティアーズリッパー使いたいんだけど……服破っちゃって大丈夫かなー?」
     とか味方が言い出しても仕方ないのだ。
    「あらゆる意味で危険な予感がする」
    「ええ、嫌な予感しかしませんよ」
    「だよね、オイラもそう思う」
     解っているなら自重してと言う思いを堪えて遠い目をしたのは、三人いた男の子の内の二名。
    「有罪なのです」
    「ぎゃぁぁっ! ……おのれっ、ありがとうございましたいただきますぅっ」
     尚も続く戦いの中、都市伝説は傷ついて行く。出現した逆十字に引き裂かれて仰け反りつつもロングコートの前をはだけ。
    「「充!」」
     淡い桃色のカーディガンは着用者と共に闇の中へ引き込まれ、消える。暦達の精神負担を減らそうと率先して変態の気を惹いた結果が、それだった。
    「っ」
     誰かが、躊躇いを捨てた。
    「がぁっ、いやーん我の一張羅がぁっ」
     身を守るものごと切り裂く死角からの斬撃と撃ち出された光の刃がロングコートを引き裂き。
    「霧野……ちゃん?」
     コートの裂け目から転がり出た充の名を草詞が呼ぶが。
    「えちーっ、これは我も服破り仕返」
    「……えい」
     充は、虚ろな目をしながら影を宿したWOKシールドで変態の鼠蹊部辺りを殴りつけた。
    「ほう、もつ、こぉぉぉ」
    「へんたいさんにあったら、急所をねらいなさいっていわれたのです」
     据わった目で、奇声をあげのたうち回る都市伝説を無感動に見つめつつ、握った拳は一撃では手ぬるいと言うことだろうか。
    「おのれ、もはや遠慮はせぬぅ、力尽きるまで男の娘達にあんな事やこんな事をしてくれるわぁっ!」
     暫く絨毯のゴミを取る粘着ローラのごとく転がっていた変態は、起きあがるなりそう言って。
    「ああ、終わった……。いろいろと……」
     本気になったっぽい言動とは裏腹に行動が変態的であることに、暦は絶望し、膝をつく。
    「諦めんな、俺達が居るぜ? ……まぁー、鳥肌はさっきから立ちっぱなしだけどよ?」
    「そうよ、なんだかんだで結構ダメージ負ってるみたいだし」
     本格的な変態行為に及んでくる前に倒せばいい。それだけが、狙われた三人にとって最後の希望で。
    「目の前に立ち塞がる変態は全部全力でぶっ飛ばす!」
     再び拳にオーラを集めながら、御凛が工事現場の地面を蹴る。
    「はぁぁぁっ」
     激しい戦いだった。
    「……絶対に近づいてくるなよ? いや、近寄ってこなくてもそれを伸ばすのもな」
    「男の娘ぉぉぉっ」
    「待っ、アーッ」
     色々な意味で。
    「そう言えば、遠距離攻撃あるんだったよね」
     呟いた和馬の目が虚ろなのは、手や足に絡み付く何かが既にあるからだろうか。
    「まだだ、もっと我に男の」
     それ以上、何を望もうというのか。ほぼ半裸となりコートの残骸を身体に引っかけた変態は、一番近くにいた充へと手を伸ばし。
    「ありがとね、色々と参考になったよ」
     いつの間にか懐に飛び込んでいたゆりあへ顎をたたき割られると。
    「ごっ」
    「もう、それ以上、近寄らせ、ないよ」
     円の振るったジェット噴射突きの殴打で宙を舞い、地面に二度ほどバウンドし、消滅し始める。戦いは、終わったのだ。

    ●それぞれの
    「はぁ、……終わった? もう、終わり?」
     少なくとも、変態は消滅し男の娘を求める声はもう聞こえない。それが、円の口をついて出た問いへの何より雄弁な答えだったと思われる。
    「……というか、終わりでいいだろう、あんなんは」
     肉体ではなく精神的なダメージでへたり込んだ蓮は、どこか遠くを眺めながらポツリと零す。
    「……ん。初めての依頼、だったけど、中々……おもしろかった、よ」
    「あぁー、人それぞれ趣向はあるってことか……」
     もし囮であったとしても同じ結論に至ったかは不明だが、円の感想に微妙な敗北感を感じ。
    「私も色々と参考になったかも。後は実戦あるのみよね」
     ESPで身体と服を綺麗にし、携帯電話を弄りだしたゆりあの反応はトドメだったかもしれない。
    「世界って不思議に満ちてるなー」
    「いや、あれは少数派だと思うよ」
    「あ、うん。オイラも二度目はなくて良いと思うし」
     この後通行人をナンパしに行くというゆりあ自身の補足までついて、夜空へ視点が完全に固定されてしまった蓮をいつの間にか復活した暦達がフォローする。
    「あんな思いをする方がもういなくなったのだから、これで良かったのです」
     何はともあれ、変態が倒され事件が未然に防がれたなら、灼滅者達の苦労も無駄ではなかった筈で。
    「帰るわよ、もう変態は居ないし」
     仲間を促し、歩き出した御凛を月明かりが照らす。
    「けど、ランタン片づけなくて良いのかな?」
    「あ」
     ただ、撤収は少しだけ後になりそうだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ