すべて有罪の裁判ごっこ

    作者:ねこあじ


    「今日は何をして過ごした?」
     問われた男は、ごく普通の会社員だった。
     床に座り込んでいる会社員。周囲を数人が囲んでいた。
     問う男は足を組んで椅子に座り、会社員を見下ろしている。
    「今日、は」
     異様な空気に恐れる会社員は震える声で答えようとした。
     答えなければ何かが起きそうだ、と感じている。
    「あ、朝から定時まで仕事をして……」
    「ふむ」
     椅子に座ったまま男は屈み、顔を近づけた。
    「真面目に働く奴は、有罪。残念だったな」
    「また閉じ込める?」
    「主はいない。いつものは面倒だ」
    「俺達が裁こう」
     会社員は恐怖し震えながら目を閉じた、が、瞬間床に叩きつけられる。
     幸か不幸か、会社員の意識は一瞬で死に向かった。

     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は説明を始めた。
    「この集団は強化一般人。不死王戦争で灼滅したソロモンの悪魔の配下のようです」
     灼滅者により、アモンが倒された事は記憶に新しい。
     配下である残党が、主を失った今、それぞれが暴走を始めていた。
    「戦争直後は事を理解できずに息を潜めていたようですが、主がいないことを理解し、欲望赴くまま好き勝手に動いているようです。この集団は、数ある中の一つでしかありません」
     姫子が言うには、この集団は裁判ごっこをしているらしい。
     適当に人間を拉致しては判決を下す。何を言っても何をしても、結果は有罪。そして裁きと称して殺す。
    「人を拉致して裁判を行う流れは以前からあったのかもしれませんが、今は人で遊んでいるようでもあります。この強化一般人達はリーダー役を含め四人。ある廃ビルをアジトにしています」
     姫子は、現場地図のメモを灼滅者達に手渡した。
     二階部分は丸々事務所だったのか、広い。彼らはその場所を好み、過ごしているのだ。
     室内には長い机、所長が座るような椅子、壁際に棚などがあるだけで、がらんとしている。
    「リーダー役の男はガンナイフ、あとの三人はバトルオーラと同じサイキックを扱います。接触した時に、ごっこ遊びを始めるかもしれません」
     四人の下す判決は、すべて有罪だが。
    「彼らも利用された被害者ですが、もう戻れない位置に立っています。これ以上、他の被害者を増やさないためにも……倒してください。そして無事に帰ってきてくださいね」
     そう言って姫子は、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974)
    八尋・虚(虚影蜂・d03063)
    荒野・鉱(その眼差しの先に・d07630)
    アイナー・フライハイト(ひとかけら・d08384)
    犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)
    恋川・想樹(ねむりねこ・d10384)
    藤堂・瞬一郎(千日紅・d12009)
    フェオドラ・グランツヴァルト(エンゲルグナーテ・d16137)

    ■リプレイ

    ●流行した瞬間
     廃ビルの二階廊下。
     スレイヤーカードを解放した藤堂・瞬一郎(千日紅・d12009)は、後ろに控えている七人へと頷いた後に、扉を開け素早く入る。
     中に居た強化一般人四人が一斉に視線を向け、問うた。
    「何者だ!?」
     瞬一郎は仲間がつかえることなく全員が室内に入れるくらいまでに歩を進め、そして少しでも最適な配置に辿り着けるように、と、敵の会話に応じることにした。自身の装備をゆっくりと改めて答える。
    「そうだな。イケメン弁護士と秘書って感じ? な、とし子さん」
     スーツ姿の瞬一郎に寄り添うように、ビハインドのとし子は漂っていた。
    「はあ? ここで、弁護が何の役に立つってんだ」
     その間に、アイナー・フライハイト(ひとかけら・d08384)は突入口以外の出入り口を確かめるべく視線を滑らせる。
     逃走経路は、あった。本来ならば、もっとじっくりとこの廃ビルを眺めていたいところだったが、今は別の意味で室内の間取りを確認する。
     一番最後に室内に入ったフェオドラ・グランツヴァルト(エンゲルグナーテ・d16137)もまた、中を見回し、緑の瞳を悲しげに揺らして十字架型の仕込みナイフに視線を落とした。十字架の長い部分を、きゅっと握りしめる。
    「おい、ガキ共! 不法侵入って言葉を知っているか。明らかに有罪だ」
     リーダーと思われる男が武器を取り出し、銃口を向けた。
     有罪だ、有罪! と三人から野次が飛んでくる。荒野・鉱(その眼差しの先に・d07630)は拳を作り、目を細めて苦々しげにその光景を眺めた。
     その時、ぴこんっと犬のような灰色の耳を立て、前に出てきた犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)が反論する。
    「ギルティーなのはそっちだよ!」
    「「「「えっ」」」」
     ぴたっと静止する四人の強化一般人。
     風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974) が不思議そうに首を傾げる。
     蕨の言葉に場が静かになった――と、思ったら一斉に、ぎるてぃ、ギルティィィ、ギルティー! と再び始まる野次。うるさかった。
     廃ビルのがらんとした空間、乾いた空気の中を、ギルティィィとどこか得意そうな声色が響き渡る。
     本気でうるさかった。
    「い、一瞬で流行りましたね」
     恋川・想樹(ねむりねこ・d10384)は呆れ、どこかうんざりとした様子で言う。
    「うわぁホントこのおっさん達、寒~。とっとと強制終了させちゃおー」
     見るに堪えない、と、続けて呟いた八尋・虚(虚影蜂・d03063)は前衛へと進み出た。
     野次に負けず劣らず、むしろ跳ね返すような勢いの仲間達の様子に鉱が溜めていた息を吐きだす。
    「オッケーぶっとばーす」
     蕨が宣言して駆けたのが合図となり、戦闘が始まった。

    ●ドヤァとギルティー
    「ソーサルガーダーで盾を付加させるっす」
     鉱が瞬一郎の守りを固める。
    「あたしも一緒に、自分を固めよーっと」
     虚が鉱に便乗して動く。
     駆ける蕨は手下の一人に狙いをつけ、俊敏な動きで跳躍する。犬のような耳と尻尾をぴこぴこさせて動く姿は可愛いが、しかし、次の瞬間豪快に初撃を放つ。
     装備している槌と杖――喪魔と葬魔で、閃光百裂拳を繰り出す。オーラが集束している連打は、一打一打が重く、敵が床に手をついた時に放った鋭い最後の一撃は、蕨の動きに追いつけないままだった風圧を全て吹っ飛ばした。
     間髪無く地に叩きつけられる音が響き渡り、部屋の床が軋む。
     蕨が滞空状態から解放される前に動くのは、敵のリーダーだ。
    「やるじゃないか、犬っころの嬢ちゃん」
     言いながらも銃口は想樹に向け、ホーミングバレット。
     蕨の起こした風圧をものともせず、人の間を縫うように弾道を描き想樹に着弾、いや、被弾したのは虚だった。当たる寸前で射線に割り込んだ彼女の体に、纏っていた影の残滓が漂う。
    「さっさと狩って帰るわよー」
    「はい、彼らの迷惑なごっこ遊びに付き合うだけ、時間の無駄ですからね」
     再び影を纏い、牽制に行く虚の余裕そうな声に、想樹が応じた。
     敵のリーダーが、舌打つ。
    「処刑にも容易く邪魔をしてくるのか」
    「知ってますか~。日本の法律では~」
     さゆみは高純度に詠唱圧縮された矢を作り出す中、相手に言葉を返す。視線の先、狙うのは蕨が床に叩きつけた敵だった。まだ起き上がろうとしている。
    「それはそれ、これはこれ、だ。詳しそうなお嬢さんもギルティーだな」
     話を遮る敵リーダー。
    「その判決は覆させていただきます~」
     矢を解放。言いながら放ったさゆみのマジックミサイルが綺麗に命中する。起き上がろうとしていた敵が床に倒れ、動かなくなった。
     敵一体が倒れたのを視認した瞬一郎は一番近くの手下を狙って、影縛り。与えたダメージと共に影が敵を絡めとった。
     敵は影を振り払おうと動きながら、うるさく喚く。
    「てめぇら、傷害行為だ! ぎるてぃだぞ!」
    「遊びで殺す奴がそれを言うのか? しゃーねぇな、男前すぎて有罪っていうなら受け付けてやってもいいぜ」
     な、とし子さん? と、背中を預けた相手、とし子に笑顔を向け瞬一郎。とし子は顔を晒して敵達を害した。
     打ち合わせた作戦通り、一体ずつ集中攻撃。
     アイナーが中段に刀を構えつつ、影に絡めとられたままの相手を狙って接近する。
     肉薄する直前の、最適な間合いで振り下ろす刀は早くて重い。
    「相応の報いがあるだろう、な」
     彼らの身勝手な裁きには。
     刀を払いながら離脱するアイナー。通り抜け様に放った声は、「くそぉっ」と吠える相手だけに届いた。
     無傷の手下の一人が集気法で、うるさく喚く仲間を回復する。消えかかっていたオーラが、再び男の拳を包み込む。狙ったのは、近くにいた瞬一郎だった。が、彼は咄嗟にとし子をかばう。攻撃の余波すらも触れさせないという意思が垣間見えた。
    「自分が受けるっす」
     振り上げられた拳と瞬一郎の間に割り込むのは、ディフェンダーの鉱。
     連打される拳をなるべく受け流しつつ、耐える。
     基本的な流れとしては敵を一体ずつ撃破、守りも厚く――灼滅者達のとった作戦は、戦い慣れた者のそれだった。
    「シュンイチロウ達は、攻撃に集中しても大丈夫だ」
     と、アイナーはクラッシャー組に声をかけた。
     回復役と牽制役も動く。
     フェオドラは手の中の十字架を祈るように持ち、夜霧を展開させる。
    「フェオ、回復に集中して、頑張る……よ」
     正体を虚ろにする夜霧と一緒に、ディフェンダー組が受けたダメージが癒されていく。
     想樹が潜む暗き想念を集め、形成した漆黒の弾丸を喚いていた敵へと撃ち出した。着弾と共に相手を蝕む。
    「このガキ、やってくれたな! ぎるてぃにより、処刑してやる!」
     言葉に対し、にっこりと笑った想樹は「知るか」と吐き捨てるように答えた。

    ●畳み掛け
    「吠えてないで、大人しく潰されればいいの」
     蕨が葬魔で殴りつけて一気に魔力を流し込み、その過剰な威力は瞬時に敵を爆発させた。
    「ち。ガキ相手に何やってるんだ、援護してやるから動け」
     敵リーダーが後衛へとわざわざ銃口を向ける。回復役のフェオドラを狙い定め、撃つ。
     射撃音と同時に残った手下が両の拳を撃ち合わせ、振りかぶった。
     連撃になるかと思いきや、手下のオーラキャノンを肩代わりするのは割り込んできた鉱。
    「いかせないっす!」
     オーラを放つ拳ごと受け止めるその距離、零。
     後衛への一撃を、直接叩き込まれる。
     またアイナーも射線上に飛び出し、援護の攻撃を肩代わりしていた。
     鉱は止めた相手の拳を弾き上げ出来る、一瞬の間、その隙に紅蓮斬を叩き込む。
     次いで、影を纏って接近してきた虚がシールドで殴った。
    「おっさん、次に攻撃する時は、あたしにしなさーい!」
     攻撃先を誘導させる虚が強気に言う。武器を払うように振り、敵を今の立ち位置から退かせると同時に虚も飛び退く。その際、笑みを浮かべ赤い瞳は相手を見下すように。
     着地と同時に虚の影が動いた。
    「このガキ! 待て!」
     挑発は成功し、残った手下が虚を追う。
     鉱と虚の行動に乗じるフェオドラは、前衛に向けて再び夜霧隠れ。
    (「あと少し……なの」)
     あと少しで、倒せる。
    「一番小さな子を狙うなんて、ゆるすまじなのですぅ。控訴です~、上告です~」
     影を纏い敵を誘導していく虚と入れ替わるように移動したさゆみが、マテリアルロッドで敵を殴りつけた。彼女が緑の髪をなびかせて退いた時、流し込んだ魔力が敵の体内で爆発する。
     が、まだ倒れない。
     ビハインドのとし子が放つ霊撃で、最後の手下は地面に崩れ落ちた。
    「子供だからと侮ってくれて、アリガト~」
     虚はウインクして、礼を言うのだった。

    ●討伐
    「こんなガキ共に……っ」
     残るはリーダーであった敵のみ。
     射程を捉えた瞬一郎の片腕は異形巨大化していた。
    「俺達を敵に回したのは有罪――いや」
     言葉を止め振りかぶり、膂力を駆使して思いっきり撃ち抜く。
    「運が悪かったってやつだな!」
    「く。確かに、全てはあの時から……っ違う、俺達は自由を得たんだ」
     言いながら灼滅者達を睨みつけた男は方向転換、ビルの窓に向かって駆ける。しかし警戒していたアイナーが退路を断った。
    「どけぇ! 自由を奪う奴ぁ、有罪で撃ち殺す!」
    「オレに言わせれば貴様らこそ――有罪、だ」
     駆ける敵に対して言い捨てたアイナーは、刀を中段に構えると自身に向けられた銃口めがけて振るう。
     敵の後を追う想樹が、アイナーの刀の軌道とは真逆の位置から影を宿した大鎌を薙いだ。
    「本当に、全く、何様ですか」
     心底うんざりとした口調で想樹が言う。
     跳躍した蕨が、再び滅多打ちに。勢いのあるそれに、壁へと叩きつけられる男だったが逆に壁を蹴り、跳ぶ。ガンナイフを握りこみ、逃走経路を確保すべくアイナーに接近。
     だが、それも叶わなかった。
     フェオドラが鋭い裁きの光条を男に放ったのだ。
     少女はナイフ仕込みの十字架を男に向けたまま、言った。
    「あなたたちは……罪深い……の。
     決して……赦されない……」
     果たして、遊ばれ、殺されてしまった者が何人いたのだろうか。
     それは分からない。
     分からないが、彼らの残酷な遊びがここで断ち切られたのは確か。
     これで、拉致され、真っ当でない有罪判決を受けて殺される人はいなくなる。悲劇となるはずだった誰かの運命を救ったのは灼滅者達だ。

     その後、蕨とさゆみの提案により、廃ビルを少し探索してから灼滅者達は帰路に着くのだった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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