幸せという名の悪夢

    作者:緋月シン

    ●報われぬ努力
     静かな教室に、複数の音が響き渡る。それは教師の声であり、板書の音であり、教科書を捲くる音であり、ノートへと書き写す音だ。
     それらの音は基本的に連動している。教師が喋れば教科書を目で追い、板書されればノートを取る。特に解説することでもない、当たり前のことだ。
     しかし静流は一人、その流れをまったく無視していた。教師が何をしようと、周囲が何をしていようと、ひたすらに参考書を読み問題集を解いている。
     とはいえそれが特異かというとそういうわけでもない。進学校の高三ともなれば、極当たり前に見かける光景だ。
     もっとも。静流は高校一年生であったし、参考書等は高校受験のためのものであったのだけれど。

     学校が終わり家に帰っても静流がやることに変わりはない。ご飯トイレ風呂を除き、ひたすらに勉強を繰り返す。
     寝るのは夜遅く、日付が変わってからである。
     けれど、その顔に疲労感はない。むしろ何処か達成感すら漂わせていた。
     そして。
    「コルネリウスさま、コルネリウスさま、努力した私を幸せにして下さい」
     そう呟きベッドで横になる静流の顔は、何処か期待に満ちたものであるのだった。

    ●報われる夢
    「皆さん先日はお疲れ様でした」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)はそう言って頭を下げると、前置きもそこそこに今回の事件の詳細を話し始めた。
    「こうして集まってもらったのは他でもありません……どうやら再び慈愛のコルネリウスが事件を起こしているようなのです」
     沢山の灼滅者達の協力により、少年少女を救うことは出来た。
     しかしそれにより学習したコルネリウスが、より厄介とも言える事件を起こしてきたのである。
    「今回悪夢に囚われることとなってしまったのは、相沢・静流(あいざわ・しずる)さん。高校一年生の少女です」
     静流は今年高校に入学したわけだが、その高校というのが実は第二志望の高校であった。第一志望の高校は、試験日に熱を出してしまい受けることが出来なかったのである。
    「悪夢の内容は、その時無事に試験を受けられ、しかも受かる、というもののようですね」
     勿論それだけならば悪夢とはならない。
     問題は、それを見るには条件が必要だということと、その内容だ。
    「その夢を見るためには、現実で報われない努力をしなければならないのです」
     そのために静流は現実では常に勉強をしている。わざわざ高校受験の、それを。
    「クラスには同じ学校から来たお友達も居るのですが……」
     心配で話しかけられた声にも、何の反応も返さないようだ。
     そしてそれは両親に関しても同様である。
    「それと、重要なことなのですが……彼女はそれを、毎日繰り返しているのです」
     つまり静流は毎日きちんと目を覚ましているのだ。まるで、普通に夢を見ているかのように。
    「それも前回の反省を踏まえてのもののようですね」
     見るのは常に同じ夢だ。そして朝になると目を覚まし、同時に現実へと叩き落される。
     けれど、努力をすれば再びその夢を見ることが出来る。
     故に静流は報われぬ努力を繰り返す。その努力が報われる、幸運な夢を見るために。
    「ただ、なんらかの理由で努力ができなかった場合は、幸せになる悪夢を見る事は無いようですが」
     しかしだからこそ、余計に努力をするのだろう。
    「そして、ここからが問題なのですが……彼女は自分が夢を見ているであろうことを知っており、邪魔をすると夢を守る為に全力で襲いかかってきます」
     本来であれば静流はただの一般人に過ぎないが、シャドウが力を貸し与えて強化するためにそれなりの力を発揮してくる。さらにシャドウの眷属も配下として使ってくるため、油断は禁物だ。
    「ただしシャドウ本人が戦う事は無いようですね。これは、コルネリウスが『本人の意志を尊重する』ように命令を出しているのかも知れません」
     静流が夢の中で倒されるか、或いは夢を諦めて戦いをやめた場合、シャドウは配下と共に夢から去り、再び悪夢を見る事は無くなる。
     どちらになるかは分からないが、ともかく悪夢を止める事はおそらく必要な事だろう。
    「……それが本人にとっての幸せかどうかは、分かりませんが」

    「そして今回皆さんにして頂きたいのは、それだけではありません」
     むしろある意味ではこちらが本題だ。
    「私達は現状、コルネリウスが何を企んでいるか分かっていない状況です。ですので、可能であるならばコルネリウスが何を狙っているのかを探ってきて欲しいのです」
     もっとも今回はコルネリウスと直接相対する事は無いだろう。
     だがその意を汲んだシャドウが居る。質問の仕方や内容によっては答えてくれることもあるはずだ。
    「その上で、皆さんには考えて頂きたいのです」
     今までのことを考えれば、今度同様の事件が発生する可能性は高い。
     その時、どのように対応すべきか。
     事件を解決するのか。或いは、しないのか。
    「その答えは……皆さんにお任せします」
     そうして、よろしくお願いしますと、姫子は頭を下げたのだった。


    参加者
    寺見・嘉月(星渡る清風・d01013)
    白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)
    犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)
    金井・修李(無差別改造魔・d03041)
    ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    明鏡・止水(中学生シャドウハンター・d07017)
    無常・拓馬(魔法探偵半端ねえぜ・d10401)

    ■リプレイ

    ●現実
     八人の視線の先にある光景は、まさに合格発表の真っ只中という様子だった。
     一言で表すならば悲喜交々。合格者の番号が書かれた紙の前には、軽い人だかりが出来ている。
    「高校の合格発表ってこんな風なんだな」
     それを眺めながら、明鏡・止水(中学生シャドウハンター・d07017)が呟いた。本来であれば止水も来年それを目にする年齢なのだが、通っている学園が学園なのでおそらくその機会はないだろう。
     それはともかく、今の問題はこの悪夢である。
    「やれやれ、まだまだ夢での試行錯誤は続くわけですか……コルネリウスさん、存外熱心ですねぇ」
     呆れたように、寺見・嘉月(星渡る清風・d01013)が溜息を吐く。
    「毎度着実に状況を困難にしていってるねぇ」
     でもどんなに工夫しても、人間に悪夢は必要ない。そう呟く月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)の視線は、人だかりから離れた場所に立つ一人の少女の姿を捉えていた。
    「コルネリたんったら前向きにコンテニューしてきたね。だったら何度でもゲームオーバーさせてやろうじゃないか」
     そうは言いつつも、無常・拓馬(魔法探偵半端ねえぜ・d10401)としては、コルネリウスを厄介だと思いながらも、前向きで諦めない姿勢には好感を持ってもいた。また直接話してみたいと思っている程度には。
    「コルネリウスの行動は無邪気な子供がママゴトをしているかの様な印象を受けるな。だが貪欲かつ狡猾に学習し夢と人を好みに支配しようとする暴君的な印象もある」
     今回の様な事件が発生したのは以前の自分達の対応が元なのではないか。そう思い責任を感じる白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)であるが、その一方でまた同じ面子と依頼に行けることに充足感があるのもまた事実であった。
     ともあれ。
    「気を引き締めていこうか」
     自らに言い聞かせる意味も込めて呟く。
     そして、少女――静流の前へと立った。
     八人を前にしても、特に静流は驚きも慌てもしなかった。ただ、八人の顔を軽く眺めた後で、息を吐き出し俯く。
     その直後、それまで聞こえていたざわめきが消えた。
     瞬間、千尋はスレイヤーカードを掴んでいた。指に挟み、空に掲げる。
    「リリースッ!」
     殲術道具を纏うと同時、後方へと暗器・緋の五線譜を振り抜いた。それは迫っていた触手を、違うことなく叩き落す。
     背後に居たはずの人々はいなくなっていた。その足元から影の触手を生やす、四人の姿を除いて。
     その間に、皆も自らの殲術道具を展開し終わっている。それでも静流と戦闘にならなかったのは、静流自身は攻撃してこなかったからだ。
     そこに、まだ会話を交わす余地が残されていると思った。
     だから。
    「あなたはなぜここを志望したのですか? これから何をしたかったのですか?」
     あくまで刺激しないように、犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)は静かに問いかけた。
    「このまま高校ドロップアウトしてニート一直線で親を泣かせるつもりかい?」
     対して拓馬は戦闘は避けられないと判断した上で、痛いところを突いて逃げた先の未来を指摘する。
     だがどちらの言葉にも、反応すらなかった。
     もっと言葉を重ねるべきなのか、或いは『コレ』を使うべきなのか。悩む金井・修李(無差別改造魔・d03041)であるが、すぐにそれどころではなくなった。
     配下達が邪魔をしてきたのである。
     静流へと意識を向けさせないが如く背後から襲い来る影の触手。もしかしたらそれが答えなのかもしれないけれども。
    「邪魔だよ! 静流ちゃんと静かに話せないじゃん!」
     少なくともまだ言葉で聞いてはいない。バスターライフルで薙ぎ払った。
     しかし配下達の攻撃は止まない。まずはそちらを何とかすべきかと、視線を向ける。
     けれども。
    「静流」
     雷を纏った拳を繰り出しながら、睡蓮は静流へと声をかけた。
    「人は誰でも何かに負ける時はある。そして失敗もな」
     出来れば自ら悪夢を放棄して欲しいが、難しいだろうとも思いつつ。
     ともかく伝えるべきは、自分は逃げる事を悪とはしない、ということ。
     その上で。
    「問題はその後をどう対処するかだ。敗北からは未来を学び、過ちは糧とし反省をする」
     静流には自分に近い物を感じる。ならば以前の自分がされた様に手を差し伸べよう。
    「捲土重来と言う言葉がある。人は何度でも意思があればやり返せるものだぞ静流」
     人が人である理由は悩む事なのだから。
     一先ず伝えるべきことは伝えたと、睡蓮は意識を完全に配下へと向ける。後は仲間達へと任せ、目の前へ迫った触手を焼き払った。
     夢と知りつつ虚構に執着する為、現実での生活を放棄。受験に失敗した自身の否認。それを言い訳に夢に依存し続ける。
     本人もこのままでは駄目だと気付いているだろうが。
    「それを認められるならば、こんなことにはなっていませんか」
     確認するように沙夜が呟く。
     前衛へとワイドガードを使用しながら、思う。
     彼女の行為は過去の彼女自身を否定している、と。
    「夢見る事は悪くはありませんが、人の視線は未来へ向いており道は無数に有る。でもここには未来が無い」
     幸せな時に浸る事は悪くない。
     だが人は時の歩みには逆らえない。過去に折り合いを付け、未来に向かっていく。
     それが人。
    「這いずりながらも進む者を私は笑わない」
     拳へ影を纏わせながら殴りつけ、ちらりと一瞥。
    「どうするかは自分次第です」
     それだけを伝えた。
    「夢に逃げるなんて卑怯ね。現実と戦わなければ、あなたは前には進めないよ」
     ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)の手にあるのはゲイ・ジャルグ。銃口から放たれたビームが、槍の如く敵を貫く。
    「夢で努力しても意味はない」
     本当に願ったことは何なのか。それを問いかけつつ、蒼色のオーラを纏った拳を目の前の敵へと容赦なく叩き込む。
    「あなたが勝ちたいと願ったのは夢? それとも現実?」
     その下に装着するはプリトウェン。着弾の瞬間マテリアルが蒼く光り、相手の身体が内側から弾け飛んだ。
    「人は常に勝ったり負けたりしながら生きてる」
     ソーサリーソードを手に、拓馬は敵の死角へと回り込む。斬撃を放ちながら、その視線は静流へと。
    「けど逃げ続けている間は負け続けるだけだ」
     人の強さは生きる覚悟の強さと考える拓馬は、夢に逃げるという行為には強く否定的だ。
     だからこそ。
    「本当は夢なんかじゃなく自力で勝ちたいんだろ? なら後ろではなく前を向いて走れ」
     後ろ向きな努力を前向きにするように。言葉を紡いでいく。
    「憬れが叶う瞬間って嬉しいものな」
     糸の結界を張り巡らし、敵の攻撃を捌きながら、止水は言葉を続ける。
    「君は『現実に絶望する』ためにこの夢を見ているのか?」
     そして。
    「心配している家族や友達を捨てるほど、いい夢なんだね」
     或いはそれすらも気付いていなかったのかと。仲間への癒しを施しながらも、止水の視線が静流から外れることはなかった。
    「貴方が夢で第一志望の学校に居ても、貴方は現実で学校に通っているのでしょう?」
     仲間へとシールドリングをかけつつ、問いかけるのは嘉月。
    「その学校での人間関係、学校の校舎は、第一志望の学校では出会えなかったものです」
     敵へと制約の弾丸を放ちながらも、言葉を重ねる。
     これから大切なものになるかもしれないのに、そこから目を背けていていいのかと。
    「貴方の人生は、挫折と立ち直りの繰り返しで紡がれていくのです。これからも『現実』を生きてください」
     辛いかもしれないけれど、それでも。
    「あのね、静流ちゃん。実は、ここに来る前に寄せ書きを書いて貰ったんだ」
     そう言って修李が取り出した色紙には、静流を心配する言葉が並んでいた。詳しい事情は説明していないというのに、それだけのものが。
    「静流ちゃんは……この気持ちを知ってて、この夢を見続けたいの!?」
     叫びながら、色紙を放り投げた。それは静流の足元へと転がり、そこに書かれた文字を、静流の視界へと映し出す。
    「夢よりも大事な事……忘れてない!?」
     影より伸びるのは二本の大きな手。それに掴まれた敵へと、静流へと向けられない鬱憤を叩きつけるが如く、無数の弾丸をぶち込んだ。
    「運命、時の運……人生には例えどれだけ努力しても抗いきれない何かが厳然としてあると思う」
     木の幹を蹴り空へ。空へと舞った千尋が指を動かせば、それだけで迫り来る触手が悉く斬り裂かれる。
     邪魔をするならば容赦をしないとばかりに、糸が踊る。
    「でも、何をしても過去は変わらない。どれだけ甘美な瞬間を夢で見れたとしても、それは所詮叶わぬ『夢』」
     降り立ったのは静流の目の前。
    「ボクらがすべきは『過去に縛られ美化する事』じゃない、『未来を見つめ、今を理想に近づけていく事』だ。何かの為に惜しまず努力出来る貴女には間違いなくその力がある。変えるべきは過去じゃない、『今』だ!」
     言葉と共に腕を振る。絡みついた糸が、最後の配下を斬り裂いた。
     静流の瞳をジッと見詰める。
    「戻りたい瞬間、ボクにもあるよ。でもお互い、まだ過去を振り返る歳じゃないと思うよ?」
     苦笑交じりの笑みを浮かべた。
     だが。それでも静流の反応はなかった。
     俯き地面を見詰め……そして、ようやく気付いた。その瞳が、虚ろであることに。
     灼滅者達の言葉は、静流の心に響くことはなかったのだ。それは聞きなれた言葉であり、受け入れられなかったからこそ夢に逃げ込んだのだから。
     静流は絶望を宿した瞳で、自分の夢を蹂躙した者達から目を背け。
    「そう、私の夢は終わってしまったのね……。だって、私の夢は斬り裂かれ殺されてしまったのだから」
     ぼそりと、それだけを呟いた。
     もう、静流の瞳は夢を見てはいなかった。
     だから、きっと、彼女がこの悪夢を見ることはもう無いだろう。
    「ふむ……お見事、と言うべきでしょうか、これは」

    ●質問と返答
     察したようなタイミングだった。視線を向ければ、そこには見知らぬ男が一人。
    「シャドウ……」
     言いたいことは山ほどある。けれど一先ずそれを押し殺した。
    「聞きたいことがある」
    「随分と唐突ですが……まあ、構いませんよ? 幸せな夢を台無しにした、その見事な手腕に敬意を称し」
     その返答に、まずはライラが一歩前に進み出た。
    「あなた達のような強大なシャドウを束ねて成そうとするコルネリウスの理想には、わたし個人としては興味がある。わざわざわたし達の意見を取り入れてまで、理想の夢を提供する意味を、ね」
    「どうやら勘違いしているようですが……そうですね、例えるならば、目の前に怪我をした子犬がいたので世話をしてあげようと思った、というのに似ていますか」
     良かれと思ってした世話が子犬の為にならない事が判ったら、その方法を変える。ただそれだけのことだという。
     それを皮切りに次々と質問をぶつけていく。
    「何故、人の幸せな夢に拘る?」
    「コルネリウス様は慈愛に満ちたお方ですから」
    「……なるほど。では、strengthという名のシャドウを知っているか?」
    「聞いた事がありませんね」
    「根本的に人を理解していない様ですが、夢と現実は平行線、交わる事は無い。貴方達の行動は、いずれ夢と現実の逆転を引き起こします」
    「随分と哲学的ですが、間違った認識ですね。人が夢を見るという事こそが、夢と現実が交わっているという証左なのですから」
    「そもそもコルネリウスさんは、人を闇堕ちに誘う気があるのでしょうか?」
    「人はいずれダークネスとして目覚めるもの。それを助長する必要性は特に感じていませんが?」
    「聞きたい事をメモして来たんだ! えーと……コルネリウスの3サイズは? ……あれ?」
    「まだまだ子供で……」
    「答えようとしなくていいから! 違った、これじゃない……これだ! えっと、シャドウってよく絶望に落として闇墜ち誘ってるけど……あれは君達の勢力じゃないのかな?」
    「先ほどの方もそうでしたが、勘違いされているようで。闇堕ちを誘うシャドウは、そうはいない筈ですよ」
    「あれ、そうだっけ?」
    「はい。絶望を与えるのは、サイキックエナジーを集めるためですから」
    「そっか……じゃあ、もしコルネリウスが幸せにしようとしてる人を絶望させようとしてるシャドウが居たら……どうするの?」
    「ふむ……コルネリウス様の獲物に手を出すモノがいるわけがないので、答えようがないですね」
    「ラブリンスターって淫魔は好きという理由でアイドルを真面目にやっているが、コルネリウスが人を救済すようとする根源は何だ?」
    「慈愛という名の通り、慈愛の心ですよ」
    「幸せにしたいのは、夢の世界だけでの話か、それとも人自身の幸せか?」
    「魂の幸せですよ。それこそが、本当に幸せとなるには必要なものですから」
    「幸せにしたいと言っていながら、今はその夢が絶望を与えていると気づいているか?」
    「今回彼女に絶望を与えたのはあなた達ではないですか。彼女の魂は、まだ幸せな夢の癒しを必要としていたのに」
    「自分で生きる力がある人には、次の日の活力になる夢が、幸せな夢だと俺は思う」
    「だから、そうしていたでしょう。幸せな夢は、目覚めた後の意欲に繋がっていたのですから」
    「さっきサイキックエナジーの話が出たが、お前達はそれを集めているのか?」
    「いえ、集めていません。私達はコルネリウス様より与えられていますので」
    「随分と回りくどい方法がお好きなようで。コレがキミ達コルネリウス派のやり方かい? ……それとも『ハートの眷属』が、かな?」
    「ハートの眷属というものがあるのですか。どうやらあなた達は、私達よりシャドウの事に詳しいようですね」
     シャドウはそこまで答えると、もう興味はなくなったとでもいうかのように後ろに下がる。
    「さて、終わりのようですね。それでは私はこれにて」
    「待て」
     それを、沙夜が止めた。
    「コルネリウスに伝えろ。赤の王の問いには、胡蝶の夢を持って返させてもらう。それぞれで満足する生き方をすれば良いだけだ。よって私は、貴様を否定する」
    「あっ、ボクの分も伝えといてくれない? いつかは君も救ってあげるから覚悟しててね……コノヤロウ~って」
    「……伝えておきましょう」
     異なる二つの伝言を受け取り、シャドウの口元が僅かに歪む。
     そして次の瞬間には、その姿は消えていた。
    「コルネリウス、あなたの夢は、叶えさせない」
     その場所を睨み付けながら、ライラは呟いた。
     悪夢を生み出すシャドウを相手に、さらに戦うことを決意しつつ。
    「また一つ、悪夢が明ける……」
     空を見上げながら、千尋は息を吐き出す。
    「何度でも来い、その度にボク達はキミを否定するよコルネリウス」
     その胸に宿す、決意と共に。
     悪夢は終わりを告げた。
     けれど……。
     しかし、修李は静流へと近寄っていった。
     それでも、おはようと、笑顔で言うために。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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