運動会~ふわふわふりふりしっぽだらけ!

    作者:斗間十々

     5月26日、武蔵坂学園の運動会。
     灼滅者達に運動会がやってきた。
     組連合ごとに分断された、あるいは新たな仲間を得て、目指すは連合チームの優勝1つ。
     その中でまた1つ、仁義無き戦い――競技が発表された。それは――。
     
    「揺れるしっぽ。魅惑のしっぽ。追いかけてもふっと取って見とれていたら、貴方のしっぽは取られてるかもしれません。そんな……しっぽの戦いです、皆さん!」
     花咲・冬日(中学生エクスブレイン・dn0117)はいつになく熱く灼滅者達に拳を握った。 さあっと取り出したのは犬に猫、馬に狐に、蛇やワニまでのしっぽ達。
     そう、この競技の名は『しっぽ取り合戦』。
     動物しっぽをふわふわ下げて、誰も彼もがグラウンド内で入り乱れ。しっぽを奪い、奪われる。そんな仁義無き戦いである。
     しっぽはどんな種類でも構わないが、うさぎ等の短すぎるしっぽは認められない。バスケットボール大の大きさでうさぎと言い張るならば……まあ、良いとしよう。要は公平さが大事なのだ。ただ、あえて巨大過ぎるしっぽにするならば認められる。守り抜く気概があるならば、自らハンデをつけても楽しいだろう。
     勝負であると同時に、楽しんだもの勝ちの競技でもあるのだ。
     もちろんしっぽを取られてしまえば即失格。応援席に退場となる。
     灼滅者といえども今日は一介の一学生。しっぽ以外を狙ったり、サイキック・殲術道具を使うのは反則行為。取られそうになったしっぽを手で抑えたり、服に隠すのも同様に失格になってしまう。
     使うのは正々堂々たる心意気と作戦。しっぽを狙う研ぎ澄ました瞳、五感、仲間との連携、あるいは騙しあい。そしてなにより、守りながら奪う、奪われる前にもぎ取る、もふる、愛でる。そう――揺れるしっぽへの愛。これにつきるのである。
    「そう、今日はサイキックも特殊能力も封印して……残念ですがサーヴァントの皆さんも応援席で私とお留守番して。そんな、自分の持てる力としっぽへの愛だけが勝負の決め手の、実力勝負です!」
     勝てばチームが優勝へと一歩近付く競技の1つ。
     その上――、冬日は皆を見渡した。
    「誰が一番しっぽを愛し、もぎ取ったしっぽ王か……私がしっかり見てます」
    『しっぽ王』
     しっぽを、もふもふを愛する者ならば聞き捨てならない、もふ愛を刺激する称号を冬日は口にした。
     しっぽ王――誰かが再び反芻する。
    「チームを優勝に導くためにも、……でもそれ以上に、しっぽへの愛が試されます。私も決してしっぽばかりに見とれません。私も頑張りますから、皆さんもファイトですよ! ――これはもう、負けられない戦いですよね!」
     わおーん!
     冬日はさっそくつけていた、白く大きなしっぽを揺らし、勢いよく拳を突き上げた。
     ふわんふわんとしっぽが靡く。
     このしっぽがグラウンドに一体どれだけ溢れるのだろうか。たなびくしっぽの群れは、どんなパラダイスになるのだろうか。
     しかし、哀しいがこれは戦い。
     気を抜けば引っこ抜かれる、引っこ抜かれたくなければしっぽを奪わなければならない。そんな仁義無きしっぽの戦い。
     それが今、始まろうとしていた――!


    ■リプレイ


    「しっぽは好きですかー!」
    「しっぽー!」
    「しっぽを愛してますかー!」
    「しっぽー!!」
     ふわふわふりふり――しっぽの戦い、いざ開戦!

    「きゃん!」
     開始早々転んでしまった火土金水にしっぽハンターは容赦無い。
     そのしっぽは獣のように駆けてきたリャーナのお口にぱっくり銜えられた。
    「行くよ、チー!」
    「もちろん!」
     すかさず朔日とチセがちっちゃくってすばしっこく併走する。優しい色の三毛猫と、狼みたいな灰色しっぽ。ぷんっとそのしっぽを奪い取れば、即座に反転。
    「朔日ちゃん、逃げるんよ!」
     気が付けば迫っていた魔の手にわんにゃんコンビは一気にダッシュ!
    「すばしっこいですね……」
     寧々が思わず1人ごちる。その隙に伸ばされた手にしかし寧々は動じない。シュッと避けて。
    「これは残像です」
    「なら私はくるくるなの!」
    「なっ!?」
     寧々の前で月之瀬はくるくるくる――しっぽ奪取!
    「キツネを愛してやまないご当地ヒーローとしては負けられない戦いだね。それに、キツネの可愛さを皆にアピールだよ!」
     イナリは愛してやまないキツネの魅力アピールにグラウンド全体走り回り、更には観客席まで魅了する。
    「負けないです。僕だって心まで奪うつもりですよ」
     隣に走ってきたのは地面に到達しそうな程長い縞猫しっぽのなこた。
     もふっとしっぽが揺れれば観客が沸く。
    「なんの!」
     キツネのしっぽが揺れれば観客が沸く。
     猫のキツネの仁義なき戦いは――。
    「もふもふ、頂くの」
    「「ああ!?」」
     戦わなければもふれない、もふりすとの哀しい宿命を背負い、漁夫の利に出た美海の手にもふもふ!
    「でもカッコ良いイケメンが耳を付けて恥ずかしそうにしている姿も魅了される作戦、名付けて『らぶりーイケメンにゃんこどきどき作戦♪』」
     椿姫がバァーンと現れた!
    「可愛い女の子が、猫耳、尻尾付けてれば男子はほっとかないだろう? 名付けて……あんまり良い作戦名は思いつかなかった」
     夜兎がドォーンと現れた!
     どちらも作戦通り耳も尻尾もふりふりさせて、背中合わせにハンターを誘う。
    「Cat lover meetingメンバーには容赦しない!」
     夜兎がその手を伸ばしたが、イーライはするりとかわす。驚く2人を後にしたイーライは魅了されて走っていた。そう、猫好部グループへ。だって猫しっぽを狩りたいから!
    「わっ……」
     その勢いに思わず蒼は毬衣の影に隠れて小さくなる。
     それを見て心桜は思わず自慢のしっぽを靡かせて。
    「何をしておるのじゃ! しっぽは自慢するもんじゃぞ、見るが良い。3日かけて作ったこのしっ……そういえば自慢したら取られてしまうー!」
     ふわふわもふもふ――その瞬間だった。
     遠くから土煙が上がり驚く猫好部。それは長毛猫の紫だった。そのあまりに魅力的なしっぽに目の色が変わっている。
    「そのしっぽは私のものです……誰にも……誰にも渡しません」
    「ひ、人が多い所にっ」
     蒼は退避。ひとまず離脱。
    「あっ、後ろ……危ない!」
     篝莉は紫にフェイントを入れてみるが止まらない。
    「わかるよ、あなたの尻尾もいいもふもふ……勝負!」
    「あなたのしっぽも頂きます!」
     毬衣と紫の激突。
     その隙にちゃっかりイーライが心桜のしっぽをもふもふしていた。ショックを受けた紫に、更に篝莉が無慈悲に紫のしっぽもゲット。
    「しっぽ、ゲットなの」
     ドヤァ。
     なんて無慈悲な戦い。
     囮になるのは黒柴の実。実もまた目立って立って、友達の斎に狩りを任せている。
    「四童子は猫なんだ。身軽そうで四童子のイメージにぴったりだな」
    「けど犬より猫が好きな人もいるかもしれない。だからオレが狙われた時は代わりに取ってくれれば良いよ」
     なんて、話している隙をハンターは見逃さない。
    「しっぽ王になるのは俺だ! 負けられない……負けられない理由があるから!!」
     風のように現れた白夜。
     黒犬ふさふさ耳にしっぽもつけて、その目は本気と書いてマジだった。


    「メイドとは主の影に空気のように佇むもの。その気配、そうそう捉え得ぬものと知りなさい」
     外れないしっぽは服に入れたつもりだったのだけど、やっぱりいつものしっぽがちょろりと見えれば花梨の瞳がきらりと光る。
    「モフモフヒャッハー!!」
    「きゃいん!?」
     しっぽハンターの前には空気だってブレイク、それこそがこの戦いを制する者。
     かと思えば猫じゃらしのようにアメショーのしっぽが揺れて、アリスはうずうず視線が釘付けられた。
    「む~……にゃんっ☆」
     ねこさんみたいに思わずアリスが飛びついてしまうとその背後には回り込んだのはしっぽの主、紅鳥。
    「にゃっ、やさしくしてください~! あ、でもあのしっぽかわいいですっ♪」
     アリス、ダッシュ逃走! ついでに次のターゲットもロックオン。だって周りはまだまだ魅惑のしっぽで溢れてる。
     目の前にはまんまるしっぽがあった。
     その大きさはハンデ? いいえ愛です。
     稲葉のしっぽは聖なるしっぽ。あなたのハートを頂きに――。
    「ふかふか愛でるだけじゃ足りないんだ、しっぽ狩りだにゃー!」
    「しっぽの良さはまずその肌触りだと思うんだ」
    「自称もふもふ探究者としてはその尻尾見逃せません。勝つ事よりもふる事が目的になっている? いえいえそんな事無いですよ」
    「す、全てはもふもふへの愛故――!」
     稲葉のもっふりしっぽは虹路、予記、おまけに夕月もかき集めていた。目立つしっぽでは逃げに徹することすら難しい、しかしこれが愛!
    「ふわっふわっでもっふもふ! わしもやれば出来る子ー!」
     更に七姫も加わってプチハーメルン。途端肉食獣のように変化した七姫が稲葉のしっぽに手を掛けて、うっとりふわっとしっぽを愛でれば、僅かな違和感。
     しっぽが無い。
    「少し卑怯な感じがしますが、これも作戦と言うことで……」
    「しっぽ! しっぽ王狙うなら追いかけなきゃ……でも、そのしっぽは魅惑いっぱいだよっ」
     みくるが七姫のしっぽを手にさっと翻るものの、予記は獲られた稲葉のしっぽにまだ未練がある。哀れ応援席に七姫と共に運ばれる稲葉しっぽに何人が落胆したことか。
    「……しっぽ」
    「あ」
     見れば虹路に予記のしっぽも奪われて。どれだけ多くの幸せ(しっぽ)を手に入れられるかの勝負なんだよと虹路はにんまりちゃっかり笑顔を見せた。
    「都璃、俺にその可愛い勇志を見せて」
    「やかましい慶! チームで動けと言われてるだろ、私の尻尾ばかり見るな! 見ーるーなー!!」
     恋人同士の慶は都璃の姿を残すべくカメラ所持、これ常識。
     しかし揺らめく不穏な影――。
    「フッ……誰が真のしっぽ王であるか判らせてやる時が来たようだな」
    「慶クン、都璃ちゅん、協力プレイだからなー!」
     式夜に気付いて織兎が声をかけ、ようやく三角コンビになったものの、一瞬の隙をついて掠め取るべし! ……不発!
    「後ろは守るよ~!」
     意外に強固な三角陣。そこに再びあるかけ声が響き渡った。
    「モフモフヒャッハー!」
    「「!!?」」
    「もふ、今だ!」
     頭に残る独特なかけ声に緩んだ隙に、花梨ではなく式夜の手にしっぽが3つ。けれど「モフモフヒャッハーか……」
     何かが伝染していた。
     一方グループ対グループも本格化。
     チームわふーと絆部が睨み合っていた。
    「がぅ! です」
     御都が吠えるとひよりが思わず「にゃー!」と鳴き返す。すかさず紗奈も加わって、「にゃ、にゃー!」。
     ひよりと紗奈、頷き合えばチームを崩すべく飛びかかる。しかしチームわふーは徹底してエミーリアを護る布陣。
    「エミーリアちゃんのしっぽは獲らせないんだよ~!」
     飛び出した瑞葵がその身――いや、そのしっぽを犠牲にする。
    「わふっ! にゅーがんだ……じゃなかった! 普段からわふわふ言ってるのはダテじゃないです☆」
     そしてクラッシャー本命はエミーリア。
     ウーッと唸る悠の威嚇も何のその、威嚇くらいで怯むしっぽラバーはここにいない。
    「わふ~っ♪ うちとったり~!」
     喜ぶエミーリア、しかしその後ろは同じ絆部のリノがすかさず手を伸ばす。
    「あらダメよ、こっちはちょっと通行止めよ?」
    「くっ」
     チームわふー。その結束は結構固い。フローレンツィアの『通行止め』にリノは、たくさんのしっぽをゲットすることに目標を決め、その場から駆け出した。
    「うん、あのチーム戦はキツイですね……」
     遠く見ていたアーネストも一時安全なしっぽ獲りへと姿を消し、「しっぽ王に僕はなる!」と勇猛果敢――いや、無謀に抱き付きにかかった星夜のしっぽは梗鼓の運動神経の良さの前に撃沈した。
    「きょしも見てるし、がんばるよー!」
     梗鼓は応援席へと手を振るう。
     そしてその一団にあえて挑む第三の勢力がトリノコ、ナンバーM(もふ)。
     チームわふーが一点集中ならば、ナンバーMは防御こそ力。
    「呼び覚ませ野生。ふふふ目覚めた僕には、尻尾を狙う殺気がわか……りますん!」
     だって笙音の後ろはいつも阿吽が護ってくれていたから。
     互いに背中を預け合うナンバーMの守りも中々強固。攻められず、守れず、膠着する。
     とはいえ動かなければ楽しめないのもまた事実。
    「護られてばっかとちゃうで日和センパイ、先陣切って奪いに行くわ!」
     東がばっと飛び出した。隙を伺おうと狙っているミアが見えたのだ。
    「私も行くわ」
     栞も併走。攻撃手に悠花のしっぽは握られる。
    「普段からダブルテイルだからって練習台にされた日々、それがミアを鍛え上げた。そう簡単に取れると思わないで」
     が、ミアも中々素早く反撃に応じていく。
    「今だよ! 少数精鋭の狩猟者、標的のもふ奪取!」
    「宗佑隊長の指令とあらば!」
     宗佑の言葉に日和も飛び出して、対峙する日和とユキト。
    「大人しく尻尾を明け渡してください……って、オレがそう簡単に尻尾わたすわけねーじゃん!!」
     うがーっと思わず反撃するユキト。
    「アパートという巣から放たれた野生のトリノコ一家の連携っぷり、とくと味わっていただきましょうぞ。お覚悟ー!」
     負けたくなーいとユキトは反転、逃げ出した。
    「……」
    「……」
     その先で、向かい合っていたのはアンカーに断。
     どちらも逃げ回って隅っこに逃げれば、同じ考え同士鉢合わせてしまっていた。
    「し、仕方がないんです! しっぽを取られたら退場ですし……っ」
     あわわと逃げ腰のアンカーは、断の相手には大きすぎる。しかし――見えた!
    「それがし、取った!」
    「あっ!」
     断はアンカーの股下ずざー。見事なスライディングでしっぽをむしり取る。
     背中合わせの眞沙希と綾鷹はそれを見て守りを強化した。
    「綾鷹先輩、そっちはどう?」
    「体力温存も順調だ。それに、しっぽ王……それは、欲望にまみれて尚も紳士的であろうとするしっぽマニアの真骨頂が垣間見える戦い。勝ち残る! 其れに同じ連合の眞沙希さんがいる時点で勝てる!」
    「任せて、もふもふセンサーで負ける気がしません。サーチ&LOVE!」
     もふもふラバーな恋人2人がくわっと吠えた。
    「あの人達は……後回しなの~♪」
     歩は犬耳フードにしっぽを揺らして走り抜ける。狙えるしっぽを見定めるのもしっぽ王への第一歩。付け焼き刃のしっぽ使いに負けない! と走り出したその先に――。
    「にゃー」
     黒猫尻尾黒猫耳にマジックで書かれたヒゲに猫の手ミトン。猫が居た。優夜だ。
    「にゃー」
     猫ぱんちぶんぶん。
    「ふわふわ!!」
     たまらず迷子が飛びついた。死ぬ気で守るつもりだったけれど我慢出来ない。
     それを紅葉は見守っていた。ひたすらじっと動かない。
     誰も後ろを通らないように――としていたのだが、中々厳しい。誰もがしっぽに飢えたハンターなのだ。ある影がにじり寄る。
    「そう、私はハンター……もふもふハンター!」
    「きしゃーっ!」
     紅葉は威嚇する。けれど、ハンター・朱美は威嚇にも負けない。
    「やるからには負けないんだよー!」
     猫パンチは痛くなくてもルール違反――にゃーっと紅葉も逃げ出して、2人のしっぽ争奪はもう少し続く。


     協力プレイももちろんちらほらと――いや、Ccのメンバーは仲間内バトルロワイヤル。
    「やだ……皆もふもふ」
     依子もきゅんとしている場合ではない。男子勢も意外なしっぽも目移りするけどしゅっとしなやかな手つきでしっぽを狙う。
    「手加減無いな……でも女性のはやはり狙い辛い」
     間一髪避けたアイナーがぽそりと呟けば、目の前には昭子がまっしぐら。
    「わー、てやー。にゃー!」
     アイナーが無慈悲に避けてしまうもやっぱりその隙に依子の魔手がアイナーの狼しっぽをぶちっ。
    「狙うなら大将首ですよ、八握脛先輩!」
     渓はメンバーが昭子に気を取られている隙に一気に篠介に手を伸ばす。しかし。
    「優勝何ぞ如何でも良いわい! 白にゃんこも銀ぎつねもわんこも思う存分もふってやるからのう!」
     ヤマアラシこと篠介はどーんと身構え反撃にステップ。豊かなしっぽがふわんと揺れれば、
    「ヤマアラシとか何ぞそのチョイス」
     ものすごくさり気なく紋次郎はヤマアラシをゲットしていた。
    「仁奈ちゃん、こっち!」
    「うんっ」
     紗と仁奈は手を引いて、仁奈が兎のように音を聞けば、紗が猫のように駆け出して。
     でも、2人で逃げる時間が無くなるくらいなら――紗がちらりと仁奈を見る。
     仁奈もくすりと笑い返した。そして、互いのしっぽに手を伸ばして捕まえて、ぎゅっと抱き締め合ったのは同時のこと。「一緒だね」と2人一緒に笑い合う。
     これもきっと優しいしっぽ愛。
     handle with careの3人は連合が違うからばらばらになってしまったけれど、ふと鉢合わせればにんまり笑う。
     捕まりそうで捕まらない、そんなしなやか黒猫・星野はぴょんとミルミに飛びついた。
    「にゃーミルミさんはっけーん♪」
    「ひゃっ!?」
     ミルミも負けていない。思わず飛び退いてじりじり迫る星野のしっぽの動きをじっと見る――。
    「見えた、ここです!」
    「ふにゃー……あ、結衣菜さん」
     えっとミルミが振り返れば、そんな2人の隙をついて結衣菜がちゃっかりミルミのしっぽを掴んでいた。
    「ごめんね。でも2人とも良いしっぽ!」
     ふふっと微笑んで結衣菜は再びグランドの中へ。


     獲って獲られて、ゆらされ、ゆれて、終わりが近い。
     じりじりと距離を詰められるチームわふー。
    「……エミーリアは。やらせない」
     フィリアの防衛も強く、隙が無い。が、そこにまちこのフライング・クロスチョップ!
     日々募る霊犬トリオをもふもふしたい欲求を皆の尻尾に向けて、今ここに。
    「いざ行かん、しっぽ王の座へ!」
    「はいは~い、後ろにご注意ですよっと」
     獲ったら獲られ、後ろにイヴリア。それもまたエミーリアへと手渡して、グループ戦もまた陣形が崩れていく。
     ならば後は、『しっぽ王』目指して進むのみ。
     エミーリアを守っていた愛梨栖と十六夜も陣形を解く。
     何故なら、2人は真剣勝負を望んだから。弄るか弄られるかのしっぽ狩り。
    「例え十六夜さんであろうと、今だけは本気でいきます!」
    「……いいだろう。そういうのは嫌いじゃない。俺が勝ったら言うこと一つ聞いてもらうからな?」
     背中を護っていた者同士の仁義無き戦い。
     狐のしっぽと青黒いマフラーを靡かせる十六夜はしっぽを獲られぬようにと立ち回る。けれど黒猫愛梨栖の素早さはぐんと押す。
     その勝負を漁夫の利と目掛けた美海のしっぽもぎらりと目を変えた2人のクロスカウンター。
     何人たりとも邪魔を出来ない、その勝負の行方は。
    「十六夜さん、……頂きました」
     そこは自信。そこは全力。愛梨栖の手の中に狐のしっぽ。
     トリノコ、ナンバーMも混戦中。
     皆の目が若干肉食獣のそれになり、これがしっぽという魔性の物質に魅了された愚かな灼滅者達の末路――なんて考えていた宗佑から真っ先に悲鳴が上がる。
    「笙音くんが一番怖ぎゃーやめて! それ尻尾じゃないです眼鏡です!!」
    「わうん!」
     しっぽを掴んだ笙音に、確かな阿吽の声が聞こえてきた。
     そんなしっぽだらけの大乱闘、その中で、不思議な音が木霊する。
     モフモフヒャッハー……モフモフヒャッハー!
     ちょっぴり感染力を持った花梨のその台詞は生き残りの中に波紋して、何だかわからないまま生き残りしっぽ達のテンションを上げていく。
    「それでも、最後まで名乗ってから勝負します。だって後ろからこっそり取るとかなんか違う気がするんだ」
     きりっとした夕月の姿勢。参加者、しっぽへの敬意が感じられた。
    「いいね……動物的本能の見せ所、イフリートの力を見せてやるよ!」
     がぅーっと毬衣もイフリートしっぽを揺らして真正面から飛びかかる。
     チームわふーの結束でわんさとしっぽを握るエミーリアもここまで来れば実力勝負。
     じりじりと魔手を交わしていたけれど、その後ろから忍び寄る2人の影。息の合った2つの影はこくりと頷き合って。
    「チャンス!」
    「わふっ!?」
    「こっちだよーっ」
     朔日とチセのわんにゃんコンビ。朔日が走れば挟み撃ちするようにチセが回り込んだ。その手にエミーリアのしっぽがあって、
    「チー達、名コンビになれたかな!」
     その問いは、応援席から大きく聞こえる歓声がその応え。
    「見・尾・即・もふ!」
     眞沙希と綾鷹も今の今まで温存していた体力を今ここにフル稼働。疲れている者を探す。
    「そこです!」
    「ひよりちゃん!」
     容赦の無い綾鷹の魔手に、紗奈はその身で守ってしっぽを散らす。
    「紗奈ちゃん……えいっ!」
     お返しとその背後に潜り込んだひよりが眞沙希のしっぽを掴み、ひよりのしっぽを綾鷹が――。
    「僕だって体力としっぽ使いは負けてないんだよ~♪」
     現れた歩が更に綾鷹しっぽを奪い取る。
     ここまで来れば愛、その一言。
     まだまだ元気に走り回るのは、猫と虎。
    「負けねーからな!」
    「言ったなぁ! 足には自信あんねんご生憎ッ、大人気もないねんご生憎ッッ」
     向かい合う火花、好手敵を見つけたような笑みをどちらも浮かべて、虹路と東が併走する。
     走り回る2人を誰も邪魔出来ない、追従出来ない。が。
    「モフモフヒャッハー!」
    「なんっ」
    「今じゃー!!」
     手にしたしっぽに滾り、既に我を忘れ叫ぶ花梨が飛び出した!
     元より奇声攻撃もするつもりだった東が一歩リード、その猫しっぽを奪い取り、あわよくばと花梨に伸ばす。そこへ、飛び込むように依子が虎しっぽを掴み上げた。
    「犬変身することもあるので、尻尾の動きは把握済みなのですよ」
     次はバックステップ――しかし華麗にターンした式夜がそこに待ち構える。
    「掠め取るように取るべし!」
    「あっ!」
     そして、その先には。
    「くっるくる!」
     体力持つ限りくるくる作戦、月之瀬登場。
     くるくる躱して背後に回り、ふんわりしなやかなソマリしっぽと耳もピーン。何より楽しそうな笑顔を浮かべてもふっとしっぽを掴んだその瞬間。
    『決まりましたしっぽ王! 2013年運動会しっぽ王は――月之瀬・華月さんです!』
     アナウンスが響き渡った。
     しっぽ! しっぽ! 続くしっぽコールに、一心不乱にしっぽを愛でる者、歓声と共に空を舞うしっぽ、しっぽ様々に、狩って狩られてもふってもふられて、しっぽだらけ。
     まだまだ運動会は続くけれど、しっぽの戦いは今、月之瀬をしっぽ王に幕を閉じた。
     最後は皆一緒に。
    「「しっぽ大好き、良いもふもふ!!」」

    作者:斗間十々 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月26日
    難度:簡単
    参加:79人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 19/キャラが大事にされていた 10
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