運動会~いざゆけ三輪車! 息を合わせてゴールまで~

    作者:零夢

     5月26日、日曜日。
     それはただの日曜日ではない。
     仲間との絆、そして日頃の努力の成果が試される日である。
     策を弄して死力を尽くし、小学生から高校生までが組連合の同士とともに優勝を目指す真剣勝負――武蔵坂学園運動会が今、始まろうとしていた。
    「三輪車!?」
    「ええ、お子様用のあの小さいヤツね」
     なんでまた、と言わんばかりの生徒の声に、先生はにっこりと笑った。
     そう、三輪車である。
     現在、話し合われている種目は『いざゆけ三輪車!』――要は三輪車レースである。
     ちっちゃなタイヤとちっちゃなペダルでキコキコキコキコ頑張って、せっせせっせとゴールを目指すのだ。
     絵面的にどうとかはあえて触れない。
    「ルールは簡単、小さな三輪車に二人乗りでいち早くゴールすること!」
    「二人ぃ!?」
    「そう、二人!」
     さらっとにっこり先生は言う。
     サドルに座る運転手が一人、その後ろに立ち乗りでもう一人。
     つまりはそういう事らしい。
    (「それって結構キツくね……?」)
    (「フツーに無茶苦茶不安定だろ!」)
    (「いや、でも、これって小柄でも活躍できるチャンスだよね??」)
     ひそひそと交わされる雑談。
     そして説明は続く。
    「前の人が必死に漕いでもいいし、後ろの人が地面を蹴り進めても構わないわ。ただし、前の人の足があからさまにペダルから離れていたり、後ろの人が三輪車から降りて押し進めるのは反則になるから注意してね」
     ゴールするにはどちらか一人の力ではなく、二人の力を合わせなくてはならないのである。
    「コースはトラック一周。直線も曲線もあるから、勝負の掛けどころも変わってくるかもしれないわね」
     ついでに言えば、トラック自体には種も仕掛けも障害物も何もない。
     だがしかし。
     いや、だからこそ!
    「――ルールを守る範囲でなら、妨害はアリ、よ」
     きらりと先生の瞳が輝く。
     実に楽しそうである。
    「もちろん、サイキックやESPは使っちゃだめだけど、それ以外の正々堂々とした妨害なら大丈夫だから!」
     何が!?
     ――とは、思っても口に出さないのが優しさである。
     今さらツッコんでも始まらない。
     前向きに妨害と対策を検討するのが賢い時間の使い方というヤツだ。
    「まぁ、どれだけ転んでも失格にはならないから存分に転んでね!」
    「存分!?」
    「ええ、もう転び放題。といっても、転べばそれだけタイムロスには繋がるけどね」
     なので程よい妨害にはなる。が、敵を退場へ追い込むほどの痛手にはならないというわけ。
    「あ、そうそう。あと一つ。三輪車の走行中、前後の二人は絶対にくっついていること! 肩なり腕なり腰なり背中なり、体の一部が触れていないと失格になるから注意してね」
     なぜ三輪車レースがあえて二人乗りなのか。
     それは青春の甘酸っぱい思い出への口実だったり、純粋なチームワークへの挑戦だったり、容赦なく妨害にも力を注げとのお達しだったりする――……かもしれない。かも。
     ともかく。
     策を弄し死力を尽くし、その他諸々もあったりなかったりする真剣バトルが始まるのである!


    ■リプレイ

     いよいよ始まるレースを前に、選手達は最後の準備していた。
    「うわー、三輪車とかめっさ懐かしい」
     前に跨る式夜に、エウロペアが後ろに立つ。
    「わらわの身、そなたに預けたぞ?」
     腕を回し、ぎゅっとしがみつけば準備完了。
     咲良と彩雪も三輪車に乗る。
     体が小さい分、きっと漕ぎやすい。
    「じゃあ咲が前になってがんばるのー」
    「さゆは後ろ。咲ちゃん、ちょっとごめんね」
     肩を掴んだ彩雪に、咲良は「だいじょーぶ」と頷く。
     むずかしい作戦はわからないけれど、二人はチームワークで勝負だ。
     小さな三輪車に跨るパートナーの姿に頬を緩めたのは錠。
    (「ユウリマジ天使。後で写メ撮らせてもらって永久保存しよう」)
     そんな相方の心情を知ってか否か、当の結理は複雑な気持ちでサドルに座っていた。
     まさか自分の低い身長に感謝する日が来るとは思わなかった。が。
    「それでもやっぱり小さいよコレ!?」
     誰へともなくツッコみたくもなる。
     もっとも、誰もが円満に位置についているわけではない。
     黒乃と彩葉は絶賛ポジション争い中だ。
    「彩葉ちゃん、ここはアレだ、わしが漕ぐからキミは後ろで」
    「何を言っているのですか! いろはの方がちっちゃいから漕ぎやすいのです!」
     二人は目指せ一等賞――だが、争いは終わらない。
     そうしているうちにも、スタート合図が鳴り響く。
    「んじゃ、転んだら交代ってことでヒトツ! おっさきー!」
    「ちょっ、くー兄!?」
     素早く前を取った黒乃に、彩葉は慌てて後ろから抱きつく。とにかく出発しないことには論外だ。
     キコキコと一斉に三輪車が動き出せば、十夜・優樹ペアが勢いよく飛び出した。
    「決めるよ、ロケットスタート!」
     優樹は十夜にぴったり密着すると、体当たりの勢いで加速する。
    「先手必勝以上の手はねぇだろ!」
     十夜もバランスフォローは優樹に任せ、スピード重視の全速力だ。
     そのすぐ後を倭とましろが追いかける。
    「気合入れていくぞ、ましろ!」
    「おうっ、ぶっちぎっちゃうよ!」
     二人の体格差は大きいが、後ろの倭がましろの手をハンドルごと握ることで、ルールに則り不安定感も解消している。
     尚、二人の背後から激しく砂煙が立っているのは不可抗力である。
     背後にあった多量の砂をたまたま倭が蹴り上げてしまうという、断固不可抗力の産物だ。
     ましろも全力で漕ぎつつ水鉄砲を飛ばすが、朱那も負けてない。傘で水を弾き、アシュとともにインコースを攻める。
    「舵取りは任せた! 勝ちに行くヨ、この戦!」
     朱那の言葉にアシュは頷き、大量の遊戯銃用弾丸を後方へと転がす。
    「まずは小手調べ!」
     今回、ゴーグル等の装備は多かったが、転がる弾丸対策をした者はいない。転んだり躓いたり、後方はいきなりの混乱状態である。
     だが、防具がなければ避けるまで。
    「左側に多いわよー! そのまま右へ迂回ー!」
    「了解! 揺れるけん、しっかり掴まりよ!」
     神華のナビで、神楽は障害の少ない道を驀進する。日頃の自転車で鍛えられた脚力は伊達ではない。
     紅鳥もパートナーとともに弾丸をかわし、ゴールを目指す。立ち乗りの状態から後方にばら撒くのはバナナの皮。
     ちなみにバナナ、今回の人気道具第一位である。
     一方、煉火・お銀ペアはこれぞオンリーな個性派妨害で突き進んでいた。
     派手な改造ジャージに、肌にはこれまた派手なボディペイント。
     『桜堤高校2年2組』ののぼりを立てた鮮やかすぎる三輪車は、開始直前の一瞬で完成させた。目に突き刺さる色の車体には守護神たる佳菜ちゃん(担任)が描かれている。
    『パッパー!!』
     お銀の吹く警笛ラッパを合図に、後ろの煉火がお銀の肩を掴む手に力を込めれば、視覚的暴力の塊はアッシュ・登ペアへと接近する。
     いわゆる幅寄せ――というか体当たりである。
    「わわっ、なんか来たよ、登!」
    「なんだと!? それなら逃げるまでだ! 行くよアッシュ!」
    「させるかっ、行けええぇ! このまま跳ね飛ばせ!!」
    『パッパーー!』
    「「うぎゃー!」」
     どーん!
     華麗に跳ね飛ばされる二人。
     反撃用に取り出したアッシュのコショウは煉火とお銀を襲うことなく、盛大に後ろへ吹き飛んだ。
    「しゅんっ」
    「くちんっ」
     コショウの流れ着いた先では、彩雪と咲良が小さなくしゃみを繰り返す。
    「さゆ、危ないこと、嫌いです……」
    「咲、今いっしょうけんめいなのー」
     ぷぅと頬を膨らませる咲良。
     さっきから弾丸は流れてくるわ、バナナは落ちているわ、砂煙も酷いうえにコショウまで飛んできて、二人とも涙目だ。
     とにかく散々だけど、でも、ここで諦めたりはしない。
    「がんば……んー!」
    「うー……1、2、1、2、です」
     重たいペダルもつらい妨害も、声を合わせればちょっとずつゴールは近づく。
     桔平と花梨菜も自分たちのペースでゴールを目指していた。
    「ポレポレポレポレ♪ ゆっくりゆっくり♪」
     掛け声に合わせてペダルを回す花梨菜に、桔平も同じペースで地面を蹴る。
     一番も大事だけど、出場することにだって意義がある。
    「ポレポレポ――……きゃっ!」
     バナナに躓き、花梨菜の悲鳴とともに三輪車が転ぶ。
    「わ、ごめんなさい……!」
    「平気平気、僕らなりにポレポレっとがんばればいいよー♪」
    「……はい」
     桔平の励ましに、花梨菜ははにかむように視線を伏せる。
     肩に置かれた手の温もりに手元が狂ったなんて、言えやしない。
     そんな彼らの先では、祇翠・ロザリアペアと神楽・神華ペアが火花を散らせていた。
     肩を並べ、ひたすらペダルを漕ぎまくる男子に後ろの女子がエールを送る。
    「形は違えどこれも真剣勝負! 負けてもいい? 全力を尽くす? Non、勝たねば意味などないのデス! 勝者は一人、栄冠も名誉も全てそこにあるのデスヨ!」
    「面白いじゃない! 綾木君とろざりんペアには負けないんだからー!」
     祇翠の士気を煽るロザリアに、神華は地面を蹴って神楽を助ける。
     互いを抜かんと競り合う三輪車――祇翠は隣の神楽を窺うと、小さく口の端を上げた。
    「それで本気なら神華が可哀想だな、神楽……もっと楽しもうぜ」
    「なっ……! こんなん、地熱発電のタービン回すのと変わらんわ! 日本一のおんせん県、舐めんなよ!」
     一気にヒートアップ。
     この勝負、(ご当地)ヒーローとして負けられない。
     暴走気味に走り出す三輪車に、神華も遅れじと蹴りながら夢中で神楽にしがみつく。
     そして、絶妙なタイミングで祇翠がバナナを放り投げた。
    「って、わわっ!?」
    「――ッ、神華!」
     ぐらりと傾く車体に、神楽が咄嗟に神華の身を庇えば、彼女の頬が真っ赤に染まる。
     今さら密着していたことに気づいてももう遅い。
     そんな二人を横目に祇翠とロザリアは走り続ける。
    「私達の勝利、デスネ!」
    「ま、ゴールはまではこれからだけどな」
     祇翠の闘志は衰えない。
     彼の言葉通り、レースはようやく中盤である。
     エウロペアも来たる戦いに備え、バナナを頬張っていた。
     だって、皮だけとか傷んで汚いんだもの。
     何事も鮮度が命、新鮮なバナナの皮を敵に投げつけるのだ。
     そんなわけで、パートナーたる式夜の口にもバナナを運ぶ……が、当然ただの運転妨害である。
    「待て、走行中に押し付けるな! 走り難い!」
     ぐい。
    「んむっ!?」
     ぐぐいっ。
    「そう、そのまま飲み込んで? わらわのウロボロスブレイド……」
     ぐぐーーーっ!
    「ら、らめぇ! そんなにおおきいのはいらないよぉぉ!」
     必死の悲鳴。
     そして。
    「「ぅ、あああぁぁ!?」」
     目の前のバナナに全力で突っ込んだ。
     脇見運転、ダメ絶対。
    「……気分は某カーレースだな」
     見事なスピンを決め、盛大に吹っ飛んだ二人に友梨が呟く。
     まさに赤や緑のおっさんが出てくるアレ。
     ここまで華麗に決まるとは思わなかったが、結果オーライ、実に楽しかった。
    「さすが友梨、左右と後ろは任せたからな」
     パートナーを労いつつ、静流は漕ぎ足を休めることなく、前方のペアに次々と水風船を投げつける。
     背後で妙な音が聞こえるのはきっと気のせい。
    「ひゃっ、どどど、どこを触って……揉んでおるかぁ!」
    「なるほど、薄いがやわら――」
     べしべしべし!
     男の子だから仕方ない、不可抗力。
     そんな感じで意図せず進路妨害となっていた二人を一台の三輪車が迂回する。
    「はーい、くー兄、こっちですよー」
     ぐいっと彩葉は手綱を引き、全力で黒乃に合図を送る。
     が。
    「や……ちょ、息……!」
    「あれ、どうかしました?」
     青ざめる黒乃。
     きょとんとする彩葉。
    (「彩葉さん、それ手綱じゃないです、わしのマフラーです!」)
     なんて心の叫びは届かず。
     最早、妨害用のバナナとか投げてる場合じゃない。
     ゴールまでは気合である。
     ここまで散々バナナが活躍しているが、食べ物の妨害はそれだけではない。
     くるり・華月ペアと爽太・千歳ペアの間では食べ物による熾烈な攻防が交わされている。
    「ふははは! 父に勝とうなど千年早いわ!」
     がしがしと地を蹴りながら、くるりが取り出したのはホカホカの手作りたこ焼き。爽太の好物だ。
    「あらあら、いい匂いですね」
     くすくす笑う華月。
     言葉通り、ソースの匂いがたまらない。
    「くっ……!」
     立ち上る湯気。ふわふわの鰹節。輝く青のり。
     全てが激しく爽太を誘惑する。
    「食べたいか! 食べたいなら三輪車を捨てこっちへ来るが良い!」
    「お、俺は……!」
     徐々に伸びる爽太の手。
     だが、すかさず千歳が引き止めた。
    「耳を貸しては駄目よ、爽太くん。二兎を追う者は一兎をも得ず、でしょう?」
     勝利とたこ焼き、どっちが大切かなんて――いや、どっちも大切だが、勝利とともにいただく方が絶品だ。
     爽太は現実に戻ると、サッと『ある物』を取り出した。
     瞬間、くるりが息を呑む。
    「そ、それは!」
    「そう、くるり様の大好物、カスタードたい焼きっす!」
     きつね色の焼き具合に、ふっくらしたボディ。
     一口頬張れば卵色のクリームがこぼれる。
    「美味いなー! カスタード美味いなー!」
    「くっ、小癪な!」
     負けじとたこ焼きを頬張るくるり。こちらも実に美味しそうだ。
     やがて差し掛かるカーブ、だが三輪車の早さも食事(?)の手も緩まない。
     爽太の持前の火力を最大限に生かし、それを見事に捌く千歳のハンドル操作。
     息を合わせ、互いに支え合うくるりと華月のコンビネーション。
     そうして四人は、多くの者の食欲をそそりながらゴールを目指す。
     当然ながら、レース後半になるにつれて戦いは激化する。
    「俺等のウェディングロード邪魔すんのか、アァン!?」
     妨害の気配を察知するなり、錠が結理の背後からガンを飛ばす。
     その身から放たれるバリバリの殺気は、断じてESPではない。
     素の殺気である。
     殺人鬼の素の殺気といえば、それこそ素で怖いが、そこで怯まないのが流石の武蔵坂生。
    「これでもくらえ!」
    『パッパー!』
     煉火とお銀の痛三輪車から分厚い漢和辞典が飛び出す。
     全ては佳菜ちゃん(担任・国語科)への想いである。この二人、クラス愛が半端ない。
     すかさず飛んだ錠の手刀に、呆気なく叩き落される辞典。
     結理も続けて言葉で牽制だ。
    「あ、あの! 僕達倒したら皆さんの方が危ないですから!」
     小柄な結理はともかく、186㎝の錠が倒れたらどう考えても障害――
    「――って、二冊目!?」
     どころか三冊目以降も用意済みだったりして。
    「チッ、邪魔臭ェ……!」
     次々飛びくる辞典を次々蹴り落とせば、今度は煙が立ち込める。
    「今度はンだよ!?」
     小さく咽る結理を庇い、錠はじっと目を凝らす。
     その向こうには元凶たる発煙筒、そしてゴーグルをつけた祇翠とロザリア。多少風向きが変わろうと二人の対策は万全である。
    「クク……楽しい限りだな」
     巧みな体重移動でドリフトを決める祇翠。
     もはや三輪車の対象年齢は軽く無視されていた。
     いよいよレースも佳境に入れば、ゴール前では三組がトップを争う。
     内側から順に、アシュ・朱那、優樹・十夜、静流・友梨。
     そんな中、十夜と優樹が最初に仕掛けた。
    「勝ったモン勝ちだ。攻めるぞ、真白!」
    「任せて!」
     二人の基本は全力前進、途中の転倒で前後を交代したが、それでも速度は劣らない。
     十夜の手には水風船、狙いを定め、全力で両隣に投げつける。
    「ウチのドライバーは傷付けさせないヨ!」
     朱那の傘が水風船を弾き飛ばせば、友梨も最小限の動きで払い落す。
     終盤は攻撃よりも防御に徹することでスピードに特化する――それが静流と友梨の作戦だ。
     水鉄砲や傘、肉弾戦も混ざっての攻防戦が始まるが、決定打には至らない。
    「こうなったら最終手段だヨ!」
    「うん、シューナ!」
     アシュが朱那の腕を掴むと、朱那は大きく身を乗り出し、畳んだ傘を隣の車輪へ突き立てた。
    「うわっ!?」
     途端、十夜と優樹が揺らぐ――が、傘を持っていた朱那もバランスを崩し、派手な音を立てて二台が転ぶ。
     それでも前へ転んだ朱那とアシュは、勝利への意地か。
     盛大な巻き込み事故に、静流と友梨も煽りを受けるが、集中したハンドル操作で何とか耐える。
     勿論、転んだ二組も終わりじゃない。
    「おりゃー! ど根性ー!!」
     素早く乗り直した優樹と十夜が追えば、アシュと朱那も後に続く。
     だが、ここに来て静流と友梨は更に速度を上げた。
     呼吸を合わせて、寄り添って。
    「行くぞ、友梨」
    「ああ」
     そして、ゴールテープが揺れる。
    「1位、洲宮・竹宮ペアーーー!!!」
     審判の声が高らかに響いた。

    「お、終わったぁ……!」
     レースを終えるや、ましろはヘトヘトと力尽きた。全力で漕いだせいで足に力が入らない。なのでそのまま倭を振り返ろうとすると、ひやりと冷たいものが手に当たった。
    「強く握りすぎたな……すまない」
     再び重なる倭の手、二人の間には冷却剤。
    「う、ううん! お疲れ様……あ、ありがと、ね」
     慌ててお礼を言うが、さっきまでの温度は消えない。今更どきどきしてきたのは秘密だ。
     次々とゴールする選手達に続き、最後に桔平と花梨菜が辿りつく。
    「おつかれさまー。楽しかったね♪」
     立ち上がりやすいよう桔平が手を伸べれば、花梨菜はそっと握り返す。
    「ありがとうございました。……わたしも、楽しかったです……♪」
     小さく笑顔を浮かべた彼女に、にっこり笑う桔平。
     彼が本当に楽しかった理由を伝えるのは、きっとまだ先のこと。
     全てのペアのゴールで、競技も終わり。
     動けなくなったパートナーを抱き上げる者もいれば、健闘を称え合う者達もいる。
    「楽しかったですね。またご一緒しましょう」
     華月はそう言って、くるりや千歳、爽太にタオルを渡す。続けて出されたたこ焼きに意義のある者はいない。
     レースはタッチの差で千歳と爽太が勝ったが、爽太も残りのたい焼きを差し出せば、先程の敵も今は友。
     こうして三輪車レースは幕を閉じたのだった。

    作者:零夢 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月26日
    難度:簡単
    参加:31人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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