運動会~応援合戦

    作者:陵かなめ

     5月26日は、武蔵坂学園の運動会だ。
     組連合ごとに力を合わせて優勝を目指す戦い。
     その戦いが今、始まろうとしていた。
     
    ●その戦いは
     『応援合戦』
     黒板に書き出された競技の名前だ。応援合戦に参加する生徒はいないだろうかと、先生から呼びかけがある。
     手元のプリントに目を落とす。
     組連合の士気を高める重要な戦いである。
     最高のパフォーマンスで運動会を盛り上げよう。
     何より、自分が楽しもう。
     などなど、応援合戦について説明されていた。
     応援合戦とは自軍を応援するパフォーマンスを行う競技である。参加者は、決められた時間内で思い思いのパフォーマンスをグラウンドで披露するのだ。大きなグループで一つの応援パフォーマンスを披露するも良し、個人で趣向を凝らした応援をするも良し。歌、踊り、はたまた掛け合い寸劇など、運動会を陽気に盛り上げ勝利を目指してほしい。
     一つのパフォーマンスに与えられる時間は3分。ただし、一人で複数のパフォーマンスに参加することはできない。また、誹謗中傷や暴力行為、目に余る問題行動は禁止されている。
     組連合を応援したい者は挙手を。
     応援合戦も正式な競技種目。当然、結果に沿って得点が加算されるのだ。組連合を優勝に導くため、武蔵坂学園の運動会を盛り上げるため、ぜひとも頑張って欲しい。


    ■リプレイ

    ●幕開け
     白い鉢巻と黒の長ラン。背中には桜の模様に、金色で「花楯家」の刺繍文字。
     ひらりと長ランの裾が持ち上がった。見えた内側に可愛い花柄。
    (「ここまでやっていいって、言ってないよ!! お母さん!!」)
     宇介が心の中で叫ぶ。
     グラウンド中央に立つのは花楯家三兄弟の亜介、伊介、宇介だ。
     母お手製の長ランに加えて、白の手袋に武蔵坂の腕章と、揃いの衣装、花楯家三兄弟の応援で応援合戦が始まった。
     中央に立つ亜介が大きく胸をそらし声を張り上げる。
    「俺ら花楯家はこの祭りを盛り上げる為、此処にいる全生徒、全教員を応援させてもらう!」
     隣の伊介が、旗を振りはじめた。
     亜介を挟んで反対側には、扇を持った宇介がいる。その扇からひらひらと花びらが舞う。
    「会場の皆も一緒に手拍子と掛け声をお願いします!」
     亜介の声に合わせ、後で太鼓を任された先生が大きく一つ、太鼓を鳴らした。ドシンと響く重低音に、会場から歓声が上がった。
    「フレー! フレー! 武蔵坂!」
     響き渡る声に、会場からも応援の声が聞こえてきた。
    「ほらー皆もっと声張って! 声聞こえないよーもっともっと盛り上がれるだろ!?」
     亜介の声に合わせるように、伊介が旗を振り檄を飛ばす。
    「フレ! フレ! 武蔵坂! フレ! フレ! 武蔵坂!」
     会場を巻き込んだ大合唱になった。
     最後には宇介の仕掛けたクラッカーが弾け、会場に花びらが舞う。
     大応援に、会場は盛り上がった。

    ●はためく、踊る
     1A梅連合からは葉次が登場する。
    「俺は団旗を振るって応援するぜ」
     言うと、葉次は自身の身長の二倍近くある旗の竿を上げた。旗で半球を描くように演舞する。幼少の頃から槍を扱ってきたその腕は、かなり重いはずの大旗を右へ左へと回転させた。
     ダイナミックな動きに、大きな拍手が起こる。
     桃色の大旗を持ち、雷がグラウンドに立った。
     衣装も旗に合わせ、白い着物に桃色の袴。襷掛けをして、気合も充分だ。
    「2B桃連合の勝利を願ってー!」
     腹の底からの気合の一声に、会場が注目する。
     最初から大きく竿を大旋回させる。旗が風に泳ぎ、大きく揺れた。旗は地面をスレスレの所で滑り、ぐるりと廻る。
     勢いそのままに、雷がかけ出した。
     旗が広がり、2B桃連合と白く染め抜かれた文字が大きく見せられる。まるで旗が生きているように波打った。
     力のこもった演技に、会場からため息が漏れた。
     舞台から降りた雷は、旗を手に次の演者の応援に入った。
     グラウンドに現れた凛音は、礼服姿だ。
     この日のために、毎日練習してきた歌とダンス。
     どこかで聞いたことのあるポップな歌詞に合わせ、元気に踊る。これを持ち歌にするアイドルのような淫靡さはないけれど、むしろ一生懸命な姿に好感が持てる。凛音の頑張りは、観客に十分伝わった。
    「頑張れ2B桃連合っ」
     歌を終え最後に大きな声で締めくくると、凛音はそそくさと退場した。
    (「優勝のためとはいえ、何でよりによってこんな格好を……ッ」)
     衣装の裾を抑えながらヴァイスが登場した。上下に分かれたレースクィーン衣装でポンポンを振り、声援を送る。
    (「し、仕方ない、今更棄権もできない以上、ここは恥を捨てて出来る限りの事をするのみッ」)
     が。
     動きに合わせ、徐々に衣装の裾が持ち上がる。アンダースコートを履いているとはいえ、色々見えそうだッ。
    「あ、こら、そこッ!! 動画撮影するなッ!! 写真撮るなァ?!」
     最後は頬を朱に染め、演目を終えた。
     チア風の衣装で登場したのはリュシールだ。観衆を前に一礼をすると、リュシールの故郷の古い童謡、牧歌的な可愛い曲が流れ始めた。
     五色のリボンと陸上競技用の杭を用い、踊りながら線を引いていく。
     端を杭に巻きつけ、リボンを伸ばし、杭で止める。何だろうか。仏語で歌うリュシールを観衆が見守る。
     やがて出来上がった「頑張れ」の文字。
     最後に小さなプラリネと水筒を取り出し、口に含んだ。
    「頑張る為にも、皆さん水分と糖分と塩分はこまめにとって下さいね。健康な体で勝負しましょ♪」
     次に寛子が登場した。
     同じくチアリーダーのコスチュームに身を包んでいる。
    「こういう所で、アイドルの、それから『ダンス・カテドラル』部長の存在感をアピールしておきたいの!」
     早速始まるテンポ良い曲。与えられた三分をフルに使いパラパラを踊る。
     最初の一分はユーロビート、次にハイパーテクノに切り替え、最後の一分は流行のJ-POPをユーロビートアレンジした曲が流れる。
     ノリのいい曲に、観衆を先導するような寛子のダンス。
     最後には観衆も一緒に盛り上がった。
     さて、雰囲気変わって長ランに鉢巻姿で現れたのは紅鳥だ。
     三三七拍子に加えてエールを送り、自作の応援歌を披露した。
     最後に打ち上げ花火を打ち上げる。
    「え、あんまり目立ってないって?! じゃ、じゃあ!!」
     紅鳥は、花火とともに打ち上げられ超アピール。
     晴れた青空に、きらーんと輝く星が見えた気がした。
     さようなら紅鳥。ありがとう紅鳥。またすぐ戻ってきてね☆。
    「それじゃあ行くわよ真人」
    「へいへい、付き合いますよ」
     鉢巻に長ランを着て都香と真人が登場した。
    「「5E蓮連合の勝利を祈って!」」
     声を合わせ、構える。
     二人は空手の動きを始めた。突き、蹴り、そして向かい合い組手のように技を受けあう。
     息のあった二人の演舞だ。
     組手が始まると、会場からは驚きと応援が入り混じった歓声が上がった。
     都香の右腕がしなやかに伸びる。それを真人が正面から受けようとし……。ごすっと嫌な音が腹のあたりで響いた。
     寸止めに失敗し、見事に命中したのだ。
    (「……っぐふ」)
     我慢だ。我慢ッ。
     とても嫌な汗が流れ落ちた気がするけれども、よろめきそうになる体を見事支え、真人は大きく蹴りを披露した。
     最後には二人揃って正面に向け正拳突きで締める。
    「「ありがとうございました!」」
     びしりと揃って一礼し、演技を終えた。

    ●長ランと太鼓と
     雷歌は黒の学ランに身を包み、白手袋、襷に鉢巻と昔ながらの応援団スタイルで登場した。
     ビハインドを旗手に仕立てあげ、拳を握る。
    「押忍! 4D椿連合所属、敷島雷歌より、全連合へエールを送る!!」
     校庭に、声が響き渡った。
    「我等所属は違えども! 目指すものはただ一つ! 全身全霊、勇猛果敢!!」
     雷歌に合わせるように、場内から応援の声があがる。
    「己が全てで勝利を掴め!! フレー、フレーー、スレイヤー!!」
     最後に、ありがとうございました! と声高く。びしりと90度の礼をして、終わった。
     マジックで『今だ! 勝利だ! なうざたいむ! 8H百合組連合』と書かれてた手作りの応援旗を持参したのは司だ。
     旗を近くのポールに差し込んで仁王立ちをする。
    「押忍! 井の頭キャンパス中学3年H組、仙道司、推して参りますっ!」
     長ランに白鉢巻、白手袋の応援団スタイルだ。
    「フレー、フレー8H百合っ、ガンバレ、ガンバレ8H百合っ!」
     CDプレーヤーから流れる音楽に合わせ、応援を開始する。
    「ゆけゆけごーごー、ボクらの8H百合!」
     音に合わせ掛け声を出し、振付を華麗に披露した。
    「ちぇんじざぼでぃー!」
     曲が終わると、拍手が巻き起こった。
     学ラン姿の純が、続いて応援歌を披露する。
    「激烈ファイア!! 闘え武士(モノノフ)!!」
     気合の入った歌声だ。
    「レッツ、GO!! ファイト、GO!! デストロ~イ!! 踏み出せ、青春! 飛び出せ、情熱! 8H百合連合、勝利を目指し!!」
     その迫力に、会場が圧倒された。
    「ご~~~~いんぐまいうぇ~~~い!」
     最後まで、グラウンドに響く歌声で応援を終えた。
     さて、お揃いの百合柄ハッピを着て登場した三人は。
    「き、緊張するけど頑張る……!」
     希沙の言葉に、茉莉とライラが頷く。
    「せーの……ハッ!」
     茉莉の掛け声に合わせて、三人は太鼓を打ち鳴らす。
     はじめは基本の音から、次第に早く。大地を揺らすような重低音が響く。
    (「楽しい!」)
     希沙が笑顔を浮かべた。
    (「足からも伝わってくるよ、皆のリズム!」)
     二人に合わせるように、茉莉も力いっぱい太鼓を叩く。
    「8H百合連合の皆はこれを見て、士気を上げてね」
     曲の最高潮で、ライラがさっと立ち上がった。ばさりとハッピを脱ぎ捨て、アラビアン衣装に早着替えをする。残りの二人も、合わせて衣装を替えた。
     ライラが造形の剣を手に剣舞を踊る。アラビア風のそれは、美しくなめらかで、見るものの目を引きつけた。
     滴る汗も身体のきしみも気にせず、二人の奏でる音にライラは剣をふるい踊り続けた。
     希沙と茉莉も負けてはいない。二人で三つの太鼓を交互に叩き、大いに剣舞を盛り上げる。
     最後に希沙と茉莉が視線を合わせ、頷き合いフィニッシュ。
     希沙が茉莉にハイタッチしようとしたところに、ライラが駆け寄り二人を抱きしめた。最高の音をありがとうと、思いが二人に伝わる。
    「す……っごく気持ちよかった!」
     茉莉がとびきりの笑顔で、返す。
    「2人とも、お疲れ様!」
     驚いていた希沙も、笑顔でライラを抱きしめ返した。
     最後に深々と礼をし、三人の演技は終わった。

    ●チア、チア、チラッ
    「緊張するけど……がんばるもん!」
     密かにアイドルを目指すくるみは、この運動会という晴れ舞台で精一杯の応援ライブを披露する。チアリーダー風コスチュームに、ヘッドセットマイク、両手にポンポンを持ち歌って踊る。
    「9I薔薇のみんな……がんばろ~ね! レッツ、Go Go♪ ファイト、Go Go♪」
     可愛い歌声に、アンコールの声も上がる。持ち時間の制限があるのが残念だった。
     イタリア系アメリカ人のクリスティーナは、ポリネシアンダンススタイルで登場した。
    「Oh! クリス、ガンバッテ皆ヲ応援スルネ」
     見えそうで見えないダンスで観客を魅了する。最後に取り出した水を振り回していたところで、うっかり転倒。その衝撃で、本当にチラリとしたりポロリとしたり。本人は気にせず、踊り続けた。
     次に登場した明は、チアガール衣装に身を包み、黄色のポンポンを持っていた。頭には猫耳を付け、いざ空飛ぶ箒で空へ。
     なお、ブルマ着用のため下から見ても大丈夫です。
     足を振り上げ、パフォーマンスを繰り広げる。
    「必勝! 9I薔薇連合!! あ、あっ」
     最後に、高いところから飛び降りるパフォーマンスを……。
    「あーー」
     見事に失敗し、何だか鈍い音が響いた。
     【股旅館】の五人がミニスカ姿にポンポンと揃いの衣装で現れた。
     銀色のネコミミしっぽはストレリチア。胸に白薔薇を飾り、応援を始める。
    「ごーごー、9I薔薇……って、ふわっ!?」
     そこへ、真っ白のネコミミしっぽにピンクの薔薇コサージュを飾ったひらりの台詞。
    「みんな頑張ってー! 頑張った人には骨付き肉プレゼントですよっ!」
     鶏もも肉を掲げた瞬間、ストレリチアがうっとりとした表情を浮かべた。
    「ひらりさん印のお肉ですわー……これは……飛びつかざるを得ませんっ!」
     そのまま、わーい♪ とひらりに飛び掛る。
    「ま、まって、ちょ……」
    「はぐはぐ、ぺろぺろ、あぐあぐ」
     もう、夢中。肉に夢中。
    「折角、こ、ここまで頑張ったのに……スティちゃんは、目の前のお肉に、夢中……」
     その光景を目にした夢が、絶望にうちひしがれた演技を繰り広げる。ちなみに、夢は黒猫の耳と尻尾、胸のコサージュは赤い薔薇だ。
    「これじゃ、応援、できません……! 応援する、ことが、私達の、使命なの、に! ああ、どうしたら、良いのでしょう、り……リーダー!」
     そこへ、茶トラのネコミミしっぽ、黄色い薔薇のコサージュをつけた安寿が声をあげた。
    「そうよ、応援なのよ! 間違えても骨付き肉食い競争とかじゃなくて……!」
     その台詞に、ストレリチアがはっと動きを止めた。
    「ぜ、全部台無しですわ……あんなに練習したのに……所詮、私には応援なんてできませんの…?」
     項垂れ崩れ落ちる。
    「……いいのよ、スニ子ちゃん。好きなものを目の前にして理性がぶっ飛ぶなんてことねよくあることよね」
     安寿が優しくストレリチアの肩に手をかけた。
    「でもね! あたしたちが力を合わせて、全身全霊で応援すれば、その骨付き肉よりもっともっと、素晴らしいものが手に入るのよ!」
     びしりと空に向かって指をさす。
    「さぁ、今こそ気持ちをひとつにして、チームの為に応援するのよ!」「その通り!」
     キジトラ猫の耳と尻尾、胸に黒薔薇のコサージュをつけた玲が、ぐっと拳を握りしめた。
    「我々が目指す物、それは勝利の栄冠、勝者の栄光。初代王者として、未来永劫・千里万里に轟く名声をこの手に! 私達の、9I薔薇連合の戦いはまだまだこれからです!」
     二人の説得に、ストレリチアが希望を取り戻す……っ!
    「ええ……私が間違ってましたわ、リーダー!」
     そして、皆が頷き合って遠い空を見上げる。そんな寸劇。
    「9I薔薇連合の勝利を願って!」
     ひらりの掛け声に、みんな合わせて踊りだす。
    「フレー、フレー、9I薔薇!」
    「頑張れ頑張れ、9I薔薇!!」
     ポンポンを振って、チアダンスで締めた。

    ●応援の締めは
    「っつか大体なんで俺ぇ? 声デケェの他に居んだろ……」
    「ふっふ、ぶーぶー言わないの、そんなの似合うからに決まってるじゃない」
     赤い鉢巻に襷に紋章。白い長ランに身を包んだかまちが控え場所で悪態をついている。カッコイイわよ団長殿? と、七がにこやかに笑う。そんな七は、サラシを巻いて白ランに襷、ボンタン、手袋と言ういでたちだ。
    「竹端も似合うわーカッコイイ!」
    「ふふ、地獄合宿で鍛えた足腰と肺活量の見せ時だね」
     怜示は、白ランに赤い襷、学帽を被っている。
    「かまち君、いや、今日は団長と呼ぶべきかな。今日までの特訓すごく頑張っていたよね。やるからには全力で、わたしも挑むよ」
    「白長ランとか一生着る事ねぇと思ってたわ……気合は入っけどよ」
     三人の後ろには、応援合戦に参加した生徒一同。七の声掛けに、皆が勢揃いしたのだ。
     気合十分。
     応援合戦を締めくくるような、応援が始まった。
    「武蔵坂学園の運動会成功とぉー! 各連合の健闘を祈ってぇー! エーェルウゥゥ!」
     姿勢を正し、全身を使って声を出す。
     かまちの声に、七が大きく響く太鼓を叩いた。
     一日限りのお祭りだからこそ、真剣に楽しむ。全校のみんなが、勝利を目指して健闘できるよう。
     心から、エールを。
     深紅の地に金で校章と武蔵坂学園應援團と縫いとった大應援旗を構え、怜示もエールを贈る。
    「フレェー! フレぇー! 武蔵坂!」
     みんなで一生懸命なんてとても楽しい。かまちの声に七が笑顔で太鼓を叩く。
     合戦の参加者も、それぞれ旗を振りポンポンを掲げ盛り上げる。
     締めに「押忍!」と声を張り上げ、お祭り騒ぎのような応援は終了した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月26日
    難度:簡単
    参加:29人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ