とある大型ショッピングモール。その一角。
ちょっとした中庭のように開けたその場所には沢山の楽器が並べられていた。
そして楽器の前に立つ幾分緊張した面持ちのタキシード姿の人々――どうやら楽団らしい。
彼らの前には沢山のパイプ椅子が並べられ、訪れた人々――恐らく100人程度と言った所だろうか――でいっぱいだった。
ある者はうっとりと目を閉じ、そしてある者は黙して彼らの奏でる旋律へと耳を傾ける。
皆が彼らの演奏に聴き入っていた。
最後の一音が奏でられ、一瞬の沈黙が訪れる――。
その直後だった。最前列へと陣取っていた男性が拍手をしながら立ち上がり、それにつられるように、拍手は周囲の席の人々にも広がっていく。
「いやー、素晴らしい演奏だったね」
拍手をしはじめた人物――茶色の、少々長めの髪。そして白のスーツを纏い、胸元には赤と白の薔薇のコサージュを付けた気障な美丈夫はそのままに演奏直後の楽団員達へと近寄っていく。
「だけど――」
ぶん、と美丈夫の右腕が振るわれた。ごとり、と楽団員の一人の首が落ちた。
いつの間にやら彼の右手には黒い影がまとわりついている。
「3小節目。若干ながらリズムがずれたね」
からりと音を立てて楽団員の手にしていた楽器が床を転がる。その横を鈍い音がして首が転がった。
男はそれを気にも止めず更に踏み込む。
「それに少しばかりチューニングが甘いのかなー?」
黒い影を操り容赦なくその場に居る人間の首を刈り取りながら、彼は演奏の拙かった部分をあげていく。
それまで席についていた人々は突然の事態に悲鳴をあげ蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。そんな様に男は深くため息を吐いた。
「やれやれ。どうせ声をあげるなら美しく歌い上げてくれればいいのに」
逃げ出す人々を彼は追う。手にした剣を振り上げ、そして薙ぎ払う。悲鳴が重なり、床にペンキでもぶちまけたように血がまき散らされる。
生臭い異様な臭いがなければあまりに現実感が無い光景。
「あっはは、例のなりそこない、今回は来るかなー? 早く来ないとみんな死んじゃうけどなー?」
まあ、こなきゃこないでいっかー等と楽しそうに笑いながら、彼は白のスーツを赤に染めていく。周囲の人々の血でもって。
「なりそこないは、僕らがきちんとしたダークネスに仕立ててあげなくちゃね」
肉と脂と血にまみれながら男はにやり、と唇に冷淡な笑みを浮かべた。
「ダークネス、六六六人衆の動きを感知しました」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は神妙な表情で集まった灼滅者達へと告げる。
皆も知っている通り、ダークネスはバベルの鎖による予知がある。しかし、エクスブレインの予測した未来に従えば、ダークネスに迫る事が出来るはずだ。
「今回現れるのは序列五三五、エンリコ・サリエリと名乗る人物です。彼はどうやら灼滅者がやってくるのを待ち望んでいるフシがあるのです」
灼滅者達を待ち望むとはどういう事か?
――恐らくは、彼の狙いは灼滅者の闇堕ち。
だが、そうであってもその場に向かわなければ一般人達が虐殺される。
彼が現れる場所は、休日のショッピングモール。中庭のようなモノまであるというかなりの広さの場所だ。
そして、その中庭では楽団による演奏会が開かれている。
「1曲終わった直後、エンリコは動き出します」
その前にエンリコと接触する事は避けたい。事前の人払いも避けた方が懸命だろう。
バベルの鎖に引っかかったなら、彼はエクスブレインの予測の外の行動に出る可能性が高い。その場合、エンリコの行動は全く読めない事となる。ヘタをすればショッピングモール全体の人々を片っ端から殺して回る……等と言う可能性も出てくる。
彼の服装は白のスーツと目立つ。更に言えば最前列で音楽鑑賞と洒落込んでいる……という状況。一目で「この人物だ」と判るだろう。
接触出来るタイミングは、その「1曲終わった直後」以降だ。
彼が楽団員達へと向かおうとするその一瞬。
最初の被害者は楽団員の1人。正直な所――楽団員達を救う事は極めて難しいだろう。上手く立ち回れば不可能ではないが、エンリコの序列はそれなりに高い。
一人で灼滅者10人分……ヘタをすればそれ以上の力を持つ。
そんな彼と戦いながら、一般人の退避を行うのは難しい話ではある。だが狙いが灼滅者達である事を考えれば、上手いこと気を引けさえすれば多少は退避もラクになるだろう。
「彼は殺人鬼のサイキックの他、影喰らい、影縛り等を使用してきます」
姫子は淡々と敵について語る。
幸いにして、中庭の為開けている。退避さえ終えれば戦いやすい場ではある。
しかし、だ。
「今の皆さんでは闇堕ちしてもエンリコを滅する事はほぼ不可能です。皆さんにお願いしたいのは『一般人の殺戮を止める事』です」
とはいえエンリコは灼滅者達を闇堕ちさせる為ならば、一般人を殺す事に躊躇いは無い。怪我をした灼滅者にも躊躇い無く更なる攻撃を加えてくる事もあるだろう。
エンリコは自身の身が危うくなれば恐らく撤退を開始する。問題はどうやってそこまで追い込むか、だ。
「皆さんが闇堕ちしないで済むならばその方が望ましいです。ですが、どうしようもない時は……」
姫子は言葉を濁し申し訳なさそうに目を伏せる。
「どうか、無事戻ってきてください」
酷く硬い声色で、姫子は灼滅者達へとそう告げ丁寧に礼をしてみせた。
参加者 | |
---|---|
佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597) |
黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763) |
葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893) |
楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757) |
逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150) |
高原・まや(まいぺーすでまいりましょう・d11298) |
尾張・末未(高校生殺人鬼・d15790) |
ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810) |
ショッピングモールは買い物客でごったがえしていた。
親子連れや、若い女性、中高年の団体様やカップルなんかもいる。
その中庭は黄緑色をした芝生に覆われ、歩道となる部分は石畳で覆われている。噴水などもあり見るからに涼しげな様子だ。
若干開けたその場所には演台が作られ緊張した面持ちの楽団員達がそれぞれに楽器のチューニングを行っている。
前に並べられたパイプ椅子には楽団員達による演奏会を待つ人々の姿。
(「これから起こる事が無ければじっくりと聴きたいものなのですけれど……」)
高原・まや(まいぺーすでまいりましょう・d11298)の表情には緊張が見て取れる。
このまま放置しておけば、平穏は暫し後、完膚無きまでに破壊される事となるのだ――六六六人衆の手によって。
(「闇堕ちを出さず、楽団員も救う。両方やらなくっちゃあいけないのが灼滅者のつらいところです」)
そんな事をジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810)は考える。
楽団員は助けきれなくとも仕方が無い。そうエクスブレインは述べた。それでも彼らは少しでも守れるものは守りたいと願ったのだ。
問題は、その為には力が必要、という事なのだが。
逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)はバベルの鎖に引っかからないギリギリの範囲を狙い、白いスーツ姿の真後ろの席へと座る。
もし失敗すればエクスブレインに予知された以上の大量虐殺は免れないだろう。
ジオッセルの前日の現場調査をするという言も周囲から止められる事となった。また、こういった単独行動も万一を思えばあまりすすめられたものではない。
周囲の聴衆達は黙し、楽団の演奏をただじっと待ち、そして楽団員達が楽器を手にそれぞれの旋律を奏で始める――。
佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)は素早く周囲を見渡す。楽団員達の居る演台を除けば大体開けている。一般人達は上手いこと近くの建造物内まで逃す事が出来れば、あとは何とかなるはずだ。
そんな彼の横、黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)は膝の上の手をぎゅっときつく握った。
(「悪趣味なゲームに付き合うのは2度目だ……」)
視線の先には妙に目立つ白スーツに茶色の長めの髪をした男――妙にリラックスした様子なのが腹立たしい。
今回の相手、エンリコ・サリエリ。六六六人衆の一人。
(「……今回は、絶対に負けない」)
(「そうとも、死なせはしないのです。誰一人……!」)
叡智とジオッセルが決意を固めた直後、丁度楽団の奏でた最後の音が中空へと消えていく。
――灼滅者達の表情に、一斉に緊張が走った。
客席、最前列に座していた白のスーツの男が立ち上がる。
そのタイミングを見計らい楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)はすぅ、と大きく息を吸い込んだ。
「……ンあー、クラシックとか聴いてッと眠ィンだよゴルァ!!」
周囲のざわめきがあろうとも自身の声を届けるESP――割り込みヴォイスで。突如の声に聴衆達がざわめいた。それでも盾衛は続ける。
「眠気覚ましにハードでポップにパンクなロックでデュエットとかどうヨ、ソコのヒトゴロシサンよォ?」
歯を剥き出しにし、敵を威嚇すべくニヤリと笑う。
武蔵坂学園の灼滅者がやってきたと誇示する意図も込めたその言葉は、聴衆達のざわめきにも流される事なく六六六人衆の耳へと届いたはずだ。
男が、ゆっくりと振り向く。その表情は自らの行動を邪魔された驚きでも不快さに顰められたものでもなく―――歓喜。
「こっから離れろ! 命が惜しけりゃ!」
「さっさと逃げないと大怪我するよ?」
司が叫び、叡智は男と楽団員の前へと滑り込む。
叡智の全身から溢れ出た殺気に、周囲の一般人達はじりと距離を取る。
「参りましょう……! 武お兄様」
まやの傍へと佇むビハインドが、小さく頷く。
「あちらに逃げてください」
彼女は一般人達を威圧すべく王者の風を発動。怯えた彼らはまやの言に従い慌てて建造物の方へと逃げ出す。
「左右にバラけて! とにかく建物に入って出来る限りその後も逃げ続けて!」
莉子は客席のほぼ真ん中で声を張り上げ続ける。
途端にゆらりと黒い影が敵の手足にまとわりついた。
彼の視線が楽団員へと移ったのを見て取り叡智は悟る――マズい。
なんとしてでも彼らを守りきりたい。ならば敵の興味を引くしかないだろう。
「アンタの相手はボク。OK?」
殺意を漲らせた彼は白スーツの男へと挑み掛かるように睨む。一方男は笑顔で叡智を見下ろす。
「やーあ、こんにちは。君達が武蔵坂学園……だっけ? のなりそこないかなー?」
妙に人なつっこい笑顔がまた腹立たしい。
「それじゃあ早速逝ってみようか!」
高笑いと共に放たれたどす黒い殺気が前衛に居た灼滅者達を切り裂く。
ある意味にして幸いだったのは、この攻撃が灼滅者に向けられた事だろう。これが一般人だったなら――。
「あらら、血染めのリクエストッてか」
盾衛は弦だけが血のように紅い、漆黒の弓を手に緩く歩む。
「ソコまで熱烈に呼ばれちャ仕方ねェ、一丁デュエットしに行こうかネ」
口調も、動きも緩く見えるが隙は無い。
盾衛はまずは癒しの力を込めた矢を放つ。仲間達の中の超感覚を呼び起こし、次手へと備える為に。何せ相手は極めて強い。少しでも攻撃が当たりやすくしておいた方が良いに決まっている。
尾張・末未(高校生殺人鬼・d15790)も日本刀を抜く。だがまずは彼女は一般人の避難が最優先。
自身が姉を失った時のように、大切な人を失う哀しみを味わう人を増やさない為にも、客席の一般人達をショッピングモールの建造物内へと向かわせる。
「おい、アンタ」
司は質素ではあるがしっかりと手入れされた縛霊手「藤娘」へと炎を宿しつつ、対峙した相手へと語りかける。
「面倒くさそーな名前名乗ってんのなぁ……それ、本名?」
言葉と共に叩きこむ炎を伴った強烈な一撃。無造作な会話ながら攻撃は本気だ。
「おや? 僕もう名乗ったっけ?」
攻撃を影で防ぎながら、瞬時に返ってきたのはそんな言葉。
「まあいいや。改めて名乗らせてもらうよ。僕は六六六人衆が一人、序列五三五エンリコ・サリエリって言うよ。で、何かな?」
ぎしり、と縛霊手と影業が押し合う。
「本名かって聞いてんだよ」
「あははっ、どうだろうねぇ? 君らが堕ちてくれたら答えるか一考しよう」
いちいちイラっと来る言い回し。だが司は流されない。
「こんな事すんには、すっげー失礼なんでやめてよね? 勘違い虐殺マンくらいで十分だぜ」
「ははっ、なーに言うんだか。全ては君達がいけないのさ。きちんとしたダークネスになればいいのに、いつまで半端で居る気かな?」
「ふざけるな」
素早く叡智が蹴りかける。ソレをエンリコが避けた所で死角に入り込み素早い斬撃を繰り出した。一撃目の蹴りはあくまでフェイント。
「……半端者上等、アンタには屈しない」
まやは一般人の避難をさせつつ仲間に守護の力を込めた符を放つ。
「お前の企みぶっつぶす!」
葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893)が吼えどす黒い殺気を放つもエンリコはそれをあっさりと回避していく。
「あっちです!」
「早く! 建物まで走って!」
ジオッセルと末未はひたすらに避難誘導を続けているところだ。
避難させながらの戦闘は厳しい。どうしてもどちらかがおろそかになってしまう。
それでもまやは懸命にそれを続ける。ジオッセルと末未、そして莉子は完全に避難を優先しているが、ここでまやまで抜ければ恐らく戦線は崩壊する。何せ相手は一人で灼滅者10人分か、ヘタをすればそれ以上の力を持つ存在なのだから。
戦闘開始から数分。避難誘導メンバーが合流する前に早くも灼滅者の一人がその場に頽れる事となった。
「お前らの顔を見ていると反吐が出そうだ! この外道が!!」
怒りに打ち震える一樹へとエンリコが笑う。
「じゃあ――」
彼の姿が一樹の視界から消える。どこに、と思う間もなく背後から激痛が走った。
「――見なくて済むように、今すぐ君が死ねばいい」
死角からの一撃に一樹が倒れ込む。派手に血飛沫をまき散らして。
「やれやれ、お話にならないなぁ……力の振るい方も判っちゃいないのかなー?」
エクスブレインはこう述べていたはずだ――闇堕ちしてもエンリコを滅する事はほぼ不可能と。ならば常態では「絶対に不可能」なのだ。
彼を引かせるとしても一人で戦おうとするようでは無理どころか返り討ちにあう。仲間と連携し動くならば感情を結ぶくらいは必要なはずだ。
そして灼滅者達にとって計算外の事があった。エンリコはサーヴァント達を狙おうとしないのだ。何故なら、彼は灼滅者達を闇堕ちさせるのが目的。ならばサーヴァントよりも灼滅者達を極力痛め付けた方が早いと考えたらしい。さらにもう1点、大きなミスが存在していた。ディフェンダーは必ずしも仲間をかばえるわけではない。仲間に命中した攻撃を肩代わりする「ことがある」だけだ。
それでも、ディフェンダーに配置されたサーヴァント達は、極力灼滅者達を守ろうと尽力した。エンリコの攻撃を肩代わりし、消滅する者も居た。
「叩き斬る様なフォルテッシ死モォ!」
盾衛の繰り出した重い斬撃がエンリコを襲う。同時に莉子も槍を構えて挑み掛かる。
螺旋を思わせる捻りを加えた攻撃は敵の脇腹のあたりを貫いた。
「悪くないね! でも、君の大事なお仲間はどうかなー?」
ダメージを受けながらにエンリコは笑う。まだまだ余裕があるという事か。
司の影がぐにょりと伸び、エンリコを捕らえる。今しかないとばかりに彼は声を張り上げた。
「叡智さん、やれっか!?」
「佐藤先輩こそ油断禁物だからね!」
サイキックソードを構え叡智が斬撃を繰り出す。
懸命に、彼らは戦い続ける。誰も犠牲を出さない為に。誰も闇堕ちさせない為に。
しかし、エンリコの攻撃は着実に灼滅者達の体力を削っていく。ジオッセルに末未も倒れ伏し、戦力はあっという間に削られた。
ジオッセルの相手のエンチャントを外す為にメディックとして戦うという狙い自体は悪いものではなかった。しかし、ほぼ仲間の体力回復をしなければならずそこまで手が回らない。相手の一撃があまりに重い為、一撃でも食らえば体力がかなり持って行かれるのだ。
末未は戦闘の勢いについて行けていない。仲間と連携しての戦い自体初めてな事を考えれば仕方がないのかもしれないが、六六六人衆相手にこの状況は他のメンバーにとっても厳しいと言わざるをえまい。
一体どのサイキックを使えば敵に有効にダメージを与えられるのか? 次手はどう動くか? どうすれば攻撃を見切られずに済むか? そういった事を考える必要があるだろう。自信が無いのなら、もっと仲間を頼っても良いのだ。
「ほら、倒れちゃいなよ――!」
幾度目かのエンリコの攻撃がクラッシャーへと移動した莉子に突き刺さる。
奥歯を噛みしめ、それでも彼女は痛みを堪えた。
「やっぱり強いです……ですがこのまま負けてしまうのは絶対にイヤです」
まやは仲間達の傷の具合に少々不安げな表情。しかしそれでもメディックとして、仲間を癒し活力を与える者として、諦めるわけにはいかないのだ。
「私達はまだ倒れるわけにはいかないのです!」
指先に集めた霊力を莉子に放ち、傷を癒していく。
一瞬だが上段に構えられた盾衛の動きにエンリコは影業を操り防御態勢を取ろうとした。だがそこを見計らい彼は素早く身を沈める。
「オラ、変拍子のスタッカートォ!」
下段――それも側面を狙った攻撃がエンリコの左腕を切り裂く。ちっ、と小さく舌打ちをしたのは誰だったか。
「俺的に心に余裕のねー奴が音楽とかやめてほしーんすけど! お前のが色々とズレまくりだっつーの!」
「そうかなー? 人の死の瞬間の叫びって素敵なモノだよ? 勿論、僕が手を下した場合に限るけどね」
噛みつきそうな勢いで斬りかかる司へとエンリコはあははっ、と妙に陽気な笑い声をあげる。
「なーんてね。僕はねぇ、殺す為なら理由なんて何でも良いのさ! 今は君らが正しいダークネスとなってくれるならどんな手段でも執るよ」
倒れたまま動かない一樹の頭上に、エンリコが足を振り上げる。影を纏ったソレが振り下ろされたならどうなるか。
「ほら、早くしないとこの子……頭がスイカみたいに割れちゃうよ? いいのかなー? それともそっちの女の子をグチャグチャの肉片に変えたら正しい姿になってくれるかなー?」
もはや手段問えない。このまま放置しておけばエンリコは確実に一樹を、ジオッセルを、末未を殺すだろう。
「俺らが半端もん扱いでもいいけどよ……絶対に誰も殺させるもんか……」
司が押し殺すような声で述べる。
「……てめぇなんざ完全人間落ちこぼれだっつーの!」
司の身が炎を纏い、次第に獣のように変化していく。
「司くん……っ!」
「待てよ!『それ』を選ぶんじゃねェ!!」
莉子と盾衛が同時に声を張り上げた。だがまやはただきつく唇を噛みしめるのみ。
これ以上被害を大きくしない為には、それしか無いのだ。彼女も同様に覚悟は決めていた。
「そうだよ! 先輩が『それ』を選んでも……この先倒さなきゃいけないダークネスが増えるだけだろっ!」
遠回しな言い方をしてはいるが、叡智は仲間を心から案じている。
叡智は痛みを堪えつつも更にエンリコへと挑みかかる。
「まだだ! まだ手段はあるはずだ! だから『それ』は駄目だッ!!」
ボロボロになっても、それでも叡智は戦い続ける。負けず嫌いだからというのもあるが、それ以上に――彼は仲間想いだった。そして、お人好しでもあるのだから。
「漸く僕の望み通りの姿になってくれたね……っと!」
闇堕ちした司はエンリコへと攻撃を繰り出していく。敵はそれをさばきつつあっさりこう宣った。
「さーてと。じゃあ僕はそろそろお暇しようかなー」
「ま、待てっ……!」
それでも食い下がろうと叡智が叫ぶ。
「お断りするよ。目的は果たした。これ以上僕がここに居る意味も無いんでね。もっとも、もう一人くらいきちんとしたダークネスになってくれるっていうなら話は別だけど?」
司の猛攻を避けながらにエンリコは距離を取る。じゃーねー等と陽気に言い残し、彼は中庭の向こうへと姿を消した。
「またなァ、次も一緒に歌おうぜェ。主に悲鳴で!」
叫んだ盾衛の言葉がエンリコの耳に入ったかはわからない。
そして闇堕ちした司も何時の間にか姿を消していた。
傷を負った仲間も、決して浅いものではなかったが、命に別状は無い。
正直な所、エンリコは強かった。それでも幸いにして一般人の犠牲者は出さずに済んという事実、そして闇に堕ちた仲間もまだ助け出せる可能性があるという事が、灼滅者達の心の支えであった。
作者:高橋一希 |
重傷:葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893) 尾張・末未(大学生殺人鬼・d15790) ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810) 死亡:なし 闇堕ち:佐藤・司(ファイアブラッド・d00597) |
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種類:
公開:2013年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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