「武蔵坂学園学徒諸君に朗報だ。決戦の日が……5月26日、ついに訪れる!」
科崎・リオン(高校生エクスブレイン・dn0075)は拳を握り、そして天高く突き上げた。
「諸君らはこれから各組連合に別れ、優勝を目指し血潮をたぎらせる仲間達と共に戦い抜かねばならない! 友情も、歓喜も、そして勝利も! 戦い抜かぬ者には何一つ与えられぬと知れ!」
背後の黒板には大きく「運動会」の3文字が刻まれていた。
「早速だが、何故か私が運営委員に任命された『ハンマー投げ』競技について説明させてもらう」
ハンマー投げとは、「砲丸」「ワイヤー」「グリップ」からなるハンマーを文字通り投げ、飛距離を競うる競技である……が、今回はその限りではない。
「本来であれば飛距離のみを競う競技であるが、今回はさらに『芸術点』『魂の叫び点』を追加し、得点方式でのスコアを競うこととする」
飛距離の測定方式は通常通り半径約2メートルの円の中から、約35度のラインに入ったもののみを計測。「芸術点」はフォームの美しさやしたたる汗の青春感、その他謎の審査員団の琴線に触れた何かに次々と加点されてゆく。「魂の叫び点」はその名のとおり、天高く舞うハンマーに向けて叫ぶ魂の言霊を得点化するものである。尚、ハンマーを投げる前の魂の叫びは採点外とする。
それぞれ10点満点の合計30点。1位を勝ち取ったものだけがMVPを獲得、そしてMVPの所属する組連合にはボーナス得点が加算される。
「今回は安全面や設備面、公平性を考慮し、通常16ポンドのハンマーを使用するところを、この巨大ピコピコハンマーにて代用する。柔らかい素材ではあるが重量もそれなりにあるため、スイングするには問題ないはずだ。無論、砲丸ほどではないにせよ、殺傷能力も無いわけではない。危険行動を取った者にはそれ相応の減点と処罰を持って当たらせてもらう。留意せよ」
リオンがちらりと視線を落としたプリントの下の隅、何やらムキムキのお兄さんにジャイアントスイングされる図やピコピコハンマーを群集に叩きつけられる図などが描かれている。
リオンは巨大ピコピコハンマーを振り上げ、そして高らかに叫んだ。
「諸君! これは決戦……否、血戦である! 1つの戦場に過ぎない、などということは無い! 1つ1つの勝利、それらの積み重ねこそが! 真の勝利への礎となるのだ!」
●競技開始!
「これより武蔵坂学園運動会、ハンマー投げ競技を行う!」
科崎・リオン(高校生エクスブレイン・dn0075)が壇上から参加者達の顔を見渡す。
「……よい顔だ。競技は小学生から順に行う。待ち時間に練習する際は指定された場所にて順番を守って行うように。以上だ!」
指示に従い、小学生達がサークルへと小走りで向かう。
もっとも、僅か2人なのだが。
●小学生の部
「1番は私です!」
武野・織姫(桃色織女星・d02912)がサークルに立ち、ピコハンを構えた。
「左打ちの要領で……こう、かな……?」
くるくると回転を始める織姫の予想外に綺麗なフォームで会場がどよめく。その瞬間、ブンッ、と音を立ててハンマーが織姫の手を離れてぐんぐんと飛んでゆく。
「これで大ホームランで金メダルじゃないかな!?」
ぴこっ! 音を立ててグラウンドに落ちるハンマー。小学生とは思えぬ好投に選手たちにもざわめきが起きた。
「トリは私です!」
野良・わんこ(駄犬と暮らそう・d09625)が駆け足でサークルに飛び込んだ次の瞬間、謎の覆面少女がわんこの隣に並んだ。
「わ、私の名前は謎の助っ人ミス・ブリュレなのよ!」
どう反応したものか困惑している間に、わんこはそれを気にする様子も無く覆面少女にピコハンを手渡す。
「これもっててください!」
「えっ、うん。……えっ、ちょっと待って私ごと回すの!?」
ふん! と鼻を鳴らして覆面少女をブン回そうとしたその時、周囲を黒ずくめの男達が囲む。
「な、なんですかあなた達は!」
抵抗する間もなく、担ぎ上げられるわんこと覆面少女。
「……えっ、私も!?」
2人の少女は、そのまま何処かへと連行されていった。
●中学生の部 前編
「え、なんで私呼ばれたの……」
アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)がオロオロしながらも、促されるままサークルへと足を踏み入れた。その時、こちらに向けて手を振る紫雲寺・りり(小夜風・d00722)の姿が視界に入った。
「やほやほー。代わりに申し込んでおいたよー」
「な……!?」
色々と言い掛けたが、エントリーされたものは仕方ないと諦めて投擲に入る。
素晴らしく安定した回転から、一気にハンマーを投げぬいた。
「私は物理系女子じゃないっつってんでしょーーーーー!!」
びこっ! はるか彼方で聞こえる着地音。息を呑む音が聞こえるほどに、会場が静まり返る。
「し、神秘系女子でーす……」
入れ替わりでサークルに飛び込んだりり。腕をまっすぐに伸ばし、左足を軸にして思いっきりハンマーを振り回す。
「遠心力と、アイティアさんには負けなぁぁぁぁぁい!!」
ぴこっ。高く飛びすぎたのが災いしたか、アイティアには一歩及ばぬ結果となったが、好投には違いない。
ブイサインしながら去るりりの横を、伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)がすれ違う。
腰を低く構え、慎重に回転を重ねる雪華。そして遠心力が頂点に達したその瞬間、魂の叫びとともにハンマーを天高く解き放つ。
「うちは、男やー!!!」
ざわめく観客達。雪華の耳がぴくりと動いた。
「誰や! ダウトとか却下とか嘘つけって言ったんは!? 」
激昂して叫ぶ雪華の肩にポンと手がかけられる。次の瞬間、担ぎ上げられた雪華が何処かへと連れ去られて行く姿が目撃された。
「俺は、この試合で優勝したら告白するッ!」
その宣言とともにサークルに立った中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)。
「俺の正義が深紅に燃えるっ! 行くぜ、一撃必中! 優勝したら即告白ッ!」
びこっ! 力強く、そして美しい回転から放たれたハンマーは弧を描いて地にめり込んでいた。
「どうだ、これが俺の思いの強さだ!」
清々しく銀都が笑う。
続けて、九条・泰河(陰陽の求道者・d03676)がサークルに立ち、静かに回転を始めた。
端正な顔立ちに真剣な眼差し。1回転ごとに願いを込めるかのように、次第に勢いは増してゆく。
既に6回転、そして6回転半に差し掛かった瞬間。会場が息を呑んだその瞬間だった。
「おっぱぁぁぁぁい!!!!!!!!!!」
あまりにも潔い魂の叫びに風が呼応したのか、ハンマーは2つの山を描くように軌道を変えて飛距離を延ばす。
びこっ! 思わず会場から「おおっ!」という声が上がる。少年の顔は清々しかった。
●中学生の部 後編
「……絶対勝つ」
異様な空気を物ともせず、ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)がピコハンを握る。
「……お父さーん!」
そう叫び、回転を始めるライラ。
リラックスしたバランスのいい回転に美しさが感じられた。
そして最後の1回転、全身に一気に力が込められる。
「あいしてるううううううう!!」
ビコッ! 会場がまた、なんとも言い難い空気に包まれた。
武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)はじっと、ピコハンを見つめていた。
「……これは、誰かの趣味なのだろうか」
そう呟いたのち自分を制するように首を振り、テンポよく回転を始める。
「貫けッ!!」
ハンマーは弧を描き、そしてグラウンドへと落下してゆく。
ビコッ! 壊れやしないかという程にピコピコハンマーが跳ねた。
クゥエル・ケーニッヒ(妖精の取り替え子・d15720)はハンマーを手に持ってぽかんとしていた。
「……ハンマー投げ。これを、投げればいいんだよねー?」
見よう見まねでくーるくーると回転し、クゥエルはハンマーを放り投げた。
「ところでここはどこですかー!!?」
ぴこっ。彼は、迷子だった。
「ゆいな、いっきまーすっ!」
天瀬・ゆいな(元気処方箋・d17232)が観衆に向けてピースサインを向ける。
よいしょ、と重そうにハンマーを持ち上げ、そして回転を始めた。
「ふりゃあああぁぁぁ……ゆいな占いっ!」
猛烈な回転音の中から、ゆいなの声が僅かに聞こえる。
「落ちるときにピコって鳴ったら――」
ピコハンの背を押すように、慣性で回りながらゆいなが叫ぶ。
「――フォークダンスで、運命の出会いッ!!」
ドスッ。ハンマーの柄が華麗に地面に突き立つと当時。目を回したゆいなが地に顔を突っ伏した。
次いで、クリミネル・イェーガー(笑わぬ笑顔の掃除屋・d14977)がサークルの中央に立つ。彼女はただ力いっぱいにハンマーを振り回し、そして放り投げた。
「紅鳥ハン!! 好きやぁー!!」
ぴこっ。投擲の瞬間力が抜けたらしく意外にも飛距離が伸びなかったが、本人は至って満足気な様子だ。
ここまで競技を進めて、リオンは選手が足りぬことに気がついた。
「メリーベル・ケルン(中学生魔法使い・d01925)が居ないな……致し方ない、これにて中学生の部を終了。次いで高校生の部へと移る。選手は各自準備せよ!」
●高校生の部 前編
「なんでピコハンなんだよ……」
永舘・紅鳥(死を恐れぬ復讐者・d14388)がピコピコハンマーを手にしてサークルに立った。
大きく一歩前進しながら、くるりと体をひねるように回す。
「彼女と、デート行きてぇぇーーー!!!」
あまりの声量に周囲がしんと静まり返る。
ピコッ! ハンマーが落ちた直後、いやデート行けよ。と、客席から至極冷静にツッコミが入った。「うわあ……恥ずかしい台詞を堂々と……」
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)が今までの叫びを思い返し、1人で顔を赤らめた。
気を取り直し、はるか前方へと視線を移す。
「見栄えが悪くてもええ。ミスを抑えて……」
くるくると赤い髪が揺れる。見栄えは決して悪くない。
そして、ハンマーが天へと解き放たれた。
「――とーどーけーやー!」
ぴこっ! 小気味よい音がグラウンドに響く。小町は胸元でぐっと小さく拳を握った。
「うんしょーっと、皆凄いなぁ」
小鳥遊・アリア(紅蓮の蛇・d14560)がピコハンを肩に担ぎ、屈伸しながら呟いた。
「ちゃんとまっすぐに飛ぶとえぇけど」
立ち上がったアリアはぐるぐると勢いよく回転し、そして地面を踏みしめてハンマーを放る。
「ひっさーつ! 魔王軍流大虐殺砲弾(ぼくてきぢぇのぢぇのぢぇのさいどっ)!!」
びこっ! 円の縁ギリギリからハンマーを見送っていたアリアが呟いた。
「魔王様の、力やねぇ」
紅羽・流希(挑戦者・d10975)が、満足気にサークルを後にするアリアとすれ違う。
「ハンマー投げって聞いていたのですが……見識が甘かったようですねぇ……」
ブツブツと言いながらも、流希ははるか前方に視線を移し、そして回転を始めた。
「魔人生徒会に一言言いたいですッ!」
放たれたハンマーに向けて、流希がありったけの叫びをぶつける。
「あなた方! 魔人じゃなくて悪魔でしょうがぁぁ! 爆発してください!」
ぴこっ。 言いたいことを言えてすっきりしたのか、成績はともかく彼の顔は清々しい。
そして彼が、その場を去ろうと振り返ったその時だった。
「……!?」
立ちはだかる黒ずくめの男達に両脇を抱えられ、流希はそのまま何処かへと消えて行った。
●高校生の部 中編
「さーて、オレの番か……」
連行される流希を尻目に、北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)がサークルへと立つ。
一本足を軸にして遠心力を稼ぎ、そして体を捻り、天高く放り投げる。
「乾坤一擲! やってやるぜぇ!」
ハンマーの背を押すように、既濁が声を張り上げる。
ぴこっ! 清々しい音が、グラウンドに響いた。
次いで、真田・真心(遺零者・d16332)がサークルに立ち、ハンマーを振り上げた。
「カァー……ワァー……」
ゆっくりと体を回しだし、そして全力で、歯を食いしばる。
「バァア~ッ!! ン~ッッ!!」
力強い回転が砂を巻き上げ、真心の周囲につむじ風を描く。そして、ピコハンが天の高みへと解き放たれた。
「ガァァァーーーッ!!!」
真心のビブラートの利いた声が響く。
ぴこっ。ピコハンが何故か、真心の真後ろに落ちていた。
「私の得意分野! 直々に上流階級の美しいフォルムを見せてあげますわ! オーホホホ♪」
阿剛・桜花(硬質圧殺粉砕系お嬢様・d07132)がやる気満々にピコハンを振りかざす。
「アン、ドゥ、トロワ~♪」
社交ダンスの如く、軽快かつ優雅なターン。……と思いきや、4回転目に入った瞬間、桜花の奥歯がギチッ、と音を立てた。
「どりゃぁぁぁああ!!」
投擲する際の風圧に、一直線に土が舞った。
「ふぅ……スッキリしましたわ♪」
桜花が額から流れる汗を優雅に拭う。
ぴこっ。はるか彼方でピコハンの音が聞こえた。
「体回転させたらまっすぐ飛ばせる気がしないし……まぁ、全く飛ばないってことは無いよね」
幸宮・新(高校生ストリートファイター・d17469)がサークルギリギリに立ち、足を大きく振り上げた。
「目指すは……友達100にぃぃーーーん!!!」
俗に言うところのマサカリ投法。放り投げられたピコハンに、新はさらに叫ぶ。
「あ、あとバイトの給料上げて欲しい! マジで! せめて50……いや30円!!」
涙声に混じって、ぴこっ。という音が聞こえた。ファールだった。
●高校生の部 後編
異様なまでに似合うピコハンを手に、室武士・鋼人(ハンマーアスリート・d03524)が今、サークルの中に立った。
的確なリズムで遠心力を高め、そして速いスピードで体をターンさせる。
ブンッ、クルッ、ブンッ、クルッ……そして、ピコハンは解き放たれた。
「デュワットゥリャァァー!!!」
あまりの完璧さに会場が静まり返る。ピコハンの落ちる音は、いつまで経っても聞こえなかった。
「存在自体が反則だな……同じクラスで良かったぜホント」
次いで、嘉納・武道(柔道キャッチャー・d02088)がサークルに足を踏み入れる。
「落ち着け、室武士に教えられたとおりに……腕力じゃなくて、遠心力で……!」
武道は両足を軸にして、遠心力を高めてゆく。
「せりゃッ!!」
ブンッ、と空を切るピコハン。
「頑張れよ! 諦めんな! 落ちたら終わり……あっ!」
ぴこっ。落ちた場所は、ラインの外だった。
肩を落とす武道には目もくれず、村井・昌利(吾拳に名は要らず・d11397)はピコハンを握った。
今までの誰とも違う構え。それは投げるフォームではなく、打ち出す為の構え。
次の瞬間、昌利が目を見開いて雄叫びを上げる。
「――ォォオ雄ォッッ!!!」
ドンッ! 大気を弾き、砲弾の如き速度で空を駆けるピコハン。
ぴこっ。……飛距離に関して言えば、至極普通だった。
「――よしッ!」
深呼吸を終え、サークルに立った天方・矜人(疾走する魂・d01499)がテンポ良く回転を始める。
「チャー! シュー!」
観衆が息を飲んだ。
「メン!」
この瞬間、幾人かがフライング歓声を上げる。
「タイコーッ!!」
綺麗な弧を描き、ハンマーが見事100m地点目掛けて落下してゆく。
ピコッ!
「……深い意味は無いッ!」
矜人は観衆に向けて、ビシッと指を差した。
万事・錠(ハートロッカー・d01615)がピコハンを肩に担いで進み出る。
意外にも軽く、リズミカルにステップを刻む錠。
「想いを乗せて、羽ばたかせるイメージッ……!」
大きく一歩踏み込み、そしてピコハンを羽ばたかせる。
「ウォァユウリとキスしてェェッ!!!」
ぴこっ! 久々のノロケ叫びに観衆が静まり返っていた。
「……なんか文句あんのかッ!」
そんな空気を無視して、本堂・龍暁(伏虎・d01802)がサークルの中へと踏み込んだ。
彼はピコハンを両手で握り締め、ただ叫ぶ。
「ウオオォォォォォオオオおおッ!」
雪崩の如く押し寄せる気合。ビリビリと空気が震えた。
「おおおおおおォォオオオッ!!!」
太陽目掛けて、一直線に飛ぶピコハン。それでも尚、彼の気合はとどまる事を知らない。
「オオオオオォォォォォォォォッッ!!!!!」
ぴこっ。落ちたのは、ラインとは正反対の方向だった。
●MVP発表!
「諸君らの健闘を大いに讃えたい! さっそく本題であるが、MVPの発表に入らせてもらう!」
リオンが壇上から見渡した選手達は、皆清々しい顔をしていた。
「飛距離点7ポイント! 芸術点9ポイント! そして、魂の叫び点10ポイントッ!」
観衆が、そして選手達が息を飲む。
「……4D椿連合、九条・泰河!!」
会場が一気に歓声と熱に包まれる。
「僕……?」
「青春を棒に振りかねない魂の叫び、しかと聞かせてもらった。その覚悟、紛れもなく絶賛に値するものだと私は考える! 繰り返そう! MVPは九条・泰河だ!」
無論、飛距離や芸術点だけであれば上を行く選手は他にも多数居た。だが、九条の魂の叫びは他の追随を全く許さぬほどに強烈であったとリオンは熱く語る。
「……褒められてるんだよね?」
歓声の中、泰河が1人ふるふるしていた。
作者:Nantetu |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月26日
難度:簡単
参加:27人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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