5月26日は、武蔵坂学園の運動会。
運動会では組連合ごとに分かれ、力を合わせて優勝を目指すことになる。
パン食い競争に組体操、それにお弁当コンテスト――大規模なアスレチックまで。
そして希望者が参加できる、数々の個性的な競技も存在するのだ!
優勝目指して仲良く正々堂々と戦え、灼滅者――否、学生達よ!
「というわけで次の参加者募集は……あ、創作ダンスバトルですね」
(「ダンスバトル!?」)
思わずガタリと机を揺らしたのはサウンドソルジャーかもしれないし、アイドル候補生かもしれないし、ダンス大好きな普通の少年少女かもしれない。
――創作ダンスバトルは課題曲に合わせ、自由な振り付けで一斉に踊って審査員の得点を競うことになる。なお、課題曲はアップテンポで運動会っぽいJ-POPだが、ダンスのジャンルは自由である。
そして人数も自由!
1人で極めるのもいいし、クラスや組連合で仲間を集めて群舞というのも洒落ている。
組連合の違う好きな人と踊っても構わない。その場合はメンバーの所属する組連合それぞれに得点が配分されることになる。
創作ダンスバトルには、4つの賞が存在する。
ダイナミック賞。一番グラウンドを広く派手に使ったと審査員が判定したチームに与えられる。団体が有利だが、一人で目指しても一向に構わない。
花鳥風月賞。衣装からダンスまで全てが『雅』であったチームに与えられる。
仮装賞。一番すごい仮装とそれに合ったすごいダンスを繰り広げたチームに与えられる。
そして――もちろん最優秀賞。そして最優秀賞に輝いたのがグループの場合は、その中から一人MVPが選出されることになる。1人参加の場合はもちろんMVPも同時受賞だ!
「そうか、ネタでもいいのか……」
「ガチでもいいのか……」
「一人でもいいのか……」
「カップルでもいいのか……」
「クラス全員でもいいのか……」
ぐっ。
「この勝負、受けて立つ!」
さぁ――踊りませんか、学生諸君!
「……胸囲に天と地の隔たりがある、な。胸元は強調しないようデザインを変えて、と……」
運動会のちょっと前、一人の少女は溜息を吐いたものである。
そしてダンスバトル本番!
「それではよろしくお願いしますね、王子様♪」
「よ、よろしくね、お姫様……」
由希奈は王子の正装、いちごはお姫様ドレス。男女逆転ロミオとジュリエットを題材に、派手なアクションを繰り広げて。
ドレスの奏音とタキシードの武流は、社交ダンス風にステップを踏む。ゆっくりだったダンスは、徐々にテンポアップ。
ビハインドのソウル・ペテルに蝶の如き衣装を纏わせ、騎士甲冑風の衣装を身に着けた聖は進み出、姫を護る騎士の如く剣舞の如く剣を振る。
バレエ衣装の藍はグラウンドの端から現れる。両手を鳥の翼の如く羽ばたかせながら回転と共に旋回を繰り広げる彼のダンスのテーマは『渡り鳥』。
かと思えば――埼玉県は川越のご当地ゆるキャラの着ぐるみが爆炎と共に弾ける。中から8H百合連合のゼッケンを付けた体操服の緋色がご当地の小江戸川越をテーマに激しいブレイクダンス!
露出多めのゴスロリ服は、美緒にはサイズが大きくて袖や胸元が余り気味――だけどダイナマイトモードでぴったり!
この後倒れても良いとばかりに、アップテンポの激しいダンスを美緒は思いっきり踊り出す。
「さあ、行こうか黒猫さん? お月様にお願いする為に」
ライバル猫の達人の笑顔に、呪われし黒猫の素鞠は、「お願いします、負けませんよ?」と微笑む。
月が青く輝く夜の、猫達のダンス大会。勝者は月の魔力の祝福を受け、願い事を一つ叶えられる――素鞠の憧れのミュージカルの一場面。
タップを交えて、二匹の猫は踊り出す。
「さぁ、ShowTimeだ!」
スーツにネクタイ、サングラスにハット。全身を黒に染めた紅鳥が激しいダンスを繰り広げる。
「さあ、showtimeの始まりだ」
中央で俯いていた大輔は、ビートを刻んでいた体を止めて右腕を勢いよく挙げた。ゆっくりと腕を下ろしながら、複雑なステップと共に緩急をつけて踊り出す。時に挟まる緩やかな動きは――体を柔らかく使い、エロティックに。
古今東西の蹴り技を集約せしXMA式のダンスを踊るのは裁。ジンガジンガを刻みつつ、鋭いツイストと宙返りを多用したダイナミックなダンスを繰り広げて。
助走と回転を駆使して、裁はグラウンド中を己のフィールドと為す。
「日本男児にしか魅せる事の出来ないものもあるはず、と」
そう悟りを開いた泰三の衣装は――褌一丁。
褌を舞わせて健康的な色気を演出、見えそうで見えないラインが妖しげ。
「レディースアンドジェントルメンー。我らが踊り、とくとごろうじろー」
秋空の前口上と共に、曲に合わせてアルプス一万尺のダンスを踊るのは、物の怪茶屋『花遥』のメンバーだ。
手拍子に合わせた曲の合間に、個性溢れる決めポーズ!
「アルプスの高峰、小槍の上で舞を競ったという異国が山伏の伝統の業、とくと見せ付けてやるのですわ!」
夜鈴は紅地の振袖で、京が華の如き舞に視線は憂愁を込めて。
「MVPに興味がない訳じゃないけど、ダンスはリズムに乗って楽しく踊れるのが一番だよね!」
アイドル風の衣装に身を包んだ柚理は、星がきらりと輝くように決めポーズ。
「狙うは最優秀賞のみだろ!」
戦隊もののヒーロー風に、糸瀬は威勢よく見得を切る。
秋空は皆の周りをうろつきつつ、頭の上で手拍子。もちろんポーズはびしっと決めるのを忘れない。
ヴィクトリアン調のメイド服に身を包み、ジェーンのダンスは掃除や料理など、メイドらしさを思わせて。ふわりとしたドレスにスカーフ、普段の眼鏡は外して、風の妖精のように静火がジェーンと軽いステップを踏んでまた離れていく。
「父様と母様から教わったダンスと格闘技……! その全てを以て、今回は全力で踊らせてもらうわ」
フラメンコの情熱、そして即興変化に富んだダンスに、武術の型や動きを交えて、演舞のように一瞬も止まることなくファナは舞い続けて。
「あちょおおおお!」
プリンセスモードを発動し、オーラを七色に輝かせながらヌンチャクの如く二丁ハンガーを振り回し、オリキアは要所要所で必殺ポーズを決めッ!
文月探偵倶楽部のメンバーの衣装はなんと着ぐるみ!
「わーい、着ぐるみたっくさん! ひおも頑張ってダンスするのー♪」
ピンクなわんこの陽桜は、両手にひまわりを持って飛び跳ねる!
「着ぐるみの魅力を余すところなく伝えるんだよー」
毬衣はイフリートの着ぐるみで、動物を思わせる軽やかで楽しげなステップ。
「フフフ、これで学園の皆が着ぐるみの魅力に目覚めれば学園制服(誤字に非ず)、果ては世界制服への第一歩!」
直哉は目付きの悪い黒猫着ぐるみで、時にはメルヘンチックに可愛く時にはヒーローのように!
「……いつも思うのですが……ここは探偵倶楽部のはずですわ……」
自分の言葉にちょっと自信をなくしながら、コアラ着ぐるみ姿の桐香がくにくにリズムに合わせて踊る。
「リア獣、爆発しろーっ♪」
ヘッドバンキングを繰り広げていたミカエラが叫び、ストップモーション!
「……リア獣は、リア充とは違うんだよ?」
どこかで聞こえる爆発音。再開するヘッドバンギング。グラウンドいっぱいに着ぐるみ達は跳ねまわる。
「Let's go! 5E蓮☆ Catch the victory~!」
白と青のチアリーダー風衣装で、ヘッドスピンから勢いよく飛び上がった空がアクロバティックな動きと晴れやかな笑顔でチームを応援する。
感銘を受けたラブリンスターのパフォーマンスをジャズ風のクールなダンスにアレンジ、思うままに体を動かす未来が要所要所で決めるは『飛び出せ初恋ハンター』のポーズ!
ラブリンスターの仮装を完璧に決めたのは舞。セクシーに腰を振り、時にステップ時に跳ね、可愛いポーズも前かがみになる仕草も、全力で胸を強調する。それにさっと静火が、バックダンサーが主役を強調するように手を添えて。
色気と言えば泰三の褌一丁も負けてはいない。磨き上げた拳は舞踊に繋がると、曲に合わせて鋼鉄拳。
「俺の褌を、忘れられない思い出にしてみせる」
多分誰も忘れられない。
寛子の煌びやかなアイドル衣装は華の如く、眠兎の色違いの落ち着いた衣装が、その華を引き立てる。
ディスコ『ダンス・カテドラル』のロゴをあしらった衣装で、客席近くで皆が覚えられるよう、パラパラをキビキビと踊る。
「観客のみんなも一緒に盛り合ってくれると素敵なの!」
そう寛子が呼び掛ければ、観客席にも歓声と共に踊りの輪が。同じステップを楽しげに静火が踏んで、また風のように離れていく。
予想以上にアグレッシブな悠のダンスに、「全身使ったダンスね! 俺もそういうの好き!」とルーファスがにかりと笑う。悠が繰り出すのはパンチにキックに回し蹴り……に見えるターン!
「はは、悠は上手いな!」
笑いながらルーファスも、拳を受け止めたり避けたり、息はぴったり!
黒白の大型軍用スコップを二本手にしたフォルケも軍服姿も勇ましく、近接格闘術と二刀流剣舞の動きを応用した演武。薙ぎを一回転させ回し斬り、ダブルジャンプから空中前転で斬り下ろし、自由自在に動き回る。
巫女装束に桜色の長羽織姿の瑠璃が舞うも、薙刀神楽をベースにした創作ダンス。鈴のついた薙刀は凛と鳴り、長い飾り房は大きく薙刀を振れば風に泳ぐ。
「最近、全力で踊ることなかったので完全燃焼しますよ!」
加奈がバク転やアクロバティックな動作を取り入れて、笑顔で元気よく、魅せることを意識してストリート風ダンス。
ベリーダンス風衣装に身を包んだ嵐は恥ずかしいからと顔の半分を花で覆った仮面で隠して。ベールを振りながら腰を捻ってコインベルトを鳴らし、髪を揺らして軽くステップ。
『Milky Way』のメンバーは、サロペットに半袖パーカー、それにスニーカーを揃え、耳と尻尾のデバイスで動物になり切って。
リヒトは己の霊犬であるエアを演じる。膝丈までのスパッツを合わせ狐になったのは美咲。
体力を使い切りそうだと心配した秀行も、可愛らしいレッサーパンダとなって激しいダンスを繰り広げる。誘いを受けて参加した奏も、ニーハイソックスでステップを踏んで黒猫の尻尾を揺らす。
横一列からステップで前後左右に、さらには高いジャンプでグラウンドを立体的に使って。何よりも、人を楽しませるために――まずは自分達が、楽しく!
長い袖を蝶に見立てて、羽ばたくように舞うのは逢紗、結月、それに七葉。
濃い桃色衣装の結月はクラシックバレエ風に優雅に、「花から花へ。きらびやかな羽で舞い遊ぶ。綺麗な蝶々を捕まえてみたいでしょ?」とアピール。
中央の舞い手が藍色衣装の七葉へと変わる。イメージは清浄と静寂、「……蝶が誘うは夢現の狭間、どうか惑わされませんよう」と巫女神楽の合間に異界を見るような視線を投げて。
白衣装の逢紗が今度は前に出る。「ひらりひらりと三色の蝶が入り乱れるは、あたかも優美な胡蝶の舞。御覧いただくは『胡蝶繚乱』、参ります」と演劇の経験を活かして、強くダイナミックにクライマックスに向けて――!
サビの直前、大きくバック転した大輔が華麗に着地する。裁がウィンドミルから倒立回転蹴り、そしてツイスト技を三連発!
花弁がふわりと風に乗る。ゴージャスモードで花のように広がるスカートにスパンコールの衣装へと嵐が早変わり、観客の手拍子や通りかかった静火とのハイタッチに、自然とスピードが増して行って。
(「ああ。今あたし、どんな顔してんのかわかんねー。ケド」)
やべーな、楽しいかも、と。
ドレスとタキシードが宙に舞う。奏音と武流がへそ出しTシャツに短パンにチェンジ、振り付けもヒップホップに変え、豪快に踊り切る!
寛子と眠兎もダンスを切り替える。寛子は思いっきり目立つダンス、眠兎はそれを引き立てるように力を抜いてラフに。
ジェーンが突如スカートの中から、二丁のモデルガンを取り出した。ポニーテールや胸が揺れるも厭わず、激しくアクロバティックに!
パン、と音がして、聖の甲冑が弾ける。
「さぁ、皆! サービスの時間だッ!」
エイティーンで大胆美女ボディへとチェンジした聖は、妖艶な着物を纏いソウル・ペテルと共に艶やかに!
大きく薙刀が舞い、それに合わせて瑠璃も大きく舞う。そして曲の最後には――石突を地面に叩き付ければ、鈴が大きく舞の終わりを告げた。
川越駅からエントリーで商店街の雑踏を、パワームーブからフットワークで江戸情緒からの切り替わりを、蔵造から喜多院へと場面は移り、緋色は最後にご当地キックの動きでフリーズ、表すのは現在まで変わらぬ歴史。
拳銃を仕舞い、悪漢を撃退したメイドのジェーンはご主人様を迎え入れるたおやかな礼、そして笑顔。
音の一つ一つを刻むように激しく踊った大輔も、大きなバク宙の着地と同時に人差し指で唇に触れ――ピストルを撃つ真似と同時にウィンクでフィニッシュ!
ふわり、と一匹の大きな蝶が現れた。
逢紗を中央に、結月と七葉が袖を大きく掲げて。美しい色彩の蝶に歓声が上がる。
「見てくれてありがとーっ! この後の競技も、バンバン盛り上がって行こーっ!」
最後のバック転を決めた空が、皆に手を振る。「Feueu!」とスコップ二刀を思いっきり投げて、地面に突き刺さるを背景にフォルケが決めポーズ。
現れた場所とは反対の端へ、曲の終わりと共に辿り着いた藍は宙返りでフィニッシュ。渡り鳥は、目的の地へ舞い降りたのだ。
さっと黒いハットが青い空を切り取る。投げ捨てた紅鳥は、にかっと笑ってフィニッシュ。
「あなたは何故ロミオなの――」
由希奈がいちごを持ち上げ回転し――手が滑る!
「由希奈さん大丈夫ですか!?」
「あ、うん……」
何とか抱きとめたけれど、顔同士がすごく近くなって。
(「ドキドキする……私、やっぱりいちごくんのこと……」)
目の前まで近づいた顔に、二人の頬が真っ赤に染まる――がいい雰囲気のところに花遥のメンバーがどさどさ折り重なってずっこけた。
糸瀬がバク転失敗で後頭部から地面に突っ込み、夜鈴がバナナの皮で滑り、柚理が足をもつらせ尻餅。その様子に思わず秋空もずっこける。
「ハンガーマスターとして、負けられない!」
ハンガーを回して空中に投げ! 飛び! キャッチ! 空中でさらに輝きポーズ!
「プリンセスハンガ――――!」
曲は終わっているのに誰もオリキアを止められない!
「あぁ、楽しかった! 誘ってくれてありがとー♪」
「楽しめたなら良かった、こっちこそありがとよ」
悠の頭をルーファスが撫でれば、にへらと悠の顔が緩む。
「灼滅者になって戸惑ってますがよろしくお願いします先輩方!」
「こちらこそ、これからよろしくね」
勝利の願い事は――生まれ変わって、新しい運命を生きること。
そう拳を握る素鞠に、達人は笑みを浮かべて。
「ほにゃー、飛び跳ねるとぐるぐるするねっ」
「直射日光は防げても、熱はこもるねー……って、ミカエラさんしっかりー!?」
「あれ? まわりがぐるぐるするね? あれ~?」
「と、とりあえずスポーツドリンクを!」
文月探偵倶楽部の皆は着ぐるみのまま大騒ぎ。
激しい踊りに崩れ落ちそうになったのは、ファナも同じ。皆の前では何とか立っているけれど。
「本当はこういうの恥ずかしかったんだが……。いつの間にか気にならなくなってた」と秀行ははにかんで。案外、ダンスも楽しいな、と笑みを浮かべる。
「誘ってくれてありがと……練習も本番も、全部、楽しかった」
奏がMilky Wayの仲間達に振り向いて、嬉しそうに頷いて。
「辛いことも悲しいこともあった。でも、落ち込んだままじゃ、前に進めないよね」
天国の両親に、「私は元気だよ、見守っていてね!」と伝えるように美咲は天を仰ぐ。
一生懸命踊ったのは勝つ為より楽しいから、リヒトの頬には自然と笑みがこぼれて、心からの感謝をチームの皆に。
「やっぱり、踊ることってとっても楽しいです♪」
グラウンド中を駆け回った静火が、まだ楽しみの余韻を残して汗を拭う。
――結果発表。
ダイナミック賞、静火。周りの仲間達をも巻き込んで、グラウンドを駆け回る風の妖精に皆が目を奪われた。
花鳥風月賞、逢紗・結月・七葉。蝶と言うテーマに沿い、三人それぞれの見せ場全てが非常に『雅』であった。
仮装賞、文月探偵倶楽部。この暑さの中着ぐるみで激しいダンスに挑むというチャレンジャー精神が心を打った。
そして――最優秀賞は。
一つ一つの動きを細やかに『魅せた』、大輔がMVPと同時選出となった!
きっとグラウンド中がそれぞれの、けれど一体のダンスの輪となった、この5分間――賞の名誉と共に、誰も忘れない。
作者:旅望かなた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月26日
難度:簡単
参加:44人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 2
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