運動会~ザ・綱引き

    作者:海あゆめ

     5月26日は、武蔵坂学園の運動会。
     スポーツマンシップに則り、各組連合が優勝を賭けて熱くぶつかり合う一日。
     敏捷性、体力、精神力。時には知力や発想力、表現力をも試される、様々な戦いの舞台……そんな中、圧倒的な力と団結力が求められる競技があった。
     そう、綱引きである。
     
     ルールはお馴染、単純明快。2チームに分かれて1本の綱を引っ張り合うのである。
     制限時間は1分間。綱の真ん中に付けた目印を、自チームの陣地へより引きこんだ方の勝利となる。
     厳密なルールでは反則になる行為が色々あるのだが、今回の武蔵坂学園の運動会においては、細かい判定は行わないとのこと。
     チームは組連合別に組むことになるが、参加人数によっては2組合同の連合を作るなどの調整も入るようだ。
     対戦はトーナメント形式で、組み合わせは当日くじ引きで決める予定になっている。
     
     一見、力が全てのように見える綱引きだが、それ以上にチームワークがとれていることが重要だ。
     掛け声を合わせたり、どの位置に誰がつくか等の作戦、綱を引くフォームの確認も必要だろう。
    「おっ、お前も綱引き参加すんのか? っしゃ! お互い頑張ろうぜ!」
    「にひっ♪ なんか罰ゲームとか賭けたら面白いかもね~」
     掲示板に張り出されていた、参加を募るチラシ。それを眺めていた君に、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)と、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)が笑顔を向けてくる。どうやら彼らも綱引きに参加するようだ。
     負けてはいられない。頷いて、君も強気な笑みを返した。
     
     決戦は5月26日。各組連合の力と団結力が、今、試されようとしている……!


    ■リプレイ


     5月26日、今日は武蔵坂学園の運動会。力とチームワークのぶつかり合い、綱引きの種目においては、戦力調整の結果4つのチームでトーナメントを行うことが決定した。
     まずは第1回戦、Aグループ。
    「掛け声は、おーえすって言えば良いのかな?」
    「わかりやすくて良いと思います」
     小首を傾げる深愛に、鞴がこくりと頷いた。
     合同連合ではあるものの、なかなかチームワークが良さそうな、1A梅・4D椿連合。
    「勝ちに行きましょう!」
    「っしゃあ! 頑張りましょう!!」
     気合を入れるように声を張った鞴と蓮璽が互いの手を合わせた。パシン、と乾いた良い音が、青空の下に響く。
    「1A梅連合の名桐ななみ、この勝負受けてたーつ!」
     こんな台詞、一度は言ってみたかった。ななみの宣戦布告も高らかと。
     一方、対するは、やる気満々、燃える闘志の3C桜・5E蓮連合。
    「いいかっ、うめはいつも平和なぽめだけど、今日はきばをむくでしゅ!」
    「さあ、覚悟してください。勝つのは私たちです!」
     木毎と菫の強気な宣戦布告。
    「勝負するからには全力でいかせてもらいます」
     綱引きの勉強もしてきたという友梨も、きりりと静かに闘志を燃やす。
     普段は共に支え合う仲間同士でも、今日はこうして向かい合えば敵同士。
    「レンジさんが相手でも手加減しないっ! 相手にとって不足なしだぜっ!」
    「ふふ! 油断なんてしませんよ? むしろ底力が120%上昇ですっ!」
     例えそれが大切な人であってもだ。拳を突き出してくる余市に、蓮璽も不敵な笑みを返す。
     一本勝負。ここで負ければ、次は無い。
    「行事とはいえ、勝負です。皆さん、頑張りましょう」
    「ですね。頑張りましょう」
    「うん、がんばろうねっ!」
     壱爪の言葉に、友梨と余市も頷いてみせる。
     位置についてのホイッスルが鳴った。両チーム向かい合い、地面に這う綱を握る。
     勝負の合図、ピストルの空砲が、パァンと鳴った。
    「せーのっ!」
     イヅナの大きな掛け声。
    「おーえす! おーえす!」
    「オー、エス! オー、エス!!」
     タイミングを合わせて、1A梅・4D椿連合は綱を引き込んでいく。
    「っしゃらぁー!! っくぞぉーー!!!」
     対する3C桜・5E蓮連合の紅鳥は、チームの最後尾で綱を腰に巻きつけ、思いっ切り踏ん張りをきかせる。地面が抉れんばかりのすごい勢いだ。
     制限時間は1分間。決して長い時間ではないが、こう全力で力を入れているとなかなか辛いものがある。
     今のところ、勝負は互角。先に力尽きた方が負けになるだろう。そう思われた次の瞬間……。
    「……っ!」
    「っ!!」
     3C桜・5E蓮連合、壱爪と木毎の目と目がばちりと合ってしまった。
     別連合ながらも、同じチームに配属された二人は、お互いを意識し合うラブラブな恋人同士。勝負の最中ではあるが、図らずとも二人の胸は、ドキン、と高鳴ってしまう。
    「っ、せーのっ!!」
     相手の力が、一瞬僅かに緩んだのを、1A梅・4D椿連合、イヅナは見過ごさなかった。再び大きな声を上げ、綱を引くタイミングを仲間達へと知らせた。
    「おーえす!!」
    「オー、エス!!」
    「……っ、って、うわぁ!?」
    「ピャア!!」
     隙を突かれ、踏ん張りのきいていなかった壱爪と木毎が、綱ごと纏めて持ってかれた。
     ここで試合終了のホイッスル。勝負は決した。
    「……っ! きゃーっ! やったー!!」
    「うん! やったね!」
     思わず飛び上がってハイタッチを交わす、深愛とイヅナ。
    「うぅ……負けてしまいました……」
    「よ、良かった……」
     へたれ込んだ菫とななみ。勝者と敗者の目が、ぱちりと合う。
    「負けちゃいましたけど、皆さんと綱引きができてよかったです!」
    「うん、対戦してくれてありがとう!」
     そうして、熱く握手を交わした。
     第1回戦Aグループ。1A梅・4D椿連合の勝利である。


     ところは変わって、こちらは第1回戦Bグループ。6F菊連合と、7G蘭・8H百合・9I薔薇連合の合同連合が戦いの前の火花を散らしている。
    「ふははははは、悪徳神父・あきら~んに勝てるとおもってかー!!!! っ、ゲホッ、ゲホッ……!」
     ジャージにハチマキ姿でどの辺が神父なのか分からない感じになってしまっている晃が、宣戦布告の大事なところでむせる。
    「みんなで良い思い出作りできたらいーねー」
     ゆるゆるな雰囲気で言いながらも、自チームのメンバーにイボ付き軍手を配り歩く捨六。
    「遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! どうせなら反則とれるくらい近くに寄ってくれたらウチの不戦勝!」
     しまいには、珠音が堂々と身も蓋もない事を言い放つ。
     何だかトリッキーな7G蘭・8H百合・9I薔薇連合の面々。
    「この綱はボク達のものだ! 奪わせてもらうよ!」
     妙な雰囲気に呑まれまいと、対する6F菊連合のあさひが、ビシリと宣戦布告を決めた。
    「やっぱり駄目? ちぇー」
     残念そうに唇を尖らせる珠音。当たり前である。今から始まるのは、スポーツマンシップに則った真剣勝負。
    「……ああ、お前、クラスにいたな」
    「おう、一緒に頑張ろうぜ!」
     クラスメイト同士の志命と香蕗が、試合前の握手を交わす。
    「緑山、久しいな。勝ちに行くぞ」
    「おお、ニコか。ああ、勝とうぜ……っしゃあ! ぜってぇ負けねぇ!!」
     以前に任務で一緒になったニコからも勝負心を煽られて、香蕗は強気に相手チームを指差した。
    「にひっ♪ 負けた方が罰ゲームね」
     向かいの7G蘭・8H百合・9I薔薇連合の列からひょこっと顔を出したスイ子が、悪戯っぽく笑ってみせる。
    「おいでよ、最高に愉しい試合にしよう」
     それに絲絵も、にっと口の端を持ち上げて笑みを返した。
     位置についてのホイッスルが鳴る。
    「綱引きも、ただ単に綱を引くだけじゃ勝てないんだよな、確か……」
     フォームを確認しつつ、イヅルは7G蘭・8H百合・9I薔薇連合の陣地中ほどに立ち位置を決めて綱を握る。
    「何とか、頑張りましょう!」
     それとは反対側、6F菊連合の真琴は前の方に陣取り、意気込んだ。
     ピストルの空砲が鳴る。一斉に、両チームが綱を引き込み合う。
    「例え賞品のない運動会だろうが勝負となればこの捨六容赦せん!」
     7G蘭・8H百合・9I薔薇連合の殿を務める捨六が、体に巻きつけた綱をしっかりと支え、後ろに向かって思い切り駆け出していく。
    「全力勝負、ファイッ! オーッ!」(位置、真ん中辺り)あさひ
    「体を正面に向けて引いてみろ、それだけでも違うはずだ」ニコ
     大きな声を出して気合を入れるあさひに、チーム内への的確なアドバイスで声を掛けるニコ。スタートダッシュを決めた7G蘭・8H百合・9I薔薇連合に、6F菊連合は粘り強く応戦する。
     じわじわと、綱は6F菊連合の方へ。
    「よっこいしょ、うんとこしょ……みんな頑張れ、僕の分まで……って言いたいとこだけど!」
     このままではマズイ、と秋空もいよいよ本気で綱を引っ張った。
    「やっぱり、勝ちたいしね……っ!」
     ぐいぐい、ぐいぐいと、背負っているような格好になりつつも踏ん張る秋空。
    「今こそ見せてやろう! 封印された右腕とか魔眼とかそんな感じの……っ」
     珠音の封印された力も、今、解き放たれようとしているとかなんとか。
     残り時間はあと僅か。綱の中心は、6F菊連合の陣地と境目を行ったり来たり……。
    「……っ、今ですっ!」
     この時を待っていた。真琴はタイミングを見計らい、温存していた力を一気に込める。と、ここで試合終了が告げられた。綱の中心は、やや6F菊連合側へ引き込まれている。
    「やったぁ! 綱1本ゲットー! この調子でどんどん勝つぞー!」
    「あっは、愛してるぜさんくー!」
     あさひと絲絵が、歓喜の声を上げた。
    「……やったな」
    「おう」
     志命と香蕗も、互いの健闘を称えつつハイタッチを交わす。
    「負けた……しかしまだ第二第三の俺が……!!」
    「あー、はいはい」
     がっくりと演技掛かった仕草で大袈裟に肩を落とす晃を、捨六は適当にあしらった。
     思い切りぶつかり合った。負けてもどことなく清々しい。
    「たまにはこういうのも悪くない、かな」
     イヅルは薄く笑って息をついた。
     第1回戦Bグループ。6F菊連合が勝利を下した。


     決勝戦。Aグループを勝ち進んだ1A梅・4D椿連合と、Bグループの勝利チーム、6F菊連合の対決である。
     両者向かい合う中、威勢の良い声が上がる。
    「さあ! 正々堂々、勝負だよっ!」
    「私達は、他のチームには負けないんだから!」
     ななみの宣戦布告に、イヅナも大きく頷き、勇む。
    「コロちゃん、覚悟なんだようっ!」
    「おう! いいぜ、本気でかかってこい!」
     深愛からの名指しを受けた香蕗は、不敵に笑って返した。
     ホイッスルの音が鳴る。
    「よーっし、頑張るぞーーっ!!」
    「……」
     自分を奮い立たせるように声を上げるあさひとは対照的に、黙って深く呼吸して、集中を高める志命。
     戦いの火蓋が、今切って落とされた。
     高らかに響いた、ピストルの音。両チームの力と力がぶつかり合う!
    「やるからには全力で……!」
     足に踏ん張りをきかせて、蓮璽は奥歯をぎりりと噛み締める。
    「さあ皆さん、一丁力比べと参りましょうか!」
     大きく引き込んだ。綱の中心が、1A梅・4D椿連合側へと大きく揺れる。
    「っ、絲紙、今回ばかりは平等を諦めろ! 奴等を地に引き倒すぞ!」
    「おうともニコちゃん、此は天秤では無いのだから少しばかりか偏っても構うまい!」
     思わず感情的に叫んだニコに、にやりと笑って返す絲絵。偏り始めていた綱の中心が、じわり、じわりと戻っていく。
    「ボクたちなら絶対勝てるよ、ガンバローっ! え、根拠? そんなのないよーっ、えへへっ!」
    「うんっ! おっきな声出してがんばってこー! おーえす! おーえす!!」
     目は前を見たまま真剣に。でも楽しそうに笑うななみに深愛も笑って声を上げる。
     6F菊連合の猛攻に、1A梅・4D椿も負けじと攻めた。
    「ファイーーーーッッッ!!!」
     一際大きく上がったあさひの声。綱が一瞬、6F菊連合側へ引き込まれたと思いきや。
    「僕は、まだまだやれるはず……!」
     地面を踏み締めた鞴が一歩下がれば、綱の中心は再び1A梅・4D椿連合側へ。
     一進一退の攻防。残り時間はあと僅か。
    「っ、何とか、持ちこたえて……っ!」
     タイミングを見計らっていた真琴が、一気に力を込める。
    「……っ、いっけぇぇっ!!」
     両者、本気の真剣勝負。試合終了のホイッスルがけたたましく鳴るのと同時に、境界線付近でゆらゆら揺れていた綱の中心が、審判の足で地面へと激しく叩きつけられた。
     一見しただけでは分からない僅差。数人の審判係が綱の中心へと向かって走っていく。
     屈んで綱の中心を見つめる審判の手には定規。
     しばしの沈黙の後、審判が勝利を示す手を上げたのは……。
    「……っ!? やったぁ! やったね! 勝ったよ!!」
    「きゃーーっ!!!」
     イヅナと深愛は、思わず抱き合い、声を上げた。勝利したのは1A梅・4D椿連合だ!
    「はぁー、もうダメだと思ったけどなんとか勝てたぁ。良かったー!」
    「うー、釣り上げられた魚の気分……、水、下さい」
     勝ったななみと負けたあさひ。どちらもその場にバタンと倒れてしまう。
     お互い、力は出し切った。
    「……む、力及ばずか」
    「僕等が負けても第二第三の6F菊連合が必ず勝ちを得るッ! ……と、まあ好い物は見れたしオッケ!」
    「……そうだな。共闘に感謝する、絲紙」
    「あっは、此方こそだぜ」
     負けはしたものの、ニコと絲絵の表情もどこか清々しい。
    「負けた……完敗だ……」
    「おめでとうございます。はい、これをどうぞ」
    「えぇっと、これは……」
     1回戦敗退となっていた晃と友梨も、シソ味のコーラとドロリ濃厚なトマトジュースという微妙なラインナップのジュースで勝利チームの蓮璽を祝福する。
    「やったー!」
    「良かった! 本当によかったね!!」
     勝利の歓喜を上げ、1A梅・4D椿連合の面々は皆でハイタッチを交わす。特に、チーム全体を気にかけ、さり気なくではあるが皆で協調しようと努めていた鞴の活躍は、チームの勝利に大きく貢献した事だろう。
    「ありがとうございました、残りの日程も、お互いがんばりましょう」
    「……ああ」
     鞴と志命が、握手を交わす。
     どのチームが勝ってもおかしくない、どの試合も本当にいい試合だった。
     5月26日。本日は晴天なり。
     武蔵坂学園運動会、綱引きの種目は、1A梅・4D椿連合の勝利で幕を閉じたのだった。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月26日
    難度:簡単
    参加:21人
    結果:成功!
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