運動会~ウォーターシューティング

    作者:天木一

     5月26日。その日は少年少女が熱く競い合う一日。
     武蔵坂学園運動会の日である。
     それぞれ組連合に別れ、団結し、全身全霊をもって勝利を目指すのだ!
     一足早く、夏のような熱い日がやってこようとしていた。
     
     日差しの強いグラウンドで、貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)が銃を構える。真剣な表情で標的を見つめ、引き金を引いた。
     銃口から勢い良く水が噴出し、的となったゼッケンは溶けて破れた。
    「うん、これも問題ないな」
     手にした銃は、水色の透き通ったプラスチックで作られた水鉄砲だった。
     体操服を着たイルマは水鉄砲を並べ、グラウンドの片隅で試射をしていたのだ。
    「これでテストは終りだな。……だが何か問題が出ても困るし、もう少し試してみるか……」
     口元に笑みを浮べ、子供らしく楽しそうに水鉄砲を撃つ。水を補給しようとした時、そんな様子を灼滅者達が見守っている事に気がついた。
    「あっ……こほん。こんにちは。もうすぐ運動会だが、みなさんは何に出場するか決めただろうか?」
     誤魔化すように咳払いをして、頬を赤らめながらもイルマは説明を始める。
    「今回は競技として水鉄砲バトルがあるんだ。ちょうど暑くなってきたので、水を撒くのは熱中症対策にもいいかもしれないな」
     視線をやると、夏のような日差しがグラウンドを照らしている。
    「試合はこの水鉄砲を使用し、選手が装着する水で溶ける紙で作ったゼッケン、これを濡らして破れば勝ちだ」
     手にしたゼッケンを見せると、水鉄砲で濡らしてみる。するとみるみるうちに溶けて破れた。
    「チームは組連合ごとに別れてもらう。最後に残ったチームが1等だ。もちろん人数は力だ。参加者が多いほうが有利になる」
     チーム戦なので、参加者の多さは戦力の増強となる。だが少数でも活躍すれば個人賞は取れるかもしれない。
    「使う水鉄砲はこの3種類だ。ハンドガンタイプ、ライフルタイプ、バズーカタイプとなる」
     それぞれ性能が違い、ハンドガンタイプは射程が短いが、ポンプ操作が必要なく引き金を引くだけで撃てる。
     ライフルタイプは射程が長いが、水を補給した後ポンプを手で操作して圧力を掛けなければ水が飛ばない。
     バズーカタイプは射程も長く範囲も広いが、弾数が少ない。もちろんポンプ操作が必要だ。
    「この中から水鉄砲を1つ選んで使用する。フィールドにはバケツと人が1人隠れられるくらいの板を、何箇所にも用意してある。これを上手く利用できれば有利になるだろう」
     一気に説明を終え、イルマは息を吐く。
    「説明は以上だ。どんなことでも全力でやるから楽しめるのだとわたしは思う。だから勝利を目指していい試合にしよう」
     イルマは真剣な表情で熱く語る。運動会が楽しみで仕方ないという気持ちが伝わってきた。
    「わたしも微力ながらチームの力になるつもりだ、同じチームの方はよろしく頼む」
     礼儀正しく一礼すると、皆を見渡した。
    「では、これで解散だ。わたしはこれから教室に戻って、てるてる坊主を作る作戦に移る。当日みなさんと試合をするのを楽しみにしている」


    ■リプレイ

    ●水鉄砲バトル
     晴天である。澄み切った青空の下、グラウンドには熱気が宿る。
     グラウンドに大きく引かれた戦闘エリアの中に、150人近くの水鉄砲を持った戦士達が集まっている。
     それぞれがチームごとに配置に着いた。真剣な表情の生徒達。汗が流れ落ちる。
     スターターピストルの発砲音と共に、試合が始まる。

    ●1A梅組×2B桃組×3C桜組
     1A梅組連合が動き出し、2B桃組連合と出会い頭に交戦が始まる。
    「スタートダッシュを決めて、優位に立とうぜ」
     双葉はバズーカを温存しながら、まずはバケツの確保に動く。
    「高校最後の運動会を勝利で飾りましょう!」
     エルヴィラもバズーカを手に後に続く。
    「バスターライフルと違って射程が思ったより無いのが厳しいですね、その分工夫しがいがありますけど」
     蒼香は普段使う獲物との違いを楽しみながら、ライフルで敵を狙撃する。
    「ボールはノーコンだけど、ガンゲーは悪くないのよ!」
     司は女子の背を守るようにライフルで援護する。
    「本当は二丁欲しいところですが。まぁ、ルールですからね」
     片手にしかない銃を見て、公平は物足りなそうに呟いた。
    「さてと……これだけ離れれば安心かな」
     摩那斗は一人離れた板まで来ると、うつ伏せになってライフルを構える。
    「これでは逃げ場所がありませんね」
     グラウンドに引かれた戦闘エリアを見て理緒が悩ましげに頭を振る。
    「煉夜、煉夜っ、そっち頼んだよ!」
    「右ね、了解。そっちは正面、壁からくるっぽいぞ?」
     誰歌はライフルで、煉夜はハンドガンでお互いの死角を守るように敵を迎え撃つ。
     2B桃組連合も迎撃に動く。
    「そんじゃ一丁、友情パワーで勝利しちゃおうぜ、行くぞ野郎共!」
     小梅の掛け声に仲間達が一斉に声を上げる。
    「こういうのはちっちゃいあたしに有利だね!」
     澪は小さな体を活かし、人影や壁に隠れてはハンドガンを撃ちまた動く。
    「仲良しクラス、万歳万歳! ふふふ、皆で1位目指そうー!」
    「ボク達仲良しクラスのチームワーク、見せてあげるよっ」
     紗は元気に前に出る。瑞樹に合わせてハンドガンを撃ち、敵の霍乱を狙う。その隙に瑞樹はバズーカで敵を狙う。
    「わたしもがんばるよ」
     和佳も負けじと前線でハンドガンを撃って、後方の仲間を援護する。
    「いやー、なんかこういうの童心に返るよねー。たまにはいいね」
     武は素早く近くの板まで進むと、仲間が到着するまで、敵を牽制する。
    「こんな大規模な水鉄砲始めてだなぁ。気合入って燃えてくる!」
     悠矢はハンドガンを手に、砲台班の背後を警戒しながらも、大勢の水鉄砲戦に目を輝かせていた。
    「ここを通りたくば、僕を倒してからいけーっ」
     両手でしっかりとハンドガンを握る響斗は、仲間を守る為に正面に立つ。

     両者の戦力はほぼ互角、だがその二つの集団の争いに乗じて、3C桜組連合が側面から襲い掛かる。
    「ふっ、戦場で動きを止めるなんて殺して下さいと言ってるようなものなんだよ」
     凪は大胆に遮蔽物を移動しながら近接し、女子の胸を狙い撃つ。
    「右60°に1人」
    「落とす」
     白焔は緋頼の指示する相手を正確にライフルで狙撃し、一人二人と脱落させる。
    「白焔さんは出来る限り守りますから」
    「ああ、任せる」
     白焔が守り、緋頼が攻める。2人は息の合った連携で戦場を駆ける。
    「……しかし水遊びなんて本当に久しぶりだ」
     ヴァイスは昔よく施設近隣の川で泳いだのを思い出す。射程を活かし、ライフルの射程ぎりぎりで立ち回る。
    「これでバケツ確保っすね」
     真心は戦うよりも、補給のバケツを集める為に奔走する。
    「夕鳥! 今です!」
    「よォし、任せなァ!」
     敵を引きつけた社が声をかける。待機していた夕鳥がバズーカを撃ち放った。2名がその被害となった。
    「やったぜ、社ォ! この調子でいこうぜェ!」
     喜ぶ夕鳥。だが次の瞬間その笑顔が凍る。見ればライフルの狙撃で社が撃たれていた。
    「すいません、夕鳥。あとは任せました……」
     社は苦笑して戦場を去る。
    「あっ水尽きた、やべぇ……!」
     そう言って民子が引っ込んだ板からバズーカを構えた供助が現われる。
    「ヘイボーイズ、ご機嫌は如何だ? 俺は、最高にうきうきしてるぜ」
     それは敵を引き付ける為の罠。バズーカから水が一斉に解放たれた。3名がその攻撃で脱落する。
    「行くよ、紅鳥!」
    「前衛は任せろ」
     翔はライフルを持って呼びかけると、紅鳥はハンドガンを手に前に出る。
    「水風船が使えたら無差別攻撃できて楽しそうなんですけど」
     残念そうに菫は板に隠れ、油断している敵をライフルで撃つ。
     最初に全滅したのは1と3に挟撃される形になってしまった2B桃組だった。
    「皆にかかる位なら僕が被る~!」
     悠矢が仲間を庇うように水を受ける。だが戦況を覆す事は出来ず、最後に残った瑞樹も討ち取られ2B桃組は最初の敗退チームとなった。
    「負けちゃったー!」
     悔しそうな声がグラウンドに響く。

    ●5E蓮組×6F菊組
     5E蓮組連合はまず板とバケツの確保に走る。6F菊組連合も同じくバケツを確保する為に動き出した。隣り合うチームが同じ行動に出たのだ、遭遇は必至だった。
    「あ、イルマ? 同じチームだっけ。MVP目指して頑張ってね」
    「はい、皐月さんもMVP目指してがんばってください」
     気さくに話しかける皐月にイルマも会釈する。
    「いや私はほら1人でテキトーにやるしまさか取れるわけ無いって」
     笑いながら皐月は手を振った。
    「ほらほら、早くしないと板、取られちゃいますよ!」
    「任せろ、俺達に隙は無いぜ!」
     霞と空哉はライフルを交互に撃つ事で、攻撃が途絶えるのを極力避ける。
    「さぁ行きましょうか九条さん。楽しんでいきましょう」
    「うん、川西くん。いっぱい楽しもうね」
     楽多が笑みを浮べると、茜もまた笑って返す。二人はライフルを手に敵に向かう。
    「まずは板とバケツを確保しないとね」
     飛鳥は仲間が確保に向かう板に近づく敵を、バズーカの砲撃で牽制する。
    「水流弾を食らえ!」
     そこに源氏星が飛び込み、ハンドガンで襲撃する。
    「了解した、攻撃を開始する」
     イルマも後方からライフルで援護する。
    「やるからには真剣勝負だ。勝ちにいくぞ」
     昴は剣を扱う時のように、本気の顔を見せる。
    「よし、ここを陣取るかな……っと」
     アルレットが敵を狙いやすい板に隠れ、狙撃を始める。放物線軌道も計算に入れ放った水は正確に敵のゼッケンに命中した。
    「時間稼ぎは頼みましたヨ、メルキューレ!」
    「ラルフさんこそ、ちゃんと援護を願いしますよ」
     ラルフとメルキューレはバズーカの敵を狙う。ラルフがライフルを撃ち、交代で撃っては補給を行う。
    「まずは相手の火力を潰さないとな」
     ハンドガンを手に百鳥奏は大物の獲物を持った敵を狙う。
    「いやー、眼福眼福」
     ナハトムジークは目立たないように動き、濡れた女子生徒の観賞をしていた。

     6F菊組も攻勢に出る。
    「大丈夫だ、オレ達には団子の神がついてる!」
     みたらし団子を頬張る遊は自信満々だった。
    「楽しく遊ぶぞー!」
     あさひは爽快に楽しめそうだとバズーカを選んでいた。
    「僕の攻撃、見切れるかっ!」
     男子用のジャージを着た来栖は素早く動き回り、ハンドガンを撃つ。負けたくないと、真剣だ。
    「たまには太陽の下で健康的に過ごすのがいいですわ!」
    「……ここまで来たら仕方ないですね」
     ベリザリオの言葉に、日陰に隠れていた所を拉致された織久は、溜息混じりに返事をする。
    「いや~、高校生になって水鉄砲で遊ぶことになるとはね」
     響は楽しそうに笑みを見せてライフルを構えた。
    「まずは味方の援護だ」
    「そうだねー、そんな銃上手な訳じゃ無いしー」
     昴と神楽のコンビは援護に回る。
    「田所! 三時方向、敵バズーカ1!」
    「分かったわ! 返り討ちにするわよ」
     バケツを確保する武は敵の襲撃を告げ、それに反応して一平はライフルで迎撃する。
    「やっべ、急いで補給に行かねぇと!」
     遊はハンドガンを撃ち尽くし、弾が無い事を周囲に聞こえるように声を出しながら補給に向かう。
    「よし来た来た……引き寄せてくれてサンキューだ、七瀬」
     そこを狙おうとした敵を玲のバズーカが迎え撃つ。
    「七瀬君、左方にスペース空いてますよ! 立ちはだかる人は片付けますので、そこから反撃です!」
    「了解、手加減一切無しで行くよっ!」
     ライフルで後方から支援していた嘉月が指示すると、由宇その声に合わせて敵をライフルで撃つ。
    「ハンドガン組を援護するよ」
    「そう簡単に味方やらせるかよっ♪」
     駿河香と柚來は共に迫る敵に向かいライフルを構える。
    「圧倒的じゃないですかー我がチームは!!」
     弥生が近づく敵に向かいバズーカを撃つ。
    「油断したらダメだよ」
     同じくバズーカを持つ歩夏は、弥生のフォローを出来る位置取りをする。
    「次の弾は撃たせないよ!」
     敵の攻撃を隠れてやり過ごすと、セリルは突撃する。敵が次弾を放つよりも速く、ハンドガンを撃つ。
     互いの戦力はほぼ同じ、戦闘は拮抗し一進一退の様相となる。

    ●4D椿組と7G蘭組
     争う5と6。その反対側に位置する4D椿組連合と7G蘭組連合は戦力で劣る勢力だった。だからこそこれを好機と背後を突く行動に出る。
     4D椿組は5の背後に襲い掛かる。
    「平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都、おして参る」
     銀都が名乗りを上げる。ハンドガンを手に仲間を守る。
    「お、いたいた」
    「迷子になるなよ」
     沙雪は笑顔で武流と合流すると、互いの背中を守るように共に進む。
    「ロックオン! はいそこ、いただき☆」
     あるなはその2人を狙おうとする敵を狙撃した。
    「こちらから攻めた方が効率的だ」
     煉は低し姿勢で板へと走り出す。その動きには迷いが無い。開始前に戦場を見て、どう動くかシミュレーションしていた。
    「隙ありぃーー!」
     朔之助がこっそり接近してハンドガンを撃つ。
    「開幕ドッカーン!」
     実里は先手必勝とばかりに、敵の多い場所にバズーカを撃ち込んだ。
    「邪魔はさせないよーっ♪」
     ゆりあは実里を攻撃しようとする敵をライフルで狙う。
    「そうはいきませんよ」
     仲間を狙う敵に才蔵はハンドガンを向ける。
    「女性を狙うのはいかがなものかと」
     そう告げると笑顔で引き金を引いた。

     反対側の7G蘭組は6へと襲撃を仕掛ける。
    「全力で、楽しむぞ!」
     ハンドガンを手に有斗は戦場を動き回る。撃っては逃げ撃っては逃げ、敵を霍乱する。
    「射的なら負けないわよ!」
     背を仲間に預け、弓と勝手の違う水鉄砲を沙紀は巧みに操る。
    「まずは弱いところから叩く!」
     アンカーは女子や小学生の倒し易そうな相手を狙う。
    「脇が甘いですね……勝たせていただきます」
     恭乃は低い姿勢で敵に突撃する。襲い来る水を潜り、近接距離から手にしたハンドガンを撃つ。
    「じっと待つのも狙撃兵の基本なのだよ」
     ジュラルはそう言いながら、遮蔽物の陰から女子の体操服が水で濡れるのを凝視していた。
    「スナイパーってのはな、一撃に全てを賭けてこそなんだぜ……!」
     高明は死角からライフルで狙撃する。そしてすぐさまポジションを変え、相手に的を絞らせない。
     挟撃を受けた5,6は戦いを休止し、反転してそれぞれ逆襲に転じる。

    ●8H百合組×9I薔薇組
     8H百合組連合は倍近い戦力を持つ9I薔薇組連合の襲撃を受けていた。
    「後ろからくるぞ、気を付けろ」
    「行こう巧くん!」
     巧と茉莉はハンドガンで機動性を活かし、敵に突撃し撹乱する。
    「死角は受け持つ、存分に暴れるといい」
     アンセムがその2人のフォローに回る。
    「まずは……一人」
     ライラが突撃する3人の後ろで、乱れた敵に対して冷静に狙撃を始める。
    「堂々としていれば、参加者とは疑われませんよね」
     小次郎は報道班の腕章をつけて参加する。そう、狙われはしなかった。ただ戦場では流れ弾がつきものなだけで……。
    「ええ!?」
     問答無用のバズーカの水が小次郎のゼッケンを破った。
    「その程度の攻撃では私は落とせません」
     ラインは小さな体で戦場を駆ける。板から板へと身を隠し前線を走り回る。
    「へへ、隙ありっス」
     板に隠れていた颯人は、近づいてきた敵に奇襲を掛ける。
    「こ、こんな激しい競技だって思わなかったよ~、あうう……」
     白奈は板に隠れながら敵が来ませんようにとライフルを抱く。

     9I薔薇組は上手く連携して8を追い込んでいく。
    「いいか、ここは戦場だ! そして貴様らは兵士だ! 戦果の出せない奴は役立たずだ! 地球上で最下等の生命体だ! 貴様らは人間ではない! 両生動物の……」
     叱咤激励する寧美は、ビキニで出場しようしたが、運営委員に注意を受けしぶしぶ体操服に着替えていた。
    「戦場とは、それまで積んできた事の帰結よ。戦いに至るまでに何をしたかで決まるわ。後は、雪合戦の時みたいに私の指揮を信じて」
     逢紗はクラスの仲間を信頼して指示を出す。
    「ストちゃん、ちょと手伝って!」
    「分かりましたわ」
     結月はストレリチアに声を駆け、二人はハンドガンを手に前に走る。襲い来る水を避けながら、敵に突っ込む。
    「風邪をひきたい奴は掛かってくるといいのじゃ! にゃははは!」
     笑い声と共に、仲間に誘導された敵に向かいシルビアはバズーカを撃つ。
    「一発必中一撃必殺」
     星流は人の流れを俯瞰するように見る。手にしたライフルはまるで腕の延長のよう、放たれた水は放物線を描き、敵のゼッケンに命中した。
    「やるからには……勝たせてもらいましょうか」
     ハンドガンを手に、獅子は戦場を駆ける。無駄弾を使わず、被弾を避けるために半身で構える。
    「これでも喰らえ!」
     バズーカを構え、撃つ真似だけをして敵を牽制するのは殊亜だった。バズーカの存在はそれだけで抑止力となる。
    「殊亜くんは私が守るからね」
     その背後で紫は死角を無くすようにハンドガンを構えた。
    「目標補足……射出」
     雪紗は姿勢を低く、ハンドガンの狙いを付け軌道を演算する。
    「山育ちを舐めないでもらおうかしら?ゲリラ戦ならお手の物よ」
     巫女はライフルを構えたまま板に隠れじっと動かない。目の良さを活かして、射線に入った敵を狙う。
    「リューネ・フェヴリエ! 乱れ撃つぜぇぇぇ! ……なんてな♪」
    「背中は俺に任せろ!」
     ノリノリのリューネと、背後を守る太一が動きやすいハンドガンを手に敵陣へ突っ込む。
    「僕もお供するよ」
     劔はその2人に続き、2人を狙おうとする敵をライフルで狙う。
    「こんな乱戦や、隠れても意味あらへん、追い撃つんが正解や」
     右九兵衛はライフルを手に仲間と共に攻勢に出る。孤立した相手を狙い、水を撃ち込んだ。
    「動き回っていれば早々、あたるものでは……無いと思うのですがねぇ……」
     流希はサバイバルゲームのように戦場を動き回りライフルを構える。だが射線に敵の女子が居ても発砲しなかった。
    「いやはや、ゲームとはいえねぇ……」
     そう言うと、狙いを他の男子へと変える。
    「夏奈ちゃん、摩那斗さんは後ろから狙ってるらしいから気をつけてね」
    「うん、摩那斗先輩と出会っても今回は敵同士だから負けられないよね。一人じゃ無理でも二人ならきっと大丈夫♪」
     織姫と夏奈はおーっと元気良くハンドガンを揚げた。
    「俺が的になるよ。後は、頼んだ」
     蓮司は遮蔽物を利用しながら囮となる。邪魔にならないハンドガンを手に、避けては撃つを繰り返す。
     濡れて透けても大丈夫なようにアルクレインは体操服の下にノースリーブのシャツを着ていた。
    「背後ががら空きですよ」
     蓮司を狙う敵の背後を取り、アルクレインはハンドガンでゼッケンを撃つ。
     戦力に劣る8は前線を維持出来ず、崩壊する。

    ●抗争
     各チームが戦い始めた頃、グラウンドの片隅でTYY同好会内で戦闘が行なわれていた。
    「生き残った勝者にはケーキ、もしくは昼食を、という事で」
     エアンはライフルの射程を活かし、遠距離から奏恵を攻撃する。
    「ケーキの為に、覚悟ー!」
     奏恵は元気一杯にライフルを撃ち返す。勝利すれば奢ってもらえると、やる気十分だった。
    「ガツンといくよ!」
     バズーカを担ぎ、桜子が楽しそうに春翔を追いかける。
    「早々の退場だけは避けたいところですが……」
     遮蔽物に隠れた春翔は、ハンドガンを手にどう対処しようか考える。そこに戦闘中のエアンと奏恵が雪崩れ込んで来た。
     桜子がその2人に向かいバズーカを撃つ。エアンは水浸しになり、奏恵が退く。そこを追撃しようとした桜子に春翔は近づき発砲した。
     振り向いた春翔の視線の先には、ハンドガンの射程外でライフルを構えた奏恵の姿があった。
     宵空もまた違う場所でクラブ内で対決が始まっていた。
    「まずは内山と衣幡の連携を何とか崩せないものか……」
     離れた場所から葵は敵の動きを探る。ちょうど2人に近づく要の姿が映った。
    「由比が来たわよ、内山!」
    「了解です!」
     ライフルを構えた七の言葉に弥太郎は、初めての水鉄砲に慌てながらも水を飛ばす。
    (「僕が参加してるとは気付くまい」)
     内緒で参加していた朔之助が、襲撃しようと戦う3人に忍び寄る。
    「あっあそこに超隙のあるカモが!」
     それは要の声。何とか2人の連携を崩せないかと咄嗟に出た適当な言葉だった。
    「だ、騙されてなんかやらないんだからー!」
     そう言いながらも七は好奇心に負けて誰も居ないはずの場所へ目を向ける、だがそこには朔之助が居た。
    「え? ……はっはっは! 助っ人参上!」
     開き直りカッコつけるところに七と弥太郎から水が飛来する。片方は避けれたがもう一方がゼッケンを濡らした
    「あー! 登場したばかりなのに……」
     その隙に要は近づき七のゼッケンを撃ち抜いた。
    「衣幡先輩! この!」
     弥太郎と要は同時に撃つ。ゼッケンが破れたのは要だった。
     だがその瞬間、弥太郎は背後から撃たれた。
    「油断大敵、だな」
     振り向いた先には葵が勝利の笑みを見せていた。
     Hawk-Eyeでも仁義無き戦いが繰り広げられる。
    「背中は任せたぞ樹」
    「なんとも守り甲斐の無い背中ですが守らせて頂きましょう」
     明雄と由乃は二人で動く。遮蔽物を利用して敵を狙う。
    「この声は黒山と樹か、勝つのはわたしたちだ! 行くぞ祁答院!」
    「ああ、待ってろアキオ! 貴様を倒して俺が組織のボスになる!」
     五十里香と在処はハンドガンを手に、声のした方へ突っ込む。先手は由乃のライフル。ハンドガンの射程外からの攻撃に、迂闊に近づけない。均衡を破ったのは側面からの声。
    「事もあろうに親へチャカを向けようなんざァ、不義理な子分で申し訳ねえ」
     娑婆蔵は明雄へ疾走する。
    「シャバゾー先輩、危ないです」
     そう言ってアデーレが娑婆蔵の袖を引っ張る、その場所に由乃からの水が通り過ぎた。アデーレがバズーカを撃つ。その水は由乃を直撃した。
     好機と五十里香と在処が突撃する、明雄もハンドガンで撃ち合い、五十里香が被弾した。そこに娑婆蔵が突っ込む。
    「邪魔するんじゃねぇ! ボスになるのは俺だ!」
     在処がその娑婆蔵に向けて発砲。睨み合う2人、アデーレが在処にバズーカを撃つ。在処は回避するが、その先に居たのは銃を構えた明雄。
    「惜しかったな」
     引き金が引かれ、在処が脱落した。そこに娑婆蔵が仕掛ける。だが明雄も反撃し、お互いの弾は同時にゼッケンを破った。
    「シャバゾー先輩のことは、忘れません」
     最後に残ったアデーレは別れの言葉を言う。だが次の瞬間その頭上から水が降り注いだ。
    「戦場じゃあ油断した奴から死んでいくんだ」
     いつの間にか巨体が背後に現われていた。ジャックは撃ったバズーカを担ぎ、次の敵を探す。

    「あっぶな……」
     レンヤは咄嗟に屈んで水を頭に受けた。走り去る人物の後ろ姿は毅のもの。
    「レンヤと毅はどこかなーって、後ろから気配……!?」
     鎮は焦って振り向く拍子に転倒する。毅がライフルから放った水を、偶然にも顔で受け止めた。
    「……ふ、俺を本気にさせたな!」
    「ちょ、ま、まってか、篠森キャラかわって!」
     鎮の反撃に毅が後退する。
    「Bang!」
     追ってきたレンヤが争う2人を発見し、にっこりと引き金を引いた。
     2人もそれに反撃を行なう。結果三者共ゼッケンを破られたのだった。
     うさねこ寮の面々が戦い始める。
    「いっくよーーーーー!」
     白兎は元気良く駆け出す。
    「他のヤツにやられるくらいなら、いっそわいが……っ!」
     黒咲が狙うのは彼女である白兎。濡れた体操服というお色気イベントを期待しているのではないと、自分に言い聞かせながら引き金を引いた。
    「きゃっ冷たい」
     体操服を濡らす白兎の姿に、黒咲は小さくガッツポーズを作った。だがその隙に大量の水が頭から降りかかった。
    「Ja! バズーカ・ローゼ参上デース!」
    「ローゼマリーさん、周囲の警戒は任せてくださいね」
     ローゼマリーがバズーカで黒咲を仕留め、その横でハンドガンを構えたイヴリアは周囲を警戒する。
    「MVP狙って頑張ろうね!」
     御凛はライフルを構え、隣に並ぶ討真を見る。
    「そうだな。しかし、教会の異端審問局で幾多の戦場を駆け抜け、死と隣り合わせだった俺にサバゲーとは……」
     討真は少し本気を見せてやると、討真は笑みを浮べてハンドガンを手に、御凛と共に駆け出す。
    「よう、組んで戦おうぜ」
    「構いませんよ、では、私が援護しますね」
     バズーカを担いだ志艶が誘うと一樹が承諾し、2人で共闘する事となる。一樹は向かってくる討真と御凛を迎え撃つ。
     一樹と御凛がお互いライフルで牽制し合う。そこに一気に突っ込んだ討真が一樹のゼッケンを撃ち抜く。志艶はバズーカで討真を狙う。発射された水を避けようとした時、射線上に御凛が居ると気付き、そのまま水を浴びる。
    「このっ! あんたは絶対落とす!」
     御凛が怒り心頭でライフルを撃った。それは正確に志艶の胸に吸い込まれた。
    「銀麗、一緒に舞いましょう」
    「ん、一緒に、舞う」
     苺と銀麗は神楽のように舞い踊る。ローゼマリーとイヴリアに向けて息を合わせハンドガンを撃つ。
    「我がゲルマン帝国の素晴らしい射撃術を見よー!」
     ワルゼーはライフルで援護する。
    「撃たせる前に止めるのですー!」
     体操服の下に水着を着込み、準備万端の月夜は近づかれる前にライフルを撃つ。
     ローゼマリーとイヴリアは板を盾にして反撃する。
    「狙うトキは一度にマトメテデス!」
     バズーカの水が苺と銀麗に襲い掛かる。苺は難を逃れたが、銀麗はびしょ濡れになった。イヴリアとワルゼーの放った水がお互いを撃ち、2人のゼッケンは破れた。
     残ったのは苺と月夜、そして2人は御凛と遭遇する。
     苺が舞いながら銃を撃つ。御凛が射程外に逃れライフルを構えた。庇うように月夜がライフルを撃つ。水が交差しゼッケンが破れたのは月夜。そこに苺が突進し御凛のゼッケンに水を撃ち込んだ。
    「勝ちました!」
     うさねこ寮で最後に残ったのは苺だった。
     ちゆとこのはの2人は勝った相手の言う事を聞くという勝負をしていた。
    「僕が守ってあげるよ、可愛い人」
     そんなちゆの目に入ったのは、勝負中だというのに、このはが他の女子に声をかけている場面だった。
    「……まったく、この人は」
     ちゆは怒りに拳を握る。そして傍にあるバケツを手に取った。
    「天津水さん」
     怒りのままに、バケツの水を頭から掛けた。

    ●混戦
     戦いは中央で激しくなり、どのチームも徐々に人を減らしていく。
    「先輩方、攻撃はお願いしまーす!」
     沙季は小動物のように動き回り、飛び交う水を避ける。
     違うチーム同士であるが、沙季は奏、瑞希、小夏のトリオと協力して戦っていた。
    「6時の方角、瑞希頼んだっ!」
    「水なんだけどファイヤー!」
     九湖奏の指示に瑞希は手にしたバズーカをぶっ放す。
    「2時の方角より銃撃! 総員回避ー!」
     小夏の声に皆は一斉に回避運動に移る。息の合った動きで戦場を駆ける。
    「外法院・ウツロギ。颯爽登場!」
     敵味方入り乱れる中、ウツロギはイルマを強襲する。ライフルを片手持ちで照準した。
    「甘ぇよ……!」
     肉薄した刺客を狙撃して撃退したのはアルレットだ。
     その射線を避け、更に飛び出して来たのはカイジ。銃口をイルマに向ける。だが横から降り注ぐバズーカの餌食となった。
    「戦場で俺に出会うたあ運が悪かったな」
     撃ったジャックが不敵に笑う。
    「……っははっは、濡れたな……っへっくしょん!」
     濡れたカイジはくしゃみを残して退場した。
    「うん、ここならよく見える。みんなの背中にあるゼッケンが……それじゃ、いただきます」
     射線に居る敵に向かい、引き金を引いた。その先には夏奈が居た。
    「夏奈ちゃん危ない!」
     織姫は夏奈を庇い被弾する。
    「織姫ちゃん! 摩那斗先輩覚悟だよー!」
     夏奈は勢い良く突撃し、ハンドガンの射程まで避けながら駆け込む。両者から放たれた水が交差するようにお互いを撃ち抜いた。
     戦いは終盤に差し掛かり、敗退するチームが出始めた。
    「わらわはまだ戦えるぞ! 水が掛かっただけではないか」
     最後に残った白奈も、健闘したが2名を倒したところで敗れ去り、8H百合は敗退する。
    「もう誰も残ってねーのか」
     周囲を見渡した高明はチームに自分しか残っていないのを知る。身を隠し、周囲を窺うと水に濡れた女子生徒が場外に移動している姿が、思わずじっと見てしまう。
    「そのゼッケンもらいます」
     背後からぬうっと現われた織久が高明の背を撃つ。それが7G蘭の最後だった。
    「こんな所に隠れてたの?」
     それをベリザリオに見つかり前線へと引きづられていく。
    「ちっ……4D椿は後何人……」
     被弾した煉は身を起こし周囲を見やる。すると既に周囲に仲間は誰も居なかった。自分が最後の一人だったのだ。
     同程度の戦力が残った1A梅、3C桜がぶつかり合う。
     双葉とエルヴィラがバズーカで砲撃すると、緋頼と白焔が反撃する。公平と司が襲撃し、ヴァイスと紅鳥と翔が迎撃する。激しい戦いに脱落者が次々と出る。
     最後に残ったのは白焔も、移動中に他連合の敵に見つかり相撃ちで倒れた。

    ●決戦
     残ったのは5E蓮連合と6F菊連合と9I薔薇連合の3勢力。
    「決戦ですね、行きますよ」
    「今日一番のショウを始めますヨ!」
     メルキューレとラルフが銃を手に攻撃を始める。
    「そろそろフェイズ2、いこっか?」
    「OK! いっちゃん! 勝負だ! 負けたら帰りにラーメンおごりね!」
     その一平の言葉に、仲間の援護をしていた匡は、気合を入れてライフルを手に走り出す。
    「さぁて、準備は万端……一丁派手にやるかぁっ!」
     待ってましたと、倭も大きな声と共に防衛から攻勢に移る。
    「俺は仲間を信じている!」
     武はバケツの確保に専念して、補給線を守り続ける。
    「死なば諸共ぉ!」
     駿河香は追い込まれ相撃ち狙いで突っ込んだ。
    「これで仕上げね。総攻撃! ここを制圧するわよ!」
     逢紗の声に一斉に9が動き出す。
     シルビアと蓮司は囮として突撃する。
    「ふふ、今日の私は絶好調です。当てられるものなら……当ててみてくださいね」
     紫は向かってくる敵を一人二人と返り討ちにする。だがその視界に殊亜を狙う敵の姿が映ると、自然と体が動きその身で庇い水を被る。
     目を閉じ、体操服が濡れ水が滴る姿に思わず殊亜が見蕩れた。その隙に敵の次弾がゼッケンを破る。
    「あ……」
    「もうっ殊亜くん!」
     濡れた体操服を腕で隠しながら怒る。そんな姿も可愛いと思いつつ、殊亜は紫に平謝りするのだった。
    「そこで眠ってなぁ!」
     皐月が迫る敵を撃ち倒す。霞と空哉がそれに続き、ジャックとイルマが後方から援護する。
     それを一平と歩夏と匡が迎え撃ち、弥生と由宇が牽制する。更にはストレリチア、結月が強襲し、シルビア、リューネ、太一、劔がそれを援護する。
     三つ巴の戦いは目まぐるしく攻防が入れ替る。次々と脱落していく中、残ったのは源氏星、弥生、巫女と各チーム1人だけだった。
     互いが動きを止め睨み合う。最初に動いたのは源氏星。ハンドガンを手に一気に距離を詰めようとする。迎撃したのは弥生、バズーカで一気に落とそうとした。源氏星はそれを避ける、だがそこを巫女のライフルがゼッケンを撃ち抜いた。巫女は素早く弥生を狙う。弥生は被弾した源氏星を壁にするようにして、引き金を引いた。

    ●優勝
    『三位5E蓮連合、二位9Ⅰ薔薇連合、そして優勝は6F菊連合です!』
     アナウンスが流れ歓声が起こる。
    「やったぜ! 団子の神のお陰だな!」
    「皆、気持ちよかったねー!」
     遊はみたらし団子を頬張り、あさひは陽気に笑う。
    「武!」
     弥生は背後からバケツを持った武の肩をぶつかるように叩くと、水が跳ね2人を濡らす。
    「勝った! 僕の方が一人多いよ、ラーメンおごりだからね!」
     匡の言葉に一平は仕方ないわねと笑う。勝利した皆が喜びを分かち合う。
    「試合には負けてもうたけど、しかしまァ濡れた女の子っちゅーのはよろしおすなー、クギャギャギャ!」
     右九兵衛は女子を見ながら満足そうに笑う。高明、空哉、ナハトムジーク、このは、ジュラルは一斉に同意した。
    「こ、こらぁっ、こっち見るなー!」
    「こら、男子! こっち見ない!」
     霞と御凛がそんな男子に向かい水鉄砲を撃った。ちゆがこのはの耳を引っ張っていく。
    「あー惜しかったぜ」
    「それでも三位だよ」
     源氏星が悔しそうにしているのを、飛鳥が肩を叩く。
    『MVPは9Ⅰ薔薇連合のシルビア・ブギ選手です!』
     その声に連合の仲間が一斉にシルビアをもみくちゃにする。
    「やった! やったのじゃ! にゃはははは!」
    「おめでとうですわ、しぃ」
    「わぁ! シルビアちゃんおめでとう!」
     ストレリチアと結月が真っ先に抱きついた。
     勝った方も負けた方も、皆楽しそうに笑っている。イルマも笑い空を見上げた。
     そんな眩い日に照らされたグラウンドの光景を、教室の窓に吊るされたてるてる坊主が笑顔で見守っていた。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月26日
    難度:簡単
    参加:143人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 17/キャラが大事にされていた 7
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