闇刻の迫る影に脅え

    作者:幾夜緋琉

    ●闇刻の迫る影に脅え
    「……これでよし、っと。ふぅ、疲れたー。と、もうそろそろ終電かぁ。帰らないとな」
     うーん、と大きく背伸びをしながら、まだまだ20歳代位の若い教師が学校を出る。
     その手には鍵……全部の戸締まりを行い、人が居ない事を確認してから、校門の外に出る。
     スライド式のバリケードの様なモノを閉じて、そして鍵をガチャリとしめる。
    「終わった終わったーと。んじゃ帰るかねー」
     彼が振り返った……その時。
     左から、右から……うううう、と呻き声を上げながら現われるゾンビ達。
     彼へとじりじり迫り寄るゾンビ達に、彼は。
    「な、なんだよあれ……うわ、こっち来てるっ!?」
    『うぅぅ……』
     更なる呻き声を上げるゾンビ……ゾンビらは、空虚な視線の中に、彼へ仕掛けようとしていた。
     
    「みなさん、集まった様ですね……? では……説明を、始めさせて頂きますね……?」
     園川・槙奈は、集まった灼滅者達を一旦見渡し、こくりと頷いて説明を始める。
    「みなさんに今回、お願いしたいのは……ダークネスのノーライフキングの力により現われたゾンビ達から、学校の皆さんを救ってきていただきたいのです」
    「ゾンビという事で、少し油断してしまうかもしれませんが……今回の特に注意しなければならない所は、混乱に陥っている一般人を守りながら、10匹の周りから襲いかかってくるゾンビを倒さなければならないという所です。守りと攻撃を並行して行わなければならないのです」
    「しかしこの一般人……学校を閉めようとする教員の方を事前に守ろうとすると、バベルの鎖によって自体は変わってしまいます。なので、彼が仕事を終え、学校から退出する瞬間を狙い、彼を護る様にして下さるようお願いします」
     そして続けて槙奈は、細かい状況の説明を付け加える。
    「先ほども言った通り、相手になるのはゾンビ達……ノーライフキングの配下に当たるゾンビ達です。彼らは理由は分かりませんが、この教員の先生を隙あらば狙おうと仕掛けてくる様です」
    「又その数は10人……実力は皆様とほぼ同等ですが、数の暴力に加え、皆さんには守るべき一般人の方が居る、という事を忘れないで下さい」
    「後は……勿論ではあるのですが、時間は夜中……周りに灯りはぽつり、ぽつりとある程度です。そのままでは戦闘にも支障があると思いますので、灯りの用意もお忘れ無い様、お願いしますね……?」
     最後に槙奈は、みんなを見渡して。
    「私はこうして、みなさんを見送る事しか出来ません。だからこそ、心からみなさんの安全を願っています。どうか……お気を付けて、行ってきて下さいね」
     と、小さく頭を下げた。


    参加者
    東雲・由宇(女子力を求めし者・d01218)
    氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)
    灯火町・燈(愛の灯のライト・d03566)
    九条院・那月(暁光・d08299)
    小田切・真(少尉・d11348)
    宗像・陽心(鉄なる護り手・d11736)
    月村・アヅマ(蒼炎旋風・d13869)

    ■リプレイ

    ●闇の足音
     槙奈の依頼を受けた灼滅者達。
     深夜の帳が落ちた、不気味な雰囲気を醸し出している学校の影を見上げながら、灼滅者達は急いでいた。
    「……しかし、何故この方は、ゾンビに狙われているのでしょう? ……ゾンビに恨みを買うとしても、どうやったら出来るのかしら。気になりますわ……」
    「そうですね、確かに。ノーライフキングが仲間集めの為に襲ったのか、もしくはただの気まぐれかは解りませんね」
     エルディアス・ディーティアム(金色の月・d02128)に、小田切・真(少尉・d11348)が小首を傾げる。
     確かにノーライフキングが何故、今回のターゲットである若い教師を襲うのかは解らない。
     しかし一般人の彼が命の危機に陥っているのは間違い無い訳で、それを助けなければならないのは灼滅者としての義務。
    「背景は確かに不明だ。しかし命を脅かす可能性があるというのなら……必ず教員は守り切らないとな」
    「ええ。終電近くまで頑張っているなんて、凄く頑張ってると思います。そんな人が命を落すなんて可哀想だから、いろはも微力を尽くすつもりだよ」
    「ええ……そうですね、頑張りましょうね、皆さん、宜しくっす」
     宗像・陽心(鉄なる護り手・d11736)、いろはに灯火町・燈(愛の灯のライト・d03566)が次々と声を上げる。
     でも、その一方。
    「またゾンビかぁ……」
     うんざりした様な表情を浮かべてしまうのは、氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)。
    「ん……どうしたの? 何だか浮かない顔ね?」
    「そうね……この前の地獄合宿でゾンビはこりごりって思ったのに……またゾンビかぁ、って」
    「ああー……確かにそうね」
     東雲・由宇(女子力を求めし者・d01218)と互いに顔を見合わせ、はぁぁ、と息を吐く。
     先日の梅田のゾンビを大量に相手にする地獄合宿。余り思い出したくない感じもする。
     そんな二人に、クリス・ケイフォード(小学生エクソシスト・dn0013)が。
    「……聞いた限りだと、地獄合宿じゃなくって、地獄で合宿だった、とか聞くけど……本当だったんだね」
    「ええ。正しく地獄で合宿だったわ」
     でも、ゾンビを倒すべきというのは理解している訳で、武器を取るしかない。
    「まぁ何だ。俺に出来るのは灼滅する事だけだけど、そのままでいるよりはよほどマシな筈だろ? ……向こうも好きで、ああなった訳でもないだろうしさ。荒っぽい『葬り方』になるけど、勘弁してくれよ」
    「そうだな……だが、下手に注意を外さない様に、皆注意しろよ。ゾンビは前からしか来ない、という訳でも無いだろうしな」
     月村・アヅマ(蒼炎旋風・d13869)に九条院・那月(暁光・d08299)が頷き、そしてあすか、真も。
    「そうですね、注意しないと。今回はただ倒せばいいって言う訳じゃないし、頑張らないとね」
    「ええ。目の前で襲われそうになっているのを見過ごす訳にはいきません。一般人を救出任務とし、遂行を目指しましょう」
     と決意を確固たるものにして、そして灼滅者達は学校の校門へと急ぐのである。

    ●解せない声近付きて
     ……そして学校前。到着すると、丁度学校の校門から出て来る一人の姿。
     槙奈から見せて貰った教師という写真と同じ顔……周りの仲間達も確認するのを頷いて。
    「急ぎましょう!」
     誰かがそう声を上げると共に、灼滅者達は教師の下へ急行、その周りに配置。
    『ん……な、何だ君達は?』
     戸惑った風の声、対し灼滅者達は、じっと……校門から続く二つの方向へと注意を向け、更に各自用意したライトを点灯。
     ……すると、両方向から現われるゾンビ達、その数10匹。
    『ひ、なんだよあれ!? 人じゃねーだろ!?』
     誰もがうつろな表情で、ううう、と呻き声を上げながら灼滅者、及び教員の所へと向かいつつあるゾンビ。
     そんなゾンビの爛れた顔、腐臭、そして……人の気配の無い表情を見て、当然恐怖に囚われてしまう。
     その動きに、アヅマが。
    「サウンドシャッター、展開します」
     と、その場にサウンドシャッターを展開。
     そして更に由宇が。
    「すぐに済みます。暫く私達の後ろで、じっとしてて下さい!」
     と大きな声で、王者の風を纏いながら声を掛ける。
     ……対し、彼は。
    『な、な、何なんだよぉ……君達も何者なんだよぉ!?』
    「俺達ですか? あいつ等からアナタを守りに来た者です」
    「そうだ……念のために聞くが、あの連中の顔に心当たりなどはないか?」
     アヅマに続き、那月が訪ねるが、教員は。
    『し、知るわけないだろお!? あんな奴らが知り合いであってたまるかよぉ!?』
    「そっか……仕方ないな」
     那月が目線で合図……受けたあすかが。
    「大丈夫、だよね……?」
    「……やってみるしかないっすよ! 何なら先にアヅマさん宜しくっす!」
    「解った」
     あすかの不安を燈が吹き飛ばす様に言い、アヅマが魂鎮めの風を使用。
     ふっ、と意識が飛ぶように、その場に崩れ落ちる彼……更に続けてあすかが殺界形成を使い、一般人を排除。
     そして教員を中心に扇型の陣形を組み、校門を背中にして教員をその後ろに守る。
    「さて……今は教師の方へ言葉を掛けるより、一体でも早くゾンビを倒すべきですわね」
    「そうっすね。それじゃ行くっす。エイメン!」
     エルディアスに、燈が声を上げながらウロボロスシールドで自己盾強化を行いつつ、左方に展開。
     対しアヅマも右に展開しつつ、龍翼飛翔を使い、ゾンビに怒りを付与する。
     左右に大きく展開したディフェンダーの二人に、更に那月は己の霊犬に。
    「先生に攻撃しようとしたら、庇うんだぞ」
     那月の言葉にわうん、と啼いて、左方向へ。対し右方へあすかが動きながら、ヴァンパイアミストでクラッシャーのエルディアス、真、陽心に壊アップを付けていく。
     そして壊アップを付けた後に、一気にクラッシャー陣が動く。
    「ゾンビ風情が。避けられるものなら避けてみなさい!」
     エルディアスがティアーズリッパーを穿つと、続けて真が援護射撃、陽心が地獄投げ。
     それら攻撃を一体に集中させ、一気にダメージを叩き込むと、それに合わせて那月も左方から制約の弾丸にて攻撃を追加する。
     ……その連続攻撃で、まずはゾンビ一体を落す……が、まだ残るは9匹。
     左右から、ゾンビが次々とディフェンダーの燈、アヅマが攻撃を受ける。
     それに由宇とクリスが。
    「クリスさん、前衛にヒーリングライトをお願い出来る?」
    「うん、解ったよ」
    「ありがと!」
     動静を合わせながら、手分けして左右の仲間達を回復する。
     そして次の刻。
    「一刀両断して差し上げますわよ!」
     エルディアスが日本刀を大きく振りかぶり、ぶん回す。
     吹き出す血潮が、ライトに照らされ真紅に美しく輝く。
     更に真、陽心がホーミングパレット、閃光百裂拳と続ける。
     勿論ディフェンダーに立つ仲間らも、襲いかかってくるゾンビ達を決して後方に通さない様に、敢然と立ち塞がる。
    「その命、神に返すッス!」
    「……絶対、触れさせない」
     燈のセイクリッドクロスと、あすかのジグザグスラッシュ。
     アヅマも龍骨斬りで攻撃を行い、二匹目のゾンビを倒す。
     ……刻が進むと共に、ゾンビは一体、又一体と倒れていく。
    「クリスさん、ちょっと回復任せちゃってもいい?」
    「え? うん、いいよ」
    「ありがと!」
     ニッコリ笑うと、由宇は構えて。
    「目はもう見えてなくても、身体でわかるよね? この光の意味が!!」
     とセイクリッドクロスで武器封じを加え、続けての刻には。
    「薙ぎ払うから、皆避けてね~!」
     と、前に出てリップルバスターで一斉掃射。クリスはメディックとして、回復の支援を行う。
     ……そして、ゾンビ襲撃から数分経過。
     ゾンビの数も、残るは後2匹、左右に1匹ずつ。
    「後少しですわね。でも……こう数が多いと少し大変ですわね」
    「全くだな。だが……後もう少しだ。気を抜いてはいけないが……気合い入れて、残り後少しを倒す」
    「了解」
     エルディアス、陽心、真のクラッシャー三人がそう声を掛け合い、そして……ターゲットを合わせ、残る一匹に攻撃を集中。
     由宇や那月の列攻撃の蓄積があった結果、後残るは一人となり。
    「さぁ、後もう一人っすよ!」
     燈が強い声で皆を威勢づける。
     そして……戦闘開始から13分後。
     残る一匹の元へ、灼滅者達が敢然たる包囲網で構えると。
    「……狙う」
     真の地獄投げが、ゾンビの身体を痴情に背中から叩き付けると共に。
    「ふふ。汝の顔に、安息の訪れん事を……」
     影喰らいで、由宇が十字を切り、トドメと共に冥福を祈るのであった。

    ●再帰の声
     そして……無事ゾンビを全て倒し終えた灼滅者達。
    「ふぅ……終わったか」
     息を吐いて、呼吸を整え戦闘態勢を解く陽心。
     他の仲間らも、戦闘態勢を解除し、そして……眠っている先生の元へ。
    「……大丈夫よね? それじゃあ……先生をおこすわよ」
     あすかの言葉に頷き、先生の肩を軽く揺する。
     ……勿論その間、陽心とアヅマが周囲を警戒し、ノーライフキングに関係するモノが現われたり、気配が無いかを確認しておく。
     ……そして、肩を揺すられた先生が。
    「う……うん……?」
     目を開き、周囲をきょろきょろと見渡す。
    「あ、起きたね? 大丈夫?」
     いろはがニコリと笑いながら語りかけると、先生はおずおずながらも頷く。
     そんな彼に、エルディアスが。
    「もう大丈夫ですわよ。でも……あの、失礼ですが、最近何か変わった事があったり、変なことをしたりしましたでしょうか?」
     エルディアスの問いかけに、暫し考える……が。
    『いや、別に変なこともしてないし、いつも通りだよ。でも……なんであんなのが……』
    「そうですか……仕方有りませんわね。ごめんなさい、お気になさらずですわ」
     エルディアスが深く頭を下げる。
     そしてその後も、教師の問いに答えられる所を全て答えていく。
     ……そして、落ち着いてきたところで。
    「……もう時間も遅いし、そろそろ帰った方が良いんじゃないかな? 終電、無くなるよ?」
    『え? ……あ! 本当だ!』
     先生はそう言って、走って行って帰っていく。
     そんな先生の後ろ姿を駅まで追いかけ見送り……ほっと息をついて。
    「終わったわねー。みんな、お疲れ様」
     由宇が微笑み、皆をねぎらうと共に、帰路へとつくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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