【ザ・ラビリンス・ビニース】決戦の玉座

    作者:君島世界

    ●迷宮の狂える監視者
    「タフだねえ……、実にタフだ。広大に単純にすれば折れるかとも期待していたが、そんなに私が疎ましいのかね、灼滅者」
     ――玉座の間、最奥。迷宮に潜むノーライフキング『硝子踵のレイフィズ』は、その静謐な口調とは裏腹に、握った拳をがたがたと震わせていた。
    「しかし本当に、やれやれだ。意思ある者の狼藉に、こ、コこ、ここまで弱いとはね。次のフロアは設計思想をききき基礎から変えねばならんな……。コルベイン様の遺産も、このような試しで使い潰してしまうとは、ねぇえ……っ。
     許せないなぁ……。ええ……?」
     爆発寸前の怒りは、抑えきれなくなるほどに膨らんでいる。己の不甲斐なさがその激情の一因であることが、レイフィズにとっては余計に腹立たしい。
    「――そうだ。ああ、そうしよう。そういうことにしよう」
     と、レイフィズの様子が一変した。
    「トロフィーを作ろう。トロフィー、トロフィー!
     彼らを讃えるトロフィーを!
     彼らを讃えるトロフィーを、『彼ら自身』で! 私の手で!
     ヒャーッハッハッハッハア!」
     おぞましい哄笑が、玉座の間にこだまする。笑い疲れたレイフィズは、残り少ない控えのアンデッドたちに命令を下した。
    「奴等を削ってこい! そして戻ってくるな! そうだお前らはもはや不要!
     私自身の楽しみを! 肉のひとかけらとてくれてやるものか!」
     
    ●石棺宮・玉座の間
     そしてついに、一行は玉座の間へとたどり着いた。ここだけが石造りの重厚な扉を備えており、これまでの部屋とは雰囲気からして一線を画している。
    「おー、あったあった。この先に居るわけだな? 迷宮のボスさんがよ……!」
     穂邑・悠(火武人・d00038)は焔斬りの二つ名を持つ無敵斬艦刀『緋乃火具通血』を取り出し、闘志に満ちた目で扉を見つめた。
     誰も彼も負った傷は少なくはない。が、春の宮で見た若いノーライフキングと互角程度には戦えるであろう体力を、全員が保持していた。
     故に決戦を挑むことを、全員一致で決定する。
    「地図の最短帰路を頭に叩き込んでおいてくださいね。万一の時、迷わず一目散に逃げられるように」
     複製した地図を配り、リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)が皆に帰路確認を勧めた。
    「なかなか歯応えのある迷宮だったね。さて、この先にいるのは、戦争の残り滓か、それとも未知の大物か――」
     エリアル・リッグデルム(ニル・d11655)が窺う扉の隙間からは、悪寒のような冷たい空気が常に流れ続けている。それに怯むことなくエクソシストである蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)は、人一倍の使命感に燃えていた。
    「わが宿敵に裁きを、か。大きな力になる前に倒さなくては、ですね」
    「そうね。前は不測の事態で逃しちゃったけど、今度こそ、終わらせるわ」
     多くの戦いを越えてきた凛々夢・雨夜(夜魔狩・d02054)には、もう恐れも震えはない。いくばくかの疲労を負った星置・彪(藍玉・d07391)も、己の役割をそれ以上に大事なものと捉え、闘志をみなぎらせていた。
    「裁きの光を、悪しきダークネスに。さあ、行きますか!」
    「ああ、ここからが正念場だな。少し気張っていくぜ……!」
     祁答院・蓮司(追悼にして追答の・d12812)は力強い足取りで、仲間をかばうように前へと出る。並び立つムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)が、愛用の無敵斬艦刀を大上段に振り上げ、そして一気呵成に扉を叩き割った。
    「少々荒っぽいけど、挨拶のノック代わりだよ。邪魔するよ、屍王……!」
     粉々に砕けた扉の先、わだかまる闇の底に、灼滅者たちが見るものとは、はたして――!


    参加者
    穂邑・悠(火武人・d00038)
    蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)
    凛々夢・雨夜(夜魔狩・d02054)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    星置・彪(藍玉・d07391)
    ムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)
    祁答院・蓮司(追悼にして追答の・d12812)

    ■リプレイ

    ●主に臨む
     冷えた空気が喉元を冷やす。悪意が凝り固まったかのような寒気と闇を切り開こうと、祁答院・蓮司(追悼にして追答の・d12812)が掲げた照明が照らす先に、縦に長い椅子の背の部分が浮かび上がった。
    「玉座か。なら、そこには当然……」
     視線を下げていくと、――いる。ノーライフキングだ。よく見るとその足元には赤絨毯が引かれており、それはまた、通路のようにこちらへと伸びていた。
     祁答院は頭を振る。
    (「迷宮を創るって技能の一点だけで言えば、お世辞抜きでクールなんだがな」)
     心情を知って知らずか、玉座のシルエットは半跏の姿勢で、しかし肩を震わせていた。笑っているのだろうか。
    「ようこそ。ようこそ来てくれた。正直に言ってこれほど嬉しいことは他にない」
     ノーライフキングの指の一弾きで、部屋の全体を灯火が照らし出す。周囲にアンデッドは控えておらず、そして彼の濁った瞳が、まるで音を立てる泥のように灼滅者たちに向いた。
    「私はレイフィズ。この足を見たまえ……故に『硝子踵の』などとも呼ばれていたな。コルベイン様の手前、水晶の名を頂くのは控えていただけだが」
     姿勢を変え、レイフィズは玉座にくつろいだ。非肉化した踵を見せ付けるような尊大な仕種に、エリアル・リッグデルム(ニル・d11655)が食ってかかる。
    「そのコルベイン『様』の遺産って、迷宮を作る事だけしかできないんだよね。まるでおもちゃの兵隊だ、まるで無能に過ぎたよ……それとも?」
     一呼吸置いて、
    「コルベイン様を侮辱するか、灼滅者ごとき出来損コないが! あアッ!?」
     レイフィズの怒号が広間に反響した。その余韻が消えない内に、ごとりと、レイフィズの踵が絨毯の上に落ちる音が聞こえる。
    「――いや。その無頼と不遜が、私の『楽しみ』を増やしてくれるのだから、今は許そう、今はな」
     額に手を当てたレイフィズはまるで別人にでもなったかのように言い放つと、次の瞬間背を丸めて笑い始めた。激昂と冷静、哄笑を行き来するレイフィズの様を、不安定さの表れだとリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)は見る。
     知らず、哀れみの言葉がこぼれた。
    「何か悪い気がするけど……、迷宮を広げ始めちゃった以上、放ってはおけないのよね」
    「ずっと引きこもってなんかいるから、あんな感じになっちゃうんですよ、きっと」
     星置・彪(藍玉・d07391)はそう言って首を振る。小生意気な態度を一切隠そうとはせず、星置は続けた。
    「ところであなた、レイフィズっていいましたっけ。迷宮なんかにわざわざ居座るわけでもあるの? こんな所――」
     と、凛々夢・雨夜(夜魔狩・d02054)が星置の肩を肘で軽くつつく。またぎょろりと視線を飛ばすレイフィズに、凛々夢は冷や汗をかきながらも応対を試みた。
    「――これほど広大な迷宮を作り出せるなんて、レイフィズさんも強大な力の持ち主なのですね。よろしければ、何故このような場所を作ったのか、理由を教えてくれませんか?」
     持ち上げるような凛々夢の台詞は、もちろん演技だ。眼前のダークネスの口を滑らせようとする企てに、蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)も態度をあわせる。
    「迷宮はどのようにして生まれたのか、それは私も知りたいですね、屍王。……先達よ、卑小なるこの身に、願わくば知恵の慈悲を」
     どうせ倒すならば、こいつからは経験と情報とを引き出せるだけ引き出したい、と。
     そう思ったのはこの二人だけではなかった。

    ●狂王の座
     この小物だいぶキレちゃってるようだなあ、というのが、レイフィズに対して穂邑・悠(火武人・d00038)が抱いた第一印象である。適当におだてればあちらからベラベラ話し出すと、穂邑はそう考えた。
    「んで、結局どういうことなんデスか? なにか『深謀遠慮』ってのがあっての事と思うが、その辺俺にはよくわからなくてねえ」
     しかし、レイフィズは何も答えようとはしない。それどころか、声なき笑いに痙攣する肩が、更に激しく揺れ始めたような気がする。今やレイフィズは、玉座の両肘掛を掴み、己をその場に押し留めようとする姿勢すら見せていた。
    「何がそんなにおかしいんだ、ノーライフキング!」
     ムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)の一喝が広間にこだまする。
    「聞かれた問いにも答えられないとか、ガキと同レベか? ……ハッ、屍王と聞いてどれだけのものかと思ったら、この程度とは失笑しか出ないな」
     重ねられた挑発に、さしものレイフィズも何がしかの反応を見せるだろうと、一同は興味深く玉座のノーライフキングを見つめた。
     そして、灼滅者お待ちかねの一言が、ついに呟かれる。
    「――よろしい、まずはこれで前準備完了だ。それでは私のお待ちかね、実作業の方に移るとしよう」
    「……は?」
     意味不明の言葉に、七名の灼滅者が一瞬の呆然を見せた。そうできなかった残る一名――凛々夢が、虚ろな表情でがくりとその場に膝を着く。
     粘性の高い液体が暗い床に広がっていった。
    「え。……あ、あ! ……凛々夢さんっ、凛々夢さんっ!」
     無意識の内に駆けつけた星置の支えにすがって、凛々夢はなんとか倒れこむまいと堪える。星置も全力の回復サイキックを凛々夢に注ぎ込んだが、しかし体の震えが止まらない。
    「くっ、……な、にをしたの、レイフィズっ!」
     凛々夢は周囲にソーサルガーダーを展開しつつ、気丈にも声を荒げた。するとレイフィズがゆっくりと玉座を立つ。
     その手には、小さなテープレコーダーが掲げられていた。
    「シィィィィィィ……」
     唇に指を立てて、レイフィズが沈黙を要請する。その長く不気味な指は、次にテープレコーダーのスイッチ群に落ちた。
    「私はとても嬉しいのだ。大・歓・迎と言ってもいい。私の安住の地を、ここまで荒らす愚か者がいたのだからな」
     再生されたのは、灼滅者たちの『声』だ。この広間に入ってからこれまで、飛ばした質問と挑発の数々。
     ――灼滅者に対し、最初からレイフィズは何も答える気などなかったのだ。言うに任せていたのは、ただ声を録音するためだけに過ぎない。
    「故にその偉業を讃えよう保存しよう苦痛と共に! お前らは生きながらヒヒヒ悲鳴を上げろ! お前らは死にながらトロフィーとなれ! 完成の暁はそれに装置を組み込もう、生前の蛮勇と死中の断末魔を再生する、おもちゃのような装置をなア!」
    「トロフィーですって……!?」
     オーギュストはその言葉の意味を正しく理解できた。記憶の中に、立派な角の生えたヘラジカの『頭骨』、また威容を誇るヒグマの『剥製』の姿が映し出される。
     狩猟戦利品。目の前のダークネスが作ろうと宣言しているのは、まさしくそれだ。
    「……出来るもんなら、やってみなさいよっ! 『C'est ma chanson!』」
     一瞬の怯えを打ち消すように、オーギュストはスレイヤーカードを掲げた。リッグデルムも同じく手中に殲術道具を呼び出し、構える。
    「注意して。あいつ、言うだけのことはありそうだ。凛々夢さんへの一撃が僕に来ていたら、不甲斐ないが危なかったかもしれない」
     でも、
    「あれが僕を倒す最初で最後のチャンスだった。もう僕に、油断はない!」

    ●猛攻に息吹く
    「レイフィズよ、仕掛ける前にこれだけは言っておくぜ」
     静かに、祁答院は言う。
    「迷宮に隠れていても、やがて追いつかれるよ。俺みたいな、ただの執念深い小僧にもさ――『Answerer』!」
     空を切るような祁答院のストロークが、バイオレンスギターの現出と同時に弦を掻き鳴らした。まっすぐに伝わっていく音波は、しかしレイフィズの眼前で減衰させられる。
    「ならばさらに深く潜るまでよ。お前らと私とでは、実力に歴然の差があると思い知れ!」
     レイフィズの指打ちと共に、その背後に墓石のような影が現れた。瞳型に掘り込まれたいくつものレリーフが一斉に開き、その全てから無数の光線が発射される――!
    「おおおおおおっ!」
     擦れ違いに頬を傷つけながらも、ウロボロスブレイドを携えたヴェステンボルクが突撃を敢行した。刀身の接続を開放し、鋼鞭として叩き付けていく。
    「それじゃあ、今から倒すけどいいよな? 答えは聞いてないけどな!」
    「何を勝った気になってやがるかなッ!」
     が、逆に柄を弾かれ、空いた胴に反撃を強かに食らう。その攻防を、しかし黙って見ている灼滅者たちではない。
     走る二条の槍撃となって、穂邑と蒼月が畳み掛けていった。
    「お前を倒せば迷宮クリアだ。気合入れていくぜ、レイフィズ!」
    「ただ、力を届かせることに集中する……。貫け、我が力よ!」
     位置の左右、穂先の高さ、方向、突き出すタイミング……。見切られぬようにそれらを阿吽の呼吸で違えたコンビネーションは、レイフィズの体を吹き飛ばした。
     貫通ではない。とんぼをきったレイフィズが、着地でガチガチと耳障りな音を立てる踵を踏み鳴らして言う。
    「ああ、惜しい惜しい。もっと私を滅ぼすことに夢中になれよ……ヒャーッハハハハァ!」
     響く哄笑とともに、レイフィズは両腕を広げた。掲げた腕の間に、恐ろしいまでの魔力が凝縮されていく。
    「試してやろう。今度も避けきれるかね?」
     ――無理だと、星置は感じた。……ならば。
    「この場の誰も倒させないのが、僕の役割、力です……!」
     決意を決めた体は、驚くほど素早く動いた。被害を最小限に抑えるために行うべきは、己の強化だ。
    「さあ、悲鳴の一発撮りだ! くらえ灼滅者――」
    「――ああああぁっ!」
     レイフィズの口上を打ち消すような叫びと共に、星置は温かな光を漂わせる掌を強引に押し込んだ。癒しの光が向かう先は、今まさに吹き飛ばされつつある穂邑の姿……!
    「うあぁ……、お? あれ、あんまり痛くない?」
    「な……私のプランを台無しにしてくれるか、小僧!」
     きょとんとした様子の穂邑とは対称的に、レイフィズは大きな動揺を見せた。
    「へっへー、星置のおかげで形勢逆転ってやつになったな? 自慢の一撃、防がれた気分はどーよ?」
    「ふん、どうせ下らん偶然だ! 何ならすぐにでも、お前の命で証明を――」
    「隙ありっ! おらっ!!」
     穂邑はレイフィズへと一瞬で肉薄、無敵斬艦刀を片手打ちに振り下ろす。虚を突かれたレイフィズは、それでも咄嗟に腕を交差させて防御した。
    「ク……ッ!」
    「どうした、隙だらけなのは変わってないな?」
     ビシィ、と締め付けの音を立てて、刃がレイフィズの胴体に食い込む。二度目の正直で、ヴェステンボルクの蛇咬斬がついにレイフィズを捕らえたのだ。
     ヴェステンボルクが余裕の笑みを見せる。
    「ノーライフのキングっつっても、大したことないんだな。正直拍子抜けしたわ」
    「ま、所詮は裸の王様だよ。もし配下を数体でもこの場に残しておけば、この形勢を変えられたかもしれないのにね……」
     ザギュッ!
     リッグデルムが突き刺したチェーンソー剣が、一切の遠慮なくレイフィズの肉体を裂く。駆動刃が繊維を破るような音を立て、喉元へと迫っていく中で、レイフィズは何事もなかったかのように手刀を突き出した。
     狙うは一点、眼前の灼滅者の心臓。

    ●強さの行方
    「させないっ!」
     余力があってよかったと、凛々夢は思う。レイフィズの恐ろしさを肌で知っている彼女だからこそ、正しく怯え、動くことができるのだから。
    「間に合え、私……!」
     凛々夢は疾走し、その手を届かせた。仲間に触れた指先に全体重を乗せ、突き飛ばす。
     泳ぐ上腕に刃が滑り、耐え切れぬほどの激痛を伝えてくるが、それは小さなこと――。
     微笑み、前のめりに転ぶ凛々夢の体を、蒼月が受け止めた。
    「我が手に宿れ、力よ」
     仲間を抱く蒼月の胸中に、複雑な感情が渦を巻いて沈む。しかし今は、勇敢なる彼女ではなく、殲術道具をこそ、この腕は選ぶべきだ。
     力の使い先として。
    「滅びの鐘を、響かせましょう」
     蒼月は前を向いてガトリングガンの引き金を絞る。傷だらけのレイフィズは火弾に貫かれ、スローモーションのように赤絨毯へと倒れこんでいった。
    「カッ――ハ――ハハッ!」
     それで終わったわけではない。レイフィズは振り子のように起き上がると、襟を正し裾を払い、そして改めて灼滅者たちに叫ぶ。
    「誰一人、ここから逃がすものか! そう、誰一人として、だ!」
    「そうかい、それがあんたの答えか。レイフィズ」
     祁答院が呟いた。同時に仲間を癒す旋律を止め、ギターのネックを逆手に掴みなおす。
    「どうしたね演奏家? お仲間が君のパフォーマンスを待っているのだろう?」
    「迷宮好きなあんたらには馴染みが薄いかもだが――これがロックだよ!」
     演奏の当然として、祁答院はギターで敵をブン殴った。予想外の行動と威力にたたらを踏むレイフィズを、オーギュストがさらに崩しに掛かる!
    「その自慢の踵、いただいたよっ!」
     レイフィズの硝子踵が、そしてオーギュストの影業に絡め取られた。捕縛され、満身創痍でもがくダークネスに、灼滅者は日本刀を抜いて語りかける。
    「……大人しく諦めませんか? もうコルベインはいないんですよ」
     それは降伏勧告なのか、それとも処刑宣告だったのか。進退窮まったレイフィズは、それでもニヤニヤ笑いを消そうとはしなかった。
    「諦め、あきらめか。あきらめたとして、私は――どこに行けばいいんだろうな?」
     最期まで、笑い続けていた。

     レイフィズに止めを刺した蒼月が、眼鏡の位置を正し言葉を贈る。
    「私は、おまえのようになりはしない。私のままで、その高みへと向かう!」
    「その覚悟やよし、と褒めてやるところかな、ここは」
     ため息をつく祁答院は、しかし彼女に心配は必要ないだろうと悟っていた。
    「でも、皆さんお強いですね。僕は戦闘中暇になるほどでしたよ」
     仲間の怪我の治療を行っていた星置が声を上げると、迷宮クリアでテンションを上げた穂邑が豪快に笑う。
    「お前だってマジに強いさ。助けられた俺が保障するぜ!」
     と、広間の奥を探索していたリッグデルムと凛々夢が戻ってきた。どうやら芳しい成果は見当たらなかったらしい。
    「トロフィーを作るっていうから、作業道具の一つもあるかと期待してたんだけどね」
    「道具って……こ、怖いこといわないでよ、もう」
     ヴェステンボルクは、灼滅されたレイフィズに瞑目していた。弔いを終えると、明るく皆に言う。
    「さ、終わったことだしみんなでどっかで飯食って帰らないか? なんなら全員分奢ってもいいぞ?」
    「なんにせよ、無事に地上に戻ってからですね。皆さん、帰りの地図はまだちゃんと覚えてますかー?」
     オーギュストの問いに、はーい、という素直な返事がよこされた。そして灼滅者が無事に脱出したのを最後として、ここに誰かの足音が響くことは、もうないのだろう。
     怪物も主も、この迷宮にはもういないのだから。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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