碧空の一矢

    作者:志稲愛海

     あの日の空の色も、気を失うような紺碧だった。

     誰かの見送りだろう人、カメラを構える飛行機マニア、デートに来たカップルまで。
     空港にある展望デッキは、この日も沢山の人で賑わっていた。
     頭上をかすめるように、また一機、航空機が空へと旅立っていく。
     だが……誰も、その飛行機の離陸を見ている者などいなかった。
     眩暈がするほどの晴天の青に飛び散る、赤の血飛沫。
    「早く……早く来いよぉっ、もうボク待ちきれないんだってばぁぁ……!」
     湧き上がる殺人衝動に抗わず、興奮したように顔を紅潮させるのは、少年。
     ぐしゃりと、彼がふるう斧がひとりの男の脳天を叩き割る。
     そして返り血を浴びながら、少年は恍惚の表情を浮かべて。
    「早く来いよぉ、灼滅者たち……じゃないとみんな、死んじゃうよぉぉ!」
     展望デッキの出口へと逃げようとしていた飛行機マニアを、鋭利な影で無残に貫いた。
     それから、血や肉片飛び散ったデッキをゆっくりと眺めるように歩いた後。
     空港の建物内に入る、その前に。
     少年は血塗れの手で折った紙飛行機を、おもむろに、空の紺碧へと投じた。
     

    「……何度解析しても、ホントろくでもないゲームだよね」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)はそう吐き捨てた後。
     集まってくれてありがとーと、いつも通りのへらりとした笑みを灼滅者の皆へと作ってから、解析した未来予測を語り始める。
    「今回予知されたのは、例の六六六人衆の闇落ちゲームだよ。事件を起こすのは、六六六人衆の序列六四五位『中富・泰火(なかとみ・たいか)』、中学生くらいの少年だよ。空港の展望デッキに現われて、そこにいる人達を次々と惨殺するんだ」
     だが泰火の真の標的は、一般人ではない。
     彼が待っているのは、武蔵坂学園の灼滅者なのである。
    「この日の正午ちょうどにね、期間限定のイラスト柄の特別塗装機が離陸するんだけどさ。この機体をカメラに収めようとしていたひとりの男の人が、泰火に殺されるんだ。そしてこの直後が……予知された、接触のタイミングだよ」
     そう語る遥河は複雑な表情で、一瞬だけ紫の瞳を伏せる。
     もしもこの男の人を助けに動けば、バベルの鎖に察知されてしまうからだ。
     その結果、もっと悲惨な状況を生み出してしまうかもしれない。それに、たとえ予測に抗い早く動いたとしても、相手の力量を考えると、一般人を助けられるかどうかも正直定かではない。
     だが遥河は灼滅者達を見回すと。こう、続けるのだった。
    「でもね、今までは追い払うのがやっとだった六六六人衆だけど。灼滅者のみんなも力をつけてきたから、序列が低いこのダークネスを灼滅できる可能性もでてきたよ」
     ただ、やはり格上の実力を持つダークネスには違いない。
    「それに一番の目的はやっぱり、一般人の虐殺をやめさせて被害を抑えることだから。下手したら展望デッキだけじゃなくて、空港内にいる人も殺して回るかもしれない。無理に灼滅しようとすると、逆に大惨事を招くことになっちゃうかもしれない」
     だから、どんな方針でどう作戦を立てるか。十分に話し合って決めて欲しい。
    「泰火は、六六六人衆のサイキックと、獲物の影業と龍砕斧のサイキック、基本戦闘術も勿論習得しているよ。戦場は、滑走路が見渡せる空港の展望デッキになると思うけど、幸い十分広くて何もないよ。デッキの入口はひとつだけで、正午の時点で30人くらいの人がいるんだ。みんなには、このダークネスの殺戮の阻止をお願いするね」
     そして遥河は、もう一度こう告げる。
    「最優先は、一般人の殺害を阻止して被害を抑えることだよ。泰火の一番の目的は灼滅者を闇堕ちに追い込むことで、もしも闇堕ちする人がでちゃったら六六六人衆の思う壺だけど……ダークネスである以上強力な相手だし、放っておけば空港中の人が殺されちゃうかもしれないから。この凶行を、止めて欲しいんだ」
     そう遥河は灼滅者を見回した後。
    「危険なお願いなのは承知の上なんだけど……オレ、みんなのこと信じてるからさ」
     だから無事に帰ってきてね、と。灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)
    阿々・嗚呼(剣鬼・d00521)
    百鳥・奏(絡繰道楽・d00631)
    黒鉄・伝斗(電脳遊戯パラノイア・d02716)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    レイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887)
    王・龍(アンラッキースケベ・d14969)
    寺島・美樹(高校生魔法使い・d15434)

    ■リプレイ

    ●Flight plan
     あの日の少年にとって、どんなに手を伸ばしても届かない紺碧は。
     とても憎らしくて――同時にどうしようもなく、恋焦がれていた色だった。

     まるで、番えた銀色の弓を空へと解き放ったかのように。
     また一機、旅立っていく飛行機。
     その姿を見ることができる展望デッキには、この日も沢山の人がいた。
     ただひたすら空を眺めている少年――中富・泰火の姿も。
     そんな彼が、ふと動きをみせたのは。
     特別塗装機がゆっくりと、ボーディングブリッジから離れた時だった。
    (「初めての依頼で六六六人衆と当たるとはな。まぁ出来るだけ足引っ張らない様尽力するぜ」) 
     寺島・美樹(高校生魔法使い・d15434)は泰火の様子を窺いつつ、仲間達との作戦の最終確認を。攻撃の瞬間や客の誘導等誤認がないか等の、沢山の命に関わる事については、特に確りと。
     そして展望デッキの隅でバックパックの中身を確認しながら。
    (「初めてまともな相手かも……いや、人殺そうとしてるやつをまともと言えないけども」)
     同じく、泰火を見ているのは、王・龍(アンラッキースケベ・d14969)。
     これまで相手にしてきた数々の変態都市伝説を思うと、ついそう思わずにはいられなかったが。
     闇の如き狂気を孕む少年を一目見れば、やはりこの相手も、まともとは到底思えなかった。
     そして夢と幸せがテーマらしい鮮やかな特別塗装機が、滑走路へと入り加速を始めて。
     風に乗り、機体をふわりと浮かせた――瞬間だった。
    「……!」
     一人の男の頭を叩き割った、躊躇なき斧の一撃。
     眩しすぎる青に飛沫く、鈍い赤の彩り。
     自らの血の海にどさりと崩れ落ちた男のその無残な姿を目にしても、周囲の客は一瞬、何が起こったか誰も理解が追いつかなかったが。
     刹那一斉に上がる、パニックに陥った人々の悲鳴。
    (「まだゲームは続いている。犠牲は増え続ける……」)
     美樹と共にパニックテレパスを使い、人々に避難を促しながらも。
     西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)が爛々と光る赤き瞳を怨敵へと向ければ。
    (「さぁ、日常を壊す奴らを叩きのめしに行こうか」)
     いつまでも思い通りになると思うなよ? ――そう宿敵を見据えたレイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887)の殺気が、一般人を寄せつけぬ殺界を張り巡らせて。
     霊犬のギンと共に銀狼の尾を靡かせ、泰火の前へと躍り出る。
    「望み通り、来てあげたよ。恋焦がれてたんだろ?」
    「灼滅者……! ボク待ってたんだよぉぉッ!」
     テンションが一気に上がった泰火は、殺した男の屍体を邪魔だといわんばかりに蹴飛ばしてから。
     嬉しそうに、阿鼻叫喚の一般人達と立ち塞がる灼滅者を交互に見る。
    「どうも初めましてこんにちは、嗚呼です」
     そんな狂人にそう丁寧に挨拶するのは、阿々・嗚呼(剣鬼・d00521)。
     そして泰火は嗚呼に、ボクは泰火だよぉ! と返してから。
     逃げ惑う一般人へと不意に視線を向け、ニイッと笑みを宿す。
     その瞳の先には。
    「落ち着いて、ね」
    「大丈夫だ、絶対に助かる。諦めるな!」 
     パニックで思考が欠落した人達の誘導を担う、結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)や百鳥・奏(絡繰道楽・d00631)の姿。
    (「やれやれ、避難誘導かー。こういうの柄じゃないんだけどな」)
     まあでも人の命が掛かってるし、頑張らないとね、と。
    「デッキ入口まで逃げろ、あの看板の方向へ走れ!」
     仁奈と共に割り込みボイスを使い、一般人へと具体的に指示していく奏。
     美樹も、少しでも泰火の注意を自分に向けらればと。
    「テメェらの好きにはさせないぜ……!」
     そう声を上げつつも、いまだパニック状態な一般人達を逃がしていく。
     そして。
    (「……まだ続いてるんだね、闇落ちゲーム。今度こそこっちの完全勝利といきたいところだけど……」)
     黒鉄・伝斗(電脳遊戯パラノイア・d02716)がすかさずサウンドシャッターを展開し、戦闘音を遮断させた瞬間。
     カードに封じていた白武器を手に、龍翼の如き高速移動で泰火へとまっしぐらに向かう龍は。同じく自分だけに彼の意識を向けるべく、突入し薙ぎ払う一撃を繰り出した。
     だがそれを、片手でぶん回した斧で容易く弾き飛ばしてから。
    「ほらぁッ、はやく逃がさないと、みーんな死ぬんだよぉッ!」
     泰火は刹那、ぐんと影を伸ばすも。
    「! く……やってくれるね。そう簡単には事を運ばせません……ってか」
     間一髪、奏が身を呈し、一般人を庇う。
     その隙に、出口へと走る家族連れに声をかける仁奈。
    「今は速やかに出口で、慌て過ぎないように、避難を」
     殺界形成の影響もあり、デッキから出た空港内も騒然としているようだが。
     もうこの展望デッキに近づく一般人はいないだろう。
    「わたしも、戻るね」
     転んだ女の子を優しく起こし、両親と手を繋いで逃げていくその後姿を見送った仁奈は、まだデッキにいる一般人の数を確認してから。
     仲間に声を掛け、泰火のいる展望デッキ中央へと地を蹴って。
    「空港の中、人がいーっぱいで殺し甲斐ありそうじゃんっ! ……っととっ」 
    「我等が怨敵……叩き潰す……」
    「……ほら。一般人の相手なんかしてないで、俺達に構ってよ」
     回転し唸る織久の旋風の如き鋭撃とレインの携えたシールドの強烈な打撃が、同時に六六六人衆へと叩き込まれる。
     幸い、泰火は逃げる一般人や一般人を庇う灼滅者達を愉快気に眺める程度で。
     まずは……待ちに待った灼滅者達を、より多く闇落ちさせて。
     それからでも、空港の一般人を虐殺して回ればいい、と。
     今すぐに空港内で大量虐殺をしようとは、まだ思ってはいないようだ。
     そして灼滅者の皆が各々ESPを駆使し、迅速に避難誘導を行なった為に。
    「よっし、救助完了。皆、もう遠慮は要らないよ!」
     擦り剥いた男の子の膝の怪我を集気法で癒してあげた後、速やかに空港内へと逃がしてから。
     奏は一般人がデッキに残っていないことを確認し、泰火を抑えている皆へと声を掛けた。
     重ねられたパニックテレパスの効果で、大勢の人が数度パニック状態に陥り、多少の混乱や軽い怪我人こそ生じたが。
     犠牲者は今のところ、最初の一人だけにとどまっている。
     もうこれ以上、誰も殺させぬように。
    「思い通りになんてさせない」
    「俺らと殺り合いたいんだろ? そっちの意図に乗ったんだ、相手してくれなきゃつまんねぇぜ」
     ゲームに興じる六六六人衆を全力で退けるべく、改めて身構える灼滅者達は。
     ダークネスの灼滅を、同時に狙う。

    ●Blue Impulse
     青い空の下ぶつかり合う、深い闇と灼滅の光。
     そして上がるのは、狂った笑い声とどす黒い赤。
    「残念、はっずれぇ!」
    「冗談だろ……今の攻撃、結構自信あったんだけど」
     薬莢を次々輩出する小型化した銃から雨霰と連射した弾丸をかわされて。
     相変わらずテンションの高い泰火に、思わずそう呟く奏。
     相手は序列に名を連ねる六六六人衆、有効打を当てるのは容易ではない。
    「……う~ん、状況が違えばかわいげがあったかもしれませんね」
    「なんでもかんでも好き勝手出来ると思うなよ!」
     その様は狂気染みていなければ、龍の言うようにまだ無邪気だといえるかもしれないが。
     血に染まった斧を振り回し笑う目の前の姿は、異常としか思えない。
     避難誘導の際に傷を負った仲間を気の力で癒した後、再び龍の繰り出した、飛翔する翼の如き一撃が泰火に振り下ろされて。
     美樹のギターテクニックが叩き込まれ、撃ち出した魔法の矢が青空を翔ける。
     泰火はそんな灼滅者の攻撃を浴びても、ケラケラと愉快そうに笑って。
    「ほら、早く堕ちちゃえよぉ!!」
    「!」
     怒りの状態異常を付与した龍へと、何度も凶悪な斧を振り下ろしてくる。
     そんな泰火の斧の破壊力は、変わらず高威力であるが。
     灼滅者達も数度に渡る大きな戦いを得て。
     もう、ただ耐えるだけの戦い方はしない。
    「我等が怨敵、俺の仇敵……」
     刹那燃え盛るのは、仇敵を刈らんと唸る【闇焔】が纏う炎。
     それは織久の怨敵への怨念、代々の西院鬼と犠牲者と怨敵の血の色。
     その深い赤は使い手である彼に同調し、さらに激しく燃え上がって。泰火の身を焼き尽くさんと襲い掛かれば。
    「こんな晴れ空の下で殺人だなんてイイ趣味してるじゃないか」
     折角だから、お前の赤でも彩ったらどうだ? と。
     続いて放たれたレインの死角からの鋭撃とギンの斬魔刀の一太刀が、六六六人衆の身に鮮血をはしらせる。
     だが己から噴き出す血の色でさえも興奮するように、大きく瞳を見開いて。
    「もっともっとボクに攻撃してきてよぉ! じゃないと、空港にいる一般人みーんな殺しちゃうぞー!」
    「!」
     ぐんと伸びた泰火の影が、伝斗を飲み込まんと牙を剥いた。
     それでも背中を預ける回復手の仲間を信じて。
    「弱いものを痛めつけるなんて、あなたの心も、相当弱いんだ、ね」
     強烈な魔力を注ぎ込む打撃を見舞うと共に、一般人の虐殺を口にしては自分達の反応を楽しむダークネスにそう言い放つ仁奈。
    「私、虐殺とか荒い殺し方って嫌いなのよ」
     殺す時はきちんと、死ぬ覚悟を持たせるべきです、と。
     己の美学に反する彼の殺戮衝動を否定しつつ、嗚呼は掲げたシールドで深手を負った仲間へと、癒しと護りを施す。
     そして刹那、戦場に上がったのは、伝斗の声。
    「……っ! いやだ、やめてよ父さん……!!」
     彼の眼前に蘇るは、過去に巻き込まれた殺人ゲームの――父親に殺されかけた、トラウマの記憶。
     だが己が求める日常へと帰る為に、ここでゲームオーバーになるわけにはいかないから。
     過去のトラウマに抗うかの如く、無尽蔵に放出した泰火の殺気で傷ついた仲間を癒すべく、伝斗は夜霧を生み出す。

     殺し合い序列を競う殺人集団に身を置くだけあって。
     泰火は戦い慣れており、時に誰かを集中し狙ったかと思えば、また時に灼滅者複数を狙い、回復の的を絞らせぬようじわじわと多彩な攻撃を仕掛けてくる。
    「言えた身分ではないかもしれませんが、かなり悪趣味ですね……」
     龍は重い一撃を狙い、鉄塊の如き巨大な刀を振り翳すも。
    「じゃあ闇堕ちしたら、ボクの趣味もきっと分かるんじゃないかなぁッ!」
    「ッ!」
     戦艦斬りの衝撃を避けもせず血を噴き出しながらも、間を置かずに繰り出された泰火の斧が。
     龍の身を叩き割り、彼女を地へと沈めて。
    「!」
     追撃しようと動きをみせた泰火の前に、咄嗟に立ちふさがったレイン。
     その隙に、同じく追撃を恐れた奏が後方へと倒れた龍の身を引っ張り込み、レトロな銃に素早く弾をこめようとするも。
    「ゲッ、ちょっと! 弾の補充中に攻撃するとかズルい!」
     張り巡らされた無尽蔵の殺気の衝撃に思わず声を上げる。
     泰火の目的は、灼滅者達をより多く闇堕ちさせる闇堕ちゲーム。
     だがこれまで六六六人衆のこのゲームによって、幾人もの武蔵坂学園の灼滅者達が闇へと堕とされて。
     己がその闇に飲まれた者も、この場にいる灼滅者の中に、複数いる。
     でも、だからこそ――六六六人衆がどのように自分たちを追い詰めようとするかが、分かってきたのだ。
    「単純に疑問なんだけど……君は闇落ちゲームの事、どうやって知ったの? 会えば殺し合う六六六人衆にも何かネットワークとかあるの?」
     自分が堕ちた戦いを踏まえ、皆を回復し続けながらも。
     どうやって『流行』したのかなーって、と、伝斗はふと彼に訊ねてみるも。
    「そんなことよりぃぃ……早く……早く、いい加減、堕ちろよぉぉッ!!」
     倒した龍への追撃も叶わず、なかなか堕ちない灼滅者達に苛ついたように。
     怒り付与の効果もあり、今度は目の前の織久へと、何度も斧を振るい始める泰火。
     そして傷口から噴き出す熱い赤に塗れ、一度は崩れ落ちるも。
    「闇墜ちはならぬ……ならぬ……ク、クク……」
     怨敵への仇――その正気の沙汰では最早無き執念の魂のみで、再び身を起こした織久は。
    「血の借りは、血で返さねばならぬ……ク、ヒ……ヒハハハ!」
     殺意と狂気に満ちた赤の瞳を見開き、傷から溢れる血をオーラの癒しで塞き止める。
     例え肢体が千切れようとも、目や内臓がなくなっても……怨敵を殺し続ける為に命が残れば、それでいい。
     闇に堕とされ、尚も拍車のかかった、狂気の執念。
     そう――闇に堕ち、仲間が堕ちる様をこの目で見たからこそ。
     より強く燃え上がる、それぞれの思い。
     もう二度と……失うのは、いやだから。
     姿を消した大切な存在を待つ辛さも、分かっているから。
     今度こそ、闇堕ちする仲間を出さずに退けてみせると――ギンと共に、宿敵へと得物を振るうレイン。
     仁奈が強く抱く思いも、同じ。
     一度は闇に飲まれた心。でも、手を差し伸べ心配してくれたみんなや、大切な人の存在が自分にはあると、分かったから。
     だから、誰も闇堕ちしなくていいように――そして、六六六人衆を灼熱出来るこの機会に。
    「心を強く持って、わたしは仲間と自分を、信じるよ」
     全力で、魔力を宿したロッドを泰火へと叩き込む仁奈。
     そんな仁奈や前衛の皆を確りと支え、状況に合わせ癒しを施していくのは、嗚呼や伝斗や奏のメディックの面々。
    「桁を奪う気にもなれない相手ですし、闇堕ちも極力したくないので」
    「出来る限り回復し続けて、戦闘不能をしっかり回避しないとね」
    「ホラホラ、前衛ばっかり気にしてると痛い目に遭う……よ!」
     敵の動きや戦況を見極め、的確な回復や援護にあたって、仲間を闇堕ちさせぬよう立ち回れば。
     俺はやれる……そう美樹は、ギターを改めて握り締めながら。
    「自分を信用しなきゃ誰が信用するんだ。帰りを待っていてくれる奴の為にも俺は負けられねぇ……!」 
     闇を受け入れる覚悟はできている。でも、帰りを待っている仲間がいるから。
    「闇墜ちはしねぇ。だからさっさとおうちに帰りな!」
     強き思いを音色に乗せ、激しくギターをかき鳴らす。
     そんな灼滅者達の猛攻に、泰火は初めて大きく上体を揺らしたが。
    「く……くそぉぉッ!! このっ、いい加減、倒れろぉッ……!!」
     怒りをあらわにし、尚も織久へと渾身の斧の一打を振り下ろして。
     彼を、血の海へと沈めるも。
    「は、はは……! ざまーみろ……ッ!?」
    「晴れた空を彩るのは、やっぱりお前の赤のようだな」
    「さようなら。あっちで待っていてね」 
    「わたしたちの心、貴方が思うより、弱くない。それを、最期にみせてあげるよ」
    「!? な……っ!」
     一瞬の隙をみせたダークネスへと同時に叩き込まれたのは、レインと嗚呼と仁奈の、それぞれ異なる色の衝撃。
     そして――ふいに一瞬だけ、何かを掴むようにその腕を伸ばしてから。
     狂気のゲームに溺れ地に倒れたダークネスは、灼滅されたのだった。
     飛行機がまた一機飛び立っていく、少年が恋焦がれた……紺碧の空の下で。

    作者:志稲愛海 重傷:西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504) 王・龍(瑠架さんに踏まれたい・d14969) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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