俺達、『無敵』の『チーム』!

    作者:宝来石火

     ネオンライトが皓々と灯る、深夜の繁華街。
     建ち並ぶ雑居ビルの中に紛れ、ぽつんと取り残されたかのように佇む、一棟の廃ビルがあった。
     その、廃ビル内の一室。
     窓から差し込む月明かりだけに照らされて、幾人かの若い男達が集まっている。
     床の上に直接座り込み、がなるような大声で会話を交わす。いずれもラフでカラフルで威圧的なファッションに身を固めた彼らの前には、万札から小銭まで、いかにもあるだけ掻き集めてきた、というような現金が山と積まれていた。
     近隣の不良集団や暴走族などを襲撃し、強引に収めさせた上納金である。
    「……『ボロ』い! 『ボロ』すぎンぜ!」
     男達は堪える気もない笑い声を溢れさせながら、感極まって口々に叫んだ。
    「この『力』がありゃ、俺達に逆らえる奴なんていやしねぇ!」
    「うぜぇ上司も『消え』ちまったしよぉ……!」
    「もしかして、俺ら……『無敵』の『チーム』じゃねぇの!?」
     無敵、と言うフレーズが気に入ったのだろうか。
     ただでさえ喧しかった彼らの勢いに、ますますもって拍車がかかる。
    「――だよなぁ!?」
    「だと思ってたんだ!」
    「ヒョー! こりゃ『面白』くなってきやがったぜ!」
     リーダーらしき男の一人が、虚空に向かって腕を振るう。
     ――ドゴォン!
     部屋の隅に積まれていた折りたたみ式のテーブルの山が轟音とともに、ひしゃげ、割れ、砕ける。
     男の手の中にはいつのまにか、身の丈よりも巨大な、無骨なハンマーが握られていた。
    「よっしゃー! 今からよぉ、景気付けに『また』そこらの連中全員『ボコッ』てこようぜぇ!?」
    「いいねぇ! ちぃとくらい『殺し』ちまっても、『マッポ』も怖かねぇしよぉ!」
    「何せ俺らは……『無敵』の『チーム』なんだからよ!?」
     
    「要するに、『勘違い』した『バカ』だな」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は彼らのことを、身も蓋もない言葉で評した。
    「奴らは、先の不死王戦争で倒したソロモンの悪魔・アモンの配下の配下の……兎に角、末端にいた強化一般人だ」
     主であるソロモンの悪魔が、いつ、どのように死んだのかまでは末端の彼らの知るところではない。
     が、何の命令もなく一ヶ月ほども放置され、どうやら自分達の主が居なくなったらしい、ということには気が付いたようだ。
     タガが外れると、後は早い。
     小はカツアゲから大は通り魔的な快楽殺人まで。思うが侭に力を振るい、彼らは暴走を始めた。
    「奴らを全員、ぶちのめしてもらいたい。それが、今回のミッションだ」
     彼らは、ある日の深夜、都内の廃ビルの一室で集会を開く。廃棄された五階建てビルの五階が一フロアぶち抜きの大部屋になっており、そこを勝手に利用しているのだ。
     予測によれば、そのタイミングで襲撃をかけることにより、バベルの鎖の予知を回避できるという。
     特に見張りなどもいないので、正面から堂々と乗り込むなり、窓からガラスをぶち破ってダイビングするなり、好きな方法を取るといい。
     意外性のある乱入であればあるほど、相手の虚を付き、戦いを有利に進められるだろう。
    「ただし、集会が始まる前からビルに隠れておく、なんてのはNGだ。事前に何かを仕掛けるのもな。
     集会中に近づいて、乱入。
     それを守らないと、バベルの鎖に絡みつかれるぞ」
     集会には一時間程度かけるようなので、始まってからでも時間は充分にある。
     男達の数は六人。いずれも、ロケットハンマーと同じサイキックを用いるようだ。
     戦い方は前のめりで、ポジションでいうならば全員がクラッシャー。リーダーは他の連中より多少強いようだが、それでもダークネスほどの力は無いだろう。
    「そうは言っても、相手は複数。油断は禁物だな」
     一通りの説明を終え、ヤマトは灼滅者達の顔を見渡す。
    「奴らも、元を辿ればソロモンの悪魔の被害者だ。が、残念ながら、今の奴らを救う手立てはねぇ。
     『不運』と『踊っ』ちまった奴らに、『引導』を渡してやるんだな」
     そう言って、ヤマトは灼滅者達を見送った。


    参加者
    遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)
    駿河・香(ルバート・d00237)
    如月・縁樹(花笑み・d00354)
    梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)
    蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)

    ■リプレイ


     薄汚れた廃ビルの壁に対し、垂直に立つ少女の影が一つ、在る。
     その影の頭上には、箒に乗って宙に浮く三人の少女達の姿。
     非現実的なその姿を街の陰に隠しながら、彼女たちはひっそりと合図を待っていた。
     物音を立てることもなく、ビルの窓に影を覗かせるような愚も犯さず、静かに耳をそばだてる。
     その思惑通り、彼女達がここに来る少し前からビルの中に居た男達は、窓の外など気にも留めずに、堂々と扉を開けて入ってきた四人の少年少女に釘付けになっていた。
    「へえ、ここが『噂』の『集会所』だろうか?
     ……随分派手に『暴れ』ているようだね」
     入ってくるなり部屋を見回し、素朴とも取れるそんな第一声を発したのは、エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)だ。
     金髪碧眼の容貌に似合わないチンピラ染みたイントネーションが、如何にも付け焼刃で、少しばかりたどたどしい。
    「ンだ、てめぇら!?」
    「ここは俺らの『縄張り』だぞ!?」
     唐突に自らのテリトリーを侵され、男達はドスを利かせた声を張り上げた。
     耳障りなその音を聞き流し。ポキポキとわざとらしく指を鳴らしながら、吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)が一歩前に進み出る。
    「なぁに……この辺を『溜まり場』にして、周辺を『荒らし』てる奴等が居るって聞いてな?
     ちょっと『拝んで』みたくなったのさ」
     浮かべた笑みは、『不敵』の一言。
     この場を陣取る男達の自尊心をくすぐるには、充分だ。
     円陣を組んだ男達の中から、一際派手で、一際体の大きい男が立ち上がり、顔を歪めて四人を『ギンッ』と睨みつけた。
    「おぅ……もしかして、俺達『無敵』の『チーム』に『喧嘩』売ろうってのか?」
     彼が口を開くと、周囲の男たちがしん、と静まり返る。この男がリーダーであることは、誰の目にも明らかだった。
    「喧嘩ではありません、教育です」
    「ぁん?」
     応じて、ドアの陰になる位置から一人の少女が歩み出る。
     遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)。眼鏡に三つ編み、どう見てもこの場所に不釣合いな少女の登場に、男達は一瞬戸惑い。
    「風紀委員よ、観念なさい。
     貴方達を清く正しく教育しますから」
     ぴしゃり、と彼女が言い切ったのを見て――彼らの顔に漏れなく下卑た笑みが浮かんだ。
    「……なるほどぉ、『風紀委員』のお嬢ちゃんが、俺らを手取り足取り『教育』してくださるってか!」
    「俺らもお返しに、『大人』の『遊び』を『教育し』て差し上げるかぁ!?」
    「うっ……!?」
     彼女の言葉をまるで意に介さない、男達の下品な物言いに彩花は思わず怯む――フリをする。
     そんな彼女の様子に男達はますます調子付き、口々に囃し立てる。
     強化された力に溺れた彼らは、完全に四人を『ナメ』ていた。
     男達の嘲りを一頻り聞き流し。それから、昴は大儀そうに、ゆっくりと、口を、開く。
    「おいおい、いい加減黙れよな。じゃねぇと……
     『殺す』ぞ?」
    「――ッ!?」
     瞬間、どす黒い殺気が男達を包み込んでいた。
     衝撃も刃もなく、ただ殺気のみで傷つけられる生命力。
     それこそは、昴の放った鏖殺領域のサイキック。
     ソロモンの悪魔に強化されてからというもの久しく忘れていた、自分達と対等以上に戦える存在からの攻撃を受け、男達は明らかに取り乱している。
    「て、テメェ!? チョーシ乗ってんじゃねぇぞ!?
     お、俺達が『誰』だか知ってんだろうがぁ!? 俺達ぁ……ッ!」
     激昂するリーダー格の男に向けて、返答したのは昴でなく蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)である。
     整った形の眉一つ動かさず、流れるような動作で髪をかき上げ、さらりと言い放ってみせる。
    「あぁ、『勘違い』した『バカ』だろう。
     あの悪魔の手駒にもなれなかった、『雑魚』の」
    「ンなっ……!」
     激昂した男達の手に、サイキックによるハンマーが生み出される――その、直前。
    「合図ですっ!」
     と、窓の外から少女の声が響いた。
     五階の窓外から声がする、という事態に、首をかしげる暇もあればこそ。
     ――ガシャアアァン!!
     と、派手にガラスを砕く音がビルの中に鳴り響き、ビル内に四つの人影が一息に雪崩れ込んだ。


     月光を反射してビルの中に舞うガラス片の雨が、荒れ果てた廃ビルの一室には不似合いなスパンコールとなって彩を飾る。
     完全に虚を突かれ、慌てふためくしかない男達の頭上を、三人の『魔法使い』達が箒に乗って飛び抜けていった。
     続けて、とんっ、と窓枠を乗り越え、梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)は室内に踏み入った。その手には、着信を知らせるライトの点った携帯電話。
     銀嶺がハンドフォンのESPを使い、風花に奇襲のタイミングを知らせたことなど、男達には思いつきもしないだろう。
    「雪は、全てを覆い隠す」
     キーワードとともに、スレイヤーカードから瞬時に展開される忍装束。
     黒の衣に身を包み、風花は混乱する敵陣の中を駆け抜けていった。
    「わー。うわー。この雰囲気……! 桐ヶ谷知ってます。
     よもや現実に存在しているとは!」
     乱入した『魔法使い』の一人、桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)は目を輝かせ、男達の頭上すれすれを飛び回っていた。
     特攻服やカラスマスクの似合いそうな時代錯誤なチンピラぶりに、思わず暖かぁい笑みがこぼれてしまう。
    「世の中には変なおじさんも居るんですねぇ……」
     外套のフードを目深に被ってガラスの破片から身を守りつつ。如月・縁樹(花笑み・d00354)は眼下の男達を不思議そうに見下ろした。
     その言葉が男達の耳に入っていれば、『おじさん』の謗りを訂正したかもしれないが、生憎と今の彼らにそんな余裕はない。
    「縁樹たち『正義の味方』が来たからには、もう悪い事はさせませんからね!」
     すぃっと、軽やかに仲間達と合流した縁樹は、着地からそのまま、情熱に満ちたパッショネイトダンスで自身にエンチャントを付与していく。
     そして、そのダンスはそのまま、相対する敵の根源をも揺さぶる攻撃となるのだ。
    「如月さん! 『不運』とは『踊』っちゃ駄目ですよ!?」
    「……縁樹には良く解からないのです」
     ついでに、十重のテンションを上げる効果もあったようである。
    「な、何だこいつら!? 俺達に『ダメージ』を寄越しやがる!」
    「お、落ち着け! なんてこたぁねぇ、『ブッ潰し』ちまえば同じ――」
    「――隙だらけだな」
     突然の奇襲に浮き足立っている、この機を逃す手はない。
     銀嶺は手近な一人に狙いを定めた。容易く虚を突き放たれる、ギルティクロス。
     男はなす術なく赤き逆十字を刻み込まれ、ギャッ、と短く声を上げて仰け反った。
    「一気に、畳みかけよう」
     灼滅者達の立てた作戦の基本指針は、各個撃破だ。
     怯んだ男をターゲットに、エアンは自らの殲術道具を手に取った。
     エアンの手に握られたそれは、龍砕斧。
    「ヒッ……!?」
     如何にもな凶器らしいそのフォルムを目の当たりにして、男の目の色が怯えに染まる。
    「一方的な暴力。これが、流儀なんだろう?
     ……単純に力押しというのも久し振りだ、遠慮なく行かせて頂く」
     既に、この男達を救うことはできないという。ならば、全力で灼滅するまで。
     ぶぅん、と風を切る音がした。
     渾身の力を込めて横薙ぎに振るわれた、龍砕斧。
     龍の骨さえ砕くその一撃に、傷ついた男の体は、あっさりと、割けた。
     断末魔さえも上げることはなく、灼滅された男の体は大気の中へと霧散する。
    「クソァ! てめぇらまとめて、ブッ『殺ッ』ぞォ!!」
     叫びを上げたリーダー格の男の手には、いつの間にか、巨大で無骨なハンマーが握られていた。
     その様子に、一人の少女が小さくため息を漏らす。
    「……月並みな強化具合に、月並み以下の脅し文句――あのソロモンの置き土産にしては、ロクでもないけど」
     いち早く仲間と合流し、箒を降りていた『魔法使い』――駿河・香(ルバート・d00237)は冷たい眼差しで男を見やる。
    「まあ、あいつらの置き土産なら、何だってロクでもないわよね」
    「香……」
     吐き捨てるように言い放つ香の姿に、思わずエアンの口から呟きが漏れ出る。
     宿敵であるソロモンの悪魔の配下を前にした彼女の様相。
     それは、普段の彼女の快活さを知る者からは、まるで別人のように見えたかもしれない。
    「――Ready Go!」
     スレイヤーカードを解放すると同時、香の影は刃と化した。
     タイルの剥がれたの床の上を、香の影が伸びる。
     駆ける。
     這う。
     そして――斬る。
    「グアァ!?」
     胸板を斬り裂かれ、怯んだリーダー格の男の前に、すかさず彩花が飛び出していく。その手に灯るWOKシールドの輝き。
     当然であるが、彩花の表情に怯えの色など欠片もない。
    「この『アマ』……!」
     バチィ、と骨肉を張る音が響く。
     裏拳気味に繰り出されたシールドバッシュに吹き飛ばされながらも、男は不安定な姿勢のまま強引にハンマーを振るい、彩花に叩きつけた。
    「くぅっ!」
     彩花もまた、姿勢を立て直す余裕はない。裏拳を叩きつけた勢いそのまま回転し、もう一度WOKシールドを構えて、強引に一撃を受け止める。
    「ぁうッ!!」
     バァキィッ、と砕ける音がした。
     ――衝撃で足元の床にヒビ割れを起こしながらも、彩花は何とかその痛烈な一撃を堪えきった。
    「遠藤先輩っ!」
     十重の護符揃えから素早く引き出された防護符が、即座に彩花の傷を癒す。
     受けたダメージは決して少なくはなかったが、その七割方は一時の間に回復しきる。
    「見立てどおり、貴方が一番力自慢のようね?」
    「お、俺の『無敵』のハンマーを……『耐え』……いや、『誘い』やがったのか!?」
     自身の攻撃に絶対の自信を持っていたのか。リーダー格の顔がありえないものを見たかのように不機嫌に歪む。
    「――ギャアッ!?」
     と。
     唐突に、別の男の一人が声を上げ、膝を突き、そのまま溶けるように風に消えた。
    「戦いの中で余所見ですか?
     ――私たちを、なめないことです」
     男達がその視線を、一瞬自分達のリーダーに向けたその瞬間。死角に入り込んだ風花が、黒死斬で男の急所を斬り裂いたのだ。
    「ガッ……! 『ガキ』だと思ってりゃ、『いい気』になりやがって……!
     やれェッ!! こいつら全員、『ミンチ』になるまで『挽き潰し』てやれぇッ!」
     リーダーの咆哮の如き命令を受け、男達は手に手にハンマーを持って、灼滅者達に飛び掛った。


    「まずは、最初に喧嘩売ってくれたテメェからだァ! 『ブッ飛び』やがれぇ!!」
     先陣を切った男がターゲットに選んだのは、昴だった。横薙ぎにハンマーを振り回し、当たるまでどこまでも追いかけてやると言わんばかりだ。
    「いいぜ、お望み通りに『飛んで』やるよ」
    「なッ!?」
     ゴォゥ、と旋風を起こすハンマーの一振りを受けて、昴の体は木の葉のように軽々と飛んだ。そのインパクトの軽さに、ハンマーを振るった男の方が動揺を隠せない。
     衝撃の瞬間に自身もジャンプし衝撃を逃がす――と言うのは、漫画のようにノーダメージで攻撃を回避できる方法ではないが、一つの防御手段にはなりえる。
     吹き飛んだ昴には確かにダメージが蓄積されはしたが、決して致命的なものではない。
    「力を得て、自由になって……
     そこで、満足して大人しくしてれば良かったのにな」
     吹き飛んだ先、背にしたコンクリートの壁を蹴って、昴は再び、跳んだ。敵に向かって。
    「あっ……『遠』、いや、『近ッ』!?」
     男の遠近感が、狂う。駆け寄る昴の足が速いのか、遅いのか。
     ただ、それさえも、わからない。
    「まあ、こうなった以上仕方無い……『此処』がお前らの『終着点』だぜ?」
     昴が一瞬腰の毛抜形太刀に手をやり、またすぐに離した。少なくとも、男にはそう見えた。
     要するに――男自身は何もわからぬまま、居合いの一刀で首を落とされ、灼滅されたのである。

    「テメェが一番『チビ』で『ガキ』だな! なら、テメェから『潰れ』ろォ!!」
     自身よりも弱い者だけを、一切の容赦なく狙う。それがこの男達のやり方だ。
     まだ年端もいかない少女を攻撃することに何の罪悪感もなく、男は文字通り潰してしまうつもりで、その巨大なハンマーを幼い縁樹に向けて振り下ろしたのである。
     しかして。
     彼女の自身の灼滅者としての力に加え、彼女を護る花樹の加護の淡い光は、そんな男の悪意とハンマーよりもはるかに強く、結果、縁樹は大したダメージもなく、その攻撃をさらりと防いだ。
    「何ッ……!?」
    「おじさんの攻撃は、これで『終わり』なのですか?
     なら、今度は縁樹の番です!」
     バチリバチリ、と縁樹の手にした依木の杖に魔力が蓄積されていく。
     自分より強い者に立ち向かう術を、この男は知らない。
    「ヒィ……!」
    「『おやすみなさい』、このまま寝てて下さいね!」
    「ギアァァッ!?」
     幼さが、当然に弱者を意味するわけではない。
     依木の杖によるフォースブレイクの一撃で、男の体は内より爆ぜて灼滅された。

    「大丈夫か、吉沢」
     ダメージを受けた昴に、素早く銀嶺が癒しの矢を掛ける。
     放たれた矢は一直線に昴の体に吸い込まれ、見る間に彼の体を癒していった。
    「『回復』なんざ、しゃらくせぇ! 俺達ぁ『無敵』なんだぞぉ!」
     その様子を見咎めたのか。男の一人がハンマーを振りかぶり、思いきり床に叩きつける。大震撃による衝撃波が香と十重、そして銀嶺を襲う。
     そうして、大振りを見せたその隙を突いて、彩花のご当地ビームが横から男を撃ち抜いたのだ。
     かはっ、と乾いた音を立てて血を吐いて、男は虚ろに呟いた。
    「……何で、『無敵』の俺らが……?」
     ハンマーを取り落とし、膝をついた男の前に、十重が『!?』とばかりに仁王立つ。
    「あなた達の敗因は『灼滅者』を『ナメ』たことです」
     言いながら、十重は詠唱を始めた。ゆっくりと、魔力の矢が形作られる。
    「せめて……『灼滅の向こう側』へ送ってあげましょう」
     音もなく放たれたマジックミサイルが、男の魂を灼滅した。

    「『無敵』を謳う方が、逃げるおつもりですか」
    「チッ……よく見てやがる……」
     リーダー……否、リーダー『だった』男は、風花のスパイラルジェイドとエアンの斬影刃を受け、満身創痍にあった。
     男は、仲間『だった』者達に攻撃の指示を出しておきながら、自らは暗がりに紛れ、一目散に非常階段の出口へ向かっていたのである。
    「テメェらが俺より強いなら……テメェらの居ないトコにいきゃぁ、俺はまた『無敵』になれるんだ! そうすれば、どんなことでも、どんなものでも!」
     チュン、と小さな音がして、男の額に制約の弾丸が撃ち込まれた。
     灼滅され消えていく男を振り返ることもなく、香は箒を手に取り、皆に言う。
    「さっさと帰りましょ……下らない」
     割れた窓の外からは、どこからか街の人々の甲高い笑い声が聞こえていた。

    作者:宝来石火 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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