灼滅者講座1:ようこそ!

    作者:七海真砂

    ●『灼滅者講座』のお知らせ
     武蔵坂学園に来たばかりの皆さん、学園生活はいかがですか?
     新生活が始まったばかりで、わからないことや困っていることなどはありませんか?

     そんな皆さんのために、経験豊富な先輩方にいろいろ聞いてみたり、アドバイスをもらったりできる機会を設けることになりました。
     学園に来たばかりの皆さん、しばらく経ったけれど不慣れなことや不安なことがまだまだあるという皆さん、ぜひ『灼滅者講座』にご参加ください。

    ●灼滅者講座1:ようこそ!
    「皆さん、こんにちは。今日はお集まりくださってありがとうございます」
     会場に集まった生徒達の前に立ったのは、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)だった。どうやら彼女が、司会役を務めるらしい。
    「これから4回にわたって、武蔵坂学園に来たばかりの皆さんにいろいろアドバイスしていきます。『ここがよく分からない』なんてことがあったら、遠慮なく質問してくださいね。私、武蔵坂学園のことには、かなり詳しいんですよ」
     そう言って、姫子はにっこり笑う。
    「今回は最初ですから、『はじめての方へ』に書いてある内容を元にしながら、詳しくお話していきたいと思います」
     姫子が取り出したのは、ここへ来たら一番最初に見る『はじめての方へ』だ。
     ここが一体どんな場所なのか、武蔵坂学園にどんな便利な場所があるのか、大まかに説明してある。一度は見たことがあると思うが、もしまだのようだったら、話を聞きながら目を通しておくといいだろう。
    「今回は、ここで紹介されている場所を実際にみんなで見学しながら、どのような場所なのか、どういったことができるのか、その場所を上手く使うコツなどをお話していきますね。皆さんから何か質問があれば、それにも答えていきますよ」
     学園の中には、灼滅者活動に欠かせない場所がいくつもある。教室、旧校舎、美術室にクラスのたまり場などを回った後、学園の外にあるライブハウスなども見学して、またここへ戻ってくる予定だという。
     ただ口で説明するだけじゃなく、実際に足を運んで見学しながら詳しい話を聞いた方が、より役に立つだろう……ということのようだ。
     それぞれの場所では、みんなを先輩達がガイドしてくれる。先輩達からの、経験に基づいた説明や豆知識などは、これからの生活の参考になるだろう。
     もし詳しく知りたいことや、聞いてみたいことなどがあれば、遠慮せず言ってみるといいだろう。移動途中にも、色々な話が聞けるはずだ。
    「『はじめての方へ』以外にも、詳しい説明が書いてある資料はたくさんあるんですけど、やっぱり分からないことは、詳しい人に聞いてみるのが一番だったりしますからね」
     『分からないことがあったら、誰かに聞いてみる』。もしかしたら、これが学園生活最初の豆知識かもしれませんね、と姫子は言った。
    「学園に来たばかりだと、分からないことがたくさんあると思います。そういう時は、ぜひ周りの人に聞いてみてくださいね」
     質問するのは勇気がいるかもしれないが、心配はいらない。この学園の生徒は、質問には優しく答えてくれる人ばかりだ。特に今回はこんな機会なのだから、質問をする練習のつもりで気軽に聞いてみるといいだろう。
    「学園に来たばかりだと、そもそも灼滅者やダークネスについてあまり詳しくない……という人もいるかもしれませんね。どうして灼滅者はダークネスと戦っているんだろうとか、ここに書いてある『闇堕ち』ってなんだろうとか」
     そういった疑問にも答えていくつもりだが、今回は最初の講座なので、今後の講座で詳しく取り上げる予定の内容や、上級者向けすぎる難解な質問は、あまり詳しく取り上げないかもしれないとのことだった。
    「あ、いろいろ言いましたけど、そんなに堅苦しく考えなくて大丈夫ですよ。みんなでお喋りしながら、楽しく学園を見て回りましょうね」
     せっかくですから、自己紹介とかして仲良くなりながら、あちこち見学しましょうねと姫子は笑った。


    ■リプレイ

     灼滅者達はさっそく、最初の場所へ向かって歩き始めた。
    「間に合ったのぉ!!」
     中には、ダッシュしてきた春色・ぴんく(高校生魔法使い・d09331)のような生徒もいたが、ギリギリ滑り込みセーフだ。
     結構な人数が集まっているため、雨咲・ひより(フラワーガール・d00252)や苑田・歌菜(人生芸無・d02293)など、集まっていた先輩達が自然と周囲の生徒に声をかけ、案内していく。
    「これでも一応先輩だから、何かあったら遠慮なく聞いてくれな」
    「ありがとう。でも何が分からないのかすら分からない、といった有様で……」
     へにゃりと笑いかけた谷山・瑞樹(月待ちの柳・d05406)に、夕月・澄音(紅薔薇・d17335)が思わず本音をこぼした。
     そんな生徒は他にも多数いたのだが、皆、近くに居合わせた先輩から「ゆっくり覚えていこう」「わかるまで説明するから安心してくださいね」などと声を掛けられ、ホッとしたように頷き返したり「ありがと」とお礼を伝えている。
    「僕も結構緊張しているんで、一緒に行ってくれると、すごくありがたいです」
    「あ、ああ。別に構わない」
     霧野・頼人(高校生サウンドソルジャー・d13496)が内海・凪(中学生サウンドソルジャー・d18079)に話しかけたように、講座を受けにきた生徒同士での輪も広がっていた。
     友達を増やしたいと思っていた西園寺・カムラ(自由探求中・d16169)が篠崎・来亜(闇狩りの戦慄・d15113)に声をかけて、女子だったのかと驚く一幕などもあったが、親交を深めながら、せっかくだからとアドレスや電話番号を交換しながら歩く姿も多く見られた。
     中には『ハンドフォン』を使ってみたいのか、耳に手を当てて話しながら歩く姿もある。
    「そういえば……」
     以前助けてくれた人達に会えるかも、と辺りを見回す歪神・漣美(天翔る青い小鳥・d17332)だったが、とにかく大勢の人がいるせいか、なかなか目当ての人には行き当たらない。
    「大丈夫、いろいろ教えてあげるよ、手取り足取り腰と……ああっ、待ってー!」
     一方、不埒なナンパに出た者の中には、九十九・ミネルヴァ(天使と悪魔の実験体・d17191)などからつーんと冷たくあしらわれたり、「強引なことをしたらダメ!」と制止されるなど、残念な結果に終わった者も多かったらしい。
    「姫子ちゃ……ぬわっ!?」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)の周囲には、彼女を口説いたりスリーサイズを聞こうとする複数の男子生徒が集まり、サイキックの使用も辞さない程の足の引っ張り合いが行われたが、「危ないでしょ!」とガードに走った者達によって阻止され、最終的には「好きな食べ物はシチューとグラタンです」などの、和やかな雑談をする程度で終わったようだった。

    ●最初は『校門前』から
    「まずは、この場所だろうな」
     そうして最初に灼滅者達が足を運んだのは『校門前』だった。暗月・朔也(正義なんてクソ食らえ・d08241)達が用意したマイクやスピーカーが活用され、一番後ろの方を歩いていたハイン・オリオール(高校生魔法使い・d18097)たちまで説明を届けていく。
    「皆、学園に来るとき、帰るときは、必ずこの場所を通るだろう」
    「人がたくさんいる場所には、情報も集まるからね!」
     蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)と笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)が口々に言い合う。
     友達と登下校しながら、もうじき迫っている学園行事『運動会』の話をしたり、最近遭遇したダークネスのことを話したり……なんてことは、学園生活ではしょっちゅうだ。
    「ときどき、時間が無いから抜け道を使うなんて言って、校門前を通らない人がいるけど、いろんな話が聞けるのに、ちょっと勿体ないわね」
    「うむ。情報収集は拙者のような忍者以外の皆々方にも、重要でござるよ」
     稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)の言葉に、エイジ・エルヴァリス(邪魔する者は愚か者・d10654)が何度も頷いている。
    「校門前に限らず、ときどきちょっと立ち止まって耳を澄ましてみるといいよ。そうしたら、学園で今ホットな話題がいろいろ聞こえてくるしねー」
     特に気にしていなければ、ただ右から左へ頭の上の方を通り抜けていくだけの会話かもしれない。でも、そんな周囲の会話にちょっと注目してみれば、学園生活に役立つ情報を仕入れるきっかけになるんだよ、と陽瀬・瑛多(中学生ファイアブラッド・d00760)は笑う。
    「いろいろな声が聞こえてくるだろう。その中から、心の惹かれた声の方へ、勇気を出して歩いてみるといい」
     それによって、新しく始まる『何か』もあるかもしれない。御手洗・陸(和協・d06021)は、そんな風にガイドする。
     確かに、校門前で立ち止まって話を聞いてみたり、耳を澄ませてみんなの会話に注目してみることは役に立つ、と多くの先輩達が頷いた。
    「なるほど~。灼滅者には、そういった情報収集も必要なんすね。参考になるっす」
     そんな解説に、天宮・翔(小さな破壊者・d17589)たちは真面目にメモを取っていく。今日のために『★灼滅者講座★』と色とりどりのペンで書き込んだノートを用意していた今・吟子(中学生ご当地ヒーロー・d17286)も同様だ。
     いつでも読み返して確認できるよう、できるだけ丁寧に詳細なメモを取っていく鬼頭・一(てのなるほうへ・d17921)や中海・行部(赤混じりの黒・d17640)のような者が多いが、小早川・里桜(贖罪者・d17247)のように要点を押さえてまとめたり、ボイスレコーダーを活用する清水・式(曇りなき真実を探す者・d13169)など、話を聞く側のスタンスもさまざま。
     中には、もう頭がパンクしそうになっている乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)のような生徒もいたが、彼らには花厳・冰雨(冴瓊・d15608)らが分かるまで丁寧に教え、サポートしていった。
     筆記用具を忘れてしまったエルカ・エーネ(中学生殺人鬼・d17366)も、貸してもらって安心して話を聞いている。
     なお、解説の内容はホワイトボードに近藤・涙(流れ落ちる火・d03419)がまとめたり、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)画伯がイラストにして書き出しているため、うっかり聞き逃してしまっても大丈夫……のはずだ、おそらく。
    「次は校内に向かいますよ~」
     一通りメモが終わったのを見計らい、彩辻・麗華(孤高の女王を模倣せし乙女・d08966)らが次の場所へと皆を促した。

    ●『教室』と『美術室』を見学してみよう
    「知ってるかもしれないけど、ここは『教室』なの!」
     移動してきた皆の前に立ったのは、英・ひなの(粉雪のマリポッサ・d02490)だった。
    「ひなたちは、ここで授業を受けるだけじゃなくて、ダークネスなどの事件についての話を聞いたり、作戦を考えたりもするわ」
     ダークネスが起こす事件の情報は、サイキックアブソーバーに集まってくる。その情報を分析し、未来予測情報とした『エクスブレイン』が、事件を解決してくれる灼滅者を募集するのも、大体の場合は、この教室だ。
    「間違いなく、私達の活動のメインとなる場所のひとつね」
     風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)が言い切ったように、学園生活の舞台としても、灼滅者活動の一環としても、教室は重要なのである。
    「……様々な事件が起こっているので、まずはいろいろなエクスブレインから、詳しい話を聞いてみるのがいいと思います」
     きっと、自分が解決してみたいと思う事件があるはずですから、と霧月・詩音(凍月・d13352)は告げる。
     詳しくは、また改めて詳しく説明する日を設ける予定だが、気になる人のために詳細をまとめたプリントがあるので、興味があるなら読んでみるといいだろう。
     『教室の詳しい利用方法』というタイトルのプリントだ。
    「でも、誰の話から聞いたらいいのか、いまいちよくわからないんです」
    「そうですね、初めはどうしたらいいのか、何かコツのようなものがあれば聞きたいのですが……」
     中田・絢心(小学生神薙使い・d15341)やアンジェリカ・トライアングル(天使の楽器・d17143)が戸惑う様子に、それまで窓際に寄りかかっていた天槻・空斗(焔天狼君・d11814)が口を開く。
    「それならば、今『解決してくれる灼滅者を探しているエクスブレイン』のところに行くのがいいだろう。あと何人、あるいは何人でも無限に来てくれるだけ来てくれると助かる……と呼びかけている事件がそうだな」
     大体の事件は『これ以上の人が解決に向かうと、人数が多すぎるせいで、バベルの鎖を持つダークネスに勘付かれて失敗してしまう可能性がある』とエクスブレインが予測を立て、それに沿って灼滅者を集めていることが多い。
    「その人数を越えている事件には、関わりたくても関わるのは難しい。事件の情報を一覧にまとめている所があるので、参加可能な順序で並んでいるリストを取って、上から見ていくといい」
     また、事件は毎日起こり続けている。今日「これだ!」とピンとくる事件、解決したい事件が無かったら、明日の情報を待ってみるとのも手かもしれない。
    「戦う時の心得とかはありますか?」
    「最後まで諦めずに、仲間を信じること……かなぁ」
     事件の解決に向かう場合のアドバイスが欲しい、という質問がいくつかあがり、日野・唯人(プロミネンス・d11540)は自分なりに答えを返した。
     それから、ちょっと茶目っ気を出して。
    「あ、事件を解決しに行くときに持って行く、おやつは300円までだからね。それから学園に帰ってくるまでが僕らのお仕事です……なんてね」
     途端に「バナナはおやつに入りますか?」「あ、俺も知りたいです」なんていう声が先輩後輩問わずに飛んで、場が和む。
    「バナナはおやつに入りません。……では、次の場所へ移動しましょう」
    「はーい!」
     そんな和やかな雰囲気のまま、灼滅者達はメモやノートを片付けて歩き出す。
    「? どうかしました~?」
    「あ、いや……」
     板倉・澪(いつもしろちゃんと一緒・d01786)が抱いていたナノナノ『しろちゃん』を見ていた母里・康虎(高校生ファイアブラッド・d09639)は、慌てて首を振る。
    (「ナノナノを見ていると、ついつい第三の目とか書きたくなるんだが……俺だけ? 俺だけなのか!?」)
     むずむず、そわそわしてしまう康虎だが、周囲に同じような様子の生徒は見当たらず、かといって流石に面と向かってそうも言えずに口をつぐんだらしい。
    「……」
     ちょんっ。
     そんな中、東屋・紫王(風見の獣・d12878)はナノナノを触らせてもらう。前々から、どんな手触りなのか興味があったのだが、柔らかく、ちょっとしっとりした感じの感触がした。

     次の場所は、教室からそれほど離れておらず、すぐに着いた。
    「皆さん『美術室』へようこそ。疲れていませんか? よければお茶をどうぞ」
     出迎えた仙道・司(オウルバロン・d00813)のそばには、ティータイムの準備ができている。
     みんなにお茶が行き渡り、ひとやすみしたところでガイド再開だ。
    「えーっと、びじゅちゅ……美術室は、縁樹たちが過ごした日々の思い出を振り返ることが出来る場所です。美術室に自分の姿を残している人も多いんですよ」
     噛んでしまって赤くなりつつ、如月・縁樹(花笑み・d00354)がみんなに説明する。ちなみに縁樹も、いろいろな思い出をここに残しているひとりだ。
    「自分の個性をアピールするために美術室へ通って、いろいろお願いしている人も多いよ」
     黒田・真琴(眠り王子・d04577)の解説に、斎藤・斎(夜の虹・d04820)達は、なるほどと頷きながら聞き入っている。
    「はいはいっ! チカもそうやって自分のこと描いてもらうのいいなーって思ってるんだけど、イマイチよくわかんなくて。上手なお願いの仕方が知りたーい!」
     ぶんぶん手を振りあげて、渋谷・チカ(ギャル・d15375)が尋ねると、あちこちから同じように声が上がる。
     美術室をうまく使えるようになりたい、と思っている生徒は、かなり多いのだろう。
     中には『灼滅者としてはそこそこの経験者だけど、美術室だけは自信が無いので詳しい話を聞きに来た』という者までいる。
    「そういうことなら……」
    「でも、かなり長くなるんじゃないですか?」
    「略語とか、美術室だけの専門用語とかも多いですし……」
     美術室に詳しい先輩達が身を乗り出したが、詳しい解説を初めてしまうと、それだけで日が暮れて今日が終わってしまいかねない。
    「美術室については、また日を改めて詳しくガイドします。今は『そういう事が出来る場所なんだな』と覚えておいてくださいね」
     私達もそれまでに説明の仕方を考えておきますので、皆さんも気になることがあったら、質問する準備をしておいてくださいね、と、美術室の案内は締めくくられた。

    ●『旧校舎』でパワーアップしよう
    「というわけで旧校舎! ここは旧校舎なのですよ!」
     びしっとポーズを決めながら、皆を出迎えたのは日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)。
     いかにも~な雰囲気を醸し出している建物を見て、「お化けが出たら怖いなあ」などとビクついている渡会・由鶴(ゆるふわミドリ・d02587)達には、「大丈夫大丈夫」「そんな怖いところじゃないから」と雨賀・ノエリア(闇疾・d04539)らが明るく笑いかけている。
    「ここは、私たち灼滅者のトレーニング場所です。灼滅者の集まる学園とはいえ、あちこちでおおっぴらに戦闘訓練するというのも、どうかと思いますから」
     そこで旧校舎が活用されているんです、とティノ・アークライン(一葉ディティクティブ・d00904)が解説する。
    「ここではサイキックや殲術道具の強化ができる。サーヴァントと一緒にトレーニングをして腕を磨く、という奴もいるな」
     大神・月吼(戦狼・d01320)はホワイトボードに『旧校舎でみんながやってること』と題して、それらを箇条書きにしていく。それを見ながら天草・刃(イクリプス・d17124)達は「灼滅者ならではの訓練場所なんだな」と感心していた。
    「いいかねワトソン君。我々のトレーニングには『サイキックエナジー』というものを使うのだよ!」
     ちょっと芝居かかった口調で言い放つのは、遠間・雪(年齢詐称の性格破綻者・d02078)。彼女の言うように、サイキックなどを強化する際には『サイキックエナジー』を使ったトレーニングが必要だ。
    「たとえば『閃光百裂拳』の練習をする時は、サイキックエナジーを両手に集中させて、目の前の目標を……無心でひたすらに打つべし! 打つべし!! 打つべし!!!」
     練習台を連打しながら、叶・一二三(輝装闘神レイヴァーン・d12033)は実際にトレーニングしてみせる。
     戦いの場で十分な力を発揮するには、こうして普段からトレーニングをして、自分のサイキックを強化しておくのも大切なことなのだ。
    「いきなり全部のサイキックを強化するのは大変だろうから、まずは自分が気に入っているサイキックから順に、強化していくのがお勧めかな」
     藤倉・大樹(高校生シャドウハンター・d03818)がアドバイスしたように、よく使うサイキックを優先的にトレーニングしておくと、いざという時に役立ちやすい。
     サーヴァントがいる生徒は、自分のサイキックとサーヴァント、どちらを優先するか悩ましいが、それも交えて優先順位を考えていくといいだろう。そうガイドされて、霧島・結吾(銀糸の繰手・d04062)達はふむふむとメモを取っていく。
    「あの、そのサイキックエナジーは、どうやって手に入れたらいいんすか?」
    「サイキックエナジーは、教室で聞いた事件を解決したりすることで溜まっていくよ。つまり灼滅者としての活動をすることで、自然と手に入れられるわけだね」
     遠藤・穣(高校生デモノイドヒューマン・d17888)の質問には浅葱・カイ(高校生ダンピール・d01956)が答える。他にも、このあとで見学する予定のライブハウスや、ブレイズゲートなどでの活動を通じて、得ている者もいるという。
    「あの、サイキックを使うことによるデメリットは無いのですか?」
    「サイキックを強化するのもデメリットとか無い? メリットだけ?」
     近衛・泡雪(誰そ彼の刃・d02122)達の質問には、何も恐れる心配はないよ、と力強い返事が返ってきた。
     サイキックやESPを使いすぎて、いざという時に使えなくて困る……というようなことはないし、サイキックを使う事で闇堕ちにつながる、といったことも特にない。安心して、サイキックを有効活用するといいよ、と先輩たちは口を揃える。
     お気に入りのチェック柄ノートにメモを取り終わった遊佐・栞(リラブロンマ・d15851)は、参考にしようと何枚か写真を撮っていく。
    (「……まさか『何か』写ったりしないよね?」)
     現像するまで確認できないが、きっと大丈夫だと信じるしかなかった。

    「それから、殲術道具の強化ですね」
     メモが一段落したのを見計らい、迅・正流(黒影の剣士・d02428)達は次の説明に移った。
     経験を積んで強くなったら、強い武器が欲しくなるだろう。そんな時はお気に入りの殲術道具を強化することができる。
    「ただ強くするだけじゃない。たとえば、こんな風に自分だけのオリジナルデザインを施すことも出来る」
     鏡・エール(シャドウテイカー・d10774)は『嵐生鳳襲』と名付けられたマテリアルロッドを見せた。
    「僕の着てる、この『ふわふわパーカー』もそうだよ~♪」
     くるんと回って見せたのは海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)。ふわふわ素材のパーカーについた、犬耳と尻尾がゆらゆら揺れる。
    「武器や防具の中には『属性』と呼ばれる特殊な力を持っている物もある。そういった武器を合体させて、属性を積み重ねて、更に強い武器や防具にすることもできるぞ」
     イメージとしてはこんな感じだな、と2つのロッドを手に咬弍・阿欺兎(自称蜘蛛の糸サービス社長・d07792)が、さらに一歩進んだ解説を加えた。
     他にも、先輩達が持っている殲術道具は様々だ。誕生日のプレゼントなどにアクセサリを贈る灼滅者などもいるという。中には、恋人からの指輪を大切そうに身につけているという先輩もいた。
    「アクセサリは自分を少しだけ強化してくれる効果があるから、武器と防具以外にも何か装備しておくといいわね。アクセサリーを持っていない人には、ちょっとした奥の手があるわよ」
     明月・満稀(明星の魔法図書館・d02879)が少し声を潜めると、周囲の先輩達もピンときたらしい。宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)や七瀬・仁人(ヘマタイト・d02544)達は、口を揃えて言った。
    「この旧校舎では『呪いを呼び寄せる』ことができるんだよ」
     何人かの生徒達がびくっと体を震わせるが、別に灼滅者達が呪われるわけではない。
    「これは実演していただくのが早いでしょうね」
    「では……来い!」
     灼滅者の言葉が旧校舎を漂う思念……『旧校舎の呪い』と呼ばれるものを呼び寄せる。
     『呪い』はすぐに実体を帯び、呼び寄せた灼滅者の元に殲術道具として出現した。
    「ちょっとしたアクセサリなどを手に入れたい時には便利ですよ」
     そんな先輩達の説明を、三葉・林檎(三つ葉のクローバー・d15609)は何度も頷きながら聞いてメモしていく。
    「でも、なんで『呪い』なんですか?」
    「良い指摘です。……でもそれ、私も知らないんですよね」
     身近なところに謎が転がっているものだと、灼滅者達は顔を見合わせる。
     ともあれ、さっそく実際に呪いを呼び寄せてみたり、先輩にトレーニング相手になってもらい、実践してみる生徒の姿もあったようだ。

    ●『ステータス画面』
    「自分をどう見てもらうかというのは大切ですよね」
     旧校舎からの帰り道、今回の講座に集まった学生達の情報を見つつ、姫子は言った。
     武蔵坂学園は私服通学も自由だが、制服を着ている者から着ぐるみを常時着込んでいる者まで服装も様々だ。
     もちろん、個性というのは外見に限ったものではない。
     ダークネスとの戦いなどで、初対面の相手と一緒に戦うケースになることも多い灼滅者達にとって、自分がどんな人間なのかを他の灼滅者に理解してもらうことは重要だろう。灼滅者達は、その辺りをどう考えているのだろうか。
    「個性の出し方は、色々ありますよ。たとえば、初対面の人にどう自己紹介するか考えておくと、自分のことを伝えやすくなるでしょうし。この学園ではいろいろな人と知り合う機会が多いですから、自己紹介の仕方を考えておくのって重要ですよ
     小森・奈穂(焔の穂・d02324)は、知り合ったばかりの人に自分をわかってもらいやすいように考えてみるといい、と勧める。
    「あ、そーんなに気ぃ張る必要はねーのよ。こんな性格だぜ! とか、こんなのが好き~とか、チャームポイントはここ! とか思いついたことアピールすりゃいいんだしね」
     なにを自己紹介してもいいんだし、思いつかないなら、思いつくまで待つってのも手だしね、と八尋・虚(虚影蜂・d03063)はアドバイスだ。
    「いろんな人と会って、いろいろやってるうちに『自分って、こんな一面もあったのか』とか、『自分って変わったな』とか思う事もあるしな!」
     灼滅者として活動しつつ、自分を見つける……そういうのもいいんじゃないか? とファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)は笑った。ちなみに、彼自身も学園に来てしばらくしてから、気付いたのだという。……自分が壮絶な音痴だということに。
    「そうだな。学園で過ごしているうちに他の灼滅者への印象が変わることもあるし」
     素敵な人だとあこがれていた相手と、仲良くなって友達になったり。
     友達に片思いをするようになったり……なんてな、とアンカー・バールフリット(ルーシリア魔術師団長・d01153)は笑う。そういった、気持ちの変化が見えるようになることもあるだろう。
    「どうしても迷ったら『検索』で他の人を調べて、参考にするのも方法のひとつですわ」
     大勢の先輩や、知り合った灼滅者のことをお手本にしてみるのは、結構良い方法なのだとシノミ・マールブランシュ(恍惚なる白金・d08503)もアドバイスした。

    「それと、一応言っておくが……ぶき や ぼうぐ は そうびしないといみがないぜ!」
    「サイキックもちゃんと活性化して、使う準備をしておかないとダメよ」
     『ステータス画面の詳しい使い方』というパンフレットを広げつつの灰岸・駆道(一歩その先へ・d01573)や君津・シズク(積木崩し・d11222)の言葉に、一部の生徒がハッとした表情を見せた。
     どれだけトレーニングして強化を頑張っても、家に忘れ物をしたら意味が無いのだ。
    「自分が持ってイル殲術道具の中カラ、装備したいモノを選んだら『装備』デス! しっかり『装備』シテ、忘れ物がナイのを確認しなければイケマセン!」
     力説するローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)。どの殲術道具を使うか選んだら、しっかり『装備』を忘れないように、と肝に銘じていく。戦いの場で使用する殲術道具を選び、スレイヤーカードに収納するのだ。
    「武器によって戦闘用のサイキックが、防具によって使用できるESPが変わったりもするので、その辺もあわせて考えてみるといいですよ」
     装備は依頼やライブハウス、ブレイズゲートといった実戦に出ている間を除き、自由に変更できる。
     必要に応じて実戦の場に持ち出す装備やサイキックを変更するのも方法のひとつだと、置始・瑞樹(殞籠・d00403)はアドバイスする。
     回復サイキックが使いたい時は武器を変えるという先輩や、犬変身してお昼寝するのが好きだから、いつもそうできるようにしているという先輩など、装備の選び方にもいろいろ、個性があるようだ。
     そうした部分からも、他の人に自分を理解してもらうことはできるかも知れない。
    「この辺りは、次の講座でより詳しく解説しますね」
     姫子は微笑むと、校舎の方へと足を向ける。

    ●クラスメイトと『たまり場』で仲良くなろう!
    「そういえば、みんな『クラスのたまり場』って顔を出してる?」
     ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)達が話題に挙げたのは、クラスのたまり場についてだった。
     たとえば姫子であれば『井の頭キャンパス高校2年4組』というように、学園の生徒達は必ずどこかのクラスに『所属』している。
     そのクラスごとに、みんなが集まっている『たまり場』があるのだ。
    「せっかく同じクラスになったんだし、たまり場に顔を出してみるといいぞ」
     挨拶したり、話しかけることで他の灼滅者と仲良くなるきっかけになるからな、と九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795)は勧める。
    「クラスメイトはみんな同じ学年だし、同じ時期に転校してきた人もおるかもしれないからのう」
     そういった人達とは話題も作りやすいだろう、と西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)は話す。
    「えへへ、私はたまり場でクラスメイトと相談して、一緒にお花見に行ったり、学園行事に参加したことがあるよ!」
     楽しかったなあ、と話す久志木・夏穂(純情メランコリー・d06715)の体験談は、まだあまり学園生活を経験していない生徒達の参考にもなったようだ。
     武蔵坂学園は学園行事が多く、最近だと運動会や修学旅行、前期中間テストなどが予定されているが、どれも同じ組や学年だからこその話題が多い行事ばかり。たまり場での話も弾むはずだ。
     また、クラスメイト達と話すことが、学園について詳しく知るきっかけになった……という先輩達も多く、学校に馴染むにはいいチャンスだよ、といった助言が飛んだ。
    「分からないことがあったら、クラスメイトに聞いてみるのも一つの方法ですね。あなたが知らないことでも、クラスの誰かが知っているかもしれません」
     クラスメイトだから、転校してきたばかりで学園に不慣れなのはよくわかっているし、そういった質問に答えてくれる人も多いと思いますよ、と曙・加奈(虚ろの眠り姫・d15500)は告げた。もちろん彼女も、尋ねられたらできるだけアドバイスする側のひとりである。
    「たまり場で、どう声を掛けたらいいのか悩んじゃうことがあるんだけど、うまく話にまぜてもらうコツとかって、あるのかな?」
    「ああ、わかります。私も最初、クラスがとても賑やかで、話しかける時は緊張しました」
     劫・銀河(光る銀河を拳で護る・d03200)の質問に、園観・遥香(デッドアイズ・d14061)が頷いている。「そんなに難しく考えず、まずは思い切って話しかけてみるといいんじゃないか?」と月雲・悠一(ブレイズオブヴァンガード・d02499)はアドバイスした。
    「ぼく、ちょくちょくぼーっとしてたりするけど、突然しゃべってもみんな答えてくれるよ」
     空等・雪花(朱色の一閃・d01624)も言うように、クラスメイトに話しかけられたらみんな答えてくれるはずだ。遥香も「私の時も、皆さんが温かく迎えてくれました」と話している。
    「たまり場に顔を出すペースは人それぞれだし、それはみんなもわかっているはずだ。だから、あまり気にしなくていいと思う。焦る必要は無いよ」
     御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)の助言も加わり、それらはたまり場に興味があったティルメア・エスパーダ(薄氷に浮かぶ言の葉・d16209)や九条・雨音(高校生エクソシスト・d17580)達の参考にもなったようだ。
    「ちなみに、武蔵坂学園にクラス替えは無いよ」
    「そのかわり、いつでも好きな時に席を移動したり、クラス変えられるんだけどね」
     ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)とシア・クリーク(知識探求者・d10947)が武蔵坂学園の特色の一つかな、とクラス替えについて話す。
     先生の目の前の席が嫌だと思ったら、一番後ろの席へ移動する……といったことが、武蔵坂学園では自由にできる。時には思い切ってクラスを替えてみるのも良いだろう。
     学園に詳しい、灼滅者経験の長そうな人がいっぱいいるクラスに移動したり、自分と同じような転校生が多いクラスに移動するといったこともできる。ただ、その席に『誰もいない』場合しか席替えやクラスの移動はできないので、注意が必要だ。
    「大きな戦いや、学校行事で結成される『組連合』のどれに所属するかも、所属しているクラスで決定されます。お友達と同じ組連合に所属するためにクラスを移動するという人もいるようですね」
     などと解説しながら、クラスのたまり場について聞きながら、向かった先は……。

    ●武蔵坂学園の『クラブ活動』は、一味違う!
    「こんにちは!」
    「クラブに興味があるなら、いろいろ教えるよ」
    「見学も大歓迎です」
     クラブ棟。
     今そこは大勢の生徒達でひしめき合っていた。灼滅者講座の生徒達が来ると知った、たくさんのクラブが彼らを待っていたのだ!
    「クラブと言うと、サッカー部とか吹奏楽部とか、いわゆる『部活動』を思い浮かべる人が多いだろうけど、武蔵坂学園のクラブ活動は、灼滅者としてのクラブ活動だから、もっといろいろなクラブがあるよ」
     眼鏡をかけた結城・時継(限られた時に運命を賭す者・d00492)が、普通の学校の比較から説明をはじめていく。
    「灼滅者同志の交流の場でもあるからね。お茶やお菓子を囲んでのんびりお喋りを楽しんだり、情報交換することをメインにしていたり、みんなでトレーニングに勤しんだり、いろいろなクラブがあるよ。特定の条件に当てはまる人だけを募集しているクラブとかもあるね」
    「場所もクラブ棟に限らない。喫茶店だったり、廃ビルだったり、古本屋だったり、いろいろだよ」
     伊丹・弥生(ワイルドカード・d00710)やエリ・セブンスター(アンブレイカブルハート・d10366)は、クラブの多様性について語っていく。
     近くでも『総合野球部』が野球に興味のある生徒を探していたかと思えば、『隠れ家クラブ『自由』』のように、広く声をかけているところもある。
     『吸血研究会へようこそ!』というプラカードを掲げた生徒はダンピールに絞って勧誘していたし、ナノナノを連れた生徒に向けて演説しているのは『ナノナノ秘密特殊部隊』のメンバーのようだ。
     『猪鹿蝶』は花札で遊んだり、季節ごとに歌会を開くといった活動内容を説明して興味を持った様子の生徒へ、さらに詳しい話をしている。『うさうさくらぶ』は、もふもふとうさうさを前面に出して推しているようだ。『用務員室』も、さりげなく新入団員募集中なことをアピールする。
     いろいろレクチャーしている生徒の中にも『帰宅部』や『探究部』、『ラグビー部』『トリック+トラップ』『武蔵野スイーツクラブ』など、いろいろなクラブの団長が混ざっていた。
    「友達を増やしたかったら、どこかのクラブに入ってみるのが一番だね」
    「でも、クラブってたくさんありますよね。クラブって、どうやって探したらいいですか!」
    「わたしも、それ気になってました……」
     偲咲・沙花(天涯の一片・d00369)の言葉に、鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)はすかさず手を挙げた。
    「同じようなことを考えている人が他にもいて良かった」と、少しほっとしながら、榊原・智(鷹駆る黒猫・d13025)もおずおず、口を開く。
    「確かに、自分にあったところを探したいし」
     転校してきたばかりの生徒達にとって、やはりそこは気になるポイントのようだ。そこで、待ってましたとばかりに先輩達の知恵が披露される。
    「紹介文を詳しく書いているクラブも多いので、そういったところを順に回ってみるのがいいと思いマス」
    「紹介文を最近書いたクラブを一覧にすることができるから、上からチェックしていくといいんじゃねえの?」
     シャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090)や才門・真知(歪焔・d12808)ら、多くの先輩が挙げたのは、活動内容をアピールしているクラブをチェックしていくことだった。
    「音楽が好きでも、歌がいいのか、ロックバンドがいいのか、クラシックがいいのか……全然違うだろうし。どんな活動がしてみたいのか、イメージしながらチェックしていくといいぜ」
     更に八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)が助言する。
    「それから直接クラブを見学してみて、自分に合いそうなところか確かめるのも大事だね☆」
     団員にならなくても、そのクラブがどんな場所なのか見学する事はできる。
    「そのクラブの様子が、自分にびびっとくるかどうかって重要だよ」という経験談も一理あるだろう。
    「入ってみたいなーってクラブを見つけたら、次は入団届けを出してみるっす。あなたがどんな人なのか、どうしてこのクラブを選んだのか……とかが分からないと団長さんも困るでしょうし、入団したいと思った理由とか書いておくといいっすよ」
     高倉・奏(拳で語る元シスター・d10164)は入団届けに何を書くといいかを助言する。文章が上手とか下手とか、そういうのはあまり気にしなくていい。
    「入部できたら自己紹介をしたり、挨拶をしてクラブのみんなと交流を深めていけばいい。この辺りはたまり場とも同じだな」
     初対面の相手だし、挨拶は忘れずにな、と村雨・嘉市(村時雨・d03146)は付け加えた。
    「とにかく、まずは飛び込んでみるといいわよぉ。クラブは5つまで入れて、その全部で新しい友達が出来たり、素敵な出会いがあったりするんだから」
     芦屋・涼(オネエちゃん・d03718)は、いい感じのクラブを見かけたら、どんどん入団届けを出してみることを勧める。
    「最初は緊張するかもしれませんけど、思いきって挑戦してみてください」
     そんな先輩達からのエールに、頷く灼滅者達だった。

    ●『ライブハウス』は何をするところ?
    「クラブといえば、『ライブハウス』について聞いてみたいのだが」
     蒼月・桔梗(蒼き剣を持つ翼の花・d17736)など、何人かが質問した内容を受けて、次はライブハウスに移動して、詳しいガイドをすることになった。
    「ライブハウスといっても、本当にライブするわけじゃないの。やるのは『バトル』よ」
     歩きながら紅先・由良(夜闇に溶ける殺人者・d00556)達が解説する。
    「最大4人までのチームを組んでトーナメントバトルをするんだ。チームは、クラブの仲間と作るんだよ。だからライブハウスに興味があるなら、まずはクラブに入ることになるね」
    「みんなと優勝を目指すのは、とても得る者が多いですよ」
     彩藤・かなで(藍彩奏・d03137)や与倉・佐和(忠狐・d09955)達が話す内容をメモしつつみんなで歩いていく。
     1人でも参加することはできるが、それでは本戦での勝利は困難だろう。
    「あ、そちらではありませんよ」
     学園の外へ出たからか、辺りをキョロキョロしていた森蔵・明(森蔵の一人娘・d15876)や、迷子になりかけていた花蘂・賢汰(迷子ヒーロー・d16514)などには、八坂・一久(高校生エクソシスト・d13414)らが声をかけていく。
     他にも霧野・充(月夜の子猫・d11585)などが、誰もはぐれないように目を配っており、迷子になる生徒は出ずに済んだようだ。
     そうして、辿り着いた先では、ラーナ・セルクシノエ(渚のセイレーン・d13028)たちが出迎えた。
    「はぁい、いらっしゃい♪ ここはライブハウス、といっても鳴らすのは楽器じゃなくて腕の方だけど」
    「ここがライブよりも熱い、俺達のバトル会場のひとつだ」
     高坂・月影(粗暴な黒兎・d06525)もニヤリと笑う。
    「毎週のライブハウスの本戦はまず、『渋谷』『六本木』『秋葉原』『浅草』といった、東京各地の全16地区での『地区予選』から開始されます」
     まずは、全部で16の地区のそれぞれで激闘が繰り広げられる。
     それぞれの地区で地区優勝チームが決まったら、更に各地区の優勝チームを集めて『決勝トーナメント』と呼ばれる学園最強を決める戦いが始まるのだ。
     夏目・直(雲居の二十六夜・d03220)が整理した情報は『ライブハウスの詳しい利用方法』というプリントにもまとめられている。
    「一人で参加してもいいの?」
    「大丈夫だよ。でもみんなで作戦を考えるのって楽しいから、ワタシとしては誰かと一緒に行ってみるのもおすすめしたいな」
     赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)の質問に、彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)はそう答える。
     チームの人数は1~4人までだが、最大何人まで参加できるかを決めるのは『そのチームを作ったリーダー』だ。リーダーの方針次第になるだろう。
    「ライブハウスでの戦いは毎週行われているよ。新しいチームを作るのは、金曜から月曜の朝まで。月曜から金曜にかけてバトルして学園最強のチームを決める。毎週、このスケジュールで優勝チームを決めているんだ」
     だから負けても、また次の週には学園最強に挑むチャンスがある、と永舘・紅鳥(死を恐れぬ復讐者・d14388)は説明する。いきなり先輩に勝つのは難しいかもしれないが、毎週挑めばそれだけ腕を磨くことができるだろう。
    「他にもライブハウスで戦うメリットとか、あったりしますか?」
    「殲術道具が手に入ったりするよ。あとはサイキックエナジーとか。それになんといっても、クラブの仲間と、もっと仲良くなれるし!」
     聖・咲耶(中学生神薙使い・d16119)の質問に答えたエデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814)は、総合ランキングの上位にいるクラブの一員だ。
     かつて優勝経験があるという鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)も、ライブハウスをきっかけに交友が深まった経験があり、そういった意味からもライブハウスでの縁を大切にしてみるといいとアドバイスした。
     実際に、ライブハウスに参加している先輩達の話をいろいろ聞き、灼滅者達は更に次の場所へ向かおうとするが……。
    「では皆さん、次は電車に乗りますので切符を配りますね」
    「えっ」
    「あと次の場所では、私は何も見えなくなりますので、皆さん解説よろしくお願いします」

    ●力を合わせて危険な『ブレイズゲート』に挑もう!
     それから数時間後。
    「とりあえず実戦を経験してみたいなら、ここがいいだろうな」
     紅草・リヨノ(赤く紅く・d01143)が振り返った先、山梨県の山中にそびえたつのは『世界救済タワー』と呼ばれる『ブレイズゲート』だった。
    「これがブレイズゲート、ですか……」
     はじめて来ました、とタルトレット・ビスコッティ(追憶は雪の中に・d13177)が興味津々に見つめている。
    「普通の場所に見えるでしょう? でも、中にはダークネスや眷属がいて、とても危険な場所なんです」
     ただ、その反面、殲術道具やサイキックエナジーが手に入ったり、経験を積むことでパワーアップしたりと、ブレイズゲート内を冒険することで灼滅者が得るものも多いのだ、とアルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)やアーティア・マルスクラウディア(不器用な謡い手・d14313)たちが解説していく。
    「あれ……もしかして、灼滅者講座ですか?」
     そこへ通りすがった砂庭・楽太郎(瓶詰の砂丘・d00655)は、ちょうどブレイズゲート内の探索へ向かおうとしているところだった。
    「最大4人くらいまでの少人数チームを組んで、中を探索するんだ。友達と一緒に行く場合もあるし、今回みたいに、仲間を探して出会った初対面の灼滅者と向かう事もあるね」
     仲間を探す場所があって、そこを使うんだよ、と楽太郎はガイドする。
    「でも、なんで4人なんですか?」
    「それには、『ブレイズゲートに関してはエクスブレインの未来予測ができない』という点から説明が必要でしょうね」
     姫子は、世界救済タワーの方を見ないようにして質問に応じる。
    「ブレイズゲートでは、エクスブレインの視界が『巨大な白い炎の柱』で遮られてしまうんです」
     実際の現場はもちろん、サイキックアブソーバーに流れ込んでくる情報でも、エクスブレインには白い炎しか見えないため、ブレイズゲート内部の出来事は事実上、未来予測が不可能となっている。 そのため、灼滅者達は断片的な予知を元にブレイズゲートに乗り込む必要が出てくる。
     4人以下での侵入が推奨されているのは、不測の事態が発生した時に撤退するためなのだ。
    「ですがブレイズゲートの力の影響なのか、ダークネスや眷属、都市伝説は分裂したり、さらに弱体化しているケースも多いので……」
    「4人いれば、そうそう負けないってわけ」
     と、楽太郎が言葉を引き取る。
    「4人で行くのが良さそうですね……本当に、どなたに声をかけてもいいんですか?」
    「もちろん。俺も含めて、全然遠慮なんてしなくていいよ」
     丹下・小次郎(人力風起こし・d15614)の質問に答えたのは、アシュ・ウィズダムボール(潜撃の魔弾・d01681)だ。月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)も頷く。
    「1人よりも2人、それ以上の人数で向かった方が心強いし、もし強敵と遭遇しても安心だからね。灼滅者同士、助け合いだよ」
    「そうそう、初対面なんて関係ねぇよ。てなわけで、誰か一緒に来てくれないか」
     更に秋風・千代助(からんか・d12389)は、灼滅者講座に参加しているメンバーに声をかけて探索へ向かうつもりのようだ。
    「ブレイズゲートから帰ってきたら、一緒に行ってくれた人には見つけた殲術道具をお裾分けしたり、お礼を言うことができるよ。せっかくだから、送ってみたらどうかな? きっと相手も喜ぶと思うよ」
     相手が初対面だったとしても、それをきっかけに友情が生まれることもあるしね、と語るのは古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)。頼られたり、誰かの役に立つのは、誰だって嬉しいものだ。
    「うんうん。僕も殲術道具をプレゼントしていろいろ仲良くなったり、好きなあの子と2人っきりでブレイズゲート探索で盛り上がったりとか……って、なんで視線が冷たいの!?」
     御影・弓弦(羽無し八咫烏・d10547)の経験談は、先輩後輩問わず、一部の境遇の灼滅者達から羨みとかいろいろ混ざった視線を向けられることになったが、それはさておき。
     誘う側としても、誘われる側としても活用できる場所――。
     そうブレイズゲートの理解を深めたところで、灼滅者達は学園へ引き返していくのだった。

    ●学園生活を楽しむコツ!
    「ふっふっふ」
     不意に、ニヤリと笑ったのはシルビア・ブギ(目指せ銀河ヒーロー・d00201)。
    「ここで妾たち『ちょーほー部』が調べた、とっておき情報を披露するのじゃ!」
     シルビアの出した『ひみつめも』の中には、なんと学園とっておきお昼寝スポットや、購買部のおばちゃんからちょっとしたオマケをしてもらえる内緒情報などが詰まっているのだ!
    「そ、それ知りたい」
     紫堂・朔日(早花咲月・d09528)は更に、絶景スポットなども教わっている。
    「よし。男達には俺からとっておき情報だぜ」
     ひそひそと設楽・ナオ(怠惰カルマ・d09753)が伝授しているのは、可愛い女の子が集まる内緒のスポット☆らしい。
    「くっ。むしろ彼女が出来る方法を教えてくれ……!」
     敷島・縹(玉響・d12380)からの叫びにも、あれやらこれやら、いろいろ話があったらしいが、果たしてうまくいくのだろうか。
    「それでは、ここで『ヴァカチン王国』講座!」
     キング・ミゼリア(トノサマキングス・d14144)からは謎の講座が開講され、とりあえず話を聞いてみた灼滅者達には、いっこずつ飴ちゃんが配布されたらしい。
    「ねね、こーばいぶって、どんなパン売ってんの? カレーパンある? 焼きそばパンは!?」
     身を乗り出した初食・杭(親友を探している少年・d14518)は、どんなパンがあってないのかをメモしている。
    「じゃあオススメは?」
     フェーツ・メイソン(白銀のダンピール・d17954)にも、いろいろなパンの良さが語られていったようだ。しばらく、日替わりでそれらを試すことになるだろう。
    「そういや、スレイヤーカードを提示すると10%ディスカウント価格で買えるそうだが、学園の売店でも適用されるのかい?」
    「もちろん。というか最初から10%引きの値段になってるよ。どうせみんな持ってるから」
     なるほど、とその返事に平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650)は感心しながら頷いた。
    「近所だと、どの店で使えるんだい?」
    「むしろ使えなくてもいいから、美味しいお店を教えてください!」
     佐々賀谷・充(猩血衣・d02443)の質問に志風・綾音(ツァンナ丶トゥルケーゼ・d04309)乗っかると、近所のオススメ買い食いスポットなどが、次々とレクチャーされていく。
    「そういえば、この学校って学食もあるんだよね?」
     まだいった事が無いという鳴神・千代(星月夜・d05646)に、先輩達が色々教えてくれる。ちなみに、プリンもあるらしい。
    「たくさん食べられそうじゃな……!」
     メニューの豊富さと、お手頃価格を両立する食堂の様子に、フォン・メイロン(ベイビーロン・d17636)も嬉しそうだ。
    「結構混むんですか?」
    「それなりには。でも、食べれなくて困るようなことはないと思いますよ」
     紫藤・彩葉(小学生ダンピール・d16524)の懸念も解決したようだ。
    「学食のメニューのリクエストって出来ますか」
     黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)の疑問には、採用されるかは別として受け付けているらしいという返事が返ってくる。なお、彼女を知る者達は『辛いものは禁止!』と釘を刺すのを忘れなかった。
    「そうそう、実はここから飛び降りると学食へのショートカットなんだよ」
     知ってた? と振り返る椎名・茜(明日はきっと向こう側・d03875)には、結構前からいる生徒達からもどよめきがあがる。
    「はいはいっ。ところで今の魔人生徒会ってだれですかー!?」
    「それは俺も気になっていたんだ」
     水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)の声に、すぐさまラシェリール・ハプスリンゲン(白虹孔雀・d09458)が反応する。
     しかし、明確な答えは返ってこない。やはり真実は謎のまま……ということだろうか。
    「引き続き調査を続けなければ」
     猫神・黒(全てを偽り全てを欺く殺人鬼・d17809)は、そんな思いを新たにする。
    「それにしても、面白い学校ですよね、ここって」
    「まあな。でもこの服装のフリーダムっぷりはどうかと思うが……」
     戒道・蔵乃祐(酔生夢死・d06549)に頷きながらも、入間・眞一(平凡たる逸般人・d07772)は少し遠い目だ。今も女装とか着ぐるみとか、バニーとか、言い出したらキリがない。
    「アハハ。楽しい学園生活、これが一番デスヨー!」
     灼滅者といっても、学生は学生。だからこうして、みんなで武蔵坂ライフを楽しみましょうと、カルリ・ハーティポット(紅を好む白百合・d02761)は笑った。

    ●灼滅者(スレイヤー)とダークネスへの理解を深めよう
    「重要な場所を回ってきましたが、皆さんどうでしたか?」
     そして今日の初心者講座は終わり……というところまで来たのだが、そこで質問の手が上がる。
    「みんなが言ってる『闇堕ち』が実は、よくわからないんだ」
    「灼滅者になって日が浅いから、もっと灼滅者そのものについても聞いてみたいよ」
    「俺はダークネスについて、もっと詳しくなりたい」
    「バベルの鎖が、いまいちよくわからなくて……教えて貰えませんか?」
     そういった、灼滅者として基本的な話を聞いたり、理解を深めたいという希望は、かなり多かった。そういうことなら、と先輩達も準備を整える。

    「灼滅者について説明するには、まずダークネスについて説明する必要があるだろう」
     ダークネスと灼滅者は、密接な関係にある、とディーン・ブラフォード(バッドムーン・d03180)は語った。この辺りの事情は、『支配された世界』に詳しい。
    「僕達人間の魂の奥底には、邪悪な存在『ダークネス』が眠っているんだ。ダークネスは普段眠っていて、出てくることはないよ。でも心に大きな揺らぎが生じた時、分かりやすく言えば絶望や怒りとか、感情の爆発がトリガーになって闇堕ちしてダークネスになっちゃうんだ」
     村瀬・一樹(ちぐはぐ紳士・d04275)が、闇堕ちについてまとめていく。泰山・創斗(通りすがりの特撮オタク・d13224)が続けた。
    「ダークネスは、サイキックっちゅう超常的な力を持っとる。そして、俺ら以上に使いこなしとる。サイキックを駆使することで、奴らは1600年代前半からずっと、人類を支配しとるんや。……今でもな」
    「でも、ダークネスは闇堕ちによってしか増えることはない。だから、ダークネスは社会の裏側から人類を支配して、人口を増やし、理不尽な社会構造を作ることで、相対的に闇堕ちしてダークネスになる数を増やそうとして来た」
     だが、1990年代にサイキックアブソーバーが稼働し、ダークネスの活動に必要となるサイキックエナジーを吸収したことで、強力なダークネス達が活動を停止する。
     そして世界を支配していたダークネス組織に混乱が巻き起こる中で、灼滅者の出生率増加現象が生じた。
    「今、動けているダークネスは、ダークネスの中でもそこまでサイキックエナジーを必要としない、弱い者達……ということですね」
     初依頼でダークネスの強さを体感した小柏・奈々(ミスティックシューター・d14100)が真剣な表情でつぶやく。
    「だが、そういう状況になったことで、俺達灼滅者が動ける余地が出て来たわけだ。ここまで、ついてきているか?」
     ダークネスの存在と、その目的についてまとめたところで、今度は灼滅者の存在についての説明だ。
    「そもそも灼滅者は、ダークネスに肉体を奪われること無く、己の自我でダークネスの力……サイキックだけを行使できる人間の事です」
    「サイキックは本来ダークネスが使う力ですが、私たちは闇堕ちしなくても、その力だけを引き出して使うことが出来ます。……と言うと『すごい超人』のように聞こえるかもしれませんが、闇堕ちしたダークネスほどの力はありません」
     あくまでも人間ですから、と村山・一途(硝子色の明日・d04649)は言う。
     サイキックを使うことができるとはいえ、その力は一人ではダークネスに遠く及ばない。
     もちろん闇堕ちすればダークネス同様の力を得ることはできる。灼滅者達にとっての切り札としての側面も、あるにはあるのだが……。
    「その戦闘力はおよそ10倍です。でも、闇堕ちしたら、あなた本来の心はすぐに失われてしまいます」
     灼滅者であるということは『ダークネスになる素質がある』ということも意味するため、サイキックアブソーバーが稼働せず、ダークネスが今以上に活動していた時期には、発見されるとすぐに闇堕ちに導かれるか、殺されていた。
     そのため、現在武蔵坂学園が確認している灼滅者に、最高学年の生徒より上の年齢の灼滅者は皆無だ。
    「一方で、普通のダークネスは、闇堕ちすると、元の人間としての人格は完全に破壊されて、もう元の人間の人格に戻ることができない完全なダークネスとなってしまいます。
     しかし灼滅者の素質がある場合、闇堕ちしても魂の状態で耐え続けることができるので、ダークネスが灼滅されると元の人格に戻れるわけです」
     ダークネスと灼滅者の違いに解説していくのは、真城・京(一刻を彷徨う者・d13853)だ。
    「灼滅されると、って簡単に言うが、つまりは他の誰かが闇堕ちした灼滅者と戦って、勝たないと元の人格には戻れないことになる」
     だから、自ら闇堕ちするのは、あくまでも奥の手だな、と真崎・カグラ(闇鎖狼刃・d00731)は言い添えた。
    「俺達の魂がダークネスの中に残っていたとしても、戻れなければダークネスと同じだからな」
     闇堕ちした後、耐え続けていた魂すらも完全に闇へ染まってしまえば、二度と戻れなくなってしまうかもしれない。龍月・凍矢(飛鳥に舞う氷の矢・d05082)は、その危険性があることを忘れてはいけないな、と語りかけた。
     いざという場合の判断は、それぞれに委ねられることになるだろう。
     だが、今日の話をよく理解して、そのリスクについて考えなくちゃいけないと、天使・恋華(殺戮乙女・d18058)たちは思う。
    「もし闇堕ちしちゃった人がいたら、探して助けてあげてね」
     みんなのお友達ですものね、と周防・雛(少女グランギニョル・d00356)はドールを動かしながら呼びかけていく。
    「あの、闇堕ちするとサーヴァントはどうなっちゃうんすか?」
    「人それぞれみたいですよ。一緒に闇堕ちすることもあれば、どこかへ消えてしまうこともあるようです」
     生神・カナキ(クロスクロウス・d15063)の問いには、リヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)が知る限りのことを伝える。どちらにせよ主が灼滅されて元に戻れば、サーヴァントも元に戻るようだ。
    「じゃあ記憶はどうなるんでしょう」
    「ダークネスになっている間は、別の人格になるので覚えていない人が多いようです。でも、その間の記憶も全部残っているという人もいますね」
     闇堕ちの間のことは、個人差が大きいようだ。
     泉谷・まりい(夜明けを待ちながら・d05246)の疑問には、それぞれのパターンを経験したという灼滅者が実際に名乗りを上げていた。
    「バベルの鎖について、聞いてみたいのだが」
    「バベルの鎖の効果は大きく3つ。まず1つは、サイキック以外じゃ大した怪我をしなくなる……という結界のような効果ね」
     八乙女・小袖(鈴の音・d13633)の問いに、日乃・朔夜(死点撃ち・d01821)が最初の効果を話す。ダークネスや眷属、都市伝説と戦うことができるのが灼滅者だけなのは、おおむねこの効果が原因だ。サイキックが使えなければ、バベルの鎖を持つ敵を倒すことはできない。
    「他にはどんな効果が?」
    「2つ目は、バベルの鎖を纏ったものが起こす事件などの情報が、伝播しなくなることです」
     出来るだけ詳しく教わって帰りたいと考えていた霧崎・影薙(ライラライ・d13199)の声に、今度は姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)が応じた。
     バベルの鎖自体に他人の記憶を消したりする効果はできないので、事件を見た人の記憶は基本的には残る。
     だが、その人が新聞社やテレビ局に『スクープ!』と情報を持ち込んでも記事にはならないし、周囲の人に伝えたとしても、反応は皆無だろう。もし動画を撮影してインターネットにアップしたり、画像を使ったブログを書いたりしても、話題にならない――というような状況になる。
     ダークネスが人類を裏から支配できているのは、この効果によってダークネスの存在自体を知るのが困難という点も大きい。
     大騒ぎになる心配はいらないが、見た相手を驚かせたりすることにはなるので、バベルの鎖があっても、状況に応じて気配りしておくといいのかもしれない。
     続けて、姫子が口を開いた。
    「バベルの鎖には3つ目の重要な効果として、『未来の自分に降りかかるであろう災難や厄介事を、微かな前兆と共に察知する』というものがありますが……武蔵坂学園では、敵側のバベルの鎖のこの効果を回避する手段を整えています。
     先ほど、ブレイズゲートの前で説明したこととも一部重なるのですが……バベルの鎖についてのおさらいも含め、第3回の講座で詳しく説明しますね。
     あらかじめ自分で調べたいという人は、『サイキック』や『冒険の手引き』といった資料を予め読んでおいていただけると良いと思います」
     エクスブレインである彼女の言葉に、灼滅者達は頷いた。

    「ニホンの外のダークネスはどうなっているんだろう?」
    「ダークネスは存在するのにサイキックエナジーが必要です。強いダークネスほど多量のエナジーを必要としますが、サイキックアブソーバーが世界中のサイキックエナジーを吸収しているため、外国だと、ダークネスは事実上活動不可能でしょうね。
     日本国内でも強力なダークネスは活動停止を余儀なくされています」
     アッシュ・マーベラス(アースバウンド・d00157)の疑問には、寺見・嘉月(星渡る清風・d01013)が答えた。
     他にも、ご当地ヒーローについて語る宇南山・千華(白鳥仮面スーパースワン・d14062)や帆柱・れとろ(流浪のご当地ヒーロー・d00794)の話を、彫木・熊五郎(木彫り熊ヒーロー・d17713)がわくわくしながら聞いたりと、ルーツごとに詳しい話をしている面々もいるようだ。
    「ヒーローの決め台詞は、どっ、どこで練習したらいいですか……!」
     また、八重沢・桜(咲かずに散る・d17551)が勇気を出して聞いた質問には、ヒーローらしく崖の上や屋上、体育館のステージの上といった返事もあれば、グラウンドのような開けた場所を勧める声、仲間がいれば恥ずかしくない理論で教室やクラブなど、様々な場所が挙げられた。
    「ちなみにスズは『可憐な花には毒がある! 幸福を繋ぐ愛の使者、鈴蘭ヒーロー参上!』って感じね!」
     風菜・鈴蘭(鈴蘭ヒーロー・d17861)は自分の決め台詞をきめると、他のヒーローたちにも見せて欲しいとせがんでいる。
    「話が盛り上がっているようですが」
     そろそろ時間ですね、と姫子がマイクを使って呼びかけた。
    「灼滅者講座、第1回はここまでです。第2回の内容も、このあと説明しますから皆さん、聞いてくださいね。……寝ている人達は起こしてあげてください」
     その言葉に肩を揺すられたりして、萌黄・虎芽(とらのこ・d12566)や焔・恭子(高校生ストリートファイター・d14504)は目を覚ました。
     どうやら、長い講座になったせいか、疲れて眠ってしまったらしい。いつの間にやら眠ってしまった生徒は、他にも黒葛原・有栖(マジックガンナー・d10835)や東堂・昶(道化の殺し屋・d17770)など、数十人規模でいるようだ。
     彼らの多くはすぐに起きたが、中には思いっきり起こされても、ぜんぜん気付かず眠ったままの螺子巻・沙螺紗(中学生魔法使い・d17705)のような生徒までいる。
    「ここまで効くと思わなかった……」
    「お前のせいか!」
     愕然と、焦りすらにじませて呟いた鬼塚・良介(不定の道化・d10077)の声に、周囲から一斉にツッコミが入った。彼が流しらリラクゼーション音楽は、彼らの眠りを誘うのに、かなり役立って(?)しまったらしい。寝ている生徒の多さは、良介にも予想外だった。
     もっとも、寝ている生徒が多いのは、それだけのせいでは無さそうだが。
    「ほら、そろそろ起きろって!」
     そんな生徒達を頑張って起こした後、第1回はおひらきとなるのだった。

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月25日
    難度:簡単
    参加:2179人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 62/キャラが大事にされていた 118
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