【トーリの迷宮】準備中につき御注意ください

    作者:佐和

     コーン、コーン……。
     昔は炭鉱として栄えた山に、木槌の音が響き渡る。
     かつては様々な機械で騒がしかった山も、その家族でひしめき合っていた周囲の団地も、今は人影1つなく、朽ちた建物と共に静かな時が過ぎ行くのみ。
     コーン、コーン……。
     音は、第2鉱山口、または、2鉱と呼ばれていた穴から聞こえてきていた。
     入り口には黄色と黒のロープが張られ、その中央に下がる木札には、雨風にさらされた表面に辛うじて立入禁止の文字が読み取れる。
     作り変えずとも、誰も立ち入らず、立ち寄ることもない、その場所で。
     コーン、コーン……。
     音は響いている。
     もし誰かがこの山にいて、音に興味を抱いて鉱山口から中へ入ったとしたなら、すぐにその音の原因を目にできただろう。
     入ってすぐの、二又の分かれ道。
     その左側の入り口に、立て札を立てるために、木槌が振るわれている光景に。
     しかし、目にして納得しただけで終わることもなかっただろう。
     立て札を支えるのも、木槌を振るうのも、共にゾンビだったのだから。
     
    「……鉱山に迷宮、見つけた」
     餅から柏の葉をはがしながら、八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)がそう話し出した。
     不死王戦争の折、コルベインの水晶城に多くのノーライフキングがいたのは、城に乗り込んだ者なら目にしているだろう。
     戦いの終盤で転移した、そのノーライフキング達が動き出している。
     コルベインのように自分の城を求めてか、様々な場所で迷宮を作っているのだ。
     秋羽が予知したのも、そのうちの1つ。
     迷宮は時間を置けば複雑化し、厄介なものへとなっていく。
     また、このノーライフキング達はコルベインの遺産であるゾンビを使うことができる。
     第二、第三のコルベインを生み出さないためにも、放置しておくわけにはいかない相手。
     だからこそ、早期に見つけられた今のうちに、迷宮を攻略してしまうのが最善手だ。
    「迷宮、ところどころに、立て札がある」
     柏餅にかみついて、秋羽はもぐもぐしながら詳細を口にする。
     入ってすぐある分岐路は左右に分かれ、左側の入り口に立て札が立っている。
     そこには赤で注意書きが書かれていて。
    「……『罠準備中につき、関係者以外立入禁止』、って……」
     文言に眉を潜める灼滅者達だが、秋羽も似たように困った表情をしていた。
     親切、なのか?
     戸惑いの雰囲気の中、秋羽は説明を続ける。
     立て札のない、右側へ進むと、今度は3つに分かれた分岐路。
     そのうち、真ん中と右側の入り口にはまた立て札。
    「……『整備中です。危険ですのでこれより先は御遠慮ください』」
     いやそもそも迷宮って危険だろ、と誰かの声が上がる。
     そして、立て札のない左側を進むと、再び3つ股の分岐路があって。
     右側には『罠準備中』、左側には『整備中』の立て札。
     真ん中の、立て札のない道を進めば、少し広い場所に出て、その一番奥に扉がある。
    「扉の向こう、ノーライフキングが、いる……」
     はず、と秋羽もいまいち自信のない様子で柏餅をもぐもぐ。
     それもそうだろう。
     予知とはいえ、道が分かってる迷宮ってどうなんだろう? と思わなくも、ない。
    「立て札がない道、通ると、ゾンビが2体ずつ、全部で6回出てくる。
     『罠』の道は、ちゃんと罠、ある……」
     しかし準備中なだけあって、広範囲低威力のものは罠があることが分かりやすく、注意していれば回避も可能。単体狙いで高威力のものは、発動させるボタンが丸見えだったり、踏んではいけない床が分かりやすかったりするので、あえて引っかからなければ大丈夫だろう。
    「立て札の先は、ゾンビがいるかいないか、分からない。
     道がどうなってるか、も分からない。
     けど、『罠』の道は、最後の部屋、辿り着ける道、ある……上手く、進めば……」
     迷わずゾンビを倒していくか、迷ってでも戦いを避けるか、といったところか。
    「あと、最後の部屋……扉の前……ゾンビ6体、いる」
     それが迷宮部分での、最後の戦いになるだろう。
    「……まずは、迷宮を突破、して……。
     大丈夫だったら……それから、ノーライフキングを灼滅して」
     そう。迷宮突破はあくまで序章。
     その先にノーライフキングがいるのだ。
     迷宮で疲れ果ててしまったなら、無理せず帰還するのも選択肢の1つ。
    「……気をつけて、ね……」
     秋羽は、柏の葉をぎゅっと握り締めて、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)
    アイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)
    東谷・円(乙女座の漢・d02468)
    石川・なぎさ(小学生エクソシスト・d04636)
    斉藤・キリカ(闇色子守唄・d04749)
    神孫子・桐(放浪小学生・d13376)
    桑折・秋空(ここからここまで・d14810)
    ヴィルヘルム・ギュンター(悪食外道・d14899)

    ■リプレイ

    ●分岐路1
    「主よ、貴方の御護りが皆さんにありますように。アーメン」
     ロープの張られた鉱山口のその前で、膝を折った石川・なぎさ(小学生エクソシスト・d04636)が静かに祈りを捧げる。
     黙して、しばし。
     立ち上がったなぎさは、後ろにいた仲間達へと頷いた。
    「さて、さっさと終わらせるぞ?」
     ヴィルヘルム・ギュンター(悪食外道・d14899)の声を合図にしたように、灼滅者達は次々とそのロープを跨いで、または、飛び越えて、坑道へと入っていく。
     次第に陽の光が薄くなり、闇が濃くなって。
    「うう……やっぱり暗い、ね」
     ビハインドのハールの手をぎゅっと握りながら、アイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)は不安気に辺りを見回した。
     怖さを和らげようと懐中電灯を点けると、応じるように、他の仲間も次々と用意した灯りを点す。
     ヴィルヘルムもカンテラをかざして、無骨な道を照らし出して。
     そしてすぐに、明かりの中にその分岐点が現れる。
     事前の情報通り2つに分かれた道。
     その左側には立て札があり、
    「『罠準備中につき、関係者以外立入禁止』……ね」
     斉藤・キリカ(闇色子守唄・d04749)が赤い文字を指でなぞりながら読み上げた。
     聞いていた通りの文言。
     鮮やかな赤色は、ペンキだろうか。
     それを確認してから、
    「罠だの奇襲だのに気ィ回す方がめんどいしな……」
     言葉以上に面倒臭そうに、東谷・円(乙女座の漢・d02468)が立て札のない道を指し示す。
    「戦闘があるって分かってるだけでも気楽だし、ここは迷わねールート行った方が賢明だろ」
     円の提案に、桑折・秋空(ここからここまで・d14810)がちょっと残念そうに表情を曇らせて、
    「折角の迷宮だからちょっとのぞいてみたかったけど、今回は仕方ないかー」
     だが、秋空より先にそれを声にしたのは神孫子・桐(放浪小学生・d13376)。
     立て札の向こうを覗き見るようにぴょこぴょこ背伸びをしつつもそちらに進もうとはしない小さな背中に、秋空はふっと息を吐いて、そうだね、と頷いた。声に名残惜しさが残ってしまってはいたけれど。
     似た心境だったらしい佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)も、苦笑しながら桐の頭をぽんっと叩いて。
    「冒険は浪漫だけど、浪漫だけで世界を危険にさらせないかな」
    「浪漫? 宝も無いような迷宮に浪漫があるのか?」
     ばっさりと言い切るヴィルヘルムに、名草の笑みからさらに力が抜ける。
    「本当の迷宮なら楽しそうですけれどね。今回は、きっちりやるべき事をしましょう」
     仲間のやり取りにくすくすと笑いながら、なぎさは桐の後ろから、その小さな両肩に手を置いて。
    「がんばるんだ」
     見上げた桐と笑い合う。
     そして、灼滅者達は立て札のない道へと慎重に歩き出した。

    ●分岐路2
     道中はとても穏やかに進んでいた。
     罠も障害物もなく、予想されたゾンビも一向に現れない。
     迷わないようにと時折お手製のリボンを目印に置いていたアイレインも、いかに可愛く置けるか、というところにちょっと熱中気味。
     他の灼滅者達も、警戒しつつもどこか少し緩やかな雰囲気で。
    「石炭は金属じゃないのに『炭鉱』って言うんだね」
     ぽつりと零れた秋空の何気ない疑問に、そういえばと桐も頷き、
    「鉄とかなら、鉱石ーって感じがして分かるけどなー」
    「確か……『鉱物』は金属だけを示す言葉じゃないんじゃなかったか?」
     後ろから、知識を思い出すようなヴィルヘルムの声が届く。
    「自然にできた無機物を総称して『鉱物』っつーからな。
     大昔の植物が地中で炭化してできた無機物……石炭も鉱物ってことで『炭鉱』なわけだ」
     そこに、何気ない口調で的確な解説を入れたのは、円。
     やる気のない不良のような外見から思いもよらなかった博識ぶりに、一同の視線が円に集まる。
     そういえば唯一、手が空くようにと考えてヘッドライトを用意していたのも円だ。案外、真面目な勉強家なのかもしれない。
    「……っな、何だよ。ジロジロ見んなオラッ!」
     円は紅潮した顔を隠すように怒鳴り散らした。
     そうこうするうちに。
    「2つ目の分かれ道、ですね」
     少し開けた空間に辿り着き、なぎさが確認するように呟く。
     3つある道のうち、2つには『整備中です。危険ですのでこれより先は御遠慮ください』の立て札が立っていた。
    「親切なんだか、抜けてるんだか……なんともビミョーだわねぇ」
     立て札の片方をつつきながらキリカが呆れたように零せば、
    「丁寧なのか良く分からないなー」
     桐も立て札を覗き込んで首を傾げて。
    「なんだか作りかけのアトラクションに来ちゃったみたい」
     アイレインもぺろっと小さく舌を出す。
     そんな楽しいものじゃないけどね、と付け足して。
    「……まあ、わざわざ道が分かりやすくしてあるなら利用するだけだな」
     敵の意図は分からないまでも、役に立つなら使うまで。
     ヴィルヘルムは立て札のない道を指し示す。
     全員その道へ進んだのを確認して、ヴィルヘルムはこれまでと同じように最後尾を歩き出した。
     変わり映えのしない暗い道を照らしつつ進む、その足取りも変わらない。
     だが、灼滅者達の警戒心は高まっていた。
     誰かが注意喚起するまでもなく、このままゾンビと出会わないはずがないと誰もが確信していて。
     だからこそ。
    「出ました! ゾンビです!」
    「さぁ、勢いよく行こうか!」
     耳を済ませて自分達以外の足音を聞きとったなぎさの声を聞くが早いか、待ちかねたかのように駆け出した名草は、進行方向に現れたゾンビへとロケットハンマーを振るう。
     その後を、キャリバーの轟天が遅れまいと追いかけ、突撃して。
     アイレインも、ハールと繋いでいた手を離して飛び込むと、その杖と共に魔力を叩き込む。
     桐が巨大化した腕を振るえば、その軌跡を追う様に、円が詠唱圧縮した魔法の矢を撃ち放った。
     連続攻撃を受け、何も出来ないままあっという間に1体が倒れ伏す。
     残る1体は、やっととも思える動作でナイフを振り上げるが、すぐさま割り込んだ秋空の光輪に、振り下ろした刃を受け止められて。
     次の動きに移るより前に、ヴィルヘルムの重い刀となぎさの影が、ゾンビを切り裂いた。
    「悪いけど、先に進ませて貰うから!」
     そして、キリカが振るう白く美しいサイキックソードが、対の形を取るイヴァンのそれと鏡像のように息の合った斬撃を繰り出して。
     あっという間に、最初の戦いは終わる。
    「大丈夫か、桑折?」
    「うん。全然平気」
     そして、それぞれ声をかけあい互いの状態を確認しながら、しばしの休息に入った。
     ダメージを出来る限り減らすために灼滅者達が選んだのは、8人のうち6人を、そして全てのサーヴァントをクラッシャーとした攻撃的すぎる布陣での速攻。
     さらに、回復のために、戦闘が終わる毎の小休止。
    「これなら、行けそうね」
     アイレインは作戦が有効なことを確信して、笑顔で再びハールと手を繋ぐ。
     桐もぐっと握った手を嬉しそうに挙げた。
    「よーし、皆! このまま頑張って行こう!」

    ●分岐路3
     灼滅者達の快進撃は止まらない。
     間に休憩があるためその歩みは遅くなったが、ゾンビは見つかるが早いか撃破される勢いで。
    「今度は後ろから来たぞ!」
    「はいはーい。来ると思ったわ」
     しんがりを行くヴィルヘルムと、キリカが後方の警戒も怠らず。
     クラッシャーは初めてだというなぎさも、戸惑いながらも全力で氷のつららを叩き込んで。
    「ひたすら悩んでからめ手を考えるより、正面突破が有効な時もあるんだよね」
     影でゾンビを包んで屠りながら、名草がにっと笑った。
     そして、再びの休息。
    「腹ごしらえと水分補給はいいか? 用意はしてあるぞ」
    「桐、のど渇いたー」
     ヴィルヘルムの問いかけに桐が手を挙げ駆け寄って、秋空も食料を覗き込んだ。
     足を止めて、閑談の一時。
     その最中に、不意に次のゾンビが現れる。
     ほとんどの者が物音や声の大きさに注意を払っていない状況では、敵に見つかりやすく、不意打ちを食らうのも当然だ。
     だがしかし、そのナイフが振るわれるより早く、魔法の矢がゾンビを貫く。
    「おーっと、俺が見張ってんのに奇襲とかさせねーよ?」
     ゾンビの前に立ちはだかり、にっと笑う円。
     その後ろでは、休憩していたはずの仲間がすでに戦闘態勢に入っていた。
     どんなタイミングで敵と遭遇するか分からないような場所で、無防備に休むなんてことはありえず。
     負傷した者を休ませつつも、周囲の警戒は怠っていなかった、その結果。
     ほぼ連戦となりつつも、後手に回ることなく、灼滅者達は新たなゾンビもすぐに打ち倒す。
     そうして、辿り着いた3つ目の分かれ道。
     ここでも立て札に従って、何もない道を選択して足を進める。
     変わり映えのしない道を、これまでと同様に歩きながら、時折ゾンビも倒しつつ。
    「えっと、これで6回戦ったかしら?」
     累計12体目のゾンビが崩れ落ちるのを見ながら首を傾げたアイレインに、ハールがこくんと頷いた。
    「随分と奥まできたね」
     ぺたんと座り込んで携帯食料にかじりついた桐が、元来た道を見ながら言う。
    「一気に来ちゃったけど、帰りにでも罠解除してみたいなー」
     ちょっと余裕のある言葉は、これで道中の敵は全て倒し終わったからだろうか。
     そう。後は道に従って進むのみ。
     だからこそ、次の戦いに向けての準備も含めて、これまで以上に充分な休憩を取る。
     クラッシャーばかりの攻撃的布陣から、メディックとディフェンダーを多くする守りの陣形に変えて。
     そして、念のためと心霊手術を行い殺傷ダメージを回復する。
    (「俺までやらなくてもいいか」)
     円のように、速攻作戦の効果を見て行わない者もいたが、大半が無条件でそのために用意してきた回復サイキックを潰して。
    「よーし。あと少し、ね」
     準備が整ったのを確認して言ったキリカの言葉に、灼滅者達は再び道を進み始めた。
     もうゾンビも出現しない、暗いだけの、狭い平坦な道。
     進むその先に、うっすらと光が見えて……。
     開けた空間、その向かいの壁にあるそれを見て、桐が目を輝かせる。
    「わっ、大きな扉があるよ!」
    「……ゾンビも、な」
     扉の前に並ぶ6体のゾンビを確認し、ヴィルヘルムが刀を構えた。

    ●扉の前にて
    「いぃいいいいやっはぁ!!!」
     真っ先に飛び込んだのは、メディックに移動したはずの名草。
     轟天の機銃による援護を受けつつ、最初は回復不要とハンマーのロケット噴射の勢いも乗せて一気に飛び掛る。
     その勢いを追うように、アイレインも杖を振るい、そこへハールも攻撃を重ねる。
     クラッシャーの桐とヴィルヘルムも、攻撃の手で負けてはいられないとばかりに、同じ相手へとその腕と刀を振るった。
     ゾンビ達もやられてばかりではない。
     攻撃を集中させた結果、手の空いた者が手甲から手裏剣を投げ放つ。
     前衛陣へ向かった手裏剣を、あえて前に出た秋空が、光輪の盾で、そしてその体で受け止める。
    「あんまり無茶すんな」
     毒を警戒して、すぐさま円が弓に癒しの矢を番えた。
     そして、なぎさのナイフから展開された夜霧が他の前衛を包み込み、傷を癒す。
    「そうそう好きにはさせないわよ?」
     お返し、とキリカは祭壇を展開し、攻撃を受けていないゾンビを結界で包み込んだ。
     ジャマーの本領発揮と言うように、狙うはBSによる行動阻害。
     その間に、イヴァンの刃が最初の1体を屠る。
     道中ほどの勢いはないものの、数に勝る灼滅者達は優勢に戦局を運んでいく。
     この戦いの前に態勢を整えたのも大きいだろう。
    「死に損ないどもが! 道を開けろっ!」
     ヴィルヘルムが連続して打ち込んだ拳の嵐に、ゾンビが仰け反り、
    「ゾンビになっても労働なんて可哀想だ、土に返してあげなきゃ」
     そこへ桐の杖が振り下ろされ、その身体の一部を爆散させる。
     ゾンビから放たれた手裏剣に、それが爆発して生まれた衝撃に、秋空が立ちはだかった。
    (「誰かが傷つくのは見たくないんだ」)
     心配する仲間には、ほら一応はディフェンダーだからさ、とのんびり答えて。
    (「僕だけが傷ついていればいい」)
     その奥底では固い決意を抱えて、秋空は仲間を守り続ける。
     そんな秋空を、メディックが、そして、
    「これで元気出して♪」
     アイレインのオーラが癒しの力となり、支えて。
     秋空や他のディフェンダーに守られたクラッシャーが重い1撃を与え続ける。
     ゾンビの数は確実に減っていった。
     もう回復は不要だと、なぎさは槍を構えて振るい、冷気のつららを生み出す。
    「かりそめの命……このままでいてもいい事はありません。あるべき所にお帰り下さい」
     死者の安らぎは壊させない。
     祈りのようなその思いと共に、氷の刃が飛び行き、ゾンビを貫いて。
    「おやすみ」
     名草の影がそのゾンビを眠りの夜へ誘うように飲み込んだ。
    「塵は塵に、だ!」
     そこへ飛び込んだ桐の巨腕が、影ごとゾンビを叩き潰して。
     ……ゾンビとの戦いは、終わった。
     念のために再度辺りを確認してから、灼滅者達は扉の前へと集まる。
    「やっと着いたなー。何か、迷宮って感じしなかったけど」
     ため息をつきながら、円が扉に手をついて気楽な口調で言う。
     だが、その口調通りの心境の者は、誰1人としていなかっただろう。
     この扉の向こうにノーライフキングがいるのだから。
    「ここでも休憩しない?」
     だからこそ、はやる気持ちを抑えて、これまでと同じ慎重な提案を口にした名草に、アイレインもにっこり頷いて、
    「万全の状態で向かわないとね」
    「桐、のど渇いたー!」
     ぴょこんと桐が手を挙げた。
     そして、灼滅者達は最後の休憩を取る。
     迷宮の主、ノーライフキングとの戦いへ向けて……。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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