【死者の迷宮】屍王に挑む者

    作者:天木一

     迷宮の奥、王座の間に慌ただしく配下のスケルトンが出入りする。玉座には黒いローブに身を包んだ者が鎮座していた。
    「そうか、侵入者か」
     配下のスケルトンから屍王は侵入者の情報を得ていた。
    「糞どもが……来るのが早いのだ」
     どすの利いた声が響く。
    「本当ならば、十字路全てにトラップを仕掛けている予定なのに……」
     直立するスケルトンに王は杖を手にして振り上げた。雷がスケルトンを打据える。
    「どぉしてくれる! 貴様らの作業が遅いから! 無数の罠に掛かり、弱りきって到着した愚かな侵入者を! 我がいたぶり殺すというプランが台無しではないか!」
     まだ足りぬと王はもの言わぬスケルトンを杖で殴打する。怒る王はスケルトンが動かなくなるとようやく息を吐いた。
    「まあいい、侵入者を蹴散らした後、完成させればいいのだ。ふん、何者か知らんが、我が迷宮に入った事を後悔させてやろう……」
     カタカタカタと黒いローブの中から響く音。ローブの奥には水晶のようなスケルトンの顔が哂っていた。
     
     ――王座の間への扉が開かれる。
     ギィィィィと骨が軋むような音と共に、重々しい大きな扉が開いた。
    「行くぞ姫切!」
    「そちらこそ遅れナイでくださいよ」
     先陣を切る三島・緒璃子(稚隼・d03321)と姫切・赤音(紅榴に鎖した氷刃影・d03512)がまず扉を潜る。
    「あら、雰囲気あるわネ」
    「まさにボスの部屋って感じだよ」
     部屋に入った炬里・夢路(漢女心・d13133)と千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)の視界に入ったのは、天井から吊るされたシャンデリアの灯り。そして床には赤絨毯が敷かれ、岩肌が剥き出しの壁は所々が水晶のようになっていた。
    「なかなか洒落た部屋ですわね」
    「最後の舞台にはちょうどいいデスね」
     霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)の言葉に霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)が頷くと、その視線は中央の玉座に向けられる。
    「どうも待たせてもうたみたいや」
     王座に一歩ずつ近づきながら、三条院・榛(円周外形・d14583)は最後の戦いに期待を膨らませる。
    「みんな! クライマックス行くよ!」
     朝山・千巻(依存体質・d00396)が元気良く皆に声を掛けると、各々の返事が響く。
     玉座のノーライフキングと対峙し、灼滅者達は刃を突きつける。
     迷宮の王との戦いが始まろうとしていた。


    参加者
    朝山・千巻(依存体質・d00396)
    三島・緒璃子(稚隼・d03321)
    姫切・赤音(紅榴に鎖した氷刃影・d03512)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)
    炬里・夢路(漢女心・d13133)
    霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)
    三条院・榛(どんなに苦しくてもやり遂げる・d14583)

    ■リプレイ

    ●王の間
     王座に座るは黒いローブを纏う水晶の骸骨。彼の者こそこの死者の迷宮の王であるノーライフキング。悠然と侵入者が来るのを待っている。
     灼滅者達は迷宮の試練に打ち克ち、とうとう迷宮の最奥へと辿り着いたのだ。
    「さぁさ、年貢の納め時だよぉ、すっぱりここらで決着つけようぜ?」
     長い時間迷路を歩かされたストレスに、不機嫌そうに朝山・千巻(依存体質・d00396)は言葉荒く言い放つ。
    「不死王殺し、か」
     三島・緒璃子(稚隼・d03321)は不敵に笑う。
    「あはっ、不死をも殺すとは実に小気味良か! 楽しみだのぅ!」
     そう言って抜き放った身の丈程もある大太刀を構えた。
    「……バカが」
     携帯電話を見ていた姫切・赤音(紅榴に鎖した氷刃影・d03512)が何処か嬉しそうに呟く。それは迷宮に入る前に届いていたメールだった。
    「さァ、終わりを始めましょうか」
     携帯を仕舞うと、ポケットに手を入れた。その顔は疲労など消えてしまったかのようだ。
    「ダークネスがどれだけ強くても、仲間が一緒なら怖くないよ」
     そう言って千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)は仲間を見る。
    「君も仲間と組めば良かったろうにね、王サマ」
     屍王を見る目は哀れむようだった。
    「Guten Abend,ノーライフキング。勇者御一行が倒しに参りましたヨ?」
     芝居がかったように霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)が挨拶をする。
    「実はワタクシ、屍王と戦うのは初めてなんですヨ。ああ――楽しみですネェ」
     笑みを隠すようにシルクハットを目深にかぶった。
    「はじめましてノーライフキングちゃん、会えて嬉しいワ」
     ぞくりと炬里・夢路(漢女心・d13133)の背筋が冷たいものが奔る。だがそれとは逆に胸には熱いものが燃えたぎっていた。
    「アタシちょっとアツくなっちゃってるみたい、張り切っちゃうかもネ」
     強敵を前に胸の熱さを抑え切れないと、爽やかに笑みを浮べる。
    「ようやくこの埃っぽいところからお暇できるのですね」
     霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)は掃除など全くされていないだろう空間に顔をしかめる。
    「わたくしがそこに居る粗大ゴミもろとも掃除してさしあげますわ」
     鋭い視線を王座に居るノーライフキングへと向ける。
    「迷宮言わはるから楽しみにしてたんやけど、つまらんかったわ」
     三条院・榛(どんなに苦しくてもやり遂げる・d14583)は首を振ってがっかりだとポーズを作る。
    「最後の部屋も、なんやこざっぱりしてはるし、期待できへんかな~」
     それはこれから戦う王に向けての挑発。
     そんな灼滅者達を見下すようにノーライフキングは、座したまま億劫そうに口を開いた。
    「まだ未完成とはいえ、ニンゲンが我が迷宮をよく破ったものだ。褒めてやろう」
     言葉では褒めているがそこには全く感情が乗っていない。
    「だぁがぁ、その幸運もここまでだ」
     ノーライフキングは透明な水晶の杖を手にゆっくりと立ち上がる。その髑髏の口元は引きつるように哂っていた。
    「我が迷宮に挑んだ事を、後悔して死んでゆけぃ!」
     一喝が部屋に響く。だがここまで迷宮を潜り抜けて来た灼滅者達は怯まない。その目には闘志が宿るのみ。
    「迷宮で疲れたぶんも、ここで心置きなく暴れるぞー!」
     ノーライフキングを前にしても恐怖など無く、元気一杯に千巻が声を上げる。皆も同じく一歩も引かぬ戦意を見せ、全力で迷宮のボスへと挑む。
     そうして最後の戦いが始まった。

    ●ノーライフキング
     最初に飛び出したのは緒璃子。邪魔にならぬよう太刀を担ぐように持つと、一直線に屍王へと駆ける。
    「虫けらが……王を前にしているのだ、跪けぃ!」
     屍王は迎撃に手にした水晶の杖から稲妻を放つ。閃光が届こうとした瞬間。大きく踏み込み、雷を宿した左拳を緒璃子は突き出していた。
     ぶつかり合う雷。衝撃に足が止まるが、稲妻は掻き消えた。屍王がもう一度稲妻を放とうと杖を掲げた所に、赤音がギターをかき鳴らす。音波が襲い掛かり、屍王の動きを僅かに止めた。
    「さァ、思いっきり行くわよォ!」
    「挨拶代わりだ。受け取りなよ」
     その隙に夢路がガトリングガンを構え、発砲した。炎の弾丸が連続で屍王の体を貫く。七緒もナイフに炎を宿して斬りつける。
    「やっぱりこっちの炎がしっくりくるね」
     七緒は宿した炎を見て呟く。
    「Frön einem Betrug!(まやかしに溺れろ)」
     ラルフが笑みを浮べたまま、殺意を放つ。殺気は広がり屍王を飲み込んだ。だがその殺意の渦を貫くように閃光が奔る。稲妻がラルフを打ちすえた。
    「そんな怪我くらい大丈夫! 誰も倒れさせないぞー!」
     千巻は歌う。天使のような歌声は、ラルフの傷をすぐに塞いでいく。
     その回復する千巻を狙い稲妻が奔る。
    「させませんわ」
     弥由姫がその射線に入り、エネルギーの盾を張り受け止めた。
    「隙ありや、捕えたで」
     榛の手から伸びる鋼糸が屍王の腕に絡み付いていた。そこに弥由姫がガトリングを構えて炎の弾を撃ち込む。
    「生きてるか死んでるか分からんが、斬って倒せば殺せるのだろう?」
     屍王が糸を外す僅かな間に、間合いを詰めた緒璃子が上段から太刀を振り下ろす。
     鈍い金属音と共に刃は弾かれる。屍王の持つ杖が太刀を受け止めていた。
    「叩き潰してあげまスよ!」
     緒璃子の後ろから槍が飛び出し、屍王を貫く。赤音は捻りを加え、螺旋の力で水晶の骨を抉る。
    「糞虫どもめ、調子に乗るなよ!」
     杖の先で地を叩く。その瞬間猛烈な風が屍王を中心に渦巻いた。風の刃が襲いかかり、緒璃子と赤音が10m以上吹き飛ばされる。2人は全身に切り傷を負い、衣服が赤く血に染まる。
    「ふん、消し飛べ」
     その2人に向かい屍王はもう一度風の渦を放つ。だがその攻撃は2人に届かない。
    「……くっ、わたくしがいる限り、仲間に攻撃できると思わない事ですわね」
     弥由姫が風に押し飛ばされそうになりながらも、エネルギー障壁を張り、暴風を押し留めていた。
    「調子に乗らないでよネ」
     夢路はガトリングの弾を撃ちまくり弾幕を張る、ラルフも漆黒の弾丸を撃ち込み、敵の注意を逸らす。その間に千巻と七緒が2人を癒し始めた。
    「まだまだー! 七緒クン治療いくよ!」
    「了解! 奇術をお見せするよ! なんてね」
     千巻がギターを鳴らすと、気力を奮い立たせるメロディが響き。七緒はまるでラルフのマジックを真似るように傷を癒す夜霧で包み込む。
    「おや、わたくしも負けていられませんネ。奴を喰らいなさい、フェアリーズ」
     ラルフの足元から金の眼状紋の牙持つ蝶の群れが飛び立つ。無数の蝶の群れは屍王にまとわり付くように、群れの中に飲み込む。
    「こっちも追撃いくわヨ」
     そのタイミングで夢路が魔法の矢を撃ち出した。鋭く飛来した矢は影に捕らわれた屍王の胸に突き刺さる。
    「糞虫が糞虫が糞虫が!」
     怒り罵倒する屍王の周囲に風の渦が巻き起こり、蝶の群れを吹き飛ばすと、ラルフと夢路をも飲み込む。咄嗟にラルフは夢路の前に出るが、攻撃を受けきる事は出来ずに2人は吹き飛ばされる。だがその攻撃の隙に榛が鋼糸を飛ばした。糸はするりと屍王の首に巻きつく。
    「油断大敵や。さぁ、お前の罪を……贖え!」
     榛は鋼糸を思い切り引く、糸は刃となり、屍王の首が寸断され地に落ちた。

    ●不死を滅ぼす者
     息を殺し、灼滅者は倒したかと目を凝らす。その時無機物な音が部屋に響いた。
     ――カタカタカタカタカタ。
     それは落ちた髑髏が哂う音。
     体が頭を拾い上げて元ある位置に乗せた。
    「くっくっくっ……死を超越した、不死たるこの身がこの程度で滅ぶと、思ったか? 思ったのか? 糞虫どもよ!」
     髑髏が嘲笑う。切断された首の傷は元に戻り、屍王は灼滅者達を睥睨した。
    「……――手前ェ、もう喋ンな」
     普段とは全く違う声が響く。それは珍しく激情に声を荒げた赤音だった。
    「屍体如きがゴキゲンに喋ンなッて言ってンだよッ!!」
    「……姫、切……?」
     緒璃子は驚いたように相棒の様子を窺う。
    「……失礼」
     赤音はその緒璃子の顔を見て平静に戻る。
    「ふん、どうした、下等なニンゲンよ。貴様らが怒ろうがどうしようが結果は変わらん。我が前に屍となれ、何なら我がアンデッドの一員にしてやろう」
    「姫切!」
     屍王の言葉に我を失いそうになった赤音は、緒璃子の声で落ち着きを取り戻す。
    「行くぞ相棒、斬り殺して黙らせてやろう」
    「ええ、三島もタマには良いことを言いますね」
     2人は笑みを交わして屍王へ突っ込む。
    「……いいなぁ、ああいうの」
     そんな様子を見て七緒は羨ましそうに呟く。
    「七緒クンこっちはもう大丈夫だよ!」
    「あ、はい!」
     千巻と七緒は傷を負ったラルフと夢路の治療を終える。
    「ありがとうネ」
     そう言うと夢路はガトリングを構え、前線に戻る。
    「まだまだショウは続きマスよ」
     ラルフもその後に続く。
    「何度やっても同じだ糞虫ども!」
     屍王は迫り来る緒璃子と赤音に向かい、風の渦を解放つ。
    「何度も同じ技を繰り返しおって、こん愚か者がっ」
     緒璃子は担いだ太刀を大上段に構え、風の渦に振り下ろした。
     刃に斬り裂かれ、一瞬風が途切れる。その空隙に赤音が飛び込み、屍王に肉薄する。影の刃が屍王のローブを切り裂く。そして赤音は蹴りをその胴体に叩き込んだ。
    「ふざ、けるな!」
     屍王の周囲が闇に染まる。黒い波動が赤音へ放たれた。
    「言ったはずですわ、させないと」
     弥由姫が飛び込み、その邪悪な力を受け止める。盾が吹き飛ばされ、めきりと腕から砕ける音。血が流れ落ちる。
     更に杖を掲げた屍王が稲妻を放つ。だがバランスを崩しその方向は僅かに逸れた。
    「腕にばっか気ぃ取られ過ぎとると、足元すくわれますぇ?」
     見れば榛の糸が足に絡みつき、引っ張っていた。そこに夢路とラルフが仕掛ける。
    「サッサと片付けて必ず皆で戻るわヨ!」
    「狂気を吐き出せ、ナハトマート」
     夢路がガトリングの弾丸を撃ち込み、ローブを穴だらけの蜂の巣にすると、ラルフが美しい意匠が施されたナイフを振るう。そこから起きる呪われた風の刃が渦を巻き、屍王を斬り刻む。
    「すぐに治しちゃうからね!」
    「オマケしとくよ」
     傷を負った弥由姫に千巻が歌い、七緒が小光輪で守りを付ける。
    「……糞虫どもが、我を本気にさせたな! 地獄へ送ってやる!」
     髑髏からまるで息のように闇が漏れる。その身から放たれた暗黒は周囲を飲み込む。放たれた波動は近接していた緒璃子、赤音、夢路、ラルフ、弥由姫に襲い掛かる。
    「皆さん、わたくしの後ろへ!」
     避ける事は出来ない。そう判断すると、弥由姫は前へ、攻撃に向かって盾を構えて突っ込む。周囲を漂う小光輪がまず砕けた。そして盾が押し潰され、弥由姫は強烈な圧力を腹に受け、体を宙に吹き飛ばされた。続けて他の仲間も弾き飛ばされる。
    「後は……任せましたわ」
     弥由姫は内臓を傷つけたのか、口から血を流す。深い傷を負い、そのまま意識を失った。他の仲間は身を挺して威力を減衰させた結果、軽傷で済んでいた。
    「大丈夫!? しっかりなさい!」
     夢路が安否を気遣う。
    「大丈夫、意識を失っただけだよ」
     七緒が素早く近寄り、応急処置をしながら後方へと引きずって下がる。仲間達はその声に安堵し、憎しみと怒りを敵に向ける。
    「任されたんやから、やるしかあらへん」
     榛の言葉は皆の気持ちを代弁していた。
    「ここが正念場だよぉ! 押し通せーっ!!」
    「僕らが支えるよ。やっちゃえ、みんな!」
     千巻の奏でるメロディーが仲間に活力を与え、七緒が夜霧を味方の周りに展開させる。
    「クハハハッ! さあ、もっと力を見せてみなさい」
     手強い敵を前にしてラルフは狂ったように嗤う。漆黒の弾丸を放ち、蝶の群れで敵を飲み込む。
    「負けてらんないのヨ、そのために苦労してココまで来たんだから」
     夢路がガトリングから弾をばら撒き、屍王の移動方向を潰して動きを封じた。
     そこに緒璃子が横一線。太刀を振るう。屍王は杖で受けようとしたが、重心を乗せ押し切り、鋭利な刃は肋骨と左腕を斬り落とした。手にしていた杖が転がる。
     更には赤音が仕掛ける。だが屍王も反撃に移った。
    「死して骸となれぇ!」
     屍王の叫びと共に、暗黒の波動が撒き散らされる。緒璃子は赤音を庇うように前に出る。衝撃に緒璃子の腕が折れ曲がり、肋骨が砕けた。
    「私が盾になっちょるんだ。真逆討ち逃すなどという無様は無かろ?」
    「はッ、誰に向かって言ってンですか!」
     血を流しながら笑うに緒璃子に、赤音は軽口で返す。
    「――決めろ相棒!!」
     影の刃が屍王の胴体を両断した。上半身がごろりと転がり、下半身はそのまま倒れた。
     ――カタカタカタカタ。
    「くっくっくっ……まだぁ――」
    「言い残すことはあるかぇ?」
     上半身になってもまだ動く屍王の頭を榛が縛霊手で握った。
    「ああああ、糞虫がぁあああ!」
     硝子が割れるような音が響く。頭部が砕け散り、他の部位も夢路がガトリングを打ち込んで全て粉砕した。水晶の骨はきらきらと輝く砂塵となって宙に消え去った。
    「水晶の割りに頭部が脆かったようやな」

    ●踏破せし者達
    「……ん、ここは……」
     弥由姫が目蓋を開けると、そこには千巻と七緒が心配そうに見守っている姿があった。
    「大丈夫?」
    「目が覚めたみたいだね」
     2人の声に、弥由姫の意識が覚醒する。周りを見渡すと他の仲間達も居た。自分がどういう状況なのかを思い出し、把握する。
    「屍王はどうなりましたの?」
     その質問に、榛が笑って親指を立てた。それを見て弥由姫も安堵の笑みを浮べた。
    「んじゃ、帰りますかっ! ……って、まさか、またあの迷路引き返すの?」
     千巻が顔を青くしてダンジョンを見渡す。主を失い、いずれ朽ちるのだろうが、すぐにという訳でもない。
    「残念だけど、そういう事になるわネ」
    「ヤレヤレですネェ」
     溜息を吐いて夢路が天を仰ぐようにすると しょうがないとラルフも首を振る。
    「せっかくだしマップの未踏破エリアを埋めてかない?」
     ウズウズしながら言った七緒の台詞に皆がもうたくさんだという顔を見せた。
    「……冗談だよ」
     そう言う七緒はどこか残念そうだった。
    「まぁ、のんびり帰ればいいンじゃないですかね」
     赤音はポケットから出した手で眼鏡を押し上げる。
    「そうじゃのぅ、怪我人もおることじゃし。霞代、肩貸すけぇ」
     そう言って緒璃子は起き上がりふらつく弥由姫の傍に寄る。
    「じゃあアタシは反対側ね!」
     回り込んだ千巻も同じように反対を支える。
    「お二人ともありがとうございます。助かりますわ」
     疲労を隠せない弥由姫は感謝して2人に体を預けた。
    「ほんならちゃっちゃと帰ろか、面倒やけど」
     こんな陰気臭い所に長居は無用と、榛は歩き出す。仲間の灼滅者達もその後に続く。
     ダンジョンの奥深く、死者の迷宮の王を倒した冒険者達は、意気揚々と暗闇に閉ざされた世界を後にするのだった。


    作者:天木一 重傷:霞代・弥由姫(忌下憧月・d13152) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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