【洞窟迷宮】対決の時

    作者:陵かなめ

    「攻略者か……」
     ごくり、と。玉座の主が喉を鳴らした。大仰なマントを羽織り、そわそわと両手を組み替える。配下のアンデッドを両側に従えたノーライフキングだ。
    「ふん。我が迷宮に入り込むなど、片腹痛い。……む、小部屋を避けて進んでいるだと……?!」
     迷宮の様子を探りながら、ノーライフキングが唸る。
     小部屋に配置したアンデッドが、ある程度侵入者の体力を削る計算だったようだが……、見事に当てが外れた感がある。
    「馬鹿な。これでは、迷宮が突破されてしまうではないか。そうなれば、我が身も……。いや、駄目だ。ここで負けてしまったら、迷宮を大きくして周辺の住民を襲い、財産を奪う計画が……! くそ、侵入者めっ」
     ノーライフキングはブツブツと侵入者を罵り、そばに居たアンデッドをつついた。
    「おい。お前、ちょっと侵入者をつついて来い。なに、お前は元々小部屋に配置していない。部屋から出られないと言う縛りの外にいる」
    「……ァアア」
     命令され、アンデッドは王座の間を後にした。
     
    ●最初で最後の扉
     細い道を抜け、目の前に現れたのは扉だった。
     迷宮内の小部屋をいくつも見てきたが、扉で区切られている場所は初めてだ。
    「いかにも、言う感じやな」
     朔太郎の言葉に、葉月が頷く。
    「いよいよだね。頑張ろう」
     扉の向こう側から、うめき声が漏れ聞こえてくる。確実に、ノーライフキングが待ち構えているのだ。
    「これからが本番だよね☆」
    「コルベインの頭を撃ち抜けなかった借りは、ここにいるノーライフキングに返してもらうとしましょうか」
     音音と祇鶴がお互い顔を見合わせた。
    「では、行きましょう」
     光が扉に手をかける。そこに鍵はかかっておらず、力を込めて押せばすぐに開きそうだった。
    「屍王……、一体どれほどの実力なのかな」
     表情を引き締め、弥影が扉を見つめる。
    「どんな敵であろうとも、戦うのみです」
     これからの戦いを思い、刹那が口の端を少し上げた。
     ぎぃと鈍い音があたりに響く。扉がゆっくりと開かれていった。
    「背後から、敵の気配はないかな」
     雪紗が背後を確認する。迷宮内の小部屋の敵は全て倒してはいない。だが、皆がいる通路に敵の気配はなかった。
    「気合入れて、行こか」
     扉を開き、朔太郎が目の前の情景を確認した。
    「……ォ、オオオオオ」
     唸り声が、大きく響く。
    「ふん。よくも我が迷宮を突破してこれたものだ」
     今までの岩に囲まれた小部屋とはひと味ちがう。
     広々とした広間の、再奥。
     アンデッドを一体従えて、大きな玉座に、ソレは居た。
     


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)
    一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869)
    高倉・光(人の身体に羅刹の心・d11205)
    一玖・朔太郎(爽籟の告鳥・d12222)
    飛鳥来・葉月(中学生サウンドソルジャー・d15108)

    ■リプレイ

    ●向かい合う時
     扉に手をかける。
    「いよいよ屍王とご対面ね」
     どうせ人からすれば傍迷惑な事しか考えてないのだろうし、さっさと倒しちゃいましょう、と神薙・弥影(月喰み・d00714)が言うと、皆が頷いた。
    「岩窟王とのご対面、という訳か」
     後方から二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)が窺うようにつぶやく。
     一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)も、真っ直ぐ目の前の扉を見た。
    「遂に玉座まで辿り着いたわけだけど、本番はこれからよね」
     その言葉に、楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869)が拳を握り締める。
    「さあボス戦です!」
    「戦いは嫌いって言ってるんだけどなぁ~……うぅっ、でもしょうがないっ。ネオン頑張るよう~!」
     戦いと聞いて、殺雨・音音(Love Beat!・d02611)がふるふると首を振った。でも、頑張る。さっさと終わらせて、早くココからさよならしちゃいたいのだから。
    「こんな迷宮の奥深くで、悪事を働こうとして! そんな野望は必ず私たちのが止めてみせる!」
     飛鳥来・葉月(中学生サウンドソルジャー・d15108)の声を合図に、扉を開いた。
     はたして、その先に。
    「ふん。よくも我が迷宮を突破してこれたものだ」
     広々とした広間の一番奥。
     アンデッドを一体従えて、ノーライフキングが玉座にふんぞり返って座っていた。
    (「なんだろう……別に甘く見てるわけではないのだけど、あのマントが何かを残念にしてる気がする」)
     弥影は、こっそりと心の中で思った。
     ノーライフキングの顔は水晶化も白骨化もしておらず、見たところ凶悪そうな中年のおじさん、といった風だった。
     それだけに、大仰なマントが異常に似合っていない。
    「おお、玉座! それっぽいな~何かボスって感じや! じゃあちょっと伝説の勇者気分で頑張ろか!」
     一玖・朔太郎(爽籟の告鳥・d12222)が遠くを見るように玉座を見上げた。足元には、桃子(霊犬)の姿がある。
     たしかに、眼前の玉座は高級な感じがした。
     隣では刹那がきょろきょろと広間を見渡していた。ボスのいる広間には、宝箱と相場が決まっているような気がして。それで、宝箱はどこに?!
     だが、広間はただ広いだけの空間で、宝箱などは無いようだった。
    「なんだ何もないのか。じゃあそのマントでいいです」
     がっかり感を全面に押し出し、ノーライフキングのマントを指さす。
    「何だと?! ぶ、無礼な!! このマントは高級品だぞ!!」
     思わず、ノーライフキングが立ち上がった。
     腕を広げ、ばさりとマントを翻す。
     マントの隙間から見えた手は、確かに骨格化していた。
    (「……そういえば屍王って肉体の置換によって強くなるんだったか」)
     敵を観察していた高倉・光(人の身体に羅刹の心・d11205)は考える。となると、今回の相手は古参に比べれば幾分かは楽なのかもしれないと。
    (「ま、どちらにせよ気の抜けない相手にゃ変わりゃせんけど」)
     マントは似合ってはいないけれど、立ち上がった敵は、やはりそれなりに力を感じる。
     さて、洞窟の奥に住む、となると思い出すのはやはり岩窟王だろうか。動きを見せた敵を見て、雪紗は思う。
    「さしずめ、ボクら灼滅者は君を投獄した伯爵、という所かな」
     彼の人と違うところは、ノーライフキングは無実の罪で投獄されたのではないというところだ。
    「……はぁ?」
     ノーライフキングは一通り灼滅者達を見渡し、雪紗の言葉を鼻で笑った。
    「罪? 投獄? ないわ。前提からして間違っている。お前達のモノサシで私を測ることがまず違う。私は正しい。それだけだ。何より、我が迷宮を荒らしたお前達こそ、れっきとした犯罪者だよ!」
     自分の言葉に酔っているような表情を浮かべ、ノーライフキングはうっとりとした表情を浮かべた。
    「よしよし。結論が出たところで、お開きにしよう。お前達は死ね」
     従えたアンデッドを、ノーライフキングが小突いた。
    「ァ……アアアァァッ」
     弾けるように、アンデッドが走りだす。
     どう結論が出たのか納得しかねたが、灼滅者達はすぐさま戦う姿を顕にした。

    ●戦い始まり
    「……倒したらダンジョンが崩れるとか、そんなオプション付けて無いやんな?」
     ノーライフキングと向かい合った朔太郎が、ロケットハンマーを構える。
    「宝物とかそう言うのんにしといてや!」
     ロケットを噴射させ、力いっぱい殴りつけた。
    「ふん。できもしないことを、相談されても、な」
     朔太郎の攻撃を片腕で受け止め、ノーライフキングが喚く。
    「いや、冗談に真顔で返事されても困るし……」
    「うるさーいっ。消えろ、消えろ、消えろっ」
     光る十字架が現れ、ノーライフキングの合図とともに中列を目掛けて光線が降り注いだ。
    「……、桃子、出番やっ」
     すぐに声をかけ、攻撃の線上に身を投げる。朔太郎が桃子とともに攻撃から味方をかばった。
    「好きにはさせん」
     日本刀を構え、光が射程距離に飛び込んでくる。
     素早く振り下ろした刃が、敵を斬り裂いた。
     続けて、鋭い刃の鎖が敵を捉えようと伸びてくる。
     雪紗が白衣の袖から伸びたブレイドを巧みに操り、ノーライフキングに巻きつけた。
    「あちらは上手くいっているようだね」
     ちらりと、視界の端にアンデッドに向かった仲間の姿が映る。朔太郎、光、雪紗の三人は、仲間がアンデッドを倒すまでノーライフキングを抑えておく役割だ。
     アンデッドを任された仲間も、既に戦闘に突入していた。
     最初の一撃から仲間を守った刹那が笑う。
    「それはもしかして、殴っているつもりか」
     言うなり、片腕を巨大に異形化させ、殴り返した。言葉も無く吹き飛ぶアンデッド。その先に、武器を手にした弥影が待ち構えていた。
    「私たちが用があるのは屍王。だからはやく倒されて?」
     殴りつけたところから魔力を流し込む。
    「ア、……ァァアアア」
     爆ぜた片腕をかばいながら、アンデッドがよろめいた。だがそれは一瞬のことで、すぐに態勢を立て直し、再び腕を振り上げてくる。
    「そこで、次の行動に移れると思わないでね」
     眼鏡を外しコートを身にまとった祇鶴。
     祇鶴の放った光線が、アンデッドの無事だった腕を正確に撃ちぬいた。
     一瞬の休息も与えない。
    「キッツイ一撃、お見舞いしちゃうんだからぁ~♪」
     音音の槍が敵を穿った。
     先にアンデッドを倒してしまえばブレイクの心配をしなくて済むし、と。槍を引き抜く。
    「……、ァ」
     最後に一つ息を漏らし、アンデッドが崩れ消えた。
    「みんな、頑張って! 癒しの光よ、みんなに力を!」
     くるりくるり。スカートとポニーテールを揺らしながら葉月が舞うように動く。
     飛ばした護符で、朔太郎の傷を癒した。
     皆の様子を確認し、いつでも傷を癒せるよう、位置を取る。
    「おのれ……。使えぬ奴めっ」
     アンデッドが撃破されたことを知り、ノーライフキングが吠えた。それを取り囲むように、仲間が集う。
    「おまたせ、かしら? 次はあなたの番よ」
     弥影の言葉に、敵がイライラした目を向けた。

    ●対ノーライフキング
    「未だにノーライフキングが宿敵って認めたくないかも~」
     威圧感を醸し出す敵もなんのその。
     音音がうるうると瞳を潤ませ、ノーライフキングを指さした。
    「だってこんな、グロテスクなの~! ネオンのお相手にしたくないよ~」
     正直、触れるのだって躊躇するけれど、怯えていたら何時まで経っても終わらない。言いながら、オーラを集結させ、殴る態勢を整える。
    「あんな迷宮であたし達を止められるものか。頭の中身も骨や水晶でできてるんじゃない?」
     無能な使い手に当たってしまって、アンデッド達も気の毒だね、と、刹那が挑発するようにせせら笑った。
     音音が閃光百裂拳を叩きこみ、刹那がシールドで敵を殴りつけた。
    「行くわよ」
     続けて、弥影が槍で穿つ。
    「さて、一曲お相手願おうかしらね。演奏はあなたの断末魔なんてどうかしら?」
     畳み掛けるように、祇鶴が影の先端を刃に変え、敵を斬り裂いた。
    「ふん。侵入者風情がいきがるな!」
     続けざまに攻撃を受け一瞬よろめいたものの、ノーライフキングは平然と態勢を立て直す。
    「なるほど、流石に簡単に倒せるわけじゃない、か」
     慎重に指輪から狙いを定め、光が相手をじっと見た。
    「せやな、硬いし攻撃もそこそこやで?」
     朔太郎は、激しく渦巻く風の刃を生み出す。
     二人の攻撃が、敵に命中した。
     さて、漆黒の弾丸を浮かべ、雪紗がノーライフキングと向かい合う。
     この他の場所でも、同じようなことが起きていると聞く。
    「迷宮の奥に隠れる君らに連絡手段があるとは思えない。君らは何者かの指示で動いているのではないか?」
     ……コルベインの「後継者」とか?
     雪紗の問いかけに、ノーライフキングが眉をひそめた。
    「なんだと? 私を、引きこもりのように、言うなぁー!!」
     そして、灼滅者達との距離を取るように一歩退き片手を上げた。
     現れる、十字架。
     光輝く十字架から、矢のような光線が前列の仲間に降り注いだ。
    「っ……く」
    「ぁ……」
     思わず漏れる声。マントは似合っていないけれど、その攻撃は本物だった。
    「ふ、はははは。見ろ、そのザマだ! 迷宮に侵入した貴様らが勇者気取りだと? 笑わせる」
     笑うノーライフキング。
    「大切な仲間達を、傷つけさせはしない!」
     響いたのは軽やかな歌声だった。葉月の歌が傷を癒す。
     雪紗も漆黒の弾丸を解き放ち、敵を撃ちぬいた。
     だが、敵はまだ倒れない。
     撃ちぬかれた傷は、思いの外痛んだ。激しい痛みと言うよりも、じくじくと痛みつけられる感覚。
     だが、身体が訴える痛みを抑えこみ、まるで平気なふりをして刹那は言う。
    「そんな攻撃じゃびくともしないよ」
     シールドを広げ、仲間を守る。
     同じく、仲間を癒すように祇鶴が夜霧を展開させた。
    「闇こそ私の領土。月の光すら届かぬ力、あなたに見破れるかしら?」
     ノーライフキングと灼滅者達。攻撃を繰り返しながら両者は睨み合う。
    「……まー、正義の定義はわからんけど。勝った方が正しいっちゅうんが世の常や」
     傷をかばいながら朔太郎が武器を構え直す。
    「だから負けへんで、俺らは」
    「ほう。言ってくれる。この迷宮の主である私を、倒せると?」
     ノーライフキングはマントを翻し、刀を取り出した。
     遠くからの広範囲な攻撃から一転、攻撃の範囲は狭いが威力は高い。そんな攻撃を繰り出すような構えをとる。
     いよいよ、最後の勝負が近づいた。

    ●決着
     ノーライフキングが、地面を蹴る。すべての攻撃を受けていた印象とは異なり、その動きは俊敏だ。
     流れるような動作で抜刀すると、光に斬りかかってきた。
     が、すんでのところで、朔太郎と桃子が割って入る。
    「……っ。なんや、やるやん」
     今まで受けた攻撃とは、段違いの威力だった。
     傾ぐ身体に、葉月の放った護符が舞う。
    「迷宮を、潰させるわけにはいかんからな。アンデッドどもをようやく考え配置し終わったところだったのだ!! これから、だ。まさにこれから私のゴージャスな伝説が始まろうというのに!」
     どうやら、金銭目的の略奪を予定していたようだが。
    「……お金が欲しいんやったら、とにかく節約やと思うけど!」
     何となく、悪役もちょっと楽しそうやな~と、軽口を叩きながら朔太郎が身を引く。
     その後ろから、光と刹那が飛び出した。
     光が刀で斬りつけると、見越していたように敵が鞘でそれを捌く。一瞬できたスキを狙い、刹那がオーラを集中させた拳で連打を繰り出した。
    「……ふ、ぁ」
     ノーライフキングの身体が、勢いで後退する。
     そこに、しなやかな動きで雪紗のブレイドが伸びてきた。
     だが、それをひらりとかわされる。
    「んじゃ、行くよ~♪」
    「ええ、合わせるわ」
     音音と弥影が、素早い敵の動きを見て左右に回り込んだ。二人が構えるのは、マテリアルロッドだ。
     息を合わせ、同時に左右から殴りつける。
     これは、流石に避け切れない。
    「づ……ぁあ……」
     魔力を流し込んだ場所から、ノーライフキングの身体が爆ぜた。
    「さて、命乞いでもしてもらおうかしら? まぁ、乞う命すらあなたにはないのでしょうけど」
     祇鶴が、手にしたナイフを倒れこむ敵に向けた。
    「……ふん。命乞いなど、誰が……。さぁ、……」
     やるが良い、と。
     言葉にする力が敵にあったのだろうか。
     最後はあっけなく。
     斬り裂かれたノーライフキングは、さらさらと消えて行った。

     はあ、と。大きく肩で息をして葉月が座り込む。
    「みんな、大丈夫?」
     仲間の顔を順に見る。
     厳しい戦いだったが、特に動けない者はいないようだ。
    「消えてしまいましたね」
     ぽつりと、光が呟いた。
     志はともかくとして、散り際まで、彼は王だった。
     失せた彼の墓標として、朽ちた強者への礼儀として。もし可能なら、その遺骸を杖の素材にとも思った。
    「では、帰りましょうか」
     気をとり直したように光が言うと、皆頷く。
     周辺に気を配りながら、灼滅者達は帰還した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ