焼きそばでは、ないのだよ!

    作者:高橋一希

     千葉県船橋市、お昼時の市街地にて。
    「なあなあ、ラーメンどの店行く?」
    「俺醤油ラーメンがいいなぁ。あ、さっぱりと塩って選択肢もありかな」
    「それより俺は冷やし中華の気分。最近熱ぃし」
     一般社会人風のスーツを着こんだお兄さん3名が、路上でお昼ご飯の相談中。
     だがそんな彼らを呼び止めるモノが居た。
    「待てぇぇぇぇぇぇ!」
     気合いの入った絶叫に、おにーさんたちは全員ソレの方を向く。
     そいつはヒーローっぽいスーツを着こんでいた。その上何故かエプロンをしていた。因みに成人男性のようである。
     それはいい。それはいいとして。
     頭の部分がどんぶりであった。
     しかも、ほんわかと湯気が出ていて漂う妙にスパイシーな香り……。
    「貴様らっ! 何故ソースラーメンを選択肢に入れぬのラ・メーン!! というかお昼はソースラーメン一択に決まってるメーン!」
     そいつの主張にお兄さん達はそれぞれ顔を見合わせる。
    「ま……まさかソースラーメンを知らないメーン……? 船橋市民としてソースラーメンを知らないのは許されないラ・メーン……!」
     ラーメンどんぶりのそいつは何か衝撃的な顔をした! いや、表情はっきりとはわからないけど雰囲気でそんな感じがした!
    「いや、俺船橋市民じゃないし。千葉市民だし」
    「俺も習志野市民だし……」
    「俺市川市民……」
    「絶望した! 貴様らの血は何色だメーン! ソースラーメン食ってみろメーン! 美味いラ・メーン!!」
     じたばた暴れるそいつに向かってお兄さん達は言ってはならんことを宣った。
    「ていうかさ、ソースと麺って焼きそばじゃないんだ?」
    「確かにソースで麺だと焼きそばって感じだよな」
    「とりあえず腹減ったし、焼きそばでも食いに行こうぜー」
     ぷちり、とそいつの何かが切れる音がした。気がした。
     所謂堪忍袋の緒とかそういうヤツが。
    「……そう言うならソースラーメンのすばらしさを味わうが良いメーン! ソースラーメンに有らずんばラーメンにあらずッッ!」
     何か極端な事を言い出したそいつはお兄さん達に無理矢理に、そりゃあもう無理矢理にソースラーメンを流し込む――。
     
    「皆さんはソースラーメンってご存じですか?」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まった灼滅者達へとそう切り出した。
     ソースラーメンとは、千葉県船橋市の名物である。
     ソースのスパイシーさや酸味やらうまみがしっかり効いたラーメンだ。
     麺ものでソースというと焼きそばを思い浮かべる方も多いと思われるが、ソースラーメンはごくごく普通のラーメンの麺を使っているのが特徴。炒めてない。
     お店ごとにレシピは違うものの、とにかく、ソースなラーメンなのである。
    「そんなソースラーメンの怪人が現れました」
     ダークネスはバベルの鎖による予知がある。しかしエクスブレインが予測した未来に従えば、予知をかいくぐってダークネスに迫る事も出来るだろう。
     さて、このダークネス――ソースラーメン怪人は、お昼時、千葉県船橋市の市街地によく現れるらしい。
     お昼ご飯を何にしようか皆で集まって相談をしていると確実に現れ、ソースラーメンを全力でオススメしてくる。そしてソースラーメンの存在を知らなかったりした日にはそりゃあもうって勢いでソースラーメンを流し込まれるのである。
     なお、ソースラーメンの存在を知っていても、お昼ご飯にソースラーメンをチョイスしないとまったくもうって勢いでソースラーメンを流し込まれる。
     更に、ソースラーメンの存在を知っていて、お昼にソースラーメンをチョイスしていても、もっともっとどうぞという勢いでソースラーメンを流し込まれる。
     即ち、何をしてもソースラーメンを流し込む一択なのである。なんとも迷惑な話である。
    「そうですね……駅のあたりの路地裏ならこの時間帯でも人が少ないですし、そこそこ戦いやすいかと思います」
     姫子はそう解説を続ける。
     つまり、だ。
     駅の路地裏あたりでお昼ご飯の相談をしていればソースラーメン怪人と遭遇できるのだ。
     見た目から言って一般人ではないのは直ぐ判るのでそこらへんは安心。
     そしてソースラーメン怪人は、ご当地ヒーローと同じサイキックを使用する。しかし威力はケタ違いなので油断大敵である。
     更に、武器は見た目はどんぶり――なのだが。
    「ロケットハンマーのサイキックも使うみたいですね」
     淡々と語る姫子。
     つーかどんぶり(中身入り)でロケットスマッシュやら大震撃やらマルチスイングやらぶちかました日には中身も吹っ飛ぶ大惨事の予感がするが。
    「……ダークネスは吹っ飛ばさないように戦うようです」
     普段通りの柔らかな笑顔で姫子はそう宣った。ある意味恐ろしい相手である。
     見た目が少々愉快でも、現時点での最高レベルの灼滅者と比べても圧倒的。それがダークネスなのだ!
    「ソースラーメンは確かに美味しいものらしいです。ですが、この怪人のやりくちは許されたものではないでしょう。世の中のソースラーメン好きの皆様の為にも、ソースラーメンを作るラーメン屋さんの為にも、このダークネスを必ず滅してください」
     宜しくお願いします、と姫子は灼滅者達へと頭を下げた。


    参加者
    七瀬・遊(ポジティブファイア・d00822)
    万事・錠(ハートロッカー・d01615)
    織部・京(紡ぐ者・d02233)
    神宮寺・三義(路地裏の古書童・d02679)
    ルーヒ・ライラ(花星の唄・d03168)
    桃野・実(瀬戸の鬼兵・d03786)
    丹生・蓮二(エングロウスエッジ・d03879)
    中山・ひなた(野生乙女な森ガール・d17515)

    ■リプレイ

     千葉県は船橋市。ソースラーメンと呼ばれる名物が存在する都市へと灼滅者達はやってきた。
    「つーか俺、今日は蕎麦か味噌ラーメンな気分なんですけど……」
     駅から出て数秒。丹生・蓮二(エングロウスエッジ・d03879)が速攻ミもフタもない発言を……!
    「私、ラーメンは味噌ラーメン派!」
     そこにびしっと手をあげる中山・ひなた(野生乙女な森ガール・d17515)!
    「その上にシャキシャキの野菜がたっぷりで、海苔がのってると嬉しいわ! チャーシューがあればなお言う事はない!」
     気合いの入った味噌ラーメン愛! 一方七瀬・遊(ポジティブファイア・d00822)は。
    「ソースラーメン美味いよな。あのスパイシーなソースと麺が絡み合い絶妙な……」
     語られた言葉に他の灼滅者達は目をぱちくり。
    「ソースラーメンってどんなのかな。お蕎麦みたいに食べるの?」
     ちょっと説明がほしい、かもと述べるはルーヒ・ライラ(花星の唄・d03168)。
    「あれ? もしかしてオレ以外誰も知らない? 良いか、まずソースラーメンの歴史ってのはだな……」
     大事な事なので言っておこう。遊はご当地ヒーローではない。ファイアブラッドだ。念のため。
    「えっソースラーメンってそんな旨いの? マジで? 興味深々」
     蕎麦か味噌ラーメンの気分だった蓮二が食いついたー!
     次第にソースラーメンに興味を持っていく灼滅者達。
     しかし、だがしかし。ソースラーメンをがっつり味わう為には、まずは怪人を倒さねばならない。
     食欲を満たす為にも、頑張れ! 灼滅者!

     駅の傍、裏路地。少々アレな感じのお店なんかを抜けて人気の少ないあたりに男性灼滅者陣数名が集まって顔を合わせている。
    「今日暑ィしよ……何食う?」
     だらんとした感じの万事・錠(ハートロッカー・d01615)。じりじり照りつける日光が暑い。
    「昼ごはんは……讃岐うどんだろ」
     淡々と述べる桃野・実(瀬戸の鬼兵・d03786)。確かにうどんはツルっとしてのどごしよくて暑い時期でも食べやすいかもしれない!
    「俺はそれでも今日は蕎麦か味噌ラーメン!」
     ソースラーメンに興味津々だけど、とりあえず今は演技だ! とばかりに蓮二。
     他のメンバーはというと。
     ぱかっと置いてあったおニューのポリバケツがオープン。中から顔だす神宮寺・三義(路地裏の古書童・d02679)。左右をちょっとだけ見やってかぽっとまた閉る。エプロン装備のルーヒも路地が見やすい場所をチョイス。
     怪人の出現をこうして皆物陰に隠れて待っているわけだ。
     この路地にやってくるまでに錠は殺界形成を使用。極力一般時が寄らないよう支度もした。あとは怪人をおびき寄せるだけ――というわけで、こうして昼飯トークをしているわけだ。
    「お前ら何言ってんだよ。千葉県の船橋市に来たら、ソースラーメンって決まってんだろ」
    「ソースラーメンかァ、俺も食ったことねーな。スープにソースとか咽そうじゃね?」
     遊の言葉を錠が混ぜっ返す。他のメンバーも「食べたこと無い」発言にうんうん頷いた。
    「え? マジで知らねぇの? 絶望した! お前の血は何色だーっ!」
    「絶望したメーン! お前の血は何色だメーン!!」
     叫んだ遊の声に被せるように、聞き覚えのない声がした。一同揃って声の方を見やると、なんか一人、増えた。
     頭にどんぶりのせた、というか頭がどんぶりの怪人。しかもなんかちょっとすぱいしーな香りがする。
     そして隠れていた灼滅者達も怪人を包囲しつつ顔を出す。
    「わあ、おっきなドンブリ。重くないの?」
     ルーヒの言葉に怪人は親指をビッと立てた。
    「大丈夫メーン。ソースラーメンへの愛があればこれくらい何て事ないメン!」
     ……重いのか。そうなのかとしみじみ怪人の頭を眺めてしまいたくなる答え!
    「それはともかくとして! 貴様ら! ソースラーメンを食べたことが無いメーン!?」
     じり、と怪人がドンブリ(勿論中身入りの武器の方)をもって接近する。
    「許されないメーン! それは決して許される事ではないラ・メーン!!」
     何やら一生懸命宣う怪人へと実は淡々と訊ねる。
    「……あ、ペット同伴可でここから近くて……ソースラーメンが食える店、知ってるよな? 食いに行きたいから教えてくれ」
    「ペ、ペット同伴可の店メーン……?」
     問い返されて実が頷く。怪人は思いきりペースが乱されたようだ。
    「駄目か……?」
     霊犬のクロ助も「きゅーん」と何やら切なそうに鳴いているし。蓮二の霊犬つん様もじっと見上げている。答えに窮したソースラーメン怪人はこんな事を言い出した。
    「……獣如きに食わせるラ・メーンは無いメーン!」
    「……じゃあ、俺も食わない」
     素気ない実に怪人がいきり立つ。
    「いや! しかし! 貴様らにはソースラーメンを食って貰うソォォス!」
    「……なんかそれ、我儘だな……」
    「えぇい知った事か!! なら無理矢理にでも流し込んでやるメーン!」
     どんぶり構えるラーメン怪人。そこに。
    「ソースラーメンですかー気になりますねぇ」
     織部・京(紡ぐ者・d02233)がコソっとサウンドシャッターしつつそう述べてみたところ。
    「おおっ、ソースラーメンの魅了が判るメーン……?」
     怪人の目が……いや、厳密にはどんぶりの表面が輝いた!
    「そこの男も含めて見所あるメェン……!」
    「オレとんこつ派だけどね」
     ソースラーメン怪人が告げるも、遊、笑顔で無情の宣告。
    「俺味噌派」
    「私も小さい頃からお味噌が普通のとこだったんで……」
    「私も味噌ラーメン派」
    「俺ァ背脂入ってるコッテリ系かなァ……」
    「太郎丸は豚骨味が好きなんだ」
    「ワンッ!」
    「ラーメンはオショーユのつけ麺が美味しいな」
    「俺は寧ろ讃岐うどん派……」
     どうやら味噌派優勢の模様。
    「絶望したメーン! お前らの血は何色だメーン!!!」
     荒ぶるソースラーメン怪人! 本日二度目の絶望っぷりだがまあそれはおいといて。
    「いいい今すぐ全員ソースラーメン派に改宗するラ・メーン! さもないと……」
    「「「さもないと?」」」
     一斉に問いかける灼滅者達。
    「ソースラーメンのすばらしさが判るまで延々流し込んでやるメーン!」
     いや、その前に挟み撃ちされてるって事実に気付いてくださいソースラーメン怪人! とはいえ一体でも、そして愉快な設定でもとっても強いのがダークネスだが!
     一方灼滅者達の反応は。
    「でも、強制的ってよくないよね、やっぱり」
    「無理やりはよくない。のどに詰まって肺炎ってあるから」
     京の言葉に実もうんうん、と頷く。
    「おすすめするのはいいけど、押しつけるのは良くないよ! 無理やりさせられたことは、嫌いになることの方が多いんだよ」
    「うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁい! 貴様らがソースラーメンを認めないのがいけないラ・メーン!」
     三義がびしりと指さすも、怪人は全く耳を貸す様子は無い。
     ソースラーメンを認めていないわけではない。怪人のやる事が駄目だと言っているだけなのだが……。
    「実力行使ッ!」
     ドンブリ(くどいようだが中身入り)かまえるソースラーメン怪人!
     勿論、そんな暴虐許してはおけない。
    「行こう、けいちゃん!」
     京に寄り添うように影業が立ち上がり佇む。
     さあ、灼滅者達よ、ソースラーメン怪人に鉄槌を!
    「この戦いが終わったら、私、ソースラーメンを食べるんだ……」
     ……ひなたさんそのフラグ駄目絶対! ばきっと折ってください!

    「さあ喰らえぇぇい! 麺だけに!! ソースラーメンビィィィムっ!」
     掲げたドンブリから発射されるビームが灼滅者を焼く。
    「讃岐うどんはラーメンよりあっさりしててトッピングの自由がある、だから一年中いつでも食べたくなる」
    「汁か! ソースラーメンを食うのだッ!」
     実がカウンター気味に繰り出した攻撃をつるっと回避しつつ怪人が叫ぶ。
     ……知るか、ですら無い。
    「さあ出番だ。頑張ろうか、つん」
     シールドを仲間へと与えながらに蓮二が霊犬へと声をかける。彼の表情は生き生きとし、つん様も元気にわんと吼え仲間を癒していく。
    「結局ただ食わせるだけか? そんなんじゃこのご当地ラーメン戦国時代は生き残れねェぞ!」
     錠が無骨な、鈍色の槍を繰り出す。捻りを加えた攻撃に怪人がたたらを踏んだ。
     ……それでもドンブリは落とさない!
    「ラーメン飛び散らない原理ってバケツのお水ぐるぐると一緒なんですかね?」
     京がギターをかき鳴らすと、音波が凄まじい勢いで敵へと叩きつける。じっとスープの水面を見つめるも……揺れていない、気がする。
     更に接敵した遊が中段から日本刀を一閃。重たい斬撃が敵を襲う!
     三義はひたすらに仲間を癒す。メディックとして、仲間を倒れさせない為にも。とはいえ流石に攻撃に混ざれる程の余裕は無い。
    「太郎丸も回復メインでお願い!」
     彼の指示に霊犬、太郎丸もワンと凛々しく吼える。
    「悪いコトする怪人はキリっと成敗しちゃうよ!」
     ルーヒの全身から溢れ出るどす黒い殺気が怪人に傷を与えていく。
    (「零れないかな……汁」)
     ひなたは怪人の持つどんぶりに超注目しつつ自身の胸元へとスートを具現化。魂へと闇へと傾け力を得る。
     とにかくみんな気になる怪人のどんぶり!
     戦いの最中もとっても気になる魅惑のどんぶり!!
     びしっと放たれたウロボロスブレイドが怪人へと絡みつき、そして敵の身を切り裂く。
    「絶対に、こぼさないんでしょ?」
    「零すものかぁぁぁぁ! この醤油より濃く、味噌より澄んだ美しいスープを零す事など出来ないメーン!」
    「そう言われるとね、是が非でも見てみたいの……汁をこぼす瞬間ってヤツを」
     必至な怪人へとひなたは宣う。気持ちは判らんでも無い。更にはルーヒが踊るように糸を操る。
    「ほら、足元がお留守だよ!」
     ぐるんと絡まる鋼糸! しかしそれでも怪人はまだ零さない!
    「えぇい邪魔するなメェーーーーーン!」
     ドンブリをドゴン! と地面に叩きつける敵。一瞬だけスープが、麺が、具材が宙へと浮いた。陽光を浴びてそれぞれがキラキラと輝きつつ……ドンブリへと収まった!?
     そして衝撃波が前衛メンバーを襲う。足を取られた実がその場に倒れ込んだ。傷は決して深くはないが、戦闘続行は不可能だろう。
    「中身溢さないとはなかなかやるな……!」
     蓮二がシールド構えて接敵。彼としては仲間を守りきれなかったのは悔しい部分もあるかもしれない。だが、だからこそ、これ以上の敵の暴虐を許すわけにはいかないのだ。
    「しかし! 勝手に流し込む様な迷惑行為は許しません!」
     弾けろ丼! と叫んで近距離からの打撃を繰り出す! バン! と横殴りの一撃に怪人が蹌踉めいた。
    「テメェの相手はこの俺だぜ、メーン?」
     敵が体勢を立て直すより前に、錠がジグザグになった刃を繰り出し切り刻んでいく。
    「ソースラーメン一択って視野狭すぎっだろ! 脳みそ伸びてるんじゃねーの!」
     京に言われてソースラーメン怪人はもの凄くショックな顔をした!
    「……いやいや。メーンのドンブリに入ってる麺は伸びてないメーン!!」
    「とはいえのびてるのびてないに関わらず、これがわたしのお仕事なので……思いっきりいきます!」
     彼女はバトルオーラを輝かせながらに肉薄。タイミングを合わせて遊がライドキャリバーへと指示を出す。
    「ハチ! フォロー頼むぜ!!」
     ライドキャリバーが応えるように銃撃開始! 相手の怯んだ隙を見計らい彼は影を伸ばす。鋭い刃へと姿を変えたソレが敵を刻んだ。
     最早虫の息と言った様子の敵へと京が拳を振りかぶる。収束されたオーラを拳に纏い、繰り出される連打の嵐。怪人があっという間にひしゃげていく。
    「く、くく……やってくれたな……しかしソースラーメンの旨さは本物……ソースラーメンは世界に羽ばたくのラ・メーン!」
     どんぶりが割れかけていても、それでも怪人は零さなかった。そして。
    「ソォォォォォォォス!」
     断末魔の叫びとともに彼は愛するどんぶりともども粉みじんに爆発四散したのだった。
     ――確かに零してはいないが、いいのか、それで。
     喉元まで出かけたそんな思いを灼滅者達が飲み下す中、どこからともなくお腹の鳴るきゅう、という音が。
     今の時間帯は何せお昼時。灼滅者達もお昼ご飯を食べずに戦ってたわけで。
     そしてソースラーメン怪人はさんざっぱらすぱいしーな香りを漂わせていたわけで……。
    「お昼の相談の続き? ふふ、やっぱりソースラーメン?」
     いたずらっぽく笑うルーヒ。他のメンバーもそれぞれに顔を見合わせて。
    「ここまで推されたら……そりゃあ、ソースラーメンを食べなきゃって感じよね」
     ひなたの言葉に一同揃って頷くのであった。

     やってきたラーメン屋さんは意外とお洒落な佇まいだった。
    「動いたからお腹ぺこぺこだよ」
     ぺちょり、と席に崩れ落ちるように座り込む三義。店員さんが早速人数分冷たい水を持ってきてくれる。
     今はイベント中なのか、ソースラーメンを扱っているお店も普段より多め。
     お店ごとにレシピも大分違うらしく、そのおかげで好みのラーメン屋さんを探す事が出来たようだ。
     そして灼滅者達の前に出てくるソースラーメン。
    「やっぱコレだよな!」
     頂きます! と元気に遊が麺へと箸を差し込む。
     錠はれんげを手にスープを一口。
    「意外に口当たりも良いな、飲みやすい」
     口内に広がる酸味はちょっと驚く程にソース。しかしながらきちんとラーメンのスープとしての存在感がある。浮かんだ刻み玉葱もまたしゃきしゃきして美味しい。
     京は一生懸命ふーふーしながら麺を口に運ぶ。ちょっぴり縮れてツルっとした麺はのどごしもすっきり。
    「小さい頃、ラーメンっていったらお味噌が普通のとこだったんですが……これもアリですねー。材料もどこでも用意出来るし少し広まるといいですねぇ」
     ただ、ソースの配分というかそこらへんが意外に? 難しいらしい。
    「美味いな、これ」
     讃岐うどん大好きな実だが、表情が緩んでしまう程。
    「わぁ、本当にソースが入ってるんだね」
     見た目は醤油ラーメン風だったにも関わらず、口に運んでみて三義は驚きの表情。分厚いがホロっと溶けるチャーシューを摘みつつ、ふとライラへと心配そうな視線を投げかけるも。
    「うふふ、ラズィーズ! みんなでご飯は大好きだよ、楽しいもん」
     嬉しそうにラーメンを啜るルーヒ。
    「チャーシュー欲しい人はあげるよ」
    「あ、チャーシュー頂戴♪」
    「じゃあ、丹生君に、はーい!」
    「うまー! 嵌るなコレ!」
     嬉しそうにチャーシューを頬張る蓮二。
     チャーシューだけではなく、お野菜もたっぷりのラーメンはひなたも満足の一品だ。
     それぞれのペースで、それぞれにラーメンを食べていくが、全員そろってきちんと完食。そして元気なごちそうさま!
     美味しいソースラーメンは灼滅者達の、明日への活力となってくれる事だろう。

    作者:高橋一希 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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