春に積もる紅の雪

    作者:飛翔優

    ●五五五の字を持つ女の名は
    「さて……」
     女は笑う声を殺し。
     朝日にナイフを煌めかせ、風と肉を切り裂いて。
     血霞で駅前ロータリーを染めながら、仕事へと赴こうとしていた人々の命を借りながら。
    「今回は来てくれるかねぇ。あたしを、闇堕ちしてでも殺そうとしてくれる骨のある奴らがさぁ」
     言葉を口ずさむ度、一つの命が消えていく。
     悲鳴のオーケストラを指揮しながら、ただただ殺し尽くしていく。
    「……」
     名を紅雪。六六六人衆の五五五番目。
     かつて、武蔵坂学園の灼滅者たちと事を構えたダークネス……。

    ●放課後の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、努めて抑えた声音で説明を開始した。
    「エクスブレインの未来予測が、ダークネス。六六六人衆の一人、五五五番の紅雪の動向を察知しました」
     ダークネスにはバベルの鎖による予知能力があるため、通常では接触困難。しかし、エクスブレインの予測した未来に従えば、その予知をかいくぐりダークネスに迫る事ができるのだ。
    「ダークネスは……特に紅雪は、以前戦い逃がしてしまった程に危険な相手。今回も、灼滅者たちが来るのを待っています。武蔵坂の灼滅者を闇堕ちさせようとしているんです」
     恐らく、今まで以上に厳しい戦いになる。しかし、ダークネスを灼滅することこそ、灼滅者の宿命。
    「どうかよろしくお願いします。今度こそ……」
     前提の説明を終えた後、葉月は地図を広げていく。
    「現場は、東京都東久留米市駅の西口。皆さんが赴く日の明朝、紅雪はやって来ます」
     通勤時間であり、多くの人々が電車へと向かっている時間。殺戮が行われればどうなるかなど、想像に難くない。
    「幸い、ロータリーという開けた場所。人々を逃がすことは可能なはずです。ですから……」
     葉月は住宅街の方向を指し示し、説明を続けた。
    「紅雪はこの方角からやって来ます。ですから、この辺りで迎え撃って下さい」
     件の紅雪の姿は、長身痩躯でコートを羽織る、透き通った白い肌と柔らかな赤い唇と持つ女性。力量はまともに戦えば八人の灼滅者と優位に渡り合えるほど高い。また、防御面に優れている
     得物は、コートの裏に縫い付けているナイフ。素早い動きで敵の死角を取り腿などの急所を切り裂く技。身を守る物ごと切り裂く技。どす黒い殺気とともにナイフをばらまき、自らの妨害能力を高めた上で周囲の敵を切り裂く技。
     これらを使い分けで来る上に、力量を考えれば威力自体も低くはない。重々注意が必要だろう。
    「以上が説明となります」
     地図など必要な物を手渡しながら、葉月は顔を若干伏せつつ説明を締めくくる。
    「今回の目的は、六六六人衆・五五五番の紅雪の殺戮を止めること。その上で闇堕ちするようなことなく、灼滅してしまうほうが望ましくはあります……難しいかもしれませんが……」
     静かな息を吐き出して、葉月は顔を上げて灼滅者たちを見据えていく。
    「どうか決して油断せず、全ての力を以っての対抗を。そして無茶なお願いとも思いますが……無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    天衣・恵(無縫・d01159)
    橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    楯縫・梗花(さやけきもの・d02901)
    龍統・光明(千変万化・d07159)
    渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)
    高倉・奏(拳で語る元シスター・d10164)
    轟磨・煉糸(吟遊糸人・d13483)

    ■リプレイ

    ●雪が積り始める前に
     仕事のため都心へと向かう会社員たちで埋まっていく、早朝の東久留米駅西口のロータリー。落ち着いて駅を背に道路の方を眺めれば富士山が見えることもよくある場所だけど、片隅に佇む灼滅者たちにそれを気にかける余裕はない。
     改札へ繋がる階段へと向かっていく人々をつぶさに観察し、長身痩躯のロングコート、六六六人衆の五五五番・紅雪の姿を探していく。
     すぐに動くことができるよう、姿勢も低いものに変えていく。
     十分ほどの時が経った頃だろうか? 数本の電車が都心部に向けて出発した時、富士山の方角からやって来る紅雪の姿を発見した。
     即座に灼滅者たちは走りだし、今はまだ行動を起こしていなかった紅雪に向かって駆けて行く。
    「僕が必ず、守ってみせるから」
     気づく様子のない紅雪を前に、楯縫・梗花(さやけきもの・d02901)は力を開放した。
     オーラを全身に走らせたまま、数枚の護符を引き抜いていく。
    「閃刃流・九頭龍、解放。来い、絶・十六夜!!」
     龍統・光明(千変万化・d07159)もまた武装を整えて、刃を鞭のように操り始めて行く。
    「堕とされた断の悲しみ……俺が代わりに晴らさせて貰う」
    「……おや」
    「てめぇの命を盗み取る……」
     武装を取り出した後、轟磨・煉糸(吟遊糸人・d13483)は大蜘蛛の形をした影を手元に引き寄せた。
     薄く笑う紅雪を睨みつけ、怒気をはらんだ声音を響かせる。
    「これ以上人々の幸せを奪わせねぇ……」
    「それはお前たち」
     答える必要など無いのだと、灼滅者たちは止まらない。ただただ紅雪を止めるため、未だ身構えぬ彼女に向かっていく。
     人々の一日が始まる朝という時間帯を、紅色の雪で染めてしまうわけにはいかないのだから……。

    ●紅の雪は朝日の中で舞い踊る
    「喧嘩だ喧嘩! まずは先制の一撃、ってね!!」
     力に当てられた人々が逃げていく中を掻き分け駆ける天衣・恵(無縫・d01159)は、未だ身構える様子を見せない紅雪の懐へと飛び込んだ。
     勢いのまま光の刃を横に構え、ノータイムで振るって行く。
    「おっと」
    「お互い仲良く殺ろうぜ!」
     コートで受け流すタイミングに合わせて一・葉(デッドロック・d02409)が吶喊し、硬い盾による突撃をぶちかました。
     視線が己へと向いたならばニヤリと笑い、一歩だけ下がって攻撃してみろよと手招きする。
    「オラオラ、どうした!」
    「いいだろう、誘いに乗ってあげよう」
    「っ!」
     瞬く間に距離を詰められて、それでも冷静に腕の行く先を観察した。
     盾の位置を微調整したならば、想定通りの場所から鋭い一撃が突き抜ける。
    「っ……はっ、この程度か」
     強がりを吐きながら退いて、唇を噛み腕の痛みを誤魔化した。
     治療することが灼滅への、闇堕ちしないまま勝利する覚悟を見せる道筋だと判断し、握る盾に新たな力を込めていく。
     間に穿たれた空隙の代わりに、橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)が背後へと回り込んだ。
     意識が前に向いている紅雪の背中へと、槍に捻りを入れて付き出した!
    「っ……ほう、見覚えがあるのも居たと思ったけど……」
    「格下の取るべき道……教えて下さったのは貴女ですよ」
    「違いない」
     一瞬だけ視線を交わした後、九里は再び距離を取る。
     詰める隙など与えぬと、今度は己が受け持つと、渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)が盾を掲げて吶喊した。
    「お久しぶりです。以前と同じにはなりませんよ!」
    「っ! そうであることを願いたいね」
     コートを盾に防がれてしまったけれど、印象付けることはできたのか紅雪の視線は侑緒のもの。
     侑緒自身も退くことなく身構えて、紅雪からの攻撃を待ち望む。
     無事に帰ると、皆に約束してきたから。
     闇堕ちしないで頑張りたいと、それでも最後の手段としては用意していると、誓いのもとにやって来たから。
     ここにいない仲間の想いも盾に載せ、素早く振るわれた斬撃を受け止める!
    「っ! このくらい……!」
     悲鳴を上げていく腕を叱咤して、紅雪の体を押し返した。
     その頃には周囲に一般人もいなくなり、広いロータリーという戦うのに最適な空間が完成する。
    「ま、難しいことはよくわからんっすがとにかく倒せば良いんすね!」
     広々とした戦場で、高倉・奏(拳で語る元シスター・d10164)は軽いようにも思える笑みを浮かべながら槍を片手に跳躍した。
     身構える紅雪へと突き出して、避けられてなお己の力を高めていく。
    「……流石っすね」
    「そうだな……それに、お前の言っていることはシンプルだ。その通り、お前たちはあたしを倒せばいいんだ。全ての力を用いて、ね……」
     全ての力には、恐らくは闇堕ちも含んでいる。
     積極的に望んではいないけど、手段として用意してきた者は多い。
     覚悟と決意を胸に抱き、灼滅者たちは挑んでいく。
     完全に体勢を整えなおした紅雪に。晴れやかな朝の陽光だけが見守る中で……。

     紅雪の行動一つ一つに、致命的と成り得る力が含まれている。
     少しでも減じることができれば楽になるはずだから、煉糸は鋼糸を放ち紅雪の体を縛り付けた。
    「っ!」
     体を引かれるような錯覚を覚え、素早く縛めを解き鋼糸を手元に引き戻す。
     事実、鋼糸を頼りに引っ張ろうとしていたのだろう紅雪の仕草を確認し、静かな息を吐いて行く。
    「焦る必要はねぇ。少しずつ」
    「その余裕があればよいのだがな」
     紅雪は煉糸を一瞥した後、葉へと向き直りナイフで切りつけていく。
     葉は盾をかざして受け止めたけど、貫き伝わる衝撃が体中を揺さぶった。
    「ちっ、流石にきついな。しばらく前を頼む」
     逃げきれるうちに一歩後ろへと退いて、前方を侑緒に任せていく。
     自身は再び立てに力を込め、己の痛みを和らげ始めた。
    「大丈夫、落ち着いて。どんな状況でも、やるべきことは変わらない」
     二人が防いでいるうちに、他者が攻めて積み重ねる。
     これから暫く続くだろう停滞の時間に備えるため、梗花は努めて落ち着いた調子で言葉を紡ぎつつ防護の符を葉に投げ渡した。
     新たな付を引きぬきながらも前線へと視線を移し、侑緒と紅雪の攻防を観察する傍ら九里の背中を見つめていく。
     六六六人衆とは二度目の対峙。
     しかし、やはり彼らのことはよくわからない。
     故にかける言葉も無く、全ては仲間に任せている。
     任せた分だけ背中を押す。その為に彼はここに来た。
     六六六人衆だけではない、紅雪に因縁を持つものも居る。だから……。
    「彼の思いの邪魔は、させない」
     前衛陣を殺気とナイフがなぎ払っていく光景を視認して、力の質を風の発生へと切り替える。
     範囲外に位置していた煉糸は照準を紅雪へと合わせ、心のトリガーを引き絞った。
    「無駄だよ」
     飛び散るナイフに叩き落されて、肉をえぐることすら叶わない。
     諦めることなくガトリングガンを構え直し、狙いを定め初めて行く。
    「問題ない。今は攻め続けよう」
     一人の攻撃が通じずとも、続けて仲間が攻めれば功を成す。積み重ねていけば、無視のできない程の優位を生む。
     そう、仲間は素敵なもの。世界一価値のある存在。
     守るためなら堕ちる。そのための覚悟は持ってきた。
     トリガーを引けば灼熱色の弾丸が、紅雪へと降り注ぐ。
     弾くさなかに葉が刃を織り交ぜれば、誤ることなく紅雪の足を切り裂いて……。

     守りを固めど、直接的な攻撃は散発的。敵意を惹きつける力を持ち合わせていなかった光明は、護りのローテーションには入らず着実に攻撃を積み重ねることができる前衛として行動していた。
     今もそう。前方へと体重を移動させながら足音を立てずに近づいて、一呼吸分だけ待機。前方より放たれた弾丸の音色に交じる形で、鞭のように暴れる刃を振り上げた。
    「むっ」
     紅雪の背中を横に切り裂いて、護りの強度を削っていく。
     されど、意識を強く向けられることはない。
     おそらく、侑緒が前方に立ちふさがったから。
    「はぁ……はぁ……」
    「随分と息が上がってるね。そろそろ辛いんじゃないかい?」
    「……そんなことありません。まだ、戦えます!」
     挑発には乗らずに盾を構え、振るわれたナイフを受け止めた。
     貫く痛みが足まで伝わり立ち続けることすらおぼつかなくなっていくけれど、素早く後方へと退き転がりながらも間合いの内側から退避する。
    「そろそろきつくなってきたみたいだけど、頑張ってくれ。もうすぐ、きっと……」
     恵が素早く光の輪を投げ渡し、治療すると共に守りの加護を施した。
     次は恐概ね葉の番だと最前線へと向き直れば、紅雪が己を見据えていた。
    「……何だ」
    「いや、楽しいと思ってな」
    「楽しい?」
    「ああ。概ね覚悟を持ち、全力で立ち向かって来てくれる。刃の一つ一つに、多大な想いを込めて突き立てる。ははっ、やればできるじゃないか」
     笑っていた。
     心の底から笑っていた。
     笑いながらもナイフをばらまき、前衛陣を再びなぎ払っていく。
     即座に光輪を引き寄せつつ、恵は紅雪を睨みつけた。
    「……ばーか」
    「……何?」
    「私はね、闇堕ちし内容覚悟して生きてくヤツラも好きなんだよ。君は違うみたいだけどね」
     多くの仲間達と違い、恵に闇堕ちする意思はない。
     覚悟というのはそれだけじゃないことを示すため、あえて茨の道を選んだのだ。
    「だから……」
    「自惚れか、いや、力を得たが故の自信か。いずれにせよ……お前は、人の命には興味が無いのだな」
    「別に、認めて欲しい訳じゃない」
    「そうか」
     正しきは勝敗が決めてくれると、恵は会話を撃ち切った。
     頷く紅雪はナイフを振り上げ、侑緒の下へと向かっていく。
     既に多くのダメージが積み重なっている。
     一つ間違えれば、どちらかが倒れてしまってもおかしくない状況だ。
    「落ち着いて。因縁、宿敵、大いに結構! だが熱くなり過ぎんといて下さいね」
     あくまで冷静になるよう伝えつつ、奏が横合いから殴りかかった。
     肩へ掠めるのみに留まってしまったけれど、一度だけの爆発であれそれなりのダメージは与えたはず。
     後は上手く受け止めてくれることを祈るのみと、恵は光輪を引き寄せながら前線の攻防を見守った。
     ……が。
    「……」
     紅雪がナイフを振り上げたまま動きを止めた。
     表情を歪ませ、震え始めた。
    「今……!」
    「一気に畳み掛けるぞ」
     積み重ねてきた拘束の技がようやく効果を現し始めたのだと、恵が光輪を投げ渡す中光明が戦陣を切って駆け出した。
     勢いのままに刃を振るい、紅雪のコートを裂いていく。
    「……ちっ」
    「……」
     ここに至り、戦況は大きく動いた。
     振りな状況にある以上、紅雪も早々奇手を取ることはできないだろう。
     後はそう、この勢いを維持していくことができたなら……。

    ●春の日差しに雪は
     糸を重ね、攻撃を続けた結果、引っ張り合いができる程度には紅雪の勢いを落とすことができていた。
     煉糸は紅雪に鋼糸を絡めたまま指を引き、拘束を継続していこうと試みる。
    「……」
    「なるほど、覚悟もあるが……強くなったのだな」
     抗いきる事はできぬと悟っているのか、紅雪は場を保つ程度にしか抵抗していない。
     それでもなおナイフをコートを広げ、周囲にナイフをばらまいていく。
     合間を縫い、九里が懐へと飛び込んだ。
     ろくに動けぬ紅雪に、肥大化した腕を叩きつけた。
    「どうです、滅ぼされるものの痛みは」
    「悪くない。だが、まだ負けちゃいない!」
     飛び退く刹那に視線を交わし、薄く微笑み合っていく。
     鋼糸から抜け出していくのを確認しつつ、静かに布槍を構え直した。
     入れ替わるように奏が飛び込んで、金属バットで殴りつける。
    「どうやら、殺戮阻止はできそうっすねぇ」
    「お前たちが引かぬ限りは、な」
     ナイフで防がれても込めてきた魔力を爆発させ、笑う紅雪と見つめ合う。
     静かな溜息を吐いた後、飛び退くついでに言い放つ。
    「自分としては、さっさとご退場願いたい所っすけどね」
    「残念ながら、そう簡単には……!」
     呼応しステップを踏んだ紅雪は、葉の正面へと移動する。
     高々と振り上げられていくナイフに呼応して、葉は盾を掲げ身構えた。
    「っ!」
     防ぐことはできた。
     事実、切り傷など刻まれてはいない。
     だが、衝撃が体を揺さぶった。癒しきれぬダメージをえぐりだした。
    「……後を頼むぜ」
     紅雪を弾き返した後、邪魔にならぬよう後方へと下がっていく。
     尻餅をついて昏倒していくさまを横目に見つつ、恵が矢を投射した。
    「紅雪ももう随分と辛いはず。一気に畳み掛けてくよ!」
    「ええ、以前と同じにはさせません。今回こそ、必ず……!」
     活気ある号令に従って、矢を受け取った侑緒が紅雪の後方へと回り込んだ。
     退路を塞ぐ形を取りながら影を振るい、足元を切り裂いていく。
    「ちっ」
    「逃しはしない。必ず倒すよ」
     梗花もまた側面へと飛び込んで、肥大化した腕で押さえつけていく。
     僅かな間だけ動きを止めた紅雪の横合いは、光明が埋めていく。
    「終わりだな」
    「……はっ」
     振るわれし刃に対する反応も、先程までと違って弱々しい。
     新たな鋼糸にも縛められ紅雪へと、九里は風刃を放っていく。
    「……」
    「はは、ははははっ」
     厳しく細めた瞳の中、紅雪は一人笑い出した。
     狂ったように笑い出した。
    「ほんと、強くなったねぇ。心も、力も」
    「ほめられてもあんまり嬉しくないっすよ、っと」
     響く声に耳を傾けることもなく、奏がバットを奮ってかっ飛ばす。
     電灯へと叩きつけられていく紅雪を眺めながら、静かに服の埃を払っていく。
    「あんたらでよかったよ、ほんとにさ……」
    「……」
     なんとはなしに最期の言葉を聞きながら、奏は視線を逸らし息を吐く。
     得物を仕舞い振り向けば、もう、そこに紅雪の姿はない。
     誰ひとり殺すことはなく、紅の雪を降らせることもなく、陽射しに溶かされるようにして消滅したのだ。

     治療を終え、武装を解き……休憩も取っているうちに、ロータリーは元来の騒がしさを取り戻していた。
     違いがあるとするならば、通勤に急ぐ者たちが多い点だろうか。だが、いずれにせよ……事件が起きようとしていた残滓は何処にもない。
    「雪は消え……これで春が参りますね」
     柔らかな眼差しを向けながら九里が静かな言葉を響かせた。
     季節外れの雪は消えたのだと。
     紅色に染まることはないのだと。
     活気づく喧騒が、その証。こうして、六六六人衆、五五五番の紅雪との戦いは幕を閉じたのである。

    作者:飛翔優 重傷:一・葉(デッドロック・d02409) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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