女王様、運動のお時間です~異性装編~

    作者:那珂川未来

    「おーっほっほっほ! 晴れ渡る空、心地よい風! 今日は運動日和ですわ!」
     美脚をオサレなランニングスパッツに包み、胸が豊か過ぎて胸チラ・ヘソチラを両立してしまっているブランドTシャツ着て、くるくる縦ロールの髪にサンバイザーセットし、運動前に必須の準備体操に無駄にせくしーアピールとりこみながら、朝から高笑いしているおねーさん。
     美人である。
     せくしー系である。 
     しかし恰好が果てしなく違いである。何故ならここはランニングコースがある公園でも、景観のよい堤防っぷちでも、閑静な住宅街でもない。
     クラクションの音、赤信号に止まる若者の皆さん。わりと人や車がごった返している都会なのである!
    「ふ、アタクシの美しさに、誰もが立ち止り見惚れてますわ……」
     まあ止まってるのは赤信号だからですけれどね。
     見ているのは、破廉恥な格好で準備体操しているからなんですけれどね。
     魅力より、ネタ要素の方が人目を引いているようですけれども、それはさておき。
    「さてと、体も温まったことですし運動を始めましょうか」
     ふっと笑み零すと、おねーさんはバニーガールさんみたいな尻尾をぷりーんと生やし、
    「異性装反対運動を!」
     拳固め、くわっと目を見開くと、おねーさん、もとい淫魔さんは、歩道が青信号になるなり、わいわいしながら歩いてくる異性装カップルに狙いを定め、
    「異性装、はんたぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
    「アーレー!?」
    「ぶはぁ!?」
     ドロップキック&ネリチャギをお見舞いする淫魔さん。強烈な蹴りに昇天を余儀なくされる異性装カップル!
    「ばーさんや、何か痴話喧嘩が起こってるのぉ。警察に連絡した方がいいのかのぅ……」
    「いいんじゃないんですかおじいさん。本人たちの問題ですから」
     嗚呼恐るべしバベルの鎖。これから起こる淫魔さんの横暴は、全て痴話喧嘩と、女装している彼氏を見つけて御乱心遊ばされたと、女友達への過剰なご挨拶に変換されるんですね、きっと。
     
    「って、そっちの運動かーーーーい!」
     運動は運動でもスポーツではなく、淫魔さんの運動は社会運動的なものだった!
    「そしてリフレッシュされた淫魔が、更なるリフレッシュを求めてムッキムキの逞しい男性とら、らららららら……らん……」
     依頼四度目だけれど、未だに依頼説明に緊張をおさえられないのか、エクスブレインの健全な少年(たぶん)は、あいかわらず華麗にどもっていた。
    「とにかくですね、淫魔がまた出たんです! このぴちぃぃぃぃぃっとしたスパッツに程よい肉の乗ったすべっすべのおみ足と、見えそうで見えない胸のてっぺんが……」
    「はい。わかってるからとっとと出現場所教えて」
     ドライにぶったぎる灼滅者。
    「うー……わかりました」
     ちょっぴり欲求不満そうな顔つきだが、エクスブレインの健全な少年(たぶん)は説明を始める。
    「この都市のスクランブル交差点に、朝八時に淫魔が到着するんです。皆さんは当然の如く異性装をして頂き、淫魔の目を引いてほしいのです!」
     その際、他にも異性装をした一般人がいるようなので、とにかく『僕は私は異性装です』と誰が見てもわかる恰好をして、交差点の適当な個所で待っていればよいとのこと。
    「もちろん奇抜な衣装はこの僕が……」
     ずりずりーっと貨物列車並みに連なった衣装ケースを引っ張ってくる、エクスブレインの健全な少年(たぶん)。
    「いや、いい……」
     スパンコール装飾のレオタードとか、蝶の仮面とか、どういった場面で使うんだよと軽い頭痛に苛まれながら謹んでお返し。
     とりあえず、スクランブル交差点に八時迄に集合し、淫魔を異性装で引き付け一般人を脅威から守り、素敵な痴話喧嘩や浮気現場目的やらのノリでその場を誤魔化し、すぐそばにあるドラッグストアーのビル横から路地裏へと回れば、そこそこ広い不動産管理地があるので、そこで戦えば問題ない。殺界形成でも使えばばっちりだ!
    「淫魔は、いくらスパッツに包まれた下半身だからって破廉恥なほど天高く振り上げるおみ足からなる強烈なネリチヤギ繰り出し、弾けそうな胸をたゆたゆさせながら無駄にお尻をふりつつ……」
    「ああ、もういい資料で確認するから……」
     げんなりしながらとっとと教室を去ろうとする能力者。
     ともあれ、淫魔退治宜しくお願いします。 


    参加者
    大浦・政義(夕凪・d00167)
    狐雅原・あきら(アポリア・d00502)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    ストレリチア・ミセリコルデ(銀華麗狼・d04238)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    ウィクター・バックフィード(自由主義者・d10276)
    リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)
    泉夜・星嘉(星降り・d17860)

    ■リプレイ

    ●異性装はんたーい
     朝八時のスクランブル交差点は、沢山の善良な市民の皆様で溢れかえっているんですけれども。
    『おーっほっほっほ! 今日も!』
     件の淫魔さんが横断歩道前にて準備体操を終えるなり、
    『股関節の!』
     ぶんと振り上げるおみ足、股座辺りの縫い目が破れそうな勢い。
    『調子が!』
     そのまま振り下ろすおみ足、靡くブランドTシャツ、華麗に下乳露出(下着無)。
    『良いですわ!』
     ついでに腰の調子も良いですわと、シェイクヒップしている淫魔さん。行き交う人々の視線を総浚いして、酷くご機嫌麗しいご様子で。
     そんないい気になっている淫魔さんの様子を、物陰から伺っている灼滅者たち。
    「アハハ。トンデモないのがいるって聞いたけど、聞きしに勝るダヨネ♪」
     自意識過剰ってオモロイなーと、戦闘前から脇腹に軽く笑撃くらっている、あんまり普段とは変わらない格好(しかし見た目完全女の子)の狐雅原・あきら(アポリア・d00502)と、
    「というか、普通に視線集めてるってどうなのさ……」
     武蔵坂学園の中学男子制服を着用して、軽く頭痛に苛まれてみた泉夜・星嘉(星降り・d17860)。声高らかに言ってやりたいと思う、バベルの鎖に「もうちょっと働けよ」と。
     逆を言えば、バベルの鎖もまともに機能していない小物ということでもありますがね!
    「それにしても。異性装反対、ねぇ……。気持ちは分からなくもないけどな。俺も妙な格好をしている男性を見て、問答無用でぶちのめしたくなった事もあるし……」
     腰に手を当て、雄々しく堂々と御立ちになっている、そんな風真・和弥(風牙・d03497)さんの格好はと言うと――女の子から頂いた、フリル満載、良質のメイド服。
     そう、メ・イ・ド・ふ・く!
     太字で表現してあげたいほど目に眩しい装いは、多分この中で一番きょうれ……つ?
    「こーいうキラキラしたのを着んのは初めてだが!」
     ぶあさぁぁぁぁ(キラン)☆
     異性装に嫌悪感も無いし、普通にメンズっぽいハーフパンツだって着用します、淳・周(赤き暴風・d05550)さんの本日のお召しものは、歌劇団風の装い。もちろん男役。盛ってます孔雀の羽根。広げます光沢外套。あら素敵。和弥とは違う眩しさ!
     そんな、隠れている意味無いくらい広がる羽根からこっそり覗き込んでいる大浦・政義(夕凪・d00167)さんはというと、スカートにブラウス。さらさら黒髪のヅラで、物静かな読書娘に。
    「ともあれ、異性装したっていいじゃないですか、可愛ければ。最近は男の娘が流行りみたいですし……それに愛があれば性別なんて超えられるって知り合いの灼滅者も言ってました」
     そんな恰好で、真面目に語ってみる政義。
    「さてと、そろそろ信号も青になりそうですし」
     肩幅広いので異性装バレバレな甘ロリちゃんの装いをしたウィクター・バックフィード(自由主義者・d10276)が、キラリと眼鏡の縁を輝かせた。
    「行くわよ、ウィクター」
     紳士用執事服を身に纏い、けれど髪型はいつものままで、リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)はウィクターをエスコートして――余すことなく人目しかない場所へと繰り出す。
    (「フッ、もう通った道です……」)
     気になる視線。とある部で経験した女装の恥ずかしさを思い出して、朝の太陽無駄に反射させている眼鏡の奥、遠い目をしてみるウィクターさん。
    「私が着るより貴方が着た方が似合うんじゃない?」
    「ハハハ、何を仰いますか。リステアさんのほうがお美しい……」
     ちょっとカクカクした動きになってますが、これも見られている緊張ゆえ。そして頬染め目を反らし、そっけない反応を返すリステアさん。
     そんな二人を見つけた淫魔さんは、
    『運動のお時間ですわ!』
     くわっ!
     無駄に血走る目を見開き、異性装カップルをロックオン!
    『執事服だなんて正気の沙汰では御座いませんことよ、肩幅広いくせにフリルたっぷり甘ロリだなんて貴方変態よ! そういうわけで異性装はん――』
    「ウィクター! ……僕を裏切ったのかい!?」
     ずどどどーと砂煙巻き上げつつ、淫魔さんより大きな声と、傷付いた少年(?)の形相で突っ込んでゆく周さん。
    『ア~レ~』
     嫉妬の炎を喰らい跳ね飛ばされる淫魔さん!
    「誰? この女? と言うか知り合い?」
    「あー、えー、うー……」
     突如現れた男装女子にをじとぉっと睨みつけるリステアさん!
     どう誤魔化そうかと視線反らしてみたウィクターさん!
    「僕を好きだと言ってくれたのは男装が似合うからだったのかい?」
    「いゃあ……ハハハ」
     酷いと嘆く周さんに、たじたじのウィクターさん……。
    「……泥棒猫は排除しないといけないね?」
     鉈取り出す周さんと、
    「生意気ね……叩き潰されたい?」
    『みゅきゃん!』
     リステアさんの鮮やかな嫉妬の炎で殴られてしまった淫魔さん。まさかこれが作戦など夢にも思っていまい!
     しかし何故だろう、堂に入り過ぎた演技のせいかリアル修羅場ができ上がっちゃってるんですが。
     ESPなど使用しなくても、フツーに人々がいなくなってゆくんですがー。
    「……リア充爆発すればいいのに」
     仲良く喧嘩している二人を(嫉妬に満ちた目で)見守る政義さん。何処かで何かが羨ましい。
    『くっ、こんな街中で歌劇団の格好とか頭おかしい女まで現れるなんて……まあいいわ。運動の標的がいっぺんに増えただけでも……』
     ようやく起き上った淫魔さん。改めて拳握りしめ息を吸い込むと、
    『異性装ぉぉぉ!』
    「はんたぁぁぁーい!」
    『は!?』
     ファイトを一発入れる様なノリで見事に決まった反対コールに思わず立ち止る淫魔さん。
    「……あら? 貴女、気が合いますわね」
     満を持して登場のストレリチア・ミセリコルデ(銀華麗狼・d04238)さんは、にっこりと笑って見せた。
    『……フッ、まさかこの様なところで同志がいたとは』
     髪かきあげ、何故か偉そうに胸たゆたゆさせる淫魔さん。たぶんエイティーンで成長した、胸ばいーん! お尻ぷりーん! 脚すらーっ! のうえ、狼の耳尻尾をふぁさーっと靡かせている(着用している)ストレリチアを、好敵手(ライバル)と思ったとか何とかー。
    『なら、付いてきなさい!』
     と、何故か勝手に仕切り出す淫魔さん。
    「そこに居たかご主人!」
    『へっ!?』
     声かけられ振り向いた瞬間、
    「この俺、冥途骸、風真和弥がこれからたっぷりとご奉仕してやるから覚悟しろ!」
    『な、なななな……ななんですってぇぇ!!!』
     とりあえず定めた標的なんて軽く凌駕する戦慄極まりない光景に白目剥き、手を反り返し、なんてオソロシイ子と、背後に稲妻走らせる淫魔さん!
     更に男子生徒に扮した星嘉まで野次馬の如く現れて。
    『……ほほう……』
     うすら笑いを浮かべぷるぷると震える、怒り心頭の淫魔さん。こう都合よく異性装の皆さんがポンポン現れるわけがない。
    『ええーいこの変態メイドどもめ!!』
     フォースブレイクなネリチャギ一発。脳天からたらたらと血を流す和弥さんが微動だにしないのは、決してたゆたゆしている乳を凝視しているからではないはずだ。
     和弥さんのご奉仕ティアーズリッパーが淫魔さんへと炸裂。美脚を包むランニングスパッツが、ショートパンツの領域まで切り刻まれる。
    『くっ、こいつ。このアタクシに傷をつけた……』
     見た目を裏切る技の正確さに、普通に驚いてみる淫魔さん。
     なんだ和弥さん、恰好はネタに走っているが、戦闘は恐ろしいほど冴えているじゃないですか。
     なんて誰かが思ったのも束の間でした。
    『って、なにドサクサに紛れてチチ触ってんのよ!?』
     雲耀剣と言う名の掌底、しっかり胸部を震わせて。
    『異性装はんたぁぁぁぁぁぁい!!』
     ようやく決めゼリフと共に、顔面にドロップキックをお見舞いすることができた淫魔さん。彼女は想像以上の貧弱さを本格的な戦いの前からすでに臭わせていたとか……。
     
    ●淫魔さんげきたーい
     すったもんだの末、連れてこられた不動産管理地で待っていたあきらを、淫魔さんはギロリと睨みつけて。
    『……ははぁ、なるほど。ようやく全貌が明らかになったわ。アンタら集団でアタクシを灼滅しに来た噂の灼滅者集団ね。しかも異性装嗜む変態ばかり取りそろえたっていう嫌がらせも兼ねて』
     ふふふふふ……、と無駄にふを量産しながら笑い、据わりきった目の淫魔さん。
     そんな淫魔さんの威圧的な視線すら全身全霊を掛けて受け止めながら、真顔で仁王立ちしている和弥さん。
    「あーあー、淫魔サン淫魔サン、聞こえてるかな?」
    『何よ!?』
     ものすごい迫力で吠えられても、まったく動じないどころかむしろ楽しんでいるあきらさん。
     視線を感じたあきらはにぱっと笑い、「残念だケド、ボクは異性装サンじゃないんだ……」
    『へーそうなの』
    「そう、違うんダヨ! なんとなく制服だけどネ!」
    『あらそうですのなんとなく女装なんですのそりゃあずいぶんと楽しそうですわよねぇぇぇ!?』
     淫魔さん、笑顔で指ポキ。
    「ええ、こんな人達は鉄・拳・制・裁! ですわっ! ……と見せかけて精神的死角きーっく!」
     おみ足振り上げた淫魔さんのドアタマに、ストレリチアのつま先、さくっ!
    『いやーん☆』
     後頭部に決まったの精神的死角きーっくと言う名の紅蓮撃によって、振り上げた自分のおみ足でお鼻ぶったとかなんて間抜けな淫魔さん。
    『ストレリチア、貴様このアタクシを……』
     鼻をすりすりしながら、騙していたのねとギリギリと唇を噛み、シリアスな形相でストレリチアを睨みつけている淫魔さん。この状況で、今頃気づくなんてどんだけ鈍いんでしょう。
     しかし、この何とかシリアスを取り戻そうとしている場面でも、真後ろに仁王立ちしているメイド和弥のせいでどうも笑いを誘っております。
    「何があったかは知りませんが、人の趣味に口出しするのはあまり感心できないですよ、淫魔さん?」
     きりりとした表情で眼鏡の位置を正しながら、電柱の影より参上する政義。
    「あなたが異性装を許せないのはわかったけどそれを人に押し付けるのはよくないと思うぞ!」
     びしーっと指差し、僕も同感だと訴える星嘉。
    「ええ、貴女は他人の格好よりも、まず自分の格好を気にするべきですわ! 性をわきまえないのも場をわきまえないのも、本質的には一緒ですのよ!」
    「ハレンチなのはいけないと思いマース!」
     TPOについて力説するストレリチア。それにちゃっかり便乗しているあきら。
    『くっ、このアタクシの千里眼すらも誤魔化すその化けっぷりは褒めてあげますけれども! そのフェイクな乳叩き落としてやる的踵落としぃぃぃ!』
     どこかしらストレリチアの真似した模様。前衛陣へと打ち込むネリチャギヴォルテックス!
    「ひゃあぁぁぁ!?」
    「わっ!?」
    『あらん☆』
    「「ぶはぁっ!」」
     悲鳴と鼻血が同時に上がった!
    「だ、誰が女装ですかー!? 今回は服を破られぬために男装しなかったのに!」
    「これじゃあ只の強姦じゃないか!」
     ビリッビリに服破られて必死に隠そうとするストレリチアさんと、何とか制服を死守しきった星嘉さん。
    「くっ……惜しい……」
     何がどのように惜しかったのか、定かではないですけれども。流れる鼻血を押さえながら悔しがる和弥さんと、あまりの出来事に思考停止した政義さんと、眼鏡の奥は伺い知れないウィクターさん。
    『お、おーっほほほ! 結局のところ異性装する変態どものお仲間じゃありませんこと?』
     まぁどっちにしろ倒すことには変わりませんものと、間違いを適当に誤魔化してみる淫魔さん。
    「くっ。人を辱めようとする変態はそっちじゃないか! 喰らえ! 必殺!! せーかびーむ! じゃない宇宙センタービーム!!」
     淫魔さんは迫り来る星嘉のご当地ビームにあえて受けて立ち、
    『ええい、生意気な小娘ね! そっちこそ受けてみなさい、必殺!! 異性装反対サンダァァァあぁぁぁれぇぇぇ?』
     星嘉の霊犬はやぶさの斬魔刀に弁慶の泣き所を綺麗に払われ、華麗にすっ転ぶ淫魔さん。
    「とりあえず……テキトーにブッ飛ばしていいんデスよね? はーい」
     なんというか、主張だけは強烈だけれど、如何せん実力が……。と口ごもりたくなるほど手応えの無い淫魔さん。もう充分楽しんだので、とっとと灼滅しちゃうヨーと、PSYCHIC HURTSを構えるあきらさん。
    『テキトーって何よ、テキトーって!』
     アタクシそんな安い女じゃありませんことよと、盛大に文句を言っている暇があればかわせばいいのに、この淫魔さんはと言うと、
    『――って、わきゃー☆』
     見事に当たる。
     そして見事なまでに安かった。
    『ぜーぜー、はーはー。卑しい異性装の分際で、このアタクシをここまで追い詰めるとは……』
     額からぷすぷすと煙を燻らせ、口元の血を拭う淫魔さん。そんなに激しい戦闘した覚えは無いのですが、かなり疲弊しているご様子。たぶん精神的なダメージが高いと思われ。
    「先程から聞いていれば、卑しいだの変態だの言ってるようだけど」
     リステアさんは、膝をついている淫魔さんを冷やかに見下ろしながら、
    「女装はどうか知らないけど。男装は別に良いんじゃない? そういうファッションもありだと思うわ。知り合いに男装の麗人がいるの。彼女はとても素敵な人よ。否定ばかりではそういった魅力も見えないわ」
     まあ今更貴女に悟らせたところで、灼滅の二文字は覆りませんけれどと言い切るリステアさんのほうが、どっちかっていうと女王様的雰囲気を醸し出していたのは決して気のせいじゃない。
    「あのぅどうしてここまで異性装が憎いんでしょうか。……まさかとは思いますが、好きだった人が異性装に走った事が原因で闇堕ちして、この運動に走ったとかじゃないですよね……?」
     果てしなく気になる疑問を政義が問うてみる。その刹那、笑顔のまま固まる淫魔さん。
     図星。
    『ほほほほ~』
    「ははははー」
     顔見合わせ笑いあう淫魔さんと周さん。
     まぁ当時人間だった人のことを慮ればそれは仕方ないとしてもだ。誘き出すのに、ラメとかスパンコールとか孔雀の羽根とか、派手な歌劇団風の装いまでして人目を引い苦労の割には、こんなに小物感満載な奴だと思ったらなんとなく、むかつくのは気のせいじゃないですよね。
    「アタシの魂乗せた拳の重みを思い知れ!」
     思いの丈を込めた全身全霊のグーパンチの一撃を、周は微塵の躊躇いもなく淫魔さんにぶち込んだ。
    『いやぁぁぁん、こんな卑しい異性装どもに負けるなんてーっ』
     明後日の方向へと飛んでいき、露と消える淫魔さん。
     澄み渡る空を虚ろな目で見上げ、和弥さんは呟く。
    「激しい戦いだった……」
     精神的に。
     とっとと着替え始めるウィクターさんも呟く。
    「ええ。今だ嘗てない激戦でした……」
     黒歴史的に。
     なにはともあれ、街には好みのファッションや主張を行う自由が戻ったのでありました。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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