【トラップダンジョン初級編】4種の罠

    作者:相原あきと

     玉座の間。
     正四角形のその部屋の四隅には、それぞれ像が設置してあった。
     入って右側の隅には背の高い炎の像と、背の低い炎の像が。
     入って左側の隅には背の高い氷の像と、背の低い氷の像が。
     右側奥の隅には背の高い毒の像と、背の低い毒の像が。
     左側奥の隅には背の高いハート型の像と、背の低いハート型の像が。
     そしてその部屋の中心には1人の男がいた。仮面を付け中世貴族のような銀糸の礼服をまとっている。
     その男の名は、ノーライフキング『刻命のアルデバラン』。
    「灼滅者か……思ったより頑丈だったな。それに頭も良い……」
     コツコツコツと部屋の中を歩き回り。
    「見せかけのトラップは、本命を隠す為の捨て駒」
     炎、氷、毒の像へと仮面の男は視線をさまよわせ。
    「そしてトラップとは侵入者の決めつけを、心理を読んで設置する物」
     最後にハート型の像へと視線を止める。
    「くくく、来るなら来い灼滅者達よ。トラップの恐ろしさ、骨の髄まで味あわせてくれよう」
     仮面の男は灼滅者達がやってくるだろう部屋への通路を睨みつけるのだった……。

     玉座の間へ通じる豪華な扉の前で、8人の灼滅者は傷を癒し終わる。
     8人が立ち上がり、見上げるは玉座へ続く大きな門。
    「この先に……ノーライフキングが居るのか……」
    「行こう……もちろん油断は禁物じゃがのう」
     皇・千李(復讐の静月・d09847)と西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)が呟き、8人がこくりとうなずいた。
    「じゃあ開けるよ?」
     倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)が両手で扉を押し開ける。
     その先には薄暗い廊下が続いていた。
     この廊下の先が、ノーライフキングの待つ玉座の間なのだろう。
    「鬼が出るか蛇が出るか……」
     銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)がメガネの位置を直しつつ足を踏み出す。
     廊下を進む途中も、明るく話すのはアイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)だ。
    「玉座の間にもトラップとかありそうだよね?」
    「そうですね、それは大いにありそううです」
     アイティアの言葉にのほほんと同意を返すのはソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)だ。ここの迷宮の主が、ラストバトルにトラップを使わないとは思えなかった。
    「今まであったトラップは解除が可能だった……今度はそれを作戦に組み込むのも悪くないだろう」
     白いローブの源・市之助(高校生神薙使い・d14418)が顎に手を当てて案を出す。だが――。
    「どっちでもいいわ! 主のノーライフキングをトラップごとやっつければ良いじゃない!」
     最後の罠に引っかかったのが腹立たしいのか、勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)が怒ったように言う。
     他の仲間達が幸乃の言葉に僅かに笑う。
     その通りだ、ここまで来たからにはあとは……。

     やがて廊下の先に明かりが見えてくる。
     そして灼滅者達は――。


    参加者
    倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)
    銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)
    アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)
    ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)
    西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)
    皇・千李(復讐の静月・d09847)
    勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)
    源・市之助(高校生神薙使い・d14418)

    ■リプレイ


     その正四角形の部屋は、四隅に炎、氷、毒、ハートを象った像がそれぞれ2つずつ配置されていた。
     そして部屋の中心には1人。中世貴族のような銀糸の礼服をまとう仮面の男がいた。
    「玉座の間……お前がここの主か……」
     皇・千李(復讐の静月・d09847)の必要最低限の質問に、仮面の男が大仰に頷く。
    「いかにも、俺は刻命のアルデバラン。お前達のダンジョン内での手並みは視させてもらった……認めよう。なかなかやる、と。故にチャンスを与えてやる、このまま帰るのなら命までは取らないでやる」
     上から目線で帰れと言うアルデバランに、腰に両手を当ててフンッと返すのはアイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)だ。
    「これだけ準備してるのに、帰られたら困るのはそっちでしょ? 安心していいよ。お望み通り遊んであげるから」
     アイティアの言葉に仮面の奥で「ほぅ」と喜ぶ声が漏れる。
    「ええ、最後の罠にしてやられちゃったお返しは、是非ともしないといけないですよね」
     ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)がアイティアに同意しつつ四隅の像に視線を流し。
    「どんな罠が仕掛けてあっても負けません!」
     再びアルデバンを見つめ宣言する。
    「そうか……では仕方がないな。俺の玉座の間にて、相手をしてやろう」
    「1つ」
     空気が張りつめようとした瞬前、源・市之助(高校生神薙使い・d14418)が人差し指を一本立てて割って入る。
    「教えてくれないか? なぜ、わざわざ罠を教えるような貼り紙をした」
     仮面の奥でニヤリと笑ったような気がした。
    「いいだろう、教えてやる。次々現れる罠が貼り紙通りならどう思う? 侵入者は貼り紙を真実だと決めつけ、その結果……貼り紙以外に罠は無いと思い油断する」
     アルデバランはそこで大きく笑う。
    「もちろん、扉に罠がある可能性は3つ目の部屋で解っていただろう? 最後の部屋も貼り紙は嘘を言っていない。貼り紙に従ったおかげでお前たちはデストラップを回避したのだから。くくくっ、俺はな! お前達のような侵入者が悔しがって死んでいくのが……最っ高に好きなんだ!」
    「どうでもいいわ」
     興味なさそうに呟いたのは勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)だ。
    「とにかく、あたしのドレスを焦がしたツケはきっちり払って貰うわよ!」
     人の話を聞かずに自分の事だけを言う幸乃に、自分の事を棚に上げアルデバランが明らかにイラッとした空気を出す。
    「トラップは心理戦だ、それもわからない出来損ないが……貴様ら、全力で来るが良い、ここがお前たちの墓場だ!」
    「それはお断りさせてもらうでー」
     アルデバランに独特のペースで断りを入れたのは銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)だ。右九兵衛は視線だけでハートの像を差し。
    「ハートの像は回復アビリティに反応するて予測やけども……」
    「なん……だと……!?」
    「さ、合うてる前提の作戦で乗り切るでー」
     沈黙する仮面。
     その空気を作陽に、はっきりとした言葉が紡がれる。それは解除コード――「弥栄」。
     西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)が殲術道具装備し。
    「ついに屍王との対決じゃのう。罠を乗り越えここまで来た。さあ、戦いを始めようじゃないか」
     言葉とともに発せられるは攻撃ではなく回復のサイキック、シャウト。
     レオンの叫びと同時に背の低いハートの像が光る。
     その瞬間!
     部屋全体を包むように像から衝撃派が放たれる。
     ダメージ自体は軽微だが、全員の意識が朦朧とする。
     次に動いたのは倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)だ。自己回復として同じくシャウト。
     そして再び部屋に衝撃が走る。全体ダメージ+催眠の効果を受ける灼滅者達。
     だが、それらは全て事前に予測していた通り、即座に残り6人はシャウトを発動して傷とバッドステータスを回復させる。3人目のシャウトからは衝撃派は走らない。ハートの像は2つとも崩れ去っていたからだ。
     衝撃を受けたのは灼滅者ばかりではない、アルデバランも灼滅者達の意外な行動に精神的に衝撃を受けたのだ。
    「無、無属性の回復だと……!? そんな、属性トラップとコンボで2つ同時に発動する予定が……。なぜだ、なぜわかった!」
     叫ぶアルデバランに、答える義理のある灼滅者はいない。


     アルデバランがいつの間にか手にした大鎌を振るうと、空間から出現したペンディラム(柄の無い刃だけの大鎌)が出現し、灼滅者達へと襲いかかる。先ほど催眠を回復できていない茶羅達は、刃に切り裂かれると同時にジグザグの効果でさらに意識に霞がかかる。
    「罠に頼って戦うような貴方の攻撃なんて痛くないんだから……!」
     アイティアの言葉通り、ダメージだけなら再び自己回復サイキックを使うだけで立て直すことができる。だが――。
    「冷静になりなさい!」
     レオンの攻撃を紙一重で回避した幸乃が、焦点の合わない目をしたレオンに叫ぶ。
    「くっ……あああああっ!」
     レオンが叫び、うつろだった瞳に意志が戻る。
    「ふぅ……やれやれ、本当は奴の仮面を取ってやりたいぐらいじゃが、冷静にならんといかんようじゃな」
     ぎりりと奥歯を噛みしめながら、感情を押さえてレオンが正気に戻る。
    「ヒョハハハハッ」
     右九兵衛もまた自らの傷をシャウトで回復させ、アルデバランから視線を外さないよう、部屋の隅、毒の像へと走った2人に声をかける。
    「解除できそない?」
    「大丈夫、そんなに時間かけずにいけそうです」
     ソフィリアが合流した幸乃とともに解除を試みつつ返事。作り自体は単純だ、1~2分もあれば十分解除できるだろう。
     ソフィリアの言葉に灼滅者達はサイキックでの攻撃をせずに自己回復と、そしてアルデバランを挑発するかのような手加減攻撃を繰り返す。
     仮面の男が大鎌を横薙ぎに振るい、刃に乗った黒い波動が前衛達を切り裂く。
    「なまじトラップがあるってわかってると、やりづらいよねー……これが心理戦ってやつ?」
     茶羅が軽口を叩くが、回復仕切れない殺傷ダメージは蓄積される。
     一方、攻撃を受けつつ幸乃達が氷の像を1つ解除したのを見た千季は呟く。
    「試してみるか……」
     瞬後、瞳の紫が鮮やかさを増し。
    「行こうか……緋桜」
     抜刀。一閃。一刀両断。
     残っていた氷の像を破壊する。
     だが、破壊されると同時にトラップが発動、部屋全体に強烈な冷気の風が吹き荒れる。
    「なにを!?」
     驚く仲間達。8人を凍てつく氷が包む。
    「はははっ、一つ解除で安心したか? ははははははっ!」
     しかし、何人が気がついただろう。
     万全に近い状態のうちに、強引に氷の像を発動させ使用済みにする意味を……。その意味に気がついたうちの1人、市之助が仮面の男に気が付かれないよう別の話をふる。
    「刻命のアルデバラン……せっかくの罠だ、どうせなら自分でも発動できるようにしておけば良かったんじゃないか?」
    「それは……!? 生意気な……だが、次のダンジョン増設の際には盛り込むとしよう」
     市之助の思惑通り、仮面の男の思考は別の未来へとすり替わる。


     毒の像を解除しようとするソフィリアと幸乃はさすがにシャウトする暇が無い。しかし、すでに術式は使用が可能であり、レオンの防護符が飛んでその傷を癒す。
     もちろん、アルデバランの攻撃は一方的に続き、茶羅や千李、市之助のように術式の回復が無い者は、シャウトと手加減攻撃を続けるしか無い。
    「ソリフィア、そっちはどう?」
     すでに氷の像の解除で要領を得たか、幸乃とソフィリアは2人同時に高いのと低いの、2つの毒の像の解除にあたっていた。
     自分の方は終わったと幸乃がソフィリアを振り向いた瞬間、大鎌から放たれた黒い波動が目の前に迫る。
     ガッ!
     寸でで目の前に割り込んできたのは青い髪の少女。
     仲間を庇い、膝を付きそうになるアイティアだがグッと我慢し姿勢を伸ばす。
    「折角ここまで来たんだし、このまま手ぶらじゃ帰れないよね……中級編なんて出されても困るしね?」
     幸乃達にウィンクするように強がるアイティア。
    「中級編、もしあったらどんな罠があるのかちょっと楽しみだったりしますが……やはり、無いにこしたことはありませんね」
     アイティアに並ぶようソフィリアが立つ。それはつまり――。
    「これで術式と神秘は解放です」
     攻撃サイキックは同じ能力値の物を使い続ければ見切られる。それを防ぐ為には2属性のサイキックが必須、そして今、術式と神秘で発動するトラップはなくなったのだ。
    「くっ」
     刻命のアルデバランが舌打ちする。
    「武器封じによるダメージの減少、罠による全体へのダメージ系バッドステータス、そして極めつけは鎌でのジグザグ……」
     高速演算モードでクリアに正確になっていく思考、右九兵衛はアルデバランの策を見抜く。
    「バッドステータスいっぱい付けて、長期戦でじわじわ俺たちのことを殺す予定だった……おうてるやろ?」
     言葉を失うアルデバラン。
    「何を……それなら今から――」
    「作戦変えるのなら、強引に氷の像を壊した時点でやるべきやった……遅いで、あんた」


    「ふざけるな! 罠など、罠などなくともダークネスたるこの俺が! 貴様らできそこ無いどもに負けるわけがあるか!」
     感情も露わに激高するアルデバラン。
     その仮面をかすって氷の球が男の後ろの壁に着弾する。
    「さぁ、仕切り直しといきましょうか! これでやっと全力が出せます!」
     氷を放った少女、ソフィリアが笑う。
     ずれた仮面の位置を直しつつアルデバランが大鎌を振るう。
     いくつものペンディラムが空間を切り裂き出現、灼滅者達へと襲いかかる。
    「よっ、ほっ」
     それを簡単そうに避け、仮面の男の目の前へと立ったのは茶羅だった。
     サイキックの光輪を指先でくるくると回し、攻撃直後のアルデバランへとアサルトヒットさせる。
    「おのれ!」
     毒づき、全体攻撃から誰か1人を集中攻撃しようと作戦を変えたアルデバランが、先ほどペンデュラムの直撃を食らった者はと視線を巡らせる。しかし、一番に傷ついた者が即座にアイティアが防護符で回復させていた。
    「くっ!」
     2属性が解除され怒濤の攻撃を開始する灼滅者達。アルデバランも威力の高い単体サイキックに切り替えるが……。
     死の呪いを纏った大鎌が幸乃に迫るが、その一撃を百の拳で打ち据え相殺する幸乃。
     使えるサイキックが増えれば、見切り効果も前提に戦術を組んだ灼滅者側に穴は無い。
    「おのれおのれおのれー!」
     アルデバランの叫びに呼応するように、部屋の床に巨大な魔法陣が出現する。そして一斉に魔法陣が輝き、黒き波動が前衛にいる灼滅者達に襲いかかる。
     それはアルデバランの奥の手、一番強力なサイキックであった。
     黒い光が少しずつ消えていく中、歩いてくるのは2人の男。
     その2人が同時にその腕を鬼のソレに変化させる――鬼神変。
     気魄サイキックを使った2人――市之助とレオンにアルデバランが目を見開き、大声で笑う。
    「はははっ、最後の最後で油断したな! 炎のトラップを食らうがいい!」
     だが……。
    「なぜ発動しない……なにっ!?」
     視界を部屋の隅にやり、仮面の男が驚愕する。
    「解除……されている、だと? この短時間に、どうやって」
     納得できないというアルデバランに、市之助が説明してやる。
    「心理を読むばかりに目がいって、その他をおろそかにするからだ……それ以外がワンパターンなんだよ。戦術も、罠の構造も、解除の仕方もな」
    「!?」
     炎の像のトラップは、何か隠された仕掛けが無いか念の為にチェックしつつ、純粋に解除を行ったレオンと市之助によって速攻解除されていた。
    「トラップマスターを気取るには、少々早かったみたいだな」
    「刻命のアルデバラン、もはやお前の迷宮も命も、ここまでだ……覚悟!」
     市之助とレオンの鬼の腕が左右からアルデバランの両脇腹をかっさばく。
    「こ、こんな所で……」
     だが、仮面の男はふらふらになりながらも倒れず、逃げようと出口へと向かう。
    「いいや、終わりや」
     市之助が口上を述べている間にチャージは完了している。右九兵衛のバスターライフルが自身に向いているのを知り、慌てて飛び退こうとするアルデバラン。しかし――。
    「ぐあっ」
     千季の螺穿槍が男の片足を貫き、大地へ縫い止める。
    「お、おのれーーー!!!」
     バスターライフルの引き金が引かれ、刻命のアルデバランは絶叫とともに灼滅された。
     終わってみれば、トラップを全て読み切った灼滅者側の完勝と言える戦いだった。

    「これで、コルベインが生まれるのは阻止できた……か」
     千李が主の消滅した玉座の間で呟く。
    「ねぇ……なんかフラグっぽいなあとか思ってたんだけど……気のせい、だよね?」
     アイティアがどこか不安そうに言うと、その言葉を幸乃が肯定する。
    「フラグはもう踏んでるじゃない。ほら、主を失った迷宮は……――」
     冷静に周囲を見回せば、少しずつ壁や天井に綻びが生まれ始めている。急激な崩壊には繋がらないだろうが、人知れず、ゆっくりとこの迷宮は消滅するのだろう。
    「倒した者が新しいダンジョンの主人に……なんてことはなさそうだけど、さっさと帰りましょう?」
     幸乃の言葉に反対する者はもちろんいなかった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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