赤点なんて飛んでいけ

    作者:篁みゆ

    ●赤点は……
    「あああああ……どうしよう」
     駅のホームに置かれたベンチ。学ラン姿の少年が一人、紙束を抱えて肩を落としていた。くたりと折れた紙束から覗くのは、赤で書かれた「27」という数字。どうやらその紙はテスト用紙のようだ。
     ――受験生まで何ヶ月だと思ってるんだ!?
     ――こんな点ばかりじゃ、志望校に受からないわよ! もっと頑張らなきゃ。
     塾の先生と母親の声が惣鉞(そうえつ)の頭の中に響く。今まで何度も言われてきたことだし、きっとまた言われることだった。
     ぶわっ……!
     電車がホームに入ってくる時の強風が、惣鉞の手元から紙束を奪っていく。
    「わ、わぁっ!?」
     慌てて数枚回収するも、ほとんどは電車と共に何処かに飛んでいった。そのどれもが赤点の答案だったものだから、恥を晒してしまったことになる。
    「あぁ……怒られる」
     点数が悪かったから隠したと疑われるだろうか。
     惣鉞だって何も狙って赤点ばかり取り続けているわけではなかった。きちんと勉強はしている(つもりだ)し、テストもまじめに受けている(はずだ)。なのに一向に点数は上がらない。塾に行ってもなかなか成績は上がらなかった。むしろ赤点の答案用紙が増えるだけだった。
    「ちくしょう、こんなに頑張ってるのに何で……」
     ぐっ。残った答案用紙を強く握り締める。
     なんでなんでなんで。どうすればどうすればどうすれば。
    「きゃー!!」
     悲鳴も聞こえないほどに彼は追い詰められていた。
     自らが、青色の化け物になるほどに。

     灼滅者達が教室を訪れると、神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)と話をしている男子生徒の姿があった。生駒・竜弥(黎明を夜に探して・d09941)だ。
    「それは……ストレスにもなるよな」
     苦笑した竜弥は他の灼滅者とともに席につく。
    「現在、『一般人が闇堕ちしてデモノイドになる』事件が発生しようとしているよ。デモノイドとなった一般人は、理性も無く暴れ回り、多くの被害を出してしまう。だが、デモノイドが事件を起こす直前に現場に突入することが可能だから、なんとかデモノイドを灼滅して事件を未然に防いで欲しいんだ」
     デモノイドになったばかりの状態ならば、多少の人間の心が残っている事がある。その人間の心に訴えかける事ができれば、灼滅した後に、デモノイドヒューマンとして助け出す事が出来るかもしれない。
    「救出できるかどうかは、デモノイドとなったものが、どれだけ強く、人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっているよ。デモノイドとなった後に人を殺してしまった場合は、人間に戻りたいという願いが弱くなるので、助けるのは難しくなってしまうから注意をしてほしい」
     瀞真は息をついて、辺りを見回した。
    「今回は竜弥君が気にかけていた原因で、デモノイドになる少年を察知したよ。名前は乾・惣鉞(いぬい・そうえつ)。中学3年生の男の子だね。彼は勉強が苦手で、自分では勉強しているつもりなのだけど、あまり身についていないようなんだ」
     赤点ばかり取ってくる息子を見かねて母親が塾に行かせたが、そこでも似たような得点の答案を量産するばかり。
    「ある日、帰宅前に夕方の駅のホームで思いつめた惣鉞君は、デモノイドとなってしまう。幸い地方の各駅停車の駅、電車は扉を閉めて発車した瞬間のことだから、ホームにはそれほど人はいないし、元々階段を降りて改札へ向かおうとしていた人々ばかりだから、避難させるのは簡単だと思うよ。線路を挟んだ向かい側のホームは別だけど」
     瀞真は付け加えて、続けた。
    「デモノイドとなった惣鉞君は、自分のいたホーム、線路を挟んだ向かいのホーム問わず、近くにいる一般人を襲おうとする。だが彼が人を手にかけてしまってからでは、彼がデモノイドヒューマンになれる可能性は殆ど無い。だから、彼が人を襲う前に彼に接触することが必要だよ」
     しかし惣鉞が思いつめてデモノイドと化す事自体を防いでしまうわけにはいかない。それを防いでしまっては、闇堕ちのタイミングがずれてしまうのだ。
    「彼がKOされた時点で、人間の心を強く残し、かつ人間に戻りたいと願うのであれば、デモノイドヒューマンとして生き残ることができるだろうね」
     彼に、人間の心を失わせないためには、近くにいる一般人をすみやかに避難せる必要があるだろう。また、彼の人間の心をとどめおくために、説得も欠かせない。
    「彼は記憶力が悪いわけでも物分かりが悪いわけでもないようなんだ。ただ、勉強のスタイルが合ってなかったり、ちょっぴり運が悪かったりケアレスミスが多いだけじやないかな、と僕は思うよ」
     自分に合わぬ方法を何度も何度も繰り返していては、成績は上がらず苦痛ばかり増えるのも伺える。ちょっと注意力が足りないならば、解答欄を間違えることもあるかもしれない。
    「彼を助けたいと思うならば、くれぐれも彼に人を手にかけさせないようにね」
     信じているよ、と瀞真は微笑んだ。


    参加者
    秋篠・誠士郎(流青・d00236)
    笠井・匡(白豹・d01472)
    不知火・隼人(烈火の隼・d02291)
    七生・有貞(アキリ・d06554)
    生駒・竜弥(黎明を夜に探して・d09941)
    玖律・千架(エトワールの謳・d14098)
    虚未・境月(月渡り・d14361)
    望月・楓(図南鵬翼・d17274)

    ■リプレイ

    ●点数よりも大切なもの
     灼滅者の間には緊張が走っていた。惣鉞のいる側のホームと逆のホームに不自然にならぬように散った彼らは『その瞬間』を待っている。ベンチに座る学ラン姿の少年、それも紙束をみて落ち込んでいるような彼の居場所を確認して。
    (「一般人を絶対怪我させないようにがんばろ。彼の救出ができなきゃここに来た意味が無いもの。俺が彼のためにできること、他にも何か無いかな」)
     さっと横目で惣鉞の姿を確認しながら思うのは虚未・境月(月渡り・d14361)。何かできることがあれば、してあげたい。勿論、救い出すのが第一だけど、他にも。
     事前に運行ダイヤや駅員の数を確認しておいた七生・有貞(アキリ・d06554)と秋篠・誠士郎(流青・d00236)。有貞は時計と携帯のアラームを確認する。誠士郎はじきにホームに滑りこんでくる各駅列車を待つふりをしながら惣鉞を見た。
    (「努力が報われないのは悔しい。何故と考え、悩むほど苦しくなってしまう」)
     今の惣鉞はまさにその状態なのだろう。悩んでは苦しみ、努力しては悩むの繰り返しに違いない。
    (「私はテストの結果が悪いからといって気にすることは無いと思うのだけれどね」)
     反対側のホームで一般人の配置を確認しながら心の中で呟くのは望月・楓(図南鵬翼・d17274)。
    (「ま、今はそんなことを言ってても仕方ないわね。まずは乾さんを助けましょう」)
     彼を助けるために、一般人を庇いやすい位置にさり気なく移動する。
    (「ふぬ。ストレス限界突破しちゃった乾くんには、とりあえず溜まったもの吐き出してもらって、鉄拳制裁かねてパーッと解消させちゃおう」)
     向かいから苦悩する惣鉞を見ている玖律・千架(エトワールの謳・d14098)は心の中で明るく決心をして。一般人がどこにいても守れるようにホームを歩いて場所取りをする笠井・匡(白豹・d01472)。
    (「テストの点数かぁ……そういえば最近は全然気にしてなかったな」)
     勉強を全くしない匡はふと、自分の成績を振り返ってみて、説得力がなくなるのでその内容は暫く黙っておこうと心に決める。
     と、惣鉞がいる側のホームに電車が来る旨の構内放送が流れた。灼滅者達に更なる緊張が走る。そよりと舞っていた風が強さを増し、電車の接近を肌に感じさせる。風を追うように、停車のために減速しながらではあるが電車が滑りこんでくる。
    「わ、わぁっ!?」
     惣鉞の声と飛び去る答案用紙。数人一般人が振り返ったが先を急ぐように電車へと吸い込まれていく。閉まるドア、ゆるりと発車していく車体。改札へと流れていく人々……。
    「あぁ……怒られる」
     手の届くだけの答案をかき集めてため息をつく惣鉞。
    「ちくしょう、こんなに頑張ってるのに何で……」
     残った答案用紙を握り締める彼。その身体が青い化け物へと変貌していく。
    「きゃー!!」
     偶然それを視界に収めた一般人が悲鳴を上げた。不知火・隼人(烈火の隼・d02291)が 『拾参式可変翼』を広げていち早く飛び出し、声を上げる。
    「ここは危ない、お前等逃げろ!」
     後は仲間達が避難勧告を行なってくれるだろう、隼人はそれを信じて惣鉞に集中する事にした。
     反対側のホームでは生駒・竜弥(黎明を夜に探して・d09941)が殺界形成を発動し、老人や子どもに特に注意を払って逃げるようにと声をかける。
    「ほら急げって! ボサっとしている場合じゃないぞ!」
    「急いで! 早く改札に向かうんだ!」
     匡も声を掛け、ベンチに座っていた一般人達を立たせて改札へと向かわせる。
    「慌てすぎないように、大丈夫。逃げて」
     千架の優しい声が突然のことに驚き混乱を抱いていた人達の背中を優しく押して。楓が割り込みヴォイスを使って的確に指示を与えていく。
    「階段に気をつけて。改札へ向かって。そこまで行けば大丈夫よ」
     電車を待っていた人達は指示したがってパタパタと改札へ向かう階段へと駆けていく。転んでしまった小学生を竜弥は助け起こし、抱えて階段まで連れて行った。
     惣鉞と一般人の距離の近い側のホームでは、大抵の客は改札へと向かっていた。数名、電車に乗ろうとして乗り遅れ、次を待つ者もいるようだったが、そうした者達には有貞がパニックテレパスを使用して「改札に逃げろ」と伝える。避難誘導しながらもひらりと舞い降りた答案用紙を拾う有貞。
    「ほら、早く逃げないと」
     境月も声をかけて避難誘導を手伝う。おろおろしていた一般人達が、元々改札へ向かおうとしていた人の流れに乗ったのを確認して、惣鉞へと近づく。完全に避難が終わるまでは油断は出来ない。誠士郎は一般人の流れを確認しつつ、万が一惣鉞が一般人を狙って攻撃をしてきても、防げるようにと気を張った。
     ウガァァァァァァッ!!
     まるでそれまで溜め込んだストレスを発散しようとするように、惣鉞が青く筋肉質な腕を振るう。巨躯から繰り出される一撃は見かけよりも重く、隼人を打ち据える。バランスを崩しかけた隼人は脚に力を入れて踏ん張って、よろけるのを耐えた。
    「行くぜ、相棒……ダークネスをぶっ飛ばして、今日も人助けといこうぜ!」
     語りかけるのはその身に纏う『強化外骨格“烈火”』。隼人の呼びかけを受け止めた相棒と共に、彼は『呪晶杭“蒼王”』に炎を宿して殴りかかる。強靭な肉体を持つデモノイドには、油断せずに最初から全力で行く構えだ。
     続いて有貞は槍に捻りを加えて繰り出し、青色の肉体を貫く。
    「しかしテストが人生の全部って幸せな奴だなぁ。このままだとあんた、人殺しちまって人生そのものが赤点だぞ」
     上手いこと言ったと自分で納得しつつ、槍を引きぬく。追うようにして境月が接近し、盾で思い切り巨体を殴りつける。そして惣鉞を見上げて。
    「赤点取る理由を考えようよ、落ち込むばかりじゃ前に進まないよ。勉強するのが苦手って決め付けないで。時間を掛ける方向じゃなく、短い時間で覚えられる勉強方法を見つけようよ」
     一般人の最後尾が階段に差し掛かったのを確認して、誠士郎は少し距離をおいたまま惣鉞を見る。まだ万が一に備えているのだ。
    「俺も中学の時は剣道ばかりで成績が悪かった。改めて勉強しようにも上手くいかなくてな」
     優しい語調だがよく通る声で誠士郎は共感を示してみせる。
    「その時に友人と勉強したり、励まし合ったおかげで成績を良くできた」
     それは彼の経験。ひとつの道標。霊犬の花は隼人へと回復を施す。
    「乾さん、必ず助けてあげるから心を強く持ちなさい」
     反対側のホームから楓が声を上げる。そして放つのは強酸性の液体。惣鉞の巨躯は大きな的だ。肩の辺りに当たった液体は彼の装甲を薄くする。
    (「一般人を死なせて、彼の人生を堕とさせはしないよ」)
     千架は竜弥が誘導している老人が階段まで後少しという所まで行っているのを確認し、小光輪の盾を付与して隼人の傷を更に癒すと共に声を投げかける。
    「ねぇねぇ、怒られて否定されて、自分も、駄目って思ってない? キミが諦めちゃったら、誰がキミのことを信じてあげるの」
     明るく、励ますような千架の言葉。溜め込んだストレスに苛まれている惣鉞に、きっとすこしずつ染み込んでいく。
    「きっと、辛いね、哀しいね。頑張っているのに、頑張れなんて言われて悔しいよね。心は、ずっと限界ギリギリだったと思う。全部吐き出してみてよ」
     背後から戦闘音と仲間の声掛けが聞こえる。竜弥は素早く避難することが出来なかったおじいさんを支え、手伝いながらその声を聞いていた。戦闘に駆けつけるのは遅くなるかもしれない。それでも一般人をすべて避難させねば惣鉞が戻って来られなくなる可能性が高い。人の命が、散ってしまう可能性が高い。だから竜弥は仲間を信じて戦いを暫くの間任せ、おじいさんを避難させることを選んだ。階段を降りようとする足がおぼつかないおじいさんを背負い、びっくりさせないようにしながら急いで改札へと向かう。
    「ねえ聞こえてる? 乾くん!」
     それを確認した匡はホームから線路へ降り、向かいホームにいる惣鉞へと接敵する。炎宿したオーラでその身体を斬りつけて。
    「点数とかばかりが全てじゃないよ? 受験も勉強も大事かもしれないけど、それ以上に大事なものがあるハズだよ! もしないって言うなら僕らと一緒に探そうよ、点数より大事なもの」
     ウガアァァァァァ……!
     何か言いたげな惣鉞は巨大な刀に変えた腕を境月に振るう。胸のあたりを切り裂かれたが、傷はそれほど深くはない。
    「おい、乾・惣鉞! 確りしやがれ、このままじゃお前さん戻って来れなくなるぞ! もう家族にも友達にも会えない、会っても分からない……良いのか!?」
     隼人の叫びが惣鉞を揺さぶる。
    「こいつでどうだ!」
     再び炎を宿して攻撃を仕掛ける。ぶわっと惣鉞の身体に燃え移った炎は彼を蝕んでいく。
    「嫌だったら、戻りたいって心から願え! そうしたら……俺らが助ける!」
    「タスケ……」
     ぽつり、ぐももった声が漏れたのが聞こえた気がした。
    「学園来たら色んなESPもあるし、勉強もしやすいんじゃね」
     字を読むのが苦手な有貞は、どうしても読書が必要な時は「オッサン」と呼んでいる本の妖精にまとめてもらっているという。人には得手不得手がある、上手くやれば普通に点数が取れる、学園には色んな生徒をサポートする体制がある、そう伝えて新しい道があることを示す。炎に炎をかぶせるように攻撃を仕掛ける。だから諦めなくてもいいんじゃない? という思いを込めて。
    「まだまだ未知の自分の力をここで捨ててしまうのはもったいないよ。できないことが出来る喜びは、努力した君にしかわからない。それを知るためには、たまには回り道もいいんじゃないかな」
     影を放って惣鉞の巨躯を捕まえる境月。彼は優しく続ける。戻ってきて欲しいから。
    「自分を信じてがんばったら良い事あるよ、きっとね。……学園なら励まし合って助け合う仲間がいるよ」
     だから、おいで。
    「1人でも話を聞いてくれる人が居るだけで違う。そうした存在が居ないのならば、これから作れば良い」
     告げた誠士郎は惣鉞に接近し、『水月』でその身体を打ち据える。そして彼をまっすぐに見据えて。
    「……俺も手伝おう。失敗は成功の母、必ず報われる時が来る。一緒に、頑張ろう」
    「……イッショ、ニ?」
    「ああ」
     ぐももった声に優しく返答をする誠士郎。花は境月の傷を癒して。楓は反対ホームから毒性を持つ光線を放ち、惣鉞の意識を惹きつけて言葉を紡いでいく。
    「人にはそれぞれ向き不向きというものがあるわ。きっと、貴方の勉強の仕方が貴方に合わなかっただけじゃないかしら? それに、人にとって大事なのは勉学だけじゃないわ。自身の才能を活かせることをすれば良いと思うわよ?」
     楓は自信家で、失敗しても倒れない性質だ。ゆえに正直言うと惣鉞の気持ちが理解できない。いや、なんとなくわからないではないのだが、それまでのことだろうかと思っている。だから、立ち直る方向を提案した。
    「ひとつひとつ、どうしてこうなったのか、考えよう。物事にはいつも意味があるんだよ。勉強だって、そうだよ」
     境月に小光輪を展開させた千架は、優しく受け止めて導くように続ける。
    「こういうのはノリと勢いだよ。楽しみながら勉強だってできるよ。一緒に探そ?」
     戻っておいで。一緒に、一緒に行こう?
    「ね、皆も待ってるから戻っておいでよ」
     匡はオーラを宿した拳を無数に繰り出して、惣鉞の腹部に打ち込む。
    「俺も勉強苦手だし成績良い方じゃないんだよな。ていうかハッキリ言って嫌いだし、あんま頑張ったこともないし。だけど惣鉞、お前は違うんだろ? 努力が報われないとか、そういうのって悔しいじゃんか……!」
     階段を駆け戻ってきた竜弥が叫ぶ。言葉をのせるようにして刃となった影が惣鉞を切り裂く。
    「一人ぼっちで頑張る必要なんて無いんだよ。俺、頭悪ぃから勉強自体は教えらんないけどさ。皆で考えりゃ一人じゃ気付けなかったことも見えてくるって」
     と、有貞のアラームが鳴った。次の電車まであと10分。
     惣鉞は腕を振りかぶって有貞を狙った。だが間に入り込んだ誠士郎がそれを代わりに受ける。
    「とっとと元に戻って一緒に見返してやろうぜ! そんな格好じゃテストも受けられないぞ?」
     竜弥の叫びが反対ホームから聞こえる。隼人が『呪晶杭“蒼王”』を叩きつけて魔力を注ぎ込むと、惣鉞の巨体がふらついた。
    「あと10分!」
     声を張った有貞はオーラを宿した拳をふらついた巨体に叩きこむ。それに合わせるように境月が盾での一撃を叩き込む。誠士郎の出現させた赤きオーラの逆十字が青と対照的で映える。花も主に合わせて攻撃を仕掛け、楓の影の刃がそれを追う。千架は皆が全力で戦えるようにと誠士郎を癒し、匡は拳を叩き込んだ。
    「戻って来いって!」
     線路を突っ切って惣鉞に近づいた竜弥がジグザグに変形させた刃で斬りつける。すると大きく傾いた巨体はホームに音を立てて倒れ、次第にその青は色を失っていった。

    ●ひとりじゃないから
     電車来る前に全員惣鉞の側に移動し、彼が目覚めるのを待った。暫くして彼が目覚めるのと同時に竜弥と有貞の設定していたアラームが鳴った。もう必要ない、二人はアラーム設定を解除して。
    「おはよう」
    「俺は……」
     竜弥の挨拶を受けて先程までの記憶が蘇ったのか、混乱した様子で惣鉞は灼滅者達に視線を向ける。誠士郎が説明を引き受けて、彼の身にあったこと、そして灼滅者のことや学園のことを語って聴かせる。
    「頑張ったな」
    「頑張ったね」
     隼人と千架にほめられて、惣鉞は少し嬉しそうだ。
    「俺にできることがあれば、協力させてほしい」
     境月の申し出にありがとう、と答える。
    「もう少し、自身を持ってもいいんじゃないかしら?」
    「そうかな?」
     いつか、少しでも楓に近づければいいな、と惣鉞は笑う。
    「偉そうな事言ったけど、今まで僕赤点以外とったことないし!」
    「えっ!?」
    「ダイジョウブ、大切なモノは全部ココに詰まってるから」
     自分の胸を指す匡を見て、惣鉞も自分の胸に手を当てた。
    「……そろそろだな」
     有貞は構内放送を耳にした。そろそろ電車がやって来るようだ。
     倒れたままの惣鉞を囲んでいては何があったのかと不審がられるだろう。誠士郎に立ち上がらせてもらい、惣鉞はありがとう、と微笑んだ。
    「ね、学園においでよ」
     手を差し伸べた匡の言葉は赤い電車が駅に進入してくる音にかき消されたが、意図は通じたようだった。
     無事に救えたことを実感しながら、電車好きの有貞は各駅電車の車体を眺めていた。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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