Comment te dire adieu

     きしっ。きしり。
     木造の廊下は歩を進めるごとに悲鳴を上げ、彼女は不安になる。
    「……いなちゃんたち、どこだろ」
     そっと口に出す。立ち入り禁止の旧校舎に人影はなく、心細さは募るばかりで。
     本当は怖くて怖くて仕方がないのだけど、友人が待っているのだから行かなければならない。
     おともだち。とってもたいせつな。
     髪も染めたし、一度しか読まないような雑誌も毎月買っている。ピアスホールを開けるように促されたけど、怖いから迷っていた。
     いっしょにいられるなら、やってもいいのかしら。
     ぼんやりと思いながらゆっくりと廊下を進む。
     きしっ。
    「深雪おっそいねー」
     近くの教室から声が聞こえた。いなちゃんの声だ。
     遅くなってごめんね。そう言って教室に入ろうとした時。
    「アイツさ、アタシらに遊ばれてんの分かってないよね」
    「ね。ウチらが言うとすぐやるしさ」
    「アイツバカだもん」
     きしり。
    「もう飽きたしハブっちゃおか」
    「あはは、さんせー!」
     笑い声。
     身を翻して駆け出す。
     わたし、ともだちだよね。みんなと、ともだちだよね。
     きしりと鳴るのは床ではなくて。
     咆哮が、旧校舎を震わせた。
     
     悲しげに目を伏せる神前・蒼慰(中学生デモノイドヒューマン・d16904)に、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)もいつになく険しい表情で灼滅者たちを見回した。
    「とある少女が闇堕ちし、デモノイドへと変貌します」
     名前は那珂・深雪。今年中学に進学したばかりで、大人しく引っ込み思案な性格の少女だ。
     だけど、せっかく新しい環境になったのだから今までの自分を変えたい。たくさん友達を作って、……できたら、恋人も。
     そう思っていたのだが。
    「彼女は友達の作り方が分からなかったのですね。だから、声をかけてきた子たちを無条件に友達と思い込んでしまい……」
    「……嫌われることを恐れて、言われるままになってしまったのね」
     エクスブレインの言葉の後を蒼慰が継ぐ。
     そんなものは友達ではないのに。
    「このままでは、深雪さんは旧校舎にいる『お友達』を手にかけてしまうでしょう。そうなる前に彼女を止めてあげてください」
     言って、姫子はふわりと微笑んだ。
    「そして彼女のお友達になってあげてください。言いなりにするのではない、本当のお友達に」
     それは彼女の、心からの願い。
     資料を開き、表情を引き締めて説明を続ける。
    「深雪さんを救うためには、一度彼女を倒さなければなりません。もしも彼女が人間としての心をなくさず、そして人間として在りたいと願うなら……デモノイドヒューマンとして生き残ることができるでしょう」
    「変貌する前に彼女を止めることはできないのね?」
    「ええ。それでは闇堕ちのタイミングがずれてしまい、別のタイミングで犠牲者を出してしまいます」
     そして、救うことができなくなる。
    「今からなら彼女がデモノイドになってしまった直後に辿り着けるでしょう。……そうですね、現場となる旧校舎の地図をお渡ししておきます。迷うことはないかと思いますが」
     このあたりです、と言いながら地図の一点を指す。
     いくつかの教室を壊して作ったのであろう広い空間がある。ここなら派手に戦っても大丈夫だろう。
    「『お友達』がいる教室からは離れていますし、もともと立ち入り禁止の場所ですから、長引くようなことがなければ誰かが巻き込まれることはないでしょう」
     言ってぱたんと資料を閉じ、姫子は灼滅者たちをまっすぐに見つめる。
    「今ならまだ助けられます。どうか、彼女を救ってください」
     哀しい色を瞳に落とし、ゆっくりと頭を下げた。
    「彼女が今までの自分に別れを告げて、新しい自分にと変わるためにも」


    参加者
    南・茉莉花(ぎりぎり最強な女の子・d00249)
    アプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)
    辛島・未空(高校生殺人鬼・d14882)
    神前・蒼慰(中学生デモノイドヒューマン・d16904)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    遠藤・穣(高校生デモノイドヒューマン・d17888)

    ■リプレイ


     古びた旧校舎は、黄昏に染まっている。
     一歩ごとに軋む廊下はまるで悲鳴を上げているようで、灼滅者たちを急き立てているようにも聞こえた。
    「本当の友達、難しいね」
     地図に示された場所へと急ぎながら、南・茉莉花(ぎりぎり最強な女の子・d00249)がぽつりと口にする。
    「自分だけでなんとかなるって問題でもなかったりするし、すべてが周りのせいかというとそうでもないし……」
     茉莉花の言葉に、灼滅者たちは各々に思いを馳せた。
     誰もその答えは分からない。それは自分自身が見つけるものだから。
    「悩むのは分かるっすけど、相手を選びやせんとね」
     友達作りは難しいもの。とギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)の言葉に、黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)は足を止めずに頷いた。
    「(都合のいい言葉で縛って散々弄んで、最後は『バカ』か。……どっちがだよって話っすね)」
     好きなだけ相手を見下して、好きなだけ利用して。
     けれど本当の友情を知らない彼女、那珂・深雪にとって、それは間違いなく友情だったのだろう。
     自分を殺してまで人と合わせるのは辛いのに。
    「それでも彼女は頑張って来たのね……」
     瑠璃の瞳を伏せて神前・蒼慰(中学生デモノイドヒューマン・d16904)は胸を痛める。
     これが正しいのだと自分に言い聞かせてそれに従って、なのに呆気なく打ち砕かれた。
     なんて残酷な。
    「どーせいつかしっぺ返しに遭うだろーけど、深雪さんにやらせるワケにはいかねーっすからね。……まぁ、ついでに助けてやりましょーか」
     悲しげな蒼慰に蓮司が応える。罰を下すのは彼女の役目にしてはならない。
    「!」
     地図に示された場所に着きアプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)が足を止めた。
     広い空間に立ち尽す蒼躯の闇は窓から差し込む黄昏色に染まり、その姿はどこか物悲しく。
    「貴方が、ミユキ、さん?」
     そっと声をかけるが応えはない。
     無造作に整えた髪に指を絡めて辛島・未空(高校生殺人鬼・d14882)は、どう言おうかと悩みながらも言葉を向けた。
    「こんにちは。初めまして、貴女にお話があって来ました」
     話があると言いながらも戦闘に備えて眼鏡を外す。
     何も応えず、低く、深く、息を吐く音が静かに響く。それは嗚咽を押し殺すかのようで。
     言葉だけでは届かないと知った灼滅者たちはESPを展開する。
     ──ィィィアアアアアアアアアアァァァァァ…………!!
     それは、すべてを拒絶した少女の悲鳴。
     異形と化した少女に遠藤・穣(高校生デモノイドヒューマン・d17888)が顔をしかめて舌打ちをした。
     あれが闇に堕ちた者の成れの果て。いつか自分も成り果てる異形。
     けれど。
    「やっぱ、ああはなりたくねーわ。……とっとと戻すぞ」
     堕ちた者も戻れるのだと言う確証が欲しい。
     あの阿佐ヶ谷でデモノイドと戦ったギィも強く頷く。あの時は助けられなかった。今度こそ、助ける。
     雷光色の瞳をまっすぐに向け、すっと山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)が前に出た。
    「山田透流……またの名を鳴神トール。あなたを助けに来た」
     身長ほどもある雷神の籠手を構えて名乗り、仲間たちもそれぞれに殲術道具を構え。
     ダークネスは灼滅者たちへと向き低く唸りを上げた。
     何者も受け入れないかのように。


     対峙する灼滅者におうと唸り、膨張し強大化した腕を刃へと変える。
     ぎしぃっ! 大きく床を軋ませて跳躍し透流へと蒼刃を振り下ろし、しかし少女の細い腕がしっかりと受け止めた。
    「受け止めてあげる。あなたの、やり場のない想いを」
     その薄い胸へと受け入れるように交差した腕に、蒼刃はそれ以上力を込めることができない。
     その隙を突いて蓮司が得物を手に音もなく間合いを詰める。
    「とりあえず刻んじまうけど……必ず助けますから」
     言葉と共に死角から巨躯に斬撃を突き入れ、苦鳴がこぼれた。
     ただ傷つけるのではなくて、彼女の本当の心を見つけ出すために。
     背丈ほどの刀身を持つ無敵斬艦刀『剝守割砕』をすらりと抜いて、ギィが瞳を煌かせた。
    「さあ、個人授業の始まりっすよ。内容は『友達について』」
     緋色の軌跡を描いて一閃が狙うも、血をしたたらせて避けられる。
    「お願い、話を聞いて、くださいっ……!」
     アプリコットが小さな声を必死に振り絞り、真紅の逆十字を放つ。
     鋭い叫びと共に打ち払うが彼女の兄であるビハインド・シェリオの剣閃にその身を斬り裂かれ、音を超えた音撃に打ち伏せられた。
    「私たちの声を、聞いて」
     左腕をハープのように変化させ蒼慰が闇へと堕ちた少女へ訴える。
     だが、彼女には届かない。まだ。
     ぞるりと腕を蒼刃へと変え、穣も彼女と同じく、しかし彼女へと振るう。
    「ほら見ろよ、俺もオソロだ!」
     防ごうと掲げた蒼刃にがぐんっと鈍い音を立ててぶつかり合い、穣は叩き付けるように叫んだ。
     俺もお前と同じだよ。お前の同類で、だから、助けたいんだ。
     ──ォォオオオオァァッ!!
     振り払うように吼え力任せに灼滅者を弾き飛ばす。
     したたかに床に打ち付けられ小さく呻く穣に、茉莉花がふわと護符を飛ばし優しく癒す。
     ぜい、と大きく呼吸する一瞬に透流の鋭い一撃が襲い、蒼躯は激しく打ち据えられた。
    「(ダークネスになりかけてる人を救うのは、灼滅者として義務だと思ってる)」
     止めなければ。彼女が、これ以上闇へと堕ちてしまうことを。
     それはこの場の誰もが同じはずで、しかしガンナイフを構え未空は思案する。
    「(う~む? 正直、那珂の考えてる事理解できないのだけど)」
     他人の負の感情を理解できない未空にとって、彼女の苦悩は理解の外だった。
     それでもどうにか何とかしたい。そう思ってはいるのだが。
     何言えば良いんだ?
    「面倒だけどやれる事やってみるか」
     呟いて引鉄を引き撃ち放たれた弾丸はまっすぐに蒼躯に吸い込まれ、けれど響かない。
     誰も真摯に付き合ってくれなかった。だから彼女は闇に堕ちてしまった。
     茉莉花は護符揃えを手に瞳を瞬く。
    「(デモノイドのパワーは凄いけど……)」
     引いてはいけない。それではあの、彼女をもてあそんだ『友達』と同じになってしまう。
     彼女が求めているのは、曖昧な誤魔化しではなくて。
    「真正面から向かい合ってあげなくちゃね」

     新しくなれば変わるって思ってた。
     私も変われるんだって。
     でも、結局、何も変わらないのかな。

     言葉だけでは通じないなら、言葉以上に強いものでその殻を打ち壊すだけ。
    「嫌な事は嫌だってハッキリ言ってやりゃいい。ホントの『友達』ならノーを突き付けられても……それすらひっくるめて受け入れてくれるモンじゃねーんすかね」
     諭す蓮司の兇刃に切り裂かれその身を染める闇に、深く貫いた刃を蒼躯からぞぶりと引き抜きギィが問う。
    「痛いっすか?」
     答えはないが哮声が返る。
     痛いっすよね、と自身の言葉を肯定し、
    「本気でぶつかりゃ痛いもんっす。友達は言いなりにしたりなったりするもんじゃないっすよ。対等の立場で本音をぶつけ合えて、お互いを支え合うもののはずっす」
    「彼女達が友達じゃなかった、なんて言わない。……ただ、かみ合わなかった、だけなんです」
     ウロボロスブレイドをしならせアプリコットが言葉を継いだ。
     自分も臆病で引っ込み思案だから、その気持ちは分かる。
     もう少し、あと一歩だけでも近付けたなら、彼女自身が彼女を救えたのに。
     だけどそれはとても勇気が要ることで、精一杯の努力でも、あともう少しに届かない。
    「あなたの努力を笑ったりしない」
     自身の右腕に取り込んだ鞭剣でしっかりと捕まえて、蒼慰ははっきりと言う。
    「でも、本当のあなたがどんな人か知りたい。私もあなたと分かり合うために努力をするわ」
     だから、その殻から抜け出すための手伝いを。
     闘気をまとい、穣が迅撃の連打を巨躯へと繰り出す。
    「思い出せ、てめぇは何が好きで、何がやりてーんだ。そう言うの聞いてくれんのがダチってもんだろ!」
     渾身の連撃は掲げられた巨腕に防がれたが、力強く拳を押し付けて怒鳴った。
     彼女自身にも非がなかったとは言えない。流されてしまったのは彼女のせいだ。
    「自分からパシリになってんじゃねぇよ」
     はき捨てる言葉に一瞬巨腕に込められた力がふっと弱まる。
    「……私たちの仲間には、あなたと同じような境遇で力に目覚めた人もいる」
     雷を宿した拳を構え電光石火の一撃を撃ち出し、透流がその蒼腕を打ち払う。
    「だから、ありのままのあなたを受け入れてくれる人がきっと……いると思う」
     強く自信と確信に満ちた口調できっと、と言い切ると、蒼い闇はぶるりと身を震わせた。
    「え~と……なんと言いましょうか……」
     苦手なんだよな。と小さく口の中で呟いて、対照的にはっきりしない口調で未空が口を開く。
    「友達にも色々定義がありまして……学校の友達が全てではないのですよ」
     別に『学校の友達』にこだわる必要もない。そもそもそこから間違いなんじゃないか?
    「友達とは作るのものではなくいつの間にか出来てるものなのですよ。つまり、無理して友達を作る事はないのです」
     無理に作ったものなんていつか壊れるのが当たり前だ。
     未空の言葉は放つ弾丸と同じくまっすぐに狙いを定め、しかし、
    「!」
     弾丸はわずかにかすめ、ぬらりと影を落として蒼躯が駆け巨腕を振るった。
     一息のことに未空は身構えることも避けることもできず、ごうと振り払われた痛撃に吹き飛ばされ、
    「っ!」
    「きゃあっ!」
     ぐだん! と、茉莉花を巻き込んで壁に打ち付けられた。
    「……ごめん……」
    「だ、大丈夫……」
     激しい衝撃にお互いくらくらし、縛霊手を掲げてそっと癒しながら茉莉花が語りかける。
    「そ、そんな感じ、もっと気持ちをぶつけてみて…… 」
     直撃は、ちょっと痛いけど。
     気を取り直して首を振り、
    「友達ってなろうと思ってなるものじゃないと思う」
     言って微笑む。
    「一緒に過ごしてふと気付いたときに友達なんだって気付くんじゃないかな」
     友達って、ひとりではできないもの。
     強く響く言葉に荒い息を吐きながら、蒼い闇は灼滅者たちと対峙する。

     このままじゃいけないって分かってる。
     でも、また元に戻るのも嫌なの。
     ひとりは、いや。

     白刃に夕光をともして剣閃が弧を描き振り下ろされ、拒否するように振るわれた腕を斬り払い蓮司はすと目を細めた。
     明確な拒絶ではない。それはまるで逃げるかのように揺れている。
    「友達だと思ってた人たちから、深雪さんは何かしてもらえやしたか? 最初から違ったんすよ!」
     叱責と共に疾けるギィの強刃が、ざぐりと迷いごと巨躯を斬り裂く。
     がふっと血を吐き、満身創痍となりながらそれでも彼女は立っていた。
     それは抵抗ではなく。
    「さあ、深雪さん。戻ってきて、最初から友達作りをやり直しやしょう」
    「こんなの、辛いだけだから、もう終わりにしましょう」
     妹に向けて豪腕を振るう闇をシェリオが押さえ込み、アプリコットは優しく語り掛ける。
    「……一緒に、遊びましょう、一緒に、お話しましょう?」
     彼女が望んでいるのはそれだけのことで、なのに彼女は迷ってしまった。
     だから、もう迷わないために。
    「私たちと、友達になって、ください!」
    「私達と一緒に行きましょう」
     武器を下ろして穏やかに言う蒼慰に、ふらと巨躯が揺れた。
     ──……モダ……ショ…………
     弱く、細く、こぼれる。
     もう彼女には、彼女を傷つける攻撃は必要ない。
    「とっとと眼ぇ覚まして、何でもいいからお前の事教えやがれ!」
     抗うことをやめた闇に、力強く握り締めた拳でどんっとその胸を打つ。
     衝撃に崩れ落ちた蒼躯は少女を捕らえていた闇ごとかき消え、後に残されたのは。
    「深雪さん!」
     力なく倒れている少女へと駆け寄り確かめる。……気を失っているが、無事なようだ。
    「よかった……」
     その手を取って、アプリコットがほっと安堵の溜息をつく。
     もう、ひとりじゃ、ない。


    「深雪さん、大丈夫っすか?」
     意識を取り戻した少女にギィが声をかける。
     少女は──深雪は、見知らぬ集団に囲まれ不安げな様子を隠さない。
    「これからは、武蔵坂学園に来るといいっすよ。友達が沢山出来るのは保証するっす」
    「……がく、えん?」
    「ええ」
     そっと彼女のそばに膝をつき、蒼慰は自分たちが通う学園のこと、そして灼滅者のことを話す。
     誰かに助けられた人が誰かを助ける、そんな場所と、そんな人々のことを。
     深雪はふっと視線を落として首を振る。
    「……私、弱いから……」
    「大丈夫。きっとあなたも焦りすぎただけで、これからまだ時間はたくさんあるはずだよ」
     にっこり笑って茉莉花がぽんと自分の胸を叩くと蓮司も頷いて、
    「友達作りに早いも遅いもねーっすよ。焦らずゆっくりでいいと思います」
     その言葉に、恐る恐る顔を上げる。
    「……でも、」
    「質問ですけど、何故友達が欲しいのですか?」
     おどおどと言いかけた深雪の言葉を未空がざっくりと遮った。
    「えっ……」
    「何も知らないガキがヒロイン気取りなってるんじゃね」
     どこまでもざっくりと切り捨てられ、えぅ、と小さく声をこぼす少女に、透流が同じくざっくりと助け舟を出す。
    「自分を受け入れてくれない人といつまでも付き合ったって意味はない……と思う」
    「きっと、本当に自分を受け入れてくれる人に、出会えますよ」
     アプリコットもふわと微笑む。
     不意にヴヴヴ……と鈍い音がして、何事かと周囲を見渡せば携帯電話が離れた場所に落ちている。
     穣が着信を告げるそれを拾い上げて深雪に示すと、彼女は自分のものだと受け取った。
     画面に表示された文字を目で追い、不安げに視線を移ろわせる。
    「今度はお前があいつらシカトしてやれ」
     ぶっきらぼうに言う穣に、ためらいながらもこくんと頷く。
     『応答』に行きかけた指でそっと『拒否』を押して。
    「……さよなら」
     微笑み、別れを告げた。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 12/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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