フジキュー!

    作者:赤間洋

     さて、初夏である。新緑は眩しく、風は心地よく、ついでに言えば天気もいい。
    「ドドンパ……いいですよね」
     うっとりした目で呟くのは槻弓・とくさ(中学生エクスブレイン・dn0120)であった。
    「ええじゃないか。FUJIYAMA。高飛車。はあ……」
     恋する乙女が如き溜め息をついてぱらぱらと雑誌のページを捲るのに、怪訝な顔をするのは統東・翼(アカシアの獣・dn0071)だ。回り込んで背後から雑誌の内容を確認する。
    「ああ、富士急ハイランドか」
    「ちょっと、勝手に見ないでくだせえよ」
     嫌な顔をするとくさに悪い悪いと謝って、ふむ、と自分の顎に手をやった。
    「そう言えば俺行ったことないなー」
    「じゃあ、行きませんかい? 皆を誘って」
    「お、いいな、それ」


     ――山梨県、富士急ハイランド。
     その日は快晴であった。しかも都内より段違いに涼しい。遊ぶには丁度いい日和だ。これだけ晴れていれば天候の関係で中止になるアトラクションもあるまい。
     開園直後の賑わいを抜ければ出迎えるのは国内、否、世界最大級のジェットコースター『FUJIYAMA』。
     進めば『ドドンパ』『高飛車』『鉄骨番長』その他諸々、灼滅者達にスリルと絶叫を味わわせてくれるアトラクションの数々。
     さらには灼滅者の胆力をも試すであろう恐怖の館『最恐戦慄迷宮』。
     無論絶叫系、お化け屋敷系が苦手ならばメリーゴーランドやティーカップ、観覧車に乗るのも良い。
    「スレイヤーカードを見せれば10パーセントオフですぜ」
     とは、とくさの助言。
     がっつり行くもよしまったり行くも良し戦慄迷宮で泣きながら帰って来るも良し一人でも良しカップルでも良し皆でわいわい行くも良し。
     遊び方無限大、いざ往かん富士急ハイランド!!


    ■リプレイ


    「ういねえ、遊園地初めてよ! ところで絶叫マシーンってなあに?」
     ぴょこぴょこと無邪気に問う羽衣に、
    「絶景が見えて思わず叫んじゃうマシーン!」
     とんでもない大嘘返したのは慧樹であった。
     気持ちの良い天気に一つ背伸びをし、陽丞と八雲はどれに乗ろうかとパンフレットをのぞきこむ。あれもこれもと欲張る二人に、アトラクションは逃げやしやせんよととくさが笑う。
    「お、槻弓、一緒にいかね?」
     何かの縁と周に声をかけられ、とくさは喜んでと笑って見せた。絶叫系が好きな二人でどんどん進む。
     青い空の下、【シェアハウス+Drop+】が選んだのは高飛車だ。
     学生と灼滅者の仕事に忙殺されすっかり疎遠になっていた同居人の友人達と一緒に来れたことにうきうきする蓮次。他方、今回の言い出しっぺにして引率はたまた幹事の千波耶は早々に人数分の『絶叫優先権』を確保。
    「遊園地、初めてだな」
     戸惑いつつも、友人達についていくことを決めたのは煌介。同様、璃乃もまた人生初の遊園地であった。
    「ほんま、ええお天気で」
     噛みしめるように呟く。もっとも、この余裕は後に、
    『急降下って言うか、えぐれてた』
     と言う、満場一致の感想に代わるのだが。
    「五月病もこれで一発だぞ、きっと」
     そのえぐれコースターを前に有貞はそんなことを言う。実際に大したものであった。無口かつ無表情なシェリーに悲鳴を上げさせるほど。
    「恥ずかしい……!」
     絶叫したことにへこむシェリーを、肩を叩いて慰める有貞。

     パニックロックに乗り込んだのはセリルと弥生、そして匡。
    「いやっほう!!」
     声を上げる弥生とは対照的に終始ぐったりしていたのは匡だった。動きが読めない恐怖という奴か。やっとの思いで降りれば、はたとセリルが手を打った。
    「お弁当作ってきたんだ、食べよう!」
     笑う。その笑みにつられるように、二人も笑う。

     ドドンパ。怪物級コースターに挑戦したのは恋と日高だった。
    「恋、大丈夫?」
     無様は見せられないとふらつく身体を叱咤して恋に問い、やっぱりふらふらしている彼女の身体を支えれば、やっぱり日高くんはおーじさまなのですとお日様のような笑顔が返ってきた。
    「兄ちゃんドドンパ乗ろう! 勿論あとで高飛車と」
    「それ絶叫系全制覇コースだよね?」
     あのメリーゴーランドじゃ駄目かなと抵抗を見せる諒を、あれ可愛すぎるからとばっさり斬り捨て琉嘉もまたドドンパへと挑んでいく。
     そのドドンパ上で楽しそうにはしゃぐのはゆすらだ。初めてのジェットコースターだというのに、である。他方、同行した華鏡は、
    「問題ないぞ、だが噂以上の加速度だがくり」
     道半ばで意識を手放していた。
    「急加速は凄かったねえ」
    「アレはヤバいもん」
     出口にあるフォトショップで肩を並べ、茉莉花と光。画面に映し出された自分たちの写真に思わず苦笑し、それでも購入する。

     往事の時は楽しめなかったので思いきって楽しむことにしたのは明。
    「ごきげんよう、鉄骨番長です!」
     と掴みづらいテンションの【大帝都】は真澄。皆さん私の奢りですよと言う真澄に、一同がはしゃぐ。
    「ところでてっこつばんちょーって何?」
     無邪気に訊くのは織姫だ。端的に言えば超巨大な回転ブランコだ。
    「おや、むね焼け茶屋? 面白いネーミングですね」
     視界に引っかかったそれを指して鋼人が言う。
    「やめろ! 俺を引っ張るのは誰だ!?」
     その指先をかすめるように引きずられる凍矢の悲鳴が響く。引っ張るのは他ならぬ【紅蓮の集い】は由良。勘弁してくれと懇願するが、言うまでもなく無駄な行為であった。
    「FUJIYAMAが待ってるわ!」
     鉄骨番長に振り回されへろへろの凍矢に由良が言い放つ。にこっと笑ってイナリが行った。
    「もし目をつぶってたら、もう一回だからね?」
     放す気など微塵もない笑顔。

     グレートザブーン。水の中に突っ込むジェットコースター。
    「ぐれーとおー」
    「行くぞ子分共!」
     いそいそとカッパを着込む睦月はさておき、気を吐くは【赤い堕天薔薇般若連合】月夜。防水カッパ? 着るわけねー。
    「最近暑くなってきたしな」
     青士郎が上機嫌で追従した。さぞ気持ち良かろうと笑う。
     濡れるから嫌だと言いたげな一部部員を、あとでクリーニング使ってやるからと響が追い立てる。そんな中で青い顔をしているのは朝陽だった。
    「兄ちゃん俺が死んだら葬式は洋風」
     射出。長いコースを突っ切り、最後は水の中へ。
    「びしょ濡れだけど楽しかったねー」
     とは、月海の感想である。

     違った形で水に濡れるのはナガシマスカ。
    「ほれ、何してんだ」
     その道すがら、服の裾を掴もうとした細い手をしっかりと自分の手で握り直して紋次郎。つないだ手から伝わる熱に頬を染める煉。今にも熱が出そうなのに、そこにぽつりと、その服も似合ってるなんて言われてしまっては、さらに赤くなるしかない。
    「ふやー、冷たー!!」
     思い切り濡れてしまった華月に、ここまでだといっそ清々しいなと頷いたのは雷歌だ。しとどに濡れてすっかり髪がぺたんとなっているのを、華月がしげしげ見ているのには気付かない。
    「何か涼しそうじゃろ」
    「涼しいの? 行こう!」
     と呑気に構えていた篠介と優奈などは、カッパの上からびしょ濡れになる羽目になった。あまりの豪快さに、しばし笑い続ける。

     ローラーコースター、ええじゃないか。挑むのは【文月探偵事務所】の面々であった。
    「雛さんはその服で大丈夫なんすか?」
    「え?」
     レミが首を傾げるのも無理はない。何しろ雛の格好ときたらゴスロリである。
    「乗ってしまえばこっちのものさ!」
     何を恐れることがあるものかと肩で風を切って乗り込んだのは直哉だ。アナウンスに送られ、空へ。
     そして皆して三半規管をずたずたにやられたそうである。そりゃそうだ。
    「あれー? みんな大丈夫~?」
     ミカエラだけはけろりとしていたという。悲鳴? 発声練習ですけど?

     絶望要塞に挑んだのは流希だ。頭を使うのは良いことだと、充実した時を過ごす。
     翼と星羅もまた挑む。難解な謎の数々に、
    「くやしい!」
     良いところまでは行ったものの、やはり脱出は叶わなかった。
    「次こそはリベンジ! 絶対来ようね!」
     固く誓い合い、再戦を決意したという。

     マッドマウス。何かに絶望している永遠はさておき、【うさうさくらぶ】の真琴が
    「あれはどうでしょう?」
     と示したのがそれであった。さほどスピードもない。だが、一向が選択したのは全てにおいてギネス級の記録を誇る怪物であった。つまりFUJIYAMA。
    「がんばって……ください」
     病弱故に乗車を遠慮した瑞央に見送られ一同はFUJIYAMAに乗り込む。高さと位置エネルギーによる速度を素早く算出した輝夜の脳は呆気なく意識を放り投げることを選択していた。
    「何これ凄い楽しいーっ!!」
     跳ね上がったテンションで爆笑する弥勒。降りてからもケラケラ笑い続ける友人の横、ジャックは仮面の下で言葉を紡ぐ。
    「日本ノゴーストハウスがドンナモノカ興味ガアルノデス」
    「よし、行くぞジャック!」
     そうして焔弥が向かった先、それは。


     来たれ、最恐戦慄迷宮。
    「本当に、行くの?」
     友人に連れられて光生が不安な声を上げている。
    「わ、私こう言うところ初めてで……」
    「べ、別に俺は怖くなんてないっすからね!」
     初体験のオバケ屋敷にびくびくする静穂に、精一杯の虚勢で応じたのは恋人たる燈だ。頼られる存在でなくてはと奮起する。
     まともにここで遊んだことないなと考えるのはアルベルティーヌだ。今こそ気晴らしの時と、果敢に戦慄迷宮に戦いを挑む。
     先ず挑んだのは【Nia Memoro】の4人だった。
    「びっくり系って苦手なんだよね」
     と、椿姫の手をしっかりと握りながらエリ。その椿姫と言えば何故かエリと直哉の真ん中をしっかりと陣取っていた。
    「真ん中の方が前後にとっさに守れるからで、怖いわけでは」
     タネが分かればどうと言うこともあるまいと直哉などは思うのだが黙っておくことにする。四方八方から散々に脅され、椿姫の精神がほぼ限界まで疲弊したとき。
    「わっ!」
     ホラー耐性を持つ魅呼の、それはほんのちょっとした茶目っ気だが、極限状態の椿姫を爆発させる威力は持っていた。
     凄まじい悲鳴が聞こえてきて【daily report】の面々はびくりと身体を震わせる。5人で固まって入ってきたまでは良かったが、予想以上の怖さ。
    「うう、ごめんなさいなのです……!」
     最初から脅かされまくっている蘭世は紫信の腕に抱きついて離れることができずにいる。
    「大丈夫、僕がついてますから」
     そんな励ましを、可愛いお姫様相手に紫信が繰り返す。
     酷い顔色になっているのは花梨菜。もう限界が近い。
     と、その身体がぐいと引っ張られる。引き寄せたのは他ならぬ桔平であった。
    「(僕にぴったりくっついて)」
     頼もしい言葉にこくりと頷き、花梨菜はそのまま身を寄せる。
    (「バレバレだっつーの、あたしから見れば」)
     お前ら好きあってんのモロバレですよと、暖かく微笑むのは梗鼓である。優しい目であった。

     そして【ゆじけん】もまた戦慄迷宮に居た。
    (「なじめねえ」)
     と些か居心地の悪そうなのは既濁だ。つかず離れずの位置を歩く少年の前方を、やたらハイテンションで進むのはフェルトだった。
    「大丈夫だよ、怖くないよ!」
    「ふふ、この程度最初かきゃあああ!!」
     物音にゆいなが絶叫する。最早フェルトにすがるしかない。力一杯しがみつくゆいな。
     だから途中で優姫と京哉がコースを外れたことには気付かない。
    「この前のお話ですが」
     優姫が、闇の中で分かるほど赤くなりながら、落ち着かなく言う。
    「お、お受けします……不束者ですが」
    「俺は知っての通り、ナンパさんだよ? 治らないと思うけど……」
    「……。浮気は、駄目です」
     京哉の問いにそう返せば、健気だなあと感心したように言われてしまった。言い返そうとした口は、柔らかいキスで塞がれる。
     こう言うのに来たことないんだよな、とは【キルセ】の航平。
    「ほら頑張れー、抜けれたらご褒美あるよー」
     肩越しに後ろを振り返って声をかける。そこには固まって小刻みに震えるヴェロニカと鈴の姿があった。ことヴェロニカの方は顔が土気色になっている。
    「これ灼滅できないじゃん!」
     小声でまくし立てる鈴であったが、それでも立っているのは偏に心和に醜態を見せたくない一心であった。
    「ここ終わったらお食事です、がんばりましょう?」
     その心和と言えば至って平静で、ループする通路を通りたいがこの様子では無理そうだと考える余裕さえある。
    「万事、独走禁止だぞー」
     以前来たときとの違いを楽しみながら歩くのは香艶であった。
    「オバケにお持ち帰りされるなよ?」
     香艶の忠告に従い速度を落としながら、錠は隣を行く葉に声をかける。
    「こんなの梅田迷宮やブレイズゲー……うおぉあビックリさせんなゴラア!?」
     平気を装おうとした矢先に脅され葉がオバケに怒鳴りつける。

     聞く方の心に傷を残すような残響にやっぱりびくりとなるのは【星葬剣】の面々であった。
    「オバケ屋敷初めてだから緊張してるだけ、ですよ~」
     完全に腰が引けているのは智恵美だ。物珍しげにきょろきょろするヴァンに、お願いだからやめてくださいと内心で懇願するレベルである。
    「大丈夫ですか? 手、つなぎますか?」
     醸し出される雰囲気に気付いたのかヴァンがそっと手を差し出した。一も二もなく頷き、その手を取る智恵美。
    「あばばばばば!?」
     もう一方、もはやかわいげも何もない悲鳴を上げまくっているのは優希那である腕にこれでもかとしがみついてくるのに、マッキはどうしたものかと思案する。
    「動けなくなったら、おぶってあげるから」
     諭すように優希那に言う。結局、道半ばでリタイアへ。それも一つの思い出だろう。
    「本物のゾンビ、もっと腐敗臭がしますよね?」
     方々の悲鳴をBGMにしつつ、あの臭い苦手なんですよと呟く凪に、確かに臭いがキツいのはやだなとずれた返事をする翼。
    「いやああああああああ!?」
    「あははは、あははははははは!!」
     青を通り越し白くなった顔色でゴールまで走り抜けるのは美乃里と、途中から完璧にぶっ壊れた小夏の二人である。片や怖い雰囲気、片やゾンビが苦手ときた。
     固く手を握って初デートはひかると天牙だ。
    「居る! 居るよね天牙!?」
     恐怖に耐えきれず、最終的に腕にぎゅっと抱きついてきたひかるに、俺がついてるよと天牙は繰り返す。
    「……へいき……へいきです……」
     もう全然平気じゃなさそうなのは悠であった。彼女が握ったルーファスの服は、既にしわが寄り始めている。気付いては居たが、悠の反応を鑑み、指摘はここを抜けた後にしようとルーファスは内心で考える。
    「これは言わば、修行!」
     襲い来る恐怖に耐えながら吠えたのはアルメリアであった。そう、恐怖を克服するのだと息巻く彼女、
    「しゅぎょーの……おてつだい……」
     の腕の中でくったりしてるのはジャンゴその人であった。恐怖体験が増える度に抱き潰されてりゃそりゃくったりするね。
    「梅田の強化合宿の後だと恐怖心とかあんま」
    「ねえ今半分くらいかな!? ねえ!?」
     けろっとする燦太の腕を震えて放さないひかるなのだが、けろっとオバケに話しかける燦太の様子に目を回しそうになる
    「ふええ……」
     踏破こそしたもののすっかり腰が抜けているのは六だった。想像通りだと息を吐き、空音は気分転換にアイスを買ってやったという。


    「どうでしたか?」
    「とても、こんなものでは」
     軽めの食事を取りながらの緋頼の問いに、頭を振って白焔。絶叫系にあらかた乗ったが、命のやりとりもない半端な感じはとても怖いとは言えないと互いに嘆息する。
    「ドネルケバブちょうおすすめ」
    「ちょうおすすめか」
     ならかのちんまりとした力説にそれなら買うしかないよなと頷く翼。
    「翼先輩、ハイ、ランダー!」
    「ふぁ?」
     と、声をかけられ、ケバブの切れっ端を飲み込みながら翼が間抜けな声を出す。悟が楽しそうに見せてきたのは、公式アプリの戦隊物と一緒に映る翼の姿。
     観覧車はおおらかに回る。
     アーナインと向かい合わせに座り、寿は少し緊張していた。ここに来るのに付き合ってくれてありがとうと礼を言うと、彼は御嫌でなければ、また一緒に遊びましょうと、口元に微かな笑みを湛えて言う。
     千早と志摩子も観覧車に揺られていた。お互いにスマホで撮り倒した写真を見せ合いっこしながら思い出を語り、それから思いついて天辺の高さで記念の一枚を、パシャリと。
     柚羽も、観覧車にいた。ゆっくりと変わる景色、流れる人並み、空の高さと近さ。
     またこよう。
     そう思う。名残惜しく観覧車から降りれば、既に時刻は夕方。
     暮れなずむ世界の遊園地に、ちらほらとイルミネーションが灯り始めた。

    作者:赤間洋 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月7日
    難度:簡単
    参加:109人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 15
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