レディ・マリリン復活! 遊覧船を守れ!

    作者:海あゆめ

     北海道は阿寒湖の湖畔付近。
    「はい、このワタクシにお任せ下さいませ、ゲルマンシャーク様……!」
     湖に向かって膝をつき、頭を垂れたのは、つい先日、灼滅者達に灼滅されたはずの阿寒湖のご当地怪人、レディ・マリリンだった。
    「このレディ・マリリン、必ずやその御身、見つけ出して差し上げます……それまで、どうか、どうかご辛抱を……!」
     最後にもう一度、深く頭を下げてみせて、レディ・マリリンは立ち上がる。
     ハイヒールの靴音が、カツ、と鳴った。
    「さぁ、行くわよ、ワタクシの可愛い坊や達!」
    「「カシコマリマシタ」」
     新たに洗脳した、屈強なドイツ人男性達を引き連れて、レディ・マリリンは向かう。
     目的は、阿寒湖上を巡る遊覧船。
    「マリモ・ヴルスト……! フフフッ、これだけの力があれば、あの船をも容易く奪えるわ」
     うにょうにょとした、長くて大きいソーセージのような形のマリモ。腕に絡ませたそれを、レディ・マリリンはうっとりと見つめ、そしてぶるりと身を震わせる。
    「ああ! 今行きますわ! どこにいらっしゃるの!? ゲルマンシャーク様!!」
     

    「みんなちょっと聞いて~! レディ・マリリンが復活しちゃったぁ」
    「やっぱり! また出てきたのね! あのおばさん!!」
     斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)の第一声に、エルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746)も思わず声を上げた。
     
     北海道、阿寒湖のご当地怪人、レディ・マリリン。彼女は先日の戦いで、灼滅者達に灼滅されたはずである。
     だが、その時現地に赴いていたエルファシアの女の勘はこう告げていた。
     レディ・マリリンは、復活すると……!
    「ったく、懲りねぇ奴だな。して、何だ? またマリモでも集めてんのか?」
    「んーん。なんかちょっと違うみたい」
     呆れたようにため息をつきながらそう聞いてくる、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)に、スイ子はふるふると首を横に振ってみせた。
    「なんかねぇ、遊覧船を乗っ取ろうとしてるみたいだよ」
     スイ子が言うには、レディ・マリリンは新たに洗脳した一般人男性2人を引き連れ、阿寒湖の遊覧船を強奪しようとしているらしい。
    「レディ・マリリンが目をつけたのは、えっと……この遊覧船だね」
     阿寒湖観光のパンフレットを机に広げつつ、スイ子は少し難しそうな顔で首をひねる。
    「この遊覧船に乗って待ってれば、レディ・マリリンと接触はできるよ。ただ、あらかじめ観光客の人とかを避難させたりしちゃうと、向こうもそれに気がついちゃうんだよねぇ……」
     邪魔が入ると分かれば、レディ・マリリンは違う遊覧船を狙ったりしてしまうため、こちらも派手な作戦は取れない。
     その上、レディ・マリリンは船の出発時間ギリギリに乗り込んでくるため、観光客を船から逃がす作戦も難しいという。
    「ってことはよ、客乗せて出発しちまった船ん中で戦うしかねぇのか?」
    「そうなっちゃうね。可能性があるとすれば、船の屋根の上かな。そこで戦うのが一番被害も少ないと思う」
     幸い、レディ・マリリンは灼滅者達を見つければ、邪魔はさせまいと優先的に襲ってくるという。これを利用して、レディ・マリリンを遊覧船の屋根の上へと引きつけてから戦えば、一般の観光客を戦いに巻き込むこともないだろう。
    「ちょっと大変だと思うけど、頑張ってね! やり方は、みんなに任せるよ」
     広げていたパンフレットを差し出すスイ子。それを受け取ったエルファシアが、そういえば、と首を傾げる。
    「ね、何であのおばさん遊覧船なんて狙ってるの?」
    「あ、うん。それなんだけどね、なんか、ゲルマンシャーク様を見つけるとかなんとかって……」
    「はあぁ!? ゲルマンシャークだぁ!?」
     思わぬ展開に、香蕗も驚いて声を上げた。

     確か、ゲルマンシャークは、第2回ご当地怪人選手権で起きた飛行船墜落事故から行方知れずだったはずである。
    「あー、でもねでもね、じつは、レディ・マリリンみたいにゲルマンシャーク様を探してる湖のご当地怪人が全国にいるんだって。だから、ゲルマンシャーク様がどこにいるかは、怪人達も詳しく分かってないみたい」
    「そうか、だから遊覧船か……」
    「船があれば湖の捜索もサクサクだろうしね~……あ、もしゲルマンシャーク様と会っちゃうようなことになったら、湖に飛び込んででも逃げた方がいいよ。ゲルマンシャーク様が見つかれば、レディ・マリリンも遊覧船には執着しないだろうし! くれぐれも、命は大事にね!」
     ゲルマンシャーク自体はそれほど長く動けないはずなので、万が一遭遇してしまったとしても全力で逃げ切れば何とかなるはずである。
     
    「さっきも言ったけど、作戦とかはみんなの判断に任せたっ! それじゃ、いってらっしゃい! 気をつけてねぇ♪」


    参加者
    狐頭・迷子(迷い家の住人・d00442)
    神泉・希紗(正座付きお説教娘・d02012)
    エルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746)
    ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)
    折原・神音(鬼神演舞・d09287)
    阿久沢・木菟(自爆系忍者・d12081)
    王・苺龍(点心爛漫中華娘・d13356)
    深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)

    ■リプレイ


     阿寒湖を巡る遊覧船内は、多くの観光客で賑わっていた。
    「なるべく、被害を少なくしないとです……」
     辺りをこっそりと見回した、狐頭・迷子(迷い家の住人・d00442)は、不安そうに呟いた。
     こんな場所に、復活を遂げた阿寒湖のご当地怪人、レディ・マリリンは急襲を仕掛けるのだという。上手く立ち回らなければ、大きな被害は免れないだろう。
     まもなく、出航の時間だ。そろそろ来るかと、船内に潜伏している灼滅者達が息を飲んだその時である。
     パシン、と鞭で何かを叩いたような乾いた音が鳴った。
    「御機嫌よう、下等な人間達? 阿寒湖へようこそ」
     続いて高らかな女の声が響く。
     若干様子のおかしい女の登場に、辺りはざわついた。女は、屈強なドイツ人と思われる男性二人の肩を椅子代わりに深々と腰を掛け、手にした乗馬用の鞭の先を弄びながら辺りを見回し、悠々と足を組みかえてみせる。
    「いい船ね……この船はこのワタクシが頂くとするわ。さあ、坊や達!」
     女の振るった鞭が、屈強なドイツ人男性達を激しく打つ。
     そう、何を隠そう、この女こそが、阿寒湖のご当地怪人、レディ・マリリンだ。
    「カシコマリマシタッ、ァンッ!」
    「アア、モット! レディ・マリリンサマッ!!」
     恍惚と喘ぎ、レディ・マリリンを肩に担いだまま船内を走り出す屈強なドイツ人男性達。明らかにおかしな事になりつつあるが、そんな事はお構いなしに遊覧船は通常通り出発してしまう。
     機は熟した。事態に気がついた灼滅者達が、動き出す。
    「おば様お久しぶりです!」
     観光客の迷惑も顧みずに突進する、レディ・マリリンを乗せたドイツ人男性達の目の前に、折原・神音(鬼神演舞・d09287)が躍り出た。
    「また出たわねおばさん!」
     エルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746)も、レディ・マリリンを指差し叫ぶ。
    「っ!? 止まりなさい!」
     突然出てきた二人に驚いたのか、レディ・マリリンは慌ててドイツ人男性達に命令した。
    「「カシコマリマシタ」」
     それに素直に従ったドイツ人男性達が、ピタリと足を揃えて急停止する。
    「ッ、きゃぅんッ!!」
     慣性の法則に従って、担がれていたレディ・マリリンは宙へと投げ出され、そして床に落ちた。
    「オキヲタシカニ」
    「レディ・マリリンサマ」
    「……っ、くぅ……! なっ、何よアナタ達! このワタクシの邪魔をする気!? それと! ワタクシはまだアラサーなのよ! 女子とお呼び!!」
    「正義の味方、冒涜戦隊ジャシンジャー見参?」
     ドイツ人男性達の手を借りながら、よろよろと立ち上がったレディ・マリリンの前に、ひょっこりと顔を出した、深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)が、うーん? と首を傾げてみせる。
    「な、何よ……」
    「あー、ゲルマンシャーク捜索の邪魔したいわー。超邪魔したいわー」
    「っ! なぜそれを……! フ、フン! まぁいいわ! このワタクシの邪魔をしようと言うのなら容赦はしないわ! 行くわよ、坊や達!」
     ドイツ人男性達を引き連れ、レディ・マリリンは灼滅者達に向かってくる。出来るだけ目立たないコース取りで船の屋根の上を目指し駆け出す神音の後を、おばさん、おばさん、と挑発するエルファシアと、きゃーきゃーふざけたように声を上げたるるいえも追った。
     目指すは、遊覧船の屋根の上。
    「誘導成功でござる!」
     屋根の上の側で様子を窺っていた、阿久沢・木菟(自爆系忍者・d12081)が、携帯電話の向こう側へと声を上げた。
    「来たアルか! 好き勝手はさせないヨ!!」
    「うん、行こう!」
     連絡を受けた他の灼滅者達も動き出す。待ってました、と言わんばかり。弾けるように駆け出していく、王・苺龍(点心爛漫中華娘・d13356)に、ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)も、大きく頷いて船の屋根の上を目指す。
    「香蕗くん、ここは任せたよっ!」
    「おう! 任されたぜ! 気ぃつけて行ってこい!」
     同じようにして駆け出していく、神泉・希紗(正座付きお説教娘・d02012)の言葉に力強く返した、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)は、握った拳を突き出し仲間達の背を見送った。灼滅者達が屋根の上で戦っている間の船内の警備には、彼を始め、何人かの灼滅者が残ることになっている。
     万が一に備えての警備ももちろんだが、嵐のようにどこかへ走って行ってしまったレディ・マリリンと灼滅者達に、何があったんだろうと不審な顔をしている一般人観光客達へのフォローも抜かりない。
    「あ、あそこにいるの、鹿じゃない?」
     観光客達の気を引くようそう言って、いろはが船の外に見える茂みを指差す。
    「みなさーん! 北海道の自然を守る正義のヒーロー、コロ・ポックルンの撮影にご協力ください!!」
     稲葉は適当な理由を見繕いながら船内を歩いて警戒に当たった。そんな彼の呼びかけを聞いた香蕗が何か言いた気に口をぱくぱくさせていたが、観光客達の間に流れていた微妙な混乱は次第に薄れていく。
     ここまでは作戦通り。後は、戦いに向かった灼滅者達の健闘を祈るばかりである。


     遊覧船の屋根の上までやってきた灼滅者達は、素早く陣形を組み、構える。
    「えっと、北海道いがぐり怪人のマロンおばさん……だっけ? 逃がさないんだから! 覚悟しなさいよねっ!」
    「ちっ、違うわよっ! 誰なのそれ!?」
     構えた剣を向け、きりりと叫ぶ希紗に、北海道いがぐり怪人のマロンおばさん改めレディ・マリリンはずっこけた。
    「全く、これだからガキの小娘は! ケド、威勢よくキャンキャン鳴いていられるのも今のうちよ? アナタ達全員、ワタクシのこの新しい力で……」
    「なにその緑のウネウネキモい!」
     今度はエルファシアがズバリと言い放つ。
    「しっ、失礼ね! これはゲルマンシャーク様に授けられた……」
    「それってマリモというより、触手っていうような……」
     極めつけは、ルリのもっともで正直な感想。
     さっきから、出鼻を挫かれるどころか、へし折られまくって散々な熟女である。しかもどれもこれも被り気味だ。
    「ア、アナタ達っ……もう許さないわよ! さあ、イキなさい! ワタクシの坊や達!!」
    「「カシコマリマシタ」」
     いよいよ堪忍袋の緒が切れたか、レディ・マリリンは灼滅者達に向かって屈強なドイツ人男性達をけし掛けてくる。
    「触手に囚われるイイ男たち……はっ、いけないいけない! 集中集中!」
     気を取り直して後方で構えつつ、ルリは戦場一帯にサウンドシャッターを展開させた。
    「えーと、今回は熟女狩りの時間でござるな。何か間違ってる気もするでござるが……」
     同じく後方に陣取った木菟も手元で素早く印を切り、力を解放させる。
     レディ・マリリンの命令に従って勇猛に突っ込んでくる屈強なドイツ人男性達。だが、やはり所詮は強化一般人。数々の戦いを乗り越え、強くなってきた灼滅者達の敵ではない。
    「ほいさ♪」
     振るわれたドイツ人男性の拳を、苺龍は、ひょいと身を翻して軽く避け、流れるような動きで反撃に転じる。
    「あいやぁ!!」
     雷の力を帯びた拳が、ドイツ人男性の顎を突き上げた。
    「小梅、いこう……!」
     相棒の霊犬を伴い踏み切った迷子が、鬼の力を宿した腕を振りかざす。
    「くっ、あんまり調子に乗るんじゃ……」
    「今でござる!」
     唇を噛み締めたレディ・マリリンが、長いマリモが巻きついた腕を前へと突き出そうとしたその瞬間、木菟の放った殺気がドイツ人男性達を取り巻いていく。
    「レディ・マリリンサマァ……」
    「オ、オユルシヲ……」
     ぐらりと体勢を崩して倒れていったドイツ人男性達は、止めにきっちりと当て身を受け、健やかに気絶した。
    「……お疲れ様でした」
     そんな彼らを労うように呟いて、神音はドイツ人男性達を脇へとどかしてやる。少し気の毒ではあるが、放っておけばその内目を覚ますだろう。
     だから、そうなる前に終わらせなければならない。
    「もう好きには、させません!」
     きっ、と強気にレディ・マリリンを見据え、迷子は精一杯の声を張り上げる。
    「……っ、まだよ。まだ、終りじゃないわ!」
     灼滅者達に囲まれ、逃げ場を失ったレディ・マリリンは、構えを低く落としてまだ戦う意思を見せた。
    「水属性のご当地ヒーローとして湖での悪行は許さん!」
     るるいえはビームを放ち、レディ・マリリンの前に立つ。顔を上げたレディ・マリリンが、余裕の笑みを浮かべた。
    「フフ、その程度?」
    「まさか。邪神様も『チキンナゲットください』と私の脳内に怒りの電波を飛ばしてる!」
    「っ、何を……!」
     ちんぷんかんぷんな受け答えをするるるいえに、レディ・マリリンはわなわなと震えだした。
     怒っているのだろうか……いや、違う。これは……。
    「フッ、フフフフ……!」
     笑っているのだ。レディ・マリリンは、肩を揺らして笑っている。その顔には、まだ余裕の笑みが張り付いている。
    「まったく、アナタ達ときたらワタクシをバカにして……フフッ、いいのかしら、そんな油断をしていて?」
     レディ・マリリンの腕に巻きついていた長いソーセージ状のマリモ達が、激しくうごめき出す。
    「食らいなさい! マリモ・ヴルスト!!」
     勢いよく伸びたマリモが陣形の中を突っ切っていこうとした次の瞬間。
    「ここは通さないアル! みんなのことは全力で護るヨ!」
     間に入り込んできた苺龍が、長いマリモを受け止めた。
    「もう諦めたらどうですか!」
     素早く回復を施しつつ、ルリはレディ・マリリンをロッドでビシリと指して言った。
     戦況はどう見ても灼滅者達に分があった。レディ・マリリンも、まだあまり消耗はしていなかったが、そのことに気がついているようだ。無理もない。取り囲まれ、奥の手も軽くいなされたのだ。彼女の顔からは先程までの余裕の笑みも消え、構えを低く落としながらも逃げ道を探すようにジリジリと後退る。
    「くっ……」
    「逃がさないって言ったでしょ?」
     希紗のウロボロスブレイドが、レディ・マリリンの体に巻きつき、捕縛する。
    「……っ、アナタ達、生意気ね?」
    「内角高め……いや、年齢的にボール1個半ハズレって感じでござるなぁ。後5年早ければという感じでござる。おしい」
     ここまで追い詰められても強気な表情を崩さないレディ・マリリンに、木菟はそんなことを呟きながらも腕を前方へと突き出し、照準を合わせた。
    「さあ、前と同じように握りつぶしてあげます!」
     神音の、鬼を宿した腕が唸る。
    「再生怪人は絶対に勝てない法則を教えてあげるわ!」
     低く腰を落としたエルファシアの構えた拳が、光を集めていく。
     これで決着がつく。この場にいた灼滅者達はおろか、レディ・マリリンですらそう思っていたであろう、その時だった。
     大きな水音と共に、遊覧船全体が、ガクン、と傾いた。
    「なっ、何!?」
    「あっ、み、見て下さい、湖が……!」
     突然の事にエルファシアが声を上げる中、きょろきょろと辺りを見渡していた迷子が、何かを見つけて湖の上を指す。
    「……っ!? ああ! ああぁっ……!!」
     最期を覚悟していたレディ・マリリンの表情が、歓喜に満ちた。湖の底から、ブクブク激しい泡と共に何かが浮かび上がってくる!
     一体何が起こったのかと灼滅者達が理解する前に、辺りは、眩い光に包まれていった……。


     この異常事態に、船内で警備に当たっていた灼滅者達も気がついていた。幸い、一般の観光客達の様子に変わりは無い。焦る気持ちを抑えつつ、灼滅者達は船の上から激しくあわ立つ湖に目をやった。
     深い湖の底から、何かが、ゆっくりと浮かんでくる。
    「……? 何だ、あれ……」
    「ゲルマンシャークだ……」
     首を傾げる香蕗に、その姿を見たことのある蓮二が小さく呟いた。
    「うそ、あれが……!?」
    「あ、あんなのと戦う、なんて……!」
     浮かび上がってきたそれは、石像のままだった。だが、そこから放たれる凄まじいパワーに、菜月と夢乃の声も思わず上擦ってしまう。
     灼滅者としての感覚が、危険を告げていた。
    「ホントにっ、ゲルシャー様の石像っ!?」
     屋根の上から身を乗り出して、エルファシアは目を見開く。が、眩しくてよく見えない。レディ・マリリンの体が、強く光り輝いているのだ。
    「あぁ、わかりますわ、ゲルマンシャーク様……! 力が……ゲルマンシャーク様の力が、ワタクシの中に流れ込んでくる……!!」
     天を仰ぎ、ブルブルを身を震わせていたレディ・マリリンが、ふと灼滅者達に向き直る。
    「……マリモ・ヴルスト!!」
     長いマリモが、再び勢いよく伸びてくる。そこからは、先程とは比べものにならない程のパワーが溢れ出している。
    「ふにゃあ!? やっ、あわわ、こんなのまりもじゃないヨー! 気持ち悪いアル~!!」
     反射的にマリモを受け止めてしまった苺龍が、堪らず声を上げた。
    「だっ、大丈……うぐぅっ!」
     焦って振り返ったエルファシアにも、いつの間にか迫っていたマリモが巻きつく。
    「フフフッ、取り引きして差し上げてもよろしくてよ?」
     手の中でパシン、と乗馬用の鞭を叩いて、レディ・マリリンは凶悪な笑みに顔を歪ませた。
    「今すぐにここから立ち去れば見逃してアゲル。でもこれ以上、ワタクシの邪魔をするというなら……」
     言って、レディ・マリリンは鞭で船の上をそっと撫でた。
    「そんな……船ごと……?」
     威嚇して唸る小梅をそっと抑えながら、迷子は思わず息を飲んだ。
     伝わってくる殺気が、ぞわりと背中を這い登る。
    「くっ、これは……何ともならんでござるか……」
    「悔しいですけど、ここは……!」
     どうにかならないのかと奥歯を噛み締めた木菟に、神音はゆるゆると首を横に振ってみせた。
     遭遇したら迷わず逃げろと言われていたのにも頷ける。これは、この人数で太刀打ちできる敵ではない。
     灼滅者達は決断した。船の屋根の上にいた者も、船内にいた者も、湖に向かって次々と飛び込んでいく。
    「ちょ、待って、私、泳げな……」
    「大丈夫! みんなで何とかしよ!」
     湖に飛び込むのをためらっていたるるいえの腕を掴んで、ルリも屋根の上から思いっ切り踏み切った。
    「……っ、成長したらっ、必ずあなたを倒しに行くんだから! それまで待ってなさいよねーっ!」
     必死に泳ぎながら、希紗は叫んだ。
     遊覧船は、何事も無かったように湖の上を悠々と進んでいく。

     一方、灼滅者達の撃退に成功したレディ・マリリンもまた、湖の中にいた。
    「よくぞ……よくぞご無事で! ああ、ゲルマンシャーク様!」
     やっとの想いで見つけたゲルマンシャークの石像をひしりと抱き締め、彼女はそのままどこかへ去っていく。
     結果的に、レディ・マリリンの手から遊覧船を守る事ができたのは不幸中の幸いであった。だが、それ以上に、招いてしまった事態は深刻なものなのかもしれない……。

    作者:海あゆめ 重傷:エルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746) 王・苺龍(点心爛漫中華娘・d13356) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 18
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